事件番号令和5(行コ)38
事件名難民の認定をしない処分取消等請求、訴えの追加的変更申立控訴事件
裁判所名古屋高等裁判所 民事第2部
裁判年月日令和6年1月25日
原審裁判所名古屋地方裁判所
事案の概要本件は、本邦にあるミャンマー連邦共和国(ミャンマー)で出生した外国人男性である控訴人が、平成27年(2015年)2月17日、法務大臣に対し出入国管理及び難民認定法(入管法)61条の2第1項の規定に基づき難民の認定を申請したところ(本件難民認定申請①)、平成28年6月16日、難民の認定をしない旨の処分(本件難民不認定処分①)を受けたため、被控訴人を相手として、本件難民不認定処分①の取消し及び上記規定に基づく難民の認定の 義務付けを求めるとともに(第1事件)、令和3年(2021年)2月15日、法務大臣に対し同項の規定に基づき難民の認定を申請したところ(本件難民認定申請②)、令和4年1月24日、難民の認定をしない旨の処分(本件難民不認定処分②)を受けたため、被控訴人を相手として、本件難民不認定処分②の取消し及び上記規定に基づく難民の認定の義務付け(本件難民不認定処分①に係る上記義務付けの訴えと併せて、「本件各義務付けの訴え」)を求める事案である。
判示事項の要旨1 控訴人は、ミャンマーのラカイン州で出生したイスラム教を信仰するロヒンギャで、幼少時にヤンゴンへ移住して生活していたところ、民主化運動のデモに参加して禁固刑に処せられ、その際にロヒンギャであることを理由に暴力を受け、出所時に今後は政治活動に一切関わらない旨の誓約書に署名したが、その後も政治活動を行い、不正な手続で出国した後、日本においてロヒンギャ団体の会員となり、ミャンマー大使館前のデモに参加し、その写真が新聞に掲載されるなどしており、ミャンマーにおいてロヒンギャが迫害されている状況を踏まえると、控訴人には看過できないような人種、宗教及び政治的意見に関する事情が積み重なっており、ミャンマーに帰国すれば、通常人において受忍し得ない苦痛をもたらす程度の迫害を受けるおそれがある客観的・現実的な危険があったと認められ、控訴人は難民に該当するとして、平成28年6月の法務大臣の難民不認定処分を取り消した事例
2 裁判所が弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して事実についての判断をするに当たっては、難民認定申請者が客観的資料を提出しなかったり提出までに一定の期間を要したからといって、直ちに難民であることを否定すべきではなく、本人の供述するところを主たる資料として、恐怖や国家機関ないし公務員に対する不信感等による供述への逡巡、時間の経過に伴う記憶の変容、希薄化の可能性、民俗、宗教、置かれてきた環境等の背景事情の違いなども考慮した上で、基本的な内容が首尾一貫しているか、変遷に合理的理由があるか、不合理な内容を含んでいないか等を吟味し、難民であることを基礎付ける根幹的な主張が肯認できるか否かを検討して行うべきであり、国連難民高等弁務官駐日事務所作成の「難民認定基準ハンドブック」に記載されている難民申請者が置かれている状況や難民申請者が感じる恐怖などは、重要な経験則を示すものとして、尊重すべきであるとした事例
3 行政処分庁がロヒンギャの迫害主体であるミャンマー人を控訴人の難民認定申請時の通訳に充てたことから、通訳の正確性について適正に担保されていたとは認められないなどとし、このことをも考慮した上で、控訴人の供述等の変遷による信用性の減殺を認めなかった事例
4 口頭弁論終結時においても、ミャンマーでは、国家機関による民族浄化が行われるなど、ラカイン州外のロヒンギャであっても、迫害の恐怖を抱く客観的事情が存在し、前記1のような状況にある控訴人が難民に該当することは明らかで、法務大臣は難民の認定をしなければならず、裁量の余地はないとして、出入国管理及び難民認定法61条の2第1項の規定による難民の認定を命じた事例
5 令和4年1月の難民不認定処分についての取消し及び認定の義務付けの各請求は、平成28年6月の処分の取消し及び認定の義務付けの各請求が認められるため、訴訟要件を満たさないとして、いずれの訴えも却下した事例
事件番号令和5(行コ)38
