事件番号平成26(行コ)90
事件名課徴金納付命令決定取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成24年(行ウ)第790号)
裁判所東京高等裁判所
裁判年月日平成26年6月26日
事案の概要本件は,ゲームソフトの開発・販売等を目的とする株式会社である控訴人が,平成21年3月から翌年12月までの間,3回にわたり,重要な事項につき虚偽の記載がある有価証券届出書を関東財務局長に提出し,当該発行開示書類に基づく株式の募集により投資者に自社の株式を取得させたとして,処分行政庁から,金融商品取引法172条の2第1項,185条の7第1項に基づき,課徴金合計1871万円を国庫に納付することを命じるとの決定(以下「本件納付命令」という。)を受けたところ,第三者割当で行われた3回の控訴人株式の発行(以下「本件第三者割当」という。)は,当時の筆頭株主であるA,同人の長男であるB,二男であるC及び姻族である控訴人代表者(D)において代表者を務めるE株式会社(以下「E社」といい,A,B,C及びE社を総称して「Aら」という。)から支援・救済を得るために行われたものであるところ,金融商品取引法172条の2第1項(以下「本件課徴金条項」という。)により課徴金を課すための要件に関し,①発行者に具体的な経済的利得があること又はこれが生じる一般的,抽象的な可能性があることを要すると解すべきであるが,本件第三者割当においてはそれが存在しない,②本件課徴金条項所定の「重要な事項」とは,投資者にとって真実が明らかになれば投資判断に影響が生じるものと解すべきであるが,控訴人の行った発行開示書類の虚偽記載(以下「本件虚偽記載」という。)は,控訴人単体又は連結の経常損益,純損益及び純資産額の虚偽記載にすぎず,その真実が明らかになっても,Aらの投資判断に影響しないので,重要事項ではなく,③発行開示書類の虚偽記載と有価証券を取得させることとの間に因果関係を要すると解すべきであるが,本件虚偽記載とAらが本件第三者割当を受けたこととの間には因果関係がなく,④発行者において,「募集又は売出し」の時点で虚偽記載につき故意又は過失のあることが必要であると解すべきであるが,3回目の募集に当たり,控訴人代表者には本件虚偽記載について故意がなかったなどと主張し,本件課徴金条項の要件を満たさない本件納付命令は違法であるとして,その取消しを求めた事案である。
判示事項1 金融商品取引法172条の2第1項に基づき課徴金の納付を命じるに当たり,虚偽記載のある発行開示書類を提出した発行者に具体的な経済的利得があること又はこれが生じる一般的,抽象的な可能性があることを要するか(消極)。
2 金融商品取引法172条の2第1項にいう「重要な事項」の意義
3 金融商品取引法172条の2第1項に基づき課徴金の納付を命じるに当たり,発行開示書類の虚偽記載と有価証券の取得との間に因果関係を要するか(消極)。
4 金融商品取引法172条の2第1項に基づく課徴金の納付を命じるに当たり,発行開示書類の虚偽記載につき発行者に故意又は過失のあることを要するか(消極)。
裁判要旨1 金融商品取引法172条の2第1項が,文言上,虚偽記載のある発行開示書類を提出した発行者において具体的な経済的利得があること又は経済的利得が生じる一般的,抽象的な可能性があることを要件とせず,また,課徴金の金額は,違反者たる発行者が実際に得た経済的利得の有無及びその多寡とは無関係に算定されるものとしていること,企業内容等の開示制度の実効性を確保するためには,違反者たる発行者が具体的な経済的利得を取得したか否かにかかわらず,開示制度に違反する発行開示書類の提出行為それ自体を抑止することが要請されることを勘案すると,同条項に基づき課徴金を課すに当たり,発行者において具体的な経済的利得があること又は経済的利得が生じる一般的,抽象的な可能性があることは要件とされていないと解される。
