事件番号 | 令和5(あ)1285 |
---|---|
事件名 | 道路交通法違反被告事件 |
裁判所 | 最高裁判所第二小法廷 |
裁判年月日 | 令和7年2月7日 |
裁判種別 | 判決 |
結果 | 破棄自判 |
原審裁判所 | 東京高等裁判所 |
原審事件番号 | 令和5(う)75 |
原審裁判年月日 | 令和5年9月28日 |
事案の概要 | 第1審判決が認定した犯罪事実の要旨は、「被告人は、平成27年3月23日午後10時7分頃、長野県佐久市内の交通整理の行われていない交差点において、普通乗用自動車を運転中、被害者(当時15歳)に自車を衝突させて、同人を右前方約44.6m地点の歩道上にはね飛ばして転倒させ、同人に多発外傷等の傷害を負わせる交通事故を起こし、もって自己の運転に起因して人に傷害を負わせたところ、その後すぐに車両の運転を停止したものの、直ちに救護措置を講じず、かつ、その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を、直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった。」というものである。 第1審判決は、道路交通法(令和4年法律第32号による改正前のもの。以下同じ。)72条1項前段、後段が救護義務及び報告義務を直ちに尽くすよう命じているのは、運転者が救護等の措置以外の行為に及ぶことによって救護等の措置を遅延させることは許されないという意味に解されるとした上で、被告人が、事故後すぐに衝突現場に戻ったものの、被害者を発見できないまま、警察官に飲酒運転の事実が発覚することを恐れて、コンビニエンスストアに赴いて口臭防止用品を購入、摂取するという、救護等の義務を尽くすことと対極の行動を優先させた時点で、救護義務及び報告義務の履行と相いれない状態に至ったとみるべきであり、それによって救護等の措置を遅延させたとして、直ちに救護等の措置を講じなかったと認め、被告人を懲役6月に処した。 これに対し、被告人が控訴し、法令適用の誤り等を主張したところ、原判決は、被告人は事故後直ちに自車を停止させて被害者の捜索を開始しており、自車まで戻ってハザードランプを点灯させたことも危険防止義務を履行したものと評価でき、コンビニエンスストアに赴いて口臭防止用品を購入、摂取したことは、被害者の捜索や救護のための行為ではないものの、これらの行為に要した時間は1分余りで、そのための移動距離も50m程度にとどまっており、その後直ちに衝突現場方向に向かい、被害者が発見されると駆け寄って人工呼吸をするなどしていたことに照らすと、被告人は一貫して救護義務を履行する意思を保持し続けていたと認められ、このような事故後の被告人の行動を全体的に考察すると、人の生命、身体の一般的な保護という救護義務の目的の達成と相いれない状態に至ったとみることはできないとして、救護義務違反の罪の成立を否定した上で、第1審判決を法令適用の誤りを理由に破棄し、その場合、報告義務違反の点については既に公訴時効が完成しているとして、被告人に対して無罪を言い渡した。 |
判示事項 | 1 道路交通法(令和4年法律第32号による改正前のもの)72条1項前段の義務を尽くしたといえる場合 2 道路交通法(令和4年法律第32号による改正前のもの)72条1項前段の義務に違反したとされた事例 |
裁判要旨 | 1 交通事故を起こした車両等の運転者が道路交通法(令和4年法律第32号による改正前のもの)72条1項前段の義務を尽くしたというためには、直ちに車両等の運転を停止して、事故及び現場の状況等に応じ、負傷者の救護及び道路における危険防止等のため必要な措置を臨機に講ずることを要する。 2 被害者に重篤な傷害を負わせた可能性の高い交通事故を起こし、自車を停止させて被害者を捜したものの発見できなかったのであるから、引き続き被害者の発見、救護に向けた措置を講ずる必要があったといえるのに、これと無関係な買物のためにコンビニエンスストアに赴いたという本件事情の下では、事故及び現場の状況等に応じ、負傷者の救護等のため必要な措置を臨機に講じなかったものといえ、その時点で道路交通法(令和4年法律第32号による改正前のもの)72条1項前段の義務に違反したと認められる。 |
事件番号 | 令和5(あ)1285 |
