事件番号令和5(う)92
事件名公職選挙法違反被告事件
裁判所広島高等裁判所 第1部
裁判年月日令和6年4月16日
結果棄却
原審裁判所広島地方裁判所
原審事件番号令和4(わ)118
事案の概要原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、令和元年7月21日施行の参議院議員通常選挙に際し、広島県選出議員選挙の選挙人であり、同選挙に立候補する決意を有していたAの選挙運動者である被告人が、Aを当選させる目的で、同人への投票及び投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら、Aの配偶者であるBから、⑴平成31年3月31日、自身の選挙事務所又はその周辺において現金50万円の供与を受け(原判示第1の事実)、さらに、⑵令和元年6月1日頃、自身の事務所において現金20万円の供与を受けた(原判示第2の事実)、というものである(以下、年は特記しない限り平成31年又は令和元年である。)
原判決は、まず、原判示第1の現金50万円の交付時期について、B方から発見された広島市議会会派別一覧の印刷時期や手書きの状況、Bの秘書CとBの運転手DとのLINEのやり取り、被告人のホームページ記載の活動状況、遊説車日程表の記載といった客観的証拠は、交付時期が弁護人の主張する2月4日よりも3月31日であることに整合的であるとした上で、「3月下旬頃から4月初めまでの時期に被告人の選挙事務所又はその周辺で現金50万円を被告人に交付した」旨のBの証言は、前記の広島市議会会派別一覧の手書きの時期と整合的であり、客観的証拠に裏付けられたC及びDの証言に強く支えられていて信用性が高く、「3月31日午後に被告人の選挙事務所の事務所当番をしていた間、Bが被告人の選挙事務所に来たことはなかった」とのEの証言を考慮しても、Bらの証言が信用できるとの判断は変わらないとし、「2月4日午前9時頃、Bが事前連絡なく被告人の事務所に来訪し、50万円を渡された」との被告人の供述は信用できないとして、原判示第1の現金50万円の交付時期は3月31日であると認定したものである。
そして、原判決は、各金銭交付の趣旨について、本件選挙におけるAの置かれた状況、AとBとの関係、金銭交付の時期、交付した金額、本件各金銭交付を示す記載のあるリストの保存状況等に照らすと、Bが被告人に交付した各金銭に、本件選挙に関し、Aを当選させる目的で、Aへの投票や投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬が含まれていたことは明らかであるとし、この認定を前提とすると、被告人の選挙運動者該当性もまた明らかであるとの判断を示し、さらに、各金銭交付の趣旨に対する被告人の認識について、被告人は、本件当時、広島県連の顧問で選挙対策委員会の委員であったから、本件選挙におけるAやAを応援するBの置かれた状況をよく理解し、現金を受領した際、Aの立候補表明から間もないこと、あるいは選挙が迫っていることを認識していたと認められ、加えて、被告人は、原判示第2の20万円入りの封筒を渡されそうになると、自ら、本件選挙においてAの応援はできない旨をBに伝えており、そのことは、その現金がAへの支援の報酬を含むものであることを感じ取ったからにほかならず、また、各現金について、領収証を交付せず、収支報告書上、BやⅩ支部からの寄附として処理していないなど、これまでとは異なる取扱いをしているのであり、以上によると、被告人において、Bが被告人に交付した各金銭に、本件選挙に関し、Aを当選させる目的で、Aへの投票や投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬が含まれていたことを認識していたことは明らかであるとの判断を示したものである。
判示事項の要旨参議院議員通常選挙に際し、選挙人であり、かつ、特定の立候補予定者の選挙運動者であった被告人が、2回にわたり、選挙運動の報酬として供与されるものであることを知りながら現金の供与を受けた、という公職選挙法違反被告事件について、現金が選挙運動の報酬として供与されたものであり、被告人もこのことを認識していたと認め被告人に受供与罪が成立するとし、また、公訴権濫用をいう弁護人の主張を排斥した原審の判断を是認し、被告人の控訴を棄却した事例
事件番号令和5(う)92
事件名公職選挙法違反被告事件
