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2017/06/29 18:00 更新

事件番号平成28(う)181
事件名薬事法違反被告事件
裁判所福岡高等裁判所 第1刑事部
裁判年月日平成28年6月24日
結果棄却
原審裁判所福岡地方裁判所         飯塚支部
原審事件番号平成27(わ)174
事案の概要本件控訴の趣意は,弁護人堺祥子作成の控訴趣意書に記載されたとおりであるから,これを引用する。1 事実誤認の主張について論旨は,要するに,被告人は,原判示の乾燥植物片(以下「本件植物片」という)が違法な薬物を含有するという認識はなく,未必的にも故意はなかったから,被告人の故意を肯定して,被告人が原判示の指定薬物(以下「本件薬物」という)を含有する本件植物片を所持したと認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。そこで記録を調査して検討するに,被告人には本件薬物を含有する本件植物片を所持した故意を肯認することができるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認は存しない。以下その理由を説明する。(1) 原審で取り調べた各証拠によれば,平成26年8月19日,被告人に対する脅迫の被疑事実による被告人方居室の捜索差押許可状が執行され,その際本件植物片が発見され,被告人は,自身で購入したことを自認して,それを任意提出し(原審甲9),その後,本件植物片が鑑定され,本件薬物の成分が検出されたことが認められるから(原審甲8),被告人が本件薬物を含有する本件植物片を所持していたことは明らかである。また,本件薬物は,平成26年7月15日公布,同月25日施行の厚生労働省令第79号により,当時の薬事法(平成25年法律第84号による改正前のもの,現在は法律名が「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」と改正されており,同法において同じ規制がされている)2条14項に規定する薬物に指定された(以下「指定薬物」という)ものである。(2) 被告人は,検察官調書(原審乙8)において,任意提出当日の平成26年8月19日,北九州市甲区内のハーブ販売店「A」で本件植物片を購入したが,その際,販売員に合法かどうかを確認し,合法で規制がかかっていないと言われたから,合法なものと信じていた旨供述する。当時の薬事法は,中枢神経系の興奮若しくは抑制又は幻覚の作用(当該作用の維持又は強化の作用を含む)を有する蓋然性が高く,かつ,人の身体に使用された場合に保健衛生上の危害が発生するおそれがある薬物を厚生労働省令で指定して規制し,その販売,所持,譲り受け等を禁止しており,現在もそのような規制の仕組みに変わりはない。しかし,これらのいわゆる危険ドラッグと称される薬物は,市中で公然と販売されており,実際,本件薬物は,平成26年6月24日の東京都豊島区で発生した交通事故の容疑者から検出されたことを端緒に,同年7月15日に厚生労働省令で指定薬物に指定されたものであって,本件薬物が本件当時相応に蔓延していた可能性は否定できない。そして,違法とされる指定薬物を公然と販売することには相応のリスクを伴うから,規制回避のために同じような薬理作用がありながら成分が異なる薬物が次々に出現していたのであり,そのため,通常は,規制の対象外の同様の薬理作用のある薬物を販売し,指定薬物をことさら販売することは避けるものと考えられる。また,本件薬物が指定薬物として指定されてから被告人が購入して任意提出するまでは短期間であり,本件植物片の外観から本件薬物の含有を判断することはできないことを踏まえれば,被告人が購入した販売店も,本件植物片が本件薬物等の指定薬物を含有していたことを確知してはいなかった可能性は否定できないし,たとえ販売員が本件薬物等の指定薬物を含有する可能性を認識していたとしても,日常的に取締りや監視が行われる中,客に対して違法である可能性を説明することは考え難い。さらには,前記東京都豊島区での交通事故のように,危険ドラッグの危険性がしばしば報道される中,購入者が合法性を確認しようとすることが不自然であるともいえない。これらを併せみれば,本件植物片を公然と販売する店舗で購入し,その際,販売員から合法であると聞いた,という被告人の弁解を直ちに排斥することはできない。(3) 違法な薬物の所持,使用等を処罰する場合に対象物について求められる故意は,当該薬物の薬理作用を認識しているだけでは足りず,通常は当該薬物の名称によって示されることになる,当該薬物を所持し,使用することが犯罪に当たると判断できる社会的な意味を認識することが必要であり,そのような認識があって初めて,故意の存在を認めるに足りる事実認識を肯認することができる。この点,指定薬物は,覚せい剤等の規制薬物のように,属性が分かる周知された名称があるわけではなく,指定薬物を指定する厚生労働省令でも,その化学的な成分が規定されているにすぎない上,危険ドラッグを使用する者は,厚生労働省令を参照しても,自分の使用する薬物が指定薬物を含有するかどうかを明確に把握することは困難な実情にあった。しかしながら,指定薬物は,有害な薬理作用の蓋然性と保健衛生上の危険のおそれから規制されているのであり,規制に反した所持,販売,譲り受け等が規制薬物ほど重い刑罰の対象とされていなかった上,薬物が指定薬物に指定されると,類似した薬理作用を有する規制の対象外の新たな薬物が取引されるようになり,その新たな薬物が改めて規制の対象とされるなど,新たな薬物の出現とそれに対する規制が繰り返され,そのことは危険ドラッグの使用者の間で十分周知されていた。このような指定薬物の実態とそれを規制する趣旨に照らして,指定薬物の所持,販売,譲り受け等が犯罪に当たると判断できる社会的な意味を考えると,その違法性を客観面から根拠付ける事実は,当該薬物の薬理作用が規制の趣旨に合致しているかどうか,換言すると,当該薬物が規制されるに足りる薬理作用を有するかどうかに尽きるというべきである。