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事件名 | 道路交通法違反被告事件 |
裁判所 | 最高裁判所第二小法廷 |
裁判年月日 | 令和7年2月7日 |
裁判種別 | 判決 |
結果 | 破棄自判 |
原審裁判所 | 東京高等裁判所 |
原審事件番号 | 令和5(う)75 |
原審裁判年月日 | 令和5年9月28日 |
事案の概要 |
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第1審判決が認定した犯罪事実の要旨は、「被告人は、平成27年3月23日午後10時7分頃、長野県佐久市内の交通整理の行われていない交差点において、普通乗用自動車を運転中、被害者(当時15歳)に自車を衝突させて、同人を右前方約44.6m地点の歩道上にはね飛ばして転倒させ、同人に多発外傷等の傷害を負わせる交通事故を起こし、もって自己の運転に起因して人に傷害を負わせたところ、その後すぐに車両の運転を停止したものの、直ちに救護措置を講じず、かつ、その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を、直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった。」というものである。 第1審判決は、道路交通法(令和4年法律第32号による改正前のもの。以下同じ。)72条1項前段、後段が救護義務及び報告義務を直ちに尽くすよう命じているのは、運転者が救護等の措置以外の行為に及ぶことによって救護等の措置を遅延させることは許されないという意味に解されるとした上で、被告人が、事故後すぐに衝突現場に戻ったものの、被害者を発見できないまま、警察官に飲酒運転の事実が発覚することを恐れて、コンビニエンスストアに赴いて口臭防止用品を購入、摂取するという、救護等の義務を尽くすことと対極の行動を優先させた時点で、救護義務及び報告義務の履行と相いれない状態に至ったとみるべきであり、それによって救護等の措置を遅延させたとして、直ちに救護等の措置を講じなかったと認め、被告人を懲役6月に処した。 これに対し、被告人が控訴し、法令適用の誤り等を主張したところ、原判決は、被告人は事故後直ちに自車を停止させて被害者の捜索を開始しており、自車まで戻ってハザードランプを点灯させたことも危険防止義務を履行したものと評価でき、コンビニエンスストアに赴いて口臭防止用品を購入、摂取したことは、被害者の捜索や救護のための行為ではないものの、これらの行為に要した時間は1分余りで、そのための移動距離も50m程度にとどまっており、その後直ちに衝突現場方向に向かい、被害者が発見されると駆け寄って人工呼吸をするなどしていたことに照らすと、被告人は一貫して救護義務を履行する意思を保持し続けていたと認められ、このような事故後の被告人の行動を全体的に考察すると、人の生命、身体の一般的な保護という救護義務の目的の達成と相いれない状態に至ったとみることはできないとして、救護義務違反の罪の成立を否定した上で、第1審判決を法令適用の誤りを理由に破棄し、その場合、報告義務違反の点については既に公訴時効が完成しているとして、被告人に対して無罪を言い渡した。 |
判示事項 |
1 道路交通法(令和4年法律第32号による改正前のもの)72条1項前段の義務を尽くしたといえる場合 2 道路交通法(令和4年法律第32号による改正前のもの)72条1項前段の義務に違反したとされた事例 |
裁判要旨 |
1 交通事故を起こした車両等の運転者が道路交通法(令和4年法律第32号による改正前のもの)72条1項前段の義務を尽くしたというためには、直ちに車両等の運転を停止して、事故及び現場の状況等に応じ、負傷者の救護及び道路における危険防止等のため必要な措置を臨機に講ずることを要する。 2 被害者に重篤な傷害を負わせた可能性の高い交通事故を起こし、自車を停止させて被害者を捜したものの発見できなかったのであるから、引き続き被害者の発見、救護に向けた措置を講ずる必要があったといえるのに、これと無関係な買物のためにコンビニエンスストアに赴いたという本件事情の下では、事故及び現場の状況等に応じ、負傷者の救護等のため必要な措置を臨機に講じなかったものといえ、その時点で道路交通法(令和4年法律第32号による改正前のもの)72条1項前段の義務に違反したと認められる。 |