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2017/07/11 18:00 更新

事件番号平成26(ワ)10089
事件名著作権侵害差止等請求事件
裁判所東京地方裁判所
裁判年月日平成27年9月30日
事件種別著作権・民事訴訟
事案の概要本件は,原告が,被告に対し,(1) ①被告の製作に係る別紙物件目録記載の映画(以下「本件映画」という。)は,原告の執筆に係る「性犯罪被害にあうということ」及び「性犯罪被害とたたかうということ」と題する各書籍(以下,それぞれ,「本件著作物1」,「本件著作物2」といい,両者を併せて「本件各著作物」という。)の複製物又は二次的著作物(翻案物)であると主張して,本件各著作物について原告が有する著作権(複製権〔著作権法21条〕,翻案権〔同法27条〕)及び本件各著作物の二次的著作物について原告が有する著作権(複製権,上映権,公衆送信権〔自動公衆送信の場合にあっては,送信可能化権を含む。〕及び頒布権〔同法28条,21条,22条の2,23条,26条〕),並びに本件各著作物について原告が有する著作者人格権(同一性保持権〔同法20条〕)に基づき,本件映画の上映,複製,公衆送信及び送信可能化並びに本件映画の複製物の頒布(以下,これらを併せて「本件映画の上映等」という。)の差止め(同法112条1項)を求めるとともに,本件映画のマスターテープ又はマスターデータ及びこれらの複製物(以下,これらを併せて「本件映画のマスターテープ等」という。)の廃棄(同条2項)を求め,②本件映画は,原告の人格権としての名誉権又は名誉感情を侵害するとして,同人格権に基づき,本件映画の上映等の差止めを求めるとともに,本件映画のマスターテープ等の廃棄を求め,③本件映画製作の前に原被告間に成立した合意に基づいて,本件映画の上映等の差止めを求めるとともに,本件映画のマスターテープ等の廃棄を求め,(2) 著作者人格権侵害(本件各著作物を原告の意に反して改変されたこと)の不法行為による損害賠償金400万円(慰謝料300万円と弁護士費用100万円の合計)及びこれに対する平成26年5月8日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,(3) 債務不履行(被告が原告との上記合意に違反して本件映画を製作したこと)による損害賠償金(精神的苦痛に対する慰謝料)100万円及びこれに対する平成26年12月27日(同月26日付け訴えの変更申立書(2)の送達の日の翌日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である(なお,原告は,上記(2)及び(3)の請求についてのみ,仮執行宣言を申し立てた。)。2 前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠〔なお,当事者尋問の結果につき,尋問調書の速記録部分の該当頁を付記することがある。〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1)ア 原告は,本件各著作物の著作者であり,本件各著作物は,性犯罪被害を受けた原告のノンフィクション小説である(甲1,2)。イ 被告は,株式会社NHKエンタープライズ(以下「NHKエンタープライズ」という。)に所属するテレビディレクター兼プロデューサーであって,日本放送協会のドキュメンタリー番組などを制作する者であるが,NHKエンタープライズの許可を得て,プライベートでも劇場用映画を製作している(乙18,被告本人〔18頁〕)。(2) 被告は,かねてから本件各著作物を映画化した作品を製作しようと考え,原告に話をもちかけていたが,なかなか実現に至らなかった。その後,ゆうばり国際ファンタスティック映画祭実行委員会及びNPO法人ゆうばりファンタが主催し,平成26年2月から同年3月にかけて開催予定の「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014」(以下「本件映画祭」という。)において上映するための映画を製作するに当たり,本件各著作物の映画化の話を具体化させ,平成25年8月頃,原告と本件各著作物の出版元である株式会社朝日新聞出版(以下「朝日新聞出版」という。)の担当者であるC(以下「C」という。)に相談した(甲7,12,乙1,18)。(3) 被告は,本件映画祭に向けて,本件映画(上映作品名「あなたもまた虫である」)を製作したが,本件映画祭直前の平成26年2月28日,原告及び朝日新聞出版の抗議及び差止め要求により,本件映画の上映は中止された(乙1,10)。