事件番号平成18(行ウ)53
事件名未支給年金支払等請求事件
裁判所神戸地方裁判所
裁判年月日平成20年10月30日
判示事項1 厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律施行規則4条が定める社会保険庁長官のする同法附則2条において準用する同法1条の規定により支払うものとされる保険給付に関する処分を受けていない者がした老齢厚生年金受給権に基づく未払年金請求が,棄却された事例2 老齢厚生年金の再裁定及び再々裁定により被保険者期間が変更となり老齢厚生年金の差額の追加支給を受けた者が,追加支給自体が遅滞してされたものであるとしてした上記差額に対する遅延損害金の請求が,棄却された事例3 被保険者記録のうち被保険者期間の一部がオンラインシステム上から欠落していることが明らかとなり,被保険者から被保険者期間の確認請求等の申立てを受けた社会保険事務所の職員ら並びに社会保険庁長官及びその補助職員らには他の社会保険事務所に対して照会を行う等の具体的注意義務が生じていたにもかかわらずこれを怠ったため,被保険者期間の存在を確認できなかったとして,国家賠償法1条1項に基づき,発見されたであろう被保険者期間を算定の基礎として得られる老齢厚生年金の額と実際に受給した額との差額等の支払を求める請求が,認容された事例4 被保険者が以前に裁定請求をした際に被保険者の被保険者記録のうち被保険者期間の一部がオンラインシステム上から欠落していることが明らかになったことがあるという事情に加え,2回目の裁定請求の際にも裁定の算定の基礎とされることとなった被保険者期間が被保険者の申立内容に従った形で発見されたことや,給与明細書の提出等によって保険料天引きや納付の事実が裏付けられたこと等から,社会保険事務所職員並びに社会保険庁長官及びその補助職員らには,同被保険者の申立内容に従って被保険者記録を訂正すべき義務が生じていたにもかかわらず,これを怠ったことが違法であるとして,訂正に応じたとして得られるはずであった老齢厚生年金の額と実際に受給した額との差額等の支払を求める請求が,認容された事例
裁判要旨1 厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律施行規則4条が定める社会保険庁長官のする同法附則2条において準用する同法1条の規定により支払うものとされる保険給付(施行前裁定特例給付)に関する処分を受けていない者がした老齢厚生年金受給権に基づく未払年金請求につき,同法が,受給権者に対して,消滅時効期間の経過によりいったん法律上当然に消滅した支分権たる受給権について特に時効消滅の効果を覆滅しその給付を請求できる法的根拠を付与することを目的とするものであることにかんがみると,同法5条による委任を受けて制定された同法施行規則1条及び4条は,改めて,紛争防止及び給付の法的確実性の担保を図るべく,給付の可否,内容等につき社会保険庁長官が公権的に確認するのが相当であるとの見地から,給付を受けようとする被保険者の申請に基づき,社会保険庁長官が支分権たる受給権の存否,内容等について確認処分をすることによって初めて具体的にその支払を請求することが可能となるものとしたものと解することができるから,同法施行規則4条が定める「処分」は,それにより国民の権利の範囲を確定することが法律上認められるものというべきであって,「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行政事件訴訟法3条2項)に当たり,この「処分」を受けていない者は,同特例給付の支給を請求することはできないとして,前記請求を棄却した事例2 老齢厚生年金の再裁定及び再々裁定により被保険者期間が変更となり老齢厚生年金の差額の追加支給を受けた者が,追加支給自体が遅滞してされたものであるとしてした上記差額に対する遅延損害金の請求につき,厚生年金保険法36条3項ただし書は,前支払期月に支払うべきであった年金等は,支払期月でない月であっても支払うものとする旨規定しているところ,これは,裁定が初めて求められた場合と再裁定(再々裁定等,当初裁定後の一切の裁定又は裁定の訂正を含む。)