2 金融商品取引法172条の2第1項に基づく課徴金納付命令が,「有価証券の募集」又は「有価証券の売出し」の場合,すなわち,①いわゆる多人数向け取得勧誘の場合と,②適格機関投資家向け取得勧誘,特定投資家向け取得勧誘及び少人数向け取得勧誘のいずれにも該当しない取得勧誘の場合を想定していることからすると,同条項は,市場における有価証券の発行と流通を念頭におき,発行者から直接取得勧誘を受ける不特定の相手方のみならず,その相手方から譲渡を受ける可能性がある投資者一般をも保護することを目的とするものと解され,このことに照らせば,同条項にいう「重要な事項」とは,投資者一般を基準として,投資者の投資判断に影響を与えるような事項をいうものと解される。
3 金融商品取引法172条の2第1項には,その文言上,発行開示書類に虚偽記載があることと有価証券の実際の取得者による取得との間に因果関係が必要であることが直截に示されているとはいい難いところ,課徴金の制度が,企業内容等の開示制度に違反する行為をより効果的に抑圧するために創設されたものであり,開示制度の実効性を確保するためには,虚偽記載が原因となって有価証券の実際の取得者が取得したか否かにかかわらず,開示制度に違反する発行開示書類の提出行為それ自体を抑止することが要請されるということができることからすると,同条項は,課徴金を課すに当たり,個々の事案ごとに,発行開示書類に虚偽記載があることと有価証券の取得との間における因果関係を要件とするものではないと解される。
4 金融商品取引法172条の2第1項には,その文言上,課徴金に関する他の条項と異なり,故意又は過失という主観的要件が規定されていないこと,金融商品取引法172条の2第1項各号に定める課徴金の金額は,一律に,当該違反行為により当該発行者が得たであろうと一般的,類型的に想定される経済的利得の額に相当するものとして想定された金額が課され,それ自体,制裁の実質を有する水準のものとまではなされていないことに照らすと,前記の課徴金は,責任非難を基礎とした制裁として科される刑事罰とは基本的な性格が異なり,刑法38条1項を適用又は準用する余地はないというべきであるから,金融商品取引法172条の2第1項に基づく課徴金納付命令について,発行開示書類の虚偽記載につき発行者に故意又は過失のあることが要件とされているとは解されない。
事件番号平成26(行コ)90
事件名課徴金納付命令決定取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成24年(行ウ)第790号)
裁判所東京高等裁判所
裁判年月日平成26年6月26日
事案の概要
本件は,ゲームソフトの開発・販売等を目的とする株式会社である控訴人が,平成21年3月から翌年12月までの間,3回にわたり,重要な事項につき虚偽の記載がある有価証券届出書を関東財務局長に提出し,当該発行開示書類に基づく株式の募集により投資者に自社の株式を取得させたとして,処分行政庁から,金融商品取引法172条の2第1項,185条の7第1項に基づき,課徴金合計1871万円を国庫に納付することを命じるとの決定(以下「本件納付命令」という。)を受けたところ,第三者割当で行われた3回の控訴人株式の発行(以下「本件第三者割当」という。)は,当時の筆頭株主であるA,同人の長男であるB,二男であるC及び姻族である控訴人代表者(D)において代表者を務めるE株式会社(以下「E社」といい,A,B,C及びE社を総称して「Aら」という。)から支援・救済を得るために行われたものであるところ,金融商品取引法172条の2第1項(以下「本件課徴金条項」という。)により課徴金を課すための要件に関し,①発行者に具体的な経済的利得があること又はこれが生じる一般的,抽象的な可能性があることを要すると解すべきであるが,本件第三者割当においてはそれが存在しない,②本件課徴金条項所定の「重要な事項」とは,投資者にとって真実が明らかになれば投資判断に影響が生じるものと解すべきであるが,控訴人の行った発行開示書類の虚偽記載(以下「本件虚偽記載」という。)は,控訴人単体又は連結の経常損益,純損益及び純資産額の虚偽記載にすぎず,その真実が明らかになっても,Aらの投資判断に影響しないので,重要事項ではなく,③発行開示書類の虚偽記載と有価証券を取得させることとの間に因果関係を要すると解すべきであるが,本件虚偽記載とAらが本件第三者割当を受けたこととの間には因果関係がなく,④発行者において,「募集又は売出し」の時点で虚偽記載につき故意又は過失のあることが必要であると解すべきであるが,3回目の募集に当たり,控訴人代表者には本件虚偽記載について故意がなかったなどと主張し,本件課徴金条項の要件を満たさない本件納付命令は違法であるとして,その取消しを求めた事案である。
