事件番号平成19(ラ)917
事件名株主総会決議禁止等仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件
裁判所東京高等裁判所 第15民事部
裁判年月日平成19年7月9日
結果棄却
原審裁判所東京地方裁判所
原審事件番号平成19(ヨ)20081
原審結果棄却
判示事項の要旨1 買収防衛策自体は,明文の根拠を有しないものであるが,証券取引法,会社法はこれを排斥するものとは解されず,合理的な事情がある場合には是認されるべきものであり,また,その手段としての新株予約権無償割当てが株主平等原則に反する,あるいは不公正発行に当たるかどうかの具体的判断は,買収者及び被買収者の属性も考慮の上,公開買付け行為の態様と対比し,買収防衛策を導入すべき必要性の存否,買収防衛策としての相当性の存否について検討の上,相対的に判断すべきものである。
2  会社法は株主平等原則を定めているが,株主間に差別的な取扱いがなされたとしても,この点に合理的な理由があれば,株主平等原則に反するものではない。また,会社法に定める株主の権利行使は当然のことながら,信義誠実等の基本的な法規範の規律の下にあり,権利の濫用にわたるような行使は許されないのであるから,他者の権利との相対的な関係において一定の場合には制約を受けることがある。したがって,株主の属性によって株主間に差異を設けることが当該会社の企業価値の毀損を防止するために必要かつ相当で合理的なものである場合には,それは株主平等原則に反しないというべきである。
3  株式会社は,理念的には企業価値を可能な限り最大化してそれを株主に分配するための営利組織であるが,同時に単独で営利追求活動はできない1個の社会的存在であり,対内的には従業員を抱え,対外的には取引先,消費者等との経済的な活動を通じて利益を獲得している存在であるから,従業員,取引先など多種多様な利害関係人との不可分な関係を視野に入れた上で企業価値を高めていくべきものであり,企業価値について,専ら株主利益のみを考慮するという考え方には限界があり採用することができない。真に会社経営に参加する意思がないにもかかわらず,専ら当該会社の株価を上昇させて当該株式を高値で会社関係者等に引き取らせる目的で買収を行うなどのいわゆる濫用的買収者が,濫用的な会社運営を行うないし支配することは,会社の健全な経営という観点を欠くのであるから,結局はその株式会社の企業価値を損ない,ひいては株主共同の利益を害するものであり,このような濫用的買収者は株主として差別的取扱を受けることがあったとしてもやむを得ない。それゆえ,そのようなおそれがある場合において,株式会社が特定の株主による支配権の取得について制限を加えるなどして,企業価値を確保又は向上させることを目的とする買収防衛策を導入することは,対抗手段として必要性,相当性が認められる限りにおいて株式会社の存立目的に照らし適法かつ合理的なものである。したがって,買収防衛策が上記のようなものであれば,本件新株予約権無償割当ての結果として買収者の持株比率の低下等の事態が生じたとしても,それをもって著しく不公正な方法により行われる場合に当たるということはできない。
事件番号平成19(ラ)917
事件名株主総会決議禁止等仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件
裁判所東京高等裁判所 第15民事部
裁判年月日平成19年7月9日
結果棄却
原審裁判所東京地方裁判所
原審事件番号平成19(ヨ)20081
原審結果棄却
判示事項の要旨
1 買収防衛策自体は,明文の根拠を有しないものであるが,証券取引法,会社法はこれを排斥するものとは解されず,合理的な事情がある場合には是認されるべきものであり,また,その手段としての新株予約権無償割当てが株主平等原則に反する,あるいは不公正発行に当たるかどうかの具体的判断は,買収者及び被買収者の属性も考慮の上,公開買付け行為の態様と対比し,買収防衛策を導入すべき必要性の存否,買収防衛策としての相当性の存否について検討の上,相対的に判断すべきものである。
2  会社法は株主平等原則を定めているが,株主間に差別的な取扱いがなされたとしても,この点に合理的な理由があれば,株主平等原則に反するものではない。また,会社法に定める株主の権利行使は当然のことながら,信義誠実等の基本的な法規範の規律の下にあり,権利の濫用にわたるような行使は許されないのであるから,他者の権利との相対的な関係において一定の場合には制約を受けることがある。したがって,株主の属性によって株主間に差異を設けることが当該会社の企業価値の毀損を防止するために必要かつ相当で合理的なものである場合には,それは株主平等原則に反しないというべきである。
3  株式会社は,理念的には企業価値を可能な限り最大化してそれを株主に分配するための営利組織であるが,同時に単独で営利追求活動はできない1個の社会的存在であり,対内的には従業員を抱え,対外的には取引先,消費者等との経済的な活動を通じて利益を獲得している存在であるから,従業員,取引先など多種多様な利害関係人との不可分な関係を視野に入れた上で企業価値を高めていくべきものであり,企業価値について,専ら株主利益のみを考慮するという考え方には限界があり採用することができない。真に会社経営に参加する意思がないにもかかわらず,専ら当該会社の株価を上昇させて当該株式を高値で会社関係者等に引き取らせる目的で買収を行うなどのいわゆる濫用的買収者が,濫用的な会社運営を行うないし支配することは,会社の健全な経営という観点を欠くのであるから,結局はその株式会社の企業価値を損ない,ひいては株主共同の利益を害するものであり,このような濫用的買収者は株主として差別的取扱を受けることがあったとしてもやむを得ない。それゆえ,そのようなおそれがある場合において,株式会社が特定の株主による支配権の取得について制限を加えるなどして,企業価値を確保又は向上させることを目的とする買収防衛策を導入することは,対抗手段として必要性,相当性が認められる限りにおいて株式会社の存立目的に照らし適法かつ合理的なものである。したがって,買収防衛策が上記のようなものであれば,本件新株予約権無償割当ての結果として買収者の持株比率の低下等の事態が生じたとしても,それをもって著しく不公正な方法により行われる場合に当たるということはできない。
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