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2018/10/09 18:00 更新

事件番号平成27(わ)155
事件名業務上横領,殺人
裁判所佐賀地方裁判所 刑事部
裁判年月日平成30年8月6日
事案の概要本件の犯人であるか)第2 殺害行為と死因1 本件の犯人は,油圧ショベル(本件ショベル)で,軽自動車(本件車両)ごと被害者らを攻撃して穴に落とし,その上から土砂をかけるなどして埋めた。この加害行為は被害者らを死亡させる危険性の高い行為であり,犯人は,その危険性を認識したにとどまらず,被害者らを殺害する目的で,あえてその加害行為をした。そして,被害者らは,その加害行為の結果,死亡した。したがって,犯人について,被害者らに対する殺人罪が成立する。2 以下,補足して説明する。被害者らの死亡cのBの敷地内の穴から埋められた男性の遺体が発見され,その側に埋められた本件車両から女性の遺体が発見された。これらの遺体は,DNA鑑定の結果や免許証等の遺留品から,被害者らである。殺害行為(穴に埋めて殺害したか)ア 加害行為の態様証拠により認定できる事実から推認すると,本件の犯人が被害者らにした加本件車両に乗車して事務所前に到着した被害者らを,降車する前にすぐに攻撃した。被害女性は本件車両のドアがロックされた運転席でシートベルトをしていたから,犯人は,運転席にいた被害女性を車ごと攻撃し,殺害したことが分かる。別の場所で殺害したなら,そのまま埋めればいいだけで,手間をかけて車に乗せ,シートベルトをする必要はない。本件車両そのものを攻撃する必要もない。また,本件ショベルで運転席の被害女性を攻撃するには,車で到着してすぐの降車前か,帰り際の停車中を狙うしかない。実際にルーフの損傷には横ずれがないから,打撃時に車は停止していた。被害者らは午後3時に事務所に呼び出されており,被害男性も本件車両の側に埋められていたから,被害女性が本件車両を運転し,被害男性がこれに同乗して事務所に到着したことが分かる。その際,犯人は,110番通報等のリスクを避ける必要があるから,被害者らを同時に攻撃するしかない。しかも,帰り際だと被害者らが乗車するタイミングのずれや,自分が本件ショベルに乗り込むタイミング次第で,同時に攻撃するのは難しい。また,帰り際に攻撃したのであれば,被害男性が持っていたボイスレコーダーに犯行当日の記録があったと考えられるが,そのような記録はなかった。したがって,犯人は,被害者らがBの事務所付近に車をとめることを予想し,その付近に置いた本件ショベルに乗り込んで待ち伏せ,被害者らが到着してすぐに,本件ショベルを操作し,被害者らを車ごと攻撃したと推認できる。本件ショベルが午後3時頃から午後6時15分頃まで稼働していたことからも,被害者らが事務所に到着してすぐに攻撃し,相応の時間をかけて穴に埋めたことが分かる。ルーフにスケルトンバケットを振り落とした。本件車両のルーフは,ボンネット付近まで大きくへこみ,全面に擦過傷があり,その損傷が本件ショベルのスケルトンバケットの底面のます目と一致したから,犯人は,本件ショベルを操作し,本件車両のルーフにスケルトンバケットの底面を振り落とし,被害者らを攻撃したことが分かる。被害女性の頭の皮がめくれていたのは,ルーフ等で頭部に打撃を受けた結果とも考えられる。スケルトンバケットとキャタピラーで本件車両を挟み込んだ。本件車両を穴まで引きずっていった。本件車両の運転席ドア等に,直線状に5か所の硬い突起物ようのもので押し込まれた痕跡があり,これらと本件ショベルのスケルトンバケットの爪の位置が一致したから,犯人は,本件ショベルを操作して,スケルトンバケットを運転席ドア等に振り下ろし,その爪で同ドア等を突き刺したことが分かる。被害女性の右足が欠損していたが,ちょうど運転時の右足と爪を突き刺した位置が一致する。また,助手席ドアに円弧状を描く損傷があったから,犯人は,更に本件ショベルを操作し,スケルトンバケットを動かして本件車両を引き寄せ,スケルトンバケットとキャタピラーで本件車両を挟み込んだことも分かる。さらに,事務所付近から穴の方向に向かってアスファルトにスケルトンバケットの爪の痕跡があり,本件車両の底部に3か所の擦過傷があったから,犯人が本件車両を穴の方向に引きずったことは間違いない。本件車両をルーフを下にして深さ約5mの穴に落とした。