事件番号 | 平成28(行ウ)49 |
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事件名 | 高浜原子力発電所1号機及び2号機運転期間延長認可処分等取消請求事件、高浜原子力発電所1号機及び2号機設置変更許可処分取消請求事件、高浜原子力発電所1号機及び2号機保安規定変更認可処分無効確認請求事件 |
裁判所 | 名古屋地方裁判所 民事第9部 |
裁判年月日 | 令和7年3月14日 |
事案の概要 | 本件は、別紙1原告目録記載の各肩書地に居住する原告ら(別紙1原告目録の事件1~5に対応する事件について、事件1~5の列に「〇」を付した原告が、請求の趣旨1~6の列に「〇」を付した請求をしている。)が、原子力規制委員会が、高浜発電所1号機及び高浜発電所2号機に関して参加人に対してした、平成28年4月20日付けの本件各原子炉に係る本件設置変更許可処分、同年6月10日付けの本件各原子炉施設に係る本件工事計画認可処分、同月20日付けの本件各原子炉に係る本件保安規定変更認可処分及び本件運転期間延長認可処分がいずれも違法であるとして、平成28年各処分の取消しを求める事案(49号事件、134号事件及び157号事件)、原子力規制委員会が令和3年5月19日付けで参加人に対してした本件各原子炉に係る令和3年設置変更許可処分が違法であるとして、同処分の取消しを求める事案(48号事件)及び原子力規制委員会が令和3年2月15日付けで参加人に対してした本件各原子炉に係る令和3年保安規定変更認可処分が違法無効であるとして、同処分の無効確認を求める事案(50号事件)である。2 関係法令の定め(1) 関係法令の定めは、本文中に記載するもののほか、別紙6関係法令の定めのとおりである。特記しない限り、平成28年各処分のうち本件保安規定変更認可処分及び本件運転期間延長認可処分のされた同年6月20日当時の法令等をいう。(2) 発電用原子炉の設置、運転等に対する規制の概要ア 設置変更許可について発電用原子炉設置者は、炉規法43条の3の8第1項本文所定の事項を変更しようとするときは、原子力規制委員会の許可(設置変更許可)を受けなければならないものとされており(同法43条の3の8第1項本文)、原子力規制委員会は、設置変更許可の申請が同法43条の3の6第1項各号のいずれにも適合していると認めるときでなければ、上記許可をしてはならないとされている(同法43条の3の8第2項、43条の3の6第1項。なお、原子力規制委員会は、上記許可をする場合においては、あらかじめ、同項1号に規定する基準(発電用原子炉が平和の目的以外に利用されるおそれがないこと)の適用について、原子力委員会の意見を聴かなければならないとされ(同法43条の3の8第2項、43条の3の6第3項)、上記許可をする場合においては、あらかじめ、経済産業大臣の意見を聴かなければならないとされている(同法71条1項1号)。)。そして、同法43条の3の8第2項、43条の3の6第1項2号(技術的能力に係る部分に限る。)、3号及び4号は、その者に発電用原子炉を設置するために必要な技術的能力があること、その者に重大事故(発電用原子炉の炉心の著しい損傷その他の原子力規制委員会規則(実用発電用原子炉については実用炉規則4条)で定める重大な事故をいう。)の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること、発電用原子炉施設の位置、構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則(実用発電用原子炉については設置許可基準規則)で定める基準に適合するものであることという基準に適合しているか否かについて審査を行うべきものと定めている。イ 工事計画認可について発電用原子炉施設の設置又は変更の工事(核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上特に支障がないものとして原子力規制委員会規則で定めるものを除く。)をしようとする発電用原子炉設置者は、原子力規制委員会規則(実用炉規則)で定めるところにより、当該工事に着手する前に、その工事の計画について原子力規制委員会の認可を受けなければならないとされており(炉規法(平成29年法律第15号による改正前のもの)43条の3の9第1項本文)、原子力規制委員会は、当該認可の申請が同条3項各号のいずれにも適合していると認めるときは、認可をしなければならないとされている(同条3項)。そして、同項2号及び3号は、発電用原子炉施設が同条43条の3の14の技術上の基準に適合するものであること、その者の設計及び工事に係る品質管理の方法及びその検査のための組織が原子力規制委員会規則で定める技術上の基準に適合するものであることという基準に適合しているか否かについて審査を行うべきものと定め、同法43条の3の14は、発電用原子炉設置者は、発電用原子炉施設を原子力規制委員会規則(技術基準規則)で定める技術上の基準に適合するように維持しなければならないと定めている。ウ 保安規定(変更)認可について発電用原子炉設置者は、原子力規制委員会規則(実用炉規則)で定めるところにより、保安規定(発電用原子炉の運転に関する保安教育、溶接事業者検査及び定期事業者検査についての規定を含む。)を定め、発電用原子炉の運転開始前に、原子力規制委員会の認可を受けなければならず、これを変更しようとするときも、同様とされており(炉規法43条の3の24第1項)、原子力規制委員会は、保安規定が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上十分でないと認めるときは、認可をしてはならないとされている(同条2項)。エ 運転期間延長認可について発電用原子炉設置者がその設置した発電用原子炉を運転することができる期間は、当該発電用原子炉の設置の工事について最初に炉規法43条の3の11第1項の検査に合格した日から起算して40年とされ(同法(平成29年法律第15号による改正前のもの)43条の3の32第1項)、この期間は、その満了に際し、原子力規制委員会の認可を受けて、1回に限り20年を超えず、かつ、政令(炉規令)で定める期間を超えない期間において延長することができ(同法43条の3の32第2、3項)、当該認可を受けようとする発電用原子炉設置者は、原子力規制委員会規則(実用炉規則)で定めるところにより、原子力規制委員会に認可の申請をしなければならず(同条4項)、原子力規制委員会は、当該認可の申請に係る発電用原子炉が、長期間の運転に伴い生ずる原子炉その他の設備の劣化の状況を踏まえ、延長しようとする期間において安全性を確保するための基準として原子力規制委員会規則(実用炉規則)で定める基準に適合していると認めるときに限り、同項の認可をすることができるとされている(同条5項)。第3 前提事実前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実等)1 当事者等(1) 原告らは、福井県を含む1都2府14県に居住する住民である。(2) 参加人は、関西地方を供給地域として電気事業を営むことを目的とする株式会社であり、福井県大飯郡高浜町田ノ浦1に所在する高浜発電所を設置している。(3) 処分行政庁は、設置法に基づき、環境省の外局として設置された、原子力利用における安全規制を一元的に行う被告の行政機関である。2 本件各原子炉施設の概要(1) 高浜発電所1号機の概要高浜発電所1号機は、参加人が、昭和44年12月12日に内閣総理大臣から設置許可処分を受け、その後、工事計画の認可等を経て、高浜発電所内に建設した加圧水型原子炉(高浜発電所1号炉)及びその附属施設である。高浜発電所1号機は、昭和49年3月14日に初臨界を達成し、同月27日に送電を開始し、同年11月14日に営業運転を開始した。高浜発電所1号機は、福島第一原発事故後、定期検査のため運転を停止していたが、令和5年7月28日から再稼働し、現在、営業運転をしている。(甲G1385~1387)高浜発電所1号機は、熱出力が244万 kW(キロワット)、電気出力が82.6万 kW の発電設備を有している。発電のための燃料には低濃縮二酸化ウランが用いられており、燃料集合体数は157体、燃料装荷量は約72トンである。(2) 高浜発電所2号機の概要高浜発電所2号機は、参加人が、昭和45年11月25日に内閣総理大臣から設置許可処分を受け、その後、工事計画の認可等を経て、高浜発電所内に建設した加圧水型原子炉(高浜発電所2号炉)及びその附属施設である。高浜発電所2号機は、昭和49年12月20日に初臨界を達成し、昭和50年1月17日に送電を開始し、同年11月14日に営業運転を開始した。高浜発電所2号機は、福島第一原発事故後、定期検査のため運転を停止していたが、令和5年9月から再稼働し、現在、営業運転をしている。(甲G1385)高浜発電所2号機に係る熱出力、電気出力、燃料の種類及び燃料装荷量は、高浜発電所1号機と概ね同じである。3 原子力発電所の仕組みの概要(1) 発電用原子炉の原理ア 原子力発電は、ウラン燃料が核分裂した際に放出する熱エネルギーを利用して水を蒸気に変え、その蒸気の力でタービンを回転させて電気を起こしている。イ 原子力発電は、原子炉内部にウラン燃料を装荷し、ウラン燃料の核分裂連鎖反応を利用して、熱エネルギーを継続的に発生させている。核分裂連鎖反応とは、燃料であるウランの原子核に中性子が衝突し、ウランの原子核が概ね2個の異なる原子核に分裂(核分裂)する際に放出される中性子が、別のウランの原子核に衝突して次の核分裂を起こすことを繰り返すことで、核分裂が継続することをいう。ウランは、1回の核分裂により2又は3個の中性子を放出するが、1回の核分裂で発生した2又は3個の中性子のうち1個のみが次の核分裂を引き起こす状態、つまり核分裂を引き起こしたのと同数の中性子が次の核分裂を引き起こす状態では、核分裂の数が常に一定に保たれており、このような状態を「臨界」という。また、次の核分裂を起こす中性子の数が、核分裂を引き起こさない物質への吸収等により、核分裂を引き起こした数より少なくなる状態を「未臨界」といい、核分裂連鎖反応はやがて止まることとなる。ウ 原子力発電所とは、核分裂連鎖反応を制御しつつ、これを継続的に起こさせることによって熱エネルギーを発生させ、発電用のタービンを回転させる蒸気を作るための装置であり、中心部に炉心があり、核分裂反応を起こして発熱する核燃料、核分裂で新たに発生する高速の中性子を次の核分裂反応が起こりやすい状態にまで減速させるための減速材、発生した熱を取り出すための冷却材、核分裂反応を制御するための制御材等から成り立っている。軽水型原子炉とは、減速材及び冷却材の両者の役割を果たすものとして水(軽水)を用いる発電用原子炉のことをいう。軽水型原子炉には沸騰水型原子炉(BWR)と加圧水型原子炉(PWR)があるが、本件各原子炉はいずれもPWRに該当する。(2) PWRの構造と発電の仕組みア PWRに用いる核燃料には、中性子が当たると核分裂反応を起こすウラン235を3~5%含む二酸化ウランを円柱状に焼き固めた燃料ペレットが使用され、この燃料ペレットを金属製の被覆管の中に縦に積み重ね、両端を密封した燃料棒を数十本ごとにまとめた燃料集合体により炉心を構成している。また、制御材として、中性子吸収材(銀-インジウム-カドミウム)が詰められている制御棒を燃料集合体内部に配置し、この制御棒を出し入れすることによって、炉心に存在する中性子の数を増減させ、核分裂反応を調整し、出力を制御している。イ PWRは、原子炉内を加圧することで、冷却材(1次冷却材)である水を沸騰させることなく高温(約320度:冷却材出口温度)、高圧(約157気圧)の熱水状態で維持し、この熱水(1次冷却材)を熱源として、蒸気発生器において別の系統の水(2次冷却材)を蒸気に変えている。その蒸気は、主蒸気管を通ってタービンに送られ、発電用タービンを回転させて発電を行う。タービンを回転させた蒸気は、復水器で冷却水(海水)により冷却されて水となり、この水(2次冷却材)は給水管を通って蒸気発生器に戻される。放射性物質を含んだ1次冷却材とそれを冷却する2次冷却材とは、蒸気発生器の伝熱管を通して熱交換を行っていることから接触することはない。ウ PWRは、1次冷却材を沸騰させるBWRと異なり、1次冷却材に圧力をかけて沸騰させないようにしているため、沸騰水の流量調整による出力調整はしないが、1次冷却材に中性子を吸収するホウ酸を混ぜ、その濃度を調整することで出力を調整することができる。(3) 発電用原子炉施設の3つの基本的安全機能ア 原子力発電所は、安全確保の観点から、異常を早期に検知し、緊急を要する異常を検知した場合には全ての制御棒を原子炉内に自動的に挿入し、原子炉を緊急停止(核分裂連鎖反応を止める)する設計がされる(「止める」)。さらに、万一、事故に発展した場合においてもその影響を緩和するため、燃料を冷却し(「冷やす」)、放射性物質の異常な水準の放出を防止する設計がされる(「閉じ込める」)。イ 原子炉を「止める」ための設備として、例えば、制御棒及びこれを急速に挿入する機能があり、緊急を要する異常時において、制御棒を急速に挿入することで、原子炉を安全に緊急停止させる設計がされる。PWRは、制御棒を炉心上部から挿入する構造であり、通常時は制御棒駆動装置内の電磁石に電流を流し、制御棒を炉心上部の適切な位置に保持し、原子炉緊急停止時は、電磁石への電流を切断し、制御棒が自重で炉心に落下することで炉心の核分裂反応を制御する。ウ 原子炉を緊急停止した場合においても、原子炉内の燃料には運転中に生成、蓄積された核分裂生成物等が存在するため、崩壊熱(核分裂の結果生じた核分裂生成物は、アルファ線、ベータ線又はガンマ線等の放射線を出しながら別の原子核に変化していく(放射性崩壊)が、その際に放出されるエネルギーが周辺の物質に吸収されて、最終的に熱になったもの)が発生しており、炉心の著しい損傷の防止等のために、崩壊熱の除去を続ける必要がある。事故時に炉心を「冷やす」ための設備として、例えば、非常用炉心冷却設備により、炉心を冷却できる設計がされている。また、非常用炉心冷却設備により除去した熱を最終的な熱の逃がし場(最終ヒートシンク)へ輸送する系統(例えば、原子炉補機冷却水設備等)により、原子炉圧力容器内において発生した残留熱(燃料の核分裂生成物の崩壊熱及び機器等から発生する熱に加えて、通常運転中に炉心・原子炉冷却材系等の構成材、原子炉冷却材及び2次冷却材に蓄積された熱を含む。)を除去する設計がされている。エ 放射性物質の異常な水準の放出を防止する「閉じ込める」ための設備として、原子炉格納容器等があり、原子炉格納容器は、想定される最大の圧力、最高の温度及び適切な地震力に十分に耐えることができ、かつ適切に作動する格納容器隔離弁の作動と併せて放射性物質の漏えいを抑制する設計がされている。これらに加え、PWRのアニュラス(原子炉格納容器と原子炉建屋の間にある気密性の高い空間)浄化設備のように、原子炉格納容器の貫通部等から漏えいする空気を浄化し、外部へ放出される放射性物質の量を低減する設備もある。なお、発電用原子炉施設のうち、原子炉格納容器において想定される事象が発生した場合において、圧力障壁及び放射性物質の放出の障壁となる部分を原子炉格納容器バウンダリという。(以上(1)~(3)につき、乙B156・26~37頁)4 福島第一原発事故の概要(1) 平成23年3月11日、東北地方太平洋沖地震の揺れを受けて発生した福島第一原発事故は、必ずしもその全容が明らかになっているわけではないが、原子力規制委員会は、次のような経緯で発生したと判断している。(2) 当時運転中であった福島第一発電所1~3号機は、平成23年3月11日、東北地方太平洋沖地震の揺れを受けて、原子炉が正常に自動停止した。地震による送電鉄塔の倒壊などにより外部電源喪失状態となったが、非常用DGが起動するとともに、炉心冷却系が起動したことにより、原子炉は正常に冷却された。しかし、福島第一発電所1~5号機においては、非常用DG、配電盤、蓄電池等の電気設備の多くが、海に近いタービン建屋等の1階及び地下階に設置されていたため、地震随伴事象として発生した津波により、建屋の浸水とほとんど同時に水没又は被水して機能を喪失した。これにより、全交流電源喪失となり、交流電源を駆動電源として作動するポンプ等の注水・冷却設備が使用できない状態となった。直流電源が残った3号機においても、最終的にはバッテリーが枯渇したため、非常用DGが水没を免れ、かつ、接続先の非常用電源盤も健全であった6号機から電力の融通ができた5号機を除く、1~4号機において完全電源喪失の状態となった。また、海側に設置されていた冷却用のポンプ類も津波により全て機能喪失したために、原子炉内の残留熱や機器の使用により発生する熱を海水へ逃がす、最終ヒートシンクへの熱の移送手段が喪失した。その結果、運転中であった1~3号機においては、冷却機能を失った原子炉の水位が低下し、炉心の露出から最終的には炉心溶融に至った。その過程で、燃料被覆管のジルコニウムと水が反応することなどにより大量の水素が発生し、格納容器を経て原子炉建屋に漏えいし、1・3号機の原子炉建屋で水素爆発が発生した。また、3号機で発生した水素が4号機の原子炉建屋に流入し、4号機の原子炉建屋においても水素爆発が発生した。また、2号機においては、ブローアウトパネルが偶然開いたことから水素爆発には至らなかったものの、放射性物質が放出され、周辺の汚染を引き起こした。(以上につき、乙B156・39、40頁)5 設置法及び原子力規制委員会について(1) 福島第一原発事故を契機に、平成24年6月27日、新たに原子力規制委員会を設置すること等を柱とする設置法が制定され、同法は同年9月19日から施行された。設置法は、福島第一原発事故を契機に明らかとなった原子力利用に関する政策に係る縦割り行政の弊害を除去し、並びに一の行政組織が原子力利用の推進及び規制の両方の機能を担うことにより生ずる問題を解消するため、原子力利用における事故の発生を常に想定し、その防止に最善かつ最大の努力をしなければならないという認識に立って、確立された国際的な基準を踏まえて原子力利用における安全の確保を図るため必要な施策を策定し、又は実施する事務を一元的につかさどるとともに、その委員長及び委員が専門的知見に基づき中立公正な立場で独立して職権を行使する原子力規制委員会を設置し、もって国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする(同法1条)。原子力規制委員会は、経済産業省や文部科学省ではなく環境省の外局とされ、内閣から独立した組織である3条委員会(設置法2条、国家行政組織法3条2項)として設置された。原子力規制委員会は、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資するため、原子力利用における安全の確保を図ることを任務とし(設置法3条)、委員長と4名の委員をもって組織するものとされている(同法6条1項)。原子力規制委員会の委員長及び委員は、独立してその職権を行うものとされ(同法5条)、人格が高潔であって、原子力利用における安全の確保に関して専門的知識及び経験並びに高い識見を有する者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命するものとされている(同法7条1項)。また、原子力規制委員会には、審議会等として、学識経験のある者で組織される原子炉安全専門審査会が置かれ(同法13条1項、15条2項)、原子力規制委員会の指示を受けて、原子炉に係る安全性に関する事項を調査審議するものとされている(同法14条)ほか、原子力規制委員会の事務を処理させるため、同委員会に事務局である原子力規制庁が置かれており(同法27条1項、2項)、原子力規制庁には事務局長その他の職員が置かれ(同条3項)、原子力利用における安全の確保のための規制の独立性を確保する観点から、原子力規制庁の幹部職員のみならずそれ以外の職員についても、原則として、原子力利用の推進に係る事務を所掌する行政組織への配置転換を認めないこととされている(同法附則6条2項)。原子力規制委員会は、上記の任務を達成するため、原子力に係る製錬、加工、貯蔵、再処理及び廃棄の事業並びに原子炉に関する規制その他これらに関する安全の確保に関すること等の事務(同法4条1項2号)のほか、法律(法律に基づく命令を含む。)に基づき、原子力規制委員会に属させた事務(同項14号)をつかさどるもの(同項柱書き)とされている。そして、原子力規制委員会は、その所掌事務について、法律若しくは政令を実施するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、原子力規制委員会規則を制定することができ(同法26条)、炉規法の委任を受けて、原子炉施設の位置、構造及び設備に係る許可基準(同法43条の6第1項4号)として設置許可基準規則を、原子炉施設の技術上の基準(同法43条の3の14)として技術基準規則を、原子炉施設の保安のために必要な措置(同法43条の3の22)として実用炉規則をそれぞれ制定するなどしている。(2) 設置法の附則において、原子力安全規制の厳格化として、炉規法が一部改正され(設置法附則15~18条)、炉規法の目的が見直され、重大事故(発電用原子炉の炉心の著しい損傷その他の原子力規制委員会規則で定める重大な事故。同法43条の3の6第1項3号参照)への対処が新たに規制対象とされた。そして、原子力施設の規制基準に関し、工事計画認可、使用前検査等に係る技術基準に適合していない場合等に加え、原子力施設の位置、構造及び設備に係る設置許可基準に適合していない場合にも、原子力規制委員会から発電用原子炉の設置許可を受けた者に対して、使用の停止、改造、修理、移転等を命ずること(バックフィット命令)ができると規定された(同法43条の3の23第1項)。6 平成28年各処分に至る経緯(1) 本件設置変更許可処分に至る経緯ア 参加人は、平成27年3月17日付けで、原子力規制委員会に対し、炉規法43条の3の8第1項の規定に基づき、本件各原子炉に係る同法43条の3の5第2項5、8~10号に掲げる事項の変更について許可の申請をした(本件設置変更許可申請。なお、平成28年1月22日付け、同年2月10日付け及び同年4月12日付けで申請内容の一部を補正した。)。イ 原子力規制委員会は、本件設置変更許可申請について、炉規法43条の3の8第2項の規定が準用する同法43条の3の6第1項1号に規定する発電用原子炉が平和の目的以外に利用されるおそれがないか否か、同項2号に規定する申請者に発電用原子炉を設置するために必要な技術的能力及び経理的基礎があるか否か、同項3号に規定する申請者に重大な事故の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があるか否か、同項4号に規定する基準である設置許可基準規則に適合するものであるか否かを審査し、同審査の結果、同項1~4号のいずれにも適合していると認め、平成28年4月20日付けで、参加人に対し、本件設置変更許可処分をした。(以上につき、乙C1、5の1及び2、乙C6の1及び2)(2) 本件工事計画認可処分に至る経緯ア 参加人は、平成27年7月3日付けで、原子力規制委員会に対し、炉規法43条の3の9第1項の規定に基づき、本件各原子炉施設に係る変更工事の計画について認可の申請をした(本件工事計画認可申請。なお、同年11月16日付け、平成28年1月22日付け、同年2月29日付け、同年4月27日付け及び同年5月27日付けで申請内容の一部を補正した。)。イ 原子力規制委員会は、本件工事計画認可申請について、炉規法43条の3の9第3項1号に規定する同法43条の3の8第1項の許可を受けたところによるものであるか否か、同法43条の3の9第3項2号に規定する基準である技術基準規則に適合するものであるか否か、同項3号に規定する基準である品質管理基準規則に適合するものであるか否かを審査し、同審査の結果、同項1~3号のいずれにも適合していると認め、平成28年6月10日付けで、参加人に対し、本件工事計画認可処分をした。(以上につき、乙C2の1及び2、乙C8の1及び2)(3) 本件保安規定変更認可処分に至る経緯ア 参加人は、平成27年4月30日付けで、原子力規制委員会に対し、炉規法43条の3の24第1項の規定に基づき、本件各原子炉施設に係る保安規定の変更の認可の申請をした(本件保安規定変更認可申請。なお、同年7月3日付け、同年11月16日付け、平成28年2月29日付け、同年4月27日付け及び同年6月13日付けで申請内容の一部を補正した。)。イ 原子力規制委員会は、本件保安規定変更認可申請に係る保安規定について、炉規法43条の3の24第2項に規定する核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上十分でないと認めるときに該当しないか否かを審査し、同審査の結果、これに該当しないと認め、平成28年6月20日付けで、参加人に対し、本件保安規定変更認可処分をした。(以上につき、乙C4、10の1及び2)(4) 本件運転期間延長認可処分に至る経緯ア 参加人は、平成27年4月30日付けで、原子力規制委員会に対し、炉規法43条の3の32第4項の規定に基づき、本件各原子炉を運転することができる期間の延長(高浜発電所1号炉につき18年129日(2034年11月13日まで)、高浜発電所2号炉につき19年129日(2035年11月13日まで))について認可の申請をした(本件運転期間延長認可申請。なお、平成27年7月3日付け、同年11月16日付け、平成28年2月29日付け、同年4月27日付け及び同年6月13日付けで申請内容の一部を補正した。)。イ 原子力規制委員会は、本件運転期間延長認可申請に係る本件各原子炉について、炉規法43条の3の32第5項に規定する基準である実用炉規則114条に適合するものであるか否かを審査し、同審査の結果、同条に適合していると認め、平成28年6月20日付けで、参加人に対し、本件運転期間延長認可処分をした。(以上につき、乙C3の1及び2、乙C9の1及び2)7 令和3年保安規定変更認可処分に至る経緯(1) 原子力規制委員会は、平成29年11月29日付けで火山ガイドの改正(これにより改正されたものが平成29年火山ガイド)、同年12月14日付けで実用炉規則の改正等をし、実用炉規則84条の2の新設及び同規則92条1項の改正等により、火山現象による影響が発生し又は発生するおそれがある場合(火山影響等発生時)における発電用原子炉施設の保全のための活動を行う体制の整備に関し、保安規定に定めることとした。同改正によって保安規定の変更認可手続が必要となり、平成30年12月31日までの経過措置期間が設けられた。(2) 原子力規制委員会は、令和2年1月23日、「原子力利用における安全対策の強化のための核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う実用発電用原子炉に係る原子力規制委員会関係規則の整備等に関する規則」(令和2年原子力規制委員会規則第3号。改正規則)により、実用炉規則を改正し、同規則84条の2の「火山影響等発生時における発電用原子炉施設の保全のための活動を行う体制の整備」の規定は改正規則により削除され、改正規則による改正後の実用炉規則83条の「設計想定事象、重大事故等又は大規模損壊に係る発電用原子炉施設の保全に関する措置」として、火山現象による影響につき、(1)「火山現象による影響が発生し、又は発生するおそれがある場合(火山影響等発生時)における非常用交流動力電源設備の機能を維持するための対策に関すること。」、(2)「火山影響等発生時における代替電源設備その他の炉心を冷却するために必要な設備の機能を維持するための対策に関すること。」、(3)「火山影響等発生時に交流動力電源が喪失した場合における炉心の著しい損傷を防止するための対策に関すること。」を含む「発電用原子炉施設の必要な機能を維持するための活動に関する計画を定めるとともに、当該計画の実行に必要な要員を配置し、当該計画に従って必要な活動を行わせること。」が規定され(同条1号ロ)、保安規定の記載内容を定める実用炉規則92条について、同条1項21号の2の「火山影響等発生時における発電用原子炉施設の保全のための活動を行う体制の整備に関すること。」の規定は改正規則により削除され、改正規則による改正後の実用炉規則92条1項16号において「設計想定事象、重大事故等又は大規模損壊に係る発電用原子炉施設の保全に関する措置に関すること」が規定された。なお、気中降下火砕物濃度に関する考え方は、同改正後も維持されている。(3) 参加人は、上記(1)の改正を受けて、実用炉規則84条の2の「火山影響等発生時における発電用原子炉施設の保全のための活動(上記(2)の令和2年の実用炉規則の改正により、同規則83条1号ロ「火山現象による影響」に改正)に対する保全に関する措置を新たに追加するとともに、当該保全に関する措置に関連する保安規定の定めについて変更を行い、令和元年7月31日付けで、原子力規制委員会に対し、保安規定変更認可申請(令和3年保安規定変更認可申請)を行った。原子力規制委員会は、令和3年2月15日付けで、参加人に対し、令和3年保安規定変更認可処分を行った。(乙C52)8 令和3年設置変更許可処分に至る経緯(1) 原子力規制委員会は、平成31年4月17日、大山火山の大山生竹テフラ(DNP)の噴出規模を11㎦程度とする見直しを行い、それに伴って本件各原子炉施設等の敷地における降下火砕物の最大層厚の設定も見直すべきとし、令和元年6月19日付けで、参加人に対し、炉規法43条の3の23第1項に基づき、本件各原子炉施設等について、DNPの噴出規模が11㎦程度と見込まれること等の事実を前提として炉規法43条の3の6第1項4号の基準に適合するよう、本件各原子炉施設等の基本設計等を変更し、同年12月27日までに同法43条の3の8第1項の許可(設置変更許可)に係る申請をすることを命ずる本件バックフィット命令を出した。(乙104・3頁)(2) 参加人は、本件バックフィット命令を受け、本件各原子炉施設について、火山影響評価に係る基本設計等を見直した上で、令和元年9月26日付けで、令和3年設置変更許可申請を行った(なお、令和3年1月26日付け及び同年2月26日付けで申請内容の一部を補正した。)。原子力規制委員会は、令和3年5月19日付けで、参加人に対し、本件各原子炉について、令和3年設置変更許可処分を行った。(乙C77、103、104・3、4頁)9 本件各訴えの提起等(1) 49号事件原告らは、平成28年4月14日、本件各原子炉施設に係る運転期間延長認可、設置変更許可、工事計画認可及び保安規定変更認可の各処分の差止めを求める訴えを提起し、その後、平成28年各処分がされたことから、同年8月5日、上記第1請求1(1)~(4)のとおり平成28年各処分の取消しを求める旨の訴えの交換的変更をした。また、134号事件原告らは、同年10月5日、平成28年各処分の取消しを求める訴えを提起し、157号事件原告らは、同年12月9日、本件運転期間延長認可処分、本件工事計画認可処分及び本件保安規定変更認可処分の各取消しを求める訴えを提起したことから、当裁判所は、同年10月13日に134号事件の弁論を、平成29年1月13日に157号事件の弁論を、それぞれ49号事件の弁論に併合した。(2) 48号事件原告らは、令和4年5月17日、令和3年設置変更許可処分の取消しを求める訴えを提起し、当裁判所は、同年6月2日、同事件の弁論を49号事件の弁論に併合した。(3) 50号事件原告らは、令和4年5月17日、令和3年保安規定変更認可処分の無効確認を求める訴えを提起し、当裁判所は、同年6月2日、同事件の弁論を49号事件の弁論に併合した。第4 争点1 原告適格(争点1)2 判断枠組み(争点2)3 地震に関する争点(争点3)(1) 地震規模を示す経験式のばらつきの考慮のなさ(本件設置変更許可処分関係)(争点3-(1))(2) レシピの(ア)法のみならず(イ)法を用いるべきこと(本件設置変更許可処分関係)(争点3-(2))(3) アスペリティ応力降下量(短周期の地震動レベル)の設定(本件設置変更許可処分関係)(争点3-(3))(4) 繰り返しの揺れの想定が欠如していること(争点3-(4))ア 繰り返しの揺れの想定が欠如した具体的審査基準の不合理性(平成28年各処分関係)(争点3-(4)-ア)イ 蒸気発生器伝熱管の耐震性(本件工事計画認可処分関係)(争点3-(4)―イ)ウ 1次冷却設備配管の耐震性(本件工事計画認可処分関係)(争点3-(4)―ウ)エ 格納容器伸縮式配管貫通部の耐震性等(本件保安規定変更認可処分及び本件運転期間延長認可処分関係)(争点3-(4)-エ)(5) 1次冷却設備の減衰定数を3%としたこと(本件工事計画認可処分及び本件運転期間延長認可処分関係)(争点3-(5))4 火山に関する争点(争点4)(1) 層厚想定に関する基準の不合理性(本件設置変更許可処分及び令和3年設置変更許可処分関係)(争点4-(1))(2) 噴火規模に関する基準適合性判断の過誤、欠落(本件設置変更許可処分及び令和3年設置変更許可処分関係)(争点4-(2))(3) 層厚に関する基準適合性判断の過誤、欠落(本件設置変更許可処分及び令和3年設置変更許可処分関係)(争点4-(3))(4) 降下火砕物の荷重に対する健全性に関する基準適合性判断の過誤、欠落(本件設置変更許可処分及び令和3年設置変更許可処分関係)(争点4-(4))(5) 気中降下火砕物濃度を想定しないことの不合理性(本件設置変更許可処分及び令和3年設置変更許可処分関係)(争点4-(5))(6) 気中降下火砕物濃度の推定手法に関する基準の不合理性(令和3年保安規定変更認可処分関係)(争点4-(6))(7) 気中降下火砕物濃度の推定に関する基準適合性判断の過誤、欠落(令和3年保安規定変更認可処分関係)(争点4-(7))(8) 非常用DGの機能喪失(フィルタ交換の実効性)に関する基準適合性判断の過誤、欠落(令和3年保安規定変更認可処分関係)(争点4-(8))5 中性子照射脆化に関する争点(いずれも本件運転期間延長認可処分関係)(争点5)(1) 破壊靭性遷移曲線に関する争点(争点5-(1))ア 破壊靭性遷移曲線の導出に係る基準の不合理性(争点5-(1)―ア)(ア) JEAC4201-2007 シリーズの不合理性(イ) JEAC4206-2007 の不合理性イ 破壊靭性遷移曲線の導出に係る適合性審査の過誤、欠落(争点5-(1)-イ)(ア) 高浜発電所1号機の高経年化技術評価書(40年目)が高経年化技術評価書(30年目)と比較して60年目予測について大幅に余裕がなくなっていること(イ) 原データの確認をしていないこと(ウ) 破壊靭性値の試験結果数(エ) CT 試験片ではなく WOL 試験片を用いたこと(オ) 「照射脆化の将来予測を保守的に行うことができる方法による評価」を行っていないこと(2) PTS状態遷移曲線に関する争点(争点5-(2))ア PTS状態遷移曲線の導出に係る基準の不合理性(争点5-(2)―ア)(ア) 熱伝達率の評価式(JF式)の不合理性(イ) 核沸騰の想定をしていないこと(ウ) 冷却期間中における熱伝達率の変動を考慮していないこと(エ) プルームを考慮していないことイ PTS状態遷移曲線の導出に係る適合性審査の過誤、欠落(争点5-(2)―イ)(ア) 熱伝達率が適切に評価されていないこと(イ) クラッドの考慮(ウ) 熱伝達率の確認をしていないこと6 電気ケーブルに関する争点(争点6)(1) 電気ケーブルの火災防護対策(本件設置変更許可処分及び本件運転期間延長認可処分関係)(争点6-(1))(2) 電気ケーブルの老朽化に伴う絶縁低下(本件運転期間延長認可処分関係)(争点6-(2))7 使用済燃料に関する争点(争点7)(1) 使用済燃料及び使用済燃料貯蔵施設の危険性(本件設置変更許可処分関係)(争点7-(1))(2) 使用済燃料の貯蔵施設の審査に関する違法性(本件設置変更許可処分関係)(争点7-(2))(3) 最終処分問題に関する争点(本件設置変更許可処分及び本件運転期間延長認可処分関係)(争点7-(3))第5 争点に関する当事者の主張の要旨別紙7当事者の主張の要旨のとおり第6 当裁判所の判断(原告適格、出訴期間及び判断枠組み)1 争点1(原告適格)について(1) 認定事実ア チョルノービリ事故についてIAEAが作成したチョルノービリ事故に伴う放射性セシウムの土壌濃度マップ(事故発生後3年8か月後)によれば、昭和61年(1986年)4月26日のチョルノービリ事故によって放出された放射性物質による汚染が4万ベクレル/㎡以上となった地域は、最も遠くて約1800㎞にまで広がった。ソビエト社会主義共和国連邦が1991年末に消滅した後、ロシア、ウクライナ及びベラルーシ(ロシア等)は、それぞれ自国の法律を制定し、チョルノービリ事故による被ばく量が年間5mSv 以上(セシウム137が55万5000ベクレル/㎡以上)と考えられる地域を移住義務ゾーン、被ばく量が年間1mSv 以上(セシウム137が18万5000ベクレル以上/㎡以上)と考えられる地域を移住権利ゾーンとし、セシウム137が3万7000ベクレル/㎡以上の地域に社会経済的な特典を付与した。なお、ロシア等の国内法における安全基準値は、ICRP(国際放射線防護委員会。1928年に設立された国際X線・ラジウム防護委員会が1950年に改組されて設立された民間独立の国際学術組織)の1990年勧告を取り入れたものである。(以上につき、甲F34、37・2頁、甲F38、39、乙F8・125頁、弁論の全趣旨・被告第9準備書面19頁)イ 福島第一原発事故について(ア) 福島第一原発事故によって空気中に放射性物質を放出した1~4号機の電気出力は、1号機が46.0万 kW、2~4号機が各78.4万 kWである。この当時、原子炉内に存在した燃料集合体は、1号機が400本、2号機が548本、3号機が548本、4号機が0本であり、使用済燃料プール内に存在した燃料集合体は、1号機が392本、2号機が615本、3号機が566本、4号機が1535本、そのうち使用済燃料集合体は、1号機が292本、2号機が587本、3号機が514本、4号機が1331本であった。(甲F4・61、136、137頁)(イ) 原子力委員会のH1委員長が政府からの指示により作成した本件資料によれば、福島第一原発1号機の水素爆発により放射性物質が放出され、その後4号機の使用済燃料プールから放射性物質が放出され、続いて他の号機の使用済燃料プールからも放射性物質の放出がされた場合、セシウム137の土壌汚染の度合いは、148万ベクレル/㎡を超えて強制移転を求めるべき地域が110㎞以遠(1炉心分)又は170㎞以遠(2炉心分)に、55万5000ベクレル/㎡を超えて任意移転を認める地域が200㎞以遠(1炉心分)又は250㎞以遠(2炉心分)に生じる可能性があり、これらの範囲は時間の経過とともに小さくなるが、自然(環境)減衰にのみ任せておくならば数十年を要するとし、初期濃度が148万ベクレル/㎡の場合、線量率は当初約90mSv/年、1年後約40mSv/年となり、20mSv/年となるのは約5年経過時であり、初期濃度が55万5000ベクレル/㎡の場合、線量率は当初40mSv/年弱、1年後20mSv/年弱となるとする。(甲F10・8、12、15頁)(ウ) 平成23年4月22日、緊急時の防護措置についてのICRPの2007年勧告を踏まえ、年間実効線量が20mSv に達するおそれのある地域は、計画的避難区域として指定された。(甲F4・331、352、354頁、乙F2・1頁)(エ) UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の2013年報告書によれば、福島第一原発事故による放射性物質の総放出量の推定値について、ヨウ素131の推定値は約10~50京ベクレルの範囲にあり、セシウム137の推定値は総じて0.6~2京ベクレルの範囲にあるが、より限られた情報に基づく一部の推定値では4京ベクレルまでとするものもあったとする。(甲F82)ウ 自然界には宇宙からの放射線、地殻を構成している岩石等に含まれる放射性物質から放出される放射線、人間が摂取する飲食物等の中に含まれる放射性物質から放出される放射線等が存在し、これらの自然放射線からの放射線量は、日本では全国平均1人当たり年間2.1mSv、世界では年間2.4mSv、地域によっては年間約10mSv である。また、人間はレントゲンやCTスキャン等の人工放射線による被ばくをしており、全身CTスキャンによる被ばく量は1回6.9mSv である。(乙F1、弁論の全趣旨・被告第9準備書面14頁)エ 放射線被ばくによる有害な健康への影響は、確定的影響と確率的影響に分類されている。確定的影響とは、組織の機能を損なうのに十分な細胞喪失を引き起こす放射線による細胞致死の結果から生じる健康影響である(乙F1・66頁、乙F2・7頁、乙F4・9頁)。ICRPの2007年勧告は、臓器ごとのしきい値として1%発生率を示しており、そのうち最も低いものは100mSv である(乙F2・127頁)。確率的影響とは、放射線被ばくによって引き起こされた細胞の修飾の結果として起こるかもしれない健康影響である(乙F4・9頁)。平成23年12月22日付け「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書」によれば、放射線による発がんのリスクは、100mSv 以下の被ばく線量では、他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため、放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しいとされる(乙F6・4頁)が、2007年勧告は、明確に実証する生物学的・疫学的知見がすぐに得られそうにないとしつつ、実用的な放射線防護体系を勧告する目的から、約100mSv を下回る線量においては、ある一定の線量の増加はそれに正比例して放射線起因の発がん又は遺伝性影響の確率の増加を生じるであろうという仮説(LNTモデル)に引き続き根拠を置くとして、ICRPの1977年勧告以降、これを採用している(甲F66・10、11頁、乙F2・17頁、乙F5・6頁)。1990年勧告は、全ての平常状態における公衆被ばくにおける線量限度として、非常に変動しやすいラドンによる被ばくを除いた自然放射線源からの年間実効線量(実効線量とは、身体の全ての組織・臓器の荷重された等価線量の和であり、等価線量は、組織・臓器にわたって平均し、線質について荷重した吸収線量)が約1mSv であることから、年実効線量限度として1mSv を勧告し(乙F5・6、9、55頁)、放射線審議会(「放射線障害防止の技術的基準に関する法律」に基づき、放射線障害防止の技術的基準の斉一を図ることを目的とし、現在、原子力規制委員会に置かれる機関)は、平成10年6月、1990年勧告の国内制度等への取入れの意見具申において公衆被ばくに関する限度として実効線量年1mSv とすることが適当であるとした(乙F9・9、12頁)。上記の意見具申を受け、線量告示は、周辺監視区域の外側の線量限度を1mSv/年と定め、実用炉規則2条2項6号の「周辺監視区域」の外側の線量限度は、線量告示2条1項1号により年間1mSv とし、放射線障害防止法も、公衆の被ばく限度を実効線量年間1mSv としている。他方、2007年勧告は、緊急時被ばく状況(計画的状況における操業中又は悪意ある行動により発生するかもしれない至急の注意を要する予期せぬ状況)において計画される最大残存線量の参考レベル(これを上回る被ばくの発生を許す計画の策定は不適切であると判断されるもの)は、年間実効線量20mSv から100mSv の範囲と提示している。なお、2007年勧告は、1990年勧告と異なり、放射線審議会による国内制度等への取入れの意見具申はされていない。(乙F2・総括ⅹⅶ、57、69頁)オ 元京都大学原子炉実験所助手のH2は、平成7年6月、原子力発電所事故が起きた場合のシミュレーション(H2シミュレーション)を公表した。H2シミュレーションは、米国の原子力規制委員会が、マサチューセッツ工科大学のH3に依頼して行った原子力発電所事故で放出される放射性物質のシミュレーションの報告として公表された計算手法に基づくものであり、電気出力100万 kW のPWRの炉心冷却系が故障して炉心溶融を引き起こし、更に格納容器スプレイと熱除去系も故障するため、格納容器内の圧力上昇を抑えることができず、格納容器の耐圧限度を突破して破裂し、格納容器内に充満していた大量の放射能が環境に噴き出すという事故が起きたとき、ヨウ素131が218京ベクレル、セシウム137が10.7京ベクレル、それぞれ環境中に放出されるとする。H2は、H2シミュレーションにおける算出方法について、科学的に考える根拠に基づいて、パソコンでは時間が掛かりすぎて実用的ではないので、簡便な方法として独自に計算した適当な変数係数を使用し、独自に工夫した近似関数を用いた旨を述べている。(以上につき、甲F28・175、176、186、187、189、190頁、甲F80)(2) 原告適格の有無の判断枠組み行政事件訴訟法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして、処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し、この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項、最高裁平成16年(行ヒ)第114号同17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁参照)。以上の理は、無効確認訴訟の原告適格を有する「法律上の利益を有する者」(同法36条)についても同様に考えられる。本件各訴えは、原告らが原子力規制委員会(処分行政庁)がした本件各原子炉施設の設置変更許可処分、工事計画認可処分、保安規定変更認可処分及び運転期間延長認可処分の取消し又は無効確認を求める訴えであり、上記の見地に立って、原告らが本件各訴えの原告適格を有するか否かについて検討する。(3) 炉規法その他関係法令の趣旨及び目的並びに考慮されるべき利益の内容及び性質ア 炉規法は、原子力基本法の精神にのっとり、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の利用が平和の目的に限られることを確保するとともに、原子力施設において重大な事故が生じた場合に放射性物質が異常な水準で当該原子力施設を設置する工場又は事業所の外へ放出されることその他の核原料物質、核燃料物質及び原子炉による災害を防止し、及び核燃料物質を防護して、公共の安全を図るために、製錬、加工、貯蔵、再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関し、大規模な自然災害及びテロリズムその他の犯罪行為の発生も想定した必要な規制を行うほか、原子力の研究、開発及び利用に関する条約その他の国際約束を実施するために、国際規制物資の使用等に関する必要な規制を行い、もって国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする(同法1条)。そして、同法は、原子力規制委員会は、①同法43条の3の6第1項各号に適合していると認めるときでなければ発電用原子炉の設置許可をしてはならないとし(同項)、同許可を受けたものが同法43条の3の5第2項2号から5号まで又は8号から10号(平成29年法律第15号による改正後は11号)までに掲げる事項を変更しようとするときも同様とし(同法43条の3の8第2項)、②発電用原子炉施設の設置又は変更の工事をしようとする発電用原子炉設置者は、当該工事に着手する前に、その設計及び工事の方法その他の工事の計画の認可を受けなければならない(同法43条の3の9)とし、③発電用原子炉設置者は、発電用原子炉施設の保全、運転等について、保安のための必要な措置(重大事故が生じた場合における措置に関する事項を含む。)を講じなければならない(同法43条の3の22)とし、保安規定を定め、発電用原子炉の運転開始前に、原子力規制委員会の認可を受けなければならない(同法43条の3の24)とし、④発電用原子炉の運転期間は、原子力規制委員会の認可を受けて、1回に限り延長することができる(同法43条の3の32)としている。炉規法は、原子炉等の利用による災害の防止及び公共の安全を図るために当該原子炉の設置及び運転等に関して必要な規制を行い、もって国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全等に資することを目的としており、そのために、原子力規制委員会において、発電用原子炉施設の設置(変更)、設計及び工事、保安、運転延長の各段階に応じて、それぞれ同法所定の審査を行うこととしているところ、これらは、発電用原子炉施設の安全性が確保されないときは、当該発電用原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命、身体に重大な危害を及ぼし、当該発電用原子炉施設の周辺に存する土地等の財産に回復困難な重大な損害をもたらすほか、周辺の環境を放射性物質により汚染するなどの深刻な災害を引き起こすおそれがあることに鑑み、このような災害が万が一にも起こらないようにするため、原子力利用における安全の確保に関して専門的知識及び経験並びに高い識見を有する委員から成る原子力規制委員会において、科学的、専門技術的見地から、上記の各段階に応じた審査を行い、もって当該発電用原子炉施設の安全性を確保しようとしているものと解される。イ また、炉規法に関係する法令として、設置法、原子力基本法、環境基本法、原子力災害対策特別措置法及び災害対策基本法があるところ、①設置法は、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とし(同法1条)、②原子力基本法も、その基本方針として、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的としており(同法2条2項)、③環境基本法は、現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献することを目的とし(同法1条)、人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染等によって、人の健康又は生活環境(人の生活に密接な関係のある財産並びに人の生活に密接な関係のある動植物及びその生育環境を含む。)に係る被害が生ずることを公害とし(同法2条3項)、事業者は公害を防止するなどの責務を有する(同法8条1項)とする。また、④原子力災害対策特別措置法は、原子力災害から国民の生命、身体及び財産を保護することを目的とし(同法1条)、原子力緊急事態により国民の生命、身体又は財産に生ずる被害を原子力災害とし(同法2条1号)、原子力緊急事態が発生したときには原子力緊急事態宣言が発出され(同法15条2項)、内閣総理大臣が一定の区域の市町村長及び都道府県知事に対し、一定の地域の居住者、滞在者その他の者に対し、避難のための立退き又は屋内への退避の指示を行うべきことその他の緊急事態応急対策に関する事項を指示するものとし(同条3項)、⑤災害対策基本法は、その目的において国民の生命、身体及び財産を災害から保護することを定め(同法1条)、国、都道府県及び市町村は、国民又は住民の生命、身体及び財産を災害から保護するため、それぞれ責務を有するとしている(同法3条1項、4条1項、5条1項)。このような炉規法の関係法令の趣旨及び目的に照らすと、これらの関係法令は、発電用原子炉施設の利用に当たって、国民又は住民の生命、身体の安全、財産等に対する保護を要求しているものと解される。ウ 以上のとおり、上記アの炉規法の規定に加えて、上記イの関係法令の規定の趣旨及び目的をも参酌し、これらの規定が原子力規制の制度を通して保護しようとしている利益の内容及び性質等を考慮すれば、発電用原子炉施設に関する炉規法の規定は、単に公衆の生命、身体の安全、健康、財産、環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、発電用原子炉施設から一定の範囲内に居住し、事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全、財産等を、それが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解される。エ したがって、発電用原子炉施設から一定の範囲内に居住し、上記の被害を受けることが想定される範囲の住民は、本件各処分の取消し又は無効確認を求める訴えについて原告適格を有するというべきである。そして、当該住民の居住する地域が、上記のような発電用原子炉の事故等による災害により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域であるか否かについては、当該発電用原子炉の種類、構造、規模等の当該発電用原子炉に関する具体的な諸条件を考慮に入れた上で、当該住民の居住する地域と発電用原子炉の位置との距離関係を中心として、社会通念に照らし、合理的に判断すべきものである(もんじゅ最高裁平成4年判決参照)。(4) 原告らの原告適格の有無ア まず、ICRPが策定した2007年勧告は、放射線被ばくによる有害な健康への影響を確定的影響と確率的影響に分類し、確定的影響についての臓器ごとのしきい値として最も低いものを100mSv とし、確率的影響については明確に実証する生物学的・疫学的知見がすぐに得られそうにないとしつつ、ある一定の線量の増加はそれに正比例して放射線起因の発がん又は遺伝性影響の確率の増加を生じるであろうという仮説(LNTモデル)を引き続き採用し、全ての平常状態における公衆被ばくにおける線量限度として、非常に変動しやすいラドンによる被ばくを除いた自然放射線源からの年間実効線量が約1mSv であることから、年実効線量限度として1mSv を勧告する一方、緊急時被ばく状況(計画的状況における操業中又は悪意ある行動により発生するかもしれない至急の注意を要する予期せぬ状況)において計画される最大残存線量の参考レベル(これを上回る被ばくの発生を許す計画の策定は不適切であると判断されるもの)として、年間実効線量20mSv から100mSv の範囲と提示している。このように、2007年勧告は、1990年勧告が公衆被ばくの実効線量について年間1mSv を限度とする勧告をしたのと同様、平常状態における公衆被ばくにおける年実効線量限度として1mSv を勧告しており、また、実用炉規則2条2項6号の「周辺監視区域」の外側の線量限度も線量告示による年間1mSv とし、放射線障害防止法(放射性同位元素等の規制に関する法律施行規則及び数量等告示を含む。)も公衆被ばく限度を実効線量年間1mSv としているところ、線量告示や放射線障害防止法の上記定めは、1990年勧告を取り入れるべきであるとする放射線審議会の平成10年の意見具申を反映したものであり、ロシア等の国内法における安全基準値も1990年勧告を取り入れたことによるものである。もっとも、人類は自然界からの放射線を被ばくしており、我が国の全国平均で1人当たり年間2.1mSv とされ、世界の平均は年間2.4mSv とされているものであり、公衆被ばくにおける年実効線量限度である1mSv は、平常状態においてこの線量限度を超える被ばくから公衆を保護する措置として用いられるものであって、この数値をもって発電用原子炉施設の事故等がもたらす放射線被ばくにより生命、身体の安全、財産等に対する直接的かつ重大な被害を受けることが想定される住民の範囲を画するものと位置付けるのは相当とはいい難い。そして、2007年勧告は、1990年勧告と異なり、放射線審議会による国内制度等への取入れの意見具申がされたものではなく、また、実用的な放射線防護体系を勧告する目的から、約100mSv を下回る線量においては、ある一定の線量の増加はそれに正比例して放射線起因の発がん又は遺伝性影響の確率の増加を生じるであろうという仮定(LNTモデル)を前提としており、科学的な不確かさを補う観点から公衆衛生上の安全サイドに立った判断ではあるものの、発電用原子炉施設の事故により放射線被ばくが起きた場合における被ばく状況としては、至急の注意を要する予期せぬ状況である緊急時被ばく状況において計画される最大残存線量の参考レベルとして提示された年間実効線量20mSv から100mSv の範囲の数値を参照するのが合理的であるということができる。現実にも、福島第一原発事故後においては、緊急時の防護措置についての2007年勧告を踏まえて、年間実効線量が20mSv に達するおそれのある地域が計画的避難区域として指定され、住民の避難が行われたものである。以上からすれば、原子炉施設の事故により放射線被ばくが起きたときに年間実効線量が20mSv に達するおそれのある地域に居住する住民は、事故時に年間実効線量20mSv 以上の被ばくをし、一定の確率的影響を受けるおそれがあるとともに、住居からの避難を指示され、生命、身体及び財産に対する直接的かつ重大な被害を受けるものと想定されるというべきである。イ そこで、年間実効線量20mSv 以上の被ばくを受けるおそれのある範囲につき検討すると、原子力委員会のH1委員長が政府からの指示により作成した平成23年3月25日付け「福島第一発電所の不測事態シナリオの素描」(本件資料)によれば、福島第一原発事故において、1号機の水素爆発の後に4号機の使用済燃料プールから放射性物質が放出され、続いて他の号機の使用済燃料プールからも放射性物質の放出がされた場合、セシウム137の土壌汚染の度合いは、148万ベクレル/㎡を超えて強制移転を求めるべき地域が110㎞以遠(1炉心分)又は170㎞以遠(2炉心分)に、55万5000ベクレル/㎡を超えて任意移転を認める地域が200㎞以遠(1炉心分)又は250㎞以遠(2炉心分)に生じる可能性があり、初期濃度が148万ベクレル/㎡の場合、線量率は当初約90mSv/年、1年後約40mSv/年となり、20mSv/年となるのは約5年経過時であり、初期濃度が55万5000ベクレル/㎡の場合、線量率は当初40mSv/年弱、1年後20mSv/年弱となると想定されている。本件各原子炉施設について、これらが福島第一原発(1号機が46万 kW、2~4号機が各78.4kW)と比べて、その電気出力(本件各原子炉が各82.6万 kW)や使用済燃料(令和3年度末時点で2939体(弁論の全趣旨・原告ら準備書面(89)4頁))等の点において、原子炉施設の事故時における放射性物質の放出量が特段低いというべき事情をうかがわせる証拠は提出されておらず、本件各原子炉施設の安全性が損なわれる重大な事故等が生じた場合には、その放射性物質の放出量を別異に解すべきものとはいい難い。そうすると、本件各原子炉施設において事故が起き、本件資料のような事態となった場合、セシウム137の土壌汚染の度合いが148万ベクレル/㎡となり強制移転を求めるべき地域が2炉心分の170㎞以遠となる可能性があることを否定し得ないから、本件各原子炉から170㎞以内に住む原告らは、年間実効線量20mSv 以上の被ばくをするおそれがあり、住居からの避難を求められるおそれがあると認められるというべきである。したがって、本件各原子炉から170㎞以内に住む原告らは、いずれも本件各訴えの原告適格を有するというべきであり、これより遠方に住む原告ら(別紙1原告目録の番号21、22、27、36、37、47、54、72、74、76、98、99及び110。本件各原子炉と原告らの居住地との距離は、別紙1原告目録の「距離(㎞)」欄記載のとおりである(弁論の全趣旨・原告ら準備書面(72)、(126))。)は、原告適格を有しないというべきである。ウ これに対し、原告らは、H2シミュレーションに基づいて、全ての原告について原告適格が認められる旨を主張するが、H2シミュレーションは、電気出力100万 kW のPWRが事故を起こした際、原子炉1基からヨウ素131が218京ベクレル、セシウム137が10.7京ベクレル、それぞれ環境中に放出されるとし、この計算手法による高浜発電所1号機(電気出力82.6万 kW)が過酷事故を起こした場合の推定は、185㎞の地点は年間250mSv、516㎞の地点は年間50mSv となり、年間20mSvとなるのは800~1000㎞に及ぶというものである(甲F45)が、これはUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)が行った福島第一原発事故による1~3号機(電気出力合計202.8万 kW)の放射性物質の放出量の推定値(ヨウ素131が約10~50京ベクレル、セシウム137が0.6~2京ベクレル、より限られた情報に基づく一部の推定値でも4京ベクレル)と比べて、電気出力が約2分の1であるにもかかわらず、ヨウ素131が約4~20倍、セシウム137が約3~27倍多く計算されている上に、算出方法も、簡便な方法としてH2が独自に計算した適当な変数係数を使用し、独自に工夫した近似関数を用いたものであり、放射性物質の放出量の推定値として原告適格の判断において用いるにはその信用性に疑義があり、これを原告らが被ばくを受けるおそれの数値として用いることはできない。2 出訴期間について(1) 48号事件は、令和4年5月17日に提訴されたところ、取消しを求める令和3年設置変更許可処分は令和3年5月19日にされたものである。48号事件原告らは、令和4年4月頃に令和3年設置変更許可処分がされたことを知った旨主張し、被告らはこれを不知とするところ、令和3年設置変更許可処分は参加人を名宛人とするものであり、48号事件原告らに通知されるものではなく、同原告らが令和4年4月頃よりも早く同処分がされたことを知っていたと認めるに足りる証拠もないから、同原告らが同処分がされたことを知ったのは令和4年4月頃と認めるのが相当である。(2) よって、48号事件は、処分があったことを知った日から6か月以内かつ処分の日から1年以内に提訴されており、出訴期間内に提訴された適法な訴えと認められる。3 争点2(判断枠組み)について(1) 発電用原子炉の設置、運転等に関する規制の権限を原子力規制委員会に付与した趣旨上記第2の2(2)のとおり、炉規法は、原子力規制委員会において、発電用原子炉設置(変更)許可、工事計画認可、保安規定(変更)認可及び運転期間延長認可の各処分について、炉規法が定める基準に適合するか否かを審査し、これに適合していると認めるときに各処分をすることとしている。その趣旨は、発電用原子炉が原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する核燃料物質を燃料として使用する装置で発電の用に供するものであり、その稼働により内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるものであって、発電用原子炉設置者が適切に発電用原子炉の設置、工事、運転、保安等をしなければ、当該発電用原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命、身体、当該発電用原子炉施設の敷地内又はその周辺に存する財産に重大な危害を及ぼし、周辺の環境を放射性物質により汚染するなどの深刻な災害を引き起こすおそれがあることにかんがみ、このような災害が万が一にも起こらないようにするため、発電用原子炉設置(変更)許可、工事計画認可、保安規定(変更)認可、運転期間延長認可等の各段階で、科学的、専門技術的見地から、十分な審査を行わせることにあるものと解される。上記の審査は、当該発電用原子炉施設そのものの工学的安全性、平常運転時における従業員、周辺住民及び周辺環境への放射線の影響、事故時における周辺地域への影響等を、当該発電用原子炉施設の設置場所の地形、地質、気象等の自然的条件、人口分布等の社会的条件及び当該発電用原子炉設置者の上記技術的能力との関連において、多角的、総合的見地から検討するものであり、しかも、上記審査の対象には、将来の予測に係る事項も含まれているのであって、上記審査においては、原子力工学はもとより、多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるものであることが明らかである。そして、上記第3の5のとおり、原子力規制委員会は、福島第一原発事故を契機として成立した設置法により新たに設置された被告の行政機関であり、原子力利用における安全の確保に関して高度の専門性を有する中立公正な独立した合議制の機関として、しかも、その任務にふさわしい組織性や権限を有するものとして設置されている。さらに、設置法の附則において炉規法が改正され、原子力規制委員会が原子力利用の安全の確保のための規制を一元的に行うものとされるなどし、その一環として、原子力規制委員会において、上記の発電用原子炉の設置変更許可、工事計画認可、保安規定(変更)認可及び運転期間延長認可の各処分に係る審査及び判断を行うこととされたことにかんがみると、炉規法が定める各処分の基準への適合性の判断については、原子力規制委員会の専門技術的裁量に委ねる趣旨と解するのが相当である。(2) 審理・判断の方法及び主張・立証の在り方について以上の点を考慮すると、炉規法が定める基準への適合性の判断の適否が争われる発電用原子炉設置(変更)許可処分、工事計画認可処分、保安規定(変更)認可処分及び運転期間延長認可処分の各取消訴訟又は無効確認訴訟における裁判所の審理及び判断は、原子力規制委員会の専門技術的な審査及び判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって、現在の科学技術水準に照らし、上記審査において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、又は、当該発電用原子炉施設が上記具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の審査及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があると認められる場合には、原子力規制委員会の上記審査及び判断に不合理な点があるものとして、上記審査及び判断に基づく処分は違法と解すべきである。そして、上記炉規法の定める各処分が上記のような性質を有することにかんがみると、原子力規制委員会がした上記審査及び判断に不合理な点があることの主張立証責任は、本来、原告らが負うべきものと解されるが、上記の基準への適合性の審査に関する資料を全て被告の行政機関である原子力規制委員会の側が保持していることなどの点を考慮すると、被告において、まず、その依拠した上記具体的審査基準並びに審査及び判断の過程等、原子力規制委員会の審査及び判断に不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要があり、被告がこの主張、立証を尽くさない場合には、原子力規制委員会がした上記審査及び判断に不合理な点があることが事実上推認されるものというべきである。なお、設置法の制定とこれによる炉規法等の改正に伴い、原子力安全委員会等が定めていた安全指針類の内容の一部に相当するものが、原子力規制委員会規則として制定されたところ、設置法26条により原子力規制委員会に規則の制定権が付与され、炉規法の委任という民主的正統性を有する法規命令として設置許可基準規則、技術基準規則、実用炉規則等が制定されているから、原子力規制委員会規則については、それが炉規法の委任の範囲を逸脱するなどし、違法無効でない限りは、行政主体と私人の関係の権利義務に関する一般的規律として外部的効果を有するものであり、その不合理性は司法審査の対象にはならないというべきである。また、新規制基準のうち原子力規制委員会規則以外のものについては、審査における用いられ方を踏まえて、その不合理性を判断すべきである。(3) 本件各処分の審理対象について炉規法(平成28年各処分時のもの)は、その規制の対象を、製錬事業(第2章)、加工事業(第3章)、原子炉の設置、運転等(第4章)、貯蔵事業(第4章の2)、再処理事業(第5章)、廃棄事業(第5章の2)、核燃料物質等の使用等(第5章の3)、国際規制物資の使用等(第6章の2)等に分け、それぞれにつき原子力規制委員会の指定、許可、認可等を受けるべきものとしているのであるから、第4章所定の原子炉の設置、運転等に対する規制は、専ら原子炉設置の許可等の同章所定の事項をその対象とするものであって、他の各章において規制することとされている事項までをその対象とするものでないことは明らかである。また、炉規法第4章の原子炉の設置、運転等に関する規制の内容をみると、発電用原子炉の設置の許可、変更の許可(同法43条の3の5、同条の3の8)のほかに、工事の計画の認可(同法43条の3の9)、使用前検査(同法43条の3の11)、保安規定の認可(同法43条の3の24)、定期事業者検査(同法43条の3の16)、運転期間の延長の認可(同法43条の3の32)、原子炉の廃炉措置の認可(同法43条の3の34)等の各規制が定められており、これらの規制が段階的に行われることとされている。したがって、原子炉の設置の許可の段階においては、専ら当該原子炉の基本設計のみが規制の対象となるのであって、後続の工事の計画の認可(同法43条の3の9)の段階で規制の対象とされる当該原子炉の具体的な詳細設計及び工事の方法は規制の対象とはならず、設置(変更)許可処分の取消訴訟において審理、判断の対象となる事項は、基本設計に関わる事項に限られ、工事計画認可処分の段階においては、当該発電用原子炉施設の具体的な設計や工事方法といった詳細設計の妥当性を審査するものであって、工事計画認可処分の取消訴訟において審理、判断の対象となる事項は、詳細設計に関わる事項に限られるというべきである。また、保安規定(変更)認可処分の審査においては、炉規法43条の3の24第1項が委任する実用炉規則92条1項各号に掲げる事項について定めた保安規定を確認することで、保安規定(変更)認可申請が炉規法43条の3の24条2項に規定する「核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上十分でないと認めるとき」に該当するかどうかを審査するものであるから、保安規定(変更)認可処分に係る取消訴訟において審理、判断の対象となるのは、上記申請に係る保安規定の妥当性に関わる事項に限られ、このうち、実用炉規則(令和2年原子力規制委員会規則第3号による改正前のもの)82条2項、92条1項25号の高経年化対策に係る保安規定変更認可処分の審査においては、高経年化技術評価の技術的妥当性や同評価の結果を踏まえて長期保守管理方針が策定されているかを確認することで、保安規定変更認可申請が炉規法43条の3の24条2項の要件に該当するかどうかを審査するものであるから、高経年化技術評価に係る本件保安規定変更認可処分の取消訴訟において審理、判断の対象となるのは、高経年化技術評価及び長期保守管理方針の妥当性に関わる事項に限られるというべきである。そして、運転期間延長認可処分の審査においては、申請に至るまでの間の運転に伴い生じた発電用原子炉その他の設備の劣化の状況の把握のための点検(特別点検)が適切に実施され、それを踏まえ、延長しようとする期間における運転に伴い生ずる発電用原子炉その他の設備の劣化の状況に関する技術的な評価(劣化状況評価)及び運転しようとする期間における発電用原子炉その他の設備についての保守管理に関する方針(保守管理方針)の策定が適切に実施されていること等を確認することで、実用炉規則114条の規定する認可の基準への適合性を審査するものであるから、運転期間延長認可処分に係る取消訴訟において審理、判断の対象となるのは、特別点検の結果、劣化状況評価及び保守管理方針の妥当性に関わる事項に限られるというべきである。(以上につき、伊方最高裁判決参照)これは、平成29年法律第15号による炉規法改正により、同法43条の3の9の「工事の計画の認可」が「設計及び工事の計画の認可」へと改正され、同法43条の3の11の「使用前検査」が「使用前事業者検査等」へと改正されるなどした後であっても変わるものではない。(4) 無効確認の要件についてア 処分の無効原因については、処分要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大かつ明白な誤認があると認められる場合を指すものと解すべきである(最高裁昭和34年9月22日第三小法廷判決・民集13巻11号1426頁)とされ、また、裁量処分の無効原因についても、行政庁が行政処分をするにあたってした裁量権の行使がその範囲を超え又は濫用にわたり、したがって、右行政処分が違法であり、かつ、その違法が重大かつ明白であることを原告らにおいて主張・立証することを要するものと解するのが相当である(最高裁昭和42年4月7日第二小法廷判決・民集21巻3号572頁)とされている。処分の無効原因としての瑕疵の重大性とは、行為に内在する瑕疵が重要な法規違反であることをいい、処分の無効原因としての瑕疵の重大性とそれによってもたらされる結果の重大性とは区別されなければならず、処分の瑕疵によってもたらされる結果に着目してその重大性の有無を論ずるのは、相当ではない。無効事由に該当する瑕疵が認められるのは、取消訴訟の手続によることなくその主張を認めることが相当と認められる場合であるから、出訴期間を経過しても、その瑕疵を争わせるに足りるものであるような顕著な違法があることが必要というべきであり、処分に重大な瑕疵があることに加え、瑕疵の存在が明白に認められることを要するというべきである(最高裁昭和30年12月26日第三小法廷判決・民集9巻14号2070頁、同昭和31年7月18日大法廷判決・民集10巻7号890頁等)。