事件番号平成29(許)9
事件名終局決定の変更決定に対する許可抗告事件
裁判所最高裁判所第一小法廷
裁判年月日平成29年12月21日
裁判種別決定
結果棄却
原審裁判所大阪高等裁判所
原審事件番号平成29(ウ)21
原審裁判年月日平成29年2月17日
事案の概要本件の経緯は次のとおりである。(1) 抗告人,相手方及び両名の子4名(以下「本件子ら」という。)は,いずれもアメリカ合衆国(以下「米国」という。)で同居していたが,相手方は,平成26年7月,抗告人に対して同年8月中に米国に戻る旨の約束をして,本件子らを連れて日本に入国し,本件子らと共に相手方の両親宅に居住している。上記の入国当時,本件子らのうち年長の双子である長男及び二男は11歳7箇月であり,年少の双子である長女及び三男は6歳5箇月であった。(2) 相手方は,抗告人から平成26年9月以降もしばらく日本にいるように言われたため,抗告人の了承を得て本件子らを同一のインターナショナルスクールに入学させたが,その後,本件子らの米国への帰国について抗告人と相手方の意見が対立するようになり,抗告人は,平成27年8月,本件子らについて,国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(以下「実施法」という。)26条の規定による子の返還の申立て(以下「本件申立て」という。)をした。(3) 本件申立てに係る手続において,家庭裁判所調査官に対し,長男及び二男は,米国に返還されることを強く拒絶する旨を述べ,長女及び三男も,米国に返還されることに拒否的な意見を述べたほか,本件子らは,いずれも他の兄弟姉妹と離れたくない旨を述べた。また,抗告人は,この頃には,本件子らを適切に監護養育するための経済的基盤を有しておらず,その監護養育について親族等から継続的な支援を受けることも見込まれない状況にあった。(4) 大阪高等裁判所は,平成28年1月,長男及び二男については,実施法28条1項5号の返還拒否事由があると認めながら,米国に返還することが子の利益に資すると認めて同項ただし書の規定を適用すべきものとし,長女及び三男については,その意見を考慮することが適当な程度の成熟度に達していないこと等を理由に同項5号の返還拒否事由は認められず,返還により子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があるとはいえないから同項4号の返還拒否事由も認められないなどとして,本件子らをいずれも米国に返還するよう命ずる決定(以下「変更前決定」という。)をした。変更前決定は,同月,確定した。(5) 抗告人は,平成28年2月に相手方及び本件子らと居住していた米国の自宅が競売されたため,同年8月頃,自宅を明け渡し,知人宅の一室を借りて住むようになった。(6) 抗告人は,変更前決定に基づき,本件子らの返還の代替執行を申し立てた。執行官は,平成28年9月13日,相手方及び本件子らに対し説得を行って,本件子らを抗告人と面会させようとしたが,本件子らは,米国に返還されることを拒絶して,抗告人と面会しようとしなかった。執行官は,同月15日,長男及び二男と抗告人との間で会話をさせたが,長男及び二男の意向に変化はなく,上記代替執行については,執行を続けると長男及び二男の心身に有害な影響を及ぼすおそれがあることなどから,その目的を達することができないものとして,執行不能により終了させた(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律による子の返還に関する事件の手続等に関する規則89条2号)。2 本件は,相手方が,変更前決定が確定した後の事情の変更によりこれを維持することが不当になったと主張して,実施法117条1項に基づき,変更前決定を変更し,本件申立てを却下するよう求める事案である。
判示事項国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づき子の返還を命じた終局決定が同法117条1項の規定により変更された事例
裁判要旨国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づくXの申立てによりその子であるA,B,C及びDを米国に返還するよう命ずる終局決定が確定した場合において,次の(1)~(4)などの事情の下では,A及びBについては同法28条1項ただし書の規定を適用すべきであるとはいえず,C及びDについては同項4号の返還拒否事由があるものとして,上記決定の確定後の事情の変更によってこれを維持することが不当となるに至ったと認め,同法117条1項の規定によりこれを変更し,上記申立てを却下するのが相当である。
(1) 上記決定は,A及びBについては,同法28条1項5号の返還拒否事由があると認めながら,米国に返還することが子の利益に資すると認めて同項ただし書の規定を適用すべきものとし,C及びDについては,返還拒否事由があるとは認められないことなどを理由とするものであった。
(2) Xは,子らを適切に監護するための経済的基盤を欠いており,その監護養育について親族等から継続的な支援を受けることも見込まれない状況にあったところ,上記決定の確定後,居住していた自宅を明け渡し,それ以降,子らのために安定した住居を確保することができなくなった結果,子らが米国に返還された場合のXによる監護養育態勢が看過し得ない程度に悪化した。
(3) A及びBは,米国に返還されることを一貫して拒絶している。
(4) C及びDのみを米国に返還すると,密接な関係にある兄弟姉妹を日本と米国とに分離する結果を生ずる。
  (補足意見がある。)
事件番号平成29(許)9
事件名終局決定の変更決定に対する許可抗告事件