本件車両と被害男性に土砂をかけるなどして埋めた。本件車両は穴の中の地下約5m付近に,ルーフを下にして埋められていたから,犯人は,被害者らを車ごと攻撃した後,穴まで引きずり,本件車両をルーフを下にして深さ約5mの穴に落としたことが分かる。その後,被害男性がどのようにして車外に出たのかは不明であるが,穴に落ちた衝撃で車外へ出ても不自然ではない。いずれにしても,犯人は,本件車両と被害男性の上から,本件ショベルで土砂をかけるなどして,被害者らを穴の中に埋めたことは間違いない。イ 加害行為の危険性と殺害目的車内にいたとはいえ,かなり重量のあるスケルトンバケットで車ごと攻撃するのは危険である。その上で,穴に落として埋めることが,被害者らを死亡させる危険性の高い行為であることは,誰にでも分かる。当然,犯人は,その危険性を認識していたにとどまらず,被害者らを殺害する目的で一連の加害行為をしたことは間違いない。ウ 弁護人の主張弁護人は,本件の犯行態様は不明であり,結局,殺意があるかも不明であるから,殺害行為の立証は不十分であると主張する。しかし,前記の加害行為があったことは,本件車両や現場の状況等に関する客観的事実から推認できる。そして,その限度でも殺害行為と殺意があったことの立証は十分である。細かな犯行態様が不明であってもこの結論は動かない。弁護人は,犯人が被害者らを待ち構えていた証拠はないし,被害者らが待ち構えられているところに近づくはずがないと主張する。しかし,犯人が被害者らを待ち構えていたことは,本件の客観的事実や犯人の立場になって考えることで推認できる。また,Bのような現場では,仮に犯人が被害者らが停めた車の近くで本件ショベルに乗り込んでいても,それは普通の光景であり,誰も気にとめない。本件では,被害者らが犯人が待ち構えていると考えなかっただけである。弁護人は,被害者らは110番通報もせず,逃げようとした形跡がないから,本件ショベルで攻撃された際に生きていたとは考え難いと主張する。しかし,被害者らは,本件の直前まで日常生活を普通に送っていた。通報等の形跡がないから加害行為の前に死んでいたというのは通常ありえないことであって,被害者らに通報や逃走をする余裕がなかっただけと考えるのが常識的である。被害者らが加害行為の前に死んでいれば車ごと攻撃する必要はないし,シートベルトをする必要はない。犯人がした加害行為によって被害者らが死亡したことは,常識に照らして間違いない。死因(窒息により殺害したか)ア 死因の認定被害者らの遺体の鑑定結果等からは,医学的にみれば,いずれの死因も不明である。しかし,前記のとおり,証拠上,殺害行為があったことと,それによって被害者らが死亡したことは,いずれも明らかであり,被害者らに対する殺人罪が成立することは間違いない。そして,殺害行為の具体的内容と2名が死亡した点で,行為責任の中核部分が定まるから,更にその中で具体的な死因が何であるかは,刑の軽重とは関係が薄い。本件の加害行為の内容を踏まえると,その結果,打撃で死亡したのか,穴にたまった水で溺死したのか,土砂により窒息死したのかは,偶然の要素が強く,その点から刑の軽重はつけられない。したがって,被害者らの死因については,医学的に精密な認定をする必要はなく,常識に照らして認定すればよい。イ 被害女性の死因被害女性は,車ごと攻撃され,シートが大きく開くほどルーフやピラーに挟まれ,逆さの状態で穴に落とされており,全身に圧迫を受けている。その状況を考えると,胸郭の運動が制限されて呼吸不全を起こし,窒息により死亡したと認められる。ウ 被害男性の死因被害男性は,車ごと攻撃されて穴に落とされ,車外で土砂を身体に直接かけられて埋められており,全身に打撃や圧迫を受けている。これらによって肋骨が多発骨折し,フレイルチェストによる呼吸不全を起こして窒息した可能性があることは,医師の所見が一致した。それに伴う外傷性ショックについては,傷や出血が少ないので可能性が低い,同時に進行した可能性が否定できないと医師の所見が割れた。さらに,土砂による全身圧迫が肋骨多発骨折の原因となるかについても医師の所見が割れたが,少なくとも,土砂で埋められた態様からいって,全身が圧迫され,これにより胸郭の運動が制限されて呼吸不全が起こる可能性があることは否定できない。被害男性にうっ血等の窒息死の典型的な所見はなかったが,土砂による広い作用面を考えると,血の逃げ場がないから不自然ではない。