そして、瑕疵が明白であるというのは、処分成立の当初から誤認であることが外形上、客観的に明白であることを指すものと解すべきであり、また、瑕疵が明白であるかどうかは、処分の外形上、客観的に誤認が一見看取し得るものであるかどうかにより決すべきである(最高裁昭和36年3月7日第三小法廷判決・民集15巻3号381頁)。また、客観的に明白ということは、特に権限ある国家機関の判断を待つまでもなく、何人の判断によっても、ほぼ同一の結論に到達し得る程度に明らかであることを指すものと解すべきである(最高裁昭和37年7月5日第一小法廷判決・民集16巻7号1437頁)。そして、炉規法43条の3の23は、発電用原子炉施設の位置、構造若しくは設備が同法43条の3の6第1項4号の基準に適合していないと認めるとき、発電用原子炉施設が同法43条の3の14の技術上の基準に適合していないと認めるとき、又は発電用原子炉施設の保全、発電用原子炉の運転若しくは核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物の運搬、貯蔵若しくは廃棄に関する措置が同法43条の3の22条1項の規定に基づく原子力規制委員会規則(実用炉規則)の規定に違反していると認めるときは、その発電用原子炉設置者に対し、当該発電用原子炉施設の使用の停止、改造、修理又は移転、発電用原子炉の運転の方法の指定その他保安のために必要な措置を命ずることができる旨を規定しており、重大な違法が認められるときは当該措置の義務付けを求めることもできるのであるから、明白性の要件を要求することにより、原子力発電所の設置、運転等に係る重大な違法があるにもかかわらず、これを是正することができずに不都合な結果をもたらすということはできない。イ 本件において無効確認の対象となる保安規定変更認可処分についてみても、これを受けた発電用原子炉設置者に対する授益処分であり、原子炉施設を運営管理するために必要な人員の配置や管理方針を策定した当該処分の名宛人自身はもとより、原子炉施設の運営に関わる多数の利害関係人の利害が関わっているから、第三者の不利益をおよそ考慮する必要がなく、出訴期間の経過にかかわらず、不利益を解消することが強く要請される事案とは異なる。ウ 以上からすれば、保安規定(変更)認可の無効確認訴訟においても、瑕疵の存在の明白性を不要とすべき例外的事情は認められず、原則どおり同要件が必要であると解すべきである。(5) 原告らの主張についてア 原告らは、科学の不確実性や原子力発電所の事故の特殊性に照らし、「疑わしきは安全のために」という基本方針を採用し、本件各処分に係る新規制基準の内容に、原告らの指摘するような不合理な点がないこと(基準合理性審査)並びに原子力規制委員会による新規制基準適合性の審査及び判断の過程において、原告らの指摘するような過誤、欠落の存在するおそれがないこと(基準適合性審査)の各点について、被告が相当の資料に基づいて立証を尽くさなければ、本件各処分を違法として取消し又は無効確認を認めるべきであると主張する。しかしながら、設置法は、専門技術的な知見を有し、行政機関から独立性を有する3条委員会として原子力規制委員会を設置し、炉規法は、これを前提として、原子力規制委員会が、設置変更許可、工事計画認可、保安規定(変更)認可、運転期間延長認可等の各処分において、各処分の要件を満たすと判断する場合に各処分をする旨を定めていることからすると、上記各処分に当たって原子力規制委員会に専門技術的裁量があることは明らかであり、上記各処分に対する司法審査においては、裁判所が原子力規制委員会に代わって判断代置型審査を行うことは予定されておらず、このような原子力規制委員会の専門技術的裁量に基づく判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであるから、これと異なる原告らの主張は採用できないイ 原告らは、新規制基準の下での再稼働にかかわる審査・検査に関しては、設置変更許可、工事計画認可及び保安規定認可に関連する申請を同時期に受け付け、ハード・ソフト両面から一体的に審査を実施することとし、また、運転期間延長にかかわる審査・検査においては、設置変更許可、工事計画認可及び保安規定認可に関連する申請を同時に受け付け、一体的な審査の実施が求められているなど、基本設計と詳細設計の区別は希薄化しており、本件は再稼働かつ運転期間延長に関わる平成28年各処分の取消しを求めるものであるから、詳細設計も設置変更許可処分の司法審査の対象となるべきと主張する。しかしながら、再稼働や運転期間延長にあたって設置変更許可、工事計画認可及び保安規定認可に関連する申請を同時に審査するとしても、それぞれの処分ごとに、それぞれの審査基準に照らした審査をするのであるから、設置変更許可処分において詳細設計が司法審査の対象となるものではなく、あくまで工事計画認可において司法審査の対象となるというべきである。ウ そのほか、原告らは、運転期間延長認可処分についてはより厳格に司法審査をすべきである、行政庁の判断に不合理な点がないことについて被告が主張立証責任を負うべきである、令和3年保安規定変更認可無効確認の訴えにおいて明白性の要件は不要であるなどと主張するが、上記に説示したとおり、いずれも当裁判所の判断と異なるものであり、採用することができない。第7 当裁判所の判断(地震に関する争点)1 認定事実(地震)(1) 地震に関する規制の概要ア 設置(変更)許可関係(ア) 炉規法43条の3の6第1項4号は、設置(変更)許可をするための要件として「発電用原子炉施設の位置、構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものであること」を規定し、同号の委任を受けた設置許可基準規則は、「設計基準対象施設は、地震力に十分に耐えることができるものでなければならない」(4条1項)、その「地震力は、地震の発生によって生ずるおそれがある設計基準対象施設の安全機能の喪失に起因する放射線による公衆への影響の程度に応じて算定しなければならない」(同条2項)、「耐震重要施設は、その供用中に当該耐震重要施設に大きな影響を及ぼすおそれがある地震による加速度によって作用する地震力(基準地震動による地震力)に対して安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならない」(同条3項)と規定する。(イ) 設置許可基準規則4条に関する設置許可基準規則解釈(乙B5・122~132頁)は、同条の解釈について、別記2のとおりとする旨を定めており、その概要は、別紙8設置許可基準規則解釈の別記2の概要のとおりである。また、原子力規制委員会は、設置許可基準規則及び設置許可基準規則解釈の趣旨を十分踏まえ、基準地震動及び基準津波の策定並びに地盤の安定性評価等に必要な調査及びその評価の妥当性を厳格に確認するために活用することを目的として地質ガイド(乙B19)を定め、さらに、設置許可基準規則及び設置許可基準規則解釈の趣旨を十分踏まえ、基準地震動の妥当性を厳格に確認するために活用することを目的として地震ガイド(乙B20)を定めている。地質ガイド及び地震ガイドは、規制基準に関連する内規(行政手続法上の審査基準に該当しないもの)に位置付けられるものであり、これら以外の手法等であっても、その妥当性が適切に示された場合には、その手法等を用いることは妨げないとされている(地質ガイド及び地震ガイドの各附則)。地質ガイドの概要は、別紙9地質ガイドの概要のとおりであり、地震ガイドの概要は、別紙10地震ガイドの概要のとおりである。(ウ) 地震ガイドは、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の「断層モデルを用いた手法による地震動評価」における震源断層のパラメータは、地震調査研究推進本部(推本)による「震源断層を特定した地震の強震動予測手法」(レシピ)等の最新の研究成果を考慮することとしており、レシピ(甲D153、乙D4、95)の概要は、別紙11レシピの概要のとおりである。イ 工事計画認可(平成29年法律第15号による改正後は、設計及び工事の計画の認可)関係(ア) 平成29年法律第15号による改正前の炉規法43条の3の9第1項は、「発電用原子炉施設の設置又は変更の工事(括弧内略)をしようとする発電用原子炉設置者は、原子力規制委員会規則で定めるところにより、当該工事に着手する前に、その工事の計画について原子力規制委員会の認可を受けなければならない」と規定し、同条3項は、発電用原子炉施設が同法43条の3の14の技術上の基準に適合するものであること(同法43条の3の9第3項2号)等を工事計画認可の要件としている。平成29年法律第15号による改正前の同法43条の3の14本文は、「発電用原子炉設置者は、発電用原子炉施設を原子力規制委員会規則で定める技術上の基準に適合するように維持しなければならない」と規定し、原子力規制委員会は、この委任を受けて技術基準規則を定め、その解釈として技術基準規則解釈(乙B9)を定めている。(イ) また、原子力規制委員会は、発電用軽水型原子炉施設の工事計画認可に係る耐震設計に関わる審査において、審査官等が設置許可基準規則及び設置許可基準規則解釈並びに技術基準規則及び技術基準規則解釈の趣旨を十分踏まえ、耐震設計の妥当性を厳格に確認するために活用することを目的として、耐震工認審査ガイド(乙B60)を定めており、耐震工認審査ガイドは、規制基準に関連する内規に位置づけられるものであり、耐震工認審査ガイドに記載されている手法等以外の手法等であっても、その妥当性が適切に示された場合には、その手法等を用いることは妨げないとされている(同ガイドの附則)。耐震工認審査ガイドの概要は、別紙12耐震工認審査ガイドの概要のとおりである。(ウ) さらに、耐震工認審査ガイドは、機器・配管系の減衰定数について、JEAG4601 の規定を参考に設定するものとしているところ、機器・配管系の工事計画認可に関する JEAG4601 の概要は、別紙13機器・配管系の工事計画認可に関する JEAG4601 の概要のとおりである。(乙B50・16、17頁、乙B60・1、25、39頁、乙B156・16~18頁)(エ) 技術基準規則5条は、設計基準対象施設は、これに作用する地震力による損壊により公衆に放射線障害を及ぼさないように施設しなければならない(1項)、 耐震重要施設は、基準地震動による地震力に対してその安全性が損なわれるおそれがないように施設しなければならない(2項)と規定し、技術基準規則解釈(乙B9・17頁)は、技術基準規則5条2項について、設置許可基準規則4条3項の規定に基づき設置許可で確認した設計方針に基づき、耐震重要施設が、同項の基準地震動による地震力に対し、施設の機能を維持していること又は構造強度を確保していることをいうと規定する。ウ 使用前検査関係(ア) 原子力規制委員会は、発電用原子炉設置者が実際に当該工事に係る発電用原子炉施設を使用する前に使用前検査を実施し、上記工事が既に認可を受けた工事の計画に従って行われたものであるか否か及び技術基準規則で定める技術上の基準に適合するものであるか否かを確認する(炉規法43条の3の11第2項)。(イ) 1次冷却設備等の耐震設計については、工事計画認可の段階で、詳細設計の妥当性を審査し、その上で、現実に工事がされた物に対し使用前検査を行うことによって、認可された工事計画どおりに実際に工事されているか否かを確認することとなっている(炉規法43条の3の9第1~3項、43条の3の11第2項)。エ 運転期間延長認可関係(ア) 平成29年法律第15号による改正前の炉規法43条の3の32第5項は、運転期間延長認可の要件として、認可の申請に係る発電用原子炉が、長期間の運転に伴い生ずる原子炉その他の設備の劣化の状況を踏まえ、延長しようとする期間において安全性を確保するための基準として原子力規制委員会規則で定める基準に適合していると認められることを規定し、同項による委任を受けた実用炉規則114条は、運転期間延長認可の基準として、「延長しようとする期間において、原子炉その他の設備が延長しようとする期間の運転に伴う劣化を考慮した上で技術基準規則に定める基準に適合するもの」であることを規定している。(イ) 原子力規制委員会は、実用炉規則114条の要求事項への適合性審査をするに当たって確認すべき事項をまとめたものとして、運転期間延長審査基準(乙B10)を定めており、運転期間延長審査基準は、実用炉規則113条2項2号に掲げる原子炉その他の設備の劣化の状況に関する技術的な評価(劣化状況評価)の結果、延長しようとする期間において、①同評価の対象となる機器・構造物が同基準の表に掲げる要求事項(運転延長)に適合すること、又は②同評価の結果、要求事項(運転延長)に適合しない場合には同項3号に掲げる延長しようとする期間における原子炉その他の設備についての保守管理方針の実施を考慮した上で、延長しようとする期間において要求事項(運転延長)に適合することを求めている。そして、運転期間延長審査基準は、劣化状況評価の対象となる機器・構造物に関する耐震安全性評価に関する要求事項(運転延長)として、「経年劣化事象を考慮した機器・構造物について地震時に発生する応力及び疲労累積係数を評価した結果、耐震設計上の許容限界を下回ること。」等を求めている。(乙B10・4頁)(2) 新規制基準の策定経緯ア 原子力規制委員会発足前の原子力安全委員会及び原子力安全・保安院における検討概要等(ア) 原子力安全委員会及び地震等検討小委員会における検討等原子力安全委員会の耐震指針検討分科会は、約5年にわたり43回の会合を重ね、3つのワーキンググループを設けた検討を行い、福島第一原発事故が起こる前の平成18年9月、当時の地質学、地形学、地震学、地盤工学、建築工学及び機械工学等の専門家らによる検討を踏まえて、発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(旧耐震指針)を改訂した(平成18年耐震指針)。平成18年耐震指針は、旧耐震指針が応答スペクトルに基づく地震動評価を中心として基準地震動S1、S2を策定することとしていたのに対し、断層モデルを用いた手法による地震動評価を取り入れ、震源を特定せず策定する地震動の評価手法を大きく変更し、基準地震動Ssを策定することとするなど、基準地震動の策定方法を大幅に変更するものであった。(甲B17、乙B44、156・46頁)平成23年3月、地震及び津波を原因とした福島第一原発事故が発生したことから、原子力安全委員会に設置された専門部会である原子力安全基準・指針専門部会は、安全確保策の抜本的な見直しについて検討するため、新たに地震及び津波に関する専門家17名を構成員とする地震等検討小委員会を設置した。地震等検討小委員会は、平成23年7月12日から平成24年2月29日までの間、合計14回の会合を開催し、東北地方太平洋沖地震及びそれに伴う津波の分析に加えて、女川発電所、福島第一発電所、福島第二発電所及び東海第二発電所で観測された地震、津波の観測記録等の分析を行うとともに、東北地方太平洋沖地震及びそれに伴う津波に係る知見並びに福島第一原発事故の教訓を整理したほか、平成18年の耐震指針の改訂後に実施された耐震バックチェックによって得られた経緯及び知見を整理し、推本(文部科学省)、中央防災会議(内閣府)、国土交通省等の他機関における東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う津波についての検討結果に加えて、土木学会における検討状況、世界の津波の事例及びIAEAや米国の原子力規制委員会等の規制状況、福島第一原発事故に関連した調査報告書も踏まえて平成18年耐震指針及び関連指針類に反映させるべき事項について検討を行い、想定外の地震が発生したことを踏まえて、「残余のリスク」に係る事項についても検討を行った。以上の検討を踏まえ、地震等検討小委員会は、平成24年3月14日付けで平成18年耐震指針の改訂案や、耐震や耐津波に関する安全審査で用いるための審査の手引きの改訂案を取りまとめ、原子力安全基準・指針専門部会は、平成24年3月、これらの改訂案を原子力安全委員会に対して報告した。(以上につき、乙B22~28、156)(イ) 原子力安全・保安院における検討原子力安全委員会は、平成23年4月、東北地方太平洋沖地震等の知見を反映して、原子力安全・保安院に対し、耐震安全性に影響を与える地震に関して評価を行うよう意見を述べた。原子力安全・保安院は、同年9月、事業者より報告された東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う津波による原子力発電所への影響などの評価結果について、学識経験者の意見を踏まえた検討を行うこと等により、地震・津波による原子力発電所への影響に関して的確な評価を行うため、地震・津波に関する意見聴取会及び建築物・構造に関する意見聴取会を設置し、審議を行った。地震・津波に関する意見聴取会においては、東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う津波について、福島第一発電所、福島第二発電所、女川発電所及び東海第二発電所における地震動及び津波の解析・評価を行い、これに基づく同地震に関する新たな科学的・技術的知見について、耐震安全性評価に対する反映方針が検討された。建築物・構造に関する意見聴取会においては、上記の各原子力発電所における建物・構築物、機器・配管系の地震応答解析の評価、津波による原子炉施設の被害状況を踏まえた影響評価を行い、これに基づく東北地方太平洋沖地震に関する新たな科学的・技術的知見について、耐震安全性評価に対する反映方針が検討された。これらの意見聴取会において、それぞれ報告書が取りまとめられ、平成24年2月、原子力安全委員会に報告された。(以上につき、乙B73~79、156・47、48頁)イ 原子力規制委員会における検討等(ア) 原子力規制委員会は、設置法に基づき炉規法が改正されたことなどを踏まえ、重大事故等への対策、地震及び津波以外の自然現象への対策に関する設計基準に加え、これまで原子炉設置許可の基準として用いられてきた原子力安全委員会が策定した安全設計審査指針等の内容を見直した上で、原子力規制委員会が定めるべき基準を検討するため、J1委員を担当委員とする原子炉施設等基準検討チームを構成した。また、自然現象に対する設計基準のうち、地震及び津波対策については、原子力規制委員会の前身である原子力安全委員会に設置された地震等検討小委員会の検討も踏まえた上で、原子力規制委員会が定めるべき基準を検討するため、元日本地震学会会長のJ6委員長代理を担当委員とする地震等基準検討チームを構成した。それぞれの検討チームは、原子力規制庁職員も参加し、また、関係分野の学識経験者を有識者として同席を求め、専門技術的知見に基づく意見等を集約する形で規制基準の見直しが行われた。(乙B80、81、156・48、49頁)(イ) 地震等基準検討チームにおいては、平成24年11月19日から平成25年6月6日までの間、発電用軽水型原子炉施設の地震・津波に関わる設置許可基準規則等策定のため、地震、津波及び地盤等の専門技術的知見を有する学識経験者6名をメンバーとし、検討内容に応じて地形学、地震、津波及び建築に関する学識経験者も参加して、合計13回の会合が開催され、種々の検討がされた。地震等基準検討チームは、上記の検討結果を踏まえ、地震・津波に関する新規制基準の骨子案を作成し、これについて、原子力規制委員会が平成25年2月に意見公募手続を行った結果も踏まえ、基準案を取りまとめた。(以上につき、乙B29~43、80、81、86、87、156・51~53頁)(ウ) 原子力規制委員会は、上記基準案に対し、行政手続法に基づいて平成25年4月11日から1か月間の意見公募手続を行い、その上で、設置許可基準規則等の規則及び当該規則の解釈を策定するとともに、発電用原子炉の設置許可に係る基準適合性審査で用いる各種審査ガイドを策定した。そして、原子力規制委員会は、平成25年6月19日、設置許可基準規則解釈、地震ガイド等を含むいわゆる新規制基準を策定した。(以上につき、乙B20、89、156・53頁)(3) 本件設置変更許可処分における設置許可基準規則4条(地震による損傷の防止)についての審査等ア 参加人は、本件設置変更許可申請に係る申請書(補正後)、審査会合の資料等において、次のとおり記載した。(ア) 本件各原子炉の敷地周辺の地震発生状況の調査・評価として、過去の被害地震について、地震資料及び明治以降の地震観測記録をもとに主な地震の震央位置、地震規模等を取りまとめた資料等から、本件各原子炉からの震央距離が200㎞程度以内の主な被害地震を確認し、それらのうち、本件各原子炉敷地に大きな影響(震度Ⅴ程度以上。現在の震度5弱程度以上)を及ぼすと考えられる9個の地震を、検討用地震の候補として抽出した。抽出された過去の被害地震は、活断層との関連や地震の発生深さから、いずれも内陸地殻内地震とした。その他、プレート間地震については、南海トラフに沿って有史以来M8クラスの大地震が繰り返し発生しているが、その震央は本件各原子炉敷地から概ね200㎞を超えて離れており、本件各原子炉敷地で震度Ⅴ以上の揺れが想定される地震はなく、海洋プレート内地震については、それら地震の多くが近畿中南部で発生しており、本件各原子炉敷地から離れた場所で発生しているため、いずれも敷地へ及ぼす影響は大きくないとした。(丙C2・添付書類六・6-4-2、5、6、22~26、29、49、51頁)(イ) 地質・地質構造の調査として、本件各原子炉の敷地周辺地域は、活断層が繰り返し活動しており、活断層の発達過程が「未成熟」ではなく、活動の痕跡が地表に現れている地域であることから、その現れた痕跡である地表地震断層を調査することで震源断層を把握することができる地域である。参加人は、本件各原子炉敷地周辺の陸域及び海域を対象に文献調査を実施し、概ね半径100㎞の範囲の地形及び地質・地形構造を把握するとともに、文献に記載されている活断層を抽出した。次に、本件各原子炉から少なくとも半径30㎞以内について次のとおり多様な調査を行った。(丙C2・添付書類六・6-1-2頁、丙C4・23頁)a 陸域の調査(a) 活断層の有無やその位置等を把握するため、空中写真判読、航空レーザー測量等を用いて変動地形学的調査を行った。(丙C2・添付書類六・6-16~71頁)(b) 文献調査及び変動地形学的調査により活断層又は変動地形・リニアメントの可能性があるとされた地形について、稠密な地表踏査を行い、さらにトレンチ調査、ピット調査、ボーリング調査、剥ぎ取り調査、反射法地震探査といった多様な手法を用いて地表地質調査等を実施し、後期更新世以降(約12~13万年前以降)に堆積した地層における断層活動の痕跡の有無を確認し、変位・変形が確認できた場合は、「震源として考慮する活断層」とした。(丙C2・添付書類六・6-16~71頁)(c) 本件各原子炉敷地の地質は、下位から古生代ペルム紀の大浦層及び舞鶴層群、中生代白亜紀の音海流紋岩、新生代新第三紀中新世の内浦層群、石英閃緑岩及び青葉山安山岩類並びに新生代第四紀の堆積物から構成されている。(丙C2・添付書類六・6-1-93~95頁、丙C3・添付書類六・6-1-93~95頁)ボーリングコア の採取率は約100%であり、R.Q.Dの平均値は80%以上を示していることから、岩石は硬質であり、基礎岩盤は非常に安定した岩盤であると考える。(丙C2・添付書類六・6-1-114頁)b 海域の調査参加人は、地質調査所(現在の産総研)及び海上保安庁等が行った海上音波探査記録を用いて地質・地質構造を評価するとともに、自らも海上ボーリング調査及び海上音波探査を行った。この際、参加人は、海上ボーリング調査で採取した堆積物や岩石を分析し、海域に堆積している地層の年代と深度を把握した上で、海上音波探査を行った。これらの調査により、陸域と同様、後期更新世以降の断層活動の痕跡の有無を確認し、敷地に与える影響が大きい断層については、その端部や延長部分の付近において、断層の走向に対して直行するように複数の測線を配置し、断層の端部を慎重に評価した。(丙C2・添付書類六・6-1-71~81頁、丙C5・160~170頁)c 参加人は、以上の調査結果を基に、震源として考慮する活断層のうち本件各原子炉に与える影響が大きいと考えられる FO-A~FO-B 断層、熊川断層及び上林川断層について、その位置を詳細に把握し、地震動の評価が安全側となるよう、次のとおり、長さや連動の可能性を保守的に評価した。(a) FO-A 断層は、既存文献では、長さ18㎞、FO-B 断層は記載がなかったが、詳細に海上音波探査等を行い、慎重に検討した結果、長さをそれぞれ約24㎞、約11㎞と評価し、両断層はそれらを区分する測線において鉛直方向の変位量が認められないこと等から個別の断層と評価されるが、断層の走行がいずれも同じであること等、特徴が類似していることから、同時活動するものとし、FO-A~FO-B 断層として、その長さを約35㎞と評価した。(丙C2・添付書類六・6-1-29~36頁、丙C5・43~73頁)(b) 熊川断層は、既存文献では長さ9㎞又は12㎞とされていたが、反射法地震探査や地形・地質の状況から、その長さを約14㎞と評価した。FO-A~FO-B 断層と熊川断層は連動しないと判断したが、十分に保守的な評価を行う観点から、FO-A~FO-B 断層と熊川断層が連動するという震源断層モデルを設定し、断層長さは63.4㎞とした。(丙C2・添付書類六・6-1-11、27、29~36、73~78頁、丙C5・43~73頁)(c) 上林川断層は、既存文献では長さ約26㎞とされていたが、詳細な地形・地質調査を行い、約39.5㎞と評価した。(丙C2・添付書類六・6-1-20~29頁)(ウ) 地震動評価に影響を与える地域特性の評価a 参加人は、FO-A~FO-B 断層、熊川断層、上林川断層について、地形・地質調査の結果や、若狭湾付近の広域応力場と断層の方向との関係から、いずれも横ずれ断層と評価し、既往の知見を踏まえて断層傾斜角を90°と評価した。(丙C1・68、101頁)b 参加人は、断層の幅(地震発生層の深さ)について、上端深さをできるだけ浅く評価して4㎞と評価した上、より保守的に3㎞として地震動評価を行った。また、下端深さは、気象庁の震源データを用いた震源深さの分布の検討等、既往の研究結果を用いて、保守的に18㎞と評価した。これにより、本件各原子炉に与える影響が大きいと考えられる活断層の幅は15㎞と評価した。(丙C10・77頁)c 参加人は、地震波の伝播特性のうち内部減衰について、若狭湾付近で発生した20個の中小の内陸地殻内地震の地震記録から同地域のQ値(内部減衰についての媒質に固有の値。小さいほど減衰の効果が大きい。)についての知見を基に、Q値を50f1・1と設定した。(丙C1・80頁)d 参加人は、本件各原子炉敷地の地表面近くの浅部地盤の速度構造について、ボーリング調査による地盤の特徴を調査した上で、PS検層、試掘坑弾性波探査、反射法地震探査等を行い、それらの調査結果を総合して評価し、敷地浅部にP波速度及びS波速度がそれぞれ約4.3㎞/s、約2.2㎞/s の硬質な地盤が広がっていることを確認した。その上で、反射法地震探査によって、本件各原子炉敷地の地下に、地層の極端な起伏等の地震波の伝播に影響を与えるような特異な構造が認められないことを確認した。そして、参加人は、本件各原子炉の地下構造について、地震動評価上は水平成層構造とみなしてモデル化できると評価し、1次元の速度構造モデルを作成することにした。(丙C2・添付書類六・6-4-7、8頁、丙C10・6~61頁)e 参加人は、地震波干渉法及び微動アレイ観測により、本件各原子炉敷地内や周辺地点において、常時存在する地面の小さな揺れの観測を行い、その観測記録を解析して、深部までの地盤の速度構造を評価した。(丙C11)(エ) 「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の評価a 参加人は、「検討用地震」の候補として抽出された25個の地震を対象に、地震の規模及び敷地までの距離に基づいて敷地に与える影響を検討し、FO-A~FO-B~熊川断層及び上林川断層による地震の2つを検討用地震として選定し、下記b及びcのとおり、「応答スペクトルに基づく地震動評価」及び「断層モデルを用いた手法による地震動評価」を行った。(丙C1・9頁、丙C2・添付書類六・6-4-9頁)b 「応答スペクトルに基づく地震動評価」(a) 参加人は、設置許可基準規則解釈の別記2及び地震ガイドの要求事項を踏まえ、距離減衰式について耐専式を用いることとした。耐専式は、地震の規模(M)と等価震源距離(Xeq)から応答スペクトルが求められ、これに評価地点の地盤増幅率を乗じることで地震動を評価するものである。(丙C1・62頁)(b) 耐専式に用いる地震の規模(M)については、松田式を用いた。(丙C1・62頁)(c) 耐専式は、その開発に当たって基礎とされた地震観測記録群に、等価震源距離が「極近距離」よりも著しく短い場合のデータは含まれず、「極近距離」より短くなるにつれて実際の地震動に比べて大きな評価結果が得られる傾向があるとされている。FO-A~FO-B~熊川断層は極近距離より若干短かったが、乖離の程度が小さかったことから、保守的に評価する観点から FO-A~FO-B~熊川断層及び上林川断層共に耐専式を適用した。そして、本件各原子炉敷地の解放基盤表面のS波速度が約2.2㎞/s であることから、耐専式で用意されているS波速度2.2㎞/s の場合の評価方法を用いた。(丙C1・63頁、丙C2・添付書類六・6-4-7頁)(d) 耐専式は、内陸地殻内地震に適用できるとして用意されている低減係数である内陸補正係数0.6があるが、保守的に評価する観点から用いないこととした。(丙C2・添付書類六・6-4-10、11頁、丙D13)(e) アスペリティの配置は、等価震源距離が短くなるよう、基本ケースとして、断層面のうち本件各原子炉に近い位置にアスペリティを配置した。さらに、FO-A~FO-B 断層と熊川断層の間の区間をまたいでアスペリティを一塊に寄せ集める不確かさを考慮したケースも想定した。(丙C1・72、82、84頁、丙C2・添付書類六・6-4-69、71、72頁)(f) 断層傾斜角は、90°と評価したが、不確かさを考慮したケースとして、保守的に等価震源距離が短くなるよう75°としたケースを設定した。(丙C1・68、70、71頁、丙C2・添付書類六・6-4-10、32頁)c 「断層モデルを用いた手法による地震動評価」(a) 参加人は、短周期側について統計的グリーン関数法を用いて計算した地震動と、長周期側について理論的方法を用いて計算した地震動とを組み合わせる、ハイブリッド合成法を用いて波形合成を行うこととした。(丙C1・66頁、丙C2・添付書類六・6-4-11頁)(b) 震源断層面積(S)は、保守的な条件により設定した震源となる断層の長さ(L)及び断層の幅(W)から求め、不確かさの考慮として、FO-A~FO-B~熊川断層について、断層傾斜角を75°にしたケースも設定した。(丙C1・80頁、丙C2・添付書類六・6-4-36頁)(c) 参加人は、レシピで提案されている入倉・三宅式を用いて、震源断層面積から地震モーメントを求めた。(丙C1・73、80、104頁、丙C2・添付書類六・6-4-35、36、40頁)(d) 参加人は、レシピで提案されている壇ほか式を用いて、地震モーメントから短周期レベルを求めた。(丙C1・73、104頁、丙C2・添付書類六・6-4-35、40頁)(e) 参加人は、新潟県中越沖地震の短周期レベルが平均的な短周期レベルの1.5倍であったとの新たな知見について、基本ケースとするのではなく、不確かさとして考慮することとして、短周期の地震動レベルを1.5倍とするケースも設定した。(丙C1・70頁、丙C2・添付書類六・6-4-32頁)(f) 参加人は、短周期レベルからアスペリティ面積を求めた。レシピにおいては、壇ほか式からアスペリティ面積を求める方法も示されているが、その方法は断層が長大で面積が大きくなるほどアスペリティ面積が過大評価となる傾向にあるとされており、FO-A~FO-B~熊川断層については関係式による算定の結果、アスペリティ面積比が30%を超えたため、アスペリティの総面積は断面総面積の20~30%に分布するとの知見が示されていることを考慮し、レシピに示された Somerville et al.(1999)で提案されている知見により、アスペリティ面積比を22%としてアスペリティ面積を求めた。(丙C1・74、81、104頁、丙C2・添付書類六・6-4-35、36、40頁)(g) 参加人は、震源断層全体の応力降下量について、レシピで示された方法により、FO-A~FO-B~熊川断層については、内陸の長大な横ず れ 断 層 に 係 る 震 源 断 層 全 体 の 応 力 降 下 量 に つ い て 、Fujii&Matsu’ura(2000)において提案されている3.1MPa とし、上林川断層については Eshelby(1957)等で提案されている震源断層面積及び地震モーメントから求める方法を用いた。(丙C1・73、104頁、丙C2・添付書類六・6-4-35、40頁)(h) 参加人は、アスペリティの応力降下量について、レシピに示されている Madariaga(1979)で提案されている震源断層面積に占めるアスペリティ面積の割合22%と、震源断層全体の応力降下量3.1MPa からアスペリティの応力降下量を求める関係式により、アスペリティの応力降下量14.1MPa を求めた。なお、各アスペリティの応力降下量は同じ値に設定した。(乙D4・11頁、丙C1・74、76、78、81、83、85頁)(i) 参加人は、破壊伝播速度について、既往の研究においてS波速度の0.72倍とされていることから、これを基本ケースとし、不確かさの考慮として、破壊伝播速度が大きくなり、より短い時間により多くの地震波が敷地に到達することで敷地の地震動が一般的に大きくなるよう、保守的に、既往の研究における不確かさも考慮した0.87倍としたケースを設定した。(丙C1・73、77、104、105頁、丙C2・添付書類六・6-4-35、38、40、41頁)(j) 参加人は、アスペリティの配置について、保守的な観点から、FO-A~FO-B~熊川断層、上林川断層のいずれについても、本件各原子炉敷地に近い位置、かつ、断層の上端に配置することで、より大きな地震動を想定することにした。さらに、不確かさの考慮として、アスペリティを一塊に寄せ集め、正方形又は長方形にして本件各原子炉敷地近傍に配置するケースも設定した。(丙C1・82、84頁、丙C2・添付書類六・6-4-39、71、72頁)(k) 参加人は、破壊開始点は、遠い方から近い方に破壊が進行していく場合に評価地点での地震動は大きくなるとされていることから、断層の端やアスペリティの端といった本件各原子炉敷地から遠い地点に置くなど、複数の位置に設定した。(丙C1・72、103頁、丙C2・添付書類六・6-4-69、73頁)(l) 参加人は、断層傾斜角及びすべり角について、断層傾斜角90°を基本ケースとし、不確かさの考慮として、FO-A~FO-B~熊川断層の断層傾斜角を75°、すべり角を30°上向きにしたケースを設定した。(丙C1・73、75、80、104頁、丙C2・添付書類六・64-4-35、36、37、40頁)(オ) 「震源を特定せず策定する地震動」の評価a 参加人は、加藤ほか(2004)で示されている応答スペクトルを採用した。(丙C2・添付書類六・6-4-12頁)b 参加人は、地震ガイドに例示されている Mw(モーメントマグニチュード)6.5以上の2地震である2008年岩手・宮城内陸地震と、平成12年鳥取県西部地震を検討し、平成12年鳥取県西部地震の震源近傍の賀祥ダムでの地震動の観測記録を用いることにした。賀祥ダムの地盤よりも本件各原子炉敷地の地盤の方が硬いため、地震波の増幅の程度は小さくなると考えられたが、保守的な観点から、地盤の特性による補正等は行わなかった。2008年岩手・宮城内陸地震については、地域性を比較して収集対象外とした。(丙C1・115頁、丙C2・添付書類六・6-4-12、13頁)c 参加人は、地震ガイドに例示されている Mw6.5未満の14の地震の中から、加藤ほか(2004)の応答スペクトルとの比較において特に影響が大きいと考えられ、かつ、はぎとり解析により観測点において地下の岩盤面(基盤面)における地震動を推定するために必要な精度の高い地盤情報が得られている記録は、平成16年北海道留萌支庁南部地震のみであったことから、この記録を採用することとした。この地震は、震源近傍の比較的軟弱な地盤の地表面上に地震計が設置されたHKDO20(港町観測点)における観測記録があるが、同観測点におけるボーリング調査やPS検層の結果をもとに、地表から解放基盤表面と評価できる硬さを有する岩盤面(基盤面)の深さ(地下41m)までの地下構造を検討・評価した上で、同観測点の基盤面における地震動の推定がされていたから、この推定された地震動を採用した。HKDOの基盤面よりも本件各原子炉敷地の方が硬いため、地震波による揺れは小さくなると考えられるが、保守的に評価するため、補正等を行わずに採用した。さらに、参加人は、HKDO20 の地下構造の不確かさを考慮して、基盤面から地表までの減衰をより大きく、すなわち基盤面における地震動をより大きく評価し、その評価結果を更に保守的に大きくして、「震源を特定せず策定する地震動」として評価し、応答スペクトルを設定した。(丙C1・118~120頁、丙C2・添付書類六・6-4-13頁)(カ) 基準地震動の策定a 参加人は、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の評価結果より、まず、「応答スペクトルに基づく地震動評価」の結果を踏まえ、基準地震動 Ss-1 の応答スペクトルを策定すると、最大加速度は水平方向で700gal、鉛直方向で467gal であった。(丙C2・添付書類六・6-4-127頁)b 次に、参加人は、「断層モデルを用いた手法による地震動評価」の結果のうち、基準地震動 Ss-1 を上回る4つのケースをそれぞれ基準地震動 Ss-2~Ss-5 として策定した。(丙C1・122頁、丙C2・添付書類六・6-4-14、117~119頁)c 参加人は、「震源を特定せず策定する地震動」の評価結果のうち、加藤ほか(2004)による応答スペクトルは全周期帯で基準地震動 Ss-1 を下回っていたことから基準地震動に採用しなかったが、平成12年鳥取県西部地震及び北海道留萌支庁南部地震の観測記録を考慮した応答スペクトルは一部周期で上回るため、基準地震動 Ss-6、Ss-7 として策定した。(丙C1・123頁、丙C2・添付書類六・6-4-14、15、123~125頁)d 以上の基準地震動 Ss-1~Ss-7 の応答スペクトルの最大加速度は、水平方向が基準地震動 Ss-1 の700gal、鉛直方向が基準地震動 Ss-6 の485gal である。(丙C1・128頁、丙C2・添付書類六・6-4-46頁)(キ) 基準地震動の年超過確率参加人は、基準地震動を超える地震動が発生する可能性について、確率論的な観点から定量的に確認したところ、Ss-1 の年超過確率は、短周期側では10-4~10-5程度、長周期側で10-5~10-6程度となった。また、基準地震動 Ss-6 及び Ss-7 の応答スペクトルと比較したところ、それらの年超過確率は10-4~10-6程度となった。(丙C2・添付書類六・6-4-17、145~147頁、丙9・25、27頁)イ 原子力規制委員会は、平成27年2月12日付けで許可された高浜発電所3号炉及び4号炉に係る設置変更許可処分に係る許可申請(既許可申請①)において、①「地下構造モデル」に関し、参加人が設定している解放基盤表面は、必要な特性を有し、要求されるS波速度を持つ硬質地盤の表面に設定されていること、高浜発電所敷地及び敷地周辺の地下構造の評価に関して、参加人が行った調査の手法は、地質ガイドを踏まえているとともに、調査結果に基づき地下構造を水平成層かつ均質と評価し、1次元地下モデルを設定しており、当該地下構造モデルは地震波の伝播特性に与える影響を評価するにあたって適切なものであることを確認し、②「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」に関し、参加人が、検討用地震ごとに、不確かさを考慮して「応答スペクトルに基づく地震動評価」及び「断層モデルを用いた手法による地震動評価」に基づき策定していることを確認し、③「震源を特定せず策定する地震動」に関し、参加人が、過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測規則を精査し、各種の不確かさ及び敷地の地盤物性を考慮して策定していることを確認し、④「基準地震動の策定」に関し、参加人が、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」及び「震源を特定せず策定する地震動」において、敷地の解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動として基準地震動を策定していることを確認し、それぞれ設置許可基準規則解釈の別記2の規定に適合していることを確認した。(乙C6・11~20頁)原子力規制委員会は、参加人が、本件設置変更許可申請について、敷地周辺の震源として考慮する活断層の評価を一部変更しているが、検討用地震の選定に変更はないとしていることについて、参加人が行った「敷地ごとに震源を特定して策定する活断層」、「震源を特定せず策定する活断層」に係る地震動評価の内容について審査した結果、本件設置変更許可申請における基準地震動は、既許可申請①から変更がないとしていることは妥当であると判断し、設置許可基準規則解釈の別記2の規定に適合していることを確認した。(乙C5の2・11、12頁)ウ 原子力規制委員会は、上記イの確認等を踏まえて、本件設置変更許可申請が設置許可基準規則4条に適合していると認め、平成28年4月20日付けで、参加人に対し、本件設置変更許可処分をした。(乙C1)(4) 本件工事計画認可処分における技術基準規則5条(地震による損傷の防止)についての審査ア 原子力規制委員会は、技術基準規則5条の基準地震動による地震力に対する構造強度に関する耐震設計について、耐震工認審査ガイドを参考に、以下のとおり審査をした。(乙C8の1及び2・各3~7頁)(ア) 耐震設計の基本事項として、設計基準対象施設を、これに作用する地震力による損壊により公衆に放射線障害を及ぼさないように施設するため、設置変更許可申請書の設計方針に基づくとともに、耐震工認審査ガイドを踏まえ、工事計画認可において実績のある JEAG4601 等の規格及び基準等に基づく手法を適用して、耐震重要度に応じてSクラス、Bクラス、Cクラスに分類した上で、それぞれの施設が耐震重要度に応じた地震力に対し構造強度を確保する設計としていること、耐震重要施設(Sクラスの施設)を、基準地震動による地震力に対して、当該施設の安全機能が損なわれるおそれがない施設とするため、設置変更許可申請書の設計方針に基づくとともに、耐震工認審査ガイドを踏まえ、工事計画認可において実績のある JEAG4601 等の規格及び基準等に基づく手法を適用して、基準地震動による地震力に対して、施設の機能を維持する設計としていることを確認した。(イ) 荷重の組合せについては、建物・構築物、機器・配管系、浸水防止設備及び津波監視設備の施設ごとに、耐震重要度分類に応じて、施設に作用する地震力と地震力以外の荷重を適切に組み合わせていることなどを確認した。(ウ) 建物・構築物、機器・配管系のそれぞれの強度評価における許容限界については、安全上適切と認められる規格及び基準等に基づき、施設の機能を維持又は構造強度を確保できる設定としていることなどを確認した。(エ) 既工認実績のない手法、条件等に係る確認として、炉内構造物及び蒸気発生器伝熱管の耐震性評価並びに制御棒の挿入時間の評価について、本件加振試験等の既往の知見を整理し、1次冷却設備を構成する蒸気発生器、冷却材ポンプ、1次冷却材管の振動性状に係る構造的特性が既往の知見と同等であることから3%の設計用減衰定数を適用できるとした上で、1次冷却設備に3%の設計用減衰定数を用いて得られる炉内構造物及び蒸気発生器伝熱管の発生応力並びに制御棒の挿入時間がそれぞれ許容値を満足することから、炉内構造物及び蒸気発生器伝熱管の構造強度並びに制御棒の挿入に係る機能が維持されることなどを確認した。イ 原子力規制委員会は、上記アの事項等の確認を踏まえて、本件工事計画認可申請が技術基準規則5条の規定に適合していると認め、平成28年6月10日付けで、参加人に対し、本件工事計画認可処分をした。(乙C8の1及び2・各7頁)(5) 本件運転期間延長認可処分における実用炉規則114条適合性(地震関係)についての審査ア 原子力規制委員会は、本件運転期間延長認可申請の実用炉規則114条への適合性に関する耐震安全性評価のうち、応力及び疲労累積係数の評価についての参加人の申請内容について、運転期間延長審査基準に基づいて、以下のとおり審査をした。(乙C9の1及び2・各28~32頁)(ア) 耐震安全上考慮する必要のある経年劣化事象の抽出について、低サイクル疲労等の劣化事象に加え、劣化傾向監視等の劣化管理がされている劣化事象のうち、これらの劣化事象が顕在化した場合に、振動応答特性上又は構造強度上から地震による影響が有意である事象を抽出していること、評価対象機器・構造物の抽出について、耐震安全上考慮する必要のある劣化事象に該当する機器・構造物であって、かつ応力評価及び疲労累積評価に影響を与える機器・構造物を抽出していることを確認した。(イ) 前提条件として、評価において使用する地震力は、工事計画認可で使用している地震力としていること、評価対象部位の劣化の想定は、運転開始後60年時点での推定劣化量又は取替基準値を使用していること、評価手法として、評価は、JEAG4601 等の規格に基づき、水平2方向及び鉛直方向地震力の組合せの評価手法を使用するなど、工事計画認可で使用している手法に従い実施していること、疲労累積係数評価は、通常運転時の疲労累積係数に地震時の疲労累積係数を加えて求めていること、評価で使用する流れ加速型腐食の減肉条件は、保守的な解析条件として、減肉形状を周軸方向一様減肉としていること、流れ加速型腐食による応力評価は、取替基準値による応力評価を行い、発生応力が許容応力を上回っている場合には、実測値を用いた運転開始後60年時点での推定劣化量による応力評価を行っていることを確認した。(ウ) 評価結果として、高浜発電所1号炉は、応力評価の結果、グランド蒸気系統の炭素鋼配管で、取替基準値による応力評価、実測値を用いた推定劣化量による応力評価ともに、発生応力が許容応力を上回ったことから、保守管理方針を策定し、それ以外の部位は、許容応力を下回ったこと、疲労累積係数評価の結果、疲労累積係数が1を下回ったこと、高浜発電所2号炉は、応力評価の結果、第4抽気系統、復水系統、グランド蒸気系統の炭素鋼配管で、取替基準値による応力評価、実測値を用いた推定劣化量による応力評価ともに、発生応力が許容応力を上回ったことから、保守管理方針を策定したこと、それ以外の部位は、許容応力を下回ったこと、疲労累積係数評価の結果、疲労累積係数が1を下回ったことを確認した。(エ) 保守管理方針として、評価の結果、要求事項を満足しない部位に加え、取替基準値による応力評価で発生応力が許容応力を上回った部位について、短期の保守管理方針として、「配管の腐食(流れ加速型腐食)については、肉厚測定による実測データに基づき耐震安全性評価を実施した炭素鋼配管(第4抽気系統配管、グランド蒸気系統配管、復水系統配管、ドレン系統配管)に対して、サポート改造等の設備対策を行い、必要最小肉厚まで減肉を想定した評価においても耐震安全性評価上問題ないことを確認し、サポート改造等の設備対策が完了するまでは、減肉進展の実測データを反映した耐震安全性評価を継続して行い、サポート改造等の設備対策が完了するまでの間、耐震安全性評価上問題ないことを確認する」と設定していることを確認した。イ 原子力規制委員会は、上記アの確認等を踏まえ、本件運転期間延長認可申請が、炉規法43条の3の32第5項に定める基準である実用炉規則114条に適合していると認め、平成28年6月20日付けで、参加人に対し、本件運転期間延長認可処分をした。(乙3の1及び2、乙9の1及び2・32頁)2 具体的審査基準並びに原子力規制委員会の審査及び判断について(1) 上記認定事実(地震)(3)~(5)のとおり、原子力規制委員会は、本件設置変更許可処分に係る地震関係の審査においては、設置許可基準規則解釈の別記2に基づき、地震ガイドを参考として、「断層モデルを用いた手法による地震動評価」を行うに当たっては、レシピの枠組みに従って基準地震動が策定されていることを確認し、本件工事計画認可処分に係る地震関係の審査においては、技術基準規則解釈に基づき、耐震工認審査ガイドや JEAG4601 等を参考として減衰定数等が設定されていることを確認し、本件運転期間延長認可処分に係る地震関係の審査においては、運転期間延長審査基準に基づいて疲労累積係数等の評価がされていることを確認したことが認められる。したがって、設置許可基準規則解釈、地震ガイド、技術基準規則解釈、耐震工認審査ガイド及び運転期間延長審査基準のうち、原子力規制委員会の審査に用いられた部分について、レシピや JEAG4601 等の用い方を含めて、具体的審査基準に当たると認められる。(2) 地震に関する新規制基準についてア 上記認定事実(地震)(2)のとおり、新規制基準は、東北地方太平洋沖地震及び福島第一原発事故を経て、原子力安全委員会に設置された専門部会である地震等検討小委員会における合計14回の会合を経て取りまとめられた平成18年耐震指針の改訂案及び耐震や耐津波に関する安全審査で用いるための審査の手引きの改訂案、原子力安全・保安院が設置した地震・津波に関する意見聴取会及び建築物・構造に関する意見聴取会の検討結果等を踏まえ、平成24年9月に発足した原子力規制委員会の地震等基準検討チームにおいて、学識経験者らの参加の下、合計13回の会合を経て新規制基準案が取りまとめられ、2度の意見公募手続を経て策定されたものであり、その策定過程に不合理な点があるとはいえない。そして、地震に関する新規制基準の内容をみても、別紙8設置許可基準規則解釈の別記2の概要のとおり、設置許可基準規則4条3項に規定する「基準地震動」は、最新の科学的・技術的知見を踏まえ、敷地及び敷地周辺の地質・地質構造、地盤構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から想定することが適切なものとして、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」及び「震源を特定せず策定する地震動」について、解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動としてそれぞれ策定するものとされている。このうち「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」は、内陸地殻内地震、プレート間地震及び海洋プレート内地震について、敷地に大きな影響を与えると予想される地震(検討用地震)を複数選定し、応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価を実施して策定するものとされ、この過程で各種の不確かさ(震源断層の長さ、地震発生層の上端深さ・下端深さ、断層傾斜角、アスペリティの位置・大きさ、応力降下量、破壊開始点等の不確かさ並びにそれらに係る考え方及び解釈の違いによる不確かさ)を必要に応じて組み合わせて考慮するものとされ、「震源を特定せず策定する地震動」は、震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測記録を収集し、これらを基に、各種の不確かさを考慮して敷地の地盤物性に応じた応答スペクトルを設定して策定するとされるなど、最新の科学的・技術的知見を踏まえて複数の手法により不確かさを組み合わせて策定することとされている。そして、地震ガイドは、別紙10地震ガイドの概要のとおり、基準地震動に続いて、耐震設計方針について、基本方針、耐震重要度分類、弾性設計用地震動の策定方針、地震力の算定法、荷重の組合せと許容限界、設計における留意事項等について審査の確認事項等を定めている。また、上記認定事実(地震)(1)イ及び別紙12耐震工認審査ガイドの概要のとおり、耐震設計の段階では、耐震工認審査ガイドが、建物・構築物、機器・配管系等の施設ごとに、使用材料及び材料定数、荷重及び荷重の組合せ、許容限界、地震応答解析、構造設計手法、基準地震動による地震力に対する耐震設計、弾性設計用地震動による地震力、静的地震力に対する耐震設計等に係る審査における確認事項及び確認内容を定めている。これらは、地震ガイドの耐震設計方針に合致するものといえる上、地震応答解析に用いる材料定数は地盤の諸定数も含めて材料のばらつきによる変動幅を適切に考慮していること、施設に作用する地震力と地震力以外の荷重を適切に組み合わせていること、基準地震動による地震力に対する耐震設計については、Sクラスの建物・構築物について、基準地震動による地震力と地震力以外の荷重の組合せに対して、構造物全体としての変形能力(終局耐力時の変形)について十分な余裕を有し、建物・構築物の終局耐力に対し妥当な安全余裕を有していること、機器・配管系の構造強度に関する耐震設計については、基準地震動による地震力と施設の運転状態ごとに生じる荷重を適切に組み合わせ、施設に作用する応力等を算定し、それらが許容限界を超えていないこと、当該荷重により塑性ひずみが生じる場合であっても、その量が微小なレベルに留まって破断延性限界に対し十分な余裕を有し、その施設に要求される機能に影響を及ぼさないことなどを確認することを定めている。なお、原子力規制委員会は、新規制基準の考え方(乙B156・167)において、基準地震動を超える地震が発生したときの耐震重要施設の安全機能の損失の有無について、①地盤伝播解析において保守的な減衰定数を、②建屋応答解析において保守的な荷重の組合せや非線形特性を、③機器応答解析において保守的な減衰定数(乙E57・167頁)や周期方向に拡幅した設計用床応答スペクトルをそれぞれ採用する(乙E56・516頁)などして、地震応答の最大値が保守的なものとなるようにしており、また、建物・構築物の耐震設計上の余裕として、①規制に用いる許容値を設計段階の限界値(終局耐力)に対して十分余裕を持たせるという規制上の余裕(乙E55・392頁)、②設計時に基準地震動による建屋の変形が許容値を十分満足するよう余裕を持たせるという設計上の余裕、③コンクリートの強度などの設計強度を十分満足するよう、さらに大きな強度で施工管理を行うという施工上確保される余裕があり、これらの余裕が集積されるため、基準地震動によって建物・構築物に生じるひずみは終局耐力時のひずみをはるかに下回ることになり、仮に基準地震動を超過するような場合であっても、即座に耐震重要施設が損傷するようなことはないとの考え方を示している。さらに、上記認定事実(地震)(1)エ(イ)のとおり、運転期間延長認可の段階においては、運転を延長しようとする期間において劣化状況評価等を行い、運転期間延長審査基準の要求事項(運転延長)に適合することが求められており、このうち機器・構造物に関する耐震安全性評価については、「経年劣化事象を考慮した機器・構造物について地震時に発生する応力及び疲労累積係数を評価した結果、耐震設計上の許容限界を下回ること。」等を要求し、経年劣化事象を考慮して耐震設計上の許容限界を下回るようにしている。以上のような地震に係る新規制基準の内容は、最新の科学的、技術的知見を踏まえたもので、各種の保守性が考慮されており、基準地震動を超える地震が発生しても直ちに安全性を喪失しないよう許容値に対して余裕を持たせるように定められているなど、合理性を有するものということができる。イ 原告らは、過去約10年間で設計上想定された地震加速度を超過した事例が5地震(平成17年8月16日の宮城県沖地震、平成19年3月25日の能登半島地震、平成19年7月16日の新潟県中越沖地震、平成23年3月11日の東北地方太平洋沖地震、同年4月7日の宮城県沖地震)、のべ8回あったことをもって、新規制基準の定める基準地震動の策定手法が根本的に不合理であるかのように主張する。しかしながら、そのうちの3地震(宮城県沖地震、能登半島地震、新潟県中越沖地震)に関する事例は、新規制基準に基づいて策定されたSsを超過した事例ではなく、旧耐震指針に基づいて策定された基準地震動S₁、S₂を超過した事例であり(甲F4・193頁、弁論の全趣旨・被告第11準備書面79頁)、上記認定事実(地震)(2)ア(ア)のとおり、平成18年の耐震指針改訂時に、旧耐震指針が応答スペクトルに基づく地震動評価を中心として基準地震動S₁、S₂を策定することとしていたのに対し、断層モデルを用いた手法による地震動評価を取り入れ、震源を特定せず策定する地震動の評価手法を大きく変更し、基準地震動Ssを策定することとするなど、基準地震動の策定方法は大幅に変更されている。したがって、旧耐震指針下において策定された設計上想定される地震加速度を超過した事例をもって、新規制基準の定める基準地震動の策定手法が不合理であるとする原告らの主張は理由がない。また、原告らの主張する5つの地震のうち、平成23年3月11日の東北地方太平洋沖地震及び同年4月7日の宮城県沖地震により、女川発電所において基準地震動又は設計上想定される地震動を超過した事例があるが、平成18年耐震指針による基準地震動Ssを超過したのは一部周期帯にとどまり、その他の周期帯では概ね同程度以下であって(甲D7、乙D42・7、23、29、45頁)、これらの地震動により女川発電所において耐震重要施設に損傷が生じたとは認められない。そして、原子力安全委員会、原子力安全・保安院及び原子力規制委員会は、上記認定事実(地震)(2)ア及びイのとおり、それまでに発生した地震によって得られた知見を踏まえ、基準地震動に係る具体的審査基準をより高度化させてきたと認められるから、新規制基準が定める基準地震動の策定手法が不合理であるということはできない。ウ 原告らは、2004年中越地震は既知の活断層の活動ではないとする見解が有力であり、地震ガイドの「地表地震断層としてその全容を表すまでには至っていない地震であり、孤立した長さの短い活断層による地震」に該当するにもかかわらず、「収集対象となる内陸地殻内の地震の例」に記載していないことは不合理であると主張する。しかしながら、原告らがその根拠として挙げる推本報告書(甲D98)には、2004年中越地震が既知の活断層の活動ではないとする見解が有力である旨の記載は見当たらないのに対し、地震ガイド策定時に参考とされた「平成24年度震源を特定せず策定する地震動レベルに関する既存資料の整理業務報告書」(乙D1・2.2.1-3、4頁)によれば、2004年中越地震の震源断層については、既知の活断層である六日町断層帯の活動であるとする見解が有力であり、震源と活断層を関連付けることが困難なものとはいえないことから、地震ガイドの策定に当たり、2004年中越地震について、「収集対象となる内陸地殻内の地震の例」に挙げる必要がないと判断されたものと認められ、このことをもって地震ガイドが不合理であるとはいえない。エ 以上によれば、地震に係る具体的審査基準に不合理な点がないことについて相当の根拠をもって立証されたと認められる。(3) 本件適合性審査について上記認定事実(地震)(3)イのとおり、原子力規制委員会は、本件設置変更許可申請に先立って行われた既許可申請①について、参加人が設定している解放基盤表面が適切なものであり、高浜発電所敷地及び周辺の地下構造の評価に関して、調査の手法が地震ガイドを踏まえており、設定された地下構造モデルが適切なものであること、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」に関し、検討用地震ごとに不確かさを考慮して「応答スペクトルに基づく地震動評価」及び「断層モデルを用いた手法による地震動評価」に基づき策定していること、「震源を特定せず策定する地震動」に関し、過去の観測記録を精査し、各種の不確かさ及び敷地の地盤特性を考慮して策定していること、「基準地震動の策定」に関し、敷地の解放基盤面における水平方向及び鉛直方向の地震動として基準地震動を策定していることをそれぞれ確認し、設置許可基準規則解釈の別記2の規定に適合していると判断していたところ、本件設置変更許可申請について、参加人が行った地震動評価の内容について審査した結果、敷地周辺の震源として考慮する断層の評価を一部変更しているものの、基準地震動について既許可申請①から変更がないとしていることは妥当であると判断し、設置許可基準規則解釈の別記2の規定に適合していることを確認している。そして、上記認定事実(地震)(3)アのとおり、本件設置変更許可申請において、参加人が策定した基準地震動は、設置許可基準規則解釈の別記2に基づき、地震ガイドを参考として、各種の保守性、不確かさを考慮して策定されたものと認められるから、本件設置変更許可処分のうち地震に係る原子力規制委員会の審査及び判断に不合理な点がないことについて相当の根拠をもって立証されたというべきである。(4) 本件工事計画認可処分に係る審査について上記認定事実(地震)(4)のとおり、原子力規制委員会は、本件工事計画認可処分に係る審査において、耐震工認審査ガイドを参考に、耐震設計の基本事項(設計基準対象施設を、設置変更許可申請書の設計方針に基づき、耐震工認審査ガイドを踏まえ、JEAG4601 等の規格及び基準等に基づく手法を適用して、耐震重要度に応じて分類し、耐震重要施設を基準地震動による地震動に対して施設の機能を維持する設計としていることなど)、荷重の組合せ、許容限界、既工認実績のない手法、条件等に問題がないことを確認しており、このうち、既工認実績のない手法、条件等については、炉内構造物及び蒸気発生器伝熱管の耐震性評価等について、本件加振試験等の既往の知見を整理し、1次冷却設備を構成する蒸気発生器等の振動性状に係る構造的特性が既往の知見と同等であることから3%の設計用減衰定数を適用できるとした上で、1次冷却設備に3%の設計用減衰定数を用いて得られる炉内構造物及び蒸気発生器伝熱管の発生応力が許容値を満足することから、炉内構造物及び蒸気発生器伝熱管の構造強度に係る機能が維持されることなどを確認している。したがって、本件工事計画認可処分のうち地震に係る原子力規制委員会の審査及び判断に不合理な点がないことについて相当の根拠をもって立証されたというべきである。(5) 本件運転期間延長認可処分に係る審査について上記認定事実(地震)(5)のとおり、原子力規制委員会は、参加人の申請内容について、運転期間延長審査基準に基づいて、評価対象事象、機器・構造物を抽出していること、工事計画認可で使用している地震力を用いて、JEAG4601 等の規格に基づき、工事計画認可で使用している手法に従い評価を実施していること、通常運転時の疲労累積係数に地震時の疲労累積係数を加えて疲労累積係数を評価し、疲労累積係数が1を下回っていること、応力評価の結果、発生応力が許容応力を上回ったものについては、保守管理方針を策定していることなどを確認している。したがって、本件運転期間延長認可処分のうち地震に係る原子力規制委員会の審査及び判断に不合理な点がないことについて相当の根拠をもって立証されたというべきである。3 争点3-(1)(地震規模を示す経験式のばらつきの考慮のなさ)について(1) 争点に係る認定事実ア 地震ガイド及び地質ガイド策定に至る経緯(ア) 平成18年耐震指針は、5項の解説Ⅱ.(4)④において、「経験式を用いて断層の長さ等から地震規模を想定する際には、その経験式の特徴等を踏まえ、地震規模を適切に評価することとする。」としていた。(甲B50・12頁)(イ) J4委員は、平成23年12月12日、原子力安全委員会の第9回地震等検討小委員会において、今までは残余のリスクといわれていたが、同じ想定域からマグニチュードがより大きな地震が発生する可能性があるので、断層パラメータのばらつきだけではなく、マグニチュード等のばらつきも想定すべき旨の意見を述べた。これは、活断層の評価に関しては、その経験式の特徴を踏まえ地震規模を適正に評価するという規定があるが、海溝型地震、プレート間地震については過去の平均則を使って想定するのが現状であるとして、海溝型地震、プレート間地震を念頭に置いた発言をしたものであり、その後、J2委員も海溝型地震、プレート間地震を念頭に置いた発言をした。(甲B49・47、48頁)(ウ) J3委員は、平成23年12月26日、原子力安全委員会の第11回地震等検討小委員会において、上記(ア)の平成18年耐震指針の5項の解説Ⅱ.(4)④の文言に続けて、2文目として「その際、経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから、その不確かさ(ばらつき)も考慮する必要がある。」と追加する改訂案について、平均値と断定しているが、経験式によっては平均値とみられるとは限らず、1文目の「経験式の特徴等を踏まえ、地震規模を適切に評価する」という中には色々なことが含まれるから、2文目は耐震指針ではなく、もう少し下のレベルの手引きに記載することを提案した。また、J2委員は、1文目だけだと経験式を使うことになるが、経験式の不確かさの考慮を求めることが重要である旨の意見を述べた。(甲B53・40、41頁、甲B54・12頁)(エ) 原子力安全委員会事務局は、平成24年1月30日、第12回地震等検討小委員会において、「その際、経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから、その不確かさ(ばらつき)も考慮する必要がある。」という規定を、耐震指針の改訂案から削除し、発電用原子炉施設の耐震安全性に関する安全審査の手引き(耐震手引き)の改訂案のⅢ.ⅱ.1.1(2)②における「震源断層モデルの長さ又は面積、あるいは単位変位量(1回の活動による変位量)と地震規模を関連づける経験式を用いて地震規模を設定する場合には、経験式の適用範囲を十分に検討して行うこと。」という規定の後ろに記載する案(甲B57・15頁)を示した。その後、この条項について特段異論はなく、地震等検討小委員会の最終的な改訂案まで引き継がれた。(甲B55・5、7頁、甲B56・12頁、甲B57・15頁、乙B27・39頁)(オ) 原子力規制委員会は、地震等基準検討チームにおいて地震ガイド及び地質ガイドについて検討してきたが、平成25年6月19日、耐震手引きを基に、地震ガイド及び地質ガイドを策定し、地震ガイドⅠ.3.2.3(2)及び地質ガイドⅠ.4.4.2(5)に「震源断層モデルの長さ又は面積、あるいは単位変位量(1回の活動による変位量)と地震規模を関連づける経験式を用いて地震規模を設定する場合には、経験式の適用範囲を十分に検討して行うこと。その際、経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから、その不確かさ(ばらつき)も考慮する必要がある。」(本件ばらつき条項)と規定した。(乙B19・21頁、乙B20・3頁)イ 本件ばらつき条項についての専門家の意見等(ア) J8は、函館地方裁判所平成22年(行ウ)第2号ほか事件において実施された平成28年12月16日付け書面尋問において、本件ばらつき条項に関して、松田式及び入倉・三宅式を用いてばらつきを考慮する必要について、「この規定によるかどうかは別として、地震動評価全体として、必要に応じて他の要因によるばらつきと重ね合わせて考慮する必要があると思います」、具体的な考慮の方法として、「今後の課題として、偶然的ばらつきとして扱う必要があると考えます」と回答した。(甲D97・6頁)(イ) J2は、平成26年3月29日、伊方発電所の基準地震動をテーマにした愛媛新聞のインタビューにおいて、自ら科学的な式を使った計算方法を提案してきたが、これは地震の平均像を求めるものであり、平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある旨を述べている。(甲D11)(ウ) J2は、令和3年5月28日付け意見書(乙D99)において、「ばらつき」と「不確かさ」の用語について、「ばらつき」は自然の持つ揺らぎに起因した完全にランダムな変動を指し、「不確かさ」はプロセスのモデル化における科学的な不確かさを指すが、レシピは決定論的評価をしており、決定論的評価では使われている経験式、パラメータは真値である前提のため、その予測からの偏差は観測値としてみれば「ばらつき」であり、モデル化によるものとみれば「不確かさ」であり、地震等検討小委員会において両者を厳密に区別しなかったこと(同1、2頁)、地震等検討小委員会における本件ばらつき条項の設置の経緯は、経験式の適用範囲を確認した上で、値に「ばらつき」があることも考慮して震源特性を表すパラメータ全体を決める必要があるとの注意喚起であり、地震モーメントM0の値の上乗せを求める文章ではなく、震源断層の面積やアスペリティ位置の「不確かさ」等、レシピ全体の震源パラメータの「不確かさ(ばらつき)」を総合的に考慮して強振動予測の保守的評価をする必要があるという趣旨であり(同3、4頁)、震源断層面積Sや短周期レベルAに「不確かさ」を考慮した保守性を確保すれば、地震モーメントM0の上乗せ以上の保守的評価となり、更に地震モーメントM0の上乗せをする必要性も合理性もないこと(同4~12頁)などを述べている。(エ) J3は、令和3年5月28日付け意見書(乙D100)において、震源断層面積Sと地震モーメントM0の関係についてみると、震源断層面の設定において考慮される「不確かさ」と、経験式の元になったデータの「ばらつき」は同等に扱うことができ、震源断層面積Sの「不確かさ」と、経験式から外れて震源断層面積Sに対する地震モーメントM0を大きく評価することを同時に考えるのは、過剰で不必要な考慮になること(同3、4頁)、地震等検討小委員会における本件ばらつき条項の設置の経緯は、総論において不確かさ(ばらつき)については適切な手法を用いて考慮するという記載があったので、各論にも同様に「不確かさ(ばらつき)」を考慮するとの表現が使われたと推測するが、震源断層の設定において「不確かさ(ばらつき)」を考慮した保守的な設定が行われ、それが審査で確認されるべきという認識であったこと(同7頁)、本件ばらつき条項について、例えば標準偏差の定量的な上乗せをするのかといった議論はなかったこと(同8頁)、震源特性パラメータの設定で重視されるのは短周期に関わるパラメータであり、短周期レベルAを「不確かさ」として1.5倍することは、地震モーメントM0を約3.4~5.1倍(入倉・三宅式による場合は5.1倍)上乗せした地震を想定していることと等価であるといえること(同9~11頁)などを述べている。(オ) J4は、令和元年11月29日付け「経験式と地震動評価のばらつきに関する報告書」(同年度原子力規制庁請負調査報告書。乙D97)において、日本のM6以上の主な内陸地殻内地震を9つ選び、データのばらつきを評価したところ、震源特性・伝播経路特性・サイト特性のどの特性をみても、データをきちんと処理して個々のデータが持つ個性を平均値として評価し、それ以外の変動をばらつきとして評価すれば、そのばらつきはいずれも概ね倍/半分の変動範囲に収まることが示されたこと(同95頁)、これは、関係式の変動をデータからみたとき、その変動は全データ空間が持っている変動をある断面で切り取ってみたものにすぎないことを示唆し、N個のパラメータがあればN次元の空間となるが、どの空間で切り出しても変動幅が一定であれば変動空間は円球状のため、それを重畳させる理由はないこと(同97頁)、複数の関係式で表現されている予測モデルにおいて、個々のパラメータにばらつき・不確かさが存在しているからといって、それを重畳して変動させ予測強震動のばらつき評価を行うのは適切ではないこと(同頁)などを述べている。(カ) J4は、令和3年5月31日付け意見書(乙D101)において、本件ばらつき条項が設置されるきっかけとなった地震等検討小委員会における自身の発言は、活断層から生じる地震動評価はその不確かさ(ばらつき)の考慮について細かく規定されているのと比較して、プレート間地震は、直接震源域にアクセスすることができず、過去の発生履歴に基づいて想定する以外にないことから、想定するパラメータの不確かさ(ばらつき)については特に考慮すべきである旨の記載があった方がいいというものであったものの、当初の趣旨とは異なり、プレート間地震に限定されたものではなく、活断層から生じる地震も含めてすべての想定地震に対して適用される条項として記載されたこと(同11頁)、M0に対して「ばらつき」を上乗せすべきとの趣旨で発言したのではなく、そのような認識を持っていた委員がいたとは認識していないこと(同頁)、震源断層面積Sと地震モーメントM0の関係における「ばらつき」を考慮するためには、震源断層面積Sの「不確かさ」を保守的に評価する方が合理的であり(同12、13頁)、各パラメータ間の独立性が明確に示されていないパラメータに関して重畳考慮することには科学的合理性がないこと(同14頁)などを述べている。