事件番号令和1(行ケ)1
事件名選挙無効請求事件
裁判所広島高等裁判所 松江支部
裁判年月日令和元年11月6日
結果棄却
事案の概要本件は,令和元年7月21日施行の参議院議員通常選挙(以下「本件選挙」という。)について,鳥取県及び島根県参議院合同選挙区の選挙人である原告が,公職選挙法14条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下,数次の改正の前後を通じ,平成6年法律第2号による公職選挙法の改正(以下「平成6年改正」という。)前の別表第2を含め,「定数配分規定」という。)は憲法に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の同選挙区における選挙も無効であると主張して提起した選挙無効訴訟である。
判示事項の要旨(1) 従前の最高裁判例についての当裁判所の理解
ア 基本的な判断の枠組み
 投票価値の平等は,憲法上の要請であるが,唯一絶対の基準ではなく,正当に考慮することができる他の政策的目的・理由との関連において調和的に実現されるべきである。国会の定めた選挙制度が裁量権の行使として合理性を有する限り,憲法違反とはいえない。
 参議院議員選挙法(昭22)・公職選挙法(昭25)の制定時の立法措置は,裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったとはいえない。しかし,その後の人口変動の結果,投票価値の著しい不平等状態が生じ,相当期間継続しているにもかかわらず是正措置を講じないことが国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,憲法違反に至る。
 憲法は,二院制の下で,両議院にほぼ等しい権限を与えつつ,参議院議員の任期をより長期とすることなどによって,多角的・長期的な視点からの民意を反映させ,衆議院との権限の抑制・均衡を図り,国政の運営の安定性・継続性を確保しようとしている。このような憲法の趣旨を実現し,投票価値の平等の要請と調和させていくためにいかなる選挙制度を採るかは,参議院の性格,機能,衆議院との異同をどのように位置付け,これを選挙制度にいかに反映させていくかを含め,国会の合理的な裁量に委ねられている。
イ 過去3回の選挙についての最高裁の判断
 最高裁は,平22選挙(選挙時の選挙人数の最大較差約5.00倍,最高裁判決は平24)・平25選挙(選挙時の選挙人数の最大較差約4.77倍,最高裁判決は平26)について,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったが,合理的な期間内に是正されなかったことが裁量権の限界を超えるとは認められないとした。その際,参議院の選挙区が都道府県単位であることなどは,数十年間にもわたり5倍前後の大きな較差が継続することを正当化する理由として十分といえなくなっているなどと指摘したが,都道府県という単位を用いること自体が許されないとしたわけではない。
 最高裁は,平28選挙(選挙時の選挙人数の最大較差約3.08倍,最高裁判決は平29)について,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったとはいえないとした。その際,選挙の前年の平27改正法では,定数の増減にとどまらず,複数県の合区も導入し,これにより較差を縮小しており(改正時の人口比で約2.97倍,選挙時の選挙人数比で上記の約3.08倍),また,改正法の附則において,次回通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得るとしているなどと指摘した。
(2) 本件選挙について特に問題とされている点
 本件選挙の前年の平30改正法によって,較差は,選挙時の選挙人数比で縮小したが,大幅な縮小ではない。手法をみても,更なる合区や定数減をせず,定数増のみをして,その分だけ全体の定数を増すなどしており,抜本的な見直しと評価し難い側面がある。平27改正法附則のような規定もない。
 このような平30改正法をいかに評価するかが問題となる。
(3) 主に上記(2)の点を中心とする当裁判所の判断
 較差は定数配分問題の出発点であり,較差の解消は問題解決の最終目標であって,較差縮小の程度は,その手法と並んで,重要な観点となる。平30改正は,較差縮小としては一つの成果を挙げており,特に,本件選挙時の選挙人数の較差は約3.00倍で,平成28選挙時よりも縮小した。
 改正に至る検討の過程をみると,平29最高裁判決前から協議され,更なる合区以前の問題として,既存の合区の廃止を求めるなど,合区に対する問題点の指摘や反対の意見も寄せられる中で,合区に代わるブロック単位の選挙区等も提案され,参議院の役割にも立ち入った議論がされるなど,従前よりも更に抜本的な選択肢をも対象とし,より広汎な見地からの議論がされた。結果的に抜本的な見直しに至らないまま,まずは翌年に迫った本件選挙における較差是正を急ぐ見地から,定数増をもって臨むなどしているが,そのような結果に至ったことの一事をもって,今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が放棄されたものと評価するのは,なお,いささか早計というべき段階にあると考えられる。立法府として決意を放棄していないことは,参議院の委員会の附帯決議で明らかにされている。
 このように,平成30年改正法は,本件選挙時の較差を約3.00倍にまで縮小したものであり,投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性や立法府の決意が放棄されたものでもなく,再び大きな較差を生じさせることのないよう配慮されている状態もなお損なわれていないとみるのが相当である。
 以上のような事情を総合すれば,本件選挙当時の投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず,本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。
事件番号令和1(行ケ)1
事件名選挙無効請求事件
裁判所広島高等裁判所 松江支部