そうすると,被害男性は,フレイルチェスト又は胸郭運動制限のいずれかによって呼吸不全を起こし,窒息して死亡したと認められる。ただし,外傷性ショックが先行した可能性も残るから,「窒息等により死亡」したと認定するのが相当である。エ 弁護人の主張弁護人は,被害女性について,窒息死の所見がないのに状況だけから窒息死と認定するのは無理だから,死因は不明であり,あえていえば上あご骨折及び脳内出血という頭部外傷が死因になった可能性があると主張する。しかし,前記のとおり,死因について医学的に精密な認定をする必要はない。被害女性が置かれた状況や身体に受けた外力からは,窒息により死亡したと考えるのが最も自然である。上あご骨折及び脳内出血は,死因に結びつくような程度のものではない。これらの頭部外傷は,ルーフ等による打撃か,バケットの爪による打撃の結果と考えた方が自然である。弁護人は,被害男性について,圧死の所見がないこと,当時,降雨により穴に相当水がたまり,被害者らが車ごと穴に落ちた際に生きていれば溺死する可能性が高いのにその所見がないこと,穴に埋めるのには相応の時間がかかること等から,被害者らは死亡してから穴に埋められたのであり,生き埋めされてはいないと主張する。たしかに,本件では,被害者らがいつ死亡したかは不明であり,確定できない。呼吸不全や外傷性ショックの進行が早ければ埋める前に死亡した可能性があり,その進行が遅ければ埋めた後に死亡した可能性がある。結局,本件では,被害者らが生きたまま埋められたかどうかは不明であることを前提とするしかない。そうすると,犯人が被害者らが生きていることを認識しながら,あえて生き埋めにしたとも認定できない。したがって,弁護人の主張は,その根拠とする実験等が正確であるかは疑問があるものの,その結論には賛成できる。検察官は,犯人は被害者らを生き埋めにして殺害したと主張するが,本件ではそのような認定はできない。第3 犯人性1 被告人が本件の犯人であることは,証拠によって認められる以下2の各事実から推認できる。弁護人の主張を踏まえても,この推認は揺るがない。したがって,被告人が本件の犯人であると認定した。2 以下,補足して説明する(以下の年を示さない日付は,いずれも平成26年のものである)。犯行場所を,被告人が管理していたことア 犯行場所等から,どんな犯人であるといえるか。犯行場所は,Bの敷地である。Bに関係のない第三者が,敷地内に入り込み,犯行を準備し,自由に穴を掘り(あるいは掘られた穴を自由に使い),その穴に被害者らを埋めることは,ほとんど不可能といっていい。少なくともBの従業員等の関係者でなければ,そのようなことはできない。事務所の鍵が従業員らで管理され,本件ショベルの1本しかない鍵が事務所内で保管されていたことからもそういえる。また,Bの一般の従業員が,自分の会社の敷地に,殺害した被害者らを埋めるなんて普通はしない。後でその同じ場所に穴を掘られたら犯行が発覚してしまうから,そのような場所は選ばない。犯人がBの敷地を選んだのは,そこが自分のテリトリーであり,事後的に管理しやすく他人の掘り起こしなども防げたからである。このように考えると,犯人は,Bの従業員等の関係者で,かつ,ある程度の裁量を持った幹部クラスであると推認できる。イ 被告人は,Bで,どんな立場であったか。被告人は,Bの経営者であった。被告人は,犯行場所の管理責任者であり,その敷地内で,自由に穴を掘り,自由に重機を使用できる立場にあった。もちろん,埋めた場所をその後どう利用するかを決められる立場にあった。ウ犯行場所等から絞ることができる犯人に,被告人はきれいにあてはまる。被告人なら犯行は容易であった。埋めた土地をその後どう利用するかも決められるから,穴の掘り返しによる発覚を防ぐことも容易であった。これらは,第三者ではほとんど不可能であり,Bの従業員というだけではかなり難しい。したになる。犯行は,Bの関係者で,被告人だけが可能であったことア 犯行時間の認定8月15日午後1時半に,本件車両がBの事務所に最寄りのICを通過した。被害者らは同日午後3時に事務所に呼び出された。本件ショベルは,同日午後3時頃から午後6時15分頃まで稼働していた。これらによると,犯行は8月15日午後3時頃から午後6時15分頃までの間に行われたと推認できる。