(2) 検討ア 原告らは、地震規模を設定するにあたって用いられる松田式及び入倉・三宅式等は、各基礎となった観測データにばらつきがあり、また、あくまで断層から発生する地震の平均像を示したものにすぎないから、本件ばらつき条項は、これらのばらつきを考慮し、予測値(平均値)にばらつきを定量的に上乗せすることを要求しているものと解されるが、本件適合性審査においては、そのようなことはされていないから、過誤、欠落があると主張する。イ この点、原子力規制委員会は、新規制基準の考え方(乙B156・297~299頁)において、本件ばらつき条項は、経験式を用いて地震規模を設定する場合の当該経験式の適用範囲を確認する際の留意点として、経験式は平均値として地震規模を与えるものであることから、当該経験式の適用範囲を単に確認するのみではなく、当該経験式の前提とされた観測データとの間の乖離の度合いまで踏まえる必要があることを意味し、「経験式が有するばらつき」とは、当該経験式とその前提とされた観測データとの間の乖離の度合いのことであるとする。しかしながら、上記(1)アのとおり、原子力安全委員会の地震等検討小委員会において本件ばらつき条項が追加された経緯からすれば、経験式は平均的な数値を求めるものであり、これを上回る数値も存在することから、その不確かさ(ばらつき)を適切に考慮することを求めるものとして、本件ばらつき条項が追加されたというべきである。もっとも、上記(1)イ(ウ)~(カ)のとおり、地震等検討小委員会の主査又は委員として本件ばらつき条項の追加に関与したJ2、J3及びJ4は、地震等検討小委員会における議論において「ばらつき」と「不確かさ」は厳密に区別されずに用いられており、震源断層の面積やアスペリティ位置の不確かさ等全体を通じて不確かさを考慮した保守性を確保していれば、経験式を用いて地震モーメントM0を求める際に定量的な上乗せをする必要性も合理性もなく、むしろ、過剰考慮であり、各パラメータ間の独立性が明確に示されていないパラメータに関して重畳考慮することには科学的合理性がないなどと述べており、本件ばらつき条項が追加されるきっかけとなる発言をしたJ4自身が、地震等検討小委員会においてM0に対して「ばらつき」を上乗せすべきという趣旨で発言したのではなく、そのような認識を持っていた委員がいたという認識もなかったなどと述べていることからすれば、本件ばらつき条項は、経験式を用いたときの不確かさ(ばらつき)の考慮として定量的な上乗せを求めているものとは解されず、全体として不確かさを考慮した保守性の確保を求めているものというべきである。ウ また、原告らが本件ばらつき条項により定量的な上乗せをすべきと主張する入倉・三宅式により求められる地震モーメントM0は、それ自体が地震動計算に直接用いられるものではなく、他のパラメータを算出する過程で用いられる中間的なパラメータであり(乙D4・44頁)、地震モーメントM0を大きくしたからといって、必ずしも評価地点における地震の大きさに寄与する他のパラメータの値が十分に大きくなるとは限らない。レシピは、既往の知見から、アスペリティ部分の平均すべり量を震源断層全体の平均すべり量の2倍としている(乙D4・10頁)ところ、M0への数値の上乗せによりアスペリティ面積比(Sa/S)が50%を超えると、アスペリティ部分のすべり方向と震源断層内のその他の部分のすべり方向が正反対となるような物理的に考え難いモデルを採らないと説明がつかなくなったり、M0のみ数値の上乗せをするとM0に数値の上乗せをせずに同様の計算をした場合に比して、アスペリティの応力降下量が下がり、かえって保守性が下がったりするおそれがあると認められる(弁論の全趣旨・被告第31準備書面35~38頁)。さらに、レシピは、「誰がやっても同じ答えが得られる標準的な方法論」として策定されたものであり(乙D4・1頁)、レシピにない数値の上乗せが想定されているとは考え難いことなどに照らしても、レシピを用いた基準地震動の策定において、M0への定量的な上乗せが求められているとはいえないというべきである。エ そして、上記認定事実(地震)(3)アのとおり、本件各原子炉に係る基準地震動の策定においては、基本ケースとして、保守的に「FO-A~FO-B 断層」と「熊川断層」の連動を想定し断層長さが設定され、「地震発生層の上端深さ・下端深さ」も不確かさを考慮して保守的に設定され、「アスペリティの位置」についても敷地に近くなるような保守的な位置に設定されており、また、参加人は、不確かさを考慮する断層パラメータについて、事前の詳細な調査や経験式に基づき設定できる「認識論的な不確かさ」と、事前の詳細な調査や経験式からは特定が困難な「偶然的な不確かさ」に分類した上、認識論的な不確かさは独立して考慮を行い、偶然的な不確かさは認識論的な不確かさに重畳させて考慮を行っている(例えば、認識論的な不確かさである短周期の地震動レベル1.5倍と偶然的な不確かさである破壊開始点の不確かさの組合せ)と認められる(丙C1・69、128頁)。このように、本件各原子炉に係る基準地震動は、複数の不確かさを重畳的に考慮して策定されており、本件ばらつき条項が求める全体としての不確かさを考慮した保守性の確保がされているものといえる。オ 以上によれば、本件ばらつき条項に関する原告らの主張を採用することはできず、基準地震動の策定に当たり、経験式を適用した値に定量的に上乗せがされていない点をもって、本件設置変更許可処分に係る原子力規制委員会の審査及び判断の過程に看過し得ない過誤、欠落があるとはいえない。4 争点3-(2)(レシピの(ア)法のみならず(イ)法を用いるべきこと)について(1) 争点に係る認定事実ア レシピは推本の地震調査委員会が作成する「全国地震動予測地図」の付録の1つであり、断層帯を個別に取り上げて、詳細に強震動評価を行うことを目的としてまとめられてきたが、多くの断層帯を対象として一括して計算するような場合や、対象とする断層帯における詳細な情報に乏しい場合であっても強震動の時刻歴を計算できるようにするため、平成20年4月に更新された際に、従来のレシピに基づきながらも一部の断層パラメータの設定を簡便化した方法が(イ)法として追加された。(乙D17・2-1頁)イ レシピ改訂に至る経緯(ア) 平成28年7月15日に行われた推本地震調査委員会の強振動評価部会第156回強振動予測手法検討分科会において、レシピから(ア)法を削除することについての提案があり、これに対し反対する意見もあり、議論がされた。(甲B78)(イ) 平成28年9月7日に行われた推本地震調査委員会の強振動評価部会第157回強振動予測手法検討分科会において、J5主査名義の「「震源断層を特定した地震の強震動予測手法」の検証について」と題する資料(甲B79)が配布され、2016年熊本地震を経て、(ア)法より(イ)法の方が安定的である可能性が高いとして、(ア)と(イ)のセクションタイトルを変えること等が提案された。(甲B23、79)(ウ) 推本事務局は、平成28年9月14日に行われた推本地震調査委員会の第152回強振動評価部会において、「「レシピ」の一部記述表現について(案)」と題する資料(甲D159)を配布して説明した。同資料には、(ア)法は得られる知見や情報の質・量が申し分なければ本来あるべき姿であり、(イ)法は得られる知見や情報に多少の精粗があってもある程度安定的に扱える方法であって、得られる知見や情報の質・量とも不完全な現状では、方法としての「詳細さ」と結果としての「信頼性」は必ずしも一致しないので、仮に(ア)法を用いる場合であっても、併せて(イ)法の結果も照合して検討することが必要な場合が多いと思われる旨が記載されている。(甲B25、甲D159)(エ) 推本事務局は、平成28年11月8日に行われた推本地震調査委員会の強振動評価部会第158回強振動予測手法検討分科会において、「「レシピ」の訂正・微修正・補足についての事務局案」(甲B80)と題する資料を配布し、レシピの修正案の「特に現象のばらつきや不確定性の考慮が必要な場合には、その点に十分留意して計算手法と計算結果を吟味・判断した上で震源断層を設定することが望ましい」のうち、「計算手法と計算結果を吟味・判断した上で」とあることについて、(ア)法を使う場合には、例えば、併せて(イ)法についても検討して比較するなど、結果に不自然なことが生じていないか注意しながら検討してほしいという趣旨である旨を説明した。そして、レシピの訂正・微修正・補足についての事務局案を分科会として承認することの提案がされ、特に異議はなかった。(甲B26・8頁、甲B80)(オ) 推本事務局は、平成28年11月15日に行われた推本地震調査委員会の第153回強振動評価部会において、「「レシピ」の訂正・微修正・補足についての事務局案」(甲B82)と題する資料を配布したが、レシピの(ア)法と(イ)法に係る部分については特に異議はなかった。(甲B81、82)(カ) 推本事務局は、平成28年12月9日に行われた第298回推本地震調査委員会において、資料として「震源断層を特定した地震の強震動予測手法(案)」や「「レシピ」の訂正・微修正・補足についての事務局案」(甲B84)を配布して説明し、同委員会は、同事務局案を承認し、同日、レシピを修正した。(甲B20、83・20頁、甲B84)これにより、レシピの(ア)法のタイトルは、「過去の地震記録などに基づき震源断層を推定する場合や詳細な調査結果に基づき震源断層を推定する場合」から「過去の地震記録や調査結果などの諸知見を吟味・判断して震源断層モデルを設定する場合」へ、(イ)法のタイトルは、「地表の活断層の情報をもとに簡便化した方法で震源断層を推定する場合」から「長期評価された地表の活断層長さ等から地震規模を設定し震源断層モデルを設定する場合」へ、それぞれ修正された。(甲B20、84)ウ (ア)法及び(イ)法に関する専門家の意見等(ア) J6は、平成29年4月24日、名古屋高等裁判所金沢支部平成26年(ネ)第126号の証人尋問において、(ア)法を使って(イ)法を使わないという原子力規制委員会の審査は、大変な欠陥である旨を述べている。(甲D102・34頁)(イ) J5は、平成30年5月18日、NHKラジオの番組のインタビューにおいて、2016年熊本地震を受けて、レシピの(ア)法と(イ)法を両方検討し、値がかなり違うようだったらその大きい方を使う方が安全側の想定になるのでそのようにレシピを改訂した旨を述べている。(甲D160、161)(ウ) J3は、「平成30年度原子力規制庁請負調査報告書」(乙D61)において、もともと(ア)法のみから構成されていたレシピに、作業効率の観点等から(イ)法が付け加えられたにすぎないので、レシピにおける(ア)法の評価手法や位置付けは現在も変わっておらず、地震調査委員会が、全国地震予測地図を作成する際などには、多くの活断層(帯)について全国一律に手続化された手法による評価を行うという観点から、一部の例外を除いて一律に(イ)法が使用されている旨を述べている。(乙D61・85頁)(エ) 推本がレシピ(平成29年版)を用いて評価した地震動予測地図2017年版は、(イ)法により評価したものについて、併せて(ア)法による評価を行っていない。(乙D4、18、19)エ 2016年熊本地震の評価等(ア) 2016年熊本地震の震源域である布田川・日奈久断層帯については、主要活断層帯と位置付けられ、2016年熊本地震前から熊本県等が調査を実施していた。(甲D102・18頁)(イ) 推本の地震調査委員会は、平成25年2月1日付け「布田川断層帯・日奈久断層帯の評価(一部改訂)」において、日奈久断層帯は布田川断層帯の布田川区間を含めた広い領域が同時に活動する可能性が考えられ、長さ約100㎞、M8.2程度の地震が発生する可能性があるとしていた。(甲D220・30頁)(ウ) J5は、上記イ(イ)の「「震源断層を特定した地震の強震動予測手法」の検証について」において、実際に起こった地震から求めた震源断層モデルは、長さ45㎞、幅16.5㎞、下端深さ16.0㎞、Mw7.0、地表地震断層は34~35.4㎞となり、布田川・日奈久断層帯北東部の長期評価(2002)により断層長さを約27㎞などとすると、(ア)法は Mj6.9となるのに対し、(イ)法は Mj7.2程度となり、布田川断層帯布田川区間の長期評価(2013)により断層長さを19㎞などとすると、(ア)法は Mj6.6となるのに対し、(イ)法は Mj7.0程度となり、(ア)法が過小評価になっており、その理由として、大地震の震源断層の下端は地震発生層から更に深い部分に及ぶことが多いことや、震源断層は地表には表れない部分が存在し、地表地震断層より長いことが多いことから、震源断層面積が過小評価となるとする。(甲B24・4、8~10頁)(エ) 原子力規制庁技術基盤グループは、平成29年4月26日付け「熊本地震の分析について」において、2016年熊本地震は布田川・日奈久断層帯が活動したものであり、各機関による震源インバーション解析の結果、長さ42~56㎞程度の地下の震源断層が活動したと分析した。(乙D44・2頁)(オ) 推本地震調査委員会強震動評価部会による「2016年熊本地震の観測記録に基づく強震動評価手法の検証について(中間報告)」(中間報告。甲D237)において、本検討が2016年熊本地震の事例解析であるため標準的な強震動予測手法としての妥当性は改めて検討する必要がある(同21頁)とした上で、長期評価(2013)では布田川断層帯布田川区間の活断層長さは約19㎞と推定され(同1頁)、(イ)法に従い震源断層モデル長さは24㎞と設定されていたが、これらの長さは、いずれも2016年熊本地震で出現した地表地震断層の長さである約34㎞よりも短かったこと(同4頁)、地震発生後に得られた様々な観測事実を踏まえて、(ア)法に従い約34㎞を初期震源断層モデルの長さとして初期震源断層モデルを設定すると、地震モーメントが観測値の半分程度となり、最大速度(PGV)の計算値は全体的に過小評価となったこと(同1、3、4、9、10頁)、断層面積を変えずに地震モーメントを2倍又は2.3倍したモデルや震源断層モデルの長さを46又は52㎞に変更したモデルでは、再現性が改善したこと(同10~19頁)などが報告されている。(2) 検討ア 原告らは、地震ガイドによれば、「断層モデルを用いた手法」における震源特性パラメータの設定にあたっては、推本のレシピ等の最新の研究成果を考慮し設定されていることを確認するとされているところ、平成28年に修正されたレシピは、詳細な活断層調査をすれば(ア)法だけを用いればよいということではなく、(イ)法についても計算結果を吟味、判断した上で震源断層を設定すべきという趣旨であるにもかかわらず、本件適合性審査においては、単に(ア)法に依拠するだけで、(イ)法による計算結果を吟味、判断していないから、その審査及び判断の過程に過誤、欠落があると主張する。しかしながら、上記(1)アのとおり、レシピは「全国地震動予測地図」の付録の1つであり、多くの断層帯を対象として一括して計算するような場合や、対象とする断層帯における詳細な情報に乏しい場合であっても強震動の時刻歴を計算できるようにするため、従来のレシピに基づきながらも一部の断層パラメータの設定を簡便化した方法として(イ)法が追加されたものと認められ、(ア)法と(イ)法との間に優劣があるということはできない。また、上記(1)ウ(エ)のとおり、推本がレシピ(平成29年版)を用いて評価した地震動予測地図2017年版においても、(ア)法と(イ)法が併用されているものではない。さらに、レシピ冒頭には、「不確定性を考慮して、複数の特性化震源モデルを想定することが望ましい。」(乙D4・2頁)と記載されているものの、これは、断層モデルを設定する場面において、アスペリティや破壊開始点などの配置を複数考慮することを意味するものと解され、(ア)法と(イ)法の双方により評価することを意味するものとはいえない。イ また、上記(1)イのとおり、レシピの改訂に至る経緯として、J5主査から(イ)法の方が安定的である可能性が高いとして、セクションタイトルの変更が提案され、それぞれのタイトルが修正されたこと、上記(1)ウ(ア)及び(イ)のとおり、複数の専門家が(ア)法及び(イ)法を併用すべきであるとの意見を述べていること、上記(1)エ(オ)のとおり、2016年熊本地震においては、事前に調査をしていたとしても、長期評価(2002)や長期評価(2013)の断層長さを上回る約34㎞の地表地震断層の長さが出現した上、この長さを用いて(ア)法による震源断層モデルを設定しても、観測値より過小評価となることなどが認められる。しかしながら、そもそも基準地震動は、「その供用中に当該耐震重要施設に大きな影響を及ぼす恐れがある地震」による地震動をいい(設置許可基準規則4条3項)、最新の科学的・技術的知見を踏まえ、敷地及び敷地周辺の地質・地質構造、地盤構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から想定することが適切なものとされており(同規則解釈の別記2の5一)、原子力発電所の基準地震動を策定する際には、詳細な調査によって震源断層の詳細な情報を得る必要があるから、震源として考慮する活断層の評価に当たって、調査地域の地形・地質条件に応じ、各種の調査手法を組み合わせて調査した上で、震源として考慮する活断層の長さだけでなく、震源断層の長さ、幅、傾斜角等の詳細な情報を得ることになる。(ア)法は「過去の地震記録や調査結果などの諸知見を吟味・判断して震源断層モデルを設定する場合」に用いられる手法であり(乙D4・3頁)、上記のような詳細な調査で得られた震源断層の情報を全て地震動評価に活用することができ、より直接的に地震動評価に反映することができることから、原子力発電所の基準地震動を策定するに当たり、(ア)法を用いて地震動評価を行うことには合理性があるというべきである。そして、上記(1)ウ(ウ)のとおり、J3は、レシピの解説書である「平成30年度原子力規制庁請負調査報告書」において、(ア)法の位置付けは現在も変わっていないと述べており、レシピ改訂に至る経緯をみても、(ア)法を廃止して(イ)法に一本化したり、(ア)法を用いるときは必ず(イ)法を併用するように議論がまとめられたものとまでは認められず、専門家の間で(イ)法を併用することが必須であるとの科学的知見が確立されているともいえない。また、中間報告は、あくまでも2016年熊本地震の事例解析であり、本件各原子炉敷地の周辺において当てはまるともいえないから、本件適合性審査において、(ア)法のみに依拠して基準地震動を策定していることが不合理であるということはできない。ウ したがって、レシピの(イ)法を併用するべきであったとの原告らの主張を採用することはできず、(ア)法のみに依拠して審査していることをもって、本件設置変更許可処分に係る原子力規制委員会の審査及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。5 争点3-(3)(アスペリティ応力降下量(短周期の地震動レベル)の設定)について(1) 争点に係る認定事実ア レシピ(平成29年版)は、円形破壊面を仮定することが適当でない場合のアスペリティの静的応力降下量Δσa(MPa)について、「Δσa=(S/Sa)Δσ」(Sは震源断層全体の面積(㎢)、Saはアスペリティの総面積(㎢)、Δσは震源断層全体の静的応力降下量(MPa))の関係式から求めることを提案し、アスペリティの面積比(Sa/S)を約22%、震源断層全体の静的応力降下量(Δσ)を3.1MPa、アスペリティの静的応力降下量Δσa を約14.4MPa としている。(別紙11レシピの概要参照(乙D4・10~12頁))イ 東京電力は、平成20年5月22日、原子力安全・保安院に対し、「柏崎刈羽原子力発電所における平成19年新潟県中越沖地震の地震時に取得されたデータの分析及び基準地震動に係る報告書」において、新潟県中越沖地震の際のアスペリティ応力降下量は震源に近いアスペリティから順に25.47MPa、20.84MPa、19.91MPa と解析され、短周期レベルは壇ほか(2001)の経験式の1.56倍(入倉(2008)モデル)、1.78倍(釜江(2007)モデル)、又は1.64倍(東京電力モデル)となり、約1.5~1.8倍であったと報告した。(甲D171・5-22、23、55頁)ウ 原子力安全・保安院は、平成20年5月29日に開かれた原子力安全委員会の第4回耐震安全性評価特別委員会において、新潟県中越沖地震時に取得された地震観測データの分析及び基準地震動について、東京電力から、同月22日、壇ほか式に比べ、震源において通常より1.5倍程度強い揺れを生じる地震であったとの報告を受けたこと、JNESから、同日、同地震について震源特性の影響として、同規模の地震と比べて平均的に1.5倍程度大きかったと推定される(短周期レベル約1.5倍)との報告を受けたことを示した。(乙D62・添付資料1・3頁目、添付資料2・1頁、弁論の全趣旨・被告第22準備書面30頁)エ 原子力安全・保安院は、平成20年9月4日、「新潟県中越沖地震を踏まえた原子力発電所等の耐震安全性評価に反映すべき事項について」において、新潟県中越沖地震で柏崎刈羽発電所の観測地震動が同規模の地震から推定される平均的な地震動と比べて大きかった要因について、震源特性として短周期レベルが平均的なものよりおよそ1.5倍程度大きかったこと及び3つのアスペリティのうちの1つが敷地に近く強い地震波が伝播したことが挙げられると報告した。(甲D170)オ 平成24年に開催された原子力安全・保安院における地震・津波に関する意見聴取会(地震動関係)において、不確かさの考慮として、アスペリティ応力降下量を1.5倍又は20MPa 若しくは25MPa とすることについて議論がされた。(甲B60、62、64)J8は、同年5月29日、第4回地震・津波に関する意見聴取会(地震動関係)において、アスペリティ応力降下量を1.5倍としても何に対して1.5倍をしているのかを考えた方が良い、不確かさを考慮するということでは、新潟県中越沖地震で得られた25MPa という値はそれなりに意味を持つ値と考える、例えば1.5倍又は25MPa の絶対値は検討したらよいが、その大きい方をとって不確かさをみたことにしたほうがよいのではないか、などと発言した。(甲B62・7頁)また、同年8月17日に開かれた第7回地震・津波に関する意見聴取会(地震動関係)で配布された原子力安全・保安院耐震安全審査室作成の「活断層による地震動評価の不確かさの考慮について(考え方の整理案)」には、考慮すべき不確かさとして、応力降下量について1.5倍又は20MPa の大きい方(断層のずれのタイプや地域特性等について十分な検討が行われた場合、これ以外の数値を用いて評価しても良い。)と記載され、その解説には、特に応力降下量が20MPa 以下のサイトは、適切性について再点検が必要と記載されていた。同会合において、委員の一人は、応力降下量の1.5倍というのはある種の不確かさを考えた上積みというので理解できるが、20MPa という数字は根拠が見えなかったので、この具体的数値が出てきた根拠を書いた方が良いことを指摘し、耐震安全審査室長は、20MPa か25MPa かいろいろ議論したが、できる限りその根拠を書けるようにしたいと答えた。(甲B65・37頁、甲B66・1、2頁)カ 原子力規制委員会は、平成25年10月30日、第39回審査会合において、伊方発電所3号機に係るアスペリティの応力降下量の不確かさケースにおいて、アスペリティの面積比にこだわらずに保守的に評価することをコメントしたが、具体的な数値は指示しなかった。四国電力は、平成26年2月12日、従前のアスペリティの応力降下量12.2MPa を1.5倍した18.3MPa から、20MPa まで引き上げた。原子力規制委員会は、平成27年7月15日、パラメータの不確かさを考慮したケースとして、応力降下量を基本震源モデルの1.5倍又は20MPa としたケースを設定した申請内容について設置変更許可処分をした。(甲D176・22、23頁、甲D177・15頁、乙C32・24~26頁)キ J3は、平成25年12月21日、東京大学で開催された専門家フォーラムにおいて、新潟県中越沖地震では短周期レベルの地震動が平均値よりも1.5倍くらい大きかったため、現在は、短周期レベルを1.5倍ぐらい大きく想定して基準地震動を策定しているが、この不確かさが1.5倍でいいのか、もっと大きく2倍としなければならないかという議論がある旨を述べている。(甲D108・7頁)ク J2は、平成26年3月29日、伊方発電所の基準地震動をテーマにした愛媛新聞のインタビューにおいて、四国電力がアスペリティ応力降下量につき不確かさを考慮して1.5倍にしていることについて、明確な根拠はない旨を述べている。(甲D11)ケ 東京電力は、平成28年9月30日に開催された柏崎刈羽発電所6号炉及び7号炉についての新規制基準適合性審査の中で、新潟県中越沖地震の短周期レベルについて、後の知見も踏まえるなどして検討した結果からすれば、ばらつきは認められるものの、その平均は壇ほか式で求めた数値の1.3倍程度であり、不確かさの考慮として1.5倍を見込むことは妥当であると考えられる旨を説明し、この点を踏まえて基準地震動の策定をした。原子力規制委員会は、これを前提として、平成29年12月27日、同発電所の設置変更許可処分をした。(乙C31・133頁、弁論の全趣旨・被告第22準備書面30頁)(2) 検討ア 設置許可基準規則解釈の別記2の4条5項2号⑤及び地震ガイドⅠ.3.3.3(2)は、アスペリティ応力降下量のような支配的パラメータについての不確かさの適切な評価を規定し、地震ガイドⅠ.3.3.2(4)①2)は、「アスペリティの応力降下量(短周期レベル) については、新潟県中越沖地震を踏まえて設定されていることを確認する」と規定するところ、上記認定事実(地震)(3)ア(エ)c(d)~(h)のとおり、参加人は、本件設置変更許可申請において、短周期レベルについて、レシピに示された方法に従い、アスペリティの面積比(Sa/S)を22%とし、震源断層全体の応力降下量(Δσ)を3.1MPa として、「Δσa=(S/Sa)Δσ」の関係式から14.1MPa と算出し、これを基本ケースとし、新潟県中越沖地震の知見を反映してこれを1.5倍した値を不確かさ考慮ケースとして設定している。イ これに対し、原告らは、上記(1)イのとおり、東京電力が平成20年5月22日に原子力安全・保安院に報告した新潟県中越沖地震の評価結果をまとめた資料によれば、同地震のアスペリティ応力降下量(短周期レベル)は壇ほか式の1.5倍よりも大きいこと、壇ほか式のデータセットの中でも、短周期レベルが2倍の線を越えてばらついているものがいくつもあることから、新潟県中越沖地震を踏まえた設定としては、少なくとも1.8倍、できれば2倍程度は必要である旨を主張する。しかしながら、上記(1)ウのとおり、同月29日に開催された原子力安全委員会の第4回耐震安全性評価特別委員会において原子力安全・保安院が示した資料によれば、東京電力及びJNESは、いずれも短周期レベル(応力降下量)を壇ほか式の約1.5倍と報告しており、さらに、上記(1)ケのとおり、東京電力は、平成28年9月30日に開催された柏崎刈羽発電所6号炉及び7号炉についての新規制基準適合性審査の中で、新潟県中越沖地震の短周期レベルについて、後の知見も踏まえるなどして検討した結果からすれば、ばらつきは認められるものの、その平均は壇ほか式の1.3倍程度であり、不確かさの考慮として1.5倍を見込むことは妥当であると考えられる旨を説明している。また、壇ほか式は、ばらつきのある複数の観測データを回帰分析して求めた経験式であるから、その前提とされた個々の観測データとの間にかい離が生ずることは当然であり、基準地震動の設定に当たっては、個々の場面で想定し得る最大の保守性を上乗せすることまでが求められるということはできず、各種の不確かさや保守性が適切に考慮されていれば合理性を有すると解されること、本件各原子炉施設の敷地周辺において、壇ほか式で求められる平均的・標準的な姿よりも短周期レベルが大きくなるような地域性が存在する可能性をうかがわせる特段の事情も認められないことに照らせば、データのばらつきを考慮して上乗せをすべき必要性があったともいえない。なお、上記(1)オ、キ及びクのとおり、専門家の中には不確かさの考慮として1.5倍が妥当であるかについて議論があることがうかがわれるが、上述したところによれば、新潟県中越沖地震を踏まえた考慮として1.5倍とすることでは不十分であるとの科学的な知見が確立されているとはいえない。したがって、参加人が短周期のアスペリティ応力降下量を壇ほか式の1.5倍としたことが不合理であるとはいえず、地震ガイドⅠ.3.3.2(4)①2)の規定に照らして、不十分であったともいえない。ウ 原告らは、参加人が採用したアスペリティ応力降下量14.1MPa は、レシピにおいて「既往の調査・研究成果とおおよそ対応する数値」とされた「約14.4MPa」より小さく、これを1.5倍しても21.15MPa にとどまり、新潟県中越沖地震を踏まえたアスペリティ応力降下量の設定とは到底いえない旨主張する。しかしながら、上記(1)アのとおり、レシピは、円形破壊面を仮定することが適当でない場合のアスペリティの応力降下量(Δσa)の設定方法について、アスペリティの面積比(Sa/S)を約22%とし(乙D4・10頁)、震源断層全体の応力降下量(Δσ)を3.1MPa として(乙D4・12頁)、「Δσa=(S/Sa)Δσ」の関係式(乙D4・11頁)から求めることを提案しているところ、そのとおり計算すれば、アスペリティの応力降下量は約14.1MPa となるから、レシピに記載されている「約14.4MPa」との記載は誤記であるとうかがわれ、他方、参加人が採用した数値はレシピに沿って算定されたものと認められる。したがって、参加人が、アスペリティ応力降下量を14.1MPa としたことが、レシピと異なる不合理なものとはいえず、原告らの主張は理由がない。エ 以上のとおり、本件設置変更許可申請における参加人のアスペリティの応力降下量(短周期の地震動レベル)の設定が不合理であったとはいえず、これを妥当とした原子力規制委員会の審査及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。6 争点3-(4)-ア(繰り返しの揺れの想定が欠如した具体的審査基準の不合理性)について(1) 争点に係る認定事実ア 地震等検討小委員会における議論(ア) 上記認定事実(地震)(2)ア(ア)の地震等検討小委員会における検討のうち、平成24年2月16日の会合(甲B75)において、大きな規模の地震が繰り返し起きた場合についての考慮の要否が議論された。具体的には、委員の一人から、大きな地震が起きた後に新たな活動が発生することを想定した検討が必要ではないかとの問題提起がされ(同25頁)、複数の委員から、連続発生に関しては基本的に設計上個別の地震として基準地震動をどうするかという話であり、大きい方で決まるため、連続発生というのは余り考慮する必要はないという意見(同26、27頁)や、連続発生による非線形の変形がたまっていくような計算も検討する必要があるという意見(同28、29頁)が出され、J2主査は、①基準地震動レベルの地震により弾性領域を超えて塑性領域に達し、建屋がある程度損傷を受けている状態で、数日から1か月以内に同レベルの地震が来た場合にどうなるかという問題と、②同時発生によって基準地震動そのものをかさ上げする必要があるかという問題という2つの問題があると整理した(同36頁)。(イ) 地震等検討小委員会は、平成24年3月14日付け「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針及び関連の指針類に反映させるべき事項について(とりまとめ)」において、平成18年耐震指針の改訂案や耐震手引きの改訂案を取りまとめ、原子力安全基準・指針専門部会は、平成24年3月、これらの改訂案を原子力安全委員会に対して報告したところ、ここでは、多種多様な地震像の検討として、地震の連続発生が主要な論点として議論された。(乙B27)①余震や誘発地震に関して、1つの地震の揺れが収まった後に発生する地震(地震の連続発生)の考慮については、基準地震動Ssに影響がないことから、それぞれ個別の地震動として検討されるべきであるとの意見や、施設の設計においては、策定された地震動を連続で入力し、解析することが可能であり、繰り返し荷重として施設の設計において考慮されるべき事項であるとの意見があり、地盤や施設の非線形応答の永久ひずみ(変形)を考慮した検討の必要性等は今後の課題とされるにとどまり(同3頁)、地震等検討小委員会が取りまとめた耐震指針の改訂案(同13~25頁)や耐震手引きの改訂案(同27頁以下)には、この点に関する記載は盛り込まれなかった。他方、②地震が同時的に発生する場合については、同じ地震発生様式における連動等は考慮されているが、ある地震の継続時間中にその地震がトリガーとなって異なる地震発生様式の地震が発生する可能性は考慮されていないため、これを考慮すべきか議論され、地震発生に伴う応力伝播によって、異なる発生様式の地震が発生する可能性の検討は、科学的知見に基づいて発生可能性を検討し、検討結果を踏まえて評価を行う必要があるとして、その旨を規定すべきとされ(同3、4頁)、耐震手引きの改訂案に、「地震発生に伴う応力伝播によって異なる発生様式の地震が発生する可能性について検討すること。」という一文が追加された(同39頁)。イ 2016年熊本地震について(ア) 2016年熊本地震では、M7.3の地震(平成28年4月16日午前1時25分)の約28時間前にM6.5の地震(同月14日午後9時26分)が発生し、震度7が観測される揺れが2回発生した。その後も最大震度が6強の地震が2回、6弱の地震が3回発生し、震度5弱以上の地震は19回に及んだ。(弁論の全趣旨・原告ら準備書面(8)3、4頁)(イ) 2016年熊本地震において、熊本県益城町の観測点では、平成28年4月14日及び同月16日に震度7が観測された。地震動は軟弱な表層地盤で増幅される性質があるところ、2016年熊本地震において最大の加速度を観測した同月14日の地震の KiK-net 益城観測点(KMMH16)の観測記録(最大1399gal(上下))は、火山灰質粘土や砂からなる軟弱な地盤(S波速度約0.1~0.2㎞/s 程度)における地表観測記録であるのに対し、同観測点の地下-252mの地震基盤相当の硬質な岩盤(S波速度約2.7㎞/s)に設置された地震計では、上下方向で最大127gal、水平方向(北南方向)最大237gal、水平方向(東西方向)最大178gal であった。また、同月16日の地震の KiK-net 益城観測点(KMMH16)の観測記録は、最大1157gal(水平方向(東西方向))であるのに対し、同観測点の地下-252mの地震基盤相当の硬質な岩盤に設置された地震計では、上下方向で最大196gal、水平方向(北南方向)最大159gal、水平方向(東西方向)最大243gal であった。(乙D43、44・参考1の1、5、6頁)(2) 検討ア 原告らは、本件設置変更許可処分、本件工事計画認可処分及び本件運転期間延長認可処分について、女川発電所における東北地方太平洋沖地震等の各観測記録、地震等検討小委員会における議論状況、2016年熊本地震の発生状況等を根拠として、本件各原子炉施設敷地において、基準地震動を超過する地震動が間を置かずに繰り返し発生する可能性があるにもかかわらず、これを想定していない具体的審査基準は不合理である旨主張する。しかしながら、女川発電所の当時の基準地震動Ssを超えた最大地震加速度を観測した東北地方太平洋沖地震等のうち、平成23年3月11日の東北地方太平洋沖地震はプレート間地震、同年4月7日の宮城県沖の地震は海洋プレート内地震(スラブ内地震)であり、これをもって同じ様式の基準地震動又はこれに匹敵する地震が繰り返し発生した例ということはできない。また、上記2(2)イのとおり、東北地方太平洋沖地震等による女川発電所での観測記録は、東北電力が示した同発電所の基準地震動Ssの応答スペクトル(平成18年改訂後の耐震設計審査指針を踏まえたもの)を一部の周期帯で超過したが、その他の周期帯では概ね同程度以下であり、これらの地震動により女川発電所において耐震重要施設に損傷が生じたとは認められない。したがって、女川発電所における東北地方太平洋沖地震等の各観測記録をもって、新規制基準に基づく基準地震動を複数回超過すること(あるいは基準地震動に匹敵するような揺れが時間をおかずに発生すること)を具体的に示す事例があるとはいえない。次に、上記(1)アで認定した地震等検討小委員会における議論の経過によれば、地震の連続発生の考慮については、地盤や施設の非線形応答の永久ひずみ(変形)を考慮した検討の必要性等が今後の課題とされるにとどまり、地震等検討小委員会が取りまとめた耐震基準の改定案や耐震手引きの改訂案にこの点に関する記載は盛り込まれなかったものであり、このような地震等検討小委員会における議論をもって、繰り返しの揺れを想定していない新規制基準が不合理ということはできない。また、上記(1)イのとおり、2016年熊本地震においては、熊本県益城町の観測点(KMMH16)において、平成28年4月14日及び同月16日に震度7が観測されているが、この観測点は、火山灰質粘土や砂からなる軟弱な地盤(S波速度約0.1~0.2㎞/s 程度)における地表観測記録であり、同観測点の地下-252mの地震基盤相当の硬質な岩盤(S波速度約2.7㎞/s)に設置された地震計では、最大243gal にとどまっており、2度の震度7の観測は、軟弱な地盤により増幅された結果と考えられる。これに対し、発電用原子炉施設のうち耐震重要施設の耐震設計において問題となる基準地震動は、浅部地下構造より下の解放基盤表面における、浅部地下構造による影響がない地震動として定義されるものであるから(設置許可基準規則解釈の別記2の5一)、2016年熊本地震で観測された記録は、地下の固い地盤において比較すると、発電用原子炉施設のうち耐震重要施設の耐震設計に当たって策定される基準地震動に匹敵するほど大きな地震動ではなかったというべきである。したがって、2016年熊本地震における観測記録は、基準地震動に匹敵する地震動が繰り返し発生する場合を想定すべき根拠にはならない。イ 原告らは、設置許可基準規則及び設置許可基準規則解釈は、基準地震動による地震動により、弾性限界を超え、塑性ひずみが生じ得る場合を容認しつつ、地震により安全機能が損なわれるおそれがないことについて、基準地震動による地震力のみが考慮されており、基準地震動に匹敵する強い前震や余震が発生した場合についての考慮はされていないから、基準地震動に匹敵する地震動が繰り返し起きると、安全機能が損なわれるおそれがあるなどと主張する。しかしながら、弾性限界を超える地震動が発生した場合、発電用原子炉施設は塑性変形の領域となるが、上記2(2)アで説示したとおり、基準地震動が各種の不確かさを踏まえて保守的に策定される結果、基準地震動との応答スペクトルの比率の値が、目安として0.5を下回らないような値で、工学的判断に基づいて設定される弾性設計用地震動(設置許可基準規則解釈の別記2の4一)についても保守性をもって策定されることとなり、弾性設計用地震動それ自体も相当程度強い地震動となる。また、設置許可基準規則4条1項は、設計基準対象施設の耐震設計に係る規制上の要求として、「設計基準対象施設は、地震力に十分に耐えることができるものでなければならない。」とし、この「地震力に十分に耐えること」を満たすために、Sクラスの設計基準対象施設について「建物・構築物については、常時作用している荷重及び運転時に作用する荷重と、弾性設計用地震動による地震力又は静的地震力を組み合わせ、その結果発生する応力に対して、建築基準法等の安全上適切と認められる規格及び基準による許容応力度を許容限界とすること。」、「機器・配管系については、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時に生じるそれぞれの荷重と、弾性設計用地震動による地震力又は静的地震力を組み合わせた荷重条件に対して、応答が全体的におおむね弾性状態に留まること。」を求めている(設置許可基準規則解釈の別記2の3一)。さらに、設置許可基準規則4条3項に関し、設置許可基準規則解釈の別記2の6一において、基準地震動に対する耐震重要施設の設計に当たり、①建物・構築物については、常時作用している荷重及び運転時に作用する荷重と基準地震動による地震力との組合せに対して、当該建物・構築物が「構造物全体としての変形能力(終局耐力時の変形)について十分な余裕を有し、建物・構築物の終局耐力に対し妥当な安全余裕を有していること。」が求められ、また、②機器・配管系については、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時に生じるそれぞれの荷重と基準地震動による地震力を組み合わせた荷重条件に対して、このような「荷重により塑性ひずみが生じる場合であっても、その量が小さなレベルに留まって破断延性限界に十分な余裕を有し、その施設に要求される機能に影響を及ぼさないこと」が求められているとおり、規制基準上の許容値について、許容限界値(建物・建築物の終局耐力、機器・配管系の破断延性限界)に対して十分な余裕を持たせて規定している。さらに、上記2(2)アのとおり、地震ガイドが設置(変更)許可段階における耐震設計方針を定め、耐震工認審査ガイドが工事計画認可段階における耐震設計の確認事項を定めており、これらも十分な保守性を持った内容といえる上、新規制基準の考え方においても耐震設計上には複数の余裕が含まれているとの考え方が示されている。したがって、弾性限界を超える地震動が繰り返し起きたとしても、直ちに発電用原子炉施設のうち耐震重要施設の安全機能が損なわれるおそれがあるとは認められないから、これと異なる原告らの主張は理由がない。ウ 以上によれば、基準地震動を超過する地震動が間を置かずに繰り返し発生する可能性があるにもかかわらず、これを想定していない具体的審査基準は不合理であるとの原告らの主張は理由がない。7 争点3-(4)―イ(蒸気発生器伝熱管の耐震性)について(1) 争点に係る認定事実ア 参加人は、本件工事計画認可申請において、蒸気発生器伝熱管の基準地震動Ssによる1次応力評価結果として、高浜発電所1号炉につき、基準地震動Ssによる1次応力発生値は324MPa、Ss用評価基準値は481MPa、弾性設計用評価基準値は263MPa、高浜発電所2号炉につき、基準地震動Ssによる1次応力発生値は316MPa、Ss用評価基準値は481MPa、弾性設計用評価基準値は263MPa と記載した。(弁論の全趣旨・原告ら準備書面(8)11頁)イ 耐震設計における応力分類物体に力(荷重)がかかると、物体内部にそれに対応する力(応力)が発生する。この応力には、1次応力、2次応力及びピーク応力が存在する。1次応力は、内圧や地震力などの外荷重により機器内部に発生する応力であり、1次応力は更に膜応力(外力によって断面に発生する平均応力)と曲げ応力(モーメントによって断面内で引っ張りから圧縮に変化する応力)に分けられる。この1次応力は、機器の変形やひずみにかかわらず一定の力でかかり続けることから、降伏点を超えた過大な1次応力が発生すると、延性破壊(1次膜応力によって生じる。)や塑性崩壊(1次膜応力+1次曲げ応力によって生じる。)を引き起こすおそれがある。他方、2次応力とは、例えば物体が熱により膨張しようとする際に支持金具で拘束されることによって発生する応力であり、ピーク応力とは、物体の断面などが変化する部分に発生する応力集中により、1次応力又は2次応力に付加される応力である。2次応力やピーク応力は、大きな変形を起こすものではないが、繰り返し発生する場合には、疲労破損を引き起こすおそれがある。(乙E52・82頁)各応力分類の許容応力は、材料の強度(降伏応力、引張強さ等)にそれぞれ所定の安全率を乗じる等の方法により規定されており(1次+2次応力+ピーク応力を除く。)、構造や寸法に左右されるものではない。(乙E32・24頁、乙E33・87頁)設計降伏応力や設計引張強さは、日本機械学会「発電用原子力設備規格材料規格」に規定されているところ、材料の各温度における引張試験データの下限値(例えばデータの99%信頼幅の下限値)として設定されており(乙E32・24頁)、現実の材料の降伏点、引張強さに対して保守性を有している。また、別紙13機器・配管系の工事計画認可に関する JEAG4601の概要のとおり、JEAG4601・補-1984 において、基準地震動と運転状態による荷重の組合せに対する1次一般膜応力の許容応力は、設計引張強さの2/3とされており、設計引張強さに対し保守的に設定されている。(乙B60・23頁、乙E32・24、25頁、乙E33・87頁、乙E53・82頁)(2) 検討原告らは、上記(1)アのとおり、本件各原子炉施設の蒸気発生器伝熱管の基準地震動における1次応力(膜応力+曲げ応力)発生値は、弾性設計用地震動に対して設定された評価基準値(許容値)を上回っており、基準地震動に対しては塑性ひずみの発生を容認しているため、さらに基準地震動に匹敵する地震が発生すると、塑性変形を引き起こす可能性が否定できず、このような繰り返しの荷重についての考慮を要求しない本件工事認可処分は、原子力規制委員会の審査及び判断の過程で用いられた具体的審査基準に不合理な点があり違法であると主張する。しかしながら、上記6(2)で説示したとおり、これまでに基準地震動又はこれに匹敵する地震が繰り返し発生する可能性をうかがわせるような事例があったとは認められず、基準地震動及び弾性設計用地震動自体が多数の保守性を考慮した相当程度強い地震動として策定され、耐震設計においても各種の保守性が確保されているから、新規制基準において、基準地震動又はこれに匹敵する地震が繰り返し発生することが想定されていないことが不合理であるとはいえない。また、上記(1)イのとおり、許容応力は、材料の強度(降伏応力、引張強さ等)にそれぞれ所定の安全率を乗じる等の方法により規定されており、構造や寸法に左右されるものではないから、基準地震動が発生して弾性設計用地震動に対して設定された評価基準値を上回り、塑性ひずみが生じたとしても、その構造の変化が直接許容応力に影響するとはいえない。さらに、上記(1)イのとおり、設計引張強さや設計降伏応力は、材料の各温度における引張試験データの下限値(例えばデータの99%信頼幅の下限値)として設定されており、現実の材料の降伏点、引張強さに対して保守性を有している上、JEAG4601・補-1984 において、基準地震動と運転状態による荷重の組合せに対する1次一般膜応力の許容応力は、設計引張強さの2/3とされており、設計引張強さに対し保守的に設定されている。したがって、基準地震動後に引き続きこれに匹敵する地震動が発生し、本件各原子炉施設の蒸気発生器伝熱管が塑性変形を引き起こすおそれがある旨の原告らの主張は理由がなく、繰り返しの揺れを想定していないことをもって蒸気発生器伝熱管の耐震評価に係る具体的審査基準に不合理な点があるとはいえない。8 争点3-(4)―ウ(1次冷却設備配管の耐震性)について(1) 争点に係る認定事実ア 本件各原子炉施設について、ピーク応力強さに基づいて地震時の揺れの想定繰返し回数を設定する際には、水平方向と鉛直方向のそれぞれの繰返し回数を算定して大きい方の値を採用し(乙C23及び24・各28頁)、弾性設計用地震動の揺れの想定繰返し回数の算定においては、弾性設計用地震動に対するピーク応力強さの代わりに基準地震動に対するピーク応力強さを用い(乙C23及び24・各29頁)、最終的に地震時の揺れの想定繰返し回数を設定するに当たっては、上記のピーク応力強さに基づいて算定された想定繰返し回数より大きな値(基準地震動時と弾性設計用地震動のいずれについても200回)が設定されている。(乙C23及び24・各28、29頁)イ 参加人は、低サイクル疲労評価における過渡回数について、起動に係る平成21年度末の起動実績回数が64回(高浜発電所1号炉)及び47回(高浜発電所2号炉)であるのに対し、設計上の想定繰返し回数は120回とした。(乙C22・12、16頁)ウ 参加人は、本件工事計画認可申請の申請書(補正後)において、1次冷却設備配管の基準地震動Ssによる評価結果について、高浜発電所1号炉につき、疲労累積係数を0.71439、高浜発電所2号炉につき、疲労累積係数を0.87703と記載した。(弁論の全趣旨・原告ら準備書面(8)24、25頁)エ 疲労累積係数について疲労累積係数の算出に当たっては、機器・配管系に加えられる荷重(地震力等)の実際の繰返し回数と繰返しピーク応力強さに対応する許容繰返し回数の比が用いられる。このうち、許容繰返し回数の設定に当たっては設計疲労線図が用いられるが、これは通常、平滑な丸棒試験片の単軸引張圧縮疲労試験データに基づいてその回帰分析を行って設定した曲線(最適疲労曲線)を、環境効果、寸法効果及びデータのばらつきを考慮して、最適疲労曲線に対して繰返し回数方向(横軸)に1/20、応力振幅方向(縦軸)に1/2の安全率を乗じて設定される。(乙E32・14、15頁、弁論の全趣旨・被告第18準備書面16頁)オ 原子力規制委員会が実施する機器・配管系の耐震安全性評価に係る安全研究の一環として、原子力規制庁と学校法人東京電機大学の共同研究の成果を報告した論文である藤原啓太ほか(2023)は、配管要素の試験体を対象とした振動試験の結果に基づき、現行基準に基づく設計疲労評価手法は、疲労累積係数を10倍以上保守的に評価していると報告している。(乙E119、120、乙F61、弁論の全趣旨・被告第48準備書面14、15頁)(2) 検討原告らは、本件工事計画認可申請に係る審査に際し、1次冷却設備配管の耐震評価における疲労累積係数が、高浜発電所1号機につき0.714、高浜発電所2号機につき0.877と高い値となっており、強い余震等に続けて襲われると、許容値の1を超えてしまう可能性があり、このような繰り返しの荷重についての考慮を要求しない具体的審査基準は不合理であると主張する。しかしながら、上記6(2)で説示したとおり、新規制基準において、基準地震動又はこれに匹敵する地震が繰り返し発生することが想定されていないことが不合理であるとはいえず、基準地震動及び弾性設計用地震動自体も多数の保守性を考慮した相当程度強い地震動として策定され、上記7(2)のとおり、それに対する耐震設計の段階においても、設計引張強さや設計降伏応力が保守的に設定されているなど、保守性が確保されている。さらに、上記(1)エのとおり、疲労破損の防止について、許容繰返し回数の設定に当たって用いられる設計疲労線図は、最適疲労曲線に対して繰返し回数方向(横軸)に1/20、応力振幅方向(縦軸)に1/2の安全率を乗じて設定されたものである上、上記(1)ア及びイのとおり、本件各原子炉施設について、ピーク応力強さに基づいて地震時の揺れの想定繰返し回数を設定する際の繰返し回数、弾性設計用地震動の揺れの想定繰返し回数の算定におけるピーク応力強さ、最終的な地震時の揺れの想定繰返し回数の各段階において保守的な数値を設定し、低サイクル疲労評価における過渡回数についても起動実績回数よりも多い設計上の想定繰返し回数とするなど、保守的な設定をしており、藤原啓太ほか(2023)においても、現行基準に基づく設計疲労評価手法は、疲労累積係数を10倍以上保守的に評価したものであることが報告されている。したがって、本件各原子炉施設の1次冷却設備配管について、基準地震動後に引き続きこれに匹敵する地震が生じて破損するおそれがある旨の原告らの主張は理由がなく、本件工事計画認可処分に係る審査及び判断の過程で用いられた具体的審査基準に不合理な点があるとはいえない。9 争点3-(4)-エ(格納容器伸縮式配管貫通部の耐震性等)について(1) 原告らは、参加人が、平成27年1月7日の原子力規制庁による「高浜発電所原子炉施設保安規定変更認可申請(高浜発電所2号炉の高経年化技術評価書等)に関する事業者ヒアリング⑦」において提出した資料(平成27年保安規定変更認可処分に関するもの)によれば、高浜発電所2号機の原子炉格納容器の伸縮式配管貫通部(主蒸気ライン貫通部)の耐震評価は、通常運転時と基準地震動時を合計すると疲労累積係数0.793となっており、余震等により基準地震動の3割程度の影響があれば許容値を超えるおそれがあると主張する。しかしながら、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告らの指摘する数値は、平成27年保安規定変更認可申請に係る資料に記載されたものであって(甲C27・5、9枚目、乙C25、26、弁論の全趣旨・原告ら準備書面(8)26頁)、参加人は、平成28年3月31日、本件運転期間延長認可申請に関する事業者ヒアリングにおいて、高浜発電所2号機の主蒸気系統及び主給水系統伸縮継手について、基準地震動を踏まえ設備の耐震裕度を向上させる目的で、耐震補強として取替えを実施すると説明し(乙C27、弁論の全趣旨・被告第18準備書面34頁)、本件運転期間延長認可申請に係る平成28年4月27日付け耐震安全評価書における耐震補強工事後の疲労累積係数は0.202とされ、1を大きく下回っている(甲C27・4枚目)と認められる。したがって、原告らの主張はそもそもその前提を欠くものであって理由がない。(2) 原告らは、参加人が、本件運転期間延長認可申請に係る審査において提出した保守管理に関する方針書において、「疲労評価における実績過渡回数の確認を継続的に実施し、運転開始後60年時点の推定過渡回数を上回らないことを確認する。」と記載していることについて、地震が発生した後に実績過渡回数を確認するのでは遅く、疲労評価は繰り返しの揺れの影響を予め見込んだ評価を実施しなければならないと主張する。しかしながら、原告らの上記主張は、基準地震動後に引き続きこれに匹敵する地震が生じて機器や配管が破損するおそれがあることを前提とするものというべきところ、上記6(2)及び7(2)で説示したとおり、新規制基準において、基準地震動又はこれに匹敵する地震が繰り返し発生することが想定されていないことが不合理であるとはいえず、基準地震動及び弾性設計用地震動自体も多数の保守性を考慮した相当程度強い地震動として策定され、それに対する耐震設計の段階においても、設計引張強さや設計降伏応力が保守的に設定されているなど、保守性が確保されており、さらに、疲労破損の防止についても繰返し回数及び応力振幅についてそれぞれ安全率を乗じて設定されるなど、保守的な設定がされている。したがって、本件各原子炉施設の伸縮式配管貫通部について、基準地震動後に引き続きこれに匹敵する地震が生じて破損するおそれがあることを前提として疲労評価は繰り返しの揺れの影響を予め見込んだ評価を実施しなければならない旨の原告らの主張は理由がなく、本件運転期間延長認可処分に係る審査及び判断の過程で用いられた具体的審査基準に不合理な点があるとはいえない。(3) 原告らは、伸縮式配管貫通部の耐震評価に関して本件保安規定変更認可処分の違法事由としても主張する。しかしながら、上記(1)のとおり原告らが指摘する事業者ヒアリングの資料(甲C27・5枚目)は、平成27年保安規定変更認可申請に関するものであり、本件保安規定変更認可処分とは別の処分の審査の一環として行われたものであるから、本件保安規定変更認可処分の違法事由になるとはいえない。10 争点3-(5)(1次冷却設備の減衰定数を3%としたこと)について(1) 争点に係る認定事実ア 1次冷却設備の減衰定数に関する審査の経緯(ア) 本件各原子炉施設及び美浜発電所3号機の蒸気発生器は、中間胴及び下部に水平サポートを有する2点支持である。本件各原子炉施設及び美浜発電所3号機の各蒸気発生器の全体構造、上部支持構造及び下部支持構造は同一ではないが、蒸気発生器サポートの配置や支持点数等で相違はない。(甲C14・6頁、甲C19・5頁、乙C58・318~320頁)(イ) 参加人は、平成27年12月10日、原子力規制委員会の第305回審査会合において、本件各原子炉施設の耐震設計について、高浜発電所3号機及び4号機の申請で適用したものと同様の耐震設計手法を用いないことについて、高浜発電所3号機及び4号機以降に設置された原子力発電所については、「高耐震」という設計のためラジアルサポートが6つ設置されているのに対し、本件各原子炉施設については、4つしか設置されておらず、同設備の1個あたりにかかる荷重負担が大きいことや、基準地震動が大きくなったことから、従来の耐震設計手法によれば、耐震健全性が示せないと述べた。(甲C15・67、68頁)(ウ) 参加人は、平成27年12月17日、第310回審査会合において、本件各原子炉施設及び美浜発電所3号機のいずれも、1次冷却設備(1次冷却ループ)の設計用減衰定数について、新規制基準施行以前の工事計画認可時は1%としていたものを、3%に変更する旨を説明した。(乙C59・13頁)この時点では、3点支持の蒸気発生器については、1次冷却設備の設計用減衰定数を3%と設定した工事計画認可の例があったが、2点支持の蒸気発生器については、新規制基準施行前に、1次冷却設備の設計用減衰定数を1%と設定した工事計画認可の実績はあるものの、新規制基準施行の前後を通じ、設計用減衰定数を3%と設定した例はなかった。(乙C58・195頁)これに対して、原子力規制庁の職員は、JEAG4601-1991 追補版は、1次冷却設備の設計用減衰定数を3%としているが、同値は、1次冷却設備を構成する蒸気発生器が上部、中間及び下部に水平サポートを有する3点支持蒸気発生器の場合の試験結果に基づく減衰定数であるのに対し、本件各原子炉施設及び美浜発電所3号機の蒸気発生器は2点支持蒸気発生器であることから、耐震工認審査ガイド4.4.1(4)②及び③の後段の「既往の研究等における試験等により妥当性が確認されている設定等を用いる場合は、適用条件、適用範囲に留意する。」との記載に則る必要があるとして、2点支持蒸気発生器の場合に1次冷却設備の設計用減衰定数3%を適用することの妥当性やその適用可能性の説明が必要不可欠である旨を指摘した。(乙C59・12、13頁)(エ) 参加人は、上記第310回審査会合における指摘を踏まえて、平成28年1月14日、第317回審査会合において、国内外のデータ、特に2点支持が主流の米国における2点支持蒸気発生器の減衰定数に関するデータを集積し、本件各原子炉施設及び美浜発電所3号機の1次冷却設備への設計用減衰定数3%の適用性を説明する方針を示した。(乙C60・29、30頁、乙C61・別紙7)これに対して、原子力規制庁の職員は、海外知見から本件各原子炉施設及び美浜発電所3号機への適用性を説明するのであれば、本件各原子炉施設や美浜発電所3号機の地震動に対する海外知見の「包絡性」(有用性)、海外知見と本件各原子炉施設や美浜発電所3号機の支持構造の差を踏まえ、「減衰機構別に寄与」(各機器の減衰定数)を積み上げた場合の減衰定数の値といった定量分析等を確認する上で、基幹的かつ重要な事項の説明のための情報が必要である旨を指摘するとともに、本件各原子炉の運転期間満了日(平成28年7月7日)までのスケジュールを踏まえ、同論点に対する効率的な対応としての観点から、実機を用いた加振試験の実施の可能性について示唆した。(乙C60・18、19、30頁)(オ) 参加人は、平成28年1月26日、第323回審査会合において、原子力規制庁から示唆があった実機を用いた加振試験に関し、国内外のデータの集積及び分析により、1次冷却設備の設計用減衰定数3%の適用可能性は説明可能であるとした上で、当該説明を補足・補完するためのものとして実機での加振試験を実施する意向を示し、加振機による定常加振とハンマーによる打撃加振の両方の実施を検討している旨を説明した。(乙C62・5~10頁、乙C63・3~8頁)これに対して、原子力規制庁の職員は、参加人によるこれまでの説明では、米国での設計の考え方、減衰定数の適用範囲が明確でないとして、「実機による加振試験」は必須であるとの見解を示したところ、参加人は、これを了承した。(乙C62・25頁)(カ) 原子力規制庁は、従前の方針を変更して「実機による加振試験」を実施する見込みになったこと、運転期間満了日が近づいていること等の状況に鑑み、平成28年2月10日に開催された平成27年度第55回原子力規制委員会において、本件各原子炉施設に係る審査の状況等を原子力規制委員会に報告した。原子力規制庁は、参加人が実施予定の加振試験の結果を含め、後段規制において設計用減衰定数の適用性を確認する必要があるとの見解を示し、今後、設置変更許可を行った場合であっても、参加人により実施予定の加振試験の結果、設計用減衰定数が3%に達しない場合には、工事計画認可ができないという状況もあり得ることを説明した。原子力規制委員会は、原子力規制庁に対し、1次冷却設備の設計用減衰定数の適用性の確認方針については、審査の状況・進展を踏まえて検討の上、最終的には原子力規制委員会に諮るよう指示した。(乙C66・9~15頁、乙C67・1頁)(キ) 参加人は、平成28年2月18日、第331回審査会合において、従前の方針を変更し、美浜発電所3号機の実機(蒸気発生器)を用いた加振試験(本件加振試験)を実施し、当該試験結果を基に、2点支持蒸気発生器の1次冷却設備の設計用減衰定数3%の妥当性を説明する方針を説明した。(乙C64・5~7、14頁、乙C65・2頁)(ク) 原子力規制庁は、平成28年3月23日に開催された平成27年度第62回原子力規制委員会において、本件各原子炉施設の1次冷却設備の設計用減衰定数の適用性に関する確認プロセスについて次の①~④のとおり整理し、原子力規制委員会は、これを了承した。①工事計画認可の審査においては、工事計画に示された減衰定数を基に設計する設備が技術基準に適合することを確認する。②本件各原子炉施設においては、工事計画に示される減衰定数(3%)に基づき評価される機器等の許容応力に対する余裕が、従前の減衰定数(1%)に基づく評価に比べ小さくなることが見込まれるため、設計における若干の相違や施工上のばらつきにより発生する減衰定数の不確かさに対して保守性を有する値であるかを確認する必要がある。③工事計画においては、今後、必要な工事実施後の状態において今回の減衰定数を適用するものであること、工事完了後の実機(本件各原子炉施設)を対象とした加振試験を実施し、減衰定数を確認することを明記することを要求する。④使用前検査においては、必要な工事実施後、実機(本件各原子炉施設)を対象に加振試験を実施して取得したデータにより、工事計画における減衰定数を確認する。(以上につき、乙C68・1頁、乙C69・3、6~8、10頁)(ケ) 原子力規制委員会は、平成26年5月2日の平成26年度第6回原子力規制委員会において、新規制基準施行後の工事計画の審査及び使用前検査についての対応方針を検討し、工事計画認可に係る審査については、「事業者の実施した評価が、既に認可された工事計画で用いられたものと同じ手法及び条件の場合には、入力と結果を確認することとし、新たな手法等である場合には、それに先立ち、その手法等の妥当性と適用可能性を確認する。」とし、使用前検査については、「安全機能を有する主要な設備については、これまでの実績を踏まえた適切な手法で検査を実施する一方、それ以外の設備については、使用前検査において、事業者において認可された工事計画に従って工事が行われたことを記録により包括的に確認するとともに、抜き取りにより現物を確認する等の手法を用いる。」と整理するとともに、工事計画認可後に炉規法43条の3の9第3項2号「発電用原子炉施設が43条の3の14の技術上の基準に適合するものであること」に違反することが判明した場合は、違反の内容・程度及び施設の状況等を踏まえつつ、同法43条の3の23第1項に基づく施設使用停止等命令の発出を行うこと等により対応するとしていた。(乙B141、142・14、15、19頁)(コ) 参加人は、平成28年4月14日、第349回審査会合において、工事計画に示す1次冷却設備の設計用減衰定数の妥当性について、下記イのとおり実施した本件加振試験の内容及び結果をもって、蒸気発生器頭頂部変位2.0㎜以上のデータにおけるモーダル減衰定数の下限値は3.2%であり、設計用減衰定数の解析によるモーダル減衰定数2.99%を上回り、2点支持蒸気発生器である本件各原子炉施設及び美浜発電所3号機において1次冷却設備の減衰定数が3%以上確保できる見通しである、本件加振試験について、加振方法等改善の余地があることがわかったので耐震工事完了後の状態において実施する加振試験につなげていきたい、本件加振試験は反力型の加振であったが、耐震工事完了後の加振試験では慣性型加振を考えているなどと説明した。(乙C70・6、7、12頁、乙C71・5頁)また、参加人は、本件工事計画認可処分後の使用前検査において、平成27年度第62回原子力規制委員会において同委員会が了承した方針に則り、耐震工事完了後の状態にて蒸気発生器、冷却材ポンプの各々が主体的に振動する場合の実機の減衰定数を取得し、工事計画(設計)で設定した値を有することを確認すると回答した。(乙C71・14、15頁)イ 本件加振試験について(ア) 参加人は、本件各原子炉施設の1次冷却設備に対する設計用減衰定数3%の適用可能性を確認するため、美浜発電所3号機の実機を用いた加振試験(本件加振試験)を耐震設計の評価条件であるプラント運転時に近い条件で実施した上で、このような実機の加振試験により得られるループ全体(原子炉容器と1次冷却設備)のモーダル減衰定数(機器・配管系等の振動現象を様々な揺れ方、すなわち振動モードごとに分解したときに、各振動モードに発生する減衰の効果の大きさを個別に表現したもの。)と、工事計画認可申請において設定している各機器の設計用減衰定数に基づく解析により算出されるループ全体のモーダル減衰定数を比較することとした。これは、実機を用いた加振試験では1次冷却設備のみの減衰定数を計測することはできず、原子炉容器と1次冷却設備を合わせたモーダル減衰定数しか計測できないからであり、実機によるモーダル減衰定数と各機器の設計用減衰定数から算出されるモーダル減衰定数を比較して実機によるモーダル減衰定数が設計用減衰定数を上回るか否かにより、各機器の設計用減衰定数が保守性を有するか確認するものである。各機器の設計用減衰定数として、原子炉容器を1%、1次冷却設備の各機器(蒸気発生器、冷却材ポンプ、1次冷却材管及びホットレグ・クロスオーバーレグ・コールドレグ)を3%と設定した場合、モーダル減衰定数は2.99%と算出された。(乙C72・2頁、弁論の全趣旨・被告第34準備書面35頁)参加人は、美浜発電所3号機の代表的な振動モードにおける各機器の設計用減衰定数の寄与度を確認した上で、減衰機構の主要因はサポート部であるという過去の知見により、部材減衰定数としては本体よりサポート部の方が大きいとして、蒸気発生器の設計用減衰定数としては蒸気発生器の本体の減衰寄与率の高い1次モードの振動モードによる試験で代表することができるとし、加振対象物であるAループ蒸気発生器及びBループ蒸気発生器について、これらの対象物の形状及び構造等から、主軸をホットレグ軸直方向及びホットレグ軸方向と決定した上で加振試験を実施することとした。(乙C58・308頁、乙C72・13頁、乙C76・269~280頁)(イ) 本件加振試験は、次の①~⑤に示す測定及び解析手順に基づき実施された。(乙C58)①Aループ蒸気発生器とBループ蒸気発生器の2箇所において加振試験を実施する。試験の加振レベルとして、実機を加振した際の変位量(ひずみレベル)の違いによる減衰定数の違いを把握するため、小レベル、中レベル及び大レベルの3種類を実施する(同310、321、328頁)。②加振位置は、油圧加振機を蒸気発生器の2次側マンホールと周囲構造物との間に設置し、加振ポイントとして蒸気発生器の2次側マンホール部を選定する。Aループ蒸気発生器においてはホットレグ軸方向から33.5°の方向、及びBループ蒸気発生器においては同61.6°の方向で蒸気発生器を強制定常加振する(同309、310頁)。加振条件は、加振力を一定とした単一振動数の正弦波加振により、振動が一定(安定)となった状態(定常応答)の蒸気発生器頂部の変位等を計測する。計測に当たっては、振動数を試験で確認し、確認した固有振動数を中心に、加振振動数を段階的に変化させる正弦波ステップ加振を行う(同309、310頁)。また、蒸気発生器頂部の変位等は、ホットレグ軸直方向及びホットレグ軸方向の2方向において計測し、これに従い、減衰定数も同じく2方向において算定する(同313、314、316頁)。③上記①及び②に従った加振試験により取得された計測データについて、加振力(入力荷重)とその応答(応答加速度)の値を求め、その振幅比(応答/加振力)を振動数ごとにそれぞれ算出する。算出された振動数ごとの振幅比のデータについて、「加振振動数」を横軸、「振幅比(応答/加振力)」を縦軸とするグラフに図示する(同316頁)。④理論的な応答曲線をハーフパワー法に基づいて算出し、減衰定数や固有振動数等のパラメータを試行錯誤的に変化させながら、上記③で得られた各振幅比のデータに合わせる。そして、当該応答曲線が上記③で得られた各振幅比のデータに最も適合する場合の減衰定数をもって、解析により得られる最適な減衰定数の値とする。また、ハーフパワー法とは別のナイキスト線図を用いた手法によっても減衰定数を算出する。そして、ハーフパワー法及びナイキスト線図から算出した各減衰定数を比較することにより、両者の算出精度を確認しつつ、最終的な減衰定数の算定方法を決定する(同310、335頁)。⑤大レベルの最大加振時にはデータの再現性確認を目的として3回以上データを取得するが、得られる減衰定数のばらつきが十分小さいことを考慮し、より保守的な評価となる下限値の計測データを使用する(同310、344~347頁)。(以上につき、乙C72・13~19頁)(ウ) Aループ加振試験の結果a Aループ蒸気発生器について、試験の加振レベルとして、小レベル、中レベル及び大レベルの3種類を実施し、大レベルにおいては3回の試験により減衰定数を取得した。この加振試験の結果から、ハーフパワー法及びナイキスト線図に基づき減衰定数を算出したところ、両手法ともに、ホットレグ軸直方向(蒸気発生器頂部の変位は約2.5㎜の応答)については減衰定数3.2%~4.0%、ホットレグ軸方向(蒸気発生器頂部の変位は約0.6㎜の応答)については減衰定数4.4%と評価された。最終的に、Aループ蒸気発生器の加振試験においては、保守的な値として、大レベルの加振試験により得られたホットレグ軸直方向の減衰定数のうち下限値の3.2%が適用され、実機のモーダル減衰定数3.2%が各機器の設計用減衰定数の解析から求めたモーダル減衰定数2.99%より大きいことが確認された。(乙C58・321~327頁)b Aループ蒸気発生器において、ホットレグ軸方向については、ホットレグ自体が有する振動特性(ホットレグ軸方向がホットレグ軸直方向に比べて振動しにくい特性)の影響から、加振レベル(大レベル)に比して想定されていた2㎜以上の応答変位を下回る応答変位(0.8㎜)しか得られず、大レベルの加振試験による減衰定数は取得できなかった。小レベル及び中レベルでは、ホットレグ軸方向よりもホットレグ軸直方向の方がいずれも減衰定数は小さかった。(乙C58・310、322、336頁)c 以上により、ホットレグ軸方向よりホットレグ軸直方向の方が減衰定数は小さいことから、耐震評価においてより保守的なホットレグ軸直方向の減衰定数(3.2%)を最終的な評価値とした。(乙C58・321頁)(エ) Bループ加振試験の結果a Bループ蒸気発生器について、試験の加振レベルとして、小レベル、中レベル及び大レベルの3種類を実施し、大レベルにおいては3回の試験により減衰定数を取得した。この加振試験の結果から、ハーフパワー法及びナイキスト線図に基づき減衰定数を算出したところ、両手法ともに、ホットレグ軸直方向(蒸気発生器頂部の変位は約2.3㎜の応答)については減衰定数3.2%~4.1%、ホットレグ軸方向(蒸気発生器頂部の変位は約0.6㎜の応答)については減衰定数4.9%と評価された。最終的に、Bループ蒸気発生器の加振試験においては、保守的な値として、大レベルの加振試験により得られたホットレグ軸直方向の減衰定数のうち下限値の3.2%が適用され、実機のモーダル減衰定数3.2%が各機器の設計用減衰定数の解析から求めたモーダル減衰定数2.99%より大きいことが確認された。(乙C58・328~334頁)b Bループ加振試験においても、Aループ加振試験と同様に、ホットレグ軸方向については、大レベルの加振試験による2㎜以上の応答変位を下回る応答変位(0.7㎜)しか得られなかった。小レベル及び中レベルでは、ホットレグ軸方向よりもホットレグ軸直方向の方がいずれも減衰定数は小さかった。(乙C58・310、329、336頁)c 以上により、ホットレグ軸方向よりホットレグ軸直方向の方が減衰定数は小さいことから、耐震評価においてより保守的なホットレグ軸直方向の減衰定数(3.2%)を最終的な評価値とした。(乙C58・328頁)(オ) 本件加振試験に用いられた油圧加振機は、加振エネルギーが大きく、加振対象振動数が可変かつ振動変位が制御可能なものである。(乙C58・315頁、乙C63・9頁)ウ 美浜発電所3号機の使用前検査における1次冷却設備の加振試験について参加人は、令和2年2月、美浜発電所3号機の使用前検査において、慣性型加振機を用いて1次冷却設備の加振試験を実施し、実機のモーダル減衰定数が3%以上となる結果(ホットレグ軸直方向について減衰定数3.3%~3.4%、ホットレグ軸方向について減衰定数8.6%~9.0%)が示された。