事件名難民の認定をしない処分取消等請求、訴えの追加的変更申立控訴事件
裁判所名古屋高等裁判所 民事第2部
裁判年月日令和6年1月25日
原審裁判所名古屋地方裁判所
事案の概要
本件は、本邦にあるミャンマー連邦共和国(ミャンマー)で出生した外国人男性である控訴人が、平成27年(2015年)2月17日、法務大臣に対し出入国管理及び難民認定法(入管法)61条の2第1項の規定に基づき難民の認定を申請したところ(本件難民認定申請①)、平成28年6月16日、難民の認定をしない旨の処分(本件難民不認定処分①)を受けたため、被控訴人を相手として、本件難民不認定処分①の取消し及び上記規定に基づく難民の認定の 義務付けを求めるとともに(第1事件)、令和3年(2021年)2月15日、法務大臣に対し同項の規定に基づき難民の認定を申請したところ(本件難民認定申請②)、令和4年1月24日、難民の認定をしない旨の処分(本件難民不認定処分②)を受けたため、被控訴人を相手として、本件難民不認定処分②の取消し及び上記規定に基づく難民の認定の義務付け(本件難民不認定処分①に係る上記義務付けの訴えと併せて、「本件各義務付けの訴え」)を求める事案である。
判示事項の要旨
1 控訴人は、ミャンマーのラカイン州で出生したイスラム教を信仰するロヒンギャで、幼少時にヤンゴンへ移住して生活していたところ、民主化運動のデモに参加して禁固刑に処せられ、その際にロヒンギャであることを理由に暴力を受け、出所時に今後は政治活動に一切関わらない旨の誓約書に署名したが、その後も政治活動を行い、不正な手続で出国した後、日本においてロヒンギャ団体の会員となり、ミャンマー大使館前のデモに参加し、その写真が新聞に掲載されるなどしており、ミャンマーにおいてロヒンギャが迫害されている状況を踏まえると、控訴人には看過できないような人種、宗教及び政治的意見に関する事情が積み重なっており、ミャンマーに帰国すれば、通常人において受忍し得ない苦痛をもたらす程度の迫害を受けるおそれがある客観的・現実的な危険があったと認められ、控訴人は難民に該当するとして、平成28年6月の法務大臣の難民不認定処分を取り消した事例
2 裁判所が弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して事実についての判断をするに当たっては、難民認定申請者が客観的資料を提出しなかったり提出までに一定の期間を要したからといって、直ちに難民であることを否定すべきではなく、本人の供述するところを主たる資料として、恐怖や国家機関ないし公務員に対する不信感等による供述への逡巡、時間の経過に伴う記憶の変容、希薄化の可能性、民俗、宗教、置かれてきた環境等の背景事情の違いなども考慮した上で、基本的な内容が首尾一貫しているか、変遷に合理的理由があるか、不合理な内容を含んでいないか等を吟味し、難民であることを基礎付ける根幹的な主張が肯認できるか否かを検討して行うべきであり、国連難民高等弁務官駐日事務所作成の「難民認定基準ハンドブック」に記載されている難民申請者が置かれている状況や難民申請者が感じる恐怖などは、重要な経験則を示すものとして、尊重すべきであるとした事例
3 行政処分庁がロヒンギャの迫害主体であるミャンマー人を控訴人の難民認定申請時の通訳に充てたことから、通訳の正確性について適正に担保されていたとは認められないなどとし、このことをも考慮した上で、控訴人の供述等の変遷による信用性の減殺を認めなかった事例
4 口頭弁論終結時においても、ミャンマーでは、国家機関による民族浄化が行われるなど、ラカイン州外のロヒンギャであっても、迫害の恐怖を抱く客観的事情が存在し、前記1のような状況にある控訴人が難民に該当することは明らかで、法務大臣は難民の認定をしなければならず、裁量の余地はないとして、出入国管理及び難民認定法61条の2第1項の規定による難民の認定を命じた事例
5 令和4年1月の難民不認定処分についての取消し及び認定の義務付けの各請求は、平成28年6月の処分の取消し及び認定の義務付けの各請求が認められるため、訴訟要件を満たさないとして、いずれの訴えも却下した事例
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