第3 争点1 著作権(翻案権・複製権)侵害の成否(争点1)2 著作者人格権(同一性保持権)侵害の成否(争点2)3 人格権としての名誉権及び名誉感情の侵害の成否(争点3)4 本件各著作物の場面・台詞不使用の合意の成否(争点4)5 本件映画の上映等の差止請求及び本件映画のマスターテープ等の廃棄請求の当否(争点5)6 損害発生の有無及びその額(争点6)第4 争点に対する当事者の主張1 争点1(著作権〔翻案権・複製権〕侵害の成否)について【原告の主張】(1) 本件各著作物の翻案権侵害についてア 本件映画のストーリーの構成と本件各著作物の構成本件映画のストーリーは,①主人公の女性が性犯罪被害に遭い,②そのことが原因で両親や恋人,夫との人間関係が壊れていくが,③実名で性犯罪被害者のためのウェブサイトを立ち上げ,テレビで性犯罪被害の実態について話したりしたことで多くの性犯罪被害者との交流が生まれる,④しかし,両親にはついに理解されず,最後に両親に殺されてしまうというものである。この①ないし④のうちの①ないし③の構成は,本件各著作物と同じである。すなわち,起承転結のうちの「起承転」に当たる以下に掲げたエピソードまでは,本件各著作物と同じであり,本件映画の結末では,主人公が両親に殺されてしまうエピソードがあり,その点だけが異なるにすぎない。イ 本件映画のエピソードから本件各著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できること(ア) 言語の著作物と映画は表現形態が異なるから,映画の形式で表現しようとすれば,原作の言語の著作物と同じ体裁にはならず,原作の言語の著作物の単語の選び方,語順,改行その他の文体といったものは,映画には表れない。また,言語の著作物において,言葉で明示的に表現されている登場人物の思考や感情なども,映画では明示的に描かれないことが多い。映画では,登場人物の台詞やストーリー,プロットなどだけでなく,登場人物の行動・仕草・表情,構図,カット割り,効果音,BGMといった言語の著作物にない様々な視覚的・聴覚的要素も駆使して表現するものであるから,台詞に表れない登場人物の思考や感情なども表現されていることに留意する必要がある。しかし,これらのことをもって,映画とその原作であって事実を素材とする言語の著作物の共通点が,ストーリーを構成する事実それ自体にすぎないとみるべきではない。(イ) 本件各著作物と本件映画を比較すると,本件映画は,別紙エピソード別対比表の各エピソードの「原告の主張」欄に掲げた共通点において,「本件各著作物」欄の本件各著作物の各エピソードの表現上の本質的特徴を直接感得することができるから,同別紙の「本件映画」欄の各エピソードは本件各著作物の翻案物に当たる。したがって,被告が本件映画を製作したことは,原告が本件各著作物について有する翻案権の侵害に当たる。(2) 台詞についての複製権又は翻案権の侵害について本件各著作物において,原告などの登場人物が言ったとして書かれている「 」(かぎかっこ)付きの言葉は,すべて原告が創作したものである。素材となっている出来事が実際に起きた際にその場にいた人がどのような言葉をどのように言ったかを,原告がすべて正確に覚えていたはずもなく,また実際の場面でその場にいた人たちが本件各著作物にあるように分かり易い言葉で淀みなく喋ったはずもない。本件各著作物の登場人物の言葉は,原告が記憶を踏まえつつも,各場面における人物の心の動き,エピソードが原告や本件各著作物において有する意味,前後のエピソードとの因果の流れが読者に伝わりやすいようにすることといった様々な要素を考慮して,創作したものである。このように,本件各著作物において登場人物が言ったとして書かれている言葉と会話には著作物性があるところ,本件映画では,別紙エピソード別対比表の4,6,7のエピソードの「原告の主張」欄で指摘しているとおり,本件各著作物の登場人物の言葉及び会話と全く同一,又は,ほぼ同一の台詞を用いている。したがって,被告が当該台詞を含む本件映画を製作したことは,原告が本件各著作物について有する複製権又は翻案権の侵害に当たる。(3) 被告の主張に対する反論ア 被告は,本件各著作物と本件映画の共通点はいずれも実際に起きた出来事である「事実」であり,実際に起きた出来事の中身は著作者が創作した「表現」ではないから,翻案権侵害は成立しないと主張する。しかし,実際に起きた出来事の中身自体は著作権で保護されないとしても,実際に起きた出来事のうちどれを作品に用いるかという選択や作品中での配列は,それ自体が著作者の「思想又は感情」の「表現」たり得る。本件各著作物についてみると,暴行事件の発生時やその後に現実に起きたのは,本件各著作物において描かれている事実だけではない。原告は,無数の事実の中から本件各著作物のエピソードとして描く事実を取捨選択し,配列し,構成して本件各著作物の構成要素とし,もって本件各著作物によって読者に伝えたい著作者としての「思想又は感情」を「表現」したのであるから,その選択・配列自体が創作性の極めて重要な要素であり,「表現」である。したがって,本件映画と本件各著作物との間で共通する部分はすべて事実について記載したものであるから,本件映画は本件各著作物の翻案物ではないという被告の主張は,理由がない。