(乙C70・12頁、乙C73・3頁)原子力規制委員会は、上記結果も踏まえて、検査結果を「良」と判断し、令和3年7月27日、美浜発電所3号機について、使用前検査成績書(使用前検査合格証)を発行した。(乙C74・7頁、乙C75)エ 本件各原子炉施設の使用前事業者検査及び確認における1次冷却設備の加振試験について(ア) 参加人は、令和2年1月頃、高浜発電所1号機の使用前検査において、慣性型加振機を用いて1次冷却設備(Cループ蒸気発生器)の加振試験を実施し、実機のモーダル減衰定数が3%以上となる結果(ホットレグ軸直方向について減衰定数3.3%、ホットレグ軸方向について減衰定数9.4%~9.6%)が示された。(乙C71・14、15頁、乙C128)原子力規制委員会は、上記結果も踏まえて、高浜発電所1号機について炉規法43条の3の11第2項各号のいずれにも適合していると判断し、令和5年8月28日、参加人に対し、使用前検査合格証を交付した。(乙C130、131)(イ) 参加人は、令和3年3月頃、高浜発電所2号機の使用前検査において、慣性型加振機を用いて1次冷却設備(Aループ蒸気発生器)の加振試験を実施し、実機のモーダル減衰定数が3%以上となる結果(ホットレグ軸直方向について減衰定数3.4%、ホットレグ軸方向について減衰定数8.2%~8.5%)を示した。(乙C71・14、15頁、乙C129)原子力規制委員会は、上記結果も踏まえて、高浜発電所2号機について炉規法43条の3の11第2項各号のいずれにも適合していると判断し、令和5年10月16日、参加人に対し、使用前検査合格証を交付した。(乙C132、133)(2) 検討ア 1次冷却設備に3%の設計用減衰定数を適用できるとしたことについて(ア) 蒸気発生器等の1次冷却設備は、耐震重要施設に該当するところ(設置許可基準規則3条1項)、工事計画認可の際の審査の基準である技術基準規則は、耐震重要施設は、基準地震動による地震力に対してその安全性が損なわれるおそれがないように施設すべきことを求めており(5条2項)、同条に係る技術基準規則解釈(乙B9・17頁)は、耐震重要施設が基準地震動による地震力に対して施設の機能を維持していることなどを求めている。また、別紙12耐震工認審査ガイドの概要のとおり、耐震工認審査ガイドは、機器・配管系の耐震設計において、その減衰定数の設定については JEAG4601 を参考とし、既往の研究等において試験等により妥当性が確認されている設定等を用いる場合は、適用条件、適用範囲に留意することを定めている。(イ) 原告らは、本件工事計画認可処分について、参加人が、機器・配管系である1次冷却設備の設計用減衰定数を3%に設定したことの妥当性を確認しないままされているから、耐震工認審査ガイドの基準に明確に違反しており、その判断過程に看過し難い過誤、欠落があると主張する。(ウ) しかしながら、上記(1)ア(ア)~(キ)のとおり、本件各原子炉施設及び美浜発電所3号機の蒸気発生器は、いずれも2点支持であり、従来は1次冷却設備の設計用減衰定数を1%としていたが、基準地震動が大きくなったことなどから耐震健全性を示せないこととなり、JEAG4601-1991 追補版は、1次冷却設備の設計用減衰定数を3%としているが、1次冷却設備を構成する蒸気発生器が3点支持の場合の試験結果に基づく減衰定数であったことから、耐震工認審査ガイドの「既往の研究等における試験等により妥当性が確認されている設定等を用いる場合は、適用条件、適用範囲に留意する。」との記載に照らして、その妥当性を示すことが求められ、海外知見によるデータのみならず、本件加振試験を行うことにより設計用減衰定数3%の適用可能性が検討されたと認められる。そして、上記(1)イのとおり、本件加振試験は、油圧加振機を用いて加振力を一定とした単一振動数の正弦波加振により振動が一定となった状態で蒸気発生器頂部の変位等を計測するものであるところ、本件加振試験の結果、美浜発電所3号機のAループ蒸気発生器及びBループ蒸気発生器それぞれについて各機器の設計用減衰定数に基づく解析から求められたモーダル減衰定数2.99%を、実機のモーダル減衰定数いずれも3.2%が上回ることが確認されており、耐震工学、振動工学、装置機器学などの専門家であるJ7も、J7意見書(乙E88)において、本件加振実験について技術的に不合理な点はない旨を述べているから、本件加振試験の内容が不十分なものであったということはできない(原告らが指摘する本件加振試験の問題点については後記ウにおいて説示する。)。原子力規制委員会は、上記(1)ア(ク)及び(ケ)のとおり、本件加振試験の結果も踏まえつつ、減衰定数の不確かさに対して保守性を有する値であるかを確認する必要があるなどとして、工事完了後の使用前検査において本件各原子炉の実機による加振試験を実施し、減衰定数を確認することを求め、その段階で工事計画認可の要件に違反することが判明した場合は、炉規法43条の3の23第1項に基づく施設使用停止等命令の発出等により対応するなどと整理した上で、上記認定事実(地震)(4)ア(エ)のとおり、本件加振試験を「既往の研究等」における「試験等」として整理し、本件各原子炉施設の 1 次冷却設備の構造的特性が美浜発電所3号機と同等であることから、1次冷却設備に3%の設計用減衰定数を適用することができると判断したものであり、これが耐震工認審査ガイドに反しているとはいえない。イ 減衰定数3%の妥当性が確認されていないとの原告らの主張について(ア) 原告らは、工事計画認可処分は工事が行われる前に設計に係る審査をするものであり、耐震工認審査ガイドの減衰定数も設計用減衰定数であるから、工事計画認可後に実機による試験をすることにより確認することは不合理であると主張する。しかしながら、炉規法が採用する段階的安全規制の仕組上、原子力規制委員会は、工事計画認可の段階においては、工事がされる前の詳細設計に係る審査をし、使用前検査の段階において、認可を受けた工事計画どおりの工事が実際にされているかを確認することとなっているから、炉規法は、工事計画認可の段階で、実機が設計どおりの減衰定数を有しているかを試験により確認することまで求めているとはいえない。もっとも、工事計画認可処分に係る審査において設計用減衰定数の妥当性を確認するための具体的な方法や、使用前検査において認可を受けた工事計画どおりの工事がされているか否かを確認するための具体的な方法、その際に設計用減衰定数が工事計画認可処分の内容どおりのものとなっていることを確認することの要否に関する規定はないから、これらは、審査及び検査の対象となる設備の具体的な構造的特性及び審査実績の有無等を踏まえた原子力規制委員会の専門技術的裁量に委ねられているというべきである。そして、上記(1)ア(キ)及び(ク)のとおり、本件においては、工事計画認可の審査の段階で美浜発電所3号機の実機による本件加振試験を実施し、使用前検査の段階で本件各原子炉施設の実機による加振試験を実施することが予定されていたところ、原子力規制委員会が、設計用減衰定数の妥当性を確認するため、これらの各加振試験の実施を求めたことは、その専門技術的裁量に基づく判断として不合理とはいえない。本件工事計画認可処分後に本件各原子炉施設の実機による加振試験を予定していたとしても、上記アで説示したとおり、工事計画認可の審査段階において、耐震工認審査ガイドを踏まえて技術基準規則5条に適合していることを確認して本件工事計画認可処分をしたものであって、本件工事計画認可処分が内容未確定や条件付きでされたということはできない。(イ) また、原告らは、原子力規制委員会は、本件各原子炉施設の1次冷却設備への減衰定数3%の適用を確認するため、本件各原子炉施設の実機試験が必須であるとしていたと主張する。しかしながら、上記(1)ア(オ)及び(カ)のとおり、原子力規制庁の職員は、平成28年1月26日の第323回審査会合において、参加人に対し、「実機による加振試験」が必須であるとの見解を示しているが、これは、既存の国内外のデータの分析により設計用減衰定数3%の妥当性を説明するのではなく、本件工事計画認可処分の対象である本件各原子炉施設又はこれと同等の蒸気発生器支持構造の構造的特性を有する実機による試験を実施した上で、当該試験から得られるデータを踏まえた設計用減衰定数3%の妥当性の説明を参加人に求めたものと解され、同年2月10日の平成27年度第55回原子力規制委員会についてみても、「実機による加振試験」とは本件各原子炉施設又はこれと同等の蒸気発生器支持構造の構造的特性を有する実機による試験を意味していたと解されるから、原子力規制委員会が、本件工事計画認可処分に係る審査の過程において、工事計画認可の段階で本件各原子炉施設の実機による加振試験を実施することが必須であるとの見解を示したとは認められない。(ウ) さらに、原告らは、本件工事計画認可処分に当たり、実機による打撃試験が行われておらず、本件加振試験も後日改善しなければならないような不十分な試験であったにもかかわらず、減衰定数3%の適用を認めた原子力規制委員会の判断は不合理であると主張する。しかしながら、上記(1)ア(オ)のとおり、参加人が、平成28年1月26日の第323回審査会合において、加振機による定常加振とハンマーによる打撃加振の両方の実施を検討している旨の説明をしたことは認められるものの、原子力規制委員会からその両方の実施が必要であるとの方針等が示されたと認めることはできない上、打撃試験の方が油圧加振機を用いた加振試験よりも精度が高い試験結果が得られるともいえない(乙C63・9頁)から、油圧加振機を用いた本件加振試験の実施に加えて打撃試験が必要であったということはできない。また、上記(1)ア(コ)のとおり、参加人は、第349回審査会合において、本件加振試験について、加振方法等改善の余地があることがわかった旨の発言をしているが、具体的には、本件加振試験は反力型の加振であったが、耐震工事完了後に実施する加振試験では慣性型加振を考えていると説明するものであって、その意味で本件加振試験に改善の余地があったとしても、J7意見書によれば、本件加振試験について技術的に不合理な点はないとされており、また、減衰定数の評価に当たり、基準化された相対値を用いることにより、減衰定数の値に入力特性である入力の位置や方向などが一切影響を及ぼすことがないように処理されると認められる(乙E88・13頁)から、上記参加人の発言から、直ちに本件加振試験の結果の合理性が否定されるものとはいえない。そして、上記(1)ウ及びエのとおり、美浜発電所3号機及び本件各原子炉施設の使用前検査で行われた加振試験は、慣性型加振機によるものであり、同試験で得られた実測データに基づくモーダル減衰定数の下限値は、本件加振試験によって得られた実測データに基づくモーダル減衰定数の下限値と同等であることに照らすと、反力型加振機を用いた本件加振試験の結果が不十分なものであったということもできない。(エ) 原告らは、蒸気発生器周辺の構造は、本件各原子炉施設と美浜発電所3号機とで大きく異なるから、本件加振試験により本件各原子炉施設の減衰定数の妥当性を確認できるとはいえないと主張する。しかしながら、上記(1)ア(ア)のとおり、本件各原子炉施設と美浜発電所3号機とにおいて、各蒸気発生器の全体構造、上部支持構造及び下部支持構造は同一ではないものの、蒸気発生器サポートの配置や支持点数等で相違はないと認められる。また、上記(1)イ(ア)のとおり、本件加振試験においては、モーダル減衰定数の比較により1次冷却設備の設計用減衰定数の確認がされているところ、証拠(乙C58・200、201頁、乙C76・269~280頁、弁論の全趣旨・被告第34準備書面61頁)によれば、モーダル減衰定数に対する各機器の寄与度としては、蒸気発生器の設計用減衰定数が最も高くいずれも8割を超えているから、寄与度の低い蒸気発生器周辺の構造に違いがあるとしても、減衰定数への影響は小さいというべきである。また、各機器の設計用減衰定数の解析から求めたモーダル減衰定数は美浜発電所3号機が2.99%~3.14%、本件各原子炉施設が各2.99%であるところ(乙C58・200、201頁、乙C76・269~280頁、弁論の全趣旨・被告第34準備書面62頁)、これらの減衰定数の数値がほぼ同等であることも、本件各原子炉施設と美浜発電所3号機とで1次冷却設備を構成する蒸気発生器等の振動性状(揺れの特性)に係る構造的特性が同等であることに基づくものと考えられ、本件加振試験に基づく減衰定数が本件各原子炉に適用可能であることを裏付けるものといえる。ウ 本件加振試験の問題点について(ア) 原告らは、本件加振試験の内容の問題点として、蒸気発生器の上部から単一振動数に基づく一定状態の正弦波加振しかしておらず、実際の地震動とは全く逆側からの振動入力であり、実際の地震波は前後左右上下の振動が含まれ、周波数も様々な波が含まれているから、減衰状況を再現できているとはいえないなどと主張する。しかしながら、J7意見書(乙E88)によれば、機械システム等の構造物は、固有の振動特性(振動モード)を有しているところ、この固有の振動特性(振動モード)は、主に当該機械システム等の構造物の大きさ(重さ)、形状、構造(硬さ)によって決まるから、減衰定数が入力の位置や方向に影響されることはなく、同じ揺れ方(動的挙動)をする場合には、いかなる方法で揺らしたとしても、減衰定数の値は同じ値となる(同5~7頁)、減衰定数の評価に当たり、実測したデータそのものではなく、基準化された相対値を用いることにより、減衰定数の値に入力特性である入力の位置や方向などが一切影響を及ぼすことがないように処理される(同13頁)、地震波のようなランダム波で加振すると、地震波に含まれる無数の周波数により別の振動モードも励起されるが、そのような場合は全体システムとして有する減衰定数は増大する方向に働く(同12、13頁)などとされ、これらの内容が不合理であるとは認められない。そうすると、振動の入力方向が減衰定数に影響するとはいえず、実際の地震動が本件加振試験と異なり、ランダムであるとしても、減衰定数が増大する方向に働くというのであるから、本件加振試験の方法が保守性を欠いて不合理であるということはできない。また、上記(1)イ(イ)のとおり、本件加振試験は加振振動数を段階的に変化させる正弦波ステップ加振を行ったものと認められ、単一振動数に基づく加振試験であったという原告らの主張はその前提を欠き、理由がない。(イ) 原告らは、本件加振試験において、油圧加振機を蒸気発生器の一部に押し当てて加振しているため、3点支持と同様の効果があったと主張する。しかしながら、上記(1)イ(イ)のとおり、本件加振試験では、蒸気発生器の2次側マンホール部を加振ポイントとしているが、J7意見書(乙E88・14頁)によれば、加振機は正弦波状に動き、蒸気発生器の2次側マンホール部と同じ動きをしているため、加振機は支持点の役割を果たしていなかったと認められるから、3点支持と同様の効果があったとの原告らの主張は理由がない。(ウ) 原告らは、本件加振試験は反力型加振機を用いて行われたが、従前の高浜発電所4号機の加振試験や、工事完了後の使用前検査の段階で実施された加振試験では慣性型加振機を用いており、反力型加振機を用いたのは、3点支持に近い条件として減衰定数を大きくする目的であった可能性があると主張する。しかしながら、上記(ア)のとおり、減衰定数が入力の位置や方向に影響されることはなく、同じ揺れ方(動的挙動)をする場合には、いかなる方法で揺らしたとしても、減衰定数の値は同じ値となり、また、減衰定数の評価に当たり、実測したデータそのものではなく、基準化された相対値を用いることにより、減衰定数の値に入力特性である入力の位置や方向などが一切影響を及ぼすことがないように処理されるというのであるから、加振方法の違いをもって本件加振試験が減衰定数を大きくする目的であったということはできず、反力型加振機を用いたことが不合理であるということもできない。さらに、上記(1)イ~エのとおり、反力型加振機を用いた本件加振試験と、慣性型加振機を用いた美浜発電所3号機及び本件各原子炉施設の使用前検査の際の加振試験のモーダル減衰定数の下限値がいずれも同等であることからしても、反力型加振機を用いた本件加振試験が減衰定数を大きくするものであったということはできない。(エ) 原告らは、本件加振試験について、大レベルでも3回しか行われておらず、実験回数が少なすぎて実験回次ごとの誤差の把握が困難であり、単に下限値を採用することが保守的であるか判断することができない、大レベルの3回の試験でも0.8%ものばらつきが出ているから、試験回数を増やせば減衰定数が3%を下回る蓋然性が非常に高いなどと主張する。しかしながら、J7意見書(乙E88)によれば、試験状態が良好であれば、少ない実験回数であっても十分高い信頼性があると評価でき、本件加振試験における各試験条件の不確定要素は十分に小さいと判断できるから、たとえ3回の試験であっても信頼性の高いデータが得られている、保守的な評価となるよう下限値の計測データが使用されていることからも、本件加振試験により得られた減衰定数は3%以上であると考えられる(同15、16頁)、本件加振試験の大レベル入力において、減衰定数の値に0.8~0.9%のばらつきが生じているが、不確定要素が少ない実機加振での定常応答から減衰定数が求められていること、最小3.2%~最大4.1%のばらつき幅で、平均値の±10%程度の間に収まっていることから、十分小さなばらつきで信頼性の高い減衰定数が得られている(同16、17頁)などとされており、この内容が不合理であるとはいえず、このことは、上記(1)イ~エのとおり、反力型加振機を用いた本件加振試験と、慣性型加振機を用いた美浜発電所3号機及び本件各原子炉施設の使用前検査における加振試験のモーダル減衰定数の下限値がいずれも同等であることからも裏付けられるというべきである。(オ) 原告らは、本件加振試験の小レベル及び中レベルでは減衰定数が3%を下回っていると主張する。しかしながら、入力の揺れの大きさ(振幅)が大きくなるにつれて、摩擦により発生する熱や空気抵抗などにより振動系のエネルギーが減少し、振動が減衰するため(乙E60・80頁)、減衰定数の値が大きくなる傾向があると考えられ、小レベル及び中レベルの減衰定数は大レベルの減衰定数よりも小さくなるのが自然であるところ、技術基準規則5条2項及び同項に係る技術基準規則解釈の趣旨に照らせば、基準地震動による地震力に至らない小レベル及び中レベルの加振による揺れ(振幅)の大きさに基づく試験結果を基礎として、基準地震動による地震力が作用した際の耐震設計上考慮すべき減衰定数を設定することは適切とはいえない。また、J7意見書(乙E88・16頁)によれば、本件加振試験では、小レベル、中レベル及び大レベルの3段階の試験が実施されているが、これは実機から正確な振動特性や減衰定数を評価するために動的挙動の振幅の大きさを変えて計測する必要があるからであり、減衰定数の大きさは、振幅の最大応答や振動の収まり方に大きく寄与するが、小レベルや中レベルで設計減衰定数を満たさない場合でも、原子力発電所内の機器・配管系の機能維持の観点で重要となる地震時の損傷に直結するような応答を招くことはないと判断できるとされており、これが不合理であるとはいえない。そして、本件加振試験では、蒸気発生器頂部につき2㎜を超える応答変位が得られるような加振による揺れ(振幅)の大きさを大レベルと想定しているが、これは美浜発電所3号炉の基準地震動(Ss地震時)による蒸気発生器頂部の応答変位としては、2㎜を超える変位が生じることになる(乙C58・348頁)ことから設定されたものと認められ、本件加振試験による小レベル及び中レベルの加振による蒸気発生器頂部の応答変位は2㎜以下にとどまり(乙C58・322、329頁)、基準地震動による地震力が作用した際の応答変位には到達していないから、本件加振試験による小レベル及び中レベルの減衰定数が3%未満であることをもって、設計用減衰定数を3%とすることが不合理であるとはいえない。エ 以上によれば、1次冷却設備の設計用減衰定数を3%として本件工事計画認可処分をした原子力規制委員会の審査及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。11 地震に関する争点のまとめ以上のとおり、地震に関して、平成28年各処分について、現在の科学技術水準に照らし、各審査において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、又は、本件各原子炉施設が上記具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の審査及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、平成28年各処分が違法であるとはいえない。第8 当裁判所の判断(火山に関する争点)1 認定事実(火山)(1) 火山に関する規制の概要ア 発電用原子炉の設置(変更)許可の要件として、炉規法43条の3の6第1項4号(同法43条の3の8第2項により設置変更許可に準用)は、「発電用原子炉施設の位置、構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものであること」を規定し、この委任を受けて、原子力規制委員会は、設置許可基準規則を定め、また、設置許可基準規則解釈(乙B5・13頁)は、設置許可基準規則6条1項に規定する「想定される自然現象」とは、敷地の自然環境を基に、火山の影響から適用されるものをいうと定めている。イ 炉規法43条の3の14本文は、「発電用原子炉設置者は、発電用原子炉施設を原子力規制委員会規則で定める技術上の基準に適合するように維持しなければならない」と規定し、この委任を受けて、原子力規制委員会は、技術基準規則を定め、また、技術基準規則7条1項についての技術基準規則解釈(乙B9・19頁)は、「想定される自然現象」には火山事象を含むと定めている。ウ 炉規法43条の3の22第1項柱書きは、「発電用原子炉設置者は、次の事項について、原子力規制委員会規則で定めるところにより、保安のために必要な措置(重大事故が生じた場合における措置に関する事項を含む。)を講じなければならない」と規定し、発電用原子炉施設の保全(同項1号)、発電用原子炉の運転(同項2号)等について必要な措置を講じることを定め、この委任を受けて、原子力規制委員会は、実用炉規則69条~90条を定めているところ、令和2年改正実用炉規則83条1項1号ロは、設計想定事象、重大事故等又は大規模損壊に関して、「火山現象による影響」について、①火山現象による影響が発生し、又は発生するおそれがある場合(火山影響等発生時)における非常用交流動力電源設備の機能を維持するための対策に関すること(要求事項(火山)①)、②①に掲げるもののほか、火山影響等発生時における代替電源設備その他の炉心を冷却するために必要な設備の機能を維持するための対策に関すること(要求事項(火山)②)、③②に掲げるもののほか、火山影響等発生時に交流動力電源が喪失した場合における炉心の著しい損傷を防止するための対策に関すること(要求事項(火山)③)、を含む発電用原子炉施設の必要な機能を維持するための活動に関する計画を定めるとともに、当該計画の実行に必要な要員を配置し、当該計画に従って必要な活動を行わせる措置を講じることを定めている。また、炉規法43条の3の24は、「発電用原子炉設置者は、原子力規制委員会規則で定めるところにより、保安規定(括弧内略)を定め、発電用原子炉施設の設置の工事に着手する前に、原子力規制委員会の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。」と規定し、認可の要件として、「核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上十分でないものであること」に該当するときは認可をしてはならないと規定し、この委任に基づいて、原子力規制委員会は、実用炉規則92条を定め、同条1項16号において、「設計想定事象、重大事故等又は大規模損壊に係る発電用原子炉施設の保全に関する措置に関すること」を保安規定の記載事項としている。さらに、原子力規制委員会は、保安規定認可の審査のための内規として保安規定審査基準(乙B11)を定めており、実用炉規則92条1項16号の記載事項のうち火山現象による影響について、要求事項(火山)①~③が定められていることを要求している。(乙B135・別紙2-2)エ 原子力規制委員会は、発電用原子炉施設の安全性審査として、火山の影響により原子炉施設の安全性を損なうことのない設計であることの評価方法の一例であり、火山影響評価の妥当性を審査官が判断する際に参考とするものとして、火山ガイド(平成25年火山ガイド(乙B120)、平成29年火山ガイド(乙B121)及び令和元年火山ガイド(乙B143))を定めている。火山ガイドは、原子力規制委員会において、IAEAの安全指針(IAEA・SSG-21)、日本電気協会作成の「原子力発電所火山影響評価技術指針」(JEAG4625-2009)等の文献や専門家からのヒアリング結果を基に、最新の科学的知見を集約して制定したものである。火山ガイドの策定に当たり、原子力規制委員会は、そもそも、現在の火山学の水準では火山噴火の時期や規模を的確に予知、予測することまではできないことを前提とした上で、現在の火山学の知見に照らせば、可能な限りの調査を尽くすことにより、運用期間中における活動可能性や設計対応不可能な火山事象の到達可能性が十分に小さいといえるか否かなどといった評価を行うことまでは可能であり、その限りでの評価に基づいて安全面に十分配慮した規制を行っていくことが科学的かつ合理的であるとの基本的立場を採っている。(乙B156・331頁)火山ガイドが参考とした IAEA・SSG-21 には、具体的な評価基準や指標は記載されていないが、評価の手順として、完新世(約1万年前まで)に活動した火山を将来の活動可能性が否定できない火山とする考え方、立地評価及び影響評価を行うという判断の枠組み、検討の対象とする火山の運用期間中における活動可能性を評価するという枠組み、原子力発電所に影響を与える可能性のある火山事象の抽出の枠組み、火山事象の原子力発電所への到達可能性を評価する手法及び降下火砕物の最大層厚の設定方法等について、火山ガイドは IAEA・SSG-21 に整合している。(乙B156・338頁)平成25年火山ガイドの概要並びに平成29年火山ガイド及び令和元年火山ガイドの各変更点については、別紙14火山ガイドの概要のとおりである。(2) 本件設置変更許可処分における火山に係る審査ア 参加人は、本件設置変更許可申請の申請書(補正後)、審査会合の資料等において、次のとおり記載した。(乙C48)(ア) 原子力発電所に影響を及ぼし得る火山及び地理的領域外の火山について、文献調査及び地質調査結果により、敷地及びその周辺において降灰層厚が比較的厚い降下火砕物を抽出した。噴出源を同定できる降下火砕物について、文献調査、地質調査及び位置関係も含めて検討し、姶良Tnテフラ、DKP及び恵比須峠福田テフラを対象に、当該火山の将来の噴火の可能性について噴火履歴及び地下構造から検討した。姶良Tnテフラは、噴火履歴及び地下構造を検討し、運用期間中に姶良Tnテフラ規模の噴火の可能性は十分低いと評価した。DKPは、噴火履歴やZhao et al.(2011)によると、低速度層をマグマ溜まりと評価した場合においても20㎞以深に位置し、爆発的噴火を引き起こす珪長質マグマの浮力中立点の深度7㎞より深い位置にあることから、運用期間中のDKP規模の噴火の可能性は十分低いと評価した。大山については、繰り返し生じている数㎦以下の規模の噴火の中でも最大の5㎦を考慮し、移流拡散モデル(Tephra2)を用いた降下火砕物のシミュレーションを実施した結果、風速等のばらつきも踏まえても最大層厚は約8㎝程度であった。恵比須峠福田テフラは、噴火履歴によると運用期間中に恵比須峠福田テフラ規模の噴火の可能性は十分に低いと評価した。(イ) 噴出源が同定できない降下火砕物の降灰層厚として、NEXCO80 を抽出し、敷地周辺のボーリングコアの調査結果等により、降灰層厚は10㎝以下と評価した。(ウ) 降下火砕物の粒径については、降下火砕物を顕微鏡写真で確認した結果、粒径は約0.2㎜程度であった。Tnテフラの粒度試験結果による粒径分布は1㎜以下であった。文献調査の結果、敷地周辺で確認される主なテフラの最大粒径はいずれも1㎜以下である。樽前火山から156㎞離れた地点での粒径分布は、約0.2㎜から約1㎜程度である。(エ) 降下火砕物の密度については、若狭湾沿岸における津波堆積物調査により得られたテフラの火山灰の単位堆積重量は、乾燥密度で約0.7g/㎤、湿潤密度で約1.3g/㎤程度であった。また、文献調査の結果、乾燥した火山灰は密度が0.4~0.7g/㎥程度であるが、湿ると1.2g/㎥を超えることがあるとされている。(オ) 文献調査、地質調査及び降下火砕物シミュレーション結果から、運用期間中における敷地の降下火砕物の最大層厚は10㎝と設定した。また、降下火砕物の粒径及び密度については、文献及び地質調査を踏まえ、粒径は1㎜以下、乾燥密度を0.7g/㎤、湿潤密度を1.5g/㎤と設定した。(カ) 降下火砕物の直接的影響のうち、非常用DGの閉塞については、開口部を下向きの構造とすることにより、降下火砕物が流路に侵入した場合でも閉塞しない設計とし、設備対応として、フィルタを設置することにより、フィルタより大きな降下火砕物が内部に侵入しにくい設計とし、さらに降下火砕物がフィルタに付着した場合でも清掃や取替えが可能な構造とすることで、降下火砕物により閉塞しない設計とする。(キ) 降下火砕物の直接的影響のうち、非常用DGの磨耗については、降下火砕物は砂よりも硬度が低くもろいことから、磨耗の影響は小さく、構造上の対応として、開口部を下向きとすることにより侵入しにくい構造とし、仮に当該施設の内部に降下火砕物が侵入した場合でも耐磨耗性のある材料を使用することにより、磨耗により安全機能を損なうことのない設計とする。設備対応として、フィルタの設置等により降下火砕物の侵入を防止することが可能な設計とする。(以上につき、乙C48の1及び2・各12~14、33、34頁、乙C51、79)イ 原子力規制委員会は、設置許可基準規則6条1項及び2項が想定される火山事象が発生した場合においても安全施設の安全機能が損なわれないように設計することを要求していることについて、以下のとおり審査をした。(乙C49・50~54頁、乙C50)(ア) ①原子力発電所に影響を及ぼし得る火山の抽出、②原子力発電所の運用期間における火山活動に関する個別評価、③原子力発電所への火山事象の影響評価について、参加人が敷地における降下火砕物の最大層厚を10㎝、降下火砕物の粒径を1㎜以下、乾燥密度を0.7g/㎤、湿潤密度を1.5g/㎤と設定する等、本件各原子炉と同一敷地にある高浜発電所3号炉及び高浜発電所4号炉に係る平成27年2月12日付け設置変更許可の申請(既許可申請①。乙C50)から変更がないとしていることは妥当であると判断した。(イ) ④火山活動に対する防護に関して、設計対象施設を抽出するための方針について、参加人が、降下火砕物によって安全施設の安全機能が損なわれないようにするために必要な設備を設計上防護すべき施設(防護対象施設)として、安全重要度分類指針で規定されているクラス1、クラス2及びクラス3に属する構築物、系統及び機器を抽出する方針とし、それぞれ降下火砕物によって安全機能が損なわれる恐れがある構築物、系統及び機器並びに上位クラスへ影響を及ぼし得る施設について、平成25年火山ガイドを踏まえて降下火砕物の特徴を考慮した上で、適切に抽出するものとしていることを確認した。(ウ) ⑤降下火砕物による影響の選定について、参加人による降下火砕物の直接的影響及び間接的影響の選定が、平成25年火山ガイドを踏まえたものであり、降下火砕物の特徴及び防護対象施設の特徴を考慮していることを確認した。(エ) ⑥設計荷重の設定について、参加人による設計荷重の設計が、防護対象施設ごとに常時作用する荷重及び運転時荷重を考慮するものであることを確認した。(オ) ⑦降下火砕物の直接的影響に対する設計方針について、参加人の設計が降下火砕物の特徴を踏まえ、防護対象施設に与える化学的影響、機械的影響その他の影響に対して、安全機能が損なわれない方針としていることを確認した。また、外気取り入れ口からの降下火砕物の侵入に対する設計方針について、降下火砕物や防護対象施設の特徴を踏まえて、降下火砕物の侵入防止対策として、平形フィルタ等の設置や換気空調系の停止により、安全施設の安全機能が損なわれないようにする等の方針としていることを確認した。さらに、降下火砕物の除去等について、除灰作業等に必要な資機材を確保するとともに、手順等を整備する方針としていることを確認した。これらから、参加人の設計方針が平成25年火山ガイドを踏まえていることを確認した。(カ) ⑧降下火砕物の間接的影響に対する設計方針について、参加人の設計が降下火砕物の間接的影響として外部電源喪失及び交通の途絶を想定し、非常用DG及び燃料油貯油そうを備え、7日間の連続運転を可能とする方針が平成25年火山ガイドを踏まえたものであることを確認した。ウ 原子力規制委員会は、上記イの事項等の確認を踏まえて、本件設置変更許可申請が設置許可基準規則6条1項及び2項の要求を満たしているものと判断し、平成28年4月20日付けで、参加人に対し、本件設置変更許可処分をした。(乙C1、49)(3) 原子力規制委員会が気中降下火砕物濃度に関する規制対応の検討を開始した経緯ア 原子力規制庁は、参加人が美浜発電所3号炉について行った設置変更許可申請に係る審査書案について、平成28年8月4日から同年9月2日までの間に意見公募手続を実施した。その公募に応じた意見の中に、気中降下火砕物濃度に関し、平成22年4月のアイスランド南部エイヤヒャトラ氷河で発生した噴火による観測値(ヘイマランド観測値)から3241㎍/㎥を用いているが、1980年のセントヘレンズ山の噴火では、30000㎍/㎥超とされているなどとして、3241㎍/㎥の妥当性について説明されたい旨の意見があった。(乙B123・2枚目)平成28年10月5日の原子力規制委員会において、上記意見公募手続で寄せられた意見に対する回答案及び意見を踏まえた審査書案の修正案が諮られたところ、上記意見に対しては、仮にセントヘレンズ山の噴火における大気中濃度を適用した場合であってもフィルタを交換することで施設の機能を確保できることを確認した旨の回答案及び意見を踏まえた審査書案の修正案が了承されたが、今後も最新知見の収集・分析や研究を進めて規制に反映すべきか否か判断する必要があるとの指摘がされた。(乙B123・1、2枚目、弁論の全趣旨・被告第30準備書面22頁)イ 原子力規制庁は、国内外の原子力施設の事故・トラブルに係る情報に加え、最新の科学的・技術的知見を、規制に反映させる必要性の有無について、整理し認識を共有すること等を目的として、原子力規制委員会委員、原子力規制庁の関係課長等をメンバーとする技術情報検討会を開催し、そこで報告された内容を原子力規制委員会に報告するなどしているところ、上記アの指摘を受けて、平成28年10月19日の第21回技術情報検討会において、気中降下火砕物濃度及びフィルター設備に関する新知見として、いずれも同年4月に公表された電中研報告書(乙E45)及び産総研報告書(乙E46)の内容等が報告された。(乙B123・別紙2・2頁、乙B149)電中研報告書は、「FALL3D」という計算コード等を用いて、1707年の富士宝永噴火における火山灰の移流・拡散シミュレーションを行った研究結果等をまとめたものであり、一例として、横浜(降灰実績16㎝程度)における気中降下火砕物濃度のシミュレーション結果につき、最大約100㎎(0.1g)~1000㎎(1g)/㎥と算出している。(乙B123・別紙2・2、6、7頁)産総研報告書は、火山噴火による大規模降灰が吸気フィルタに及ぼす影響を評価するため、フィルタの性能試験(気中降下火砕物濃度70㎎/㎥、700㎎/㎥、7000㎎/㎥の火山灰を供給して、それぞれの条件におけるフィルタの性能変化を確認する等)を実施し、その結果をまとめたところ、7000㎎/㎥という濃度で乾燥状態であると数分でフィルタ交換圧力損失まで到達してしまうことが明らかとなったなどというものである。(乙B123・2、9頁、乙E46・3、25頁)ウ 平成28年10月26日の原子力規制委員会において、原子力規制庁から、第21回技術情報検討会における検討内容等が報告され、今後の取組方針案として、①既に設置変更許可済みの本件各原子炉や他の原子炉(設置変更許可において、上記のアイスランド南部のエイヤヒャトラ氷河で発生した大規模噴火における気中降下火砕物濃度を参照していたもの)に関し、美浜発電所3号炉と同様に、1980年のセントヘレンズ山の噴火で得られた観測データを用いて施設の機能に対する影響評価を行うことを事業者に求め、ヒアリングによってその結果を聴取すること、②電中研報告書及び産総研報告書の妥当性を確認した上で、火山ガイドの改正その他の検討に着手することとされた。(乙B123・1枚目)原子力規制庁は、これを受けて、平成28年10月31日、参加人を含む各事業者に対し、1980年のセントへレンズ山の噴火で得られた観測データを用いた影響評価を行うことを求め、各事業者から、非常用DGについて、下方向から吸気をするという構造上、降下火砕物を吸い込みにくく容易に閉塞しないものであり、また、セントヘレンズ山の噴火で得られた観測データを用いて試算した閉塞までに要する時間等を考慮すれば、フィルタの交換により運転を継続することが可能であるとの評価結果の報告を受けて、既に新規制基準への適合性を確認した原子炉については、セントヘレンズ山の噴火で得られた観測データを適用した場合であっても、降下火砕物の直接的影響に対する設計方針を変更する必要がなく、フィルタを交換するという運用の影響を確認することで非常用DGの機能を確保できることを確認した。(乙B124)原子力規制庁は、平成28年11月16日の原子力規制委員会において、各事業者による評価結果及び原子力規制庁の確認結果を報告するとともに、同年10月26日の原子力規制委員会における議論を踏まえ、各事業者に対し、電力中央研究所(電中研)が公表した富士山宝永噴火に関する数値シミュレーションに関する見解、当該研究成果も踏まえた各発電所敷地において想定される最大気中降下火砕物濃度の程度、最大でどの程度の気中降下火砕物濃度に対応可能であるかの評価及び対応措置について、それぞれ報告するよう求めたことを報告した。(乙B124)原子力規制庁は、同年11月25日、各事業者から報告を受け、その報告も踏まえ、電中研報告書等の分析及び降下火砕物の影響評価に関する研究を進めるとともに、規制基準等への反映に関する検討を開始した。そして、平成29年1月25日及び同年2月15日の原子力規制委員会会議において、気中降下火砕物濃度の評価及び発電用原子炉施設の機器等への降下火砕物の影響評価に関する考え方及び留意点を検討し、これらを取りまとめるため、「降下火砕物の影響評価に関する検討チーム」(降下火砕物検討チーム)を設けることとし、原子力規制委員会委員及び原子力規制庁職員をその構成員とするとともに、必要に応じ、外部専門家及び事業者から意見を聴取し、参考とすることとした。(乙B125・1、2頁)エ 降下火砕物検討チームにおいては、原子力発電所における降下火砕物の濃度評価の考え方に関する論点及び機器への影響評価に関する論点を検討するものとされ、平成29年3月29日、同年5月15日及び同年6月22日の3回にわたり、会合が行われた。(乙B126)(ア) 原子力発電所における降下火砕物の濃度評価の考え方に関する論点については、第1回会合において、電中研より、電中研報告書について説明を受け、原子力規制庁は、自然現象における設計基準を定立するに当たっては、既往最大値を用いる考え方と理論的評価による考え方とがあり得るとした上で、気中降下火砕物濃度の推定方法として、①観測値の外挿(ある既知のデータを基にして、そのデータの範囲の外側で予想される数値を求めること)による手法(手法①)、②降灰継続時間を仮定し、原子力発電所の敷地における堆積量等から気中降下火砕物濃度を推定する手法(手法②)、③電中研報告書のように FALL3D 等による数値シミュレーションを用いて原子力発電所の敷地における気中降下火砕物濃度を推定する手法(手法③)の3つの手法を提案した。(乙B127・16~18頁)原子力規制庁は、手法①~③のいずれも不確実さを多く含んでいるが、特に手法①は、観測値の不確かさという問題があるために採用し難いこと、手法②及び③については、パラメータの設定につき確立した根拠がない場合が多く、大きな不確実性が伴うため、そのような不確実な値を設計基準として用いることは困難であるが、飽くまで「現時点で適用可能な理論的評価」として、手法②又は③を用いて気中降下火砕物濃度の計算を行い得るという考え方を説明した。(乙B127・16~18、23~26頁)降下火砕物検討チームの第2回会合において、原子力規制庁は、手法②及び③について、火山から100㎞離れた地点で15㎝の降灰を想定した場合、手法②で噴火継続時間を24時間と仮定すると気中降下火砕物濃度は2~4g/㎥となり、手法③で噴火継続時間につき3時間、19.5時間、36時間及び48時間の4ケースを仮定して計算すると、いずれのケースにおいても気中降下火砕物濃度は1~2日程度にわたり数g/㎥が継続するとの結果が得られ、手法②及び③のいずれによっても、気中降下火砕物濃度はセントヘレンズ山の噴火の観測値である33㎎/㎥を上回る数値(数 g/㎥)となること、また、このようなモデル計算を踏まえ、規制上の取扱いとして、手法②又は③を用いた上、噴火継続時間については、確立した根拠があるとはいえないが、総合的、工学的判断として24時間とするのが適当であり、保守的でもあること、手法②又は手法③による推定値は、設計基準ではなく、機能維持評価用の「参考濃度」とすることを説明した。これに対し、事業者側から、24時間という値が余りに短く、保守的にすぎるのではないかとの懸念が示されたが、原子力規制庁は、観測データが余りに少ない中でも早期に対策をとるべきであるとの考えに基づく総合的、工学的な判断であると説明し、K1委員は、24時間との噴火継続時間には科学的合理性も認められる旨の認識を示した。(乙B128・8、15頁、乙B129・20~24、28~30、32~35頁、乙B147)(イ) 機器への影響評価に関する論点については、降下火砕物の直接的影響(構造物に対する荷重、換気系、電気系及び計装制御系に対する磨耗、腐食及び閉塞並びに原子力発電所周辺の大気汚染等)のうち、気中降下火砕物濃度の増大によりその評価の再検討を要する影響因子や対象施設・設備を抽出し、再検討を要するものについていかなる対応が可能かについての確認がされた。再検討を要する影響因子や対象施設・設備として抽出されたものは、換気系、電気系及び計装制御系に対する磨耗、腐食及び閉塞のうち、屋外との接続がある設備(屋外に開口している設備又は外気から取り入れた屋内の空気を機器内に取り込む機構を有する設備)、非常用DGや開放型の海水ポンプモーター部の外気取入口の閉塞であるとされた。(乙E48・23、24枚目、乙E50)そして、非常用DGについては、手法②又は手法③によって算出した気中降下火砕物濃度に対し、そもそも吸気口を降下火砕物の侵入しにくい構造とするという従前からの設計対応を前提に、改良型のフィルタ等を用いて閉塞までの時間を延長する、フィルタの取替・清掃に要する時間を短縮するなどの保全活動によって対応することが確認された。(乙E48・5枚目、乙E49・5枚目、乙E51・5~7枚目)また、開放型の海水ポンプについては、モーター部に防じんフィルタが付いておりその閉塞の可能性が考えられるものの、そもそも海水ポンプ自体が厳しい環境条件(塩や砂などが入り込み得る)で使用することを前提に、絶縁材で保護されているなど耐食性に優れているため、たとえ防じんフィルタを外しても短期間で腐食等の影響を受けることは非常に小さいことから、この防じんフィルタを取り外すことにより、高濃度の降下火砕物に対しても、腐食等の影響を受けることなく閉塞を防ぐことができるため、特段の措置は不要であることが確認された。(乙B128~130、乙E48・24枚目、乙E49~51)オ 原子力規制庁は、平成29年7月19日の原子力規制委員会において、降下火砕物検討チームが取りまとめた「気中降下火砕物濃度等の設定、規制上の位置付け及び要求に関する基本的考え方」(濃度考え方)(乙B131・添付1)の内容について報告した。濃度考え方では、気中降下火砕物濃度の評価について、現在得られている科学的知見からは、手法①~③を用いることが考えられるが、いずれの手法も大きな不確実さを含んでいるため、これらの手法によりハザードレベル(自然現象に対して想定する基準値)を設定することは困難であるものの、運用期間中の活動が否定できない火山の噴火による降下火砕物の襲来により安全施設の安全機能を喪失する可能性があるため、気中降下火砕物濃度につき、設計又はその後の運用により、安全施設の機能維持を確認すべきであるとし、大きな不確実さを含んでいるものの、手法②又は手法③による推定値を考慮し、フィルタ交換等の運用面での対応による安全施設の機能維持が可能かどうかの評価(機能維持評価)に用いる気中降下火砕物濃度及び継続時間を、総合的、工学的判断により設定するとの考え方を示した。また、濃度考え方は、気中降下火砕物に関し、安全施設は、ダンパー(空気量制御弁)閉止等により一時的に停止すれば損傷等は考え難いこと、数時間から数日後に降灰が収まれば、安全機能を復旧できることから、必ずしも降灰開始と同時に損傷等を引き起こすとは限らないとして、気中降下火砕物に対しては、施設・設備面での対応だけでなく、運用面での対応も含めて全体として対応することが可能であり、降下火砕物の特性を踏まえた要求とすべきであるとし、降下火砕物の気中降下火砕物濃度との関係では、手法②により噴火継続時間を24時間と仮定した平均濃度、又は手法③により噴火継続時間を24時間とした場合の最大濃度を参考濃度とした上で、この参考濃度において、非常用DG等の非常用交流動力電源設備(設計基準事故対処設備)の24時間、2系統の機能維持を求めることとした。また、非常用交流動力電源設備2系統が偶発的に多重故障を起こし、いずれの機能も喪失した場合をあえて想定し、そのような場合でも電源車等の代替電源設備(重大事故防止設備)の機能維持を求めることとし、さらに、参考濃度よりも更に高濃度の降下火砕物によるフィルタ閉塞等に起因して代替電源設備も機能喪失し、全交流電源喪失に至った場合まで想定し、その場合における原子炉の炉心損傷の防止を求めることまで要求することとした。そして、手法②又は手法③によって算出した参考濃度に対しては、交流動力電源設備以外の安全施設についても同様に、適切な設計及び運用により、水源(海水ポンプ、取水設備などを含む)、通信連絡設備(無線、有線)等の機能維持、降灰時のアクセスルートの確保を求めることとした。濃度考え方は、既往最大の観測値に基づく気中降下火砕物濃度(セントヘレンズ山の噴火では33㎎/㎥)は、これを大幅に上回る手法②又は③によって算出される参考濃度(数 g/㎥)を用いて非常用交流動力電源設備の機能維持の確認を行うことから不要であるが、今後新たな観測値が得られる可能性もあることから、参考情報として把握することを求めることとした。(乙B131・添付1)原子力規制委員会は、原子力規制庁から、濃度考え方について報告を受け、その内容を了承した。その中で、フィルタ交換等の運用面での対応による安全施設の機能維持が可能かどうかの評価に用いる基準(機能維持評価用基準)は、ハザードに対して設計のみで対処する設計基準とは異なり、運用面も含めて対応するための基準ではあるが、求められる対策としては設計基準と同列に考え、手法②又は③によって算出した気中降下火砕物濃度(機能維持評価用参考濃度)によっても非常用DG等につき2系統の機能を維持することを要求するほか、機能喪失した場合を想定した代替電源を要求し、さらに代替電源も機能喪失して全交流電源喪失に至った場合をも想定した対処まで要求するという考え方を採ることを確認した。(乙B132・11~15頁)カ 平成29年9月20日の原子力規制委員会において、原子力規制庁から、実用炉規則等の改正案が諮られ、規則、解釈及び審査基準の改正案については行政手続法による意見公募手続を実施し、火山ガイドの改正案については行政手続法によらない任意の意見公募手続を実施することが了承された。(乙B133)改正案の内容は、実用炉規則の改正として、84条の2を新設して、火山影響等発生時における施設の保全活動のための体制整備を求めるとともに、92条1項を改正し、上記体制整備に関する事項を保安規定に記載することを求めて、同保安規定の記載事項に係る審査基準を追加し、火山ガイドについて、非常用DG等の外気取入口からの火山灰の侵入に対する機能維持評価(フィルタ交換等の運用面での対応)を行う際に用いる気中降下火砕物濃度の推定手法(手法②又は③を用いること、降灰継続時間を24時間とすることなど)を追記した平成29年火山ガイドへ改定するものである。(乙B133・1、2頁、乙B134)平成29年11月29日の原子力規制委員会において、原子力規制庁から、上記改正案に寄せられた意見に対する回答案及び意見を踏まえて一部の文言を修正した改正案が諮られた。(乙B135)原子力規制委員会は、上記回答案及び修正された改正案を了承するとともに、同改正によって保安規定の変更認可手続が必要となるところ、平成30年12月31日までの経過措置期間を設けることについても了承し、改正について決定した。(乙B136・1~8頁)以上の経緯を経て、平成29年12月14日付けで実用炉規則等の改正がされ、同日、施行された。(乙B134)(4) 本件バックフィット命令発出に至る経緯等ア 原子力規制庁は、実用発電用原子炉における火山事象に係る安全規制の高度化に向け、火山の活動可能性を評価するための手法を整備するために必要な知見の収集をする安全研究を行っており、その一環として、産総研に対し、平成26年度から平成30年度にわたり、「火山影響評価に係る技術的知見の整備」と題する研究(安全研究)を委託した。産総研は、日本最大級の公的研究機関として日本の産業や社会に役立つ技術の創出とその実用化等を行い、全国11か所の研究拠点で約2300名の研究者が研究開発を行っており、その中の地質調査総合センターは、1882年に産総研の前身である地質調査所が設置されて以来、日本で唯一の地質の調査のナショナルセンターとして地質情報の整備に取り組んでいる機関であり、その中に活断層・火山研究部門がある。(乙F35~38、弁論の全趣旨・被告第35準備書面41頁)火山影響評価に係る安全研究は、産総研の地質調査総合センター活断層・火山研究部門に所属するK2らによって行われたものであり、大規模・巨大噴火を起こした事例のある火山を対象とし、同研究の一部として、平成27年度から平成29年度にかけて、以下のとおり、大山の火山活動に係る研究が行われた。(乙D112、114、118~120)(ア) 平成27年度研究では、大山の過去20万年間の噴火履歴及び大山を起源とする降下火砕堆積物(DNP等)の分布の見直しが行われ、これらを基に大山のマグマ噴出量が再計算され、新たに積算マグマ噴出量の階段図(縦軸に噴出量、横軸に噴出年代を設定)が作成された。また、国内主要火山の階段図を類型化した結果、マグマ噴出率は一定ではなく上昇又は低下している事例の方が多いことが明らかになり、噴出率上昇期にはマグマ供給系の変化が起きていることが多いことや、噴出率低下期にはマグマ供給系の変化がほとんど起きていない傾向があることが明らかとなり、結論として、マグマ噴出量の階段図に噴出物の岩石学的な検討を組み合わせて評価することが火山活動の将来評価では重要であることが指摘された。この際、1980年代の文献において京都府越畑盆地において層厚30㎝のDNPの降下火砕物の分布が確認されていること等が考慮された。(乙D118)(イ) 平成28年度研究では、平成27年度研究の成果を受けて、火山活動の将来予測に結び付けられるようなマグマ噴出率変化とマグマ組成変化の関係が大山でも確認できるか否かを目的として、大山の代表的な噴出物試料の全岩化学組成分析を実施し、岩石化学的な性質の時系列変化を調査することとされた。その結果、DKPやDNPといった大規模プリニー式噴火が頻発した高噴出率期とその前後の低噴出率期とでは、特に噴出物試料の Sr(ストロンチウム)/Y(イットリウム)比に差異があり、低噴出率期においては Sr/Y 比が高いのに対し、高噴出率期においてはSr/Y 比が低く、マグマ組成が異なっていることが示され、大山の最後の噴火である三鈷峰溶岩・阿弥陀川火砕流堆積物の Sr/Y 比は、低噴出率期に属する古期大山火山溶岩の Sr/Y 比と同程度に上昇し、マグマ噴出率の低下に伴ってマグマ組成が変化したように見ることもできるとされた。(乙D119)(ウ) 平成29年度研究では、大山の噴出物試料の全岩主成分及び微量成分の追加分析が行われ、平成28年度研究の分析精度を向上させ、各噴出率期の火山噴出物について組成分析を行い、Sr/Y 比と Y(イットリウム)の関係を比較したところ、高噴出率期と低噴出率期のマグマ組成が異なり、最末期の噴出物は低噴出率期と同程度であることが分かり、これは異なる Sr/Y 比を持つ親マグマから分化したことを示しているとされた。また、Nb(ニオブ)はスラブ脱水による流体に入りにくい元素であり、反対に Ba(バリウム)は流体に入りやすい元素であることから、Nb/Y 比とBaの関係を比較すると、高噴出率期のものは Nb/Y比の小さな領域に、低噴出率期及び最末期のものは Nb/Y 比の大きな領域に分布していることが分かった。そして、高噴出率期と低噴出率期・最末期の噴出物の化学組成の違いとしては、高温マントルの寄与が少ない場合、生産されるスラブメルトの量は少なくなり、メルトの含水量も乏しくなるのに対し、高温マントルの寄与が大きい場合は、生産されるメルトの量自体が大きくなり、高噴出率期のDKPやDNPのような巨大なプリニー式噴火においてスラブメルト指標(Sr/Y)が低下していることは、高温マントルの寄与が大きかったと評価することができ、最末期に噴出量が急減し、Sr/Y 比が上昇して、噴火活動を停止したのは、約10万年前から始まった高温マントルの関与が約2万年前にほとんどなくなったと理解できるとした。(乙D120)イ 平成29年6月6日の技術情報検討会において、平成27年度研究及び平成28年度研究の概要等の説明がされ、この研究結果を踏まえた規制対応について、原子力規制委員会で議論することとされた。(乙C81、82)同月14日の原子力規制委員会において、原子力規制庁から、「火山活動可能性評価に係る安全研究を踏まえた規制対応について(案)」(乙C83)が報告された。これは、平成27年度研究により、DNPの分布が見直され、既存の知見である町田・新井(2011)の分布と大きく異なり、その根拠となった層厚に関する既往文献データに不確実さが伴うものの、より東側にまで火山灰の分布範囲が示されており、その結果から、DNPの噴出量については既知見と異なる可能性があること、大山火山は最後の活動である約2万年前の噴出物のマグマ組成が低噴出率期と同程度であることを考慮すると、現在は低噴出率期に入ったことなどが示唆されているが、現時点で研究が継続中であり結論は得られていないことを踏まえ、参加人に対し、DNPの火山灰分布について情報収集を行うことを求めるものであり、原子力規制委員会は、この方針を了承した。(乙C83、84・4~12頁)ウ 参加人は、平成30年3月1日付けで、原子力規制庁に対し、DNPの火山灰分布に関する情報収集結果を提出し、原子力規制庁は、同月28日の原子力規制委員会において、上記情報収集結果の報告及びこれに対する見解を報告した。原子力規制庁は、参加人が、越畑地点で確認されたDNPの地層について、DNPによって一度に堆積した純層ではなく、河川等の流水の影響によって後から堆積した再堆積層であるとしたのに対して、参加人が提出した資料を分析し、一部は火山灰が降って堆積した純層の可能性は否定できないとして、越畑地点におけるDNPの最大層厚は、Yamamoto(2017)で引用している文献値(30㎝)よりやや小さい26㎝とみなすことが可能であるとした。これを受けて、原子力規制委員会は、同日、当該見解に対して議論が必要であれば公開の場で行うとの方針を示した。(乙C85・1~3頁、乙C86・25~29頁)エ その後、参加人から追加の調査結果が提出され、原子力規制庁及び参加人は、平成30年6月29日及び同年10月5日、意見交換会を実施した。(乙C87~90)参加人は、越畑地点のDNPの堆積状況について、火山灰を含む地層に流水等の影響により移動して再堆積したものであり、降灰時の堆積状況が保存されていないから降灰層厚としては評価できないと説明したが、原子力規制庁は、参加人の主張を支持する科学的根拠を十分に確認することができなかったため、原子力規制庁及び参加人は、同月29日、地質学の専門家であるK1委員出席の下、越畑地点の現地調査を実施した。原子力規制庁は、越畑地点において、降下火山灰層として15㎝程度の層厚、その上位に10㎝程度の風化帯が存在し、この風化帯は降下火山灰層が風化又は植生による擾乱で土壌と混じり合ったと解釈し得るから、規制の観点からこれも降下火山灰層として扱うこととし、越畑地点のDNP降灰層厚を25㎝程度として評価することとした。また、原子力規制庁は、DNPの噴出量6.1㎦と、その倍の12.2㎦の2ケースでシミュレーション解析を実施し、後者の方が越畑地点を含む7つの評価地点の層厚を概ね再現したことから、規制の観点から、DNPの噴出規模を、既往の研究で考えられてきた規模を上回るVEI6規模(噴出量10~100㎦)と評価することとした。(乙C91・1~6頁)上記の意見交換及び現地調査を踏まえて、原子力規制委員会は、同年11月21日の原子力規制委員会において、越畑地点のDNPの降灰層厚は25㎝程度であり、DNPの噴出規模は10㎦以上と考えられること(本件新知見)を認定し、これを規制に参酌することを確認した。(乙C92・19~26頁)オ 原子力規制委員会は、平成30年12月12日の原子力規制委員会会議において、炉規法67条1項に基づき、参加人に対し、①越畑地点等7地点におけるDNPの降灰層厚(越畑地点は25㎝)に基づくDNPの噴出規模、②上記①の噴出規模を踏まえた不確かさケースも含めた降下火砕物シミュレーションに基づく本件各原子炉を含む原子力発電所ごとの敷地における降下火砕物の最大層厚について報告することを義務付ける報告徴収命令(本件報告徴収命令)を発出した。(乙C93~95)カ 参加人は、本件報告徴収命令を受け、平成31年3月29日、原子力規制委員会に対し、本件報告書(乙C96)を提出した。参加人は、本件報告書において、①本件報告徴収命令に提示された7地点に新たに文献調査等から得られた7地点を加えた合計14地点におけるDNPの降灰層厚の情報を用いて、複数の等層厚線図を作成し、これらの等層厚線図を基に複数の手法によりDNPの降下火砕物の噴出量を算出し(単一の閉じられた等層厚線から噴出量を求める方法として、Legros法では1.8㎦~3.4㎦、Hayakawa 法では5.8㎦~11.0㎦)、このうち最大の11.0㎦を採用して Tephra2 を用いた降下火砕物シミュレーションをした結果、本件各原子炉施設の敷地における降下火砕物の最大層厚は21.9㎝と算出されたこと、②40万年前以降、10㎦以上の噴火を起こしているのはDNP(約8万年前)とDKP(約5.5万年前)の2つの噴火だけであり、その期間(約8万年前~約5.5万年前)以外では数㎦以下の噴火しか発生していないから、DNPとDKPは高噴出率期に発生した一連の巨大噴火と考えられること、③平成27年度研究の成果の一部として作成された Yamamoto(2017)でも、大山は約10万年前からマグマ噴出量が大きくなり、約2万年前の三鈷峰噴火で活動を終えたとされていること、④第四紀火山の発達史的分類では大山は第4期に整理されており、第4期の噴出量は第1期~第3期に比べて少なく数㎦とされていること、⑤大山の地下構造からするとマグマ溜まりの可能性を示唆する低速度領域は本件設置変更許可申請時と同程度の20㎞以深に位置しており、爆発的噴火を引き起こす珪長質マグマの浮力中立点の深度7㎞より深い位置にあると評価されていること、以上のことから、大山は現在数㎦規模の噴火しか起こらない段階にあり、DNP・DKP噴火に至る活動間隔(約30万年以上)はそれ以降の経過時間である約5.5万年と比べて十分な時間的余裕があると考えられ、原子力発電所の運用期間中にDNP規模の噴火の可能性は十分低いと考えられると報告した。(乙C96)キ 原子力規制委員会は、平成31年4月17日の原子力規制委員会において、本件報告書について議論した。原子力規制庁は、本件報告書におけるDNPの噴出規模11.0㎦及び参加人の原子力発電所ごとの敷地における降下火砕物の最大層厚(本件各原子炉施設の敷地における降下火砕物の最大層厚は21.9㎝)がいずれも議論の前提に足りるものと評価できる一方、参加人がDNPとDKPを一連の噴火と評価していることは適切でなく、発電所の運用期間中のDNP規模の噴火の可能性を考慮するのが適切であるとの見解を示した(本件新認定事実)。そして、原子力規制委員会は、参加人が設置変更許可申請をする意図がないようであることから、何らかの規制上のアプローチが必要であることを了承した。(以上につき、乙C97、98・7~16頁)ク 令和元年5月29日の原子力規制委員会において、原子力規制庁から、「大山火山の大山生竹テフラの噴出規模の見直しに係る今後の規制上のアプローチについて」と題する資料(乙C99)が配布された。上記資料では、①本件各原子炉施設の火山影響評価に係る基本設計等において、その運用期間中に安全機能に影響を及ぼし得る火山事象として最大層厚10㎝の降下火砕物を設定していることは、11㎦程度と見込まれるDNPの噴出規模に鑑みると、設置許可基準規則6条1項の「想定される自然現象」の設定として明らかに不適当であり、本件各原子炉施設は「想定される自然現象」に対して安全機能を損なわない基本設計等を有するものであるといえないため、同項への不適合が認められること、②大山は活火山ではなく噴火が差し迫った状況にあるとはいえず、DNPの噴出規模の噴火による降下火砕物により本件各原子炉施設が大きな影響を受けるおそれがある切迫した状況にはないから、直ちに原子炉の停止を求める必要はないと考えられること、③対応方針として、本件各原子炉施設の火山影響評価に係る基本設計等は同項に適合していないと認められるため、炉規法43条の3の23第1項に基づき、令和元年12月27日までに、これに適合するよう基本設計等を変更し、同法43条の3の8第1項の設置変更許可申請をすることを命ずること、④「想定される自然現象」の設定により影響を受ける基本設計等又は保安上の措置についても所要の手続を経て関係法令に抵触しないよう措置することが求められること、⑤命令に当たって参加人に対し弁明書の提出期限を同年6月12日として弁明の機会の付与をすることとされていた。原子力規制委員会は、上記資料のとおり対応することを決定した。(以上につき、乙C99、100・5~13頁)ケ 参加人は、令和元年6月11日、原子力規制委員会に対し、弁明を行わず、同年12月27日までのできるだけ早い時期に、設置変更許可申請を行う旨を通知した。(乙C101・別紙2)コ 原子力規制委員会は、令和元年6月19日の原子力規制委員会において、本件バックフィット命令の発出を決定し、参加人に対し、これを発出した。(乙C101、102・3頁)(5) 令和3年保安規定変更認可処分に至る経緯及び火山に係る審査ア 平成29年の実用炉規則等の改正及び令和2年の実用炉規則の改正に伴い、同各改正前に保安規定(変更)認可を受けていた原子炉施設については、同各改正に対応した保安規定変更認可を要することとなった。参加人は、本件各原子炉施設について、平成29年改正実用炉規則84条の2に「火山影響等発生時における発電用原子炉施設の保全のための活動(その後、令和2年改正実用炉規則により83条1号ロ「火山現象による影響」に改正)が追加されたことから、これに対する保全に関する措置を新たに追加するとともに、当該保全に関する措置に関連する保安規定の定めについて変更を行い、令和元年7月31日付けで、令和3年保安規定変更認可申請をした。(乙C52)イ 参加人は、令和3年保安規定変更認可申請の申請書、審査会合の資料等において、次のとおり記載した。(乙C52~54、119)(ア) 令和2年改正実用炉規則83条1項1号ロが定める火山現象による影響について、火山現象による影響が発生し、又は発生するおそれがある場合(火山影響等発生時)における発電用原子炉施設の保全のための活動に関して、以下の対応をする。①火山影響等発生時における非常用交流動力電源設備の機能を維持するための対策に関すること(要求事項(火山)①)として、非常用DGの吸気ラインに改良型フィルタを取り付け、2台運転。また、電動補助給水ポンプによる炉心の冷却を行う。②①に掲げるもののほか、火山影響等発生時における代替電源設備その他の炉心を冷却するために必要な設備の機能を維持するための対策に関すること(要求事項(火山)②)として、タービン動補助給水ポンプを使用し、蒸気発生器2次側へ注水することにより炉心の冷却を行う。③②に掲げるもののほか、火山影響等発生時に交流動力電源が喪失した場合における炉心の著しい損傷を防止するための対策に関すること(要求事項(火山)③)として、電源車を動力源とした蒸気発生器補給用仮設中圧ポンプ(電動)により蒸気発生器2次側へ注水することにより炉心の冷却を行う。(以上につき、乙C53・593頁)(イ) 要求事項(火山)①についてa 火山影響等発生時における炉心冷却のための対応手段と設備の選定の考え方として、火山影響等発生時において、原子炉停止後、外部電源喪失が発生した場合、炉心崩壊熱の除去を維持継続する必要があるため、非常用DGからの給電により蒸気発生器2次側及び余熱除去系による炉心冷却を行う。この場合、継続して非常用DGの機能を維持する必要がある。(乙C53・599頁)b 火山影響等発生時の想定として、平成29年火山ガイドに示す手法に従い、本件各原子炉施設の降灰量(10㎝)が24時間継続すると仮定することにより気中降下火砕物濃度を推定し、その環境下での対策を検討した。資機材として、既存の資機材(スコップ、マスク、ヘッドライト及びゴーグル等)に加え、必要な道具を配備するとともに、作業性を確保するための防護具(マスク、ゴーグル)の数を増やす。非常用DGの機能維持に必要な改良型フィルタとして、1ユニット当たり2台、フィルタ数24体(1体当たり9.5㎏)、交換用フィルタ数24体を配備する。(乙C53・594、598頁)c 気中降下火砕物濃度の算出については、平成29年火山ガイドの手法②により算出した。設計層厚10㎝、総降灰量12万1000g/㎡、降灰継続時間24時間、粒径分布を Tephra2 による粒径分布の計算値として、0~1φ(φの数値が大きいほど粒径は小さい。)の割合を57.0%、1~2φの割合を27.0%、2~3φの割合を13.0%、3~4φの割合を2.4%、4~5φの割合を0.64%、5~6φの割合を0.03%、6~7φの割合を0.00087%、それぞれの粒径分布に応じた終端速度を1.8~0.01m/s(粒径が小さくなると終端速度は遅くなる。)などとして算出すると、1.4g/㎥となる。フィルタの性能試験の条件及びフィルタ取替の着手時間の計算に用いる気中降下火砕物濃度については、降下火砕物の層厚が増えることを考慮し、3.50g/㎥とする。(乙C54・726~728頁)d 火山影響等発生時における非常用DGの機能を維持するため対策として、フィルタの取替・清掃が容易な改良型フィルタを取り付けるための手順を整備する。気象庁が発表する降灰予報により発電所への多量の降灰が予想された場合等に改良型フィルタを取り付けることとし、気象条件等を考慮した噴火から降下火砕物が発電所敷地に到達するまでの時間を60分(保守的に最大風速約60m/s で火山灰が飛散すると仮定)、改良型フィルタの取付けに要する時間は50分(1ユニット当たり8人、移動時間10分、作業時間40分を想定。実績時間は移動時間9分、作業時間30分)であり、作業の成立性がある。気中降下火砕物濃度3.5g/㎥として、フィルタの最大捕集容量は46万7544g/㎡となるが、フィルタ取替の目安は保守的に40万 g/㎡として、基準捕集容量到達までの時間は828分である。改良型フィルタの取替・清掃は、1交換サイクル当たり80分(1ユニット当たり4名、取替時間20分、清掃時間60分を想定。実績時間は取替時間13分、清掃時間25分。取替・清掃を合わせて20分以内に実施する場合は1ユニット当たり6名で行う。)であり、作業の成立性がある。改良型フィルタの取替着手時間は808分となるが、保守的に720分(12時間)でフィルタ取替に着手し、降灰継続時間が24時間と想定しており、フィルタの取替回数は1回となる。フィルタは2セット配備していることから、1セット当たり1回の使用となり、清掃作業は必要ない。フィルタの取替・清掃時は、火山灰の侵入を防止するため、流路を塞ぐ閉止板を装填する。(乙C53・603、605、665、666頁、乙C54・718~721、725頁)(ウ) 要求事項(火山)②についてa 火山影響等発生時における炉心冷却のための対応手段と設備の選定の考え方として、全ての非常用DGの機能が喪失した場合は全交流動力電源喪失となるが、降下火砕物の影響により空冷式非常用発電装置からの代替受電が不可能なため、タービン動補助給水ポンプを用いた蒸気発生器2次側による炉心冷却を行う。b 気中降下火砕物濃度によらず、その動作に期待できる対策を検討した。タービン動補助給水ポンプとともに利用する主蒸気大気放出弁は、屋外に大気開放部を有しているが、大気開放部に堆積する降下火砕物の荷重より主蒸気大気放出弁の噴出力は大きいことから、機能に影響を及ぼすことはない。(以上につき、乙C53・594、601頁)(エ) 要求事項(火山)③についてa 火山影響等発生時における炉心冷却のための対応手段と設備の選定の考え方として、タービン動補助給水ポンプによる給水ができない場合は、蒸気発生器補給用仮設中圧ポンプ(電動)を用いた蒸気発生器2次側による炉心冷却を行う。火山影響等発生時のアクセスルートについて、降灰前に燃料取扱建屋内等に電源車等を配置するため、アクセスルート確保のための除灰作業は、降灰状況や体制等を考慮し、必要に応じ適宜実施する。(乙C53・599頁)b 蒸気発生器補給用仮設中圧ポンプ(電動)の準備作業として、電源車の移動及び電源ケーブルの敷設・接続、可搬式排気ファンの設置及び仮設ダクトの敷設・接続並びに可搬式ダストサンプラ等を設置して、電源車を起動し、蒸気発生器補給用仮設中圧ポンプ(電動)を用いた蒸気発生器2次側による炉心冷却を行う。(乙C53・608~610頁)c 推定した気中降下火砕物濃度の2倍の濃度を想定し、その環境下で、非常用DGは降灰到達後も一定期間機能を期待するものとして対策を検討した。(乙C53・594頁)気中降下火砕物濃度の2倍の濃度を想定し、非常用DGは、フィルタの基準捕集容量到達までの時間828分を約1/2にした400分間機能を維持するものと設定し、その後に停止して全交流動力電源喪失及び補助給水機能喪失が発生したとしても、主蒸気大気放出弁による2次系強制冷却を開始することで蒸気発生器の圧力が低下し、仮設中圧ポンプによる蒸気発生器への注水が開始され、蒸気発生器の水位は、事象発生中、約22%以上に保たれる。仮設中圧ポンプによる蒸気発生器への注水により蒸気発生器2次側の保有水を確保できること、1次系の保有水が十分確保されていること、主蒸気安全弁の作動及び主蒸気大気放出弁による2次系強制冷却により1次系の自然循環が維持されることから、継続的な炉心冷却が可能であり、不確かさの影響を考慮しても、炉心の著しい損傷を防止することができる。以降は減温・減圧し、安定停止状態に移行する。(乙C53・609、610、700~706頁)ウ 原子力規制委員会は、令和3年保安規定変更認可申請が炉規法43条の3の24第2項2号に規定する核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上十分でないものであることに該当するかどうかについて、以下のとおり審査をした。(乙C52)(ア) 保安規定審査基準は、実用炉規則92条1項16号の「設計想定事象、重大事故等又は大規模損壊に係る発電用原子炉施設の保全に関する措置」に関し、要求事項(火山)①~③の措置を講ずることが定められていることとしているところ、上記イ等の事項が定められていることから、同号に関する保安規定審査基準を満たしていると判断した。(乙C52・5、6頁)(イ) 原子力規制委員会は、上記(4)キ~コのとおり、本件新認定事実に基づけば、本件各原子炉施設の火山影響評価に係る基本設計等は、火山事象に係る「想定される自然現象」の設定として明らかに不適当であり、設置許可基準規則6条1項への不適合が認められるため、炉規法43条の3の23第1項の規定に基づき基本設計等を変更すべき旨、参加人に対し本件バックフィット命令を発出したところ、参加人から、令和元年9月26日に令和3年設置変更許可申請がされた。