イ 犯行時間に,犯行場所の近くに,被告人がいたこと被告人の携帯電話の発信時の接続基地局は,8月15日の午後3時までの4回が犯行場所から南西に約700mの位置にあり,15時7分,18時54分,19時7分の3回が犯行場所から東に約300mの位置にあった。犯行場所から電話をして確認すると,全部が後者の基地局を経由した。そうすると,被告人は,犯行時間に,犯行場所の近くにいたから,犯行は可能であり,事務所の鍵を所持し,重機の運転も上手にできたから,犯行は容易であった。また,被害者らは,8月頃,Bの事務所に被告人を訪ね,事務所から車1台分離れた付近に車を停めた。被告人は,そのことも知っていたはずだから,同月15日も,被害者らが以前と同じような場所に車を停めることを予想し,その付近に置いた本件ショベルに乗り込んで待ち伏せた上で,到着してすぐの被害者らを車ごと攻撃することも容易であった。ウ 犯行時間に,犯行場所の近くに,Bの他の従業員がいなかったこと8月15日,Bはお盆休みで休業しており,被告人以外のBの従業員は,いずれも出勤しなかった。したがって,この従業員らに犯行はできなかった。エ犯行場所等から,犯人は,Bの従業員等の関係者で,かつ,ある程度の裁量を持った幹部クラスまで絞ることができる。その中で,犯行は,Bの関係者では,被告人だけが可能であり,かつ,容易であった。これらを一緒に考えると,被告人が犯人であることをかなりの程度まで推認させる事情になる。犯行時間,犯行場所に,被告人が被害者らを呼び出したことア 呼出し行為は,犯人がしたといえるか。被害者らは,8月15日午後3時にBの事務所に呼び出された。そして,その頃,Bの敷地内で攻撃され,穴に埋められるなどして殺害された。その経緯や,時間が近接し,場所が一致することから,呼出し行為は犯人がした可能性が高い。イ 呼出し行為は,被告人がしたといえるか。男性が被害者らを呼び出した状況が,ペン型のボイスレコーダーに録音されていた。その声を聞いた被告人の息子と,被害男性と一緒にBの事務所を訪ねたFが,いずれも男性は被告人であると証言した。これらによると,呼出し行為は被告人がしたといえる。ウ 事実が持つ推認力呼出し行為は犯人がした可能性が高く,被告人はその呼出し行為をしているから,被告人が犯人である可能性が高いが,第三者に呼出し行為を依頼された可能性がなくはないことを考えると,呼出し行為だけでは犯人とは言い切れない。しかし,呼び出した時期がお盆であり,誰もいないタイミングであったこと,被告人が1200万円を返済できると嘘を言って被害者らを呼び出したこと,被告人が従業員に廃棄物が来ると告げたこと,被告人が8月15日に被害男性に電話をかけたことなどの事実を一緒に考えると,被告人が,被害者らを殺害するために,犯行時間,犯行場所に被害者らを呼び出したと考えるのが最も自然である。したがって,これらは被告人が犯人であることを強く推認させる事情になる。犯行準備を,被告人がしたことア 被告人は,どんな行為をしたのか。被告人は,8月8日,被害者らに対し,同月15日に取引があるから1200万円を返済できると嘘を言って,同日午後3時にBの事務所に呼び出した。同月12日,Hに指示をして本件ショベルの先端をスケルトンバケットに取り替えさせ,本件ショベルをfからcに移動させた。同月13日,Gに指示をしてcに被害者らが埋められていた穴を掘らせた。その際,Gに対し,その穴に取引先が持ってくる廃棄物を埋めると説明したが,同月18日には,取引先が廃棄物を持ってこなかったと告げた。イ アの行為が,犯行準備といえるか。被告人は,被害者らをお盆に事務所に呼び出したが,確実に来てもらうために高額の金銭を返済できると嘘を言い,かたや犯行の準備をすすめたといえる。8月8日の呼出し行為は,犯行の準備そのものである。Gが掘った穴から被害者らの遺体が出てきた以上,その穴を掘った行為が犯行の準備でなかったというのは無理がある。本件ショベルのバケットの取り替えとcへの移動は犯行のわずか3日前であり,その取り替えたスケルトンバケットの爪を運転席ドア等に突き刺して使用している。したがって,アの行為は犯行の準備であったといえる。ウ被告人が犯行の準備をした以上,被告人が犯人であると考えるのが自然であになる。エ 弁護人の主張弁護人は,被告人は自分で穴を掘れるのに,人を殺す穴をわざわざ従業員に掘らせることはしないと主張する。確かに,人を殺す穴を他人に掘らせることは一般的にはしないが,状況によって異なる。