の場合との双方に適用される規定と解される一方で,再裁定の場合には当初の裁定時点において再裁定の内容の裁定がなされていた場合には給付されたであろう支払期月にさかのぼって遅延損害金を付して年金を支給するなどの特別の規定がない以上は,再裁定の場合にも,公権的に年金額を確認する裁定の後に初めて年金受給権が発生すると解さざるを得ないから,再裁定について,再裁定以前の期間についての遅延損害金の支払を求めることはできないとして,前記請求を棄却した事例3 被保険者記録のうち被保険者期間の一部がオンラインシステム上から欠落していることが明らかとなり,被保険者から被保険者期間の確認請求等の申立てを受けた社会保険事務所の職員ら並びに社会保険庁長官及びその補助職員らには他の社会保険事務所に対して照会を行う等の具体的注意義務が生じていたにもかかわらずこれを怠ったため,被保険者期間の存在を確認できなかったとして,国家賠償法1条1項に基づき,発見されたであろう被保険者期間を算定の基礎として得られる老齢厚生年金の額と実際に受給した額との差額等の支払を求める請求につき,被保険者が,被保険者期間の確認請求等をするに当たり,上記の欠落に係る期間は本雇いとして会社に勤務していたことを社会保険事務所の職員に告げており,被保険者の求めにより社会保険事務所の被保険者名簿を調査したところ同会社における当該期間の一部の被保険者期間が発見され,オンラインシステム上以外にも被保険者が被保険者期間を有する可能性をうかがわせる事情が生じたことなどの事情に加え,年金が定年退職後の生活の安定のために必須のものであり,その年金支給の基礎となる被保険者記録の正確性を維持することは極めて重要であって,社会保険庁及び社会保険事務所職員らは,そのために被保険者からの確認請求等に対し真しに対応することはもちろんのこと,自ら積極的に正確性の検査,調査を行うことが要請されていると解されることを勘案すると,社会保険事務所の職員は,オンラインシステムからの被保険者記録の欠落の可能性が十分にうかがわれる被保険者について,その勤務時期はともかくとして被保険者が勤務したことがあると主張する会社営業所の存在が明らかになり,しかも,被保険者は当該期間は同会社の別の営業所において勤務していたと説明していたのであるから,被保険者に対する関係で,少なくとも,同各営業所を管轄する各社会保険事務所を把握すべく,被保険者に対して同各営業所の所在地を確認した上,これらにつき管轄を有すると予想される各社会保険事務所に対し,被保険者の被保険者記録の有無について事務所間照会を行うべき職務上の義務があったところ,被保険者から確認請求等の申立てを受けた社会保険事務所はかかる事務所間照会を行わず,社会保険庁長官もこれを前提に裁定を行ったものであり,この時点で社会保険事務所が事務所間照会を行っていれば,被保険者が主張する被保険者記録が発見され,発見された当該被保険者期間を算定の基礎とする老齢厚生年金の裁定がされたことはほぼ確実であったということができるとして,前記請求を認容した事例4 被保険者が以前に裁定請求をした際に被保険者の被保険者記録のうち被保険者期間の一部がオンラインシステム上から欠落していることが明らかになったことがあるという事情に加え,2回目の裁定請求の際にも裁定の算定の基礎とされることとなった被保険者期間が被保険者の申立内容に従った形で発見されたことや,給与明細書の提出等によって保険料天引きや納付の事実が裏付けられたこと等から,社会保険事務所職員並びに社会保険庁長官及びその補助職員らには,同被保険者の申立内容に従って被保険者記録を訂正すべき義務が生じていたにもかかわらず,これを怠ったことが違法であるとして,訂正に応じたとして得られるはずであった老齢厚生年金の額と実際に受給した額との差額等の支払を求める請求につき,当該被保険者期間の一部について会社での勤務及び保険料天引きを裏付ける給与明細という客観的な資料が発見されており,それ以外の期間についても給与明細上は保険料は天引きされてはいないものの,その期間について同被保険者が会社から本雇いとされたことがうかがわれることや他の期間において継続的に保険料が天引きされていること等も併せると,その期間については給与から天引きせずに他の方法により会社又は同被保険者が保険料を支払った可能性もあるといえ,また,被保険者に対する1度目の裁決後も同被保険者の申立内容に沿う形で被保険者記録が発見されてきていたことからすると,社会保険事務所長及びその補助職員らは被保険者に対し,その申立内容に従って,当該期間についても被保険者期間であるとして被保険者記録を訂正すべき職務上の義務があり,社会保険庁長官も,被保険者に対し,それを算定の基礎として老齢厚生年金の裁定をなすべき職務上の義務があったというべきであるとして,前記請求を認容した事例
事件番号平成18(行ウ)53
事件名未支給年金支払等請求事件