原子力規制委員会は、平成31年4月17日の原子力規制委員会において判断したとおり、大山火山は活火山ではなく噴火が差し迫った状況にあるとはいえず、上記のとおり認定したDNPの噴出規模の噴火による降下火砕物により当該発電所が大きな影響を受けるおそれがある切迫した状況にはないこと、本件バックフィット命令の適切な履行により上記の不適合状態は是正することができ、かつ、大山火山の状況に照らせばこれで足りることなどから、本件バックフィット命令に係る手続が進んでいる現在の状況下における本件の審査においては、DNPの噴出規模を含め火山事象に係る「想定される自然現象」については、既許可の想定を前提として、令和3年保安規定変更認可申請についての基準適合性を判断した。(乙C52・7、8頁)エ 原子力規制委員会は、令和3年2月15日、令和3年保安規定変更認可申請に係る保安規定の変更が、保安規定審査基準を基に、炉規法43条の3の24第2項各号のいずれにも該当しないことを確認し、令和3年保安規定変更認可処分をした。(乙C52)(6) 令和3年設置変更許可処分における火山に関する審査ア 参加人は、本件バックフィット命令を受けて、令和元年9月26日、本件各原子炉につき、DNPの噴出規模の見直しに伴う令和3年設置変更許可申請をし、同申請に係る申請書、審査会合の資料等において、次のとおり記載した。(甲D242、乙C103、104、108、112)(ア) 大山の噴火時期、噴火規模、活動休止期間を示す階段ダイヤグラムによれば、大山は約100万年前頃(更新世中期頃)に火山活動を開始し、40万年前以降、最も規模の大きな噴火はDKPであったが、DKP噴火に至る活動間隔(約30万年以上)は、DKP噴火以降の経過時間(約5.5万年)に比べて十分に長いことから、次のDKP規模の噴火までには、十分な時間的余裕があると考えられ、発電所運用期間中におけるDKP規模(約20k㎥以上)の噴火の可能性は十分低いと考えられる。(乙C108・32頁)火山影響評価に係る安全研究の成果報告によると、大山では、階段ダイヤグラムからマグマ噴出率の変化が認められ、噴出率の高噴出率期と低噴出率期では噴出物の化学組成のトレンドが明瞭に異なり、DKPは高噴出率期のトレンドと一致し、約2万年前の最終噴火では低噴出率期のトレンドに戻っているとされている。マグマの深さと組成との関係を検討した結果、爆発的噴火を引き起こす珪長質マグマの浮力中立点の深度は7㎞程度に定置すると考えられる。また、過去に巨大噴火を起こした火山の噴火直前のマグマの温度・圧力条件からマグマの定置深さを推定した結果、概ね10㎞以浅と示される。大山の地下構造については、Zhao et al.(2011)等によると、大山の地下深部に広がる低速度層と、大山の西で生じている低周波地震の存在から、地下深部にマグマ溜まりが存在する可能性が示唆されるものの、仮にマグマ溜まりだとしても、これらの低速度層は20km 以深に位置していることが示される。これらの研究をさらに進めた Zhao et al.(2018)によると、大山の地下深部の低速度層の存在が示されるが、その深度は Zhaoet al.(2011)と同程度であり、大山の地下深部に広がる低速度層の深度に変化がないことが示される。以上より、大山については、火山発達史、噴火履歴の検討結果、火山影響評価に係る安全研究の成果報告及び地下構造の評価結果から、運用期間中におけるDKP規模相当の噴火の可能性は十分低いと評価する。したがって、火山影響評価上、DNPの噴出量11㎦を運用期間中の噴火規模として設定し、移流拡散モデル(Tephra2)を用いた降下火砕物のシミュレーションを実施した結果、風速等のばらつきを含めても最大層厚は21.9㎝であった。(以上につき、乙C103・別添3)(イ) 文献調査、地質調査及び降下火砕物シミュレーション結果から、運用期間中における敷地の降下火砕物の最大層厚は25㎝と設定した。また、降下火砕物の粒径及び密度については、文献及び地質調査結果を踏まえ、粒径は1㎜以下、乾燥密度を0.7g/㎤、湿潤密度を1.5g/㎤と設定した。(乙C103・別添3)(ウ) 降下火砕物の密度は、本件各原子炉の敷地及びその周辺に分布する主な広域降下火砕物として、古い地層の保存状態が良い三方五湖周辺において実施した津波堆積物調査の結果、姶良Tnテフラ(約2.9万年前~約2.6万年前)、鬱陵隠岐テフラ(約1.1万年前)、鬼界アカホヤテフラ(約7300年前)等が確認されたことから、菅湖における津波堆積物調査における降下火砕物データのうち、鬼界アカホヤ及び鬱陵隠岐の火山灰の単位堆積重量を見ると、乾燥状態で約0.7g/㎤、湿潤状態で約1.3g/㎤であった。また、宇井忠英編「火山噴火と災害」(乙D126・65頁)には、乾燥した火山灰は、密度が0.4~0.7程度であるが、湿ると1.2を超えることがあるとの記述がある。そこで、降下火砕物の密度は、乾燥状態0.7g/㎤、湿潤状態1.5g/㎤を想定する。(乙C112・25、85頁)(エ) 降下火砕物シミュレーションには、Tephra2 を用いて、噴出量(11㎦)、噴出物総重量(1.10×1013㎏)、噴煙柱高度(2万5000m)、風速(1~12月の各月の平均値)、風向(1~12月の各月の最頻値)、粒径パラメータ(最大粒径1/2-10、最小粒径1/210、中央粒径1/24.5、標準偏差1/23.0)、軽石密度1.0t/㎥、岩石密度2.6t/㎥等のパラメータを基本ケースとし、噴煙中高度、風速、軽石密度及び岩石密度等を修正した6つの不確かさケースを設定したところ、風速を平均+標準偏差とした不確かさケースのものが最大層厚21.9㎝となった。これらのパラメータは、噴出量及び噴出物総重量以外は、本件設置変更許可申請から変更していない。(乙C79・42頁、乙C108・38、46頁)(オ) 原子力規制委員会からの越畑地点における降灰層厚と本件各原子炉との距離の関係を踏まえて設計層厚を見直すことという指摘を踏まえて、越畑地点の降灰層厚25㎝を基に、本件各原子炉の降灰層厚を大山からの距離に応じて算定すると、26.6㎝となる。これも踏まえて、本件各原子炉の降灰層厚を27㎝と設定する。(乙C108・1、51頁)(カ) 建物・構築物の静的荷重評価として、既認可の工事計画認可における評価手法と今回の設計及び工事の計画の認可とでは評価手法を変更する。既認可の評価手法では、設計時長期荷重を1.5倍した評価上の基準値を、常時作用する荷重及び降下火砕物等堆積による鉛直荷重の和が超えないことを確認する評価手法(荷重による評価)であった。これに対し、今回の設計及び工事の計画の認可では、長期許容応力度を1.5倍した短期許容応力度(許容限界)を、常時作用する荷重及び降下火砕物等堆積による鉛直荷重の和により発生する応力度が超えないことを確認する評価手法(応力度による評価)である。評価手法(荷重による評価)は大きな保守性を有していたのに対し、評価手法(応力度による評価)は保守性を有する。複数ある建屋のうち許容層厚が最小となる建屋について評価手法(応力度による評価)をすると、本件各原子炉施設の降灰層厚27㎝に対し、原子炉補助建屋及び制御建屋の許容層厚39㎝、復水タンクの許容層厚72.7㎝、燃料取替用水タンクの許容層厚28.6㎝となるなど、必要な機能を損なうことはなく、成立性が確認できた。復水タンク及び燃料取替用水タンクについては、100㎝の積雪荷重も併せて評価した。(甲D242・8~12頁)(キ) 平成29年火山ガイドの手法②により設計層厚27㎝、総降灰量32万2900g/㎡として算出すると、気中降下火砕物は3.78g/㎥となる。フィルタ性能試験の結果では、改良型フィルタの最大捕集容量は40万5314g/㎡となるが、フィルタ差圧曲線の差圧が高い領域を避け、差圧上昇が時間的に十分なだらかな領域となるように、フィルタ取替の目安として基準捕集容量を保守的に25万g/㎡とし、降下火砕物濃度3.78g/㎥として計算すると、フィルタ基準捕集容量到達までの時間は479分である。フィルタ取替に要する時間を20分として、フィルタ取替の着手時間は459分となるが、450分でフィルタ取替に着手し、降灰継続時間が24時間と想定しており、フィルタ取替が完了するまでの時間は470分である。フィルタは2セット配備していることを踏まえると、フィルタ1セット当たりの火山灰を捕集する回数は2回となり、フィルタの清掃回数は1回必要である。フィルタは1回清掃して繰り返し使用することとなるが、フィルタの性能は十分確保できていることを検証試験により確認している。また、要求事項(火山)③に関して、非常用DGの機能を期待する時間は、479分を約2分の1にした230分となり、主蒸気大気放出弁による2次系冷却開始の時期が早まり、蒸気発生器の最低水位は約17%程度へと下がるが、仮設中圧ポンプによる注水の効果により、炉心の著しい損傷には至らない。(以上につき、乙C119・5、126~128、135~137、141、142頁)イ 原子力規制委員会は、令和3年設置変更許可申請について、設置変更許可基準規則6条1項及び2項が想定される火山事象が発生した場合においても安全施設の安全機能が損なわれないように設計することを要求していることについて、次のとおり審査をした。(乙C78、123)(ア) 参加人が実施した設計対応可能な火山事象の影響評価については、火山ガイドを踏まえたものであり、文献調査、地質調査等により、本件各原子炉への影響を適切に評価していることを確認した。また、原子力規制委員会は、参加人が設定した降下火砕物の最大層厚等は、火山ガイドを踏まえたものであり、最新の文献調査及び地質調査結果を踏まえ、降下火砕物の分布状況、不確かさを考慮した降下火砕物シミュレーション結果及び越畑地点におけるDNPの実績層厚と大山から本件各原子炉までの距離関係から総合的に評価し、適切に設定されていることから、妥当であると判断した。(乙C78・5頁)(イ) 原子力規制委員会は、降下火砕物の影響に対する設計方針等について、降下火砕物の最大層厚の変更に関連する降下火砕物に対して設計上対処すべき施設を抽出するための方針、降下火砕物による影響の選定、設計荷重の設定、降下火砕物の影響に対する設計方針について、既許可申請②の内容から変更がないことを確認した。この過程において、原子力規制委員会は、参加人に対して、設計基準対象施設及び重大事故等対処施設(特定重大事故等対処施設を含む。)について、降下火砕物の最大層厚の変更によって影響を受ける項目を整理した上で、降下火砕物の最大層厚以外の基本設計等の技術的成立性を詳細に説明し、これらを変更する必要がないことを示すよう求めた。これに対して、参加人は、降下火砕物の最大層厚の変更に伴い評価が必要となる影響因子は荷重及び閉塞であり、これらの観点から影響確認が必要な項目として、①施設を内包する建屋及び屋外施設に対する静的荷重の影響、②屋外との接続のある施設に対する閉塞の影響、③降下火砕物の除去に対する影響を抽出し、①については、施設を内包する建屋、屋外タンク等に対する降下火砕物の堆積荷重(積雪による荷重の組合せを含む。)の影響について、荷重又は応力による簡易評価を行ったところ、発生値が許容限界を下回ることから、構造健全性は維持されるとの評価結果が得られた、②については、主蒸気逃がし弁等の大気開放部に対する閉塞の影響について、堆積荷重及び噴出力の評価を行ったところ、出口配管内へ直接降下火砕物が侵入・堆積した場合でも、堆積荷重と比較して噴出力が十分に大きいことから閉塞は生じず、必要な機能は維持されるとの評価結果が得られた、③については、建屋の屋根部、屋外タンク等からの降下火砕物の除去作業について、降下火砕物の堆積量から作業量及び作業時間の評価を行ったところ、30日以内の除去が可能であり、かつ、除去した降下火砕物を保管する場所は十分な容量を有しているとの評価結果が得られたとの説明をした。原子力規制委員会は、降下火砕物の最大層厚の変更後においても、それ以外の基本設計等に技術的成立性があることから、降下火砕物の最大層厚以外の基本設計等を変更しないとの参加人の方針は妥当であると判断した。(以上につき、乙C78・6、7頁)(ウ) 原子力規制委員会は、上記審査を踏まえて、令和3年設置変更許可申請は、炉規法43条の3の6第1項2号(技術的能力に係る部分に限る。)、3号及び4号に適合しているものと判断した。なお、審査の過程において、令和3年設置変更許可処分後に行われる設計及び工事の計画の認可申請等の対応方針を確認したところ、参加人は、変更認可されている保安規定に定める、火山事象による影響が発生し又は発生するおそれがある場合における発電用原子炉施設の保全に関する措置について、本件各原子炉については、降下火砕物の最大層厚の変更後においても当該措置に技術的成立性があるため、本申請による変更許可後においても保安規定の変更はしないとした。これに対して原子力規制委員会は、変更後の最大層厚から推定した気中降下火砕物濃度で非常用DGの改良型フィルタの性能試験を実施した結果、フィルタ取替までの時間間隔を短縮する必要があるが、保安規定で定めるフィルタ取替及び清掃の作業に要する時間を変更する必要はないとの評価結果が得られたこと、火山影響対策に使用する屋外施設に対する静的荷重の影響について、荷重による評価を行ったところ、発生応力は許容値を下回ることから、構造健全性は確保されるとの評価結果が得られたこと、非常用DGの改良型フィルタの取替ができないと仮定した場合、フィルタの閉塞により電動補助給水ポンプが機能喪失する時間が早まるものの、蒸気発生器補給用仮設中圧ポンプを用いた蒸気発生器への注水により蒸気発生器の水位が維持されること等から、炉心冷却は可能であるとの解析結果が得られたことが確認できたことから、現行の保安規定に定める措置により、本件各原子炉については、降下火砕物の最大層厚の変更後においても発電用原子炉施設の保全のために必要な活動を行うことが可能であり、令和3年設置変更許可処分後においても保安規定を変更しないとの参加人の方針は妥当であると判断した。(以上につき、乙C78・7頁)ウ 原子力規制委員会は、令和3年3月17日の原子力規制委員会会議において、審査書案の取りまとめを行い、同月18日から同年4月16日までの期間で意見公募手続を行い、また、原子力委員会及び経済産業大臣に対する意見聴取(炉規法43条の3の6第3項、同法43条の3の8第2項、同法71条1項1号)を行った。そして、原子力規制委員会は、これらの意見公募手続及び意見聴取の結果を踏まえ、同年5月19日、本件各原子炉に係る令和3年設置変更許可処分をした。(乙C77、106・17頁、乙C107)(7) 火山についての知見ア 噴火の原理等(ア) 地球表層部は、十数枚のプレート(地球の表面を取り巻く厚さ約100㎞の硬い岩石の層であり、地殻と低温の上部マントルを含む。)で覆われており、これらのプレートが地球の表面上を移動したり衝突したりしており、火山の大部分は、このプレートの沈み込みによりその境界に沿って形成される。プレートが沈み込む際、プレート上部の海洋地殻には多くの水が含まれており、これが脱水する温度・圧力条件まで沈み込むと水を放出し、その水と大陸地殻内のマントルとが反応することによりマントル内の岩石の融点が降下するため、岩石を溶解する温度・圧力条件を満たす領域でマグマが生成される。そして、マグマ(液体)は、周囲の地殻(固体)との密度差から地表方向へ上昇し、周囲の密度と釣り合うところでマグマ溜まりを形成し、マグマ溜まりから供給されたマグマが地表に到達して噴出し、火山が形成されると考えられている。(乙B156・333、334頁)(イ) 火山の噴火は、地下で生成されたマグマが地表に噴出することによって生じるものであり、そのマグマは地下に形成されたマグマ溜まりから供給される。マグマの物理的性質、粘性や密度は、マグマが移動する際の速度や噴火の激しさと密接に関係するため、火山活動を理解する上で重要なパラメータであり、一般的に、玄武岩質マグマは、高温で粘性が低い場合が多いが、珪長質マグマ(流紋岩質マグマ及びデイサイト質マグマ)は、低温で粘性が高いため、長い年月をかけて大量のマグマを蓄積しやすく(乙D74・94、95頁、乙D77・53頁、乙D81・83、84頁)、大規模なマグマ溜まりを形成して噴火を起こす巨大噴火は、一般に珪長質マグマによるものとされている(乙D82・7、8頁)。珪長質マグマは、粘性が高いことにより、噴火した際にはプリニー式噴火(噴煙柱を高く形成するもの)を引き起こすとされている。(乙D81・128~139頁)(ウ) マグマが噴火可能な状態にあるかどうかは、マグマに含まれる結晶量の割合に左右されると考えられている。結晶量の割合が50%程度以上のマグマはマッシュといい、そのままでは噴火できないところ、実際のマグマ溜まりは大部分がマッシュ状であるため、その状態では噴火できないが、粒間のメルト(完全に溶融したマグマ)が分離・集積したり、高温マグマ等の注入によってマッシュが溶融したりすることなどにより噴火に至るとされ、この再活性化は数か月~数十年という比較的短期間で起こるという見解もある。(乙D83・2、3頁、乙D85・282、283、286頁)(エ) マグマの発泡や噴火は、マグマに含まれる水の量にも左右されると考えられており、マグマが地下深部のような高い圧力下にあると、水はマグマに溶け込めるが、マグマの上昇による減圧等が起こると、その水が水蒸気となってマグマから分離し、マグマが発泡し、そうすると、その泡を含めたマグマの体積が増加し、マグマ溜まりの圧力が増加することで、上部の岩石を破壊し、噴火に至るとされている。(乙D74・91、92頁、乙D81・191~195頁、乙D87・16~19頁、乙D88・10~13頁)イ 噴火予測(ア) 火山の諸現象を解明するための調査手法には様々な手法があるが、代表的な手法として、①地質学的調査手法、②岩石学的調査手法及び③地球物理学的調査手法がある。①地質学的調査手法は、地層の現地調査を行って火山噴出物(火山岩)の種類、堆積物分布範囲、噴出量及び各地層の堆積順序を確認したり、各地層における堆積物の放射年代等を調査したりすることにより、火山噴出物が噴出し堆積した年代を推定して、当該火山における噴火履歴をまとめるなどの研究を行う火山地質学の手法を用いるものであり、個々の火山におけるマグマ供給系ごとに検討される過去の噴火履歴を把握することにより、現在の活動状況や将来の活動状況を推定することができる場合があり、地質学的な調査結果については、縦軸に噴出量、横軸に噴出年代を設定した階段ダイヤグラム(階段図)を作成して噴火履歴を示し、これを分析して、火山活動の傾向や将来の活動可能性を評価する。(乙B156・343~345頁、乙D92の2・27頁)②岩石学的調査手法は、岩石の性質・産状・相互関係・成因等を研究する火山岩石学を利用するものであり、火山噴出物の岩石学的調査(偏光顕微鏡を用いた観察、主成分・微量元素組成分析等)を行うことにより、活動したマグマの特徴、地下におけるマグマの成因、火山活動の履歴等を推定するものである。(乙D80)③地球物理学的調査手法は、物理学的方法により地球を研究する地球物理学を利用するものであり、火山に関する調査手法として、地震波の観測により地下の地震波速度構造を解析することにより、マグマ溜まりの位置等を推定する地震波トモグラフィ法などがある。地震波トモグラフィ法は、地震が発生し、震源から発生した地震波が地表まで伝わる途中に存在する物質の性質(岩盤等の剛性率や密度)によって地震波の伝わる速度が異なり、その速度の違いを把握することによって、当該物質の場所や性質を推定することが可能となる地下の地震波速度構造解析技術である。熱水やマグマ等の液体が多く含まれている岩盤等を通るときは地震波の速度が遅くなるため、地震波到達時間に遅延等の異常がみられる場合、地下に低速度領域があることが推測され、マグマ溜まり等の低速度領域の原因が存在する可能性がある。(乙D86、94)(イ) 噴火が起こる前には、マグマが地下の一定の深さに定置するという考え方が火山学において受け入れられているが、その中で、マグマの密度が周囲の岩石と均衡すればその均衡した深さでとどまるという原理に依拠する見解があり、これは、マグマは地球内部の密度構造に支配されながら、浮力によって上昇・移動し、マグマの密度が地殻の密度と釣り合う深さ(浮力中立点)にマグマ溜まりができるとするものである。我が国では、マグマ活動の中心的役割を果たす玄武岩質(粘性が低く、高温で、密度が高い)のマグマ溜まりが地下10~12㎞を浮力中立点として存在し、その上層に珪長質(粘性が高く、低温で、密度が低い)のマグマ溜まりが生成されると、そのマグマ溜まりが更に浅所の浮力中立点に移動するとの考え方が示されている。(乙D78・78、79頁、乙D83・6~8頁、乙D84・723頁)もっとも、マグマ溜まりの位置について、浮力中立点よりも浅部には形成されないが、マグマ溜まりがシル(水平方向に薄く広がった貫入マグマ)の集合体である場合には、浮力よりもむしろ、地殻内のレオロジー(流動学)や剛性のコントラスト、応力場などがマグマの定置深度を支配するらしいとの見解(東宮(2016))がある。(甲D240・284頁、乙D84・722頁)ウ 降下火砕物の影響(ア) 噴火が発生すると、火砕物は、噴煙柱として立ち上り、噴煙柱と周囲の密度が釣り合った付近で噴煙は水平へ傘状に広がるが、重力と空気抵抗が釣り合う速度(終端速度)に達すると落下し始め、小さい粒子ほど終端速度は小さく遠くまで運ばれる。日本列島を含む中緯度地帯の上空には、地球規模の大気循環により西風である偏西風が常に吹いており、降下火砕物は規模の大きな噴火ほど強い西風に送られ、火山の東側に分布すると考えられており、日本の後期第四紀(約13万年前以降)テフラの場合は120例中84%がそのような分布域である。(乙D91)(イ) 火山灰の密度は、乾燥状態で概ね1g/㎤程度であるが、湿潤状態になると1~2g/㎤と、乾燥時より密度が増加し、湿り気を帯びた新雪(0.1~0.2g/㎤)の10倍程度の密度である。火山灰は、乾燥時には絶縁体であるが、水を含んで湿った状態になると、火山ガス成分や火山灰に含まれる塩基類によって通電性を持つことがあり、湿った火山灰が電柱の碍子等に付着した場合、碍子部分の絶縁性が弱くなり、閃絡等による停電等が起こることがあるほか、火山灰から硫化イオン(SO42-)が溶出すると、金属腐食の要因となる。火山灰の融点は約1000℃であり、航空機用ガスタービンのエンジン燃焼度(1400℃以上)で火山灰が溶融し、その後、冷えてタービンブレード等に付着するため、飛行中のエンジン停止等異常の原因となる。(甲D201・5、6頁、甲D208)(ウ) Tephra2 は、風による移動(移流)と空中で勝手に拡がる現象(拡散)を盛り込んだ「移流拡散モデル」を用いたシミュレーションコードである。噴煙柱高さ、噴出量、粒子の粒径、給源火口の座標、拡散係数、見かけ渦拡散係数、岩片の密度、軽石の密度、地形データ、標高ごとの風速・風向等の多数のパラメータを入力することにより、降灰範囲及び降灰量が得られ、各地点の降下火砕物の堆積量及び粒径分布のデータが同時に出力される。Tephra2 は、垂直に上昇する噴煙中から粒子が離脱するというモデルに基づいており、噴煙中の傘型領域からの落下は盛り込んでおらず、開発者によれば、大気を水平方向の層に分け、その層の中では風速と風向が一定であると仮定し、各層間で風速と風向が変化するようにして、モデルを単純化しているため、小規模な噴火には有効であるが、より規模の大きい噴火や風の変化が激しい場合には、現実をうまく表現できない可能性が高いとされる。(甲D214、259、弁論の全趣旨・被告第35準備書面35、36頁)(エ) 噴出物量の算出に用いられる Legros 法は、等層厚線の情報のみから、等層厚線に囲まれた面積と厚みの積により最小体積を計算する方法であり、その提案者は、1つの等層厚線しか利用できない降下火砕物堆積物の最小体積の推定値として有用であると提案する。(甲D275)(オ) 圧密とは、一般に、土や地盤に荷重がかかり、内部に発生する圧縮応力のため、土(堆積物)の間隙を構成する水や空気を追い出し、土の体積を減少させて、密な状態に変わる現象を指すものであり(乙D124・393頁)、特に土木建築においては、地表に構造物を建設することなどにより圧力が加わり地盤に圧密が生じ、それが地盤沈下の原因となるため地盤改良として圧密促進工事などが行われる。これに対し、地質学でいうところの圧密は、地層を形成する堆積物が、その上層に堆積した堆積物の圧力で堆積物粒子の間隙が最小限となる現象や作用を指し、長い年月を経てそれが更に進行すると、堆積物粒子が接着されて固化し、堆積岩となる。(乙D125・92頁)エ 専門家の意見等(ア) 川内発電所1号機及び2号機の稼働差止仮処分申立事件(鹿児島地方裁判所平成26年(ヨ)第36号)の同裁判所平成27年4月22日決定を受けて、火山学者に対して行われた緊急アンケートにおいて、静岡大学防災総合センターのK3、山梨県富士山科学研究所所長及び火山噴火予知連絡会会長のK4並びに匿名の火山学者から、数十年以上前に巨大噴火を予測することは不可能である旨の回答がされた。(甲D119)(イ) 第四紀学を専門分野とする東京都立大学名誉教授のK5は、令和5年6月20日の松山地方裁判所における証人尋問(甲D265)、陳述書(甲120)及び意見書(甲D264)において、噴火ステージのサイクルはテフラ整理のための1つの考え方にすぎず、これによって破局的噴火までの時間的猶予を予測できる理論的根拠にはなり得ない(甲D120・3頁)、噴出物量の規模は桁程度の誤差があり得、噴出物量を根拠に一定規模以上の噴火は起こらないということはできない(甲D265・番号16~30)などと述べている。(ウ) 原子力規制委員会が設置したモニタリング検討チームの平成26年8月25日に開催された第1回会合において、外部専門家K6(京都大学名誉教授)、K7(東京大学地震研究所地震噴火予知研究センター教授)、K1(東北大学東北アジア研究センター教授)、K8(産総研活断層・火山研究部門首席研究員)及びK9(独立行政法人防災科学技術研究所観測・予測研究領域総括主任研究員)らを交えた議論が行われたところ、モニタリング検討チームの平成27年7月31日付け提言とりまとめにおいては、現状において巨大噴火の時期や規模を正確に予知するだけのモニタリング技術はないこと、モニタリングで異常が認められたとしても、それが巨大噴火の予兆か定常状態からのゆらぎの範囲内なのかを科学的に識別できないおそれがあること、巨大噴火は何らかの前駆現象が数年~数か月前に発生する可能性が高いと考えられるが、そのような事情が巨大噴火の前駆現象か噴火未遂に終わるかを予測するのも簡単ではないことなどが記載されている。(甲D122)(エ) K4は、平成28年11月16日受付の論文「わが国における火山噴火予知の現状と課題」(甲D123)において、常時監視観測が行われている活火山における火山噴火予知は、1998年の段階において、①観測データの変化から火山活動の異常を検出して噴火の可能性を警告する、②観測データの解釈に基づいて火山の状態を評価し、過去の噴火事例も考慮して噴火の発生や推移を定性的に予測する段階にあるものと評価されたが、現在までこの状況に本質的変化はなく、部分的に噴火の物理モデルに基づいて噴火の推移を予測する試みも行われるようになっているが、地下のマグマ供給系の状況を的確に把握できているとはいい難く(同212、213頁)、階段ダイヤグラム(階段図)による噴火時期の予測はマグマ供給量又は噴火噴出物放出率が一定であることが必要条件であるが、これが長期的に成立する保証はなく、噴出物量や噴火年代についても大きな誤差があることから、数万年レベルの噴火履歴から原子力発電所の稼働期間である数十年単位の噴火可能性を階段ダイヤグラムで議論すること自体に無理があり、火山噴火の長期予測に関しては、その切迫度を測る有効な手段は開発されていない旨(同219頁)を述べている。(甲D123)(オ) マグマ学を専門分野とする神戸大学名誉教授及び海洋底探査センター客員教授であるK10は、令和5年7月5日の広島地方裁判所における証人尋問(甲D269)、同年10月1日の松山地方裁判所における証人尋問(甲D271)、令和6年2月7日の鹿児島地方裁判所における証人尋問(甲D291)及び意見書(甲D267)等において、浮力中立点の状況のみでは必ずしも噴火につながるマグマ溜まりがないとは断言できない(甲D269・12、13頁、甲D271・番号38~46、甲D291・番号32~36)、マッシュ状のマグマは直ちには噴火不可能な状態であるが、親マグマ溜まりから高温のマグマが供給されると再活性化して噴火可能となり、このような変化はVEI7の破局的噴火であっても10年オーダーで変化することがあり得る(甲D267・7、8頁、甲D269・20、24~27頁、甲D271・番号68~72頁、甲D291・番号46~51、405~408)、マッシュ状のマグマ溜まりを各種の探査によって確認することは困難である(甲D267・8頁、甲D269・23頁、甲D271・番号47~55、甲D291・37~45、104~106、108~117、319、324、393、394、409~411)、現時点で日本列島の火山の地下に近い将来破局的噴火を起こす可能性のある巨大なマグマ溜まりが存在しないことを示す科学的知見は存在しない(甲D267・8、9頁、甲D269・17~20頁、甲D271・番号30~37)、地殻変動の観測データの変化により破局的噴火の前兆を判断するのは難しい(甲D291・番号79、80)、ストロンチウム同位体比率等のマグマ組成の違いから、マグマ供給システムが変化したという仮説を立てることはできるが、仮説が正しいかどうかはわからない旨(甲D269・26頁、甲D271・110~118)などを述べている。(8) 大山についての知見ア 大山は、西南日本弧(ユーラシアプレート(大陸プレート)の下にフィリピン海プレート(海洋プレート)が沈み込むことによって形成されたもの)上に存在する火山であり、アダカイト(沈み込んだ海洋地殻が部分溶融して形成されたと考えられる安山岩、デイサイト、流紋岩等の火成岩類)質火山岩が見られる。大山は、鳥取県西部にある東西約35㎞、南北約30㎞の大型の第四紀(約258万年前から現在までの期間)デイサイト質複成火山(同じ火口から何度も噴火を繰り返し、火山体を成長させるタイプの火山)であり、本件各原子炉施設の敷地から約180㎞、美浜発電所3号機の敷地から約220㎞離れた場所に位置する。(乙D106、114~117・8、9頁)大山では、約6万年前に国内で最大規模のプリニー式噴火であるDKPが、約8万年前にDNPがそれぞれ噴出し、最末期の噴火は約2万年前であり、それ以降は噴火の記録がない。大山は、約60万年前から40万年前にかけて溝口凝灰角礫岩という合計噴出量約50㎦の噴出物があったが、これは長期間にわたる噴出物が2次的に泥流等として流動・堆積したものとされる。(乙C79・32、35頁、乙D102・645、646頁、乙D103・285、286頁、乙D120・2頁)イ 大山は、火山噴火予知連絡会が平成15年に「概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」として定義し直した111の活火山に選定されておらず、また、同連絡会が「火山防災のために監視・観測体制の充実等の必要がある火山」として選定し(47火山)、同連絡会の下に設置された「火山観測体制等に関する検討会」の提言により追加された(3火山)、24時間体制で常時観測・監視が行われている50火山には含まれていない。(甲F131・99、100頁)ウ 大山については、Zhao et al.(2011)において、周辺の地下構造について地震波トモグラフィ法による検討を行った結果、低速度領域及び低周波地震の存在から、大山の西方20㎞以深にマグマ溜まりが存在する可能性が示唆されている。この研究を更に進めた Zhao et al.(2018)においても、大山の地下深部の低速度領域の存在が示されているが、その深度は平成23年のものと同程度とされている。(乙D106、122)エ 火山影響評価に係る安全研究を行ったK2らは、平成27年度研究から平成29年度研究までの研究結果を基に、岩石学、地球化学等に関する学術雑誌(Lithos)において Yamamoto and Hoang(2019)を発表した。同論文は、大山アダカイトは高カリウム群と低カリウム群に分けられ、高カリウム群は、低カリウム群に比べ、TiO2、Sr、Ba、Nb 及び La 含有量が高く、Sr-Nd-Pb 同位体組成において枯渇しており、低カリウムアダカイトは、高カリウムアダカイトに比べ、下部地殻同化作用の度合いが高いことが示された、低カリウムアダカイトは10万年前から2万7600年前の火山活動が増えた期間(高噴出率期)に噴出した一方、高カリウムアダカイトはこの期間の前と後に噴出しており、この相関関係は、高噴出率期の地殻へのマグマ貫入比率が増加したことによって、下部地殻同化作用の度合いが大きくなった結果であると考えられ、高噴出率期の後、噴火活動も下部地殻同化作用も減少し、噴火活動は2万0800年前に停止したとしている。(乙D114)2 具体的審査基準並びに原子力規制委員会の審査及び判断について(1) 上記認定事実(火山)(1)及び(2)のとおり、炉規法43条の3の6第1項4号の委任を受けた設置許可基準規則6条1項は、「想定される自然現象」が発生した場合においても安全施設が安全機能を損なわないものでなければならないと規定し、設置許可基準規則解釈は、これに火山の影響を含むとしており、技術基準規則7条1項の「想定される自然現象」について、技術基準規則解釈は、火山事象を含むとし、令和2年改正実用炉規則83条1項1号ロは、「火山現象による影響」への対策を講じることを規定している。そして、設置(変更)許可及び保安規定(変更)認可の審査においては、内規である火山ガイドを踏まえた審査が行われており、本件設置変更許可処分の審査には平成25年火山ガイドが、令和3年保安規定変更認可処分の審査には平成29年火山ガイド及び令和元年火山ガイドが、令和3年設置変更許可処分には令和元年火山ガイドが、それぞれ用いられたものと認められる。したがって、これらの火山ガイドは、原子力規制委員会の審査に用いられた部分について具体的審査基準に該当するものと認められるが、上記認定事実(火山)(1)エ及び別紙14火山ガイドの概要3(1)のとおり、火山ガイドは、評価方法の一例として火山影響評価の妥当性を審査官が判断する際に参考とするものとして定められたものであり、令和元年火山ガイドは、火山ガイドの各規定の趣旨及び火山ガイドに基づく審査実務の考え方を正確に表現し、かつ文章としてより分かりやすいものとなるようにしたものと認められるから、平成25年火山ガイド及び平成29年火山ガイドのうち、令和元年火山ガイドにより改正された部分については、その規定の文言そのものが具体的審査基準となるのではなく、審査実務に用いられた考え方に応じて具体的審査基準に該当するものと認められる。(2) そこで、令和元年火山ガイドの規定を中心に火山ガイドの不合理性の有無について検討する。ア 上記認定事実(火山)(1)エ及び別紙14火山ガイドの概要1のとおり、火山ガイドは、原子力規制委員会において、IAEAの安全指針(IAEA・SSG-21)、日本電気協会作成の JEAG4625-2009 等の文献や専門家からのヒアリング結果を基に、最新の科学的知見を集約して作成されたものであり、原子力発電所に影響を及ぼし得る火山として、第四紀に活動した火山に関する文献調査、地形・地質調査及び火山学的調査を行い、その中から将来の活動可能性が十分小さいとはいえない火山を抽出して個別評価の対象とし、必要に応じて地球物理学的及び地球化学的調査を行い、地理的領域(原子力発電所から半径160㎞の範囲)において原子力発電所の運用期間中に設計対応が不可能な火山事象を伴う火山活動の可能性を評価し、設計対応不可能な火山事象によって原子力発電所の安全性に影響を及ぼす可能性が十分小さいと評価された火山について、原子力発電所の安全性に影響を与える可能性のある火山事象の直接的影響及び間接的影響を確認するなどの内容となっており、これらは、IAEA・SSG-21 に整合するものであるから、科学的な知見に基づく合理性のあるものといえる。イ また、別紙14火山ガイドの概要2のとおり、平成29年火山ガイドは、原子力発電所への火山事象の影響評価として、気中降下火砕物濃度の推定手法を追加し、これを間接的影響の評価にも用いることとしたものであるが、上記認定事実(火山)(3)のとおり、気中降下火砕物濃度について、平成22年4月のアイスランド南部エイヤヒャトラ氷河で発生した噴火による観測値3241㎍/㎥に基づく評価では過小評価の疑いがあることから、最新知見の収集・分析等を行う必要があるとの指摘を受けて、技術情報検討会及び降下火砕物検討チームにおける検討結果等を踏まえて、保守的に改正されたものといえる。ウ さらに、別紙14火山ガイドの概要3のとおり、令和元年火山ガイドは、噴出規模が数十㎦程度を超えるような巨大噴火によるリスクについては、火山の現在の活動状況が巨大噴火が差し迫った状態ではないことが確認でき、かつ、運用期間中に巨大噴火が発生するという科学的に合理性のある具体的な根拠があるとはいえない場合は、少なくとも運用期間中は、「巨大噴火の可能性が十分に小さい」と判断でき、火山活動のモニタリングは、「運用期間中の巨大噴火の可能性が十分小さい」と評価して許可を行った場合であっても、この評価とは別に、評価の根拠が継続していることを確認するため、評価時からの状態の変化を検知しようとするものと改正している。令和元年火山ガイドの改正点は、巨大噴火のリスクについては社会通念上一定程度容認されているとして一定の場合に原子力発電所の安全対策の範囲外とし、モニタリングについても平成29年火山ガイドまでは火山活動に関する個別評価の範囲内としていたものを範囲外とするものであり、少なくともその文言のみからは、平成29年火山ガイドを非保守的に変更したようにも読める。しかしながら、原子力規制委員会は、上記認定事実(火山)(1)エのとおり、新規制基準の考え方(乙B156・331頁)において、火山ガイドの策定に当たっては、そもそも、現在の火山学の水準では火山噴火の時期や規模を的確に予知、予測することまではできないことを前提とした上で、現在の火山学の知見に照らせば、可能な限りの調査を尽くすことにより、運用期間中における活動可能性や設計対応不可能な火山事象の到達可能性が十分に小さいといえるか否かなどといった評価を行うことまでは可能であり、その限りでの評価に基づいて安全面に十分配慮した規制を行っていくことが科学的かつ合理的であるとの基本的立場を示しており、別紙14火山ガイドの概要3(1)のとおり、令和元年火山ガイドは、原子力規制庁が、平成30年2月21日に開催された原子力規制委員会において、火山の巨大噴火(噴出物の量が数十㎦程度を超えるような噴火)に関する基本的な考え方についてわかりやすくまとめるよう指示を受け、同年3月7日付け資料において、巨大噴火によるリスクは社会通念上容認される水準であると判断でき、現在の火山学の知見に照らした火山学的調査を十分に行った上で、火山の現在の活動状況が巨大噴火が差し迫った状態ではないことが確認でき、かつ、運用期間中に巨大噴火が発生するという科学的に合理性のある具体的な根拠があるとはいえない場合は、少なくとも運用期間中は、「巨大噴火の可能性が十分に小さい」と判断でき、火山活動のモニタリングは、「運用期間中の巨大噴火の可能性が十分小さい」と評価して許可を行った場合であっても、この評価とは別に、評価の根拠が継続していることを確認するため、評価時からの状態の変化を検知しようとするものであるなどと考え方を整理したことを踏まえて、火山ガイドの各規定の趣旨及び火山ガイドに基づく審査実務の考え方を正確に表現し、かつ文章としてより分かりやすいものとなるように改正されたものと認められる。したがって、このような令和元年火山ガイドの基本的考え方は、平成25年火山ガイド及び平成29年火山ガイドにおいても同様であったというべきであるから、令和元年火山ガイドがそれ以前の火山ガイドを非保守的に変更したものであるとはいえない。そして、炉規法は、大規模な自然災害の発生を想定した必要な規制を行うことを目的として規定しているものの(同法1条)、想定すべき自然災害の内容や規模について具体的な定めをしておらず、設置許可基準規則6条1項は、「安全施設は、想定される自然現象(地震及び津波を除く。次項において同じ。)が発生した場合においても安全機能を損なわないものでなければならない。」、同条2項は、「重要安全施設は、当該重要安全施設に大きな影響を及ぼすおそれがあると想定される自然現象により当該重要安全施設に作用する衝撃及び設計基準事故時に生ずる応力を適切に考慮したものでなければならない。」と規定し、同項に関する設置許可基準規則解釈(乙B5・13頁)の5項は、上記「想定される自然現象」には、火山による影響を含むとした上で、「大きな影響を及ぼすおそれがあると想定される自然現象」とは、「対象となる自然現象に対応して、最新の科学的技術的知見を踏まえて適切に予想されるものをいう。」としている。また、福島第一原発事故後にされた炉規法の平成24年改正によっても、どのような大規模自然災害が生じても原子炉内の放射性物質が外部の環境に放出されることはないといった達成不可能なレベルの高度の安全性を求めることを前提とすると解されるものは見当たらず、設置許可基準規則55条は、放射性物質の拡散が生じ得ることを前提として、その抑制のための設備を設けなければならない旨を規定している。これらの現行の炉規法等の規定からすれば、炉規法は、最新の科学的技術的知見を踏まえて合理的に予測される最大規模の自然災害を想定した発電用原子炉施設の安全性の確保を求めるものであって、最新の科学的技術的知見から合理的に予測される範囲を超える自然災害による危険性については、これを想定した対策を講じなくとも社会的に容認されていることを前提としているものと解される。そして、一般の建築物に関する規制をみても、我が国においては、影響が著しく深刻なものではあるが極めて低頻度の規模及び態様の破局的噴火を含む、噴出物が数十㎦を超える巨大噴火の危険性については、その発生が相応の根拠をもって示されない限り、開発行為の制限や建築構造物の規制をはじめとして安全性確保の点で考慮されていないのが実情であり、独り発電用原子炉施設についてのみ巨大噴火による危険性について考慮しないことが社会的に容認されていないとまではいえないから、噴出物が数十㎦を超える巨大噴火の危険性については、その発生の可能性が相応の根拠をもって示されない限り、その危険性を想定しないことが社会的に容認されているというべきである。したがって、上記した令和元年火山ガイドの基本的考え方は、炉規法の求める安全基準に違反するものであるということはできない。エ 次に、平成29年火山ガイド及び令和元年火山ガイドは、気中降下火砕物濃度について、上記認定事実(火山)(3)及び別紙14火山ガイドの概要2のとおり、降下火砕物検討チームによる検討結果を取りまとめた濃度考え方の中で、降下火砕物濃度の推定に必要な実測値(観測値)や理論的モデルは大きな不確実さを含んでおり、基準地震動や基準津波のようにハザードレベルを設定することは困難であるものの、降灰継続時間を仮定し、原子力発電所の敷地における堆積量等から気中降下火砕物濃度を推定する手法(手法②)、電中研報告書のように FALL3D 等による数値シミュレーションを用いて原子力発電所の敷地における気中降下火砕物濃度を推定する手法(手法③)を基に、降灰継続時間を24時間と仮定して降灰量から気中降下火砕物濃度を推定する手法(3.1の手法)と数値シミュレーションにより気中降下火砕物濃度を推定する手法(3.2の手法)により気中降下火砕物濃度を推定することとしている。そして、これらにより推定した気中降下火砕物濃度を参考濃度とした上で、この参考濃度において、非常用DG等の非常用交流動力電源設備(設計基準事故対処設備)の24時間、2系統の機能維持を求め、また、この非常用交流動力電源設備2系統が偶発的に多重故障を起こし、いずれの機能も喪失した場合をあえて想定し、そのような場合でも電源車等の代替電源設備(重大事故防止設備)の機能維持を求めることとし、さらに、上記の参考濃度よりも更に高濃度の降下火砕物によるフィルタ閉塞等に起因して代替電源設備が機能喪失し、全交流電源喪失に至った場合を想定し、その場合における原子炉の炉心損傷の防止を求めることを要求している。このように、平成29年火山ガイド及び令和元年火山ガイドにおいて、3.1の手法又は3.2の手法を用いて推定された気中降下火砕物濃度の参考濃度は、これを超えると、設計及び運用等による安全施設の機能維持が不可能になる限界値として位置付けられているものとはいえない。そして、別紙14火山ガイドの概要2(3)のとおり、3.1の手法においては、降下火砕物の粒径の大小にかかわらず同時に降灰が起こると仮定するとともに、気中降下火砕物濃度を低下させる可能性のある事象である粒子の凝集を考慮しないこととされており、実際の降灰現象と比較して保守的である上、降灰継続時間を24時間とすることに科学的合理性があることは降下火砕物検討チーム会合において原子力規制委員であるK1委員及び外部専門家である産総研のK2も認めている(乙B129・42、43頁)。また、別紙14火山ガイドの概要2(4)のとおり、3.2の手法においても、気象データの設定について、1年で最も原子力発電所敷地に対して影響のある月を抽出し、一定風を設定することとされており、実際の降灰現象と比較して保守的であるといえる。そして、3.1の手法及び3.2の手法のいずれによっても、気中降下火砕物濃度の推定値は、少なくとも現時点において既往最大の観測値として取り扱われているセントへレンズ山の噴火の観測値である33㎎/㎥をはるかに上回る数値(数g/㎥)となることが確認されている。これらによれば、火山ガイドにおける気中降下火砕物濃度の推定手法に不合理な点があるとはいえない。オ 以上によれば、火山に係る具体的審査基準に不合理な点がないことについて相当の根拠をもって立証されたというべきである。(3) 上記認定事実(火山)(2)のとおり、原子力規制委員会は、本件適合性審査において、参加人が、平成25年火山ガイドを踏まえて、文献調査及び地質調査結果により、敷地及びその周辺において降灰層厚が比較的厚い降下火砕物を抽出し、噴出源を同定できる降下火砕物について文献調査、地質調査及び位置関係を含めて検討し、噴火履歴及び地下構造を検討して、大山については約8㎝程度の降灰層厚と評価していること、噴出源が同定できない降下火砕物の降灰層厚として NEXCO80 を抽出し、降灰層厚10㎝以下と評価していることなどを確認し、設置許可基準規則6条1項及び2項の要求を満たしているものと判断している。しかしながら、上記認定事実(火山)(4)及び(6)のとおり、原子力規制委員会は、本件設置変更許可処分をした後に、越畑地点のDNPの降灰層厚は25㎝程度であり、DNPの総噴出規模は10㎦以上と考えられるとの本件新知見を認定し、かつ、DNPとDKPを一連の噴火と評価することは適切でなく、本件各原子炉施設の運用期間中のDNP規模の噴火の可能性を考慮するのが適切であるとの判断に基づき、本件バックフィット命令を発出し、令和3年設置変更許可処分に当たっては、DNPの噴出量11㎦を踏まえて本件各原子炉の敷地における降灰層厚を27㎝と評価している。上記第6の3で説示した判断枠組みのとおり、原子力規制委員会の審査において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、又は、当該発電用原子炉施設が上記具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の審査及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があると認められる場合には、原子力規制委員会の審査及び判断に不合理な点があるものとして、設置変更許可処分が違法になるというべきであるところ、これらは現在の科学技術水準に照らして判断すべきであるから、上記原子力規制委員会が認定した本件新知見等を踏まえると、本件設置変更許可処分について、本件各原子炉の敷地における降灰層厚を10㎝として具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の審査及び判断の過程には看過し難い過誤、欠落があったと認められる。もっとも、その後、本件バックフィット命令を経て、令和3年設置変更許可処分がされたことにより、本件設置変更許可処分のうち火山による影響に関する部分は、令和3年設置変更許可処分により変更されているから、本件訴訟においては、令和3年設置変更許可処分の違法性について審査すれば足りるというべきであって、令和3年設置変更許可処分の審査において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、又は、当該発電用原子炉施設が上記具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の審査及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があると認められる場合に、令和3年設置変更許可処分が違法となり、これに伴って同処分によって変更された本件設置変更許可処分も違法となると解するのが相当である。(4) 上記認定事実(火山)(6)のとおり、原子力規制委員会は、令和3年設置変更許可処分に当たり、参加人が実施した設計対応可能な火山事象の影響評価については、令和元年火山ガイドを踏まえたものであり、文献調査、地質調査等により、本件各原子炉への影響を適切に評価していることを確認するとともに、参加人が設定した降下火砕物の最大層厚等は、最新の文献調査及び地質調査結果を踏まえ、降下火砕物の分布状況、不確かさを考慮した降下火砕物シミュレーション結果及び越畑地点におけるDNPの実績層厚と大山から本件各原子炉までの距離関係から総合的に評価し、適切に設定されていることから、妥当であると判断した。また、原子力規制委員会は、降下火砕物の影響に対する設計方針等については、設計基準対象施設及び重大事故等対処施設(特定重大事故等対処施設を含む。)に関して、降下火砕物の最大層厚の変更によって影響を受ける項目を整理した上で、降下火砕物の最大層厚以外の基本設計等の技術的成立性を詳細に説明し、これらを変更する必要がないことを示すよう求め、参加人の説明を受けて、降下火砕物の最大層厚の変更後においても、それ以外の基本設計等に技術的成立性があることから、降下火砕物の最大層厚以外の基本設計等を変更しないとの参加人の方針は妥当であると判断したものと認められる。さらに、原子力規制委員会は、上記認定事実(火山)(6)イ(ウ)のとおり、審査の過程において、既認可の保安規定に定める火山事象による影響が発生し又は発生するおそれがある場合における発電用原子炉施設の保全に関する措置について、本件各原子炉については、降下火砕物の最大層厚の変更後においても当該措置に技術的成立性があるため、令和3年設置変更許可処分後においても保安規定の変更はしないとした参加人の方針について、現行の保安規定に定める措置により、本件各原子炉については、降下火砕物の最大層厚の変更後においても発電用原子炉施設の保全のために必要な活動を行うことが可能であることを確認し、妥当であると判断している。このように、原子力規制委員会は、令和3年設置変更許可申請に対し、参加人が、本件設置変更許可処分後に得られたDNPに関する本件新知見等を考慮し、令和元年火山ガイドを踏まえて、新たな調査を行い、不確かさを考慮していること等を確認した上で、参加人の申請内容が妥当であるとの判断をしたものであるから、令和3年設置変更許可処分に係る原子力規制委員会の審査及び判断に不合理な点がないことについて相当の根拠をもって立証されたというべきである。(5) 上記認定事実(火山)(5)のとおり、令和3年保安規定変更認可処分は、平成29年の実用炉規則等の改正及び令和2年の実用炉規則の改正に伴って「火山現象による影響」(令和2年改正実用炉規則83条1項1号ロ)に対する保全に関する措置を新たに追加し、関連する保安規定の定めについて変更をしたものであるところ、原子力規制委員会は、令和3年保安規定変更認可処分に当たり、実用炉規則の要求事項(火山)について、平成29年火山ガイドの手法②により、設計層厚10㎝とした気中降下火砕物は1.4g/㎥となるが、降下火砕物の層厚が増えることを考慮して3.50g/㎥としたほか、要求事項(火山)①~③に関する記載がされていることを確認し、要求事項(火山)③に関しては、気中降下火砕物濃度の2倍の濃度を想定して非常用DGが機能停止したときであっても仮設中圧ポンプによる蒸気発生器への注水が行われ、蒸気発生器の水位は保たれて炉心の著しい損傷には至らないことを確認するなどしている。このように、令和3年保安規定変更認可処分に係る原子力規制委員会の審査及び判断は、令和2年改正実用炉規則の要求事項(火山)等について、平成29年火山ガイドに基づき、DNPに関する本件新知見等を踏まえた確認も行うなどしているから、その過程に不合理な点がないことについて相当の根拠をもって立証されたというべきである。3 争点4-(1)(層厚想定に関する基準の不合理性)について(1) 原告らは、令和元年火山ガイドについて、現在の火山学の水準では、噴火の時期や規模について、噴火の相当前の時点で的確に予測することは困難であり、特定の規模の噴火が発生する可能性が十分小さいといえる水準にはなく、そのようなリスクを社会的に受容することも許されず、また、火山の噴火規模に関する指標は不確実性が大きく、大きな誤差、不定性を含みうるにもかかわらず、特定の噴出規模の噴火ごとの運用期間中の発生可能性を判断することが可能であるとの前提に立った規定となっており、平成29年火山ガイドまでの要件を緩和し、噴火の時期や規模について、相当前の時点で的確に予測できることを前提としている点で不合理であると主張する。この点、上記認定事実(火山)(7)エのとおり、火山等の専門家であるK3、K4、K5、K7及びK10らの意見等によれば、現在の火山学の水準においては噴火の予測について科学的に課題が多く、精度よく噴火の時期や規模を予測できる段階にあるとは認められない。しかしながら、上記2(2)で説示したとおり、火山ガイドは、原子力規制委員会において、IAEAの安全指針(IAEA・SSG-21)、JEAG4625-2009 等の文献や専門家からのヒアリング結果を基に、最新の科学的知見を集約して策定したものであり、その内容は、科学的な知見に基づくものといえる。また、令和元年火山ガイドは、現在の火山学の水準では火山噴火の時期や規模を的確に予知、予測することまではできないことを前提とした上で、現在の火山学の知見に照らせば、文献調査、地形・地質調査、火山学的調査、地球物理学的調査及び地球化学的調査を行うなど、可能な限りの調査を尽くすことにより、運用期間中における活動可能性や設計対応不可能な火山事象の到達可能性が十分に小さいといえるか否かなどといった評価を行うことまでは可能であり、モニタリングにより評価の根拠が継続していることを確認するなど、その限りでの評価に基づいて安全面に十分配慮した規制を行っていくことが科学的かつ合理的であるとの基本的立場に基づくものであるところ、上記のとおり、噴火の予測に多くの不確実性が含まれ、精度よく噴火の時期や規模を予測することは不可能であるとしても、上記認定事実(火山)(7)ア及びイを踏まえれば、最新の知見を踏まえた上記の各調査結果を総合的に考慮することにより、原子力発電所の運用期間という火山活動の歴史から見れば極めて限定された期間中に、その安全性に影響をもたらす規模の火山事象が起きる可能性の程度が十分に小さいといえるか否かなどといった評価を行うことまでは可能としていることが、科学的合理性を欠くものであるということはできない。そして、上記2(2)ウで説示したとおり、現在の炉規法においても絶対的安全性まで求められるものとは解されず、最新の科学的技術的知見を踏まえて合理的に予測される範囲を超える自然災害による危険性については、これを想定した対策を講じなくとも社会的に容認されていることを前提としているものと解されることなども考慮すると、噴火の予測に多くの不確実性が含まれることをもって、令和元年火山ガイドが不合理であるということはできない。そして、別紙14火山ガイドの概要3(4)のとおり、令和元年火山ガイドは、従前の火山ガイドが「敷地及び敷地周辺で確認された降下火砕物で噴出源が同定でき、その噴出源が将来噴火する可能性が否定できる場合は考慮対象から除外する。」と定めていたものを、「敷地及び敷地周辺で確認された降下火砕物の噴出源である火山事象が同定でき、これと同様の火山事象が原子力発電所の運用期間中に発生する可能性が十分に小さい場合は考慮対象から除外する。」と変更しているが、上記認定事実(火山)(2)ア(ア)のとおり、平成25年火山ガイドに基づいて行われた本件設置変更許可処分に係る審査においても、噴出源である火山事象が同定され、これと同様の火山事象が原子力発電所の運用期間中に発生する可能性が十分小さいと評価できるとして、DKP規模の噴火を考慮対象から除外していたことからすれば、火山ガイドの基本的な考え方自体に変わりはないというべきであり、令和元年火山ガイドは、従来の審査実務の考え方を正確に、かつ、分かりやすく表現したものにすぎないと認められるから、実質的に平成29年火山ガイドの要件を緩和した不合理なものということはできない。(2) 原告らは、令和元年火山ガイドの規定に従えば、最も大きい噴火(大山でいえばDKP)の活動可能性が十分小さいと評価された場合には、その次の規模の噴火(大山でいえばDNP)を考慮すればよいことになるが、このような推論は論理の飛躍であり、その間の規模の噴火の可能性まで否定する枠組みとなっている点で不合理であると主張する。しかしながら、上記2(2)ウで説示したとおり、設置許可基準規則6条1項、同条2項、同項についての設置許可基準規則解釈5項、設置許可基準規則55条等の規定からすれば、炉規法は、最新の科学的技術的知見を踏まえて合理的に予測される最大規模の自然災害を想定した発電用原子炉施設の安全性の確保を求めるものであって、最新の科学的技術的知見から合理的に予測される範囲を超える危険性については、これを想定した対策を講じなくとも社会的に容認されていることを前提としているものと解される。そして、令和元年火山ガイドは、原子力発電所の敷地及びその周辺調査から求められる単位面積当たりの質量と同等の火砕物が降下するものとし、敷地及び敷地周辺で確認された降下火砕物の噴出源である火山事象が同定でき、これと同様の火山事象が原子力発電所の運用期間中に発生する可能性が十分に小さい場合は考慮対象から除外し、降下火砕物は浸食等で厚さが小さく見積もられるケースがあるので、文献等も参考にして、第四紀火山の噴火による降下火砕物の堆積量を評価することとしている(乙B143・11頁)ところ、これは、火山事象については、発生メカニズムの解明や過去の観測記録のデータが不十分であることから、理論的評価に基づきハザードレベルを設定する手法は確立されていないが、原子力発電所の敷地及びその周辺での降下火砕物の観測値等のうち原子力発電所の運用期間中に想定される最大のものを用いることは可能であることから、既往最大の観測値等に基づきハザードレベルを設定する手法を用いて降下火砕物の最大層厚を設定することを求めるものである。 |
事件番号 | 平成28(行ウ)49 |
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事件名 | 高浜原子力発電所1号機及び2号機運転期間延長認可処分等取消請求事件、高浜原子力発電所1号機及び2号機設置変更許可処分取消請求事件、高浜原子力発電所1号機及び2号機保安規定変更認可処分無効確認請求事件 |
裁判所 | 名古屋地方裁判所 民事第9部 |
裁判年月日 | 令和7年3月14日 |
事案の概要 |
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本件は、別紙1原告目録記載の各肩書地に居住する原告ら(別紙1原告目録の事件1~5に対応する事件について、事件1~5の列に「〇」を付した原告が、請求の趣旨1~6の列に「〇」を付した請求をしている。)が、原子力規制委員会が、高浜発電所1号機及び高浜発電所2号機に関して参加人に対してした、平成28年4月20日付けの本件各原子炉に係る本件設置変更許可処分、同年6月10日付けの本件各原子炉施設に係る本件工事計画認可処分、同月20日付けの本件各原子炉に係る本件保安規定変更認可処分及び本件運転期間延長認可処分がいずれも違法であるとして、平成28年各処分の取消しを求める事案(49号事件、134号事件及び157号事件)、原子力規制委員会が令和3年5月19日付けで参加人に対してした本件各原子炉に係る令和3年設置変更許可処分が違法であるとして、同処分の取消しを求める事案(48号事件)及び原子力規制委員会が令和3年2月15日付けで参加人に対してした本件各原子炉に係る令和3年保安規定変更認可処分が違法無効であるとして、同処分の無効確認を求める事案(50号事件)である。2 関係法令の定め(1) 関係法令の定めは、本文中に記載するもののほか、別紙6関係法令の定めのとおりである。特記しない限り、平成28年各処分のうち本件保安規定変更認可処分及び本件運転期間延長認可処分のされた同年6月20日当時の法令等をいう。(2) 発電用原子炉の設置、運転等に対する規制の概要ア 設置変更許可について発電用原子炉設置者は、炉規法43条の3の8第1項本文所定の事項を変更しようとするときは、原子力規制委員会の許可(設置変更許可)を受けなければならないものとされており(同法43条の3の8第1項本文)、原子力規制委員会は、設置変更許可の申請が同法43条の3の6第1項各号のいずれにも適合していると認めるときでなければ、上記許可をしてはならないとされている(同法43条の3の8第2項、43条の3の6第1項。なお、原子力規制委員会は、上記許可をする場合においては、あらかじめ、同項1号に規定する基準(発電用原子炉が平和の目的以外に利用されるおそれがないこと)の適用について、原子力委員会の意見を聴かなければならないとされ(同法43条の3の8第2項、43条の3の6第3項)、上記許可をする場合においては、あらかじめ、経済産業大臣の意見を聴かなければならないとされている(同法71条1項1号)。)。そして、同法43条の3の8第2項、43条の3の6第1項2号(技術的能力に係る部分に限る。)、3号及び4号は、その者に発電用原子炉を設置するために必要な技術的能力があること、その者に重大事故(発電用原子炉の炉心の著しい損傷その他の原子力規制委員会規則(実用発電用原子炉については実用炉規則4条)で定める重大な事故をいう。)の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること、発電用原子炉施設の位置、構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則(実用発電用原子炉については設置許可基準規則)で定める基準に適合するものであることという基準に適合しているか否かについて審査を行うべきものと定めている。イ 工事計画認可について発電用原子炉施設の設置又は変更の工事(核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上特に支障がないものとして原子力規制委員会規則で定めるものを除く。)をしようとする発電用原子炉設置者は、原子力規制委員会規則(実用炉規則)で定めるところにより、当該工事に着手する前に、その工事の計画について原子力規制委員会の認可を受けなければならないとされており(炉規法(平成29年法律第15号による改正前のもの)43条の3の9第1項本文)、原子力規制委員会は、当該認可の申請が同条3項各号のいずれにも適合していると認めるときは、認可をしなければならないとされている(同条3項)。そして、同項2号及び3号は、発電用原子炉施設が同条43条の3の14の技術上の基準に適合するものであること、その者の設計及び工事に係る品質管理の方法及びその検査のための組織が原子力規制委員会規則で定める技術上の基準に適合するものであることという基準に適合しているか否かについて審査を行うべきものと定め、同法43条の3の14は、発電用原子炉設置者は、発電用原子炉施設を原子力規制委員会規則(技術基準規則)で定める技術上の基準に適合するように維持しなければならないと定めている。ウ 保安規定(変更)認可について発電用原子炉設置者は、原子力規制委員会規則(実用炉規則)で定めるところにより、保安規定(発電用原子炉の運転に関する保安教育、溶接事業者検査及び定期事業者検査についての規定を含む。)を定め、発電用原子炉の運転開始前に、原子力規制委員会の認可を受けなければならず、これを変更しようとするときも、同様とされており(炉規法43条の3の24第1項)、原子力規制委員会は、保安規定が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上十分でないと認めるときは、認可をしてはならないとされている(同条2項)。エ 運転期間延長認可について発電用原子炉設置者がその設置した発電用原子炉を運転することができる期間は、当該発電用原子炉の設置の工事について最初に炉規法43条の3の11第1項の検査に合格した日から起算して40年とされ(同法(平成29年法律第15号による改正前のもの)43条の3の32第1項)、この期間は、その満了に際し、原子力規制委員会の認可を受けて、1回に限り20年を超えず、かつ、政令(炉規令)で定める期間を超えない期間において延長することができ(同法43条の3の32第2、3項)、当該認可を受けようとする発電用原子炉設置者は、原子力規制委員会規則(実用炉規則)で定めるところにより、原子力規制委員会に認可の申請をしなければならず(同条4項)、原子力規制委員会は、当該認可の申請に係る発電用原子炉が、長期間の運転に伴い生ずる原子炉その他の設備の劣化の状況を踏まえ、延長しようとする期間において安全性を確保するための基準として原子力規制委員会規則(実用炉規則)で定める基準に適合していると認めるときに限り、同項の認可をすることができるとされている(同条5項)。第3 前提事実前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実等)1 当事者等(1) 原告らは、福井県を含む1都2府14県に居住する住民である。(2) 参加人は、関西地方を供給地域として電気事業を営むことを目的とする株式会社であり、福井県大飯郡高浜町田ノ浦1に所在する高浜発電所を設置している。(3) 処分行政庁は、設置法に基づき、環境省の外局として設置された、原子力利用における安全規制を一元的に行う被告の行政機関である。2 本件各原子炉施設の概要(1) 高浜発電所1号機の概要高浜発電所1号機は、参加人が、昭和44年12月12日に内閣総理大臣から設置許可処分を受け、その後、工事計画の認可等を経て、高浜発電所内に建設した加圧水型原子炉(高浜発電所1号炉)及びその附属施設である。高浜発電所1号機は、昭和49年3月14日に初臨界を達成し、同月27日に送電を開始し、同年11月14日に営業運転を開始した。高浜発電所1号機は、福島第一原発事故後、定期検査のため運転を停止していたが、令和5年7月28日から再稼働し、現在、営業運転をしている。(甲G1385~1387)高浜発電所1号機は、熱出力が244万 kW(キロワット)、電気出力が82.6万 kW の発電設備を有している。発電のための燃料には低濃縮二酸化ウランが用いられており、燃料集合体数は157体、燃料装荷量は約72トンである。(2) 高浜発電所2号機の概要高浜発電所2号機は、参加人が、昭和45年11月25日に内閣総理大臣から設置許可処分を受け、その後、工事計画の認可等を経て、高浜発電所内に建設した加圧水型原子炉(高浜発電所2号炉)及びその附属施設である。高浜発電所2号機は、昭和49年12月20日に初臨界を達成し、昭和50年1月17日に送電を開始し、同年11月14日に営業運転を開始した。高浜発電所2号機は、福島第一原発事故後、定期検査のため運転を停止していたが、令和5年9月から再稼働し、現在、営業運転をしている。(甲G1385)高浜発電所2号機に係る熱出力、電気出力、燃料の種類及び燃料装荷量は、高浜発電所1号機と概ね同じである。3 原子力発電所の仕組みの概要(1) 発電用原子炉の原理ア 原子力発電は、ウラン燃料が核分裂した際に放出する熱エネルギーを利用して水を蒸気に変え、その蒸気の力でタービンを回転させて電気を起こしている。イ 原子力発電は、原子炉内部にウラン燃料を装荷し、ウラン燃料の核分裂連鎖反応を利用して、熱エネルギーを継続的に発生させている。核分裂連鎖反応とは、燃料であるウランの原子核に中性子が衝突し、ウランの原子核が概ね2個の異なる原子核に分裂(核分裂)する際に放出される中性子が、別のウランの原子核に衝突して次の核分裂を起こすことを繰り返すことで、核分裂が継続することをいう。ウランは、1回の核分裂により2又は3個の中性子を放出するが、1回の核分裂で発生した2又は3個の中性子のうち1個のみが次の核分裂を引き起こす状態、つまり核分裂を引き起こしたのと同数の中性子が次の核分裂を引き起こす状態では、核分裂の数が常に一定に保たれており、このような状態を「臨界」という。また、次の核分裂を起こす中性子の数が、核分裂を引き起こさない物質への吸収等により、核分裂を引き起こした数より少なくなる状態を「未臨界」といい、核分裂連鎖反応はやがて止まることとなる。ウ 原子力発電所とは、核分裂連鎖反応を制御しつつ、これを継続的に起こさせることによって熱エネルギーを発生させ、発電用のタービンを回転させる蒸気を作るための装置であり、中心部に炉心があり、核分裂反応を起こして発熱する核燃料、核分裂で新たに発生する高速の中性子を次の核分裂反応が起こりやすい状態にまで減速させるための減速材、発生した熱を取り出すための冷却材、核分裂反応を制御するための制御材等から成り立っている。軽水型原子炉とは、減速材及び冷却材の両者の役割を果たすものとして水(軽水)を用いる発電用原子炉のことをいう。軽水型原子炉には沸騰水型原子炉(BWR)と加圧水型原子炉(PWR)があるが、本件各原子炉はいずれもPWRに該当する。(2) PWRの構造と発電の仕組みア PWRに用いる核燃料には、中性子が当たると核分裂反応を起こすウラン235を3~5%含む二酸化ウランを円柱状に焼き固めた燃料ペレットが使用され、この燃料ペレットを金属製の被覆管の中に縦に積み重ね、両端を密封した燃料棒を数十本ごとにまとめた燃料集合体により炉心を構成している。また、制御材として、中性子吸収材(銀-インジウム-カドミウム)が詰められている制御棒を燃料集合体内部に配置し、この制御棒を出し入れすることによって、炉心に存在する中性子の数を増減させ、核分裂反応を調整し、出力を制御している。イ PWRは、原子炉内を加圧することで、冷却材(1次冷却材)である水を沸騰させることなく高温(約320度:冷却材出口温度)、高圧(約157気圧)の熱水状態で維持し、この熱水(1次冷却材)を熱源として、蒸気発生器において別の系統の水(2次冷却材)を蒸気に変えている。その蒸気は、主蒸気管を通ってタービンに送られ、発電用タービンを回転させて発電を行う。タービンを回転させた蒸気は、復水器で冷却水(海水)により冷却されて水となり、この水(2次冷却材)は給水管を通って蒸気発生器に戻される。放射性物質を含んだ1次冷却材とそれを冷却する2次冷却材とは、蒸気発生器の伝熱管を通して熱交換を行っていることから接触することはない。ウ PWRは、1次冷却材を沸騰させるBWRと異なり、1次冷却材に圧力をかけて沸騰させないようにしているため、沸騰水の流量調整による出力調整はしないが、1次冷却材に中性子を吸収するホウ酸を混ぜ、その濃度を調整することで出力を調整することができる。(3) 発電用原子炉施設の3つの基本的安全機能ア 原子力発電所は、安全確保の観点から、異常を早期に検知し、緊急を要する異常を検知した場合には全ての制御棒を原子炉内に自動的に挿入し、原子炉を緊急停止(核分裂連鎖反応を止める)する設計がされる(「止める」)。さらに、万一、事故に発展した場合においてもその影響を緩和するため、燃料を冷却し(「冷やす」)、放射性物質の異常な水準の放出を防止する設計がされる(「閉じ込める」)。イ 原子炉を「止める」ための設備として、例えば、制御棒及びこれを急速に挿入する機能があり、緊急を要する異常時において、制御棒を急速に挿入することで、原子炉を安全に緊急停止させる設計がされる。PWRは、制御棒を炉心上部から挿入する構造であり、通常時は制御棒駆動装置内の電磁石に電流を流し、制御棒を炉心上部の適切な位置に保持し、原子炉緊急停止時は、電磁石への電流を切断し、制御棒が自重で炉心に落下することで炉心の核分裂反応を制御する。ウ 原子炉を緊急停止した場合においても、原子炉内の燃料には運転中に生成、蓄積された核分裂生成物等が存在するため、崩壊熱(核分裂の結果生じた核分裂生成物は、アルファ線、ベータ線又はガンマ線等の放射線を出しながら別の原子核に変化していく(放射性崩壊)が、その際に放出されるエネルギーが周辺の物質に吸収されて、最終的に熱になったもの)が発生しており、炉心の著しい損傷の防止等のために、崩壊熱の除去を続ける必要がある。事故時に炉心を「冷やす」ための設備として、例えば、非常用炉心冷却設備により、炉心を冷却できる設計がされている。