被告人は,小遣い稼ぎのために,違法な廃棄物の受け入れをパトロールなどを避けて休日に繰り返しやっており,その穴をいつも従業員らに掘らせていた。そうすると,敷地に穴を掘る行為は,Bではほとんど通常の業務としてやっていたから,被告人が,今回,穴を掘らせても疑われることはないだろうと考え,従業員にいつもの仕事をさせただけである。むしろ,被告人がいつもと違って自分で穴を掘れば,かえって目立って疑われるリスクもあったといえる。弁護人は,他の場所なら目立たないのに,事務所のすぐ近くの人目につく場所に人を埋める穴は掘らないと主張する。しかし,事務所付近で車ごと攻撃し,車ごと埋めるつもりであれば,できるだけその近くに埋めた方が簡単であり,離れた場所だとそこまで運ぶ労力がかかってしまう。また,事後的にみても,事務所から目の届きやすい場所の方が,掘り返しを防ぐなどの管理をしやすいメリットが大きい。弁護人は,穴を掘る行為等は,廃棄物を埋めるためであり,Bでは通常の業務であったから(現に複数の穴から廃棄物が出ている),犯行準備とはいえないと主張する。確かに,穴を掘らせる行為等だけをみれば,通常業務の一環であるが,その前後のいきさつから考えると,今回は通常業務を装っただけである。穴から遺体が出ているのに通常業務だというのには無理があるし,通常の業務で掘った穴を,車ごと埋めるのにたまたま利用することになったというのは,都合が良過ぎる。また,被告人は,虚偽の事実を告げて被害者らを事務所に呼び出した上で,穴を掘るなどしている。しかも,被告人は,Gに廃棄物の受け入れはなかったと告げたが,これまで,穴を掘ったのに業者が廃棄物を持ち込まなかったことはなかった。廃棄物を受け入れなかったなら,すぐに穴を埋めもどす必要もない。これらのいきさつを一緒に考えると,アの行為が犯行の準備であったのは明らかである。犯行動機が,被告人にあることア 被告人は,被害者らと,どんな関係であったか。被告人は,被害男性から多額の借金をしていたが,平成12年頃には返済をやめ,被害男性もその督促をやめた。Bは,fの土地を残土処分場として利用し,その土地に業者から受け入れた廃棄物を不法に投棄していた。そのfの土地の約3割は,被害男性が実質的に所有していた。被害男性は,平成26年,土地の売却等を依頼したIから,Bがfの土地に不法投棄をしていることを聞くと,間もなく被告人に対し,fでの不法投棄を告発するなどと告げ,fの土地を三千万円で買い取るように迫った。また,被告人に対し,かつての貸金やfの土地の賃料を名目に,数千万円の返済を求め,集金にも行くようになり,6月11日には,被告人にその返済を約束させた。被告人は,同月中に被害男性に200万円を返済したが,その後,連絡をとらずにいると,被害男性は,7月15日,Fと被告人を訪ね,強く被告人に返済を迫り,同月末までに多額の金銭の返済を約束させた。被告人は,8月8日,Bの事務所で,被害男性に対し,8月15日の午後1時に取引があるから1200万円を返済する,盆休みで誰もいないので午後3時に来てほしいなどと告げた。当時cの土地の一部を太陽光発電用地として売却する計画はあったが,被告人がいう金銭が支払われる見込みはなかった。被害女性は,長年にわたり,被害男性の仕事を手伝い,同人の金銭の管理をしていた。平成26年当時,被害男性が用事があるときに,同人を車に乗せて出かけることが多く,8月8日までに何度も,被害男性と一緒にBの事務所を訪れていた。イ その関係は,殺害の動機となるか。被害男性は,被告人に多額の金銭の返済等を何度も執拗に迫った。その際にfの土地の不法投棄を告発することをちらつかせて脅した。被告人に買い取りを求めた三千万円はかなり法外な金額であり,被害男性は被告人から金銭を回収することを楽しんでいた。被告人は,6月には200万円を返済してしのいだが,その後,被害男性が満足できるような金銭を準備できず,追い込まれていった。その中で,このままではfでの不法投棄を通報されるなどしてBの事業が継続できなくなることを恐れ,被害男性の殺害を決意するに至ったと推認できる。また,被告人は,被害女性に対して直接殺害するような動機はなかったが,被害女性が被害男性といつも一緒に来て事情も知っていたから,被害男性の仲間であり,一緒に殺害するしかないと考え,殺害を決意するに至ったと推認できる。