裁判所神戸地方裁判所
裁判年月日平成20年10月30日
判示事項
1 厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律施行規則4条が定める社会保険庁長官のする同法附則2条において準用する同法1条の規定により支払うものとされる保険給付に関する処分を受けていない者がした老齢厚生年金受給権に基づく未払年金請求が,棄却された事例2 老齢厚生年金の再裁定及び再々裁定により被保険者期間が変更となり老齢厚生年金の差額の追加支給を受けた者が,追加支給自体が遅滞してされたものであるとしてした上記差額に対する遅延損害金の請求が,棄却された事例3 被保険者記録のうち被保険者期間の一部がオンラインシステム上から欠落していることが明らかとなり,被保険者から被保険者期間の確認請求等の申立てを受けた社会保険事務所の職員ら並びに社会保険庁長官及びその補助職員らには他の社会保険事務所に対して照会を行う等の具体的注意義務が生じていたにもかかわらずこれを怠ったため,被保険者期間の存在を確認できなかったとして,国家賠償法1条1項に基づき,発見されたであろう被保険者期間を算定の基礎として得られる老齢厚生年金の額と実際に受給した額との差額等の支払を求める請求が,認容された事例4 被保険者が以前に裁定請求をした際に被保険者の被保険者記録のうち被保険者期間の一部がオンラインシステム上から欠落していることが明らかになったことがあるという事情に加え,2回目の裁定請求の際にも裁定の算定の基礎とされることとなった被保険者期間が被保険者の申立内容に従った形で発見されたことや,給与明細書の提出等によって保険料天引きや納付の事実が裏付けられたこと等から,社会保険事務所職員並びに社会保険庁長官及びその補助職員らには,同被保険者の申立内容に従って被保険者記録を訂正すべき義務が生じていたにもかかわらず,これを怠ったことが違法であるとして,訂正に応じたとして得られるはずであった老齢厚生年金の額と実際に受給した額との差額等の支払を求める請求が,認容された事例
裁判要旨
1 厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律施行規則4条が定める社会保険庁長官のする同法附則2条において準用する同法1条の規定により支払うものとされる保険給付(施行前裁定特例給付)に関する処分を受けていない者がした老齢厚生年金受給権に基づく未払年金請求につき,同法が,受給権者に対して,消滅時効期間の経過によりいったん法律上当然に消滅した支分権たる受給権について特に時効消滅の効果を覆滅しその給付を請求できる法的根拠を付与することを目的とするものであることにかんがみると,同法5条による委任を受けて制定された同法施行規則1条及び4条は,改めて,紛争防止及び給付の法的確実性の担保を図るべく,給付の可否,内容等につき社会保険庁長官が公権的に確認するのが相当であるとの見地から,給付を受けようとする被保険者の申請に基づき,社会保険庁長官が支分権たる受給権の存否,内容等について確認処分をすることによって初めて具体的にその支払を請求することが可能となるものとしたものと解することができるから,同法施行規則4条が定める「処分」は,それにより国民の権利の範囲を確定することが法律上認められるものというべきであって,「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行政事件訴訟法3条2項)に当たり,この「処分」を受けていない者は,同特例給付の支給を請求することはできないとして,前記請求を棄却した事例2 老齢厚生年金の再裁定及び再々裁定により被保険者期間が変更となり老齢厚生年金の差額の追加支給を受けた者が,追加支給自体が遅滞してされたものであるとしてした上記差額に対する遅延損害金の請求につき,厚生年金保険法36条3項ただし書は,前支払期月に支払うべきであった年金等は,支払期月でない月であっても支払うものとする旨規定しているところ,これは,裁定が初めて求められた場合と再裁定(再々裁定等,当初裁定後の一切の裁定又は裁定の訂正を含む。)