また、非常用炉心冷却設備により除去した熱を最終的な熱の逃がし場(最終ヒートシンク)へ輸送する系統(例えば、原子炉補機冷却水設備等)により、原子炉圧力容器内において発生した残留熱(燃料の核分裂生成物の崩壊熱及び機器等から発生する熱に加えて、通常運転中に炉心・原子炉冷却材系等の構成材、原子炉冷却材及び2次冷却材に蓄積された熱を含む。)を除去する設計がされている。エ 放射性物質の異常な水準の放出を防止する「閉じ込める」ための設備として、原子炉格納容器等があり、原子炉格納容器は、想定される最大の圧力、最高の温度及び適切な地震力に十分に耐えることができ、かつ適切に作動する格納容器隔離弁の作動と併せて放射性物質の漏えいを抑制する設計がされている。これらに加え、PWRのアニュラス(原子炉格納容器と原子炉建屋の間にある気密性の高い空間)浄化設備のように、原子炉格納容器の貫通部等から漏えいする空気を浄化し、外部へ放出される放射性物質の量を低減する設備もある。なお、発電用原子炉施設のうち、原子炉格納容器において想定される事象が発生した場合において、圧力障壁及び放射性物質の放出の障壁となる部分を原子炉格納容器バウンダリという。(以上(1)~(3)につき、乙B156・26~37頁)4 福島第一原発事故の概要(1) 平成23年3月11日、東北地方太平洋沖地震の揺れを受けて発生した福島第一原発事故は、必ずしもその全容が明らかになっているわけではないが、原子力規制委員会は、次のような経緯で発生したと判断している。(2) 当時運転中であった福島第一発電所1~3号機は、平成23年3月11日、東北地方太平洋沖地震の揺れを受けて、原子炉が正常に自動停止した。地震による送電鉄塔の倒壊などにより外部電源喪失状態となったが、非常用DGが起動するとともに、炉心冷却系が起動したことにより、原子炉は正常に冷却された。しかし、福島第一発電所1~5号機においては、非常用DG、配電盤、蓄電池等の電気設備の多くが、海に近いタービン建屋等の1階及び地下階に設置されていたため、地震随伴事象として発生した津波により、建屋の浸水とほとんど同時に水没又は被水して機能を喪失した。これにより、全交流電源喪失となり、交流電源を駆動電源として作動するポンプ等の注水・冷却設備が使用できない状態となった。直流電源が残った3号機においても、最終的にはバッテリーが枯渇したため、非常用DGが水没を免れ、かつ、接続先の非常用電源盤も健全であった6号機から電力の融通ができた5号機を除く、1~4号機において完全電源喪失の状態となった。また、海側に設置されていた冷却用のポンプ類も津波により全て機能喪失したために、原子炉内の残留熱や機器の使用により発生する熱を海水へ逃がす、最終ヒートシンクへの熱の移送手段が喪失した。その結果、運転中であった1~3号機においては、冷却機能を失った原子炉の水位が低下し、炉心の露出から最終的には炉心溶融に至った。その過程で、燃料被覆管のジルコニウムと水が反応することなどにより大量の水素が発生し、格納容器を経て原子炉建屋に漏えいし、1・3号機の原子炉建屋で水素爆発が発生した。また、3号機で発生した水素が4号機の原子炉建屋に流入し、4号機の原子炉建屋においても水素爆発が発生した。また、2号機においては、ブローアウトパネルが偶然開いたことから水素爆発には至らなかったものの、放射性物質が放出され、周辺の汚染を引き起こした。(以上につき、乙B156・39、40頁)5 設置法及び原子力規制委員会について(1) 福島第一原発事故を契機に、平成24年6月27日、新たに原子力規制委員会を設置すること等を柱とする設置法が制定され、同法は同年9月19日から施行された。設置法は、福島第一原発事故を契機に明らかとなった原子力利用に関する政策に係る縦割り行政の弊害を除去し、並びに一の行政組織が原子力利用の推進及び規制の両方の機能を担うことにより生ずる問題を解消するため、原子力利用における事故の発生を常に想定し、その防止に最善かつ最大の努力をしなければならないという認識に立って、確立された国際的な基準を踏まえて原子力利用における安全の確保を図るため必要な施策を策定し、又は実施する事務を一元的につかさどるとともに、その委員長及び委員が専門的知見に基づき中立公正な立場で独立して職権を行使する原子力規制委員会を設置し、もって国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする(同法1条)。原子力規制委員会は、経済産業省や文部科学省ではなく環境省の外局とされ、内閣から独立した組織である3条委員会(設置法2条、国家行政組織法3条2項)として設置された。原子力規制委員会は、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資するため、原子力利用における安全の確保を図ることを任務とし(設置法3条)、委員長と4名の委員をもって組織するものとされている(同法6条1項)。原子力規制委員会の委員長及び委員は、独立してその職権を行うものとされ(同法5条)、人格が高潔であって、原子力利用における安全の確保に関して専門的知識及び経験並びに高い識見を有する者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命するものとされている(同法7条1項)。また、原子力規制委員会には、審議会等として、学識経験のある者で組織される原子炉安全専門審査会が置かれ(同法13条1項、15条2項)、原子力規制委員会の指示を受けて、原子炉に係る安全性に関する事項を調査審議するものとされている(同法14条)ほか、原子力規制委員会の事務を処理させるため、同委員会に事務局である原子力規制庁が置かれており(同法27条1項、2項)、原子力規制庁には事務局長その他の職員が置かれ(同条3項)、原子力利用における安全の確保のための規制の独立性を確保する観点から、原子力規制庁の幹部職員のみならずそれ以外の職員についても、原則として、原子力利用の推進に係る事務を所掌する行政組織への配置転換を認めないこととされている(同法附則6条2項)。原子力規制委員会は、上記の任務を達成するため、原子力に係る製錬、加工、貯蔵、再処理及び廃棄の事業並びに原子炉に関する規制その他これらに関する安全の確保に関すること等の事務(同法4条1項2号)のほか、法律(法律に基づく命令を含む。)に基づき、原子力規制委員会に属させた事務(同項14号)をつかさどるもの(同項柱書き)とされている。そして、原子力規制委員会は、その所掌事務について、法律若しくは政令を実施するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、原子力規制委員会規則を制定することができ(同法26条)、炉規法の委任を受けて、原子炉施設の位置、構造及び設備に係る許可基準(同法43条の6第1項4号)として設置許可基準規則を、原子炉施設の技術上の基準(同法43条の3の14)として技術基準規則を、原子炉施設の保安のために必要な措置(同法43条の3の22)として実用炉規則をそれぞれ制定するなどしている。(2) 設置法の附則において、原子力安全規制の厳格化として、炉規法が一部改正され(設置法附則15~18条)、炉規法の目的が見直され、重大事故(発電用原子炉の炉心の著しい損傷その他の原子力規制委員会規則で定める重大な事故。同法43条の3の6第1項3号参照)への対処が新たに規制対象とされた。そして、原子力施設の規制基準に関し、工事計画認可、使用前検査等に係る技術基準に適合していない場合等に加え、原子力施設の位置、構造及び設備に係る設置許可基準に適合していない場合にも、原子力規制委員会から発電用原子炉の設置許可を受けた者に対して、使用の停止、改造、修理、移転等を命ずること(バックフィット命令)ができると規定された(同法43条の3の23第1項)。6 平成28年各処分に至る経緯(1) 本件設置変更許可処分に至る経緯ア 参加人は、平成27年3月17日付けで、原子力規制委員会に対し、炉規法43条の3の8第1項の規定に基づき、本件各原子炉に係る同法43条の3の5第2項5、8~10号に掲げる事項の変更について許可の申請をした(本件設置変更許可申請。なお、平成28年1月22日付け、同年2月10日付け及び同年4月12日付けで申請内容の一部を補正した。)。イ 原子力規制委員会は、本件設置変更許可申請について、炉規法43条の3の8第2項の規定が準用する同法43条の3の6第1項1号に規定する発電用原子炉が平和の目的以外に利用されるおそれがないか否か、同項2号に規定する申請者に発電用原子炉を設置するために必要な技術的能力及び経理的基礎があるか否か、同項3号に規定する申請者に重大な事故の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があるか否か、同項4号に規定する基準である設置許可基準規則に適合するものであるか否かを審査し、同審査の結果、同項1~4号のいずれにも適合していると認め、平成28年4月20日付けで、参加人に対し、本件設置変更許可処分をした。(以上につき、乙C1、5の1及び2、乙C6の1及び2)(2) 本件工事計画認可処分に至る経緯ア 参加人は、平成27年7月3日付けで、原子力規制委員会に対し、炉規法43条の3の9第1項の規定に基づき、本件各原子炉施設に係る変更工事の計画について認可の申請をした(本件工事計画認可申請。なお、同年11月16日付け、平成28年1月22日付け、同年2月29日付け、同年4月27日付け及び同年5月27日付けで申請内容の一部を補正した。)。イ 原子力規制委員会は、本件工事計画認可申請について、炉規法43条の3の9第3項1号に規定する同法43条の3の8第1項の許可を受けたところによるものであるか否か、同法43条の3の9第3項2号に規定する基準である技術基準規則に適合するものであるか否か、同項3号に規定する基準である品質管理基準規則に適合するものであるか否かを審査し、同審査の結果、同項1~3号のいずれにも適合していると認め、平成28年6月10日付けで、参加人に対し、本件工事計画認可処分をした。(以上につき、乙C2の1及び2、乙C8の1及び2)(3) 本件保安規定変更認可処分に至る経緯ア 参加人は、平成27年4月30日付けで、原子力規制委員会に対し、炉規法43条の3の24第1項の規定に基づき、本件各原子炉施設に係る保安規定の変更の認可の申請をした(本件保安規定変更認可申請。なお、同年7月3日付け、同年11月16日付け、平成28年2月29日付け、同年4月27日付け及び同年6月13日付けで申請内容の一部を補正した。)。イ 原子力規制委員会は、本件保安規定変更認可申請に係る保安規定について、炉規法43条の3の24第2項に規定する核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上十分でないと認めるときに該当しないか否かを審査し、同審査の結果、これに該当しないと認め、平成28年6月20日付けで、参加人に対し、本件保安規定変更認可処分をした。(以上につき、乙C4、10の1及び2)(4) 本件運転期間延長認可処分に至る経緯ア 参加人は、平成27年4月30日付けで、原子力規制委員会に対し、炉規法43条の3の32第4項の規定に基づき、本件各原子炉を運転することができる期間の延長(高浜発電所1号炉につき18年129日(2034年11月13日まで)、高浜発電所2号炉につき19年129日(2035年11月13日まで))について認可の申請をした(本件運転期間延長認可申請。なお、平成27年7月3日付け、同年11月16日付け、平成28年2月29日付け、同年4月27日付け及び同年6月13日付けで申請内容の一部を補正した。)。イ 原子力規制委員会は、本件運転期間延長認可申請に係る本件各原子炉について、炉規法43条の3の32第5項に規定する基準である実用炉規則114条に適合するものであるか否かを審査し、同審査の結果、同条に適合していると認め、平成28年6月20日付けで、参加人に対し、本件運転期間延長認可処分をした。(以上につき、乙C3の1及び2、乙C9の1及び2)7 令和3年保安規定変更認可処分に至る経緯(1) 原子力規制委員会は、平成29年11月29日付けで火山ガイドの改正(これにより改正されたものが平成29年火山ガイド)、同年12月14日付けで実用炉規則の改正等をし、実用炉規則84条の2の新設及び同規則92条1項の改正等により、火山現象による影響が発生し又は発生するおそれがある場合(火山影響等発生時)における発電用原子炉施設の保全のための活動を行う体制の整備に関し、保安規定に定めることとした。同改正によって保安規定の変更認可手続が必要となり、平成30年12月31日までの経過措置期間が設けられた。(2) 原子力規制委員会は、令和2年1月23日、「原子力利用における安全対策の強化のための核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う実用発電用原子炉に係る原子力規制委員会関係規則の整備等に関する規則」(令和2年原子力規制委員会規則第3号。改正規則)により、実用炉規則を改正し、同規則84条の2の「火山影響等発生時における発電用原子炉施設の保全のための活動を行う体制の整備」の規定は改正規則により削除され、改正規則による改正後の実用炉規則83条の「設計想定事象、重大事故等又は大規模損壊に係る発電用原子炉施設の保全に関する措置」として、火山現象による影響につき、(1)「火山現象による影響が発生し、又は発生するおそれがある場合(火山影響等発生時)における非常用交流動力電源設備の機能を維持するための対策に関すること。」、(2)「火山影響等発生時における代替電源設備その他の炉心を冷却するために必要な設備の機能を維持するための対策に関すること。」、(3)「火山影響等発生時に交流動力電源が喪失した場合における炉心の著しい損傷を防止するための対策に関すること。」を含む「発電用原子炉施設の必要な機能を維持するための活動に関する計画を定めるとともに、当該計画の実行に必要な要員を配置し、当該計画に従って必要な活動を行わせること。」が規定され(同条1号ロ)、保安規定の記載内容を定める実用炉規則92条について、同条1項21号の2の「火山影響等発生時における発電用原子炉施設の保全のための活動を行う体制の整備に関すること。」の規定は改正規則により削除され、改正規則による改正後の実用炉規則92条1項16号において「設計想定事象、重大事故等又は大規模損壊に係る発電用原子炉施設の保全に関する措置に関すること」が規定された。なお、気中降下火砕物濃度に関する考え方は、同改正後も維持されている。(3) 参加人は、上記(1)の改正を受けて、実用炉規則84条の2の「火山影響等発生時における発電用原子炉施設の保全のための活動(上記(2)の令和2年の実用炉規則の改正により、同規則83条1号ロ「火山現象による影響」に改正)に対する保全に関する措置を新たに追加するとともに、当該保全に関する措置に関連する保安規定の定めについて変更を行い、令和元年7月31日付けで、原子力規制委員会に対し、保安規定変更認可申請(令和3年保安規定変更認可申請)を行った。原子力規制委員会は、令和3年2月15日付けで、参加人に対し、令和3年保安規定変更認可処分を行った。(乙C52)8 令和3年設置変更許可処分に至る経緯(1) 原子力規制委員会は、平成31年4月17日、大山火山の大山生竹テフラ(DNP)の噴出規模を11㎦程度とする見直しを行い、それに伴って本件各原子炉施設等の敷地における降下火砕物の最大層厚の設定も見直すべきとし、令和元年6月19日付けで、参加人に対し、炉規法43条の3の23第1項に基づき、本件各原子炉施設等について、DNPの噴出規模が11㎦程度と見込まれること等の事実を前提として炉規法43条の3の6第1項4号の基準に適合するよう、本件各原子炉施設等の基本設計等を変更し、同年12月27日までに同法43条の3の8第1項の許可(設置変更許可)に係る申請をすることを命ずる本件バックフィット命令を出した。(乙104・3頁)(2) 参加人は、本件バックフィット命令を受け、本件各原子炉施設について、火山影響評価に係る基本設計等を見直した上で、令和元年9月26日付けで、令和3年設置変更許可申請を行った(なお、令和3年1月26日付け及び同年2月26日付けで申請内容の一部を補正した。)。原子力規制委員会は、令和3年5月19日付けで、参加人に対し、本件各原子炉について、令和3年設置変更許可処分を行った。(乙C77、103、104・3、4頁)9 本件各訴えの提起等(1) 49号事件原告らは、平成28年4月14日、本件各原子炉施設に係る運転期間延長認可、設置変更許可、工事計画認可及び保安規定変更認可の各処分の差止めを求める訴えを提起し、その後、平成28年各処分がされたことから、同年8月5日、上記第1請求1(1)~(4)のとおり平成28年各処分の取消しを求める旨の訴えの交換的変更をした。また、134号事件原告らは、同年10月5日、平成28年各処分の取消しを求める訴えを提起し、157号事件原告らは、同年12月9日、本件運転期間延長認可処分、本件工事計画認可処分及び本件保安規定変更認可処分の各取消しを求める訴えを提起したことから、当裁判所は、同年10月13日に134号事件の弁論を、平成29年1月13日に157号事件の弁論を、それぞれ49号事件の弁論に併合した。(2) 48号事件原告らは、令和4年5月17日、令和3年設置変更許可処分の取消しを求める訴えを提起し、当裁判所は、同年6月2日、同事件の弁論を49号事件の弁論に併合した。(3) 50号事件原告らは、令和4年5月17日、令和3年保安規定変更認可処分の無効確認を求める訴えを提起し、当裁判所は、同年6月2日、同事件の弁論を49号事件の弁論に併合した。第4 争点1 原告適格(争点1)2 判断枠組み(争点2)3 地震に関する争点(争点3)(1) 地震規模を示す経験式のばらつきの考慮のなさ(本件設置変更許可処分関係)(争点3-(1))(2) レシピの(ア)法のみならず(イ)法を用いるべきこと(本件設置変更許可処分関係)(争点3-(2))(3) アスペリティ応力降下量(短周期の地震動レベル)の設定(本件設置変更許可処分関係)(争点3-(3))(4) 繰り返しの揺れの想定が欠如していること(争点3-(4))ア 繰り返しの揺れの想定が欠如した具体的審査基準の不合理性(平成28年各処分関係)(争点3-(4)-ア)イ 蒸気発生器伝熱管の耐震性(本件工事計画認可処分関係)(争点3-(4)―イ)ウ 1次冷却設備配管の耐震性(本件工事計画認可処分関係)(争点3-(4)―ウ)エ 格納容器伸縮式配管貫通部の耐震性等(本件保安規定変更認可処分及び本件運転期間延長認可処分関係)(争点3-(4)-エ)(5) 1次冷却設備の減衰定数を3%としたこと(本件工事計画認可処分及び本件運転期間延長認可処分関係)(争点3-(5))4 火山に関する争点(争点4)(1) 層厚想定に関する基準の不合理性(本件設置変更許可処分及び令和3年設置変更許可処分関係)(争点4-(1))(2) 噴火規模に関する基準適合性判断の過誤、欠落(本件設置変更許可処分及び令和3年設置変更許可処分関係)(争点4-(2))(3) 層厚に関する基準適合性判断の過誤、欠落(本件設置変更許可処分及び令和3年設置変更許可処分関係)(争点4-(3))(4) 降下火砕物の荷重に対する健全性に関する基準適合性判断の過誤、欠落(本件設置変更許可処分及び令和3年設置変更許可処分関係)(争点4-(4))(5) 気中降下火砕物濃度を想定しないことの不合理性(本件設置変更許可処分及び令和3年設置変更許可処分関係)(争点4-(5))(6) 気中降下火砕物濃度の推定手法に関する基準の不合理性(令和3年保安規定変更認可処分関係)(争点4-(6))(7) 気中降下火砕物濃度の推定に関する基準適合性判断の過誤、欠落(令和3年保安規定変更認可処分関係)(争点4-(7))(8) 非常用DGの機能喪失(フィルタ交換の実効性)に関する基準適合性判断の過誤、欠落(令和3年保安規定変更認可処分関係)(争点4-(8))5 中性子照射脆化に関する争点(いずれも本件運転期間延長認可処分関係)(争点5)(1) 破壊靭性遷移曲線に関する争点(争点5-(1))ア 破壊靭性遷移曲線の導出に係る基準の不合理性(争点5-(1)―ア)(ア) JEAC4201-2007 シリーズの不合理性(イ) JEAC4206-2007 の不合理性イ 破壊靭性遷移曲線の導出に係る適合性審査の過誤、欠落(争点5-(1)-イ)(ア) 高浜発電所1号機の高経年化技術評価書(40年目)が高経年化技術評価書(30年目)と比較して60年目予測について大幅に余裕がなくなっていること(イ) 原データの確認をしていないこと(ウ) 破壊靭性値の試験結果数(エ) CT 試験片ではなく WOL 試験片を用いたこと(オ) 「照射脆化の将来予測を保守的に行うことができる方法による評価」を行っていないこと(2) PTS状態遷移曲線に関する争点(争点5-(2))ア PTS状態遷移曲線の導出に係る基準の不合理性(争点5-(2)―ア)(ア) 熱伝達率の評価式(JF式)の不合理性(イ) 核沸騰の想定をしていないこと(ウ) 冷却期間中における熱伝達率の変動を考慮していないこと(エ) プルームを考慮していないことイ PTS状態遷移曲線の導出に係る適合性審査の過誤、欠落(争点5-(2)―イ)(ア) 熱伝達率が適切に評価されていないこと(イ) クラッドの考慮(ウ) 熱伝達率の確認をしていないこと6 電気ケーブルに関する争点(争点6)(1) 電気ケーブルの火災防護対策(本件設置変更許可処分及び本件運転期間延長認可処分関係)(争点6-(1))(2) 電気ケーブルの老朽化に伴う絶縁低下(本件運転期間延長認可処分関係)(争点6-(2))7 使用済燃料に関する争点(争点7)(1) 使用済燃料及び使用済燃料貯蔵施設の危険性(本件設置変更許可処分関係)(争点7-(1))(2) 使用済燃料の貯蔵施設の審査に関する違法性(本件設置変更許可処分関係)(争点7-(2))(3) 最終処分問題に関する争点(本件設置変更許可処分及び本件運転期間延長認可処分関係)(争点7-(3))第5 争点に関する当事者の主張の要旨別紙7当事者の主張の要旨のとおり第6 当裁判所の判断(原告適格、出訴期間及び判断枠組み)1 争点1(原告適格)について(1) 認定事実ア チョルノービリ事故についてIAEAが作成したチョルノービリ事故に伴う放射性セシウムの土壌濃度マップ(事故発生後3年8か月後)によれば、昭和61年(1986年)4月26日のチョルノービリ事故によって放出された放射性物質による汚染が4万ベクレル/㎡以上となった地域は、最も遠くて約1800㎞にまで広がった。ソビエト社会主義共和国連邦が1991年末に消滅した後、ロシア、ウクライナ及びベラルーシ(ロシア等)は、それぞれ自国の法律を制定し、チョルノービリ事故による被ばく量が年間5mSv 以上(セシウム137が55万5000ベクレル/㎡以上)と考えられる地域を移住義務ゾーン、被ばく量が年間1mSv 以上(セシウム137が18万5000ベクレル以上/㎡以上)と考えられる地域を移住権利ゾーンとし、セシウム137が3万7000ベクレル/㎡以上の地域に社会経済的な特典を付与した。なお、ロシア等の国内法における安全基準値は、ICRP(国際放射線防護委員会。1928年に設立された国際X線・ラジウム防護委員会が1950年に改組されて設立された民間独立の国際学術組織)の1990年勧告を取り入れたものである。(以上につき、甲F34、37・2頁、甲F38、39、乙F8・125頁、弁論の全趣旨・被告第9準備書面19頁)イ 福島第一原発事故について(ア) 福島第一原発事故によって空気中に放射性物質を放出した1~4号機の電気出力は、1号機が46.0万 kW、2~4号機が各78.4万 kWである。この当時、原子炉内に存在した燃料集合体は、1号機が400本、2号機が548本、3号機が548本、4号機が0本であり、使用済燃料プール内に存在した燃料集合体は、1号機が392本、2号機が615本、3号機が566本、4号機が1535本、そのうち使用済燃料集合体は、1号機が292本、2号機が587本、3号機が514本、4号機が1331本であった。(甲F4・61、136、137頁)(イ) 原子力委員会のH1委員長が政府からの指示により作成した本件資料によれば、福島第一原発1号機の水素爆発により放射性物質が放出され、その後4号機の使用済燃料プールから放射性物質が放出され、続いて他の号機の使用済燃料プールからも放射性物質の放出がされた場合、セシウム137の土壌汚染の度合いは、148万ベクレル/㎡を超えて強制移転を求めるべき地域が110㎞以遠(1炉心分)又は170㎞以遠(2炉心分)に、55万5000ベクレル/㎡を超えて任意移転を認める地域が200㎞以遠(1炉心分)又は250㎞以遠(2炉心分)に生じる可能性があり、これらの範囲は時間の経過とともに小さくなるが、自然(環境)減衰にのみ任せておくならば数十年を要するとし、初期濃度が148万ベクレル/㎡の場合、線量率は当初約90mSv/年、1年後約40mSv/年となり、20mSv/年となるのは約5年経過時であり、初期濃度が55万5000ベクレル/㎡の場合、線量率は当初40mSv/年弱、1年後20mSv/年弱となるとする。(甲F10・8、12、15頁)(ウ) 平成23年4月22日、緊急時の防護措置についてのICRPの2007年勧告を踏まえ、年間実効線量が20mSv に達するおそれのある地域は、計画的避難区域として指定された。(甲F4・331、352、354頁、乙F2・1頁)(エ) UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の2013年報告書によれば、福島第一原発事故による放射性物質の総放出量の推定値について、ヨウ素131の推定値は約10~50京ベクレルの範囲にあり、セシウム137の推定値は総じて0.6~2京ベクレルの範囲にあるが、より限られた情報に基づく一部の推定値では4京ベクレルまでとするものもあったとする。(甲F82)ウ 自然界には宇宙からの放射線、地殻を構成している岩石等に含まれる放射性物質から放出される放射線、人間が摂取する飲食物等の中に含まれる放射性物質から放出される放射線等が存在し、これらの自然放射線からの放射線量は、日本では全国平均1人当たり年間2.1mSv、世界では年間2.4mSv、地域によっては年間約10mSv である。また、人間はレントゲンやCTスキャン等の人工放射線による被ばくをしており、全身CTスキャンによる被ばく量は1回6.9mSv である。(乙F1、弁論の全趣旨・被告第9準備書面14頁)エ 放射線被ばくによる有害な健康への影響は、確定的影響と確率的影響に分類されている。確定的影響とは、組織の機能を損なうのに十分な細胞喪失を引き起こす放射線による細胞致死の結果から生じる健康影響である(乙F1・66頁、乙F2・7頁、乙F4・9頁)。ICRPの2007年勧告は、臓器ごとのしきい値として1%発生率を示しており、そのうち最も低いものは100mSv である(乙F2・127頁)。確率的影響とは、放射線被ばくによって引き起こされた細胞の修飾の結果として起こるかもしれない健康影響である(乙F4・9頁)。平成23年12月22日付け「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書」によれば、放射線による発がんのリスクは、100mSv 以下の被ばく線量では、他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため、放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しいとされる(乙F6・4頁)が、2007年勧告は、明確に実証する生物学的・疫学的知見がすぐに得られそうにないとしつつ、実用的な放射線防護体系を勧告する目的から、約100mSv を下回る線量においては、ある一定の線量の増加はそれに正比例して放射線起因の発がん又は遺伝性影響の確率の増加を生じるであろうという仮説(LNTモデル)に引き続き根拠を置くとして、ICRPの1977年勧告以降、これを採用している(甲F66・10、11頁、乙F2・17頁、乙F5・6頁)。1990年勧告は、全ての平常状態における公衆被ばくにおける線量限度として、非常に変動しやすいラドンによる被ばくを除いた自然放射線源からの年間実効線量(実効線量とは、身体の全ての組織・臓器の荷重された等価線量の和であり、等価線量は、組織・臓器にわたって平均し、線質について荷重した吸収線量)が約1mSv であることから、年実効線量限度として1mSv を勧告し(乙F5・6、9、55頁)、放射線審議会(「放射線障害防止の技術的基準に関する法律」に基づき、放射線障害防止の技術的基準の斉一を図ることを目的とし、現在、原子力規制委員会に置かれる機関)は、平成10年6月、1990年勧告の国内制度等への取入れの意見具申において公衆被ばくに関する限度として実効線量年1mSv とすることが適当であるとした(乙F9・9、12頁)。上記の意見具申を受け、線量告示は、周辺監視区域の外側の線量限度を1mSv/年と定め、実用炉規則2条2項6号の「周辺監視区域」の外側の線量限度は、線量告示2条1項1号により年間1mSv とし、放射線障害防止法も、公衆の被ばく限度を実効線量年間1mSv としている。他方、2007年勧告は、緊急時被ばく状況(計画的状況における操業中又は悪意ある行動により発生するかもしれない至急の注意を要する予期せぬ状況)において計画される最大残存線量の参考レベル(これを上回る被ばくの発生を許す計画の策定は不適切であると判断されるもの)は、年間実効線量20mSv から100mSv の範囲と提示している。なお、2007年勧告は、1990年勧告と異なり、放射線審議会による国内制度等への取入れの意見具申はされていない。(乙F2・総括ⅹⅶ、57、69頁)オ 元京都大学原子炉実験所助手のH2は、平成7年6月、原子力発電所事故が起きた場合のシミュレーション(H2シミュレーション)を公表した。H2シミュレーションは、米国の原子力規制委員会が、マサチューセッツ工科大学のH3に依頼して行った原子力発電所事故で放出される放射性物質のシミュレーションの報告として公表された計算手法に基づくものであり、電気出力100万 kW のPWRの炉心冷却系が故障して炉心溶融を引き起こし、更に格納容器スプレイと熱除去系も故障するため、格納容器内の圧力上昇を抑えることができず、格納容器の耐圧限度を突破して破裂し、格納容器内に充満していた大量の放射能が環境に噴き出すという事故が起きたとき、ヨウ素131が218京ベクレル、セシウム137が10.7京ベクレル、それぞれ環境中に放出されるとする。H2は、H2シミュレーションにおける算出方法について、科学的に考える根拠に基づいて、パソコンでは時間が掛かりすぎて実用的ではないので、簡便な方法として独自に計算した適当な変数係数を使用し、独自に工夫した近似関数を用いた旨を述べている。(以上につき、甲F28・175、176、186、187、189、190頁、甲F80)(2) 原告適格の有無の判断枠組み行政事件訴訟法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして、処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し、この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項、最高裁平成16年(行ヒ)第114号同17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁参照)。以上の理は、無効確認訴訟の原告適格を有する「法律上の利益を有する者」(同法36条)についても同様に考えられる。本件各訴えは、原告らが原子力規制委員会(処分行政庁)がした本件各原子炉施設の設置変更許可処分、工事計画認可処分、保安規定変更認可処分及び運転期間延長認可処分の取消し又は無効確認を求める訴えであり、上記の見地に立って、原告らが本件各訴えの原告適格を有するか否かについて検討する。(3) 炉規法その他関係法令の趣旨及び目的並びに考慮されるべき利益の内容及び性質ア 炉規法は、原子力基本法の精神にのっとり、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の利用が平和の目的に限られることを確保するとともに、原子力施設において重大な事故が生じた場合に放射性物質が異常な水準で当該原子力施設を設置する工場又は事業所の外へ放出されることその他の核原料物質、核燃料物質及び原子炉による災害を防止し、及び核燃料物質を防護して、公共の安全を図るために、製錬、加工、貯蔵、再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関し、大規模な自然災害及びテロリズムその他の犯罪行為の発生も想定した必要な規制を行うほか、原子力の研究、開発及び利用に関する条約その他の国際約束を実施するために、国際規制物資の使用等に関する必要な規制を行い、もって国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする(同法1条)。そして、同法は、原子力規制委員会は、①同法43条の3の6第1項各号に適合していると認めるときでなければ発電用原子炉の設置許可をしてはならないとし(同項)、同許可を受けたものが同法43条の3の5第2項2号から5号まで又は8号から10号(平成29年法律第15号による改正後は11号)までに掲げる事項を変更しようとするときも同様とし(同法43条の3の8第2項)、②発電用原子炉施設の設置又は変更の工事をしようとする発電用原子炉設置者は、当該工事に着手する前に、その設計及び工事の方法その他の工事の計画の認可を受けなければならない(同法43条の3の9)とし、③発電用原子炉設置者は、発電用原子炉施設の保全、運転等について、保安のための必要な措置(重大事故が生じた場合における措置に関する事項を含む。)を講じなければならない(同法43条の3の22)とし、保安規定を定め、発電用原子炉の運転開始前に、原子力規制委員会の認可を受けなければならない(同法43条の3の24)とし、④発電用原子炉の運転期間は、原子力規制委員会の認可を受けて、1回に限り延長することができる(同法43条の3の32)としている。炉規法は、原子炉等の利用による災害の防止及び公共の安全を図るために当該原子炉の設置及び運転等に関して必要な規制を行い、もって国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全等に資することを目的としており、そのために、原子力規制委員会において、発電用原子炉施設の設置(変更)、設計及び工事、保安、運転延長の各段階に応じて、それぞれ同法所定の審査を行うこととしているところ、これらは、発電用原子炉施設の安全性が確保されないときは、当該発電用原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命、身体に重大な危害を及ぼし、当該発電用原子炉施設の周辺に存する土地等の財産に回復困難な重大な損害をもたらすほか、周辺の環境を放射性物質により汚染するなどの深刻な災害を引き起こすおそれがあることに鑑み、このような災害が万が一にも起こらないようにするため、原子力利用における安全の確保に関して専門的知識及び経験並びに高い識見を有する委員から成る原子力規制委員会において、科学的、専門技術的見地から、上記の各段階に応じた審査を行い、もって当該発電用原子炉施設の安全性を確保しようとしているものと解される。イ また、炉規法に関係する法令として、設置法、原子力基本法、環境基本法、原子力災害対策特別措置法及び災害対策基本法があるところ、①設置法は、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とし(同法1条)、②原子力基本法も、その基本方針として、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的としており(同法2条2項)、③環境基本法は、現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献することを目的とし(同法1条)、人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染等によって、人の健康又は生活環境(人の生活に密接な関係のある財産並びに人の生活に密接な関係のある動植物及びその生育環境を含む。)に係る被害が生ずることを公害とし(同法2条3項)、事業者は公害を防止するなどの責務を有する(同法8条1項)とする。また、④原子力災害対策特別措置法は、原子力災害から国民の生命、身体及び財産を保護することを目的とし(同法1条)、原子力緊急事態により国民の生命、身体又は財産に生ずる被害を原子力災害とし(同法2条1号)、原子力緊急事態が発生したときには原子力緊急事態宣言が発出され(同法15条2項)、内閣総理大臣が一定の区域の市町村長及び都道府県知事に対し、一定の地域の居住者、滞在者その他の者に対し、避難のための立退き又は屋内への退避の指示を行うべきことその他の緊急事態応急対策に関する事項を指示するものとし(同条3項)、⑤災害対策基本法は、その目的において国民の生命、身体及び財産を災害から保護することを定め(同法1条)、国、都道府県及び市町村は、国民又は住民の生命、身体及び財産を災害から保護するため、それぞれ責務を有するとしている(同法3条1項、4条1項、5条1項)。このような炉規法の関係法令の趣旨及び目的に照らすと、これらの関係法令は、発電用原子炉施設の利用に当たって、国民又は住民の生命、身体の安全、財産等に対する保護を要求しているものと解される。ウ 以上のとおり、上記アの炉規法の規定に加えて、上記イの関係法令の規定の趣旨及び目的をも参酌し、これらの規定が原子力規制の制度を通して保護しようとしている利益の内容及び性質等を考慮すれば、発電用原子炉施設に関する炉規法の規定は、単に公衆の生命、身体の安全、健康、財産、環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、発電用原子炉施設から一定の範囲内に居住し、事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全、財産等を、それが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解される。エ したがって、発電用原子炉施設から一定の範囲内に居住し、上記の被害を受けることが想定される範囲の住民は、本件各処分の取消し又は無効確認を求める訴えについて原告適格を有するというべきである。そして、当該住民の居住する地域が、上記のような発電用原子炉の事故等による災害により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域であるか否かについては、当該発電用原子炉の種類、構造、規模等の当該発電用原子炉に関する具体的な諸条件を考慮に入れた上で、当該住民の居住する地域と発電用原子炉の位置との距離関係を中心として、社会通念に照らし、合理的に判断すべきものである(もんじゅ最高裁平成4年判決参照)。(4) 原告らの原告適格の有無ア まず、ICRPが策定した2007年勧告は、放射線被ばくによる有害な健康への影響を確定的影響と確率的影響に分類し、確定的影響についての臓器ごとのしきい値として最も低いものを100mSv とし、確率的影響については明確に実証する生物学的・疫学的知見がすぐに得られそうにないとしつつ、ある一定の線量の増加はそれに正比例して放射線起因の発がん又は遺伝性影響の確率の増加を生じるであろうという仮説(LNTモデル)を引き続き採用し、全ての平常状態における公衆被ばくにおける線量限度として、非常に変動しやすいラドンによる被ばくを除いた自然放射線源からの年間実効線量が約1mSv であることから、年実効線量限度として1mSv を勧告する一方、緊急時被ばく状況(計画的状況における操業中又は悪意ある行動により発生するかもしれない至急の注意を要する予期せぬ状況)において計画される最大残存線量の参考レベル(これを上回る被ばくの発生を許す計画の策定は不適切であると判断されるもの)として、年間実効線量20mSv から100mSv の範囲と提示している。このように、2007年勧告は、1990年勧告が公衆被ばくの実効線量について年間1mSv を限度とする勧告をしたのと同様、平常状態における公衆被ばくにおける年実効線量限度として1mSv を勧告しており、また、実用炉規則2条2項6号の「周辺監視区域」の外側の線量限度も線量告示による年間1mSv とし、放射線障害防止法(放射性同位元素等の規制に関する法律施行規則及び数量等告示を含む。)も公衆被ばく限度を実効線量年間1mSv としているところ、線量告示や放射線障害防止法の上記定めは、1990年勧告を取り入れるべきであるとする放射線審議会の平成10年の意見具申を反映したものであり、ロシア等の国内法における安全基準値も1990年勧告を取り入れたことによるものである。もっとも、人類は自然界からの放射線を被ばくしており、我が国の全国平均で1人当たり年間2.1mSv とされ、世界の平均は年間2.4mSv とされているものであり、公衆被ばくにおける年実効線量限度である1mSv は、平常状態においてこの線量限度を超える被ばくから公衆を保護する措置として用いられるものであって、この数値をもって発電用原子炉施設の事故等がもたらす放射線被ばくにより生命、身体の安全、財産等に対する直接的かつ重大な被害を受けることが想定される住民の範囲を画するものと位置付けるのは相当とはいい難い。そして、2007年勧告は、1990年勧告と異なり、放射線審議会による国内制度等への取入れの意見具申がされたものではなく、また、実用的な放射線防護体系を勧告する目的から、約100mSv を下回る線量においては、ある一定の線量の増加はそれに正比例して放射線起因の発がん又は遺伝性影響の確率の増加を生じるであろうという仮定(LNTモデル)を前提としており、科学的な不確かさを補う観点から公衆衛生上の安全サイドに立った判断ではあるものの、発電用原子炉施設の事故により放射線被ばくが起きた場合における被ばく状況としては、至急の注意を要する予期せぬ状況である緊急時被ばく状況において計画される最大残存線量の参考レベルとして提示された年間実効線量20mSv から100mSv の範囲の数値を参照するのが合理的であるということができる。現実にも、福島第一原発事故後においては、緊急時の防護措置についての2007年勧告を踏まえて、年間実効線量が20mSv に達するおそれのある地域が計画的避難区域として指定され、住民の避難が行われたものである。以上からすれば、原子炉施設の事故により放射線被ばくが起きたときに年間実効線量が20mSv に達するおそれのある地域に居住する住民は、事故時に年間実効線量20mSv 以上の被ばくをし、一定の確率的影響を受けるおそれがあるとともに、住居からの避難を指示され、生命、身体及び財産に対する直接的かつ重大な被害を受けるものと想定されるというべきである。イ そこで、年間実効線量20mSv 以上の被ばくを受けるおそれのある範囲につき検討すると、原子力委員会のH1委員長が政府からの指示により作成した平成23年3月25日付け「福島第一発電所の不測事態シナリオの素描」(本件資料)によれば、福島第一原発事故において、1号機の水素爆発の後に4号機の使用済燃料プールから放射性物質が放出され、続いて他の号機の使用済燃料プールからも放射性物質の放出がされた場合、セシウム137の土壌汚染の度合いは、148万ベクレル/㎡を超えて強制移転を求めるべき地域が110㎞以遠(1炉心分)又は170㎞以遠(2炉心分)に、55万5000ベクレル/㎡を超えて任意移転を認める地域が200㎞以遠(1炉心分)又は250㎞以遠(2炉心分)に生じる可能性があり、初期濃度が148万ベクレル/㎡の場合、線量率は当初約90mSv/年、1年後約40mSv/年となり、20mSv/年となるのは約5年経過時であり、初期濃度が55万5000ベクレル/㎡の場合、線量率は当初40mSv/年弱、1年後20mSv/年弱となると想定されている。本件各原子炉施設について、これらが福島第一原発(1号機が46万 kW、2~4号機が各78.4kW)と比べて、その電気出力(本件各原子炉が各82.6万 kW)や使用済燃料(令和3年度末時点で2939体(弁論の全趣旨・原告ら準備書面(89)4頁))等の点において、原子炉施設の事故時における放射性物質の放出量が特段低いというべき事情をうかがわせる証拠は提出されておらず、本件各原子炉施設の安全性が損なわれる重大な事故等が生じた場合には、その放射性物質の放出量を別異に解すべきものとはいい難い。そうすると、本件各原子炉施設において事故が起き、本件資料のような事態となった場合、セシウム137の土壌汚染の度合いが148万ベクレル/㎡となり強制移転を求めるべき地域が2炉心分の170㎞以遠となる可能性があることを否定し得ないから、本件各原子炉から170㎞以内に住む原告らは、年間実効線量20mSv 以上の被ばくをするおそれがあり、住居からの避難を求められるおそれがあると認められるというべきである。したがって、本件各原子炉から170㎞以内に住む原告らは、いずれも本件各訴えの原告適格を有するというべきであり、これより遠方に住む原告ら(別紙1原告目録の番号21、22、27、36、37、47、54、72、74、76、98、99及び110。本件各原子炉と原告らの居住地との距離は、別紙1原告目録の「距離(㎞)」欄記載のとおりである(弁論の全趣旨・原告ら準備書面(72)、(126))。)は、原告適格を有しないというべきである。ウ これに対し、原告らは、H2シミュレーションに基づいて、全ての原告について原告適格が認められる旨を主張するが、H2シミュレーションは、電気出力100万 kW のPWRが事故を起こした際、原子炉1基からヨウ素131が218京ベクレル、セシウム137が10.7京ベクレル、それぞれ環境中に放出されるとし、この計算手法による高浜発電所1号機(電気出力82.6万 kW)が過酷事故を起こした場合の推定は、185㎞の地点は年間250mSv、516㎞の地点は年間50mSv となり、年間20mSvとなるのは800~1000㎞に及ぶというものである(甲F45)が、これはUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)が行った福島第一原発事故による1~3号機(電気出力合計202.8万 kW)の放射性物質の放出量の推定値(ヨウ素131が約10~50京ベクレル、セシウム137が0.6~2京ベクレル、より限られた情報に基づく一部の推定値でも4京ベクレル)と比べて、電気出力が約2分の1であるにもかかわらず、ヨウ素131が約4~20倍、セシウム137が約3~27倍多く計算されている上に、算出方法も、簡便な方法としてH2が独自に計算した適当な変数係数を使用し、独自に工夫した近似関数を用いたものであり、放射性物質の放出量の推定値として原告適格の判断において用いるにはその信用性に疑義があり、これを原告らが被ばくを受けるおそれの数値として用いることはできない。2 出訴期間について(1) 48号事件は、令和4年5月17日に提訴されたところ、取消しを求める令和3年設置変更許可処分は令和3年5月19日にされたものである。48号事件原告らは、令和4年4月頃に令和3年設置変更許可処分がされたことを知った旨主張し、被告らはこれを不知とするところ、令和3年設置変更許可処分は参加人を名宛人とするものであり、48号事件原告らに通知されるものではなく、同原告らが令和4年4月頃よりも早く同処分がされたことを知っていたと認めるに足りる証拠もないから、同原告らが同処分がされたことを知ったのは令和4年4月頃と認めるのが相当である。(2) よって、48号事件は、処分があったことを知った日から6か月以内かつ処分の日から1年以内に提訴されており、出訴期間内に提訴された適法な訴えと認められる。3 争点2(判断枠組み)について(1) 発電用原子炉の設置、運転等に関する規制の権限を原子力規制委員会に付与した趣旨上記第2の2(2)のとおり、炉規法は、原子力規制委員会において、発電用原子炉設置(変更)許可、工事計画認可、保安規定(変更)認可及び運転期間延長認可の各処分について、炉規法が定める基準に適合するか否かを審査し、これに適合していると認めるときに各処分をすることとしている。その趣旨は、発電用原子炉が原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する核燃料物質を燃料として使用する装置で発電の用に供するものであり、その稼働により内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるものであって、発電用原子炉設置者が適切に発電用原子炉の設置、工事、運転、保安等をしなければ、当該発電用原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命、身体、当該発電用原子炉施設の敷地内又はその周辺に存する財産に重大な危害を及ぼし、周辺の環境を放射性物質により汚染するなどの深刻な災害を引き起こすおそれがあることにかんがみ、このような災害が万が一にも起こらないようにするため、発電用原子炉設置(変更)許可、工事計画認可、保安規定(変更)認可、運転期間延長認可等の各段階で、科学的、専門技術的見地から、十分な審査を行わせることにあるものと解される。上記の審査は、当該発電用原子炉施設そのものの工学的安全性、平常運転時における従業員、周辺住民及び周辺環境への放射線の影響、事故時における周辺地域への影響等を、当該発電用原子炉施設の設置場所の地形、地質、気象等の自然的条件、人口分布等の社会的条件及び当該発電用原子炉設置者の上記技術的能力との関連において、多角的、総合的見地から検討するものであり、しかも、上記審査の対象には、将来の予測に係る事項も含まれているのであって、上記審査においては、原子力工学はもとより、多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるものであることが明らかである。そして、上記第3の5のとおり、原子力規制委員会は、福島第一原発事故を契機として成立した設置法により新たに設置された被告の行政機関であり、原子力利用における安全の確保に関して高度の専門性を有する中立公正な独立した合議制の機関として、しかも、その任務にふさわしい組織性や権限を有するものとして設置されている。さらに、設置法の附則において炉規法が改正され、原子力規制委員会が原子力利用の安全の確保のための規制を一元的に行うものとされるなどし、その一環として、原子力規制委員会において、上記の発電用原子炉の設置変更許可、工事計画認可、保安規定(変更)認可及び運転期間延長認可の各処分に係る審査及び判断を行うこととされたことにかんがみると、炉規法が定める各処分の基準への適合性の判断については、原子力規制委員会の専門技術的裁量に委ねる趣旨と解するのが相当である。(2) 審理・判断の方法及び主張・立証の在り方について以上の点を考慮すると、炉規法が定める基準への適合性の判断の適否が争われる発電用原子炉設置(変更)許可処分、工事計画認可処分、保安規定(変更)認可処分及び運転期間延長認可処分の各取消訴訟又は無効確認訴訟における裁判所の審理及び判断は、原子力規制委員会の専門技術的な審査及び判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって、現在の科学技術水準に照らし、上記審査において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、又は、当該発電用原子炉施設が上記具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の審査及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があると認められる場合には、原子力規制委員会の上記審査及び判断に不合理な点があるものとして、上記審査及び判断に基づく処分は違法と解すべきである。そして、上記炉規法の定める各処分が上記のような性質を有することにかんがみると、原子力規制委員会がした上記審査及び判断に不合理な点があることの主張立証責任は、本来、原告らが負うべきものと解されるが、上記の基準への適合性の審査に関する資料を全て被告の行政機関である原子力規制委員会の側が保持していることなどの点を考慮すると、被告において、まず、その依拠した上記具体的審査基準並びに審査及び判断の過程等、原子力規制委員会の審査及び判断に不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要があり、被告がこの主張、立証を尽くさない場合には、原子力規制委員会がした上記審査及び判断に不合理な点があることが事実上推認されるものというべきである。なお、設置法の制定とこれによる炉規法等の改正に伴い、原子力安全委員会等が定めていた安全指針類の内容の一部に相当するものが、原子力規制委員会規則として制定されたところ、設置法26条により原子力規制委員会に規則の制定権が付与され、炉規法の委任という民主的正統性を有する法規命令として設置許可基準規則、技術基準規則、実用炉規則等が制定されているから、原子力規制委員会規則については、それが炉規法の委任の範囲を逸脱するなどし、違法無効でない限りは、行政主体と私人の関係の権利義務に関する一般的規律として外部的効果を有するものであり、その不合理性は司法審査の対象にはならないというべきである。また、新規制基準のうち原子力規制委員会規則以外のものについては、審査における用いられ方を踏まえて、その不合理性を判断すべきである。(3) 本件各処分の審理対象について炉規法(平成28年各処分時のもの)は、その規制の対象を、製錬事業(第2章)、加工事業(第3章)、原子炉の設置、運転等(第4章)、貯蔵事業(第4章の2)、再処理事業(第5章)、廃棄事業(第5章の2)、核燃料物質等の使用等(第5章の3)、国際規制物資の使用等(第6章の2)等に分け、それぞれにつき原子力規制委員会の指定、許可、認可等を受けるべきものとしているのであるから、第4章所定の原子炉の設置、運転等に対する規制は、専ら原子炉設置の許可等の同章所定の事項をその対象とするものであって、他の各章において規制することとされている事項までをその対象とするものでないことは明らかである。また、炉規法第4章の原子炉の設置、運転等に関する規制の内容をみると、発電用原子炉の設置の許可、変更の許可(同法43条の3の5、同条の3の8)のほかに、工事の計画の認可(同法43条の3の9)、使用前検査(同法43条の3の11)、保安規定の認可(同法43条の3の24)、定期事業者検査(同法43条の3の16)、運転期間の延長の認可(同法43条の3の32)、原子炉の廃炉措置の認可(同法43条の3の34)等の各規制が定められており、これらの規制が段階的に行われることとされている。したがって、原子炉の設置の許可の段階においては、専ら当該原子炉の基本設計のみが規制の対象となるのであって、後続の工事の計画の認可(同法43条の3の9)の段階で規制の対象とされる当該原子炉の具体的な詳細設計及び工事の方法は規制の対象とはならず、設置(変更)許可処分の取消訴訟において審理、判断の対象となる事項は、基本設計に関わる事項に限られ、工事計画認可処分の段階においては、当該発電用原子炉施設の具体的な設計や工事方法といった詳細設計の妥当性を審査するものであって、工事計画認可処分の取消訴訟において審理、判断の対象となる事項は、詳細設計に関わる事項に限られるというべきである。また、保安規定(変更)認可処分の審査においては、炉規法43条の3の24第1項が委任する実用炉規則92条1項各号に掲げる事項について定めた保安規定を確認することで、保安規定(変更)認可申請が炉規法43条の3の24条2項に規定する「核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上十分でないと認めるとき」に該当するかどうかを審査するものであるから、保安規定(変更)認可処分に係る取消訴訟において審理、判断の対象となるのは、上記申請に係る保安規定の妥当性に関わる事項に限られ、このうち、実用炉規則(令和2年原子力規制委員会規則第3号による改正前のもの)82条2項、92条1項25号の高経年化対策に係る保安規定変更認可処分の審査においては、高経年化技術評価の技術的妥当性や同評価の結果を踏まえて長期保守管理方針が策定されているかを確認することで、保安規定変更認可申請が炉規法43条の3の24条2項の要件に該当するかどうかを審査するものであるから、高経年化技術評価に係る本件保安規定変更認可処分の取消訴訟において審理、判断の対象となるのは、高経年化技術評価及び長期保守管理方針の妥当性に関わる事項に限られるというべきである。そして、運転期間延長認可処分の審査においては、申請に至るまでの間の運転に伴い生じた発電用原子炉その他の設備の劣化の状況の把握のための点検(特別点検)が適切に実施され、それを踏まえ、延長しようとする期間における運転に伴い生ずる発電用原子炉その他の設備の劣化の状況に関する技術的な評価(劣化状況評価)及び運転しようとする期間における発電用原子炉その他の設備についての保守管理に関する方針(保守管理方針)の策定が適切に実施されていること等を確認することで、実用炉規則114条の規定する認可の基準への適合性を審査するものであるから、運転期間延長認可処分に係る取消訴訟において審理、判断の対象となるのは、特別点検の結果、劣化状況評価及び保守管理方針の妥当性に関わる事項に限られるというべきである。(以上につき、伊方最高裁判決参照)これは、平成29年法律第15号による炉規法改正により、同法43条の3の9の「工事の計画の認可」が「設計及び工事の計画の認可」へと改正され、同法43条の3の11の「使用前検査」が「使用前事業者検査等」へと改正されるなどした後であっても変わるものではない。(4) 無効確認の要件についてア 処分の無効原因については、処分要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大かつ明白な誤認があると認められる場合を指すものと解すべきである(最高裁昭和34年9月22日第三小法廷判決・民集13巻11号1426頁)とされ、また、裁量処分の無効原因についても、行政庁が行政処分をするにあたってした裁量権の行使がその範囲を超え又は濫用にわたり、したがって、右行政処分が違法であり、かつ、その違法が重大かつ明白であることを原告らにおいて主張・立証することを要するものと解するのが相当である(最高裁昭和42年4月7日第二小法廷判決・民集21巻3号572頁)とされている。処分の無効原因としての瑕疵の重大性とは、行為に内在する瑕疵が重要な法規違反であることをいい、処分の無効原因としての瑕疵の重大性とそれによってもたらされる結果の重大性とは区別されなければならず、処分の瑕疵によってもたらされる結果に着目してその重大性の有無を論ずるのは、相当ではない。無効事由に該当する瑕疵が認められるのは、取消訴訟の手続によることなくその主張を認めることが相当と認められる場合であるから、出訴期間を経過しても、その瑕疵を争わせるに足りるものであるような顕著な違法があることが必要というべきであり、処分に重大な瑕疵があることに加え、瑕疵の存在が明白に認められることを要するというべきである(最高裁昭和30年12月26日第三小法廷判決・民集9巻14号2070頁、同昭和31年7月18日大法廷判決・民集10巻7号890頁等)。そして、瑕疵が明白であるというのは、処分成立の当初から誤認であることが外形上、客観的に明白であることを指すものと解すべきであり、また、瑕疵が明白であるかどうかは、処分の外形上、客観的に誤認が一見看取し得るものであるかどうかにより決すべきである(最高裁昭和36年3月7日第三小法廷判決・民集15巻3号381頁)。また、客観的に明白ということは、特に権限ある国家機関の判断を待つまでもなく、何人の判断によっても、ほぼ同一の結論に到達し得る程度に明らかであることを指すものと解すべきである(最高裁昭和37年7月5日第一小法廷判決・民集16巻7号1437頁)。そして、炉規法43条の3の23は、発電用原子炉施設の位置、構造若しくは設備が同法43条の3の6第1項4号の基準に適合していないと認めるとき、発電用原子炉施設が同法43条の3の14の技術上の基準に適合していないと認めるとき、又は発電用原子炉施設の保全、発電用原子炉の運転若しくは核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物の運搬、貯蔵若しくは廃棄に関する措置が同法43条の3の22条1項の規定に基づく原子力規制委員会規則(実用炉規則)の規定に違反していると認めるときは、その発電用原子炉設置者に対し、当該発電用原子炉施設の使用の停止、改造、修理又は移転、発電用原子炉の運転の方法の指定その他保安のために必要な措置を命ずることができる旨を規定しており、重大な違法が認められるときは当該措置の義務付けを求めることもできるのであるから、明白性の要件を要求することにより、原子力発電所の設置、運転等に係る重大な違法があるにもかかわらず、これを是正することができずに不都合な結果をもたらすということはできない。イ 本件において無効確認の対象となる保安規定変更認可処分についてみても、これを受けた発電用原子炉設置者に対する授益処分であり、原子炉施設を運営管理するために必要な人員の配置や管理方針を策定した当該処分の名宛人自身はもとより、原子炉施設の運営に関わる多数の利害関係人の利害が関わっているから、第三者の不利益をおよそ考慮する必要がなく、出訴期間の経過にかかわらず、不利益を解消することが強く要請される事案とは異なる。ウ 以上からすれば、保安規定(変更)認可の無効確認訴訟においても、瑕疵の存在の明白性を不要とすべき例外的事情は認められず、原則どおり同要件が必要であると解すべきである。(5) 原告らの主張についてア 原告らは、科学の不確実性や原子力発電所の事故の特殊性に照らし、「疑わしきは安全のために」という基本方針を採用し、本件各処分に係る新規制基準の内容に、原告らの指摘するような不合理な点がないこと(基準合理性審査)並びに原子力規制委員会による新規制基準適合性の審査及び判断の過程において、原告らの指摘するような過誤、欠落の存在するおそれがないこと(基準適合性審査)の各点について、被告が相当の資料に基づいて立証を尽くさなければ、本件各処分を違法として取消し又は無効確認を認めるべきであると主張する。しかしながら、設置法は、専門技術的な知見を有し、行政機関から独立性を有する3条委員会として原子力規制委員会を設置し、炉規法は、これを前提として、原子力規制委員会が、設置変更許可、工事計画認可、保安規定(変更)認可、運転期間延長認可等の各処分において、各処分の要件を満たすと判断する場合に各処分をする旨を定めていることからすると、上記各処分に当たって原子力規制委員会に専門技術的裁量があることは明らかであり、上記各処分に対する司法審査においては、裁判所が原子力規制委員会に代わって判断代置型審査を行うことは予定されておらず、このような原子力規制委員会の専門技術的裁量に基づく判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであるから、これと異なる原告らの主張は採用できないイ 原告らは、新規制基準の下での再稼働にかかわる審査・検査に関しては、設置変更許可、工事計画認可及び保安規定認可に関連する申請を同時期に受け付け、ハード・ソフト両面から一体的に審査を実施することとし、また、運転期間延長にかかわる審査・検査においては、設置変更許可、工事計画認可及び保安規定認可に関連する申請を同時に受け付け、一体的な審査の実施が求められているなど、基本設計と詳細設計の区別は希薄化しており、本件は再稼働かつ運転期間延長に関わる平成28年各処分の取消しを求めるものであるから、詳細設計も設置変更許可処分の司法審査の対象となるべきと主張する。しかしながら、再稼働や運転期間延長にあたって設置変更許可、工事計画認可及び保安規定認可に関連する申請を同時に審査するとしても、それぞれの処分ごとに、それぞれの審査基準に照らした審査をするのであるから、設置変更許可処分において詳細設計が司法審査の対象となるものではなく、あくまで工事計画認可において司法審査の対象となるというべきである。ウ そのほか、原告らは、運転期間延長認可処分についてはより厳格に司法審査をすべきである、行政庁の判断に不合理な点がないことについて被告が主張立証責任を負うべきである、令和3年保安規定変更認可無効確認の訴えにおいて明白性の要件は不要であるなどと主張するが、上記に説示したとおり、いずれも当裁判所の判断と異なるものであり、採用することができない。第7 当裁判所の判断(地震に関する争点)1 認定事実(地震)(1) 地震に関する規制の概要ア 設置(変更)許可関係(ア) 炉規法43条の3の6第1項4号は、設置(変更)許可をするための要件として「発電用原子炉施設の位置、構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものであること」を規定し、同号の委任を受けた設置許可基準規則は、「設計基準対象施設は、地震力に十分に耐えることができるものでなければならない」(4条1項)、その「地震力は、地震の発生によって生ずるおそれがある設計基準対象施設の安全機能の喪失に起因する放射線による公衆への影響の程度に応じて算定しなければならない」(同条2項)、「耐震重要施設は、その供用中に当該耐震重要施設に大きな影響を及ぼすおそれがある地震による加速度によって作用する地震力(基準地震動による地震力)に対して安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならない」(同条3項)と規定する。(イ) 設置許可基準規則4条に関する設置許可基準規則解釈(乙B5・122~132頁)は、同条の解釈について、別記2のとおりとする旨を定めており、その概要は、別紙8設置許可基準規則解釈の別記2の概要のとおりである。また、原子力規制委員会は、設置許可基準規則及び設置許可基準規則解釈の趣旨を十分踏まえ、基準地震動及び基準津波の策定並びに地盤の安定性評価等に必要な調査及びその評価の妥当性を厳格に確認するために活用することを目的として地質ガイド(乙B19)を定め、さらに、設置許可基準規則及び設置許可基準規則解釈の趣旨を十分踏まえ、基準地震動の妥当性を厳格に確認するために活用することを目的として地震ガイド(乙B20)を定めている。地質ガイド及び地震ガイドは、規制基準に関連する内規(行政手続法上の審査基準に該当しないもの)に位置付けられるものであり、これら以外の手法等であっても、その妥当性が適切に示された場合には、その手法等を用いることは妨げないとされている(地質ガイド及び地震ガイドの各附則)。地質ガイドの概要は、別紙9地質ガイドの概要のとおりであり、地震ガイドの概要は、別紙10地震ガイドの概要のとおりである。(ウ) 地震ガイドは、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の「断層モデルを用いた手法による地震動評価」における震源断層のパラメータは、地震調査研究推進本部(推本)による「震源断層を特定した地震の強震動予測手法」(レシピ)等の最新の研究成果を考慮することとしており、レシピ(甲D153、乙D4、95)の概要は、別紙11レシピの概要のとおりである。イ 工事計画認可(平成29年法律第15号による改正後は、設計及び工事の計画の認可)関係(ア) 平成29年法律第15号による改正前の炉規法43条の3の9第1項は、「発電用原子炉施設の設置又は変更の工事(括弧内略)をしようとする発電用原子炉設置者は、原子力規制委員会規則で定めるところにより、当該工事に着手する前に、その工事の計画について原子力規制委員会の認可を受けなければならない」と規定し、同条3項は、発電用原子炉施設が同法43条の3の14の技術上の基準に適合するものであること(同法43条の3の9第3項2号)等を工事計画認可の要件としている。平成29年法律第15号による改正前の同法43条の3の14本文は、「発電用原子炉設置者は、発電用原子炉施設を原子力規制委員会規則で定める技術上の基準に適合するように維持しなければならない」と規定し、原子力規制委員会は、この委任を受けて技術基準規則を定め、その解釈として技術基準規則解釈(乙B9)を定めている。(イ) また、原子力規制委員会は、発電用軽水型原子炉施設の工事計画認可に係る耐震設計に関わる審査において、審査官等が設置許可基準規則及び設置許可基準規則解釈並びに技術基準規則及び技術基準規則解釈の趣旨を十分踏まえ、耐震設計の妥当性を厳格に確認するために活用することを目的として、耐震工認審査ガイド(乙B60)を定めており、耐震工認審査ガイドは、規制基準に関連する内規に位置づけられるものであり、耐震工認審査ガイドに記載されている手法等以外の手法等であっても、その妥当性が適切に示された場合には、その手法等を用いることは妨げないとされている(同ガイドの附則)。耐震工認審査ガイドの概要は、別紙12耐震工認審査ガイドの概要のとおりである。(ウ) さらに、耐震工認審査ガイドは、機器・配管系の減衰定数について、JEAG4601 の規定を参考に設定するものとしているところ、機器・配管系の工事計画認可に関する JEAG4601 の概要は、別紙13機器・配管系の工事計画認可に関する JEAG4601 の概要のとおりである。(乙B50・16、17頁、乙B60・1、25、39頁、乙B156・16~18頁)(エ) 技術基準規則5条は、設計基準対象施設は、これに作用する地震力による損壊により公衆に放射線障害を及ぼさないように施設しなければならない(1項)、 耐震重要施設は、基準地震動による地震力に対してその安全性が損なわれるおそれがないように施設しなければならない(2項)と規定し、技術基準規則解釈(乙B9・17頁)は、技術基準規則5条2項について、設置許可基準規則4条3項の規定に基づき設置許可で確認した設計方針に基づき、耐震重要施設が、同項の基準地震動による地震力に対し、施設の機能を維持していること又は構造強度を確保していることをいうと規定する。ウ 使用前検査関係(ア) 原子力規制委員会は、発電用原子炉設置者が実際に当該工事に係る発電用原子炉施設を使用する前に使用前検査を実施し、上記工事が既に認可を受けた工事の計画に従って行われたものであるか否か及び技術基準規則で定める技術上の基準に適合するものであるか否かを確認する(炉規法43条の3の11第2項)。(イ) 1次冷却設備等の耐震設計については、工事計画認可の段階で、詳細設計の妥当性を審査し、その上で、現実に工事がされた物に対し使用前検査を行うことによって、認可された工事計画どおりに実際に工事されているか否かを確認することとなっている(炉規法43条の3の9第1~3項、43条の3の11第2項)。エ 運転期間延長認可関係(ア) 平成29年法律第15号による改正前の炉規法43条の3の32第5項は、運転期間延長認可の要件として、認可の申請に係る発電用原子炉が、長期間の運転に伴い生ずる原子炉その他の設備の劣化の状況を踏まえ、延長しようとする期間において安全性を確保するための基準として原子力規制委員会規則で定める基準に適合していると認められることを規定し、同項による委任を受けた実用炉規則114条は、運転期間延長認可の基準として、「延長しようとする期間において、原子炉その他の設備が延長しようとする期間の運転に伴う劣化を考慮した上で技術基準規則に定める基準に適合するもの」であることを規定している。(イ) 原子力規制委員会は、実用炉規則114条の要求事項への適合性審査をするに当たって確認すべき事項をまとめたものとして、運転期間延長審査基準(乙B10)を定めており、運転期間延長審査基準は、実用炉規則113条2項2号に掲げる原子炉その他の設備の劣化の状況に関する技術的な評価(劣化状況評価)の結果、延長しようとする期間において、①同評価の対象となる機器・構造物が同基準の表に掲げる要求事項(運転延長)に適合すること、又は②同評価の結果、要求事項(運転延長)に適合しない場合には同項3号に掲げる延長しようとする期間における原子炉その他の設備についての保守管理方針の実施を考慮した上で、延長しようとする期間において要求事項(運転延長)に適合することを求めている。そして、運転期間延長審査基準は、劣化状況評価の対象となる機器・構造物に関する耐震安全性評価に関する要求事項(運転延長)として、「経年劣化事象を考慮した機器・構造物について地震時に発生する応力及び疲労累積係数を評価した結果、耐震設計上の許容限界を下回ること。」等を求めている。(乙B10・4頁)(2) 新規制基準の策定経緯ア 原子力規制委員会発足前の原子力安全委員会及び原子力安全・保安院における検討概要等(ア) 原子力安全委員会及び地震等検討小委員会における検討等原子力安全委員会の耐震指針検討分科会は、約5年にわたり43回の会合を重ね、3つのワーキンググループを設けた検討を行い、福島第一原発事故が起こる前の平成18年9月、当時の地質学、地形学、地震学、地盤工学、建築工学及び機械工学等の専門家らによる検討を踏まえて、発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(旧耐震指針)を改訂した(平成18年耐震指針)。