判示事項
1 金融商品取引法172条の2第1項に基づき課徴金の納付を命じるに当たり,虚偽記載のある発行開示書類を提出した発行者に具体的な経済的利得があること又はこれが生じる一般的,抽象的な可能性があることを要するか(消極)。
2 金融商品取引法172条の2第1項にいう「重要な事項」の意義
3 金融商品取引法172条の2第1項に基づき課徴金の納付を命じるに当たり,発行開示書類の虚偽記載と有価証券の取得との間に因果関係を要するか(消極)。
4 金融商品取引法172条の2第1項に基づく課徴金の納付を命じるに当たり,発行開示書類の虚偽記載につき発行者に故意又は過失のあることを要するか(消極)。
裁判要旨
1 金融商品取引法172条の2第1項が,文言上,虚偽記載のある発行開示書類を提出した発行者において具体的な経済的利得があること又は経済的利得が生じる一般的,抽象的な可能性があることを要件とせず,また,課徴金の金額は,違反者たる発行者が実際に得た経済的利得の有無及びその多寡とは無関係に算定されるものとしていること,企業内容等の開示制度の実効性を確保するためには,違反者たる発行者が具体的な経済的利得を取得したか否かにかかわらず,開示制度に違反する発行開示書類の提出行為それ自体を抑止することが要請されることを勘案すると,同条項に基づき課徴金を課すに当たり,発行者において具体的な経済的利得があること又は経済的利得が生じる一般的,抽象的な可能性があることは要件とされていないと解される。
2 金融商品取引法172条の2第1項に基づく課徴金納付命令が,「有価証券の募集」又は「有価証券の売出し」の場合,すなわち,①いわゆる多人数向け取得勧誘の場合と,②適格機関投資家向け取得勧誘,特定投資家向け取得勧誘及び少人数向け取得勧誘のいずれにも該当しない取得勧誘の場合を想定していることからすると,同条項は,市場における有価証券の発行と流通を念頭におき,発行者から直接取得勧誘を受ける不特定の相手方のみならず,その相手方から譲渡を受ける可能性がある投資者一般をも保護することを目的とするものと解され,このことに照らせば,同条項にいう「重要な事項」とは,投資者一般を基準として,投資者の投資判断に影響を与えるような事項をいうものと解される。
3 金融商品取引法172条の2第1項には,その文言上,発行開示書類に虚偽記載があることと有価証券の実際の取得者による取得との間に因果関係が必要であることが直截に示されているとはいい難いところ,課徴金の制度が,企業内容等の開示制度に違反する行為をより効果的に抑圧するために創設されたものであり,開示制度の実効性を確保するためには,虚偽記載が原因となって有価証券の実際の取得者が取得したか否かにかかわらず,開示制度に違反する発行開示書類の提出行為それ自体を抑止することが要請されるということができることからすると,同条項は,課徴金を課すに当たり,個々の事案ごとに,発行開示書類に虚偽記載があることと有価証券の取得との間における因果関係を要件とするものではないと解される。
4 金融商品取引法172条の2第1項には,その文言上,課徴金に関する他の条項と異なり,故意又は過失という主観的要件が規定されていないこと,金融商品取引法172条の2第1項各号に定める課徴金の金額は,一律に,当該違反行為により当該発行者が得たであろうと一般的,類型的に想定される経済的利得の額に相当するものとして想定された金額が課され,それ自体,制裁の実質を有する水準のものとまではなされていないことに照らすと,前記の課徴金は,責任非難を基礎とした制裁として科される刑事罰とは基本的な性格が異なり,刑法38条1項を適用又は準用する余地はないというべきであるから,金融商品取引法172条の2第1項に基づく課徴金納付命令について,発行開示書類の虚偽記載につき発行者に故意又は過失のあることが要件とされているとは解されない。
このエントリーをはてなブックマークに追加