事件番号令和1(行ケ)4
事件名選挙無効請求事件
裁判所大阪高等裁判所 第12民事部
裁判年月日令和元年10月29日
結果棄却
事案の概要本件は,令和元年7月21日に施行された参議院議員選挙(以下「本件選挙」という。)について,滋賀県選挙区,京都府選挙区,大阪府選挙区,兵庫県選挙区,奈良県選挙区及び和歌山県選挙区の各選挙人である原告らが,参議院選挙区選出議員の選挙(以下「選挙区選挙」という。)の選挙区割りに関する公職選挙法等の20規定は憲法に違反し無効であるから,これらの規定に基づき施行された本件選挙の上記各選挙区における選挙が無効であると主張して提起した選挙無効訴訟である。
判示事項の要旨1 最高裁大法廷判決の判断
 平成29年大法廷判決は,参議院の創設以来初めての合区を行い,これによって,選挙区間の最大較差がそれまでの5倍前後で推移していた状態から2.97倍(平成28年選挙当時で3.08倍)に縮小した平成27年改正法について,合区というこれまでにない手法を導入し,それまでの最高裁大法廷判決の趣旨に沿って較差の是正を図ったものとみることができる上,附則において,次回の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得ると定めることで,投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されているなどとして,憲法に違反するとはいえないと判示した。
 平成29年大法廷判決は,参議院の通常選挙における投票価値の較差の憲法適合性に関し,それまでの最高裁大法廷判決で示されてきた判断と同一の基本的な考え方に立つものである。本件選挙に関しては,平成29年大法廷判決の判断対象となった旧定数配分規定と同様の合区を維持したままの定数配分規定について,その憲法適合性に関する判断が求められているから,本件では平成29年大法廷判決を踏まえた判断をするのが相当である。
2 定数配分規定の憲法適合性に関する判断枠組み
憲法は,選挙権の内容の平等,すなわち投票価値の平等を要求している。他方,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであり,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。また,二院制の下での参議院の在り方や役割を踏まえ,参議院議員につき衆議院議員とは異なる選挙制度を採用し,国民各層の多様な意見を反映させて,参議院に衆議院と異なる独自の機能を発揮させようとすることも,選挙制度の仕組みを定めるに当たって国会に委ねられた裁量権の合理的行使として是認し得るものであり,政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮すること自体が否定されるものでもない。
以上の判断は,平成29年大法廷判決が示す判断枠組みに沿ったものである。
3 本件選挙当時の投票価値の不均衡が違憲状態にあるか
平成30年改正法は,平成27年改正法における合区を踏襲した上で,参議院(選挙区選出)議員の定数を2人増加し,これを埼玉県選挙区に割り振ることによって,選挙区間の最大較差を平成28年選挙当時の3.08倍から2.985倍(本件選挙時の最大較差は3.00倍)に縮小したものである。また,国会においては,平成30年改正法の成立までに,参議院の選挙制度に関して様々な立場に基づく幅の広い意見交換がされ,複数の法律案が提出・審議されるなどしている。一方で,投票価値の較差の更なる是正を図りながら,他の政策的目的ないし理由との調和を実現し,多くの国民によって支持され得るような具体的な選挙制度の仕組みを見いだすことは容易ではない。
これらの事情,とりわけ平成30年改正法により最大較差が平成28年選挙当時より更に縮小されたことからすると,本件選挙当時,選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったとはいえず,現行の定数配分規定が憲法に違反するということはできない。
4 選挙制度の抜本的な見直しについて
平成27年改正法附則には,本件選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得るとの規定が置かれており,そのことが平成29年大法廷判決の合憲判断の根拠の一つにもなっていたが,その後,平成30年改正法では,定数を2人増加してこれを埼玉県に配分するなどの改正がされたにとどまっており,およそ選挙制度の抜本的な見直しがされたとはいえない状況にあることが明らかである。
しかし,平成30年改正法における定数配分規定は,平成27年改正における合区を踏襲した上で上記の改正を行うことによって,選挙区間の最大較差を平成28年選挙当時から更に縮小したものであることに加え,この間,国会において選挙制度の抜本的な見直しに向けて様々な立場に基づく幅の広い意見交換がされてきたこと,平成30年改正法の成立に当たり,今後の参議院選挙制度改革については憲法の趣旨に則り引き続き検討を行うことを内容とする附帯決議がされたこと,投票価値の較差の更なる是正を図りながら,他の政策的目的ないし理由との調和を実現し,多くの国民によって支持され得るような具体的な選挙制度の仕組みを見いだすことは容易でなく,選挙制度の抜本的な見直しが実現されるまでには相応の年数を要することもやむを得ないと考えられることからすると,選挙制度の抜本的な見直しがされていないからといって,直ちに現行の定数配分規定が憲法に違反するということはできない。
5 結論
本件選挙当時の定数配分規定が憲法に違反するということはできず,原告らの請求はいずれも理由がない。
事件番号令和1(行ケ)4
事件名選挙無効請求事件