平成18年耐震指針は、旧耐震指針が応答スペクトルに基づく地震動評価を中心として基準地震動S1、S2を策定することとしていたのに対し、断層モデルを用いた手法による地震動評価を取り入れ、震源を特定せず策定する地震動の評価手法を大きく変更し、基準地震動Ssを策定することとするなど、基準地震動の策定方法を大幅に変更するものであった。(甲B17、乙B44、156・46頁)平成23年3月、地震及び津波を原因とした福島第一原発事故が発生したことから、原子力安全委員会に設置された専門部会である原子力安全基準・指針専門部会は、安全確保策の抜本的な見直しについて検討するため、新たに地震及び津波に関する専門家17名を構成員とする地震等検討小委員会を設置した。地震等検討小委員会は、平成23年7月12日から平成24年2月29日までの間、合計14回の会合を開催し、東北地方太平洋沖地震及びそれに伴う津波の分析に加えて、女川発電所、福島第一発電所、福島第二発電所及び東海第二発電所で観測された地震、津波の観測記録等の分析を行うとともに、東北地方太平洋沖地震及びそれに伴う津波に係る知見並びに福島第一原発事故の教訓を整理したほか、平成18年の耐震指針の改訂後に実施された耐震バックチェックによって得られた経緯及び知見を整理し、推本(文部科学省)、中央防災会議(内閣府)、国土交通省等の他機関における東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う津波についての検討結果に加えて、土木学会における検討状況、世界の津波の事例及びIAEAや米国の原子力規制委員会等の規制状況、福島第一原発事故に関連した調査報告書も踏まえて平成18年耐震指針及び関連指針類に反映させるべき事項について検討を行い、想定外の地震が発生したことを踏まえて、「残余のリスク」に係る事項についても検討を行った。以上の検討を踏まえ、地震等検討小委員会は、平成24年3月14日付けで平成18年耐震指針の改訂案や、耐震や耐津波に関する安全審査で用いるための審査の手引きの改訂案を取りまとめ、原子力安全基準・指針専門部会は、平成24年3月、これらの改訂案を原子力安全委員会に対して報告した。(以上につき、乙B22~28、156)(イ) 原子力安全・保安院における検討原子力安全委員会は、平成23年4月、東北地方太平洋沖地震等の知見を反映して、原子力安全・保安院に対し、耐震安全性に影響を与える地震に関して評価を行うよう意見を述べた。原子力安全・保安院は、同年9月、事業者より報告された東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う津波による原子力発電所への影響などの評価結果について、学識経験者の意見を踏まえた検討を行うこと等により、地震・津波による原子力発電所への影響に関して的確な評価を行うため、地震・津波に関する意見聴取会及び建築物・構造に関する意見聴取会を設置し、審議を行った。地震・津波に関する意見聴取会においては、東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う津波について、福島第一発電所、福島第二発電所、女川発電所及び東海第二発電所における地震動及び津波の解析・評価を行い、これに基づく同地震に関する新たな科学的・技術的知見について、耐震安全性評価に対する反映方針が検討された。建築物・構造に関する意見聴取会においては、上記の各原子力発電所における建物・構築物、機器・配管系の地震応答解析の評価、津波による原子炉施設の被害状況を踏まえた影響評価を行い、これに基づく東北地方太平洋沖地震に関する新たな科学的・技術的知見について、耐震安全性評価に対する反映方針が検討された。これらの意見聴取会において、それぞれ報告書が取りまとめられ、平成24年2月、原子力安全委員会に報告された。(以上につき、乙B73~79、156・47、48頁)イ 原子力規制委員会における検討等(ア) 原子力規制委員会は、設置法に基づき炉規法が改正されたことなどを踏まえ、重大事故等への対策、地震及び津波以外の自然現象への対策に関する設計基準に加え、これまで原子炉設置許可の基準として用いられてきた原子力安全委員会が策定した安全設計審査指針等の内容を見直した上で、原子力規制委員会が定めるべき基準を検討するため、J1委員を担当委員とする原子炉施設等基準検討チームを構成した。また、自然現象に対する設計基準のうち、地震及び津波対策については、原子力規制委員会の前身である原子力安全委員会に設置された地震等検討小委員会の検討も踏まえた上で、原子力規制委員会が定めるべき基準を検討するため、元日本地震学会会長のJ6委員長代理を担当委員とする地震等基準検討チームを構成した。それぞれの検討チームは、原子力規制庁職員も参加し、また、関係分野の学識経験者を有識者として同席を求め、専門技術的知見に基づく意見等を集約する形で規制基準の見直しが行われた。(乙B80、81、156・48、49頁)(イ) 地震等基準検討チームにおいては、平成24年11月19日から平成25年6月6日までの間、発電用軽水型原子炉施設の地震・津波に関わる設置許可基準規則等策定のため、地震、津波及び地盤等の専門技術的知見を有する学識経験者6名をメンバーとし、検討内容に応じて地形学、地震、津波及び建築に関する学識経験者も参加して、合計13回の会合が開催され、種々の検討がされた。地震等基準検討チームは、上記の検討結果を踏まえ、地震・津波に関する新規制基準の骨子案を作成し、これについて、原子力規制委員会が平成25年2月に意見公募手続を行った結果も踏まえ、基準案を取りまとめた。(以上につき、乙B29~43、80、81、86、87、156・51~53頁)(ウ) 原子力規制委員会は、上記基準案に対し、行政手続法に基づいて平成25年4月11日から1か月間の意見公募手続を行い、その上で、設置許可基準規則等の規則及び当該規則の解釈を策定するとともに、発電用原子炉の設置許可に係る基準適合性審査で用いる各種審査ガイドを策定した。そして、原子力規制委員会は、平成25年6月19日、設置許可基準規則解釈、地震ガイド等を含むいわゆる新規制基準を策定した。(以上につき、乙B20、89、156・53頁)(3) 本件設置変更許可処分における設置許可基準規則4条(地震による損傷の防止)についての審査等ア 参加人は、本件設置変更許可申請に係る申請書(補正後)、審査会合の資料等において、次のとおり記載した。(ア) 本件各原子炉の敷地周辺の地震発生状況の調査・評価として、過去の被害地震について、地震資料及び明治以降の地震観測記録をもとに主な地震の震央位置、地震規模等を取りまとめた資料等から、本件各原子炉からの震央距離が200㎞程度以内の主な被害地震を確認し、それらのうち、本件各原子炉敷地に大きな影響(震度Ⅴ程度以上。現在の震度5弱程度以上)を及ぼすと考えられる9個の地震を、検討用地震の候補として抽出した。抽出された過去の被害地震は、活断層との関連や地震の発生深さから、いずれも内陸地殻内地震とした。その他、プレート間地震については、南海トラフに沿って有史以来M8クラスの大地震が繰り返し発生しているが、その震央は本件各原子炉敷地から概ね200㎞を超えて離れており、本件各原子炉敷地で震度Ⅴ以上の揺れが想定される地震はなく、海洋プレート内地震については、それら地震の多くが近畿中南部で発生しており、本件各原子炉敷地から離れた場所で発生しているため、いずれも敷地へ及ぼす影響は大きくないとした。(丙C2・添付書類六・6-4-2、5、6、22~26、29、49、51頁)(イ) 地質・地質構造の調査として、本件各原子炉の敷地周辺地域は、活断層が繰り返し活動しており、活断層の発達過程が「未成熟」ではなく、活動の痕跡が地表に現れている地域であることから、その現れた痕跡である地表地震断層を調査することで震源断層を把握することができる地域である。参加人は、本件各原子炉敷地周辺の陸域及び海域を対象に文献調査を実施し、概ね半径100㎞の範囲の地形及び地質・地形構造を把握するとともに、文献に記載されている活断層を抽出した。次に、本件各原子炉から少なくとも半径30㎞以内について次のとおり多様な調査を行った。(丙C2・添付書類六・6-1-2頁、丙C4・23頁)a 陸域の調査(a) 活断層の有無やその位置等を把握するため、空中写真判読、航空レーザー測量等を用いて変動地形学的調査を行った。(丙C2・添付書類六・6-16~71頁)(b) 文献調査及び変動地形学的調査により活断層又は変動地形・リニアメントの可能性があるとされた地形について、稠密な地表踏査を行い、さらにトレンチ調査、ピット調査、ボーリング調査、剥ぎ取り調査、反射法地震探査といった多様な手法を用いて地表地質調査等を実施し、後期更新世以降(約12~13万年前以降)に堆積した地層における断層活動の痕跡の有無を確認し、変位・変形が確認できた場合は、「震源として考慮する活断層」とした。(丙C2・添付書類六・6-16~71頁)(c) 本件各原子炉敷地の地質は、下位から古生代ペルム紀の大浦層及び舞鶴層群、中生代白亜紀の音海流紋岩、新生代新第三紀中新世の内浦層群、石英閃緑岩及び青葉山安山岩類並びに新生代第四紀の堆積物から構成されている。(丙C2・添付書類六・6-1-93~95頁、丙C3・添付書類六・6-1-93~95頁)ボーリングコア の採取率は約100%であり、R.Q.Dの平均値は80%以上を示していることから、岩石は硬質であり、基礎岩盤は非常に安定した岩盤であると考える。(丙C2・添付書類六・6-1-114頁)b 海域の調査参加人は、地質調査所(現在の産総研)及び海上保安庁等が行った海上音波探査記録を用いて地質・地質構造を評価するとともに、自らも海上ボーリング調査及び海上音波探査を行った。この際、参加人は、海上ボーリング調査で採取した堆積物や岩石を分析し、海域に堆積している地層の年代と深度を把握した上で、海上音波探査を行った。これらの調査により、陸域と同様、後期更新世以降の断層活動の痕跡の有無を確認し、敷地に与える影響が大きい断層については、その端部や延長部分の付近において、断層の走向に対して直行するように複数の測線を配置し、断層の端部を慎重に評価した。(丙C2・添付書類六・6-1-71~81頁、丙C5・160~170頁)c 参加人は、以上の調査結果を基に、震源として考慮する活断層のうち本件各原子炉に与える影響が大きいと考えられる FO-A~FO-B 断層、熊川断層及び上林川断層について、その位置を詳細に把握し、地震動の評価が安全側となるよう、次のとおり、長さや連動の可能性を保守的に評価した。(a) FO-A 断層は、既存文献では、長さ18㎞、FO-B 断層は記載がなかったが、詳細に海上音波探査等を行い、慎重に検討した結果、長さをそれぞれ約24㎞、約11㎞と評価し、両断層はそれらを区分する測線において鉛直方向の変位量が認められないこと等から個別の断層と評価されるが、断層の走行がいずれも同じであること等、特徴が類似していることから、同時活動するものとし、FO-A~FO-B 断層として、その長さを約35㎞と評価した。(丙C2・添付書類六・6-1-29~36頁、丙C5・43~73頁)(b) 熊川断層は、既存文献では長さ9㎞又は12㎞とされていたが、反射法地震探査や地形・地質の状況から、その長さを約14㎞と評価した。FO-A~FO-B 断層と熊川断層は連動しないと判断したが、十分に保守的な評価を行う観点から、FO-A~FO-B 断層と熊川断層が連動するという震源断層モデルを設定し、断層長さは63.4㎞とした。(丙C2・添付書類六・6-1-11、27、29~36、73~78頁、丙C5・43~73頁)(c) 上林川断層は、既存文献では長さ約26㎞とされていたが、詳細な地形・地質調査を行い、約39.5㎞と評価した。(丙C2・添付書類六・6-1-20~29頁)(ウ) 地震動評価に影響を与える地域特性の評価a 参加人は、FO-A~FO-B 断層、熊川断層、上林川断層について、地形・地質調査の結果や、若狭湾付近の広域応力場と断層の方向との関係から、いずれも横ずれ断層と評価し、既往の知見を踏まえて断層傾斜角を90°と評価した。(丙C1・68、101頁)b 参加人は、断層の幅(地震発生層の深さ)について、上端深さをできるだけ浅く評価して4㎞と評価した上、より保守的に3㎞として地震動評価を行った。また、下端深さは、気象庁の震源データを用いた震源深さの分布の検討等、既往の研究結果を用いて、保守的に18㎞と評価した。これにより、本件各原子炉に与える影響が大きいと考えられる活断層の幅は15㎞と評価した。(丙C10・77頁)c 参加人は、地震波の伝播特性のうち内部減衰について、若狭湾付近で発生した20個の中小の内陸地殻内地震の地震記録から同地域のQ値(内部減衰についての媒質に固有の値。小さいほど減衰の効果が大きい。)についての知見を基に、Q値を50f1・1と設定した。(丙C1・80頁)d 参加人は、本件各原子炉敷地の地表面近くの浅部地盤の速度構造について、ボーリング調査による地盤の特徴を調査した上で、PS検層、試掘坑弾性波探査、反射法地震探査等を行い、それらの調査結果を総合して評価し、敷地浅部にP波速度及びS波速度がそれぞれ約4.3㎞/s、約2.2㎞/s の硬質な地盤が広がっていることを確認した。その上で、反射法地震探査によって、本件各原子炉敷地の地下に、地層の極端な起伏等の地震波の伝播に影響を与えるような特異な構造が認められないことを確認した。そして、参加人は、本件各原子炉の地下構造について、地震動評価上は水平成層構造とみなしてモデル化できると評価し、1次元の速度構造モデルを作成することにした。(丙C2・添付書類六・6-4-7、8頁、丙C10・6~61頁)e 参加人は、地震波干渉法及び微動アレイ観測により、本件各原子炉敷地内や周辺地点において、常時存在する地面の小さな揺れの観測を行い、その観測記録を解析して、深部までの地盤の速度構造を評価した。(丙C11)(エ) 「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の評価a 参加人は、「検討用地震」の候補として抽出された25個の地震を対象に、地震の規模及び敷地までの距離に基づいて敷地に与える影響を検討し、FO-A~FO-B~熊川断層及び上林川断層による地震の2つを検討用地震として選定し、下記b及びcのとおり、「応答スペクトルに基づく地震動評価」及び「断層モデルを用いた手法による地震動評価」を行った。(丙C1・9頁、丙C2・添付書類六・6-4-9頁)b 「応答スペクトルに基づく地震動評価」(a) 参加人は、設置許可基準規則解釈の別記2及び地震ガイドの要求事項を踏まえ、距離減衰式について耐専式を用いることとした。耐専式は、地震の規模(M)と等価震源距離(Xeq)から応答スペクトルが求められ、これに評価地点の地盤増幅率を乗じることで地震動を評価するものである。(丙C1・62頁)(b) 耐専式に用いる地震の規模(M)については、松田式を用いた。(丙C1・62頁)(c) 耐専式は、その開発に当たって基礎とされた地震観測記録群に、等価震源距離が「極近距離」よりも著しく短い場合のデータは含まれず、「極近距離」より短くなるにつれて実際の地震動に比べて大きな評価結果が得られる傾向があるとされている。FO-A~FO-B~熊川断層は極近距離より若干短かったが、乖離の程度が小さかったことから、保守的に評価する観点から FO-A~FO-B~熊川断層及び上林川断層共に耐専式を適用した。そして、本件各原子炉敷地の解放基盤表面のS波速度が約2.2㎞/s であることから、耐専式で用意されているS波速度2.2㎞/s の場合の評価方法を用いた。(丙C1・63頁、丙C2・添付書類六・6-4-7頁)(d) 耐専式は、内陸地殻内地震に適用できるとして用意されている低減係数である内陸補正係数0.6があるが、保守的に評価する観点から用いないこととした。(丙C2・添付書類六・6-4-10、11頁、丙D13)(e) アスペリティの配置は、等価震源距離が短くなるよう、基本ケースとして、断層面のうち本件各原子炉に近い位置にアスペリティを配置した。さらに、FO-A~FO-B 断層と熊川断層の間の区間をまたいでアスペリティを一塊に寄せ集める不確かさを考慮したケースも想定した。(丙C1・72、82、84頁、丙C2・添付書類六・6-4-69、71、72頁)(f) 断層傾斜角は、90°と評価したが、不確かさを考慮したケースとして、保守的に等価震源距離が短くなるよう75°としたケースを設定した。(丙C1・68、70、71頁、丙C2・添付書類六・6-4-10、32頁)c 「断層モデルを用いた手法による地震動評価」(a) 参加人は、短周期側について統計的グリーン関数法を用いて計算した地震動と、長周期側について理論的方法を用いて計算した地震動とを組み合わせる、ハイブリッド合成法を用いて波形合成を行うこととした。(丙C1・66頁、丙C2・添付書類六・6-4-11頁)(b) 震源断層面積(S)は、保守的な条件により設定した震源となる断層の長さ(L)及び断層の幅(W)から求め、不確かさの考慮として、FO-A~FO-B~熊川断層について、断層傾斜角を75°にしたケースも設定した。(丙C1・80頁、丙C2・添付書類六・6-4-36頁)(c) 参加人は、レシピで提案されている入倉・三宅式を用いて、震源断層面積から地震モーメントを求めた。(丙C1・73、80、104頁、丙C2・添付書類六・6-4-35、36、40頁)(d) 参加人は、レシピで提案されている壇ほか式を用いて、地震モーメントから短周期レベルを求めた。(丙C1・73、104頁、丙C2・添付書類六・6-4-35、40頁)(e) 参加人は、新潟県中越沖地震の短周期レベルが平均的な短周期レベルの1.5倍であったとの新たな知見について、基本ケースとするのではなく、不確かさとして考慮することとして、短周期の地震動レベルを1.5倍とするケースも設定した。(丙C1・70頁、丙C2・添付書類六・6-4-32頁)(f) 参加人は、短周期レベルからアスペリティ面積を求めた。レシピにおいては、壇ほか式からアスペリティ面積を求める方法も示されているが、その方法は断層が長大で面積が大きくなるほどアスペリティ面積が過大評価となる傾向にあるとされており、FO-A~FO-B~熊川断層については関係式による算定の結果、アスペリティ面積比が30%を超えたため、アスペリティの総面積は断面総面積の20~30%に分布するとの知見が示されていることを考慮し、レシピに示された Somerville et al.(1999)で提案されている知見により、アスペリティ面積比を22%としてアスペリティ面積を求めた。(丙C1・74、81、104頁、丙C2・添付書類六・6-4-35、36、40頁)(g) 参加人は、震源断層全体の応力降下量について、レシピで示された方法により、FO-A~FO-B~熊川断層については、内陸の長大な横ず れ 断 層 に 係 る 震 源 断 層 全 体 の 応 力 降 下 量 に つ い て 、Fujii&Matsu’ura(2000)において提案されている3.1MPa とし、上林川断層については Eshelby(1957)等で提案されている震源断層面積及び地震モーメントから求める方法を用いた。(丙C1・73、104頁、丙C2・添付書類六・6-4-35、40頁)(h) 参加人は、アスペリティの応力降下量について、レシピに示されている Madariaga(1979)で提案されている震源断層面積に占めるアスペリティ面積の割合22%と、震源断層全体の応力降下量3.1MPa からアスペリティの応力降下量を求める関係式により、アスペリティの応力降下量14.1MPa を求めた。なお、各アスペリティの応力降下量は同じ値に設定した。(乙D4・11頁、丙C1・74、76、78、81、83、85頁)(i) 参加人は、破壊伝播速度について、既往の研究においてS波速度の0.72倍とされていることから、これを基本ケースとし、不確かさの考慮として、破壊伝播速度が大きくなり、より短い時間により多くの地震波が敷地に到達することで敷地の地震動が一般的に大きくなるよう、保守的に、既往の研究における不確かさも考慮した0.87倍としたケースを設定した。(丙C1・73、77、104、105頁、丙C2・添付書類六・6-4-35、38、40、41頁)(j) 参加人は、アスペリティの配置について、保守的な観点から、FO-A~FO-B~熊川断層、上林川断層のいずれについても、本件各原子炉敷地に近い位置、かつ、断層の上端に配置することで、より大きな地震動を想定することにした。さらに、不確かさの考慮として、アスペリティを一塊に寄せ集め、正方形又は長方形にして本件各原子炉敷地近傍に配置するケースも設定した。(丙C1・82、84頁、丙C2・添付書類六・6-4-39、71、72頁)(k) 参加人は、破壊開始点は、遠い方から近い方に破壊が進行していく場合に評価地点での地震動は大きくなるとされていることから、断層の端やアスペリティの端といった本件各原子炉敷地から遠い地点に置くなど、複数の位置に設定した。(丙C1・72、103頁、丙C2・添付書類六・6-4-69、73頁)(l) 参加人は、断層傾斜角及びすべり角について、断層傾斜角90°を基本ケースとし、不確かさの考慮として、FO-A~FO-B~熊川断層の断層傾斜角を75°、すべり角を30°上向きにしたケースを設定した。(丙C1・73、75、80、104頁、丙C2・添付書類六・64-4-35、36、37、40頁)(オ) 「震源を特定せず策定する地震動」の評価a 参加人は、加藤ほか(2004)で示されている応答スペクトルを採用した。(丙C2・添付書類六・6-4-12頁)b 参加人は、地震ガイドに例示されている Mw(モーメントマグニチュード)6.5以上の2地震である2008年岩手・宮城内陸地震と、平成12年鳥取県西部地震を検討し、平成12年鳥取県西部地震の震源近傍の賀祥ダムでの地震動の観測記録を用いることにした。賀祥ダムの地盤よりも本件各原子炉敷地の地盤の方が硬いため、地震波の増幅の程度は小さくなると考えられたが、保守的な観点から、地盤の特性による補正等は行わなかった。2008年岩手・宮城内陸地震については、地域性を比較して収集対象外とした。(丙C1・115頁、丙C2・添付書類六・6-4-12、13頁)c 参加人は、地震ガイドに例示されている Mw6.5未満の14の地震の中から、加藤ほか(2004)の応答スペクトルとの比較において特に影響が大きいと考えられ、かつ、はぎとり解析により観測点において地下の岩盤面(基盤面)における地震動を推定するために必要な精度の高い地盤情報が得られている記録は、平成16年北海道留萌支庁南部地震のみであったことから、この記録を採用することとした。この地震は、震源近傍の比較的軟弱な地盤の地表面上に地震計が設置されたHKDO20(港町観測点)における観測記録があるが、同観測点におけるボーリング調査やPS検層の結果をもとに、地表から解放基盤表面と評価できる硬さを有する岩盤面(基盤面)の深さ(地下41m)までの地下構造を検討・評価した上で、同観測点の基盤面における地震動の推定がされていたから、この推定された地震動を採用した。HKDOの基盤面よりも本件各原子炉敷地の方が硬いため、地震波による揺れは小さくなると考えられるが、保守的に評価するため、補正等を行わずに採用した。さらに、参加人は、HKDO20 の地下構造の不確かさを考慮して、基盤面から地表までの減衰をより大きく、すなわち基盤面における地震動をより大きく評価し、その評価結果を更に保守的に大きくして、「震源を特定せず策定する地震動」として評価し、応答スペクトルを設定した。(丙C1・118~120頁、丙C2・添付書類六・6-4-13頁)(カ) 基準地震動の策定a 参加人は、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の評価結果より、まず、「応答スペクトルに基づく地震動評価」の結果を踏まえ、基準地震動 Ss-1 の応答スペクトルを策定すると、最大加速度は水平方向で700gal、鉛直方向で467gal であった。(丙C2・添付書類六・6-4-127頁)b 次に、参加人は、「断層モデルを用いた手法による地震動評価」の結果のうち、基準地震動 Ss-1 を上回る4つのケースをそれぞれ基準地震動 Ss-2~Ss-5 として策定した。(丙C1・122頁、丙C2・添付書類六・6-4-14、117~119頁)c 参加人は、「震源を特定せず策定する地震動」の評価結果のうち、加藤ほか(2004)による応答スペクトルは全周期帯で基準地震動 Ss-1 を下回っていたことから基準地震動に採用しなかったが、平成12年鳥取県西部地震及び北海道留萌支庁南部地震の観測記録を考慮した応答スペクトルは一部周期で上回るため、基準地震動 Ss-6、Ss-7 として策定した。(丙C1・123頁、丙C2・添付書類六・6-4-14、15、123~125頁)d 以上の基準地震動 Ss-1~Ss-7 の応答スペクトルの最大加速度は、水平方向が基準地震動 Ss-1 の700gal、鉛直方向が基準地震動 Ss-6 の485gal である。(丙C1・128頁、丙C2・添付書類六・6-4-46頁)(キ) 基準地震動の年超過確率参加人は、基準地震動を超える地震動が発生する可能性について、確率論的な観点から定量的に確認したところ、Ss-1 の年超過確率は、短周期側では10-4~10-5程度、長周期側で10-5~10-6程度となった。また、基準地震動 Ss-6 及び Ss-7 の応答スペクトルと比較したところ、それらの年超過確率は10-4~10-6程度となった。(丙C2・添付書類六・6-4-17、145~147頁、丙9・25、27頁)イ 原子力規制委員会は、平成27年2月12日付けで許可された高浜発電所3号炉及び4号炉に係る設置変更許可処分に係る許可申請(既許可申請①)において、①「地下構造モデル」に関し、参加人が設定している解放基盤表面は、必要な特性を有し、要求されるS波速度を持つ硬質地盤の表面に設定されていること、高浜発電所敷地及び敷地周辺の地下構造の評価に関して、参加人が行った調査の手法は、地質ガイドを踏まえているとともに、調査結果に基づき地下構造を水平成層かつ均質と評価し、1次元地下モデルを設定しており、当該地下構造モデルは地震波の伝播特性に与える影響を評価するにあたって適切なものであることを確認し、②「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」に関し、参加人が、検討用地震ごとに、不確かさを考慮して「応答スペクトルに基づく地震動評価」及び「断層モデルを用いた手法による地震動評価」に基づき策定していることを確認し、③「震源を特定せず策定する地震動」に関し、参加人が、過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測規則を精査し、各種の不確かさ及び敷地の地盤物性を考慮して策定していることを確認し、④「基準地震動の策定」に関し、参加人が、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」及び「震源を特定せず策定する地震動」において、敷地の解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動として基準地震動を策定していることを確認し、それぞれ設置許可基準規則解釈の別記2の規定に適合していることを確認した。(乙C6・11~20頁)原子力規制委員会は、参加人が、本件設置変更許可申請について、敷地周辺の震源として考慮する活断層の評価を一部変更しているが、検討用地震の選定に変更はないとしていることについて、参加人が行った「敷地ごとに震源を特定して策定する活断層」、「震源を特定せず策定する活断層」に係る地震動評価の内容について審査した結果、本件設置変更許可申請における基準地震動は、既許可申請①から変更がないとしていることは妥当であると判断し、設置許可基準規則解釈の別記2の規定に適合していることを確認した。(乙C5の2・11、12頁)ウ 原子力規制委員会は、上記イの確認等を踏まえて、本件設置変更許可申請が設置許可基準規則4条に適合していると認め、平成28年4月20日付けで、参加人に対し、本件設置変更許可処分をした。(乙C1)(4) 本件工事計画認可処分における技術基準規則5条(地震による損傷の防止)についての審査ア 原子力規制委員会は、技術基準規則5条の基準地震動による地震力に対する構造強度に関する耐震設計について、耐震工認審査ガイドを参考に、以下のとおり審査をした。(乙C8の1及び2・各3~7頁)(ア) 耐震設計の基本事項として、設計基準対象施設を、これに作用する地震力による損壊により公衆に放射線障害を及ぼさないように施設するため、設置変更許可申請書の設計方針に基づくとともに、耐震工認審査ガイドを踏まえ、工事計画認可において実績のある JEAG4601 等の規格及び基準等に基づく手法を適用して、耐震重要度に応じてSクラス、Bクラス、Cクラスに分類した上で、それぞれの施設が耐震重要度に応じた地震力に対し構造強度を確保する設計としていること、耐震重要施設(Sクラスの施設)を、基準地震動による地震力に対して、当該施設の安全機能が損なわれるおそれがない施設とするため、設置変更許可申請書の設計方針に基づくとともに、耐震工認審査ガイドを踏まえ、工事計画認可において実績のある JEAG4601 等の規格及び基準等に基づく手法を適用して、基準地震動による地震力に対して、施設の機能を維持する設計としていることを確認した。(イ) 荷重の組合せについては、建物・構築物、機器・配管系、浸水防止設備及び津波監視設備の施設ごとに、耐震重要度分類に応じて、施設に作用する地震力と地震力以外の荷重を適切に組み合わせていることなどを確認した。(ウ) 建物・構築物、機器・配管系のそれぞれの強度評価における許容限界については、安全上適切と認められる規格及び基準等に基づき、施設の機能を維持又は構造強度を確保できる設定としていることなどを確認した。(エ) 既工認実績のない手法、条件等に係る確認として、炉内構造物及び蒸気発生器伝熱管の耐震性評価並びに制御棒の挿入時間の評価について、本件加振試験等の既往の知見を整理し、1次冷却設備を構成する蒸気発生器、冷却材ポンプ、1次冷却材管の振動性状に係る構造的特性が既往の知見と同等であることから3%の設計用減衰定数を適用できるとした上で、1次冷却設備に3%の設計用減衰定数を用いて得られる炉内構造物及び蒸気発生器伝熱管の発生応力並びに制御棒の挿入時間がそれぞれ許容値を満足することから、炉内構造物及び蒸気発生器伝熱管の構造強度並びに制御棒の挿入に係る機能が維持されることなどを確認した。イ 原子力規制委員会は、上記アの事項等の確認を踏まえて、本件工事計画認可申請が技術基準規則5条の規定に適合していると認め、平成28年6月10日付けで、参加人に対し、本件工事計画認可処分をした。(乙C8の1及び2・各7頁)(5) 本件運転期間延長認可処分における実用炉規則114条適合性(地震関係)についての審査ア 原子力規制委員会は、本件運転期間延長認可申請の実用炉規則114条への適合性に関する耐震安全性評価のうち、応力及び疲労累積係数の評価についての参加人の申請内容について、運転期間延長審査基準に基づいて、以下のとおり審査をした。(乙C9の1及び2・各28~32頁)(ア) 耐震安全上考慮する必要のある経年劣化事象の抽出について、低サイクル疲労等の劣化事象に加え、劣化傾向監視等の劣化管理がされている劣化事象のうち、これらの劣化事象が顕在化した場合に、振動応答特性上又は構造強度上から地震による影響が有意である事象を抽出していること、評価対象機器・構造物の抽出について、耐震安全上考慮する必要のある劣化事象に該当する機器・構造物であって、かつ応力評価及び疲労累積評価に影響を与える機器・構造物を抽出していることを確認した。(イ) 前提条件として、評価において使用する地震力は、工事計画認可で使用している地震力としていること、評価対象部位の劣化の想定は、運転開始後60年時点での推定劣化量又は取替基準値を使用していること、評価手法として、評価は、JEAG4601 等の規格に基づき、水平2方向及び鉛直方向地震力の組合せの評価手法を使用するなど、工事計画認可で使用している手法に従い実施していること、疲労累積係数評価は、通常運転時の疲労累積係数に地震時の疲労累積係数を加えて求めていること、評価で使用する流れ加速型腐食の減肉条件は、保守的な解析条件として、減肉形状を周軸方向一様減肉としていること、流れ加速型腐食による応力評価は、取替基準値による応力評価を行い、発生応力が許容応力を上回っている場合には、実測値を用いた運転開始後60年時点での推定劣化量による応力評価を行っていることを確認した。(ウ) 評価結果として、高浜発電所1号炉は、応力評価の結果、グランド蒸気系統の炭素鋼配管で、取替基準値による応力評価、実測値を用いた推定劣化量による応力評価ともに、発生応力が許容応力を上回ったことから、保守管理方針を策定し、それ以外の部位は、許容応力を下回ったこと、疲労累積係数評価の結果、疲労累積係数が1を下回ったこと、高浜発電所2号炉は、応力評価の結果、第4抽気系統、復水系統、グランド蒸気系統の炭素鋼配管で、取替基準値による応力評価、実測値を用いた推定劣化量による応力評価ともに、発生応力が許容応力を上回ったことから、保守管理方針を策定したこと、それ以外の部位は、許容応力を下回ったこと、疲労累積係数評価の結果、疲労累積係数が1を下回ったことを確認した。(エ) 保守管理方針として、評価の結果、要求事項を満足しない部位に加え、取替基準値による応力評価で発生応力が許容応力を上回った部位について、短期の保守管理方針として、「配管の腐食(流れ加速型腐食)については、肉厚測定による実測データに基づき耐震安全性評価を実施した炭素鋼配管(第4抽気系統配管、グランド蒸気系統配管、復水系統配管、ドレン系統配管)に対して、サポート改造等の設備対策を行い、必要最小肉厚まで減肉を想定した評価においても耐震安全性評価上問題ないことを確認し、サポート改造等の設備対策が完了するまでは、減肉進展の実測データを反映した耐震安全性評価を継続して行い、サポート改造等の設備対策が完了するまでの間、耐震安全性評価上問題ないことを確認する」と設定していることを確認した。イ 原子力規制委員会は、上記アの確認等を踏まえ、本件運転期間延長認可申請が、炉規法43条の3の32第5項に定める基準である実用炉規則114条に適合していると認め、平成28年6月20日付けで、参加人に対し、本件運転期間延長認可処分をした。(乙3の1及び2、乙9の1及び2・32頁)2 具体的審査基準並びに原子力規制委員会の審査及び判断について(1) 上記認定事実(地震)(3)~(5)のとおり、原子力規制委員会は、本件設置変更許可処分に係る地震関係の審査においては、設置許可基準規則解釈の別記2に基づき、地震ガイドを参考として、「断層モデルを用いた手法による地震動評価」を行うに当たっては、レシピの枠組みに従って基準地震動が策定されていることを確認し、本件工事計画認可処分に係る地震関係の審査においては、技術基準規則解釈に基づき、耐震工認審査ガイドや JEAG4601 等を参考として減衰定数等が設定されていることを確認し、本件運転期間延長認可処分に係る地震関係の審査においては、運転期間延長審査基準に基づいて疲労累積係数等の評価がされていることを確認したことが認められる。したがって、設置許可基準規則解釈、地震ガイド、技術基準規則解釈、耐震工認審査ガイド及び運転期間延長審査基準のうち、原子力規制委員会の審査に用いられた部分について、レシピや JEAG4601 等の用い方を含めて、具体的審査基準に当たると認められる。(2) 地震に関する新規制基準についてア 上記認定事実(地震)(2)のとおり、新規制基準は、東北地方太平洋沖地震及び福島第一原発事故を経て、原子力安全委員会に設置された専門部会である地震等検討小委員会における合計14回の会合を経て取りまとめられた平成18年耐震指針の改訂案及び耐震や耐津波に関する安全審査で用いるための審査の手引きの改訂案、原子力安全・保安院が設置した地震・津波に関する意見聴取会及び建築物・構造に関する意見聴取会の検討結果等を踏まえ、平成24年9月に発足した原子力規制委員会の地震等基準検討チームにおいて、学識経験者らの参加の下、合計13回の会合を経て新規制基準案が取りまとめられ、2度の意見公募手続を経て策定されたものであり、その策定過程に不合理な点があるとはいえない。そして、地震に関する新規制基準の内容をみても、別紙8設置許可基準規則解釈の別記2の概要のとおり、設置許可基準規則4条3項に規定する「基準地震動」は、最新の科学的・技術的知見を踏まえ、敷地及び敷地周辺の地質・地質構造、地盤構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から想定することが適切なものとして、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」及び「震源を特定せず策定する地震動」について、解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動としてそれぞれ策定するものとされている。このうち「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」は、内陸地殻内地震、プレート間地震及び海洋プレート内地震について、敷地に大きな影響を与えると予想される地震(検討用地震)を複数選定し、応答スペクトルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価を実施して策定するものとされ、この過程で各種の不確かさ(震源断層の長さ、地震発生層の上端深さ・下端深さ、断層傾斜角、アスペリティの位置・大きさ、応力降下量、破壊開始点等の不確かさ並びにそれらに係る考え方及び解釈の違いによる不確かさ)を必要に応じて組み合わせて考慮するものとされ、「震源を特定せず策定する地震動」は、震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測記録を収集し、これらを基に、各種の不確かさを考慮して敷地の地盤物性に応じた応答スペクトルを設定して策定するとされるなど、最新の科学的・技術的知見を踏まえて複数の手法により不確かさを組み合わせて策定することとされている。そして、地震ガイドは、別紙10地震ガイドの概要のとおり、基準地震動に続いて、耐震設計方針について、基本方針、耐震重要度分類、弾性設計用地震動の策定方針、地震力の算定法、荷重の組合せと許容限界、設計における留意事項等について審査の確認事項等を定めている。また、上記認定事実(地震)(1)イ及び別紙12耐震工認審査ガイドの概要のとおり、耐震設計の段階では、耐震工認審査ガイドが、建物・構築物、機器・配管系等の施設ごとに、使用材料及び材料定数、荷重及び荷重の組合せ、許容限界、地震応答解析、構造設計手法、基準地震動による地震力に対する耐震設計、弾性設計用地震動による地震力、静的地震力に対する耐震設計等に係る審査における確認事項及び確認内容を定めている。これらは、地震ガイドの耐震設計方針に合致するものといえる上、地震応答解析に用いる材料定数は地盤の諸定数も含めて材料のばらつきによる変動幅を適切に考慮していること、施設に作用する地震力と地震力以外の荷重を適切に組み合わせていること、基準地震動による地震力に対する耐震設計については、Sクラスの建物・構築物について、基準地震動による地震力と地震力以外の荷重の組合せに対して、構造物全体としての変形能力(終局耐力時の変形)について十分な余裕を有し、建物・構築物の終局耐力に対し妥当な安全余裕を有していること、機器・配管系の構造強度に関する耐震設計については、基準地震動による地震力と施設の運転状態ごとに生じる荷重を適切に組み合わせ、施設に作用する応力等を算定し、それらが許容限界を超えていないこと、当該荷重により塑性ひずみが生じる場合であっても、その量が微小なレベルに留まって破断延性限界に対し十分な余裕を有し、その施設に要求される機能に影響を及ぼさないことなどを確認することを定めている。なお、原子力規制委員会は、新規制基準の考え方(乙B156・167)において、基準地震動を超える地震が発生したときの耐震重要施設の安全機能の損失の有無について、①地盤伝播解析において保守的な減衰定数を、②建屋応答解析において保守的な荷重の組合せや非線形特性を、③機器応答解析において保守的な減衰定数(乙E57・167頁)や周期方向に拡幅した設計用床応答スペクトルをそれぞれ採用する(乙E56・516頁)などして、地震応答の最大値が保守的なものとなるようにしており、また、建物・構築物の耐震設計上の余裕として、①規制に用いる許容値を設計段階の限界値(終局耐力)に対して十分余裕を持たせるという規制上の余裕(乙E55・392頁)、②設計時に基準地震動による建屋の変形が許容値を十分満足するよう余裕を持たせるという設計上の余裕、③コンクリートの強度などの設計強度を十分満足するよう、さらに大きな強度で施工管理を行うという施工上確保される余裕があり、これらの余裕が集積されるため、基準地震動によって建物・構築物に生じるひずみは終局耐力時のひずみをはるかに下回ることになり、仮に基準地震動を超過するような場合であっても、即座に耐震重要施設が損傷するようなことはないとの考え方を示している。さらに、上記認定事実(地震)(1)エ(イ)のとおり、運転期間延長認可の段階においては、運転を延長しようとする期間において劣化状況評価等を行い、運転期間延長審査基準の要求事項(運転延長)に適合することが求められており、このうち機器・構造物に関する耐震安全性評価については、「経年劣化事象を考慮した機器・構造物について地震時に発生する応力及び疲労累積係数を評価した結果、耐震設計上の許容限界を下回ること。」等を要求し、経年劣化事象を考慮して耐震設計上の許容限界を下回るようにしている。以上のような地震に係る新規制基準の内容は、最新の科学的、技術的知見を踏まえたもので、各種の保守性が考慮されており、基準地震動を超える地震が発生しても直ちに安全性を喪失しないよう許容値に対して余裕を持たせるように定められているなど、合理性を有するものということができる。イ 原告らは、過去約10年間で設計上想定された地震加速度を超過した事例が5地震(平成17年8月16日の宮城県沖地震、平成19年3月25日の能登半島地震、平成19年7月16日の新潟県中越沖地震、平成23年3月11日の東北地方太平洋沖地震、同年4月7日の宮城県沖地震)、のべ8回あったことをもって、新規制基準の定める基準地震動の策定手法が根本的に不合理であるかのように主張する。しかしながら、そのうちの3地震(宮城県沖地震、能登半島地震、新潟県中越沖地震)に関する事例は、新規制基準に基づいて策定されたSsを超過した事例ではなく、旧耐震指針に基づいて策定された基準地震動S₁、S₂を超過した事例であり(甲F4・193頁、弁論の全趣旨・被告第11準備書面79頁)、上記認定事実(地震)(2)ア(ア)のとおり、平成18年の耐震指針改訂時に、旧耐震指針が応答スペクトルに基づく地震動評価を中心として基準地震動S₁、S₂を策定することとしていたのに対し、断層モデルを用いた手法による地震動評価を取り入れ、震源を特定せず策定する地震動の評価手法を大きく変更し、基準地震動Ssを策定することとするなど、基準地震動の策定方法は大幅に変更されている。したがって、旧耐震指針下において策定された設計上想定される地震加速度を超過した事例をもって、新規制基準の定める基準地震動の策定手法が不合理であるとする原告らの主張は理由がない。また、原告らの主張する5つの地震のうち、平成23年3月11日の東北地方太平洋沖地震及び同年4月7日の宮城県沖地震により、女川発電所において基準地震動又は設計上想定される地震動を超過した事例があるが、平成18年耐震指針による基準地震動Ssを超過したのは一部周期帯にとどまり、その他の周期帯では概ね同程度以下であって(甲D7、乙D42・7、23、29、45頁)、これらの地震動により女川発電所において耐震重要施設に損傷が生じたとは認められない。そして、原子力安全委員会、原子力安全・保安院及び原子力規制委員会は、上記認定事実(地震)(2)ア及びイのとおり、それまでに発生した地震によって得られた知見を踏まえ、基準地震動に係る具体的審査基準をより高度化させてきたと認められるから、新規制基準が定める基準地震動の策定手法が不合理であるということはできない。ウ 原告らは、2004年中越地震は既知の活断層の活動ではないとする見解が有力であり、地震ガイドの「地表地震断層としてその全容を表すまでには至っていない地震であり、孤立した長さの短い活断層による地震」に該当するにもかかわらず、「収集対象となる内陸地殻内の地震の例」に記載していないことは不合理であると主張する。しかしながら、原告らがその根拠として挙げる推本報告書(甲D98)には、2004年中越地震が既知の活断層の活動ではないとする見解が有力である旨の記載は見当たらないのに対し、地震ガイド策定時に参考とされた「平成24年度震源を特定せず策定する地震動レベルに関する既存資料の整理業務報告書」(乙D1・2.2.1-3、4頁)によれば、2004年中越地震の震源断層については、既知の活断層である六日町断層帯の活動であるとする見解が有力であり、震源と活断層を関連付けることが困難なものとはいえないことから、地震ガイドの策定に当たり、2004年中越地震について、「収集対象となる内陸地殻内の地震の例」に挙げる必要がないと判断されたものと認められ、このことをもって地震ガイドが不合理であるとはいえない。エ 以上によれば、地震に係る具体的審査基準に不合理な点がないことについて相当の根拠をもって立証されたと認められる。(3) 本件適合性審査について上記認定事実(地震)(3)イのとおり、原子力規制委員会は、本件設置変更許可申請に先立って行われた既許可申請①について、参加人が設定している解放基盤表面が適切なものであり、高浜発電所敷地及び周辺の地下構造の評価に関して、調査の手法が地震ガイドを踏まえており、設定された地下構造モデルが適切なものであること、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」に関し、検討用地震ごとに不確かさを考慮して「応答スペクトルに基づく地震動評価」及び「断層モデルを用いた手法による地震動評価」に基づき策定していること、「震源を特定せず策定する地震動」に関し、過去の観測記録を精査し、各種の不確かさ及び敷地の地盤特性を考慮して策定していること、「基準地震動の策定」に関し、敷地の解放基盤面における水平方向及び鉛直方向の地震動として基準地震動を策定していることをそれぞれ確認し、設置許可基準規則解釈の別記2の規定に適合していると判断していたところ、本件設置変更許可申請について、参加人が行った地震動評価の内容について審査した結果、敷地周辺の震源として考慮する断層の評価を一部変更しているものの、基準地震動について既許可申請①から変更がないとしていることは妥当であると判断し、設置許可基準規則解釈の別記2の規定に適合していることを確認している。そして、上記認定事実(地震)(3)アのとおり、本件設置変更許可申請において、参加人が策定した基準地震動は、設置許可基準規則解釈の別記2に基づき、地震ガイドを参考として、各種の保守性、不確かさを考慮して策定されたものと認められるから、本件設置変更許可処分のうち地震に係る原子力規制委員会の審査及び判断に不合理な点がないことについて相当の根拠をもって立証されたというべきである。(4) 本件工事計画認可処分に係る審査について上記認定事実(地震)(4)のとおり、原子力規制委員会は、本件工事計画認可処分に係る審査において、耐震工認審査ガイドを参考に、耐震設計の基本事項(設計基準対象施設を、設置変更許可申請書の設計方針に基づき、耐震工認審査ガイドを踏まえ、JEAG4601 等の規格及び基準等に基づく手法を適用して、耐震重要度に応じて分類し、耐震重要施設を基準地震動による地震動に対して施設の機能を維持する設計としていることなど)、荷重の組合せ、許容限界、既工認実績のない手法、条件等に問題がないことを確認しており、このうち、既工認実績のない手法、条件等については、炉内構造物及び蒸気発生器伝熱管の耐震性評価等について、本件加振試験等の既往の知見を整理し、1次冷却設備を構成する蒸気発生器等の振動性状に係る構造的特性が既往の知見と同等であることから3%の設計用減衰定数を適用できるとした上で、1次冷却設備に3%の設計用減衰定数を用いて得られる炉内構造物及び蒸気発生器伝熱管の発生応力が許容値を満足することから、炉内構造物及び蒸気発生器伝熱管の構造強度に係る機能が維持されることなどを確認している。したがって、本件工事計画認可処分のうち地震に係る原子力規制委員会の審査及び判断に不合理な点がないことについて相当の根拠をもって立証されたというべきである。(5) 本件運転期間延長認可処分に係る審査について上記認定事実(地震)(5)のとおり、原子力規制委員会は、参加人の申請内容について、運転期間延長審査基準に基づいて、評価対象事象、機器・構造物を抽出していること、工事計画認可で使用している地震力を用いて、JEAG4601 等の規格に基づき、工事計画認可で使用している手法に従い評価を実施していること、通常運転時の疲労累積係数に地震時の疲労累積係数を加えて疲労累積係数を評価し、疲労累積係数が1を下回っていること、応力評価の結果、発生応力が許容応力を上回ったものについては、保守管理方針を策定していることなどを確認している。したがって、本件運転期間延長認可処分のうち地震に係る原子力規制委員会の審査及び判断に不合理な点がないことについて相当の根拠をもって立証されたというべきである。3 争点3-(1)(地震規模を示す経験式のばらつきの考慮のなさ)について(1) 争点に係る認定事実ア 地震ガイド及び地質ガイド策定に至る経緯(ア) 平成18年耐震指針は、5項の解説Ⅱ.(4)④において、「経験式を用いて断層の長さ等から地震規模を想定する際には、その経験式の特徴等を踏まえ、地震規模を適切に評価することとする。」としていた。(甲B50・12頁)(イ) J4委員は、平成23年12月12日、原子力安全委員会の第9回地震等検討小委員会において、今までは残余のリスクといわれていたが、同じ想定域からマグニチュードがより大きな地震が発生する可能性があるので、断層パラメータのばらつきだけではなく、マグニチュード等のばらつきも想定すべき旨の意見を述べた。これは、活断層の評価に関しては、その経験式の特徴を踏まえ地震規模を適正に評価するという規定があるが、海溝型地震、プレート間地震については過去の平均則を使って想定するのが現状であるとして、海溝型地震、プレート間地震を念頭に置いた発言をしたものであり、その後、J2委員も海溝型地震、プレート間地震を念頭に置いた発言をした。(甲B49・47、48頁)(ウ) J3委員は、平成23年12月26日、原子力安全委員会の第11回地震等検討小委員会において、上記(ア)の平成18年耐震指針の5項の解説Ⅱ.(4)④の文言に続けて、2文目として「その際、経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから、その不確かさ(ばらつき)も考慮する必要がある。」と追加する改訂案について、平均値と断定しているが、経験式によっては平均値とみられるとは限らず、1文目の「経験式の特徴等を踏まえ、地震規模を適切に評価する」という中には色々なことが含まれるから、2文目は耐震指針ではなく、もう少し下のレベルの手引きに記載することを提案した。また、J2委員は、1文目だけだと経験式を使うことになるが、経験式の不確かさの考慮を求めることが重要である旨の意見を述べた。(甲B53・40、41頁、甲B54・12頁)(エ) 原子力安全委員会事務局は、平成24年1月30日、第12回地震等検討小委員会において、「その際、経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから、その不確かさ(ばらつき)も考慮する必要がある。」という規定を、耐震指針の改訂案から削除し、発電用原子炉施設の耐震安全性に関する安全審査の手引き(耐震手引き)の改訂案のⅢ.ⅱ.1.1(2)②における「震源断層モデルの長さ又は面積、あるいは単位変位量(1回の活動による変位量)と地震規模を関連づける経験式を用いて地震規模を設定する場合には、経験式の適用範囲を十分に検討して行うこと。」という規定の後ろに記載する案(甲B57・15頁)を示した。その後、この条項について特段異論はなく、地震等検討小委員会の最終的な改訂案まで引き継がれた。(甲B55・5、7頁、甲B56・12頁、甲B57・15頁、乙B27・39頁)(オ) 原子力規制委員会は、地震等基準検討チームにおいて地震ガイド及び地質ガイドについて検討してきたが、平成25年6月19日、耐震手引きを基に、地震ガイド及び地質ガイドを策定し、地震ガイドⅠ.3.2.3(2)及び地質ガイドⅠ.4.4.2(5)に「震源断層モデルの長さ又は面積、あるいは単位変位量(1回の活動による変位量)と地震規模を関連づける経験式を用いて地震規模を設定する場合には、経験式の適用範囲を十分に検討して行うこと。その際、経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから、その不確かさ(ばらつき)も考慮する必要がある。」(本件ばらつき条項)と規定した。(乙B19・21頁、乙B20・3頁)イ 本件ばらつき条項についての専門家の意見等(ア) J8は、函館地方裁判所平成22年(行ウ)第2号ほか事件において実施された平成28年12月16日付け書面尋問において、本件ばらつき条項に関して、松田式及び入倉・三宅式を用いてばらつきを考慮する必要について、「この規定によるかどうかは別として、地震動評価全体として、必要に応じて他の要因によるばらつきと重ね合わせて考慮する必要があると思います」、具体的な考慮の方法として、「今後の課題として、偶然的ばらつきとして扱う必要があると考えます」と回答した。(甲D97・6頁)(イ) J2は、平成26年3月29日、伊方発電所の基準地震動をテーマにした愛媛新聞のインタビューにおいて、自ら科学的な式を使った計算方法を提案してきたが、これは地震の平均像を求めるものであり、平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある旨を述べている。(甲D11)(ウ) J2は、令和3年5月28日付け意見書(乙D99)において、「ばらつき」と「不確かさ」の用語について、「ばらつき」は自然の持つ揺らぎに起因した完全にランダムな変動を指し、「不確かさ」はプロセスのモデル化における科学的な不確かさを指すが、レシピは決定論的評価をしており、決定論的評価では使われている経験式、パラメータは真値である前提のため、その予測からの偏差は観測値としてみれば「ばらつき」であり、モデル化によるものとみれば「不確かさ」であり、地震等検討小委員会において両者を厳密に区別しなかったこと(同1、2頁)、地震等検討小委員会における本件ばらつき条項の設置の経緯は、経験式の適用範囲を確認した上で、値に「ばらつき」があることも考慮して震源特性を表すパラメータ全体を決める必要があるとの注意喚起であり、地震モーメントM0の値の上乗せを求める文章ではなく、震源断層の面積やアスペリティ位置の「不確かさ」等、レシピ全体の震源パラメータの「不確かさ(ばらつき)」を総合的に考慮して強振動予測の保守的評価をする必要があるという趣旨であり(同3、4頁)、震源断層面積Sや短周期レベルAに「不確かさ」を考慮した保守性を確保すれば、地震モーメントM0の上乗せ以上の保守的評価となり、更に地震モーメントM0の上乗せをする必要性も合理性もないこと(同4~12頁)などを述べている。(エ) J3は、令和3年5月28日付け意見書(乙D100)において、震源断層面積Sと地震モーメントM0の関係についてみると、震源断層面の設定において考慮される「不確かさ」と、経験式の元になったデータの「ばらつき」は同等に扱うことができ、震源断層面積Sの「不確かさ」と、経験式から外れて震源断層面積Sに対する地震モーメントM0を大きく評価することを同時に考えるのは、過剰で不必要な考慮になること(同3、4頁)、地震等検討小委員会における本件ばらつき条項の設置の経緯は、総論において不確かさ(ばらつき)については適切な手法を用いて考慮するという記載があったので、各論にも同様に「不確かさ(ばらつき)」を考慮するとの表現が使われたと推測するが、震源断層の設定において「不確かさ(ばらつき)」を考慮した保守的な設定が行われ、それが審査で確認されるべきという認識であったこと(同7頁)、本件ばらつき条項について、例えば標準偏差の定量的な上乗せをするのかといった議論はなかったこと(同8頁)、震源特性パラメータの設定で重視されるのは短周期に関わるパラメータであり、短周期レベルAを「不確かさ」として1.5倍することは、地震モーメントM0を約3.4~5.1倍(入倉・三宅式による場合は5.1倍)上乗せした地震を想定していることと等価であるといえること(同9~11頁)などを述べている。(オ) J4は、令和元年11月29日付け「経験式と地震動評価のばらつきに関する報告書」(同年度原子力規制庁請負調査報告書。乙D97)において、日本のM6以上の主な内陸地殻内地震を9つ選び、データのばらつきを評価したところ、震源特性・伝播経路特性・サイト特性のどの特性をみても、データをきちんと処理して個々のデータが持つ個性を平均値として評価し、それ以外の変動をばらつきとして評価すれば、そのばらつきはいずれも概ね倍/半分の変動範囲に収まることが示されたこと(同95頁)、これは、関係式の変動をデータからみたとき、その変動は全データ空間が持っている変動をある断面で切り取ってみたものにすぎないことを示唆し、N個のパラメータがあればN次元の空間となるが、どの空間で切り出しても変動幅が一定であれば変動空間は円球状のため、それを重畳させる理由はないこと(同97頁)、複数の関係式で表現されている予測モデルにおいて、個々のパラメータにばらつき・不確かさが存在しているからといって、それを重畳して変動させ予測強震動のばらつき評価を行うのは適切ではないこと(同頁)などを述べている。(カ) J4は、令和3年5月31日付け意見書(乙D101)において、本件ばらつき条項が設置されるきっかけとなった地震等検討小委員会における自身の発言は、活断層から生じる地震動評価はその不確かさ(ばらつき)の考慮について細かく規定されているのと比較して、プレート間地震は、直接震源域にアクセスすることができず、過去の発生履歴に基づいて想定する以外にないことから、想定するパラメータの不確かさ(ばらつき)については特に考慮すべきである旨の記載があった方がいいというものであったものの、当初の趣旨とは異なり、プレート間地震に限定されたものではなく、活断層から生じる地震も含めてすべての想定地震に対して適用される条項として記載されたこと(同11頁)、M0に対して「ばらつき」を上乗せすべきとの趣旨で発言したのではなく、そのような認識を持っていた委員がいたとは認識していないこと(同頁)、震源断層面積Sと地震モーメントM0の関係における「ばらつき」を考慮するためには、震源断層面積Sの「不確かさ」を保守的に評価する方が合理的であり(同12、13頁)、各パラメータ間の独立性が明確に示されていないパラメータに関して重畳考慮することには科学的合理性がないこと(同14頁)などを述べている。(2) 検討ア 原告らは、地震規模を設定するにあたって用いられる松田式及び入倉・三宅式等は、各基礎となった観測データにばらつきがあり、また、あくまで断層から発生する地震の平均像を示したものにすぎないから、本件ばらつき条項は、これらのばらつきを考慮し、予測値(平均値)にばらつきを定量的に上乗せすることを要求しているものと解されるが、本件適合性審査においては、そのようなことはされていないから、過誤、欠落があると主張する。イ この点、原子力規制委員会は、新規制基準の考え方(乙B156・297~299頁)において、本件ばらつき条項は、経験式を用いて地震規模を設定する場合の当該経験式の適用範囲を確認する際の留意点として、経験式は平均値として地震規模を与えるものであることから、当該経験式の適用範囲を単に確認するのみではなく、当該経験式の前提とされた観測データとの間の乖離の度合いまで踏まえる必要があることを意味し、「経験式が有するばらつき」とは、当該経験式とその前提とされた観測データとの間の乖離の度合いのことであるとする。しかしながら、上記(1)アのとおり、原子力安全委員会の地震等検討小委員会において本件ばらつき条項が追加された経緯からすれば、経験式は平均的な数値を求めるものであり、これを上回る数値も存在することから、その不確かさ(ばらつき)を適切に考慮することを求めるものとして、本件ばらつき条項が追加されたというべきである。もっとも、上記(1)イ(ウ)~(カ)のとおり、地震等検討小委員会の主査又は委員として本件ばらつき条項の追加に関与したJ2、J3及びJ4は、地震等検討小委員会における議論において「ばらつき」と「不確かさ」は厳密に区別されずに用いられており、震源断層の面積やアスペリティ位置の不確かさ等全体を通じて不確かさを考慮した保守性を確保していれば、経験式を用いて地震モーメントM0を求める際に定量的な上乗せをする必要性も合理性もなく、むしろ、過剰考慮であり、各パラメータ間の独立性が明確に示されていないパラメータに関して重畳考慮することには科学的合理性がないなどと述べており、本件ばらつき条項が追加されるきっかけとなる発言をしたJ4自身が、地震等検討小委員会においてM0に対して「ばらつき」を上乗せすべきという趣旨で発言したのではなく、そのような認識を持っていた委員がいたという認識もなかったなどと述べていることからすれば、本件ばらつき条項は、経験式を用いたときの不確かさ(ばらつき)の考慮として定量的な上乗せを求めているものとは解されず、全体として不確かさを考慮した保守性の確保を求めているものというべきである。ウ また、原告らが本件ばらつき条項により定量的な上乗せをすべきと主張する入倉・三宅式により求められる地震モーメントM0は、それ自体が地震動計算に直接用いられるものではなく、他のパラメータを算出する過程で用いられる中間的なパラメータであり(乙D4・44頁)、地震モーメントM0を大きくしたからといって、必ずしも評価地点における地震の大きさに寄与する他のパラメータの値が十分に大きくなるとは限らない。レシピは、既往の知見から、アスペリティ部分の平均すべり量を震源断層全体の平均すべり量の2倍としている(乙D4・10頁)ところ、M0への数値の上乗せによりアスペリティ面積比(Sa/S)が50%を超えると、アスペリティ部分のすべり方向と震源断層内のその他の部分のすべり方向が正反対となるような物理的に考え難いモデルを採らないと説明がつかなくなったり、M0のみ数値の上乗せをするとM0に数値の上乗せをせずに同様の計算をした場合に比して、アスペリティの応力降下量が下がり、かえって保守性が下がったりするおそれがあると認められる(弁論の全趣旨・被告第31準備書面35~38頁)。さらに、レシピは、「誰がやっても同じ答えが得られる標準的な方法論」として策定されたものであり(乙D4・1頁)、レシピにない数値の上乗せが想定されているとは考え難いことなどに照らしても、レシピを用いた基準地震動の策定において、M0への定量的な上乗せが求められているとはいえないというべきである。エ そして、上記認定事実(地震)(3)アのとおり、本件各原子炉に係る基準地震動の策定においては、基本ケースとして、保守的に「FO-A~FO-B 断層」と「熊川断層」の連動を想定し断層長さが設定され、「地震発生層の上端深さ・下端深さ」も不確かさを考慮して保守的に設定され、「アスペリティの位置」についても敷地に近くなるような保守的な位置に設定されており、また、参加人は、不確かさを考慮する断層パラメータについて、事前の詳細な調査や経験式に基づき設定できる「認識論的な不確かさ」と、事前の詳細な調査や経験式からは特定が困難な「偶然的な不確かさ」に分類した上、認識論的な不確かさは独立して考慮を行い、偶然的な不確かさは認識論的な不確かさに重畳させて考慮を行っている(例えば、認識論的な不確かさである短周期の地震動レベル1.5倍と偶然的な不確かさである破壊開始点の不確かさの組合せ)と認められる(丙C1・69、128頁)。このように、本件各原子炉に係る基準地震動は、複数の不確かさを重畳的に考慮して策定されており、本件ばらつき条項が求める全体としての不確かさを考慮した保守性の確保がされているものといえる。オ 以上によれば、本件ばらつき条項に関する原告らの主張を採用することはできず、基準地震動の策定に当たり、経験式を適用した値に定量的に上乗せがされていない点をもって、本件設置変更許可処分に係る原子力規制委員会の審査及び判断の過程に看過し得ない過誤、欠落があるとはいえない。4 争点3-(2)(レシピの(ア)法のみならず(イ)法を用いるべきこと)について(1) 争点に係る認定事実ア レシピは推本の地震調査委員会が作成する「全国地震動予測地図」の付録の1つであり、断層帯を個別に取り上げて、詳細に強震動評価を行うことを目的としてまとめられてきたが、多くの断層帯を対象として一括して計算するような場合や、対象とする断層帯における詳細な情報に乏しい場合であっても強震動の時刻歴を計算できるようにするため、平成20年4月に更新された際に、従来のレシピに基づきながらも一部の断層パラメータの設定を簡便化した方法が(イ)法として追加された。(乙D17・2-1頁)イ レシピ改訂に至る経緯(ア) 平成28年7月15日に行われた推本地震調査委員会の強振動評価部会第156回強振動予測手法検討分科会において、レシピから(ア)法を削除することについての提案があり、これに対し反対する意見もあり、議論がされた。(甲B78)(イ) 平成28年9月7日に行われた推本地震調査委員会の強振動評価部会第157回強振動予測手法検討分科会において、J5主査名義の「「震源断層を特定した地震の強震動予測手法」の検証について」と題する資料(甲B79)が配布され、2016年熊本地震を経て、(ア)法より(イ)法の方が安定的である可能性が高いとして、(ア)と(イ)のセクションタイトルを変えること等が提案された。(甲B23、79)(ウ) 推本事務局は、平成28年9月14日に行われた推本地震調査委員会の第152回強振動評価部会において、「「レシピ」の一部記述表現について(案)」と題する資料(甲D159)を配布して説明した。同資料には、(ア)法は得られる知見や情報の質・量が申し分なければ本来あるべき姿であり、(イ)法は得られる知見や情報に多少の精粗があってもある程度安定的に扱える方法であって、得られる知見や情報の質・量とも不完全な現状では、方法としての「詳細さ」と結果としての「信頼性」は必ずしも一致しないので、仮に(ア)法を用いる場合であっても、併せて(イ)法の結果も照合して検討することが必要な場合が多いと思われる旨が記載されている。(甲B25、甲D159)(エ) 推本事務局は、平成28年11月8日に行われた推本地震調査委員会の強振動評価部会第158回強振動予測手法検討分科会において、「「レシピ」の訂正・微修正・補足についての事務局案」(甲B80)と題する資料を配布し、レシピの修正案の「特に現象のばらつきや不確定性の考慮が必要な場合には、その点に十分留意して計算手法と計算結果を吟味・判断した上で震源断層を設定することが望ましい」のうち、「計算手法と計算結果を吟味・判断した上で」とあることについて、(ア)法を使う場合には、例えば、併せて(イ)法についても検討して比較するなど、結果に不自然なことが生じていないか注意しながら検討してほしいという趣旨である旨を説明した。そして、レシピの訂正・微修正・補足についての事務局案を分科会として承認することの提案がされ、特に異議はなかった。(甲B26・8頁、甲B80)(オ) 推本事務局は、平成28年11月15日に行われた推本地震調査委員会の第153回強振動評価部会において、「「レシピ」の訂正・微修正・補足についての事務局案」(甲B82)と題する資料を配布したが、レシピの(ア)法と(イ)法に係る部分については特に異議はなかった。(甲B81、82)(カ) 推本事務局は、平成28年12月9日に行われた第298回推本地震調査委員会において、資料として「震源断層を特定した地震の強震動予測手法(案)」や「「レシピ」の訂正・微修正・補足についての事務局案」(甲B84)を配布して説明し、同委員会は、同事務局案を承認し、同日、レシピを修正した。(甲B20、83・20頁、甲B84)これにより、レシピの(ア)法のタイトルは、「過去の地震記録などに基づき震源断層を推定する場合や詳細な調査結果に基づき震源断層を推定する場合」から「過去の地震記録や調査結果などの諸知見を吟味・判断して震源断層モデルを設定する場合」へ、(イ)法のタイトルは、「地表の活断層の情報をもとに簡便化した方法で震源断層を推定する場合」から「長期評価された地表の活断層長さ等から地震規模を設定し震源断層モデルを設定する場合」へ、それぞれ修正された。(甲B20、84)ウ (ア)法及び(イ)法に関する専門家の意見等(ア) J6は、平成29年4月24日、名古屋高等裁判所金沢支部平成26年(ネ)第126号の証人尋問において、(ア)法を使って(イ)法を使わないという原子力規制委員会の審査は、大変な欠陥である旨を述べている。(甲D102・34頁)(イ) J5は、平成30年5月18日、NHKラジオの番組のインタビューにおいて、2016年熊本地震を受けて、レシピの(ア)法と(イ)法を両方検討し、値がかなり違うようだったらその大きい方を使う方が安全側の想定になるのでそのようにレシピを改訂した旨を述べている。(甲D160、161)(ウ) J3は、「平成30年度原子力規制庁請負調査報告書」(乙D61)において、もともと(ア)法のみから構成されていたレシピに、作業効率の観点等から(イ)法が付け加えられたにすぎないので、レシピにおける(ア)法の評価手法や位置付けは現在も変わっておらず、地震調査委員会が、全国地震予測地図を作成する際などには、多くの活断層(帯)について全国一律に手続化された手法による評価を行うという観点から、一部の例外を除いて一律に(イ)法が使用されている旨を述べている。(乙D61・85頁)(エ) 推本がレシピ(平成29年版)を用いて評価した地震動予測地図2017年版は、(イ)法により評価したものについて、併せて(ア)法による評価を行っていない。(乙D4、18、19)エ 2016年熊本地震の評価等(ア) 2016年熊本地震の震源域である布田川・日奈久断層帯については、主要活断層帯と位置付けられ、2016年熊本地震前から熊本県等が調査を実施していた。(甲D102・18頁)(イ) 推本の地震調査委員会は、平成25年2月1日付け「布田川断層帯・日奈久断層帯の評価(一部改訂)」において、日奈久断層帯は布田川断層帯の布田川区間を含めた広い領域が同時に活動する可能性が考えられ、長さ約100㎞、M8.2程度の地震が発生する可能性があるとしていた。(甲D220・30頁)(ウ) J5は、上記イ(イ)の「「震源断層を特定した地震の強震動予測手法」の検証について」において、実際に起こった地震から求めた震源断層モデルは、長さ45㎞、幅16.5㎞、下端深さ16.0㎞、Mw7.0、地表地震断層は34~35.4㎞となり、布田川・日奈久断層帯北東部の長期評価(2002)により断層長さを約27㎞などとすると、(ア)法は Mj6.9となるのに対し、(イ)法は Mj7.2程度となり、布田川断層帯布田川区間の長期評価(2013)により断層長さを19㎞などとすると、(ア)法は Mj6.6となるのに対し、(イ)法は Mj7.0程度となり、(ア)法が過小評価になっており、その理由として、大地震の震源断層の下端は地震発生層から更に深い部分に及ぶことが多いことや、震源断層は地表には表れない部分が存在し、地表地震断層より長いことが多いことから、震源断層面積が過小評価となるとする。(甲B24・4、8~10頁)(エ) 原子力規制庁技術基盤グループは、平成29年4月26日付け「熊本地震の分析について」において、2016年熊本地震は布田川・日奈久断層帯が活動したものであり、各機関による震源インバーション解析の結果、長さ42~56㎞程度の地下の震源断層が活動したと分析した。(乙D44・2頁)(オ) 推本地震調査委員会強震動評価部会による「2016年熊本地震の観測記録に基づく強震動評価手法の検証について(中間報告)」(中間報告。甲D237)において、本検討が2016年熊本地震の事例解析であるため標準的な強震動予測手法としての妥当性は改めて検討する必要がある(同21頁)とした上で、長期評価(2013)では布田川断層帯布田川区間の活断層長さは約19㎞と推定され(同1頁)、(イ)法に従い震源断層モデル長さは24㎞と設定されていたが、これらの長さは、いずれも2016年熊本地震で出現した地表地震断層の長さである約34㎞よりも短かったこと(同4頁)、地震発生後に得られた様々な観測事実を踏まえて、(ア)法に従い約34㎞を初期震源断層モデルの長さとして初期震源断層モデルを設定すると、地震モーメントが観測値の半分程度となり、最大速度(PGV)の計算値は全体的に過小評価となったこと(同1、3、4、9、10頁)、断層面積を変えずに地震モーメントを2倍又は2.3倍したモデルや震源断層モデルの長さを46又は52㎞に変更したモデルでは、再現性が改善したこと(同10~19頁)などが報告されている。