事件番号令和5(う)850
事件名強要未遂
裁判所大阪高等裁判所 第3刑事部
裁判年月日令和7年4月17日
結果破棄自判
事案の概要1 原判決が認定した犯行経緯等及び罪となるべき事実の概要は、次のとおりである(呼称等は、特に記載したもの以外、原判決の表記による。)
⑴ 犯行に至る経緯等
ア C労働組合D支部は、関西地区の生コンミキサー車運転手らから成る産業別労働組合であり、被告人Aは同支部Eブロック担当執行委員、F(原審分離前の相被告人)は同支部Gブロック担当執行委員、被告人Bは同支部組合員であった。D支部は、同支部に批判的であった株式会社Hに対し、平成28年8月頃、約1か月間にわたり、同社が生コンを供給していた奈良県内及び京都府内の現場に組合員を派遣するなどの組合活動を行い、これによって同年9月の同社の売上げが激減し、I(同社代表取締役)はJ生コン協同組合理事を辞任した。
イ 平成29年(⑵まで同年)6月下旬から7月頃、H社の日雇運転手であったKがD支部に加入し、10月16日、被告人両名を含むD支部組合員十数名が京都府木津川市a町所在のH社事務所(以下「本件事務所」という。)を訪問して、Kの加入及び同支部H分会の結成を伝え、同人の処遇等につき団体交渉開催を要求した。
その後も、被告人らは数度にわたり本件事務所を訪れ、L(同社取締役。Iの妻)やM(同社取締役。IとLの長男)に団体交渉開催やKの就労機会増加等を要求した。また、被告人Bは、Kから就労証明書の作成を断られたことを聞き、11月22日の訪問時、MにKの就労証明書の作成等を求めた。
ウ 11月27日(この項は同日)、被告人らは、午前9時28分頃から数度にわたって本件事務所を訪問し、MにKの就労証明書等について述べ、午後3時5分頃、被告人両名を含むD支部組合員が本件事務所を訪問し、Lに対して、被告人両名が就労証明書の作成・交付(以下、併せて「作成等」という。)を執ように要求した。
Lは、就労証明書がないと保育所に行けなくなるようなことはないと木津川市役所担当者から聞いた旨を述べると、被告人Bがその場で担当課に電話し、年内閉鎖の可能性のある企業でも現状その会社で働いている場合は、就労証明書に押印してもらうよう担当者から聞いた旨を述べ、Lにも電話による確認を求めた。そこで、Lは、電話で担当者と就労証明書について話していたが、午後3時30分頃、高血圧緊急症を発症して救急車を呼ぶように依頼した上で電話を切り、ぐったりとして、ほとんど声を発さなくなるような状態になった。
⑵ 罪となるべき事実
被告人両名は、L(当時 58 歳)を脅迫し、H社が日雇運転手のKを雇用している旨の就労証明書の作成等をさせようなどと考え、共謀の上、11月27日午後3時30分頃、本件事務所において、Lが高血圧緊急症により体調不良を呈した後もなお、その状態の同人に対し、前記就労証明書の作成等を執ように求め、さらに、Fと共謀の上、同月29日から12月1日までの間、合計4回にわたり同事務所に押し掛け、Lに対し、前記就労証明書の作成等を執ように求めた上、翌2日以降、同事務所周辺にD支部組合員をたむろさせて同社従業員らの動静を監視させ、同月4日午後3時47分頃から午後4時38分頃までの間、同事務所に押し掛けて、Lに対し、被告人Aが、「何が弁護士や、関係あらへんがな、書いてもらわなあかん」、「お前も何や、何ケチつけとんねん、うちの行動に。こらぁ。おいっ」、「ほな解決せんかい」などと怒号しながら、Lに示していた就労証明書を机にたたき付け、Fが、「何をぬかしとんねん、われえ、おい、こらぁ、ほんま。労働者の雇用責任もまともにやらんとやな。団体交渉も持たんと、法律違反ばっかりやりやがって。こら。こんなもんで何ぬかしとんねん、こら、われ、ほんま」などと怒号して前記就労証明書の作成等を要求し、これに応じなければL及びその親族の身体、自由、財産等に危害を加えかねない気勢を示して怖がらせ、義務のないことを行わせようとしたが、同人がこれに応じず、その目的を遂げなかった。
2 原審の公判前整理手続では、被告人両名のD支部の地位や、被告人両名が行った行為におおむね争いはなく、強要未遂罪の構成要件該当性(被告人両名の行為が同罪の脅迫といえるか、それによりLが義務のないことを強いられたか)と違法性(正当行為性)が争点と整理された。
原判決は、原判示の限度で被告人両名の共謀による強要未遂罪の成立を認め、被告人Aを懲役1年(3 年間刑執行猶予)に、被告人Bを懲役8月(3 年間刑執行猶予)にそれぞれ処した。
判示事項の要旨労働組合組合員の被告人ABが、他の組合員と共謀の上、組合員を雇用する会社取締役を脅迫し、就労証明書の作成等を要求したが、その目的を遂げなかったとして、被告人らに強要未遂罪の成立を認めた原判決を破棄し、脅迫に当たる事実を限定した上でAに同罪の成立を認め有罪とし、共謀が認められないとしてBに無罪を言い渡した事例
事件番号令和5(う)850
事件名強要未遂