裁判所大阪高等裁判所 第12民事部
裁判年月日令和元年10月29日
結果棄却
事案の概要
本件は,令和元年7月21日に施行された参議院議員選挙(以下「本件選挙」という。)について,滋賀県選挙区,京都府選挙区,大阪府選挙区,兵庫県選挙区,奈良県選挙区及び和歌山県選挙区の各選挙人である原告らが,参議院選挙区選出議員の選挙(以下「選挙区選挙」という。)の選挙区割りに関する公職選挙法等の20規定は憲法に違反し無効であるから,これらの規定に基づき施行された本件選挙の上記各選挙区における選挙が無効であると主張して提起した選挙無効訴訟である。
判示事項の要旨
1 最高裁大法廷判決の判断
 平成29年大法廷判決は,参議院の創設以来初めての合区を行い,これによって,選挙区間の最大較差がそれまでの5倍前後で推移していた状態から2.97倍(平成28年選挙当時で3.08倍)に縮小した平成27年改正法について,合区というこれまでにない手法を導入し,それまでの最高裁大法廷判決の趣旨に沿って較差の是正を図ったものとみることができる上,附則において,次回の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得ると定めることで,投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が示されているなどとして,憲法に違反するとはいえないと判示した。
 平成29年大法廷判決は,参議院の通常選挙における投票価値の較差の憲法適合性に関し,それまでの最高裁大法廷判決で示されてきた判断と同一の基本的な考え方に立つものである。本件選挙に関しては,平成29年大法廷判決の判断対象となった旧定数配分規定と同様の合区を維持したままの定数配分規定について,その憲法適合性に関する判断が求められているから,本件では平成29年大法廷判決を踏まえた判断をするのが相当である。
2 定数配分規定の憲法適合性に関する判断枠組み
憲法は,選挙権の内容の平等,すなわち投票価値の平等を要求している。他方,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであり,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。また,二院制の下での参議院の在り方や役割を踏まえ,参議院議員につき衆議院議員とは異なる選挙制度を採用し,国民各層の多様な意見を反映させて,参議院に衆議院と異なる独自の機能を発揮させようとすることも,選挙制度の仕組みを定めるに当たって国会に委ねられた裁量権の合理的行使として是認し得るものであり,政治的に一つのまとまりを有する単位である都道府県の意義や実体等を一つの要素として考慮すること自体が否定されるものでもない。
以上の判断は,平成29年大法廷判決が示す判断枠組みに沿ったものである。
3 本件選挙当時の投票価値の不均衡が違憲状態にあるか
平成30年改正法は,平成27年改正法における合区を踏襲した上で,参議院(選挙区選出)議員の定数を2人増加し,これを埼玉県選挙区に割り振ることによって,選挙区間の最大較差を平成28年選挙当時の3.08倍から2.985倍(本件選挙時の最大較差は3.00倍)に縮小したものである。また,国会においては,平成30年改正法の成立までに,参議院の選挙制度に関して様々な立場に基づく幅の広い意見交換がされ,複数の法律案が提出・審議されるなどしている。一方で,投票価値の較差の更なる是正を図りながら,他の政策的目的ないし理由との調和を実現し,多くの国民によって支持され得るような具体的な選挙制度の仕組みを見いだすことは容易ではない。
これらの事情,とりわけ平成30年改正法により最大較差が平成28年選挙当時より更に縮小されたことからすると,本件選挙当時,選挙区間における投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったとはいえず,現行の定数配分規定が憲法に違反するということはできない。
4 選挙制度の抜本的な見直しについて
平成27年改正法附則には,本件選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得るとの規定が置かれており,そのことが平成29年大法廷判決の合憲判断の根拠の一つにもなっていたが,その後,平成30年改正法では,定数を2人増加してこれを埼玉県に配分するなどの改正がされたにとどまっており,およそ選挙制度の抜本的な見直しがされたとはいえない状況にあることが明らかである。
しかし,平成30年改正法における定数配分規定は,平成27年改正における合区を踏襲した上で上記の改正を行うことによって,選挙区間の最大較差を平成28年選挙当時から更に縮小したものであることに加え,この間,国会において選挙制度の抜本的な見直しに向けて様々な立場に基づく幅の広い意見交換がされてきたこと,平成30年改正法の成立に当たり,今後の参議院選挙制度改革については憲法の趣旨に則り引き続き検討を行うことを内容とする附帯決議がされたこと,投票価値の較差の更なる是正を図りながら,他の政策的目的ないし理由との調和を実現し,多くの国民によって支持され得るような具体的な選挙制度の仕組みを見いだすことは容易でなく,選挙制度の抜本的な見直しが実現されるまでには相応の年数を要することもやむを得ないと考えられることからすると,選挙制度の抜本的な見直しがされていないからといって,直ちに現行の定数配分規定が憲法に違反するということはできない。
5 結論
本件選挙当時の定数配分規定が憲法に違反するということはできず,原告らの請求はいずれも理由がない。
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