(2) 検討ア 原告らは、地震ガイドによれば、「断層モデルを用いた手法」における震源特性パラメータの設定にあたっては、推本のレシピ等の最新の研究成果を考慮し設定されていることを確認するとされているところ、平成28年に修正されたレシピは、詳細な活断層調査をすれば(ア)法だけを用いればよいということではなく、(イ)法についても計算結果を吟味、判断した上で震源断層を設定すべきという趣旨であるにもかかわらず、本件適合性審査においては、単に(ア)法に依拠するだけで、(イ)法による計算結果を吟味、判断していないから、その審査及び判断の過程に過誤、欠落があると主張する。しかしながら、上記(1)アのとおり、レシピは「全国地震動予測地図」の付録の1つであり、多くの断層帯を対象として一括して計算するような場合や、対象とする断層帯における詳細な情報に乏しい場合であっても強震動の時刻歴を計算できるようにするため、従来のレシピに基づきながらも一部の断層パラメータの設定を簡便化した方法として(イ)法が追加されたものと認められ、(ア)法と(イ)法との間に優劣があるということはできない。また、上記(1)ウ(エ)のとおり、推本がレシピ(平成29年版)を用いて評価した地震動予測地図2017年版においても、(ア)法と(イ)法が併用されているものではない。さらに、レシピ冒頭には、「不確定性を考慮して、複数の特性化震源モデルを想定することが望ましい。」(乙D4・2頁)と記載されているものの、これは、断層モデルを設定する場面において、アスペリティや破壊開始点などの配置を複数考慮することを意味するものと解され、(ア)法と(イ)法の双方により評価することを意味するものとはいえない。イ また、上記(1)イのとおり、レシピの改訂に至る経緯として、J5主査から(イ)法の方が安定的である可能性が高いとして、セクションタイトルの変更が提案され、それぞれのタイトルが修正されたこと、上記(1)ウ(ア)及び(イ)のとおり、複数の専門家が(ア)法及び(イ)法を併用すべきであるとの意見を述べていること、上記(1)エ(オ)のとおり、2016年熊本地震においては、事前に調査をしていたとしても、長期評価(2002)や長期評価(2013)の断層長さを上回る約34㎞の地表地震断層の長さが出現した上、この長さを用いて(ア)法による震源断層モデルを設定しても、観測値より過小評価となることなどが認められる。しかしながら、そもそも基準地震動は、「その供用中に当該耐震重要施設に大きな影響を及ぼす恐れがある地震」による地震動をいい(設置許可基準規則4条3項)、最新の科学的・技術的知見を踏まえ、敷地及び敷地周辺の地質・地質構造、地盤構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から想定することが適切なものとされており(同規則解釈の別記2の5一)、原子力発電所の基準地震動を策定する際には、詳細な調査によって震源断層の詳細な情報を得る必要があるから、震源として考慮する活断層の評価に当たって、調査地域の地形・地質条件に応じ、各種の調査手法を組み合わせて調査した上で、震源として考慮する活断層の長さだけでなく、震源断層の長さ、幅、傾斜角等の詳細な情報を得ることになる。(ア)法は「過去の地震記録や調査結果などの諸知見を吟味・判断して震源断層モデルを設定する場合」に用いられる手法であり(乙D4・3頁)、上記のような詳細な調査で得られた震源断層の情報を全て地震動評価に活用することができ、より直接的に地震動評価に反映することができることから、原子力発電所の基準地震動を策定するに当たり、(ア)法を用いて地震動評価を行うことには合理性があるというべきである。そして、上記(1)ウ(ウ)のとおり、J3は、レシピの解説書である「平成30年度原子力規制庁請負調査報告書」において、(ア)法の位置付けは現在も変わっていないと述べており、レシピ改訂に至る経緯をみても、(ア)法を廃止して(イ)法に一本化したり、(ア)法を用いるときは必ず(イ)法を併用するように議論がまとめられたものとまでは認められず、専門家の間で(イ)法を併用することが必須であるとの科学的知見が確立されているともいえない。また、中間報告は、あくまでも2016年熊本地震の事例解析であり、本件各原子炉敷地の周辺において当てはまるともいえないから、本件適合性審査において、(ア)法のみに依拠して基準地震動を策定していることが不合理であるということはできない。ウ したがって、レシピの(イ)法を併用するべきであったとの原告らの主張を採用することはできず、(ア)法のみに依拠して審査していることをもって、本件設置変更許可処分に係る原子力規制委員会の審査及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。5 争点3-(3)(アスペリティ応力降下量(短周期の地震動レベル)の設定)について(1) 争点に係る認定事実ア レシピ(平成29年版)は、円形破壊面を仮定することが適当でない場合のアスペリティの静的応力降下量Δσa(MPa)について、「Δσa=(S/Sa)Δσ」(Sは震源断層全体の面積(㎢)、Saはアスペリティの総面積(㎢)、Δσは震源断層全体の静的応力降下量(MPa))の関係式から求めることを提案し、アスペリティの面積比(Sa/S)を約22%、震源断層全体の静的応力降下量(Δσ)を3.1MPa、アスペリティの静的応力降下量Δσa を約14.4MPa としている。(別紙11レシピの概要参照(乙D4・10~12頁))イ 東京電力は、平成20年5月22日、原子力安全・保安院に対し、「柏崎刈羽原子力発電所における平成19年新潟県中越沖地震の地震時に取得されたデータの分析及び基準地震動に係る報告書」において、新潟県中越沖地震の際のアスペリティ応力降下量は震源に近いアスペリティから順に25.47MPa、20.84MPa、19.91MPa と解析され、短周期レベルは壇ほか(2001)の経験式の1.56倍(入倉(2008)モデル)、1.78倍(釜江(2007)モデル)、又は1.64倍(東京電力モデル)となり、約1.5~1.8倍であったと報告した。(甲D171・5-22、23、55頁)ウ 原子力安全・保安院は、平成20年5月29日に開かれた原子力安全委員会の第4回耐震安全性評価特別委員会において、新潟県中越沖地震時に取得された地震観測データの分析及び基準地震動について、東京電力から、同月22日、壇ほか式に比べ、震源において通常より1.5倍程度強い揺れを生じる地震であったとの報告を受けたこと、JNESから、同日、同地震について震源特性の影響として、同規模の地震と比べて平均的に1.5倍程度大きかったと推定される(短周期レベル約1.5倍)との報告を受けたことを示した。(乙D62・添付資料1・3頁目、添付資料2・1頁、弁論の全趣旨・被告第22準備書面30頁)エ 原子力安全・保安院は、平成20年9月4日、「新潟県中越沖地震を踏まえた原子力発電所等の耐震安全性評価に反映すべき事項について」において、新潟県中越沖地震で柏崎刈羽発電所の観測地震動が同規模の地震から推定される平均的な地震動と比べて大きかった要因について、震源特性として短周期レベルが平均的なものよりおよそ1.5倍程度大きかったこと及び3つのアスペリティのうちの1つが敷地に近く強い地震波が伝播したことが挙げられると報告した。(甲D170)オ 平成24年に開催された原子力安全・保安院における地震・津波に関する意見聴取会(地震動関係)において、不確かさの考慮として、アスペリティ応力降下量を1.5倍又は20MPa 若しくは25MPa とすることについて議論がされた。(甲B60、62、64)J8は、同年5月29日、第4回地震・津波に関する意見聴取会(地震動関係)において、アスペリティ応力降下量を1.5倍としても何に対して1.5倍をしているのかを考えた方が良い、不確かさを考慮するということでは、新潟県中越沖地震で得られた25MPa という値はそれなりに意味を持つ値と考える、例えば1.5倍又は25MPa の絶対値は検討したらよいが、その大きい方をとって不確かさをみたことにしたほうがよいのではないか、などと発言した。(甲B62・7頁)また、同年8月17日に開かれた第7回地震・津波に関する意見聴取会(地震動関係)で配布された原子力安全・保安院耐震安全審査室作成の「活断層による地震動評価の不確かさの考慮について(考え方の整理案)」には、考慮すべき不確かさとして、応力降下量について1.5倍又は20MPa の大きい方(断層のずれのタイプや地域特性等について十分な検討が行われた場合、これ以外の数値を用いて評価しても良い。)と記載され、その解説には、特に応力降下量が20MPa 以下のサイトは、適切性について再点検が必要と記載されていた。同会合において、委員の一人は、応力降下量の1.5倍というのはある種の不確かさを考えた上積みというので理解できるが、20MPa という数字は根拠が見えなかったので、この具体的数値が出てきた根拠を書いた方が良いことを指摘し、耐震安全審査室長は、20MPa か25MPa かいろいろ議論したが、できる限りその根拠を書けるようにしたいと答えた。(甲B65・37頁、甲B66・1、2頁)カ 原子力規制委員会は、平成25年10月30日、第39回審査会合において、伊方発電所3号機に係るアスペリティの応力降下量の不確かさケースにおいて、アスペリティの面積比にこだわらずに保守的に評価することをコメントしたが、具体的な数値は指示しなかった。四国電力は、平成26年2月12日、従前のアスペリティの応力降下量12.2MPa を1.5倍した18.3MPa から、20MPa まで引き上げた。原子力規制委員会は、平成27年7月15日、パラメータの不確かさを考慮したケースとして、応力降下量を基本震源モデルの1.5倍又は20MPa としたケースを設定した申請内容について設置変更許可処分をした。(甲D176・22、23頁、甲D177・15頁、乙C32・24~26頁)キ J3は、平成25年12月21日、東京大学で開催された専門家フォーラムにおいて、新潟県中越沖地震では短周期レベルの地震動が平均値よりも1.5倍くらい大きかったため、現在は、短周期レベルを1.5倍ぐらい大きく想定して基準地震動を策定しているが、この不確かさが1.5倍でいいのか、もっと大きく2倍としなければならないかという議論がある旨を述べている。(甲D108・7頁)ク J2は、平成26年3月29日、伊方発電所の基準地震動をテーマにした愛媛新聞のインタビューにおいて、四国電力がアスペリティ応力降下量につき不確かさを考慮して1.5倍にしていることについて、明確な根拠はない旨を述べている。(甲D11)ケ 東京電力は、平成28年9月30日に開催された柏崎刈羽発電所6号炉及び7号炉についての新規制基準適合性審査の中で、新潟県中越沖地震の短周期レベルについて、後の知見も踏まえるなどして検討した結果からすれば、ばらつきは認められるものの、その平均は壇ほか式で求めた数値の1.3倍程度であり、不確かさの考慮として1.5倍を見込むことは妥当であると考えられる旨を説明し、この点を踏まえて基準地震動の策定をした。原子力規制委員会は、これを前提として、平成29年12月27日、同発電所の設置変更許可処分をした。(乙C31・133頁、弁論の全趣旨・被告第22準備書面30頁)(2) 検討ア 設置許可基準規則解釈の別記2の4条5項2号⑤及び地震ガイドⅠ.3.3.3(2)は、アスペリティ応力降下量のような支配的パラメータについての不確かさの適切な評価を規定し、地震ガイドⅠ.3.3.2(4)①2)は、「アスペリティの応力降下量(短周期レベル) については、新潟県中越沖地震を踏まえて設定されていることを確認する」と規定するところ、上記認定事実(地震)(3)ア(エ)c(d)~(h)のとおり、参加人は、本件設置変更許可申請において、短周期レベルについて、レシピに示された方法に従い、アスペリティの面積比(Sa/S)を22%とし、震源断層全体の応力降下量(Δσ)を3.1MPa として、「Δσa=(S/Sa)Δσ」の関係式から14.1MPa と算出し、これを基本ケースとし、新潟県中越沖地震の知見を反映してこれを1.5倍した値を不確かさ考慮ケースとして設定している。イ これに対し、原告らは、上記(1)イのとおり、東京電力が平成20年5月22日に原子力安全・保安院に報告した新潟県中越沖地震の評価結果をまとめた資料によれば、同地震のアスペリティ応力降下量(短周期レベル)は壇ほか式の1.5倍よりも大きいこと、壇ほか式のデータセットの中でも、短周期レベルが2倍の線を越えてばらついているものがいくつもあることから、新潟県中越沖地震を踏まえた設定としては、少なくとも1.8倍、できれば2倍程度は必要である旨を主張する。しかしながら、上記(1)ウのとおり、同月29日に開催された原子力安全委員会の第4回耐震安全性評価特別委員会において原子力安全・保安院が示した資料によれば、東京電力及びJNESは、いずれも短周期レベル(応力降下量)を壇ほか式の約1.5倍と報告しており、さらに、上記(1)ケのとおり、東京電力は、平成28年9月30日に開催された柏崎刈羽発電所6号炉及び7号炉についての新規制基準適合性審査の中で、新潟県中越沖地震の短周期レベルについて、後の知見も踏まえるなどして検討した結果からすれば、ばらつきは認められるものの、その平均は壇ほか式の1.3倍程度であり、不確かさの考慮として1.5倍を見込むことは妥当であると考えられる旨を説明している。また、壇ほか式は、ばらつきのある複数の観測データを回帰分析して求めた経験式であるから、その前提とされた個々の観測データとの間にかい離が生ずることは当然であり、基準地震動の設定に当たっては、個々の場面で想定し得る最大の保守性を上乗せすることまでが求められるということはできず、各種の不確かさや保守性が適切に考慮されていれば合理性を有すると解されること、本件各原子炉施設の敷地周辺において、壇ほか式で求められる平均的・標準的な姿よりも短周期レベルが大きくなるような地域性が存在する可能性をうかがわせる特段の事情も認められないことに照らせば、データのばらつきを考慮して上乗せをすべき必要性があったともいえない。なお、上記(1)オ、キ及びクのとおり、専門家の中には不確かさの考慮として1.5倍が妥当であるかについて議論があることがうかがわれるが、上述したところによれば、新潟県中越沖地震を踏まえた考慮として1.5倍とすることでは不十分であるとの科学的な知見が確立されているとはいえない。したがって、参加人が短周期のアスペリティ応力降下量を壇ほか式の1.5倍としたことが不合理であるとはいえず、地震ガイドⅠ.3.3.2(4)①2)の規定に照らして、不十分であったともいえない。ウ 原告らは、参加人が採用したアスペリティ応力降下量14.1MPa は、レシピにおいて「既往の調査・研究成果とおおよそ対応する数値」とされた「約14.4MPa」より小さく、これを1.5倍しても21.15MPa にとどまり、新潟県中越沖地震を踏まえたアスペリティ応力降下量の設定とは到底いえない旨主張する。しかしながら、上記(1)アのとおり、レシピは、円形破壊面を仮定することが適当でない場合のアスペリティの応力降下量(Δσa)の設定方法について、アスペリティの面積比(Sa/S)を約22%とし(乙D4・10頁)、震源断層全体の応力降下量(Δσ)を3.1MPa として(乙D4・12頁)、「Δσa=(S/Sa)Δσ」の関係式(乙D4・11頁)から求めることを提案しているところ、そのとおり計算すれば、アスペリティの応力降下量は約14.1MPa となるから、レシピに記載されている「約14.4MPa」との記載は誤記であるとうかがわれ、他方、参加人が採用した数値はレシピに沿って算定されたものと認められる。したがって、参加人が、アスペリティ応力降下量を14.1MPa としたことが、レシピと異なる不合理なものとはいえず、原告らの主張は理由がない。エ 以上のとおり、本件設置変更許可申請における参加人のアスペリティの応力降下量(短周期の地震動レベル)の設定が不合理であったとはいえず、これを妥当とした原子力規制委員会の審査及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。6 争点3-(4)-ア(繰り返しの揺れの想定が欠如した具体的審査基準の不合理性)について(1) 争点に係る認定事実ア 地震等検討小委員会における議論(ア) 上記認定事実(地震)(2)ア(ア)の地震等検討小委員会における検討のうち、平成24年2月16日の会合(甲B75)において、大きな規模の地震が繰り返し起きた場合についての考慮の要否が議論された。具体的には、委員の一人から、大きな地震が起きた後に新たな活動が発生することを想定した検討が必要ではないかとの問題提起がされ(同25頁)、複数の委員から、連続発生に関しては基本的に設計上個別の地震として基準地震動をどうするかという話であり、大きい方で決まるため、連続発生というのは余り考慮する必要はないという意見(同26、27頁)や、連続発生による非線形の変形がたまっていくような計算も検討する必要があるという意見(同28、29頁)が出され、J2主査は、①基準地震動レベルの地震により弾性領域を超えて塑性領域に達し、建屋がある程度損傷を受けている状態で、数日から1か月以内に同レベルの地震が来た場合にどうなるかという問題と、②同時発生によって基準地震動そのものをかさ上げする必要があるかという問題という2つの問題があると整理した(同36頁)。(イ) 地震等検討小委員会は、平成24年3月14日付け「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針及び関連の指針類に反映させるべき事項について(とりまとめ)」において、平成18年耐震指針の改訂案や耐震手引きの改訂案を取りまとめ、原子力安全基準・指針専門部会は、平成24年3月、これらの改訂案を原子力安全委員会に対して報告したところ、ここでは、多種多様な地震像の検討として、地震の連続発生が主要な論点として議論された。(乙B27)①余震や誘発地震に関して、1つの地震の揺れが収まった後に発生する地震(地震の連続発生)の考慮については、基準地震動Ssに影響がないことから、それぞれ個別の地震動として検討されるべきであるとの意見や、施設の設計においては、策定された地震動を連続で入力し、解析することが可能であり、繰り返し荷重として施設の設計において考慮されるべき事項であるとの意見があり、地盤や施設の非線形応答の永久ひずみ(変形)を考慮した検討の必要性等は今後の課題とされるにとどまり(同3頁)、地震等検討小委員会が取りまとめた耐震指針の改訂案(同13~25頁)や耐震手引きの改訂案(同27頁以下)には、この点に関する記載は盛り込まれなかった。他方、②地震が同時的に発生する場合については、同じ地震発生様式における連動等は考慮されているが、ある地震の継続時間中にその地震がトリガーとなって異なる地震発生様式の地震が発生する可能性は考慮されていないため、これを考慮すべきか議論され、地震発生に伴う応力伝播によって、異なる発生様式の地震が発生する可能性の検討は、科学的知見に基づいて発生可能性を検討し、検討結果を踏まえて評価を行う必要があるとして、その旨を規定すべきとされ(同3、4頁)、耐震手引きの改訂案に、「地震発生に伴う応力伝播によって異なる発生様式の地震が発生する可能性について検討すること。」という一文が追加された(同39頁)。イ 2016年熊本地震について(ア) 2016年熊本地震では、M7.3の地震(平成28年4月16日午前1時25分)の約28時間前にM6.5の地震(同月14日午後9時26分)が発生し、震度7が観測される揺れが2回発生した。その後も最大震度が6強の地震が2回、6弱の地震が3回発生し、震度5弱以上の地震は19回に及んだ。(弁論の全趣旨・原告ら準備書面(8)3、4頁)(イ) 2016年熊本地震において、熊本県益城町の観測点では、平成28年4月14日及び同月16日に震度7が観測された。地震動は軟弱な表層地盤で増幅される性質があるところ、2016年熊本地震において最大の加速度を観測した同月14日の地震の KiK-net 益城観測点(KMMH16)の観測記録(最大1399gal(上下))は、火山灰質粘土や砂からなる軟弱な地盤(S波速度約0.1~0.2㎞/s 程度)における地表観測記録であるのに対し、同観測点の地下-252mの地震基盤相当の硬質な岩盤(S波速度約2.7㎞/s)に設置された地震計では、上下方向で最大127gal、水平方向(北南方向)最大237gal、水平方向(東西方向)最大178gal であった。また、同月16日の地震の KiK-net 益城観測点(KMMH16)の観測記録は、最大1157gal(水平方向(東西方向))であるのに対し、同観測点の地下-252mの地震基盤相当の硬質な岩盤に設置された地震計では、上下方向で最大196gal、水平方向(北南方向)最大159gal、水平方向(東西方向)最大243gal であった。(乙D43、44・参考1の1、5、6頁)(2) 検討ア 原告らは、本件設置変更許可処分、本件工事計画認可処分及び本件運転期間延長認可処分について、女川発電所における東北地方太平洋沖地震等の各観測記録、地震等検討小委員会における議論状況、2016年熊本地震の発生状況等を根拠として、本件各原子炉施設敷地において、基準地震動を超過する地震動が間を置かずに繰り返し発生する可能性があるにもかかわらず、これを想定していない具体的審査基準は不合理である旨主張する。しかしながら、女川発電所の当時の基準地震動Ssを超えた最大地震加速度を観測した東北地方太平洋沖地震等のうち、平成23年3月11日の東北地方太平洋沖地震はプレート間地震、同年4月7日の宮城県沖の地震は海洋プレート内地震(スラブ内地震)であり、これをもって同じ様式の基準地震動又はこれに匹敵する地震が繰り返し発生した例ということはできない。また、上記2(2)イのとおり、東北地方太平洋沖地震等による女川発電所での観測記録は、東北電力が示した同発電所の基準地震動Ssの応答スペクトル(平成18年改訂後の耐震設計審査指針を踏まえたもの)を一部の周期帯で超過したが、その他の周期帯では概ね同程度以下であり、これらの地震動により女川発電所において耐震重要施設に損傷が生じたとは認められない。したがって、女川発電所における東北地方太平洋沖地震等の各観測記録をもって、新規制基準に基づく基準地震動を複数回超過すること(あるいは基準地震動に匹敵するような揺れが時間をおかずに発生すること)を具体的に示す事例があるとはいえない。次に、上記(1)アで認定した地震等検討小委員会における議論の経過によれば、地震の連続発生の考慮については、地盤や施設の非線形応答の永久ひずみ(変形)を考慮した検討の必要性等が今後の課題とされるにとどまり、地震等検討小委員会が取りまとめた耐震基準の改定案や耐震手引きの改訂案にこの点に関する記載は盛り込まれなかったものであり、このような地震等検討小委員会における議論をもって、繰り返しの揺れを想定していない新規制基準が不合理ということはできない。また、上記(1)イのとおり、2016年熊本地震においては、熊本県益城町の観測点(KMMH16)において、平成28年4月14日及び同月16日に震度7が観測されているが、この観測点は、火山灰質粘土や砂からなる軟弱な地盤(S波速度約0.1~0.2㎞/s 程度)における地表観測記録であり、同観測点の地下-252mの地震基盤相当の硬質な岩盤(S波速度約2.7㎞/s)に設置された地震計では、最大243gal にとどまっており、2度の震度7の観測は、軟弱な地盤により増幅された結果と考えられる。これに対し、発電用原子炉施設のうち耐震重要施設の耐震設計において問題となる基準地震動は、浅部地下構造より下の解放基盤表面における、浅部地下構造による影響がない地震動として定義されるものであるから(設置許可基準規則解釈の別記2の5一)、2016年熊本地震で観測された記録は、地下の固い地盤において比較すると、発電用原子炉施設のうち耐震重要施設の耐震設計に当たって策定される基準地震動に匹敵するほど大きな地震動ではなかったというべきである。したがって、2016年熊本地震における観測記録は、基準地震動に匹敵する地震動が繰り返し発生する場合を想定すべき根拠にはならない。イ 原告らは、設置許可基準規則及び設置許可基準規則解釈は、基準地震動による地震動により、弾性限界を超え、塑性ひずみが生じ得る場合を容認しつつ、地震により安全機能が損なわれるおそれがないことについて、基準地震動による地震力のみが考慮されており、基準地震動に匹敵する強い前震や余震が発生した場合についての考慮はされていないから、基準地震動に匹敵する地震動が繰り返し起きると、安全機能が損なわれるおそれがあるなどと主張する。しかしながら、弾性限界を超える地震動が発生した場合、発電用原子炉施設は塑性変形の領域となるが、上記2(2)アで説示したとおり、基準地震動が各種の不確かさを踏まえて保守的に策定される結果、基準地震動との応答スペクトルの比率の値が、目安として0.5を下回らないような値で、工学的判断に基づいて設定される弾性設計用地震動(設置許可基準規則解釈の別記2の4一)についても保守性をもって策定されることとなり、弾性設計用地震動それ自体も相当程度強い地震動となる。また、設置許可基準規則4条1項は、設計基準対象施設の耐震設計に係る規制上の要求として、「設計基準対象施設は、地震力に十分に耐えることができるものでなければならない。」とし、この「地震力に十分に耐えること」を満たすために、Sクラスの設計基準対象施設について「建物・構築物については、常時作用している荷重及び運転時に作用する荷重と、弾性設計用地震動による地震力又は静的地震力を組み合わせ、その結果発生する応力に対して、建築基準法等の安全上適切と認められる規格及び基準による許容応力度を許容限界とすること。」、「機器・配管系については、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時に生じるそれぞれの荷重と、弾性設計用地震動による地震力又は静的地震力を組み合わせた荷重条件に対して、応答が全体的におおむね弾性状態に留まること。」を求めている(設置許可基準規則解釈の別記2の3一)。さらに、設置許可基準規則4条3項に関し、設置許可基準規則解釈の別記2の6一において、基準地震動に対する耐震重要施設の設計に当たり、①建物・構築物については、常時作用している荷重及び運転時に作用する荷重と基準地震動による地震力との組合せに対して、当該建物・構築物が「構造物全体としての変形能力(終局耐力時の変形)について十分な余裕を有し、建物・構築物の終局耐力に対し妥当な安全余裕を有していること。」が求められ、また、②機器・配管系については、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時に生じるそれぞれの荷重と基準地震動による地震力を組み合わせた荷重条件に対して、このような「荷重により塑性ひずみが生じる場合であっても、その量が小さなレベルに留まって破断延性限界に十分な余裕を有し、その施設に要求される機能に影響を及ぼさないこと」が求められているとおり、規制基準上の許容値について、許容限界値(建物・建築物の終局耐力、機器・配管系の破断延性限界)に対して十分な余裕を持たせて規定している。さらに、上記2(2)アのとおり、地震ガイドが設置(変更)許可段階における耐震設計方針を定め、耐震工認審査ガイドが工事計画認可段階における耐震設計の確認事項を定めており、これらも十分な保守性を持った内容といえる上、新規制基準の考え方においても耐震設計上には複数の余裕が含まれているとの考え方が示されている。したがって、弾性限界を超える地震動が繰り返し起きたとしても、直ちに発電用原子炉施設のうち耐震重要施設の安全機能が損なわれるおそれがあるとは認められないから、これと異なる原告らの主張は理由がない。ウ 以上によれば、基準地震動を超過する地震動が間を置かずに繰り返し発生する可能性があるにもかかわらず、これを想定していない具体的審査基準は不合理であるとの原告らの主張は理由がない。7 争点3-(4)―イ(蒸気発生器伝熱管の耐震性)について(1) 争点に係る認定事実ア 参加人は、本件工事計画認可申請において、蒸気発生器伝熱管の基準地震動Ssによる1次応力評価結果として、高浜発電所1号炉につき、基準地震動Ssによる1次応力発生値は324MPa、Ss用評価基準値は481MPa、弾性設計用評価基準値は263MPa、高浜発電所2号炉につき、基準地震動Ssによる1次応力発生値は316MPa、Ss用評価基準値は481MPa、弾性設計用評価基準値は263MPa と記載した。(弁論の全趣旨・原告ら準備書面(8)11頁)イ 耐震設計における応力分類物体に力(荷重)がかかると、物体内部にそれに対応する力(応力)が発生する。この応力には、1次応力、2次応力及びピーク応力が存在する。1次応力は、内圧や地震力などの外荷重により機器内部に発生する応力であり、1次応力は更に膜応力(外力によって断面に発生する平均応力)と曲げ応力(モーメントによって断面内で引っ張りから圧縮に変化する応力)に分けられる。この1次応力は、機器の変形やひずみにかかわらず一定の力でかかり続けることから、降伏点を超えた過大な1次応力が発生すると、延性破壊(1次膜応力によって生じる。)や塑性崩壊(1次膜応力+1次曲げ応力によって生じる。)を引き起こすおそれがある。他方、2次応力とは、例えば物体が熱により膨張しようとする際に支持金具で拘束されることによって発生する応力であり、ピーク応力とは、物体の断面などが変化する部分に発生する応力集中により、1次応力又は2次応力に付加される応力である。2次応力やピーク応力は、大きな変形を起こすものではないが、繰り返し発生する場合には、疲労破損を引き起こすおそれがある。(乙E52・82頁)各応力分類の許容応力は、材料の強度(降伏応力、引張強さ等)にそれぞれ所定の安全率を乗じる等の方法により規定されており(1次+2次応力+ピーク応力を除く。)、構造や寸法に左右されるものではない。(乙E32・24頁、乙E33・87頁)設計降伏応力や設計引張強さは、日本機械学会「発電用原子力設備規格材料規格」に規定されているところ、材料の各温度における引張試験データの下限値(例えばデータの99%信頼幅の下限値)として設定されており(乙E32・24頁)、現実の材料の降伏点、引張強さに対して保守性を有している。また、別紙13機器・配管系の工事計画認可に関する JEAG4601の概要のとおり、JEAG4601・補-1984 において、基準地震動と運転状態による荷重の組合せに対する1次一般膜応力の許容応力は、設計引張強さの2/3とされており、設計引張強さに対し保守的に設定されている。(乙B60・23頁、乙E32・24、25頁、乙E33・87頁、乙E53・82頁)(2) 検討原告らは、上記(1)アのとおり、本件各原子炉施設の蒸気発生器伝熱管の基準地震動における1次応力(膜応力+曲げ応力)発生値は、弾性設計用地震動に対して設定された評価基準値(許容値)を上回っており、基準地震動に対しては塑性ひずみの発生を容認しているため、さらに基準地震動に匹敵する地震が発生すると、塑性変形を引き起こす可能性が否定できず、このような繰り返しの荷重についての考慮を要求しない本件工事認可処分は、原子力規制委員会の審査及び判断の過程で用いられた具体的審査基準に不合理な点があり違法であると主張する。しかしながら、上記6(2)で説示したとおり、これまでに基準地震動又はこれに匹敵する地震が繰り返し発生する可能性をうかがわせるような事例があったとは認められず、基準地震動及び弾性設計用地震動自体が多数の保守性を考慮した相当程度強い地震動として策定され、耐震設計においても各種の保守性が確保されているから、新規制基準において、基準地震動又はこれに匹敵する地震が繰り返し発生することが想定されていないことが不合理であるとはいえない。また、上記(1)イのとおり、許容応力は、材料の強度(降伏応力、引張強さ等)にそれぞれ所定の安全率を乗じる等の方法により規定されており、構造や寸法に左右されるものではないから、基準地震動が発生して弾性設計用地震動に対して設定された評価基準値を上回り、塑性ひずみが生じたとしても、その構造の変化が直接許容応力に影響するとはいえない。さらに、上記(1)イのとおり、設計引張強さや設計降伏応力は、材料の各温度における引張試験データの下限値(例えばデータの99%信頼幅の下限値)として設定されており、現実の材料の降伏点、引張強さに対して保守性を有している上、JEAG4601・補-1984 において、基準地震動と運転状態による荷重の組合せに対する1次一般膜応力の許容応力は、設計引張強さの2/3とされており、設計引張強さに対し保守的に設定されている。したがって、基準地震動後に引き続きこれに匹敵する地震動が発生し、本件各原子炉施設の蒸気発生器伝熱管が塑性変形を引き起こすおそれがある旨の原告らの主張は理由がなく、繰り返しの揺れを想定していないことをもって蒸気発生器伝熱管の耐震評価に係る具体的審査基準に不合理な点があるとはいえない。8 争点3-(4)―ウ(1次冷却設備配管の耐震性)について(1) 争点に係る認定事実ア 本件各原子炉施設について、ピーク応力強さに基づいて地震時の揺れの想定繰返し回数を設定する際には、水平方向と鉛直方向のそれぞれの繰返し回数を算定して大きい方の値を採用し(乙C23及び24・各28頁)、弾性設計用地震動の揺れの想定繰返し回数の算定においては、弾性設計用地震動に対するピーク応力強さの代わりに基準地震動に対するピーク応力強さを用い(乙C23及び24・各29頁)、最終的に地震時の揺れの想定繰返し回数を設定するに当たっては、上記のピーク応力強さに基づいて算定された想定繰返し回数より大きな値(基準地震動時と弾性設計用地震動のいずれについても200回)が設定されている。(乙C23及び24・各28、29頁)イ 参加人は、低サイクル疲労評価における過渡回数について、起動に係る平成21年度末の起動実績回数が64回(高浜発電所1号炉)及び47回(高浜発電所2号炉)であるのに対し、設計上の想定繰返し回数は120回とした。(乙C22・12、16頁)ウ 参加人は、本件工事計画認可申請の申請書(補正後)において、1次冷却設備配管の基準地震動Ssによる評価結果について、高浜発電所1号炉につき、疲労累積係数を0.71439、高浜発電所2号炉につき、疲労累積係数を0.87703と記載した。(弁論の全趣旨・原告ら準備書面(8)24、25頁)エ 疲労累積係数について疲労累積係数の算出に当たっては、機器・配管系に加えられる荷重(地震力等)の実際の繰返し回数と繰返しピーク応力強さに対応する許容繰返し回数の比が用いられる。このうち、許容繰返し回数の設定に当たっては設計疲労線図が用いられるが、これは通常、平滑な丸棒試験片の単軸引張圧縮疲労試験データに基づいてその回帰分析を行って設定した曲線(最適疲労曲線)を、環境効果、寸法効果及びデータのばらつきを考慮して、最適疲労曲線に対して繰返し回数方向(横軸)に1/20、応力振幅方向(縦軸)に1/2の安全率を乗じて設定される。(乙E32・14、15頁、弁論の全趣旨・被告第18準備書面16頁)オ 原子力規制委員会が実施する機器・配管系の耐震安全性評価に係る安全研究の一環として、原子力規制庁と学校法人東京電機大学の共同研究の成果を報告した論文である藤原啓太ほか(2023)は、配管要素の試験体を対象とした振動試験の結果に基づき、現行基準に基づく設計疲労評価手法は、疲労累積係数を10倍以上保守的に評価していると報告している。(乙E119、120、乙F61、弁論の全趣旨・被告第48準備書面14、15頁)(2) 検討原告らは、本件工事計画認可申請に係る審査に際し、1次冷却設備配管の耐震評価における疲労累積係数が、高浜発電所1号機につき0.714、高浜発電所2号機につき0.877と高い値となっており、強い余震等に続けて襲われると、許容値の1を超えてしまう可能性があり、このような繰り返しの荷重についての考慮を要求しない具体的審査基準は不合理であると主張する。しかしながら、上記6(2)で説示したとおり、新規制基準において、基準地震動又はこれに匹敵する地震が繰り返し発生することが想定されていないことが不合理であるとはいえず、基準地震動及び弾性設計用地震動自体も多数の保守性を考慮した相当程度強い地震動として策定され、上記7(2)のとおり、それに対する耐震設計の段階においても、設計引張強さや設計降伏応力が保守的に設定されているなど、保守性が確保されている。さらに、上記(1)エのとおり、疲労破損の防止について、許容繰返し回数の設定に当たって用いられる設計疲労線図は、最適疲労曲線に対して繰返し回数方向(横軸)に1/20、応力振幅方向(縦軸)に1/2の安全率を乗じて設定されたものである上、上記(1)ア及びイのとおり、本件各原子炉施設について、ピーク応力強さに基づいて地震時の揺れの想定繰返し回数を設定する際の繰返し回数、弾性設計用地震動の揺れの想定繰返し回数の算定におけるピーク応力強さ、最終的な地震時の揺れの想定繰返し回数の各段階において保守的な数値を設定し、低サイクル疲労評価における過渡回数についても起動実績回数よりも多い設計上の想定繰返し回数とするなど、保守的な設定をしており、藤原啓太ほか(2023)においても、現行基準に基づく設計疲労評価手法は、疲労累積係数を10倍以上保守的に評価したものであることが報告されている。したがって、本件各原子炉施設の1次冷却設備配管について、基準地震動後に引き続きこれに匹敵する地震が生じて破損するおそれがある旨の原告らの主張は理由がなく、本件工事計画認可処分に係る審査及び判断の過程で用いられた具体的審査基準に不合理な点があるとはいえない。9 争点3-(4)-エ(格納容器伸縮式配管貫通部の耐震性等)について(1) 原告らは、参加人が、平成27年1月7日の原子力規制庁による「高浜発電所原子炉施設保安規定変更認可申請(高浜発電所2号炉の高経年化技術評価書等)に関する事業者ヒアリング⑦」において提出した資料(平成27年保安規定変更認可処分に関するもの)によれば、高浜発電所2号機の原子炉格納容器の伸縮式配管貫通部(主蒸気ライン貫通部)の耐震評価は、通常運転時と基準地震動時を合計すると疲労累積係数0.793となっており、余震等により基準地震動の3割程度の影響があれば許容値を超えるおそれがあると主張する。しかしながら、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告らの指摘する数値は、平成27年保安規定変更認可申請に係る資料に記載されたものであって(甲C27・5、9枚目、乙C25、26、弁論の全趣旨・原告ら準備書面(8)26頁)、参加人は、平成28年3月31日、本件運転期間延長認可申請に関する事業者ヒアリングにおいて、高浜発電所2号機の主蒸気系統及び主給水系統伸縮継手について、基準地震動を踏まえ設備の耐震裕度を向上させる目的で、耐震補強として取替えを実施すると説明し(乙C27、弁論の全趣旨・被告第18準備書面34頁)、本件運転期間延長認可申請に係る平成28年4月27日付け耐震安全評価書における耐震補強工事後の疲労累積係数は0.202とされ、1を大きく下回っている(甲C27・4枚目)と認められる。したがって、原告らの主張はそもそもその前提を欠くものであって理由がない。(2) 原告らは、参加人が、本件運転期間延長認可申請に係る審査において提出した保守管理に関する方針書において、「疲労評価における実績過渡回数の確認を継続的に実施し、運転開始後60年時点の推定過渡回数を上回らないことを確認する。」と記載していることについて、地震が発生した後に実績過渡回数を確認するのでは遅く、疲労評価は繰り返しの揺れの影響を予め見込んだ評価を実施しなければならないと主張する。しかしながら、原告らの上記主張は、基準地震動後に引き続きこれに匹敵する地震が生じて機器や配管が破損するおそれがあることを前提とするものというべきところ、上記6(2)及び7(2)で説示したとおり、新規制基準において、基準地震動又はこれに匹敵する地震が繰り返し発生することが想定されていないことが不合理であるとはいえず、基準地震動及び弾性設計用地震動自体も多数の保守性を考慮した相当程度強い地震動として策定され、それに対する耐震設計の段階においても、設計引張強さや設計降伏応力が保守的に設定されているなど、保守性が確保されており、さらに、疲労破損の防止についても繰返し回数及び応力振幅についてそれぞれ安全率を乗じて設定されるなど、保守的な設定がされている。したがって、本件各原子炉施設の伸縮式配管貫通部について、基準地震動後に引き続きこれに匹敵する地震が生じて破損するおそれがあることを前提として疲労評価は繰り返しの揺れの影響を予め見込んだ評価を実施しなければならない旨の原告らの主張は理由がなく、本件運転期間延長認可処分に係る審査及び判断の過程で用いられた具体的審査基準に不合理な点があるとはいえない。(3) 原告らは、伸縮式配管貫通部の耐震評価に関して本件保安規定変更認可処分の違法事由としても主張する。しかしながら、上記(1)のとおり原告らが指摘する事業者ヒアリングの資料(甲C27・5枚目)は、平成27年保安規定変更認可申請に関するものであり、本件保安規定変更認可処分とは別の処分の審査の一環として行われたものであるから、本件保安規定変更認可処分の違法事由になるとはいえない。10 争点3-(5)(1次冷却設備の減衰定数を3%としたこと)について(1) 争点に係る認定事実ア 1次冷却設備の減衰定数に関する審査の経緯(ア) 本件各原子炉施設及び美浜発電所3号機の蒸気発生器は、中間胴及び下部に水平サポートを有する2点支持である。本件各原子炉施設及び美浜発電所3号機の各蒸気発生器の全体構造、上部支持構造及び下部支持構造は同一ではないが、蒸気発生器サポートの配置や支持点数等で相違はない。(甲C14・6頁、甲C19・5頁、乙C58・318~320頁)(イ) 参加人は、平成27年12月10日、原子力規制委員会の第305回審査会合において、本件各原子炉施設の耐震設計について、高浜発電所3号機及び4号機の申請で適用したものと同様の耐震設計手法を用いないことについて、高浜発電所3号機及び4号機以降に設置された原子力発電所については、「高耐震」という設計のためラジアルサポートが6つ設置されているのに対し、本件各原子炉施設については、4つしか設置されておらず、同設備の1個あたりにかかる荷重負担が大きいことや、基準地震動が大きくなったことから、従来の耐震設計手法によれば、耐震健全性が示せないと述べた。(甲C15・67、68頁)(ウ) 参加人は、平成27年12月17日、第310回審査会合において、本件各原子炉施設及び美浜発電所3号機のいずれも、1次冷却設備(1次冷却ループ)の設計用減衰定数について、新規制基準施行以前の工事計画認可時は1%としていたものを、3%に変更する旨を説明した。(乙C59・13頁)この時点では、3点支持の蒸気発生器については、1次冷却設備の設計用減衰定数を3%と設定した工事計画認可の例があったが、2点支持の蒸気発生器については、新規制基準施行前に、1次冷却設備の設計用減衰定数を1%と設定した工事計画認可の実績はあるものの、新規制基準施行の前後を通じ、設計用減衰定数を3%と設定した例はなかった。(乙C58・195頁)これに対して、原子力規制庁の職員は、JEAG4601-1991 追補版は、1次冷却設備の設計用減衰定数を3%としているが、同値は、1次冷却設備を構成する蒸気発生器が上部、中間及び下部に水平サポートを有する3点支持蒸気発生器の場合の試験結果に基づく減衰定数であるのに対し、本件各原子炉施設及び美浜発電所3号機の蒸気発生器は2点支持蒸気発生器であることから、耐震工認審査ガイド4.4.1(4)②及び③の後段の「既往の研究等における試験等により妥当性が確認されている設定等を用いる場合は、適用条件、適用範囲に留意する。」との記載に則る必要があるとして、2点支持蒸気発生器の場合に1次冷却設備の設計用減衰定数3%を適用することの妥当性やその適用可能性の説明が必要不可欠である旨を指摘した。(乙C59・12、13頁)(エ) 参加人は、上記第310回審査会合における指摘を踏まえて、平成28年1月14日、第317回審査会合において、国内外のデータ、特に2点支持が主流の米国における2点支持蒸気発生器の減衰定数に関するデータを集積し、本件各原子炉施設及び美浜発電所3号機の1次冷却設備への設計用減衰定数3%の適用性を説明する方針を示した。(乙C60・29、30頁、乙C61・別紙7)これに対して、原子力規制庁の職員は、海外知見から本件各原子炉施設及び美浜発電所3号機への適用性を説明するのであれば、本件各原子炉施設や美浜発電所3号機の地震動に対する海外知見の「包絡性」(有用性)、海外知見と本件各原子炉施設や美浜発電所3号機の支持構造の差を踏まえ、「減衰機構別に寄与」(各機器の減衰定数)を積み上げた場合の減衰定数の値といった定量分析等を確認する上で、基幹的かつ重要な事項の説明のための情報が必要である旨を指摘するとともに、本件各原子炉の運転期間満了日(平成28年7月7日)までのスケジュールを踏まえ、同論点に対する効率的な対応としての観点から、実機を用いた加振試験の実施の可能性について示唆した。(乙C60・18、19、30頁)(オ) 参加人は、平成28年1月26日、第323回審査会合において、原子力規制庁から示唆があった実機を用いた加振試験に関し、国内外のデータの集積及び分析により、1次冷却設備の設計用減衰定数3%の適用可能性は説明可能であるとした上で、当該説明を補足・補完するためのものとして実機での加振試験を実施する意向を示し、加振機による定常加振とハンマーによる打撃加振の両方の実施を検討している旨を説明した。(乙C62・5~10頁、乙C63・3~8頁)これに対して、原子力規制庁の職員は、参加人によるこれまでの説明では、米国での設計の考え方、減衰定数の適用範囲が明確でないとして、「実機による加振試験」は必須であるとの見解を示したところ、参加人は、これを了承した。(乙C62・25頁)(カ) 原子力規制庁は、従前の方針を変更して「実機による加振試験」を実施する見込みになったこと、運転期間満了日が近づいていること等の状況に鑑み、平成28年2月10日に開催された平成27年度第55回原子力規制委員会において、本件各原子炉施設に係る審査の状況等を原子力規制委員会に報告した。原子力規制庁は、参加人が実施予定の加振試験の結果を含め、後段規制において設計用減衰定数の適用性を確認する必要があるとの見解を示し、今後、設置変更許可を行った場合であっても、参加人により実施予定の加振試験の結果、設計用減衰定数が3%に達しない場合には、工事計画認可ができないという状況もあり得ることを説明した。原子力規制委員会は、原子力規制庁に対し、1次冷却設備の設計用減衰定数の適用性の確認方針については、審査の状況・進展を踏まえて検討の上、最終的には原子力規制委員会に諮るよう指示した。(乙C66・9~15頁、乙C67・1頁)(キ) 参加人は、平成28年2月18日、第331回審査会合において、従前の方針を変更し、美浜発電所3号機の実機(蒸気発生器)を用いた加振試験(本件加振試験)を実施し、当該試験結果を基に、2点支持蒸気発生器の1次冷却設備の設計用減衰定数3%の妥当性を説明する方針を説明した。(乙C64・5~7、14頁、乙C65・2頁)(ク) 原子力規制庁は、平成28年3月23日に開催された平成27年度第62回原子力規制委員会において、本件各原子炉施設の1次冷却設備の設計用減衰定数の適用性に関する確認プロセスについて次の①~④のとおり整理し、原子力規制委員会は、これを了承した。①工事計画認可の審査においては、工事計画に示された減衰定数を基に設計する設備が技術基準に適合することを確認する。②本件各原子炉施設においては、工事計画に示される減衰定数(3%)に基づき評価される機器等の許容応力に対する余裕が、従前の減衰定数(1%)に基づく評価に比べ小さくなることが見込まれるため、設計における若干の相違や施工上のばらつきにより発生する減衰定数の不確かさに対して保守性を有する値であるかを確認する必要がある。③工事計画においては、今後、必要な工事実施後の状態において今回の減衰定数を適用するものであること、工事完了後の実機(本件各原子炉施設)を対象とした加振試験を実施し、減衰定数を確認することを明記することを要求する。④使用前検査においては、必要な工事実施後、実機(本件各原子炉施設)を対象に加振試験を実施して取得したデータにより、工事計画における減衰定数を確認する。(以上につき、乙C68・1頁、乙C69・3、6~8、10頁)(ケ) 原子力規制委員会は、平成26年5月2日の平成26年度第6回原子力規制委員会において、新規制基準施行後の工事計画の審査及び使用前検査についての対応方針を検討し、工事計画認可に係る審査については、「事業者の実施した評価が、既に認可された工事計画で用いられたものと同じ手法及び条件の場合には、入力と結果を確認することとし、新たな手法等である場合には、それに先立ち、その手法等の妥当性と適用可能性を確認する。」とし、使用前検査については、「安全機能を有する主要な設備については、これまでの実績を踏まえた適切な手法で検査を実施する一方、それ以外の設備については、使用前検査において、事業者において認可された工事計画に従って工事が行われたことを記録により包括的に確認するとともに、抜き取りにより現物を確認する等の手法を用いる。」と整理するとともに、工事計画認可後に炉規法43条の3の9第3項2号「発電用原子炉施設が43条の3の14の技術上の基準に適合するものであること」に違反することが判明した場合は、違反の内容・程度及び施設の状況等を踏まえつつ、同法43条の3の23第1項に基づく施設使用停止等命令の発出を行うこと等により対応するとしていた。(乙B141、142・14、15、19頁)(コ) 参加人は、平成28年4月14日、第349回審査会合において、工事計画に示す1次冷却設備の設計用減衰定数の妥当性について、下記イのとおり実施した本件加振試験の内容及び結果をもって、蒸気発生器頭頂部変位2.0㎜以上のデータにおけるモーダル減衰定数の下限値は3.2%であり、設計用減衰定数の解析によるモーダル減衰定数2.99%を上回り、2点支持蒸気発生器である本件各原子炉施設及び美浜発電所3号機において1次冷却設備の減衰定数が3%以上確保できる見通しである、本件加振試験について、加振方法等改善の余地があることがわかったので耐震工事完了後の状態において実施する加振試験につなげていきたい、本件加振試験は反力型の加振であったが、耐震工事完了後の加振試験では慣性型加振を考えているなどと説明した。(乙C70・6、7、12頁、乙C71・5頁)また、参加人は、本件工事計画認可処分後の使用前検査において、平成27年度第62回原子力規制委員会において同委員会が了承した方針に則り、耐震工事完了後の状態にて蒸気発生器、冷却材ポンプの各々が主体的に振動する場合の実機の減衰定数を取得し、工事計画(設計)で設定した値を有することを確認すると回答した。(乙C71・14、15頁)イ 本件加振試験について(ア) 参加人は、本件各原子炉施設の1次冷却設備に対する設計用減衰定数3%の適用可能性を確認するため、美浜発電所3号機の実機を用いた加振試験(本件加振試験)を耐震設計の評価条件であるプラント運転時に近い条件で実施した上で、このような実機の加振試験により得られるループ全体(原子炉容器と1次冷却設備)のモーダル減衰定数(機器・配管系等の振動現象を様々な揺れ方、すなわち振動モードごとに分解したときに、各振動モードに発生する減衰の効果の大きさを個別に表現したもの。)と、工事計画認可申請において設定している各機器の設計用減衰定数に基づく解析により算出されるループ全体のモーダル減衰定数を比較することとした。これは、実機を用いた加振試験では1次冷却設備のみの減衰定数を計測することはできず、原子炉容器と1次冷却設備を合わせたモーダル減衰定数しか計測できないからであり、実機によるモーダル減衰定数と各機器の設計用減衰定数から算出されるモーダル減衰定数を比較して実機によるモーダル減衰定数が設計用減衰定数を上回るか否かにより、各機器の設計用減衰定数が保守性を有するか確認するものである。各機器の設計用減衰定数として、原子炉容器を1%、1次冷却設備の各機器(蒸気発生器、冷却材ポンプ、1次冷却材管及びホットレグ・クロスオーバーレグ・コールドレグ)を3%と設定した場合、モーダル減衰定数は2.99%と算出された。(乙C72・2頁、弁論の全趣旨・被告第34準備書面35頁)参加人は、美浜発電所3号機の代表的な振動モードにおける各機器の設計用減衰定数の寄与度を確認した上で、減衰機構の主要因はサポート部であるという過去の知見により、部材減衰定数としては本体よりサポート部の方が大きいとして、蒸気発生器の設計用減衰定数としては蒸気発生器の本体の減衰寄与率の高い1次モードの振動モードによる試験で代表することができるとし、加振対象物であるAループ蒸気発生器及びBループ蒸気発生器について、これらの対象物の形状及び構造等から、主軸をホットレグ軸直方向及びホットレグ軸方向と決定した上で加振試験を実施することとした。(乙C58・308頁、乙C72・13頁、乙C76・269~280頁)(イ) 本件加振試験は、次の①~⑤に示す測定及び解析手順に基づき実施された。(乙C58)①Aループ蒸気発生器とBループ蒸気発生器の2箇所において加振試験を実施する。試験の加振レベルとして、実機を加振した際の変位量(ひずみレベル)の違いによる減衰定数の違いを把握するため、小レベル、中レベル及び大レベルの3種類を実施する(同310、321、328頁)。②加振位置は、油圧加振機を蒸気発生器の2次側マンホールと周囲構造物との間に設置し、加振ポイントとして蒸気発生器の2次側マンホール部を選定する。Aループ蒸気発生器においてはホットレグ軸方向から33.5°の方向、及びBループ蒸気発生器においては同61.6°の方向で蒸気発生器を強制定常加振する(同309、310頁)。加振条件は、加振力を一定とした単一振動数の正弦波加振により、振動が一定(安定)となった状態(定常応答)の蒸気発生器頂部の変位等を計測する。計測に当たっては、振動数を試験で確認し、確認した固有振動数を中心に、加振振動数を段階的に変化させる正弦波ステップ加振を行う(同309、310頁)。また、蒸気発生器頂部の変位等は、ホットレグ軸直方向及びホットレグ軸方向の2方向において計測し、これに従い、減衰定数も同じく2方向において算定する(同313、314、316頁)。③上記①及び②に従った加振試験により取得された計測データについて、加振力(入力荷重)とその応答(応答加速度)の値を求め、その振幅比(応答/加振力)を振動数ごとにそれぞれ算出する。算出された振動数ごとの振幅比のデータについて、「加振振動数」を横軸、「振幅比(応答/加振力)」を縦軸とするグラフに図示する(同316頁)。④理論的な応答曲線をハーフパワー法に基づいて算出し、減衰定数や固有振動数等のパラメータを試行錯誤的に変化させながら、上記③で得られた各振幅比のデータに合わせる。そして、当該応答曲線が上記③で得られた各振幅比のデータに最も適合する場合の減衰定数をもって、解析により得られる最適な減衰定数の値とする。また、ハーフパワー法とは別のナイキスト線図を用いた手法によっても減衰定数を算出する。そして、ハーフパワー法及びナイキスト線図から算出した各減衰定数を比較することにより、両者の算出精度を確認しつつ、最終的な減衰定数の算定方法を決定する(同310、335頁)。⑤大レベルの最大加振時にはデータの再現性確認を目的として3回以上データを取得するが、得られる減衰定数のばらつきが十分小さいことを考慮し、より保守的な評価となる下限値の計測データを使用する(同310、344~347頁)。(以上につき、乙C72・13~19頁)(ウ) Aループ加振試験の結果a Aループ蒸気発生器について、試験の加振レベルとして、小レベル、中レベル及び大レベルの3種類を実施し、大レベルにおいては3回の試験により減衰定数を取得した。この加振試験の結果から、ハーフパワー法及びナイキスト線図に基づき減衰定数を算出したところ、両手法ともに、ホットレグ軸直方向(蒸気発生器頂部の変位は約2.5㎜の応答)については減衰定数3.2%~4.0%、ホットレグ軸方向(蒸気発生器頂部の変位は約0.6㎜の応答)については減衰定数4.4%と評価された。最終的に、Aループ蒸気発生器の加振試験においては、保守的な値として、大レベルの加振試験により得られたホットレグ軸直方向の減衰定数のうち下限値の3.2%が適用され、実機のモーダル減衰定数3.2%が各機器の設計用減衰定数の解析から求めたモーダル減衰定数2.99%より大きいことが確認された。(乙C58・321~327頁)b Aループ蒸気発生器において、ホットレグ軸方向については、ホットレグ自体が有する振動特性(ホットレグ軸方向がホットレグ軸直方向に比べて振動しにくい特性)の影響から、加振レベル(大レベル)に比して想定されていた2㎜以上の応答変位を下回る応答変位(0.8㎜)しか得られず、大レベルの加振試験による減衰定数は取得できなかった。小レベル及び中レベルでは、ホットレグ軸方向よりもホットレグ軸直方向の方がいずれも減衰定数は小さかった。(乙C58・310、322、336頁)c 以上により、ホットレグ軸方向よりホットレグ軸直方向の方が減衰定数は小さいことから、耐震評価においてより保守的なホットレグ軸直方向の減衰定数(3.2%)を最終的な評価値とした。(乙C58・321頁)(エ) Bループ加振試験の結果a Bループ蒸気発生器について、試験の加振レベルとして、小レベル、中レベル及び大レベルの3種類を実施し、大レベルにおいては3回の試験により減衰定数を取得した。この加振試験の結果から、ハーフパワー法及びナイキスト線図に基づき減衰定数を算出したところ、両手法ともに、ホットレグ軸直方向(蒸気発生器頂部の変位は約2.3㎜の応答)については減衰定数3.2%~4.1%、ホットレグ軸方向(蒸気発生器頂部の変位は約0.6㎜の応答)については減衰定数4.9%と評価された。最終的に、Bループ蒸気発生器の加振試験においては、保守的な値として、大レベルの加振試験により得られたホットレグ軸直方向の減衰定数のうち下限値の3.2%が適用され、実機のモーダル減衰定数3.2%が各機器の設計用減衰定数の解析から求めたモーダル減衰定数2.99%より大きいことが確認された。(乙C58・328~334頁)b Bループ加振試験においても、Aループ加振試験と同様に、ホットレグ軸方向については、大レベルの加振試験による2㎜以上の応答変位を下回る応答変位(0.7㎜)しか得られなかった。小レベル及び中レベルでは、ホットレグ軸方向よりもホットレグ軸直方向の方がいずれも減衰定数は小さかった。(乙C58・310、329、336頁)c 以上により、ホットレグ軸方向よりホットレグ軸直方向の方が減衰定数は小さいことから、耐震評価においてより保守的なホットレグ軸直方向の減衰定数(3.2%)を最終的な評価値とした。(乙C58・328頁)(オ) 本件加振試験に用いられた油圧加振機は、加振エネルギーが大きく、加振対象振動数が可変かつ振動変位が制御可能なものである。(乙C58・315頁、乙C63・9頁)ウ 美浜発電所3号機の使用前検査における1次冷却設備の加振試験について参加人は、令和2年2月、美浜発電所3号機の使用前検査において、慣性型加振機を用いて1次冷却設備の加振試験を実施し、実機のモーダル減衰定数が3%以上となる結果(ホットレグ軸直方向について減衰定数3.3%~3.4%、ホットレグ軸方向について減衰定数8.6%~9.0%)が示された。(乙C70・12頁、乙C73・3頁)原子力規制委員会は、上記結果も踏まえて、検査結果を「良」と判断し、令和3年7月27日、美浜発電所3号機について、使用前検査成績書(使用前検査合格証)を発行した。(乙C74・7頁、乙C75)エ 本件各原子炉施設の使用前事業者検査及び確認における1次冷却設備の加振試験について(ア) 参加人は、令和2年1月頃、高浜発電所1号機の使用前検査において、慣性型加振機を用いて1次冷却設備(Cループ蒸気発生器)の加振試験を実施し、実機のモーダル減衰定数が3%以上となる結果(ホットレグ軸直方向について減衰定数3.3%、ホットレグ軸方向について減衰定数9.4%~9.6%)が示された。(乙C71・14、15頁、乙C128)原子力規制委員会は、上記結果も踏まえて、高浜発電所1号機について炉規法43条の3の11第2項各号のいずれにも適合していると判断し、令和5年8月28日、参加人に対し、使用前検査合格証を交付した。(乙C130、131)(イ) 参加人は、令和3年3月頃、高浜発電所2号機の使用前検査において、慣性型加振機を用いて1次冷却設備(Aループ蒸気発生器)の加振試験を実施し、実機のモーダル減衰定数が3%以上となる結果(ホットレグ軸直方向について減衰定数3.4%、ホットレグ軸方向について減衰定数8.2%~8.5%)を示した。(乙C71・14、15頁、乙C129)原子力規制委員会は、上記結果も踏まえて、高浜発電所2号機について炉規法43条の3の11第2項各号のいずれにも適合していると判断し、令和5年10月16日、参加人に対し、使用前検査合格証を交付した。(乙C132、133)(2) 検討ア 1次冷却設備に3%の設計用減衰定数を適用できるとしたことについて(ア) 蒸気発生器等の1次冷却設備は、耐震重要施設に該当するところ(設置許可基準規則3条1項)、工事計画認可の際の審査の基準である技術基準規則は、耐震重要施設は、基準地震動による地震力に対してその安全性が損なわれるおそれがないように施設すべきことを求めており(5条2項)、同条に係る技術基準規則解釈(乙B9・17頁)は、耐震重要施設が基準地震動による地震力に対して施設の機能を維持していることなどを求めている。また、別紙12耐震工認審査ガイドの概要のとおり、耐震工認審査ガイドは、機器・配管系の耐震設計において、その減衰定数の設定については JEAG4601 を参考とし、既往の研究等において試験等により妥当性が確認されている設定等を用いる場合は、適用条件、適用範囲に留意することを定めている。(イ) 原告らは、本件工事計画認可処分について、参加人が、機器・配管系である1次冷却設備の設計用減衰定数を3%に設定したことの妥当性を確認しないままされているから、耐震工認審査ガイドの基準に明確に違反しており、その判断過程に看過し難い過誤、欠落があると主張する。(ウ) しかしながら、上記(1)ア(ア)~(キ)のとおり、本件各原子炉施設及び美浜発電所3号機の蒸気発生器は、いずれも2点支持であり、従来は1次冷却設備の設計用減衰定数を1%としていたが、基準地震動が大きくなったことなどから耐震健全性を示せないこととなり、JEAG4601-1991 追補版は、1次冷却設備の設計用減衰定数を3%としているが、1次冷却設備を構成する蒸気発生器が3点支持の場合の試験結果に基づく減衰定数であったことから、耐震工認審査ガイドの「既往の研究等における試験等により妥当性が確認されている設定等を用いる場合は、適用条件、適用範囲に留意する。」との記載に照らして、その妥当性を示すことが求められ、海外知見によるデータのみならず、本件加振試験を行うことにより設計用減衰定数3%の適用可能性が検討されたと認められる。そして、上記(1)イのとおり、本件加振試験は、油圧加振機を用いて加振力を一定とした単一振動数の正弦波加振により振動が一定となった状態で蒸気発生器頂部の変位等を計測するものであるところ、本件加振試験の結果、美浜発電所3号機のAループ蒸気発生器及びBループ蒸気発生器それぞれについて各機器の設計用減衰定数に基づく解析から求められたモーダル減衰定数2.99%を、実機のモーダル減衰定数いずれも3.2%が上回ることが確認されており、耐震工学、振動工学、装置機器学などの専門家であるJ7も、J7意見書(乙E88)において、本件加振実験について技術的に不合理な点はない旨を述べているから、本件加振試験の内容が不十分なものであったということはできない(原告らが指摘する本件加振試験の問題点については後記ウにおいて説示する。)。原子力規制委員会は、上記(1)ア(ク)及び(ケ)のとおり、本件加振試験の結果も踏まえつつ、減衰定数の不確かさに対して保守性を有する値であるかを確認する必要があるなどとして、工事完了後の使用前検査において本件各原子炉の実機による加振試験を実施し、減衰定数を確認することを求め、その段階で工事計画認可の要件に違反することが判明した場合は、炉規法43条の3の23第1項に基づく施設使用停止等命令の発出等により対応するなどと整理した上で、上記認定事実(地震)(4)ア(エ)のとおり、本件加振試験を「既往の研究等」における「試験等」として整理し、本件各原子炉施設の 1 次冷却設備の構造的特性が美浜発電所3号機と同等であることから、1次冷却設備に3%の設計用減衰定数を適用することができると判断したものであり、これが耐震工認審査ガイドに反しているとはいえない。イ 減衰定数3%の妥当性が確認されていないとの原告らの主張について(ア) 原告らは、工事計画認可処分は工事が行われる前に設計に係る審査をするものであり、耐震工認審査ガイドの減衰定数も設計用減衰定数であるから、工事計画認可後に実機による試験をすることにより確認することは不合理であると主張する。しかしながら、炉規法が採用する段階的安全規制の仕組上、原子力規制委員会は、工事計画認可の段階においては、工事がされる前の詳細設計に係る審査をし、使用前検査の段階において、認可を受けた工事計画どおりの工事が実際にされているかを確認することとなっているから、炉規法は、工事計画認可の段階で、実機が設計どおりの減衰定数を有しているかを試験により確認することまで求めているとはいえない。もっとも、工事計画認可処分に係る審査において設計用減衰定数の妥当性を確認するための具体的な方法や、使用前検査において認可を受けた工事計画どおりの工事がされているか否かを確認するための具体的な方法、その際に設計用減衰定数が工事計画認可処分の内容どおりのものとなっていることを確認することの要否に関する規定はないから、これらは、審査及び検査の対象となる設備の具体的な構造的特性及び審査実績の有無等を踏まえた原子力規制委員会の専門技術的裁量に委ねられているというべきである。そして、上記(1)ア(キ)及び(ク)のとおり、本件においては、工事計画認可の審査の段階で美浜発電所3号機の実機による本件加振試験を実施し、使用前検査の段階で本件各原子炉施設の実機による加振試験を実施することが予定されていたところ、原子力規制委員会が、設計用減衰定数の妥当性を確認するため、これらの各加振試験の実施を求めたことは、その専門技術的裁量に基づく判断として不合理とはいえない。本件工事計画認可処分後に本件各原子炉施設の実機による加振試験を予定していたとしても、上記アで説示したとおり、工事計画認可の審査段階において、耐震工認審査ガイドを踏まえて技術基準規則5条に適合していることを確認して本件工事計画認可処分をしたものであって、本件工事計画認可処分が内容未確定や条件付きでされたということはできない。(イ) また、原告らは、原子力規制委員会は、本件各原子炉施設の1次冷却設備への減衰定数3%の適用を確認するため、本件各原子炉施設の実機試験が必須であるとしていたと主張する。しかしながら、上記(1)ア(オ)及び(カ)のとおり、原子力規制庁の職員は、平成28年1月26日の第323回審査会合において、参加人に対し、「実機による加振試験」が必須であるとの見解を示しているが、これは、既存の国内外のデータの分析により設計用減衰定数3%の妥当性を説明するのではなく、本件工事計画認可処分の対象である本件各原子炉施設又はこれと同等の蒸気発生器支持構造の構造的特性を有する実機による試験を実施した上で、当該試験から得られるデータを踏まえた設計用減衰定数3%の妥当性の説明を参加人に求めたものと解され、同年2月10日の平成27年度第55回原子力規制委員会についてみても、「実機による加振試験」とは本件各原子炉施設又はこれと同等の蒸気発生器支持構造の構造的特性を有する実機による試験を意味していたと解されるから、原子力規制委員会が、本件工事計画認可処分に係る審査の過程において、工事計画認可の段階で本件各原子炉施設の実機による加振試験を実施することが必須であるとの見解を示したとは認められない。(ウ) さらに、原告らは、本件工事計画認可処分に当たり、実機による打撃試験が行われておらず、本件加振試験も後日改善しなければならないような不十分な試験であったにもかかわらず、減衰定数3%の適用を認めた原子力規制委員会の判断は不合理であると主張する。しかしながら、上記(1)ア(オ)のとおり、参加人が、平成28年1月26日の第323回審査会合において、加振機による定常加振とハンマーによる打撃加振の両方の実施を検討している旨の説明をしたことは認められるものの、原子力規制委員会からその両方の実施が必要であるとの方針等が示されたと認めることはできない上、打撃試験の方が油圧加振機を用いた加振試験よりも精度が高い試験結果が得られるともいえない(乙C63・9頁)から、油圧加振機を用いた本件加振試験の実施に加えて打撃試験が必要であったということはできない。また、上記(1)ア(コ)のとおり、参加人は、第349回審査会合において、本件加振試験について、加振方法等改善の余地があることがわかった旨の発言をしているが、具体的には、本件加振試験は反力型の加振であったが、耐震工事完了後に実施する加振試験では慣性型加振を考えていると説明するものであって、その意味で本件加振試験に改善の余地があったとしても、J7意見書によれば、本件加振試験について技術的に不合理な点はないとされており、また、減衰定数の評価に当たり、基準化された相対値を用いることにより、減衰定数の値に入力特性である入力の位置や方向などが一切影響を及ぼすことがないように処理されると認められる(乙E88・13頁)から、上記参加人の発言から、直ちに本件加振試験の結果の合理性が否定されるものとはいえない。そして、上記(1)ウ及びエのとおり、美浜発電所3号機及び本件各原子炉施設の使用前検査で行われた加振試験は、慣性型加振機によるものであり、同試験で得られた実測データに基づくモーダル減衰定数の下限値は、本件加振試験によって得られた実測データに基づくモーダル減衰定数の下限値と同等であることに照らすと、反力型加振機を用いた本件加振試験の結果が不十分なものであったということもできない。(エ) 原告らは、蒸気発生器周辺の構造は、本件各原子炉施設と美浜発電所3号機とで大きく異なるから、本件加振試験により本件各原子炉施設の減衰定数の妥当性を確認できるとはいえないと主張する。しかしながら、上記(1)ア(ア)のとおり、本件各原子炉施設と美浜発電所3号機とにおいて、各蒸気発生器の全体構造、上部支持構造及び下部支持構造は同一ではないものの、蒸気発生器サポートの配置や支持点数等で相違はないと認められる。また、上記(1)イ(ア)のとおり、本件加振試験においては、モーダル減衰定数の比較により1次冷却設備の設計用減衰定数の確認がされているところ、証拠(乙C58・200、201頁、乙C76・269~280頁、弁論の全趣旨・被告第34準備書面61頁)によれば、モーダル減衰定数に対する各機器の寄与度としては、蒸気発生器の設計用減衰定数が最も高くいずれも8割を超えているから、寄与度の低い蒸気発生器周辺の構造に違いがあるとしても、減衰定数への影響は小さいというべきである。また、各機器の設計用減衰定数の解析から求めたモーダル減衰定数は美浜発電所3号機が2.99%~3.14%、本件各原子炉施設が各2.99%であるところ(乙C58・200、201頁、乙C76・269~280頁、弁論の全趣旨・被告第34準備書面62頁)、これらの減衰定数の数値がほぼ同等であることも、本件各原子炉施設と美浜発電所3号機とで1次冷却設備を構成する蒸気発生器等の振動性状(揺れの特性)に係る構造的特性が同等であることに基づくものと考えられ、本件加振試験に基づく減衰定数が本件各原子炉に適用可能であることを裏付けるものといえる。ウ 本件加振試験の問題点について(ア) 原告らは、本件加振試験の内容の問題点として、蒸気発生器の上部から単一振動数に基づく一定状態の正弦波加振しかしておらず、実際の地震動とは全く逆側からの振動入力であり、実際の地震波は前後左右上下の振動が含まれ、周波数も様々な波が含まれているから、減衰状況を再現できているとはいえないなどと主張する。しかしながら、J7意見書(乙E88)によれば、機械システム等の構造物は、固有の振動特性(振動モード)を有しているところ、この固有の振動特性(振動モード)は、主に当該機械システム等の構造物の大きさ(重さ)、形状、構造(硬さ)によって決まるから、減衰定数が入力の位置や方向に影響されることはなく、同じ揺れ方(動的挙動)をする場合には、いかなる方法で揺らしたとしても、減衰定数の値は同じ値となる(同5~7頁)、減衰定数の評価に当たり、実測したデータそのものではなく、基準化された相対値を用いることにより、減衰定数の値に入力特性である入力の位置や方向などが一切影響を及ぼすことがないように処理される(同13頁)、地震波のようなランダム波で加振すると、地震波に含まれる無数の周波数により別の振動モードも励起されるが、そのような場合は全体システムとして有する減衰定数は増大する方向に働く(同12、13頁)などとされ、これらの内容が不合理であるとは認められない。そうすると、振動の入力方向が減衰定数に影響するとはいえず、実際の地震動が本件加振試験と異なり、ランダムであるとしても、減衰定数が増大する方向に働