裁判所大阪高等裁判所 第3刑事部
裁判年月日令和7年4月17日
結果破棄自判
事案の概要
1 原判決が認定した犯行経緯等及び罪となるべき事実の概要は、次のとおりである(呼称等は、特に記載したもの以外、原判決の表記による。)
⑴ 犯行に至る経緯等
ア C労働組合D支部は、関西地区の生コンミキサー車運転手らから成る産業別労働組合であり、被告人Aは同支部Eブロック担当執行委員、F(原審分離前の相被告人)は同支部Gブロック担当執行委員、被告人Bは同支部組合員であった。D支部は、同支部に批判的であった株式会社Hに対し、平成28年8月頃、約1か月間にわたり、同社が生コンを供給していた奈良県内及び京都府内の現場に組合員を派遣するなどの組合活動を行い、これによって同年9月の同社の売上げが激減し、I(同社代表取締役)はJ生コン協同組合理事を辞任した。
イ 平成29年(⑵まで同年)6月下旬から7月頃、H社の日雇運転手であったKがD支部に加入し、10月16日、被告人両名を含むD支部組合員十数名が京都府木津川市a町所在のH社事務所(以下「本件事務所」という。)を訪問して、Kの加入及び同支部H分会の結成を伝え、同人の処遇等につき団体交渉開催を要求した。
その後も、被告人らは数度にわたり本件事務所を訪れ、L(同社取締役。Iの妻)やM(同社取締役。IとLの長男)に団体交渉開催やKの就労機会増加等を要求した。また、被告人Bは、Kから就労証明書の作成を断られたことを聞き、11月22日の訪問時、MにKの就労証明書の作成等を求めた。
ウ 11月27日(この項は同日)、被告人らは、午前9時28分頃から数度にわたって本件事務所を訪問し、MにKの就労証明書等について述べ、午後3時5分頃、被告人両名を含むD支部組合員が本件事務所を訪問し、Lに対して、被告人両名が就労証明書の作成・交付(以下、併せて「作成等」という。)を執ように要求した。
Lは、就労証明書がないと保育所に行けなくなるようなことはないと木津川市役所担当者から聞いた旨を述べると、被告人Bがその場で担当課に電話し、年内閉鎖の可能性のある企業でも現状その会社で働いている場合は、就労証明書に押印してもらうよう担当者から聞いた旨を述べ、Lにも電話による確認を求めた。そこで、Lは、電話で担当者と就労証明書について話していたが、午後3時30分頃、高血圧緊急症を発症して救急車を呼ぶように依頼した上で電話を切り、ぐったりとして、ほとんど声を発さなくなるような状態になった。
⑵ 罪となるべき事実
被告人両名は、L(当時 58 歳)を脅迫し、H社が日雇運転手のKを雇用している旨の就労証明書の作成等をさせようなどと考え、共謀の上、11月27日午後3時30分頃、本件事務所において、Lが高血圧緊急症により体調不良を呈した後もなお、その状態の同人に対し、前記就労証明書の作成等を執ように求め、さらに、Fと共謀の上、同月29日から12月1日までの間、合計4回にわたり同事務所に押し掛け、Lに対し、前記就労証明書の作成等を執ように求めた上、翌2日以降、同事務所周辺にD支部組合員をたむろさせて同社従業員らの動静を監視させ、同月4日午後3時47分頃から午後4時38分頃までの間、同事務所に押し掛けて、Lに対し、被告人Aが、「何が弁護士や、関係あらへんがな、書いてもらわなあかん」、「お前も何や、何ケチつけとんねん、うちの行動に。こらぁ。おいっ」、「ほな解決せんかい」などと怒号しながら、Lに示していた就労証明書を机にたたき付け、Fが、「何をぬかしとんねん、われえ、おい、こらぁ、ほんま。労働者の雇用責任もまともにやらんとやな。団体交渉も持たんと、法律違反ばっかりやりやがって。こら。こんなもんで何ぬかしとんねん、こら、われ、ほんま」などと怒号して前記就労証明書の作成等を要求し、これに応じなければL及びその親族の身体、自由、財産等に危害を加えかねない気勢を示して怖がらせ、義務のないことを行わせようとしたが、同人がこれに応じず、その目的を遂げなかった。
2 原審の公判前整理手続では、被告人両名のD支部の地位や、被告人両名が行った行為におおむね争いはなく、強要未遂罪の構成要件該当性(被告人両名の行為が同罪の脅迫といえるか、それによりLが義務のないことを強いられたか)と違法性(正当行為性)が争点と整理された。
原判決は、原判示の限度で被告人両名の共謀による強要未遂罪の成立を認め、被告人Aを懲役1年(3 年間刑執行猶予)に、被告人Bを懲役8月(3 年間刑執行猶予)にそれぞれ処した。
判示事項の要旨
労働組合組合員の被告人ABが、他の組合員と共謀の上、組合員を雇用する会社取締役を脅迫し、就労証明書の作成等を要求したが、その目的を遂げなかったとして、被告人らに強要未遂罪の成立を認めた原判決を破棄し、脅迫に当たる事実を限定した上でAに同罪の成立を認め有罪とし、共謀が認められないとしてBに無罪を言い渡した事例
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