裁判所広島高等裁判所 第1部
裁判年月日令和6年4月16日
結果棄却
原審裁判所広島地方裁判所
原審事件番号令和4(わ)118
事案の概要
原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、令和元年7月21日施行の参議院議員通常選挙に際し、広島県選出議員選挙の選挙人であり、同選挙に立候補する決意を有していたAの選挙運動者である被告人が、Aを当選させる目的で、同人への投票及び投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら、Aの配偶者であるBから、⑴平成31年3月31日、自身の選挙事務所又はその周辺において現金50万円の供与を受け(原判示第1の事実)、さらに、⑵令和元年6月1日頃、自身の事務所において現金20万円の供与を受けた(原判示第2の事実)、というものである(以下、年は特記しない限り平成31年又は令和元年である。)
原判決は、まず、原判示第1の現金50万円の交付時期について、B方から発見された広島市議会会派別一覧の印刷時期や手書きの状況、Bの秘書CとBの運転手DとのLINEのやり取り、被告人のホームページ記載の活動状況、遊説車日程表の記載といった客観的証拠は、交付時期が弁護人の主張する2月4日よりも3月31日であることに整合的であるとした上で、「3月下旬頃から4月初めまでの時期に被告人の選挙事務所又はその周辺で現金50万円を被告人に交付した」旨のBの証言は、前記の広島市議会会派別一覧の手書きの時期と整合的であり、客観的証拠に裏付けられたC及びDの証言に強く支えられていて信用性が高く、「3月31日午後に被告人の選挙事務所の事務所当番をしていた間、Bが被告人の選挙事務所に来たことはなかった」とのEの証言を考慮しても、Bらの証言が信用できるとの判断は変わらないとし、「2月4日午前9時頃、Bが事前連絡なく被告人の事務所に来訪し、50万円を渡された」との被告人の供述は信用できないとして、原判示第1の現金50万円の交付時期は3月31日であると認定したものである。
そして、原判決は、各金銭交付の趣旨について、本件選挙におけるAの置かれた状況、AとBとの関係、金銭交付の時期、交付した金額、本件各金銭交付を示す記載のあるリストの保存状況等に照らすと、Bが被告人に交付した各金銭に、本件選挙に関し、Aを当選させる目的で、Aへの投票や投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬が含まれていたことは明らかであるとし、この認定を前提とすると、被告人の選挙運動者該当性もまた明らかであるとの判断を示し、さらに、各金銭交付の趣旨に対する被告人の認識について、被告人は、本件当時、広島県連の顧問で選挙対策委員会の委員であったから、本件選挙におけるAやAを応援するBの置かれた状況をよく理解し、現金を受領した際、Aの立候補表明から間もないこと、あるいは選挙が迫っていることを認識していたと認められ、加えて、被告人は、原判示第2の20万円入りの封筒を渡されそうになると、自ら、本件選挙においてAの応援はできない旨をBに伝えており、そのことは、その現金がAへの支援の報酬を含むものであることを感じ取ったからにほかならず、また、各現金について、領収証を交付せず、収支報告書上、BやⅩ支部からの寄附として処理していないなど、これまでとは異なる取扱いをしているのであり、以上によると、被告人において、Bが被告人に交付した各金銭に、本件選挙に関し、Aを当選させる目的で、Aへの投票や投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬が含まれていたことを認識していたことは明らかであるとの判断を示したものである。
判示事項の要旨
参議院議員通常選挙に際し、選挙人であり、かつ、特定の立候補予定者の選挙運動者であった被告人が、2回にわたり、選挙運動の報酬として供与されるものであることを知りながら現金の供与を受けた、という公職選挙法違反被告事件について、現金が選挙運動の報酬として供与されたものであり、被告人もこのことを認識していたと認め被告人に受供与罪が成立するとし、また、公訴権濫用をいう弁護人の主張を排斥した原審の判断を是認し、被告人の控訴を棄却した事例
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