の場合との双方に適用される規定と解される一方で,再裁定の場合には当初の裁定時点において再裁定の内容の裁定がなされていた場合には給付されたであろう支払期月にさかのぼって遅延損害金を付して年金を支給するなどの特別の規定がない以上は,再裁定の場合にも,公権的に年金額を確認する裁定の後に初めて年金受給権が発生すると解さざるを得ないから,再裁定について,再裁定以前の期間についての遅延損害金の支払を求めることはできないとして,前記請求を棄却した事例3 被保険者記録のうち被保険者期間の一部がオンラインシステム上から欠落していることが明らかとなり,被保険者から被保険者期間の確認請求等の申立てを受けた社会保険事務所の職員ら並びに社会保険庁長官及びその補助職員らには他の社会保険事務所に対して照会を行う等の具体的注意義務が生じていたにもかかわらずこれを怠ったため,被保険者期間の存在を確認できなかったとして,国家賠償法1条1項に基づき,発見されたであろう被保険者期間を算定の基礎として得られる老齢厚生年金の額と実際に受給した額との差額等の支払を求める請求につき,被保険者が,被保険者期間の確認請求等をするに当たり,上記の欠落に係る期間は本雇いとして会社に勤務していたことを社会保険事務所の職員に告げており,被保険者の求めにより社会保険事務所の被保険者名簿を調査したところ同会社における当該期間の一部の被保険者期間が発見され,オンラインシステム上以外にも被保険者が被保険者期間を有する可能性をうかがわせる事情が生じたことなどの事情に加え,年金が定年退職後の生活の安定のために必須のものであり,その年金支給の基礎となる被保険者記録の正確性を維持することは極めて重要であって,社会保険庁及び社会保険事務所職員らは,そのために被保険者からの確認請求等に対し真しに対応することはもちろんのこと,自ら積極的に正確性の検査,調査を行うことが要請されていると解されることを勘案すると,社会保険事務所の職員は,オンラインシステムからの被保険者記録の欠落の可能性が十分にうかがわれる被保険者について,その勤務時期はともかくとして被保険者が勤務したことがあると主張する会社営業所の存在が明らかになり,しかも,被保険者は当該期間は同会社の別の営業所において勤務していたと説明していたのであるから,被保険者に対する関係で,少なくとも,同各営業所を管轄する各社会保険事務所を把握すべく,被保険者に対して同各営業所の所在地を確認した上,これらにつき管轄を有すると予想される各社会保険事務所に対し,被保険者の被保険者記録の有無について事務所間照会を行うべき職務上の義務があったところ,被保険者から確認請求等の申立てを受けた社会保険事務所はかかる事務所間照会を行わず,社会保険庁長官もこれを前提に裁定を行ったものであり,この時点で社会保険事務所が事務所間照会を行っていれば,被保険者が主張する被保険者記録が発見され,発見された当該被保険者期間を算定の基礎とする老齢厚生年金の裁定がされたことはほぼ確実であったということができるとして,前記請求を認容した事例4 被保険者が以前に裁定請求をした際に被保険者の被保険者記録のうち被保険者期間の一部がオンラインシステム上から欠落していることが明らかになったことがあるという事情に加え,2回目の裁定請求の際にも裁定の算定の基礎とされることとなった被保険者期間が被保険者の申立内容に従った形で発見されたことや,給与明細書の提出等によって保険料天引きや納付の事実が裏付けられたこと等から,社会保険事務所職員並びに社会保険庁長官及びその補助職員らには,同被保険者の申立内容に従って被保険者記録を訂正すべき義務が生じていたにもかかわらず,これを怠ったことが違法であるとして,訂正に応じたとして得られるはずであった老齢厚生年金の額と実際に受給した額との差額等の支払を求める請求につき,当該被保険者期間の一部について会社での勤務及び保険料天引きを裏付ける給与明細という客観的な資料が発見されており,それ以外の期間についても給与明細上は保険料は天引きされてはいないものの,その期間について同被保険者が会社から本雇いとされたことがうかがわれることや他の期間において継続的に保険料が天引きされていること等も併せると,その期間については給与から天引きせずに他の方法により会社又は同被保険者が保険料を支払った可能性もあるといえ,また,被保険者に対する1度目の裁決後も同被保険者の申立内容に沿う形で被保険者記録が発見されてきていたことからすると,社会保険事務所長及びその補助職員らは被保険者に対し,その申立内容に従って,当該期間についても被保険者期間であるとして被保険者記録を訂正すべき職務上の義務があり,社会保険庁長官も,被保険者に対し,それを算定の基礎として老齢厚生年金の裁定をなすべき職務上の義務があったというべきであるとして,前記請求を認容した事例
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