イ 被告は,本件各著作物と本件映画において共通するエピソードについて,本件のような事件について記述する際に選択すべき内容として特段珍しいものではないなどとして,本件各著作物のエピソードの選択には創作性がないと主張する。しかし,本件各著作物のエピソードの選択が珍しいものでない,ありがちなものだからといって創作性がないという被告の主張には理由がない。本件各著作物のエピソードは,無数に存在する事実の中から原告が,性犯罪とその被害者の姿を被害者本人の目線で語り,周囲の人たちの理解が被害者に必要であることを訴え,また被害者たちにそのままでいいから一緒に生きて行こうと伝えるという本件各著作物のテーマにふさわしい素材と判断して選択し配列したものなのであり,その選択は,原告の精神活動の成果の所産であり,本件各著作物の個性を形成するものであり,原告の個性の表出そのものである。したがって,本件各著作物のエピソードの選択と配列は,原告の思想感情の創作性な表現である。【被告の主張】(1) 本件各著作物の翻案権侵害についてア 被告は,原告が実際に経験した「事実」のみを題材に使用したものである。また,本件各著作物と本件映画においてその構成が共通する部分があるとしても,本件各著作物における構成は時系列に沿ったものであって,創作性のあるものとはいえず,著作物たりえない。さらに,事実であっても,その選択や配列等に創作性が認められることはあり得るが,本件各著作物において本件映画と同一性が認められる点に関しては,①選択されている事実は,事件に遭った状況,事件直後の行動,その後の日常生活の様子,男女間及び親子間の人間関係の変化等であって,本件のような事件について記載する際に選択すべき内容として特段珍しいものではなく,②その事実の配列も,時系列に沿った,最もありふれた配列であり,これらの事実の選択や配列に創作性が認められるものではない。仮に,創作性があるとしても,当該表現は短すぎて著作物たりえないものである。イ 別紙エピソード別対比表の「本件映画」欄の各エピソードに対する被告の主張は,同別紙の「被告の主張」欄に記載のとおりであり,事実や事件,創作性のない表現については,表現上の本質的な特徴の同一性を基礎づけることはないのであるから,これらの共通部分から本件各著作物の本質的な特徴を直接感得することはなく,本件映画は本件各著作物を翻案したものとはいえない。(2) 台詞についての複製権又は翻案権侵害について原告が共通しているという台詞はいずれも短く,また表現内容もありふれたものであって,およそ著作物たり得ない。また,仮に,著作物性が認められるとしても,このような短い表現についての同一性又は類似性が認められる範囲は狭く,いわゆるデッドコピーのようなもの以外は認められるべきではない。さらに,各台詞が発言された状況は,本件各著作物と本件映画とではそれぞれ異なり,当該台詞により表現される内容も異なるから,これらの表現に同一性又は類似性はない。以上のとおり,本件映画におけるこれらの台詞と本件各著作物における台詞との間に同一性又は類似性はなく,複製又は翻案になることはない。2 争点2(著作者人格権〔同一性保持権〕侵害の成否)について【原告の主張】本件映画は,原告の意に反して,本件各著作物の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現したものであり,これに接する者が本件各著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる著作物である。したがって,被告による本件映画の製作は,原告が本件各著作物について有する同一性保持権の侵害に当たる。【被告の主張】本件映画は,本件各著作物の翻案物ではない以上,被告による本件映画の製作は原告が本件各著作物について有する同一性保持権の侵害を構成するものではない。3 争点3(人格権としての名誉権及び名誉感情の侵害の成否)について【原告の主張】(1) 原告が本件映画の公開又は本件映画の上映等を許諾したと誤解されることによる名誉権及び名誉感情の侵害ア 本件映画の「起承転結」のうち「起承転」が本件各著作物と共通しており,また,本件映画の主人公のように実名で性犯罪被害を公表して,性犯罪被害者との交流のためのホームページを運営し,講演やテレビ出演といった活動を行っているのは日本では原告だけである。したがって,本件各著作物を知る人や原告の活動を知る人が本件映画を見れば,原告が本件映画のモデルであると認識するのみならず,本件各著作物が本件映画の原作であるとか,本件映画が本件各著作物をアレンジしたものであるなどと認識することは明白である。イ 原告が,本件各著作物,講演活動,被害者との交流を通じて訴えよう,伝えようとしてきたことは,性犯罪被害当事者に対しては,「あなたは一人ぼっちではない,生きてていいんだよ,生きていて,生き続けて」という,強い生のメッセージであり,社会に対しては,そのために必要な,性犯罪被害の悲惨さを伝え,社会に性犯罪被害者への理解を求めるものである。

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