そうすると,当該薬物の薬理作用を認識し,そのような薬理作用があるために当該薬物が指定薬物として指定されている薬物と同様に規制され得る同種の物であることを認識していれば,当該薬物を所持し,販売し,譲り受けることなどが犯罪に該当すると判断できる社会的な意味の認識,すなわち故意の存在を認めるに足りる事実の認識に欠けるところはないということができる。これを本件についてみると,被告人は,危険ドラッグである脱法ハーブを吸引して相手に傷害を負わせた別件傷害被告事件の公判において,嫌なことが重なりイライラして,どうしていいか分からないとき,現実逃避のため脱法ハーブを吸っており,暴力的になるのは脱法ハーブが原因ではないかと思う旨供述している。また,検察官調書(原審乙8)においては,本件植物片のことをハーブと称した上,ハーブを吸うと,身体が一気に硬直して物凄く重く感じ,気持ちも身体も強力な力で引っ張られて持っていかれる感じがして,引っ張られていく感じを我慢していると,体がフワーンと楽になったり,気持ちがダラーンと良く感じたり,嫌なことが忘れられたり,味覚や聴覚が冴えるように感じる旨供述し,体がフワーンとなるので,自動車の運転には危なく,交通事故を起こしかねないため,ハーブを吸った後には自動車は運転しないようにしていた旨供述している。そして,自動車を運転するとき吸引を控えていたというのは,東京都豊島区での交通事故等の事件や事故を意識した供述と理解できる。そうすると,被告人は,本件植物片が,中枢神経系の興奮若しくは抑制又は幻覚の作用や当該作用の維持又は強化の作用を有する蓋然性が高く,人の身体に使用された場合に保健衛生上の危害が発生するおそれがある薬物を含有していること,すなわち,当時の薬事法によって規制しようとしていた薬理作用やその薬理作用による危険性を十分認識するとともに,その薬理作用を期待して本件植物片を購入し所持していたということができる。そして,被告人は,本件植物片がいわゆる危険ドラッグであることを前提に,それを購入して所持していた上,危険ドラッグの危険性や取締りの強化は十分承知しており,そのため販売員に本件植物片の規制の有無を確認しているのであるから,本件植物片の含有する本件薬物が,他の指定薬物と同様に規制され得るそれらと同種の物であり,指定薬物として取締りの対象に入る可能性を認識していたものというべきである。したがって,被告人は,法が本件薬物を違法なものとして処罰の対象としたところの違法の実質は十分に認識していたことは明らかである。被告人に誤認があったとしても,その誤認は,指定薬物としての指定の有無に尽きる。(4) 本件植物片の外見や使用感等からは,危険な薬物であるという認識自体は可能であっても,指定薬物とは指定されてない同様の薬理作用のある薬物が蔓延している状況下では,指定の事実自体を認識することには困難を伴う。しかし,当該薬物が処罰の対象とされている違法の実質を十分認識している以上,当該薬物には指定薬物として指定されていない薬物しか含有されていないと信じたことに十分合理的な理由があるなど,特異な状況が肯定できる場合でなければ,故意が否定されることはないというべきである。被告人は,原審公判において,販売員から「だんだん規制され,危ない物が入りだしているので,これを使ってから運転はしないでください」と注意を受けたことがあり,購入した店舗が一時閉店していたが,再度オープンした後は新しくなってオーナーが変わったから安全だと説明されたというのであり,さらには,過去にその店舗から出たところを警察官から職務質問され,そのとき所持している薬物を見せたところ,今は規制されていないから自己責任だと言われた旨供述している。被告人は,販売員から合法だと告げられるなどしたから合法だと信じたというのであるが,販売員でしかない者が違法か合法かを適切に判断できる立場にないことも,その言葉が信頼に足りる状況にないことも,いずれも明らかであるし,取締りの対象となって閉店した店が,再度オープンしたからといって,販売店で取り扱う商品が合法なものと推認できないこともまた明らかである。そうすると,本件の事実関係の下では,被告人が本件植物片には指定薬物として指定されている薬物が含有されていないと信じたことに合理的な理由があったことなど,被告人の故意を否定するに足りる特異な状況も認められないというべきである。被告人が,弁解するように,指定薬物が含有されていない合法なものと誤信して本件植物片を購入して所持していたとしても,被告人は,違法の実質を承知していたというべきであり,違法なものを違法だと思わなかったというにすぎず,故意の存在が否定されることにはならない。以上のとおりであって,原判示事実を認定した原判決の判断は結論において相当であるというべきであり,他に所論が縷々主張するところを踏まえて検討しても,原判決に所論の事実誤認は存しない。論旨は理由がない。2 量刑不当の論旨について論旨は,要するに,被告人を懲役6月に処した原判決の量刑は重過ぎて不当である,というのである。そこで記録を調査して検討するに,本件は,被告人が自宅で指定薬物を含有する本件植物片約1.467グラムを所持したという当時の薬事法(平成25年法律第84号による改正前のもの)違反の事案である。
判示事項薬事法(平成25年法律第84号による改正前のもの)2条14項に規定する指定薬物を所持する罪の故意が認められる場合
裁判要旨所持する薬物の薬理作用を認識し,そのような薬理作用があるために当該薬物が薬事法(平成25年法律第84号による改正前のもの)2条14項に規定する指定薬物として指定されている薬物と同様に規制され得る同種のものであることを認識し,指定薬物が含有されていないと信じたことに合理的な理由があったなどの特異な事情が認められない場合は,同号に規定する指定薬物を所持する罪の故意が認められる。

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