したがって,被告人には,被害者らを殺害する十分な動機があったといえる。ウ被告人は,被害者らを殺害してもおかしくない動機を持っていた。この事実は,他者が動機を持ちうる可能性を排除しないから,被告人が犯人であることを強く推認する事情とはいえない。しかし,被告人が,被害者らに対して殺害行為に及ぶだけの理由について,十分に納得できるものであるから,被告人が犯人であることを推認させる事情になる。エ 弁護人の主張弁護人は,被害男性は,莫大な債務をかかえており,被告人個人を訴えても会社の財産はとれないから,できるだけ粘り強く被告人から回収をしようとしたはずであり,そのためにはBに営業を続けてもらう必要があるから,不法投棄の告発などしないと主張する。確かに,被害男性は少しでも被告人から金銭を回収して息子らに残したかったと考えられるが,被告人の返済が満足になされなければ,それに怒り,代償として告発をすることは十分にあったといえる。告発などしないとは断言できない。弁護人は,被告人は,被害男性が告発なんてしないことは分かっていたから,返済期限をのらりくらりと引き延ばしていただけで,殺害の動機はないと主張する。しかし,被害男性が短期間のうちに何度も事務所まで押しかけたことや,実際に被告人に請求する様子からは,被害男性の要求はかなり執拗であった。被告人は,のらりくらりと返済期限を引き延ばすことが通じなくなり,現実に告発されるかもしれないという危機感を募らせたと考えられる。その結果,被告人は,事業継続できなくなることを恐れて殺害を決意したと推認できる。隠ぺい工作を,被告人がしたことア 被告人は,どんな行為をしたのか。被告人は,8月17日,本件ショベルをcからfに移動させ,同月18日以降,埋めた穴付近を整地した。同月21日以降に,取引先の残土を,fではなくcに運ばせ,埋めた穴付近に積ませた。同月23日,本件ショベルのスケルトンバケットが取り替えられた。イ アの行為が,犯行隠ぺい工作といえるか。新しい穴だとすぐに分かるので,穴があったことを分からなくなるようにした上で,その場所の掘り返しをさせないようにするために,わざわざ穴の上を整地し,残土を置いたと考えるのが自然である。しかも,その残土は鳥栖の現場に使う予定だったのに,1年以上,使わずに置いたままであり,その上には植物等も生えていた。また,犯行から2日後に本件ショベルを移動させ,スケルトンバケット自体も取り替えられており,これらは凶器をできるだけ現場から遠ざけようとしたと考えるのが自然である。したがって,アの行為は犯行の隠ぺい工作といえる。ウ被告人が犯行の隠ぺい工作をした以上,被告人が犯人であると考えるのが自然である。したがっる事情になる。総合評価以上のとおり,本件では,被告人が犯人であることを強く推認させる事情が複数そろっている。検察官が主張するとおり,これらのすべてが偶然にそろうことは考えられないから,被告人以外の者が犯人であったならば,合理的な説明ができない。したがって,本件では,被告人が本件の犯人であることが合理的な疑いを入れない程度に立証されている。(適条)罰 条 第1 いずれも刑法199条第2 刑法253条科刑上一罪の処理 第1 刑法54条1項前段,10条(犯情の重いCに対する殺人罪の刑で処断する)刑種の選択 第1 無期懲役刑を選択併合罪の処理 刑法45条前段,46条2項本文未決勾留日数の本刑算入 刑法21条(未決勾留日数中730日を上記刑に算入)訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)1 量刑の中核となる殺人について,同種事案の量刑傾向(殺人,単独犯,同種の罪の数2~4件)を確認し,その中で,被害者2名が殺害された事案に絞り,死刑又は無期懲役が求刑された事例にあたった上で,被告人に科すべき刑について検討した。2 本件では,被害者2名の尊い生命が奪われ,いずれも穴に埋められた。犯行の結果はまことに重大であり,被害者らの受けた苦しみ,無念さは計り知れない。遺族が犯人に対して厳しい刑を求めるのは当然である。このように,本件は,結果が極めて重大な事案であり,犯行態様,特に殺害の手段,方法の執拗性・残虐性,計画性の程度,犯行の動機,犯行に至る経緯の内容次第では,死刑を選択することもあり得る事案である。

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