裁判年月日令和元年11月6日
結果棄却
事案の概要
本件は,令和元年7月21日施行の参議院議員通常選挙(以下「本件選挙」という。)について,鳥取県及び島根県参議院合同選挙区の選挙人である原告が,公職選挙法14条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下,数次の改正の前後を通じ,平成6年法律第2号による公職選挙法の改正(以下「平成6年改正」という。)前の別表第2を含め,「定数配分規定」という。)は憲法に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の同選挙区における選挙も無効であると主張して提起した選挙無効訴訟である。
判示事項の要旨
(1) 従前の最高裁判例についての当裁判所の理解
ア 基本的な判断の枠組み
 投票価値の平等は,憲法上の要請であるが,唯一絶対の基準ではなく,正当に考慮することができる他の政策的目的・理由との関連において調和的に実現されるべきである。国会の定めた選挙制度が裁量権の行使として合理性を有する限り,憲法違反とはいえない。
 参議院議員選挙法(昭22)・公職選挙法(昭25)の制定時の立法措置は,裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったとはいえない。しかし,その後の人口変動の結果,投票価値の著しい不平等状態が生じ,相当期間継続しているにもかかわらず是正措置を講じないことが国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,憲法違反に至る。
 憲法は,二院制の下で,両議院にほぼ等しい権限を与えつつ,参議院議員の任期をより長期とすることなどによって,多角的・長期的な視点からの民意を反映させ,衆議院との権限の抑制・均衡を図り,国政の運営の安定性・継続性を確保しようとしている。このような憲法の趣旨を実現し,投票価値の平等の要請と調和させていくためにいかなる選挙制度を採るかは,参議院の性格,機能,衆議院との異同をどのように位置付け,これを選挙制度にいかに反映させていくかを含め,国会の合理的な裁量に委ねられている。
イ 過去3回の選挙についての最高裁の判断
 最高裁は,平22選挙(選挙時の選挙人数の最大較差約5.00倍,最高裁判決は平24)・平25選挙(選挙時の選挙人数の最大較差約4.77倍,最高裁判決は平26)について,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったが,合理的な期間内に是正されなかったことが裁量権の限界を超えるとは認められないとした。その際,参議院の選挙区が都道府県単位であることなどは,数十年間にもわたり5倍前後の大きな較差が継続することを正当化する理由として十分といえなくなっているなどと指摘したが,都道府県という単位を用いること自体が許されないとしたわけではない。
 最高裁は,平28選挙(選挙時の選挙人数の最大較差約3.08倍,最高裁判決は平29)について,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったとはいえないとした。その際,選挙の前年の平27改正法では,定数の増減にとどまらず,複数県の合区も導入し,これにより較差を縮小しており(改正時の人口比で約2.97倍,選挙時の選挙人数比で上記の約3.08倍),また,改正法の附則において,次回通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い必ず結論を得るとしているなどと指摘した。
(2) 本件選挙について特に問題とされている点
 本件選挙の前年の平30改正法によって,較差は,選挙時の選挙人数比で縮小したが,大幅な縮小ではない。手法をみても,更なる合区や定数減をせず,定数増のみをして,その分だけ全体の定数を増すなどしており,抜本的な見直しと評価し難い側面がある。平27改正法附則のような規定もない。
 このような平30改正法をいかに評価するかが問題となる。
(3) 主に上記(2)の点を中心とする当裁判所の判断
 較差は定数配分問題の出発点であり,較差の解消は問題解決の最終目標であって,較差縮小の程度は,その手法と並んで,重要な観点となる。平30改正は,較差縮小としては一つの成果を挙げており,特に,本件選挙時の選挙人数の較差は約3.00倍で,平成28選挙時よりも縮小した。
 改正に至る検討の過程をみると,平29最高裁判決前から協議され,更なる合区以前の問題として,既存の合区の廃止を求めるなど,合区に対する問題点の指摘や反対の意見も寄せられる中で,合区に代わるブロック単位の選挙区等も提案され,参議院の役割にも立ち入った議論がされるなど,従前よりも更に抜本的な選択肢をも対象とし,より広汎な見地からの議論がされた。結果的に抜本的な見直しに至らないまま,まずは翌年に迫った本件選挙における較差是正を急ぐ見地から,定数増をもって臨むなどしているが,そのような結果に至ったことの一事をもって,今後における投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意が放棄されたものと評価するのは,なお,いささか早計というべき段階にあると考えられる。立法府として決意を放棄していないことは,参議院の委員会の附帯決議で明らかにされている。
 このように,平成30年改正法は,本件選挙時の較差を約3.00倍にまで縮小したものであり,投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性や立法府の決意が放棄されたものでもなく,再び大きな較差を生じさせることのないよう配慮されている状態もなお損なわれていないとみるのが相当である。
 以上のような事情を総合すれば,本件選挙当時の投票価値の不均衡は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず,本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。
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