裁判所最高裁判所第一小法廷
裁判年月日平成29年12月21日
裁判種別決定
結果棄却
原審裁判所大阪高等裁判所
原審事件番号平成29(ウ)21
原審裁判年月日平成29年2月17日
事案の概要
本件の経緯は次のとおりである。(1) 抗告人,相手方及び両名の子4名(以下「本件子ら」という。)は,いずれもアメリカ合衆国(以下「米国」という。)で同居していたが,相手方は,平成26年7月,抗告人に対して同年8月中に米国に戻る旨の約束をして,本件子らを連れて日本に入国し,本件子らと共に相手方の両親宅に居住している。上記の入国当時,本件子らのうち年長の双子である長男及び二男は11歳7箇月であり,年少の双子である長女及び三男は6歳5箇月であった。(2) 相手方は,抗告人から平成26年9月以降もしばらく日本にいるように言われたため,抗告人の了承を得て本件子らを同一のインターナショナルスクールに入学させたが,その後,本件子らの米国への帰国について抗告人と相手方の意見が対立するようになり,抗告人は,平成27年8月,本件子らについて,国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(以下「実施法」という。)26条の規定による子の返還の申立て(以下「本件申立て」という。)をした。(3) 本件申立てに係る手続において,家庭裁判所調査官に対し,長男及び二男は,米国に返還されることを強く拒絶する旨を述べ,長女及び三男も,米国に返還されることに拒否的な意見を述べたほか,本件子らは,いずれも他の兄弟姉妹と離れたくない旨を述べた。また,抗告人は,この頃には,本件子らを適切に監護養育するための経済的基盤を有しておらず,その監護養育について親族等から継続的な支援を受けることも見込まれない状況にあった。(4) 大阪高等裁判所は,平成28年1月,長男及び二男については,実施法28条1項5号の返還拒否事由があると認めながら,米国に返還することが子の利益に資すると認めて同項ただし書の規定を適用すべきものとし,長女及び三男については,その意見を考慮することが適当な程度の成熟度に達していないこと等を理由に同項5号の返還拒否事由は認められず,返還により子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があるとはいえないから同項4号の返還拒否事由も認められないなどとして,本件子らをいずれも米国に返還するよう命ずる決定(以下「変更前決定」という。)をした。変更前決定は,同月,確定した。(5) 抗告人は,平成28年2月に相手方及び本件子らと居住していた米国の自宅が競売されたため,同年8月頃,自宅を明け渡し,知人宅の一室を借りて住むようになった。(6) 抗告人は,変更前決定に基づき,本件子らの返還の代替執行を申し立てた。執行官は,平成28年9月13日,相手方及び本件子らに対し説得を行って,本件子らを抗告人と面会させようとしたが,本件子らは,米国に返還されることを拒絶して,抗告人と面会しようとしなかった。執行官は,同月15日,長男及び二男と抗告人との間で会話をさせたが,長男及び二男の意向に変化はなく,上記代替執行については,執行を続けると長男及び二男の心身に有害な影響を及ぼすおそれがあることなどから,その目的を達することができないものとして,執行不能により終了させた(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律による子の返還に関する事件の手続等に関する規則89条2号)。2 本件は,相手方が,変更前決定が確定した後の事情の変更によりこれを維持することが不当になったと主張して,実施法117条1項に基づき,変更前決定を変更し,本件申立てを却下するよう求める事案である。
判示事項
国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づき子の返還を命じた終局決定が同法117条1項の規定により変更された事例
裁判要旨
国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づくXの申立てによりその子であるA,B,C及びDを米国に返還するよう命ずる終局決定が確定した場合において,次の(1)~(4)などの事情の下では,A及びBについては同法28条1項ただし書の規定を適用すべきであるとはいえず,C及びDについては同項4号の返還拒否事由があるものとして,上記決定の確定後の事情の変更によってこれを維持することが不当となるに至ったと認め,同法117条1項の規定によりこれを変更し,上記申立てを却下するのが相当である。
(1) 上記決定は,A及びBについては,同法28条1項5号の返還拒否事由があると認めながら,米国に返還することが子の利益に資すると認めて同項ただし書の規定を適用すべきものとし,C及びDについては,返還拒否事由があるとは認められないことなどを理由とするものであった。
(2) Xは,子らを適切に監護するための経済的基盤を欠いており,その監護養育について親族等から継続的な支援を受けることも見込まれない状況にあったところ,上記決定の確定後,居住していた自宅を明け渡し,それ以降,子らのために安定した住居を確保することができなくなった結果,子らが米国に返還された場合のXによる監護養育態勢が看過し得ない程度に悪化した。
(3) A及びBは,米国に返還されることを一貫して拒絶している。
(4) C及びDのみを米国に返還すると,密接な関係にある兄弟姉妹を日本と米国とに分離する結果を生ずる。
  (補足意見がある。)
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