事件番号令和2(行コ)31
事件名生活保護基準引下げ処分取消等請求控訴事件
裁判所名古屋高等裁判所 民事第2部
裁判年月日令和5年11月30日
原審裁判所名古屋地方裁判所
原審結果棄却
事案の概要本件は、①原審第1事件原告らが、本件各処分1は、憲法25条の理念を受けた生活保護法3条、8条等に違反し、生活扶助を健康で文化的な最低限度の生活を維持するに足りない水準とするものであるから違法であるなどと主張して、本件各処分1の取消しを求め(原審第1事件・取消訴訟)、②原審第2事件原告らが、本件各処分2には本件各処分1と同様の違法事由があるなどと主張して、本件各処分2の取消しを求め(原審第2事件・取消訴訟)、さらに、③原審原告らが、本件各処分の根拠となった生活扶助基準の改定は、国家賠償法1条1項の適用上違法であるなどと主張して、被控訴人国に対し、それぞれ損害賠償金1万円及びこれに対する違法行為の日(生活扶助基準の改定日であり、原審第1事件原告らについては平成25年8月1日、原審第2事件原告らについては平成26年4月1日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
判示事項の要旨1 厚生労働大臣が行った、「生活保護法による保護の基準」の、生活扶助基準の引下げ等を内容とする厚生労働省告示による改定(本件改定)は、以下の各点において、いずれも統計等の客観的数値等との合理的関連性及び専門的知見との整合性を欠いており、裁量権の範囲を逸脱しているし、少なくともこれを濫用するもので、生活保護法3条、8条2項の規定に違反し、違法である。
(1) 年齢階級別、世帯人員別、級地別の生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態とのかい離を是正するためのゆがみ調整について、専門家らを構成員とする生活保護基準部会による検証結果によれば生活扶助基準が増額されるべき生活保護受給世帯についてまで、合理的根拠なく検証結果を2分の1しか反映させずに不公平を残存させた。
(2) 物価動向を勘案したデフレ調整として一律に生活扶助基準の引下げを行うことについて、平成23年の時点で、物価下落により、生活保護受給世帯の可処分所得が実質的に増加して、生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との間の不均衡が、生活扶助基準を引き下げることによる是正を相当とする程度のものになっていたとは認められない。
(3) デフレ調整について、①専門家らがそのままでは消費水準を示すものではないと指摘する物価を指標として、その変動(物価指数)を単独で直接考慮し、②学術的裏付けや論理的整合性を欠いた厚生労働省独自の指数である生活扶助相当CPIを用い、③テレビ、パソコン等の教養娯楽用耐久財のウエイトが大きく、生活保護受給世帯の消費実態とはかけ離れた、平成22年基準の総務省CPIウエイトを使い、④平成20年を始期として、前年からの物価上昇を考慮せず、同年以降の物価下落のみを考慮して、4.78%もの大幅な生活扶助基準の引下げを行った。
(4) デフレ調整により、物価下落率に基づくものとして生活扶助基準を4.78%減額させるとともに、それだけで生活扶助費が約90億円も削減されるゆがみ調整を、生活保護受給世帯の実質的購買力の維持に配慮することなく、専門家らへの諮問等もなく、併せて行って、上記下落率を超える引下げを行った。
2 前記1のとおり違法な本件改定を行った厚生労働大臣には、少なくとも重大な過失があるものと認められ、本件改定は、国家賠償法1条1項の適用上も違法と評価される。
3 本件改定による生活保護受給者への影響は重大で、生活扶助費の減額により余裕のない生活を長期間強いられた控訴人らの精神的苦痛は、金銭的、経済的な問題の解消によって全てが解消される性質のものではなく、処分の取消しによっても、その全てが慰謝されるとは認められないから、被控訴人国は、控訴人らに対し、損害賠償義務を負う。
事件番号令和2(行コ)31
事件名生活保護基準引下げ処分取消等請求控訴事件
裁判所名古屋高等裁判所 民事第2部
裁判年月日令和5年11月30日
原審裁判所名古屋地方裁判所
原審結果棄却
事案の概要
本件は、①原審第1事件原告らが、本件各処分1は、憲法25条の理念を受けた生活保護法3条、8条等に違反し、生活扶助を健康で文化的な最低限度の生活を維持するに足りない水準とするものであるから違法であるなどと主張して、本件各処分1の取消しを求め(原審第1事件・取消訴訟)、②原審第2事件原告らが、本件各処分2には本件各処分1と同様の違法事由があるなどと主張して、本件各処分2の取消しを求め(原審第2事件・取消訴訟)、さらに、③原審原告らが、本件各処分の根拠となった生活扶助基準の改定は、国家賠償法1条1項の適用上違法であるなどと主張して、被控訴人国に対し、それぞれ損害賠償金1万円及びこれに対する違法行為の日(生活扶助基準の改定日であり、原審第1事件原告らについては平成25年8月1日、原審第2事件原告らについては平成26年4月1日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
判示事項の要旨
1 厚生労働大臣が行った、「生活保護法による保護の基準」の、生活扶助基準の引下げ等を内容とする厚生労働省告示による改定(本件改定)は、以下の各点において、いずれも統計等の客観的数値等との合理的関連性及び専門的知見との整合性を欠いており、裁量権の範囲を逸脱しているし、少なくともこれを濫用するもので、生活保護法3条、8条2項の規定に違反し、違法である。
(1) 年齢階級別、世帯人員別、級地別の生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態とのかい離を是正するためのゆがみ調整について、専門家らを構成員とする生活保護基準部会による検証結果によれば生活扶助基準が増額されるべき生活保護受給世帯についてまで、合理的根拠なく検証結果を2分の1しか反映させずに不公平を残存させた。
(2) 物価動向を勘案したデフレ調整として一律に生活扶助基準の引下げを行うことについて、平成23年の時点で、物価下落により、生活保護受給世帯の可処分所得が実質的に増加して、生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との間の不均衡が、生活扶助基準を引き下げることによる是正を相当とする程度のものになっていたとは認められない。
(3) デフレ調整について、①専門家らがそのままでは消費水準を示すものではないと指摘する物価を指標として、その変動(物価指数)を単独で直接考慮し、②学術的裏付けや論理的整合性を欠いた厚生労働省独自の指数である生活扶助相当CPIを用い、③テレビ、パソコン等の教養娯楽用耐久財のウエイトが大きく、生活保護受給世帯の消費実態とはかけ離れた、平成22年基準の総務省CPIウエイトを使い、④平成20年を始期として、前年からの物価上昇を考慮せず、同年以降の物価下落のみを考慮して、4.78%もの大幅な生活扶助基準の引下げを行った。
(4) デフレ調整により、物価下落率に基づくものとして生活扶助基準を4.78%減額させるとともに、それだけで生活扶助費が約90億円も削減されるゆがみ調整を、生活保護受給世帯の実質的購買力の維持に配慮することなく、専門家らへの諮問等もなく、併せて行って、上記下落率を超える引下げを行った。
2 前記1のとおり違法な本件改定を行った厚生労働大臣には、少なくとも重大な過失があるものと認められ、本件改定は、国家賠償法1条1項の適用上も違法と評価される。
3 本件改定による生活保護受給者への影響は重大で、生活扶助費の減額により余裕のない生活を長期間強いられた控訴人らの精神的苦痛は、金銭的、経済的な問題の解消によって全てが解消される性質のものではなく、処分の取消しによっても、その全てが慰謝されるとは認められないから、被控訴人国は、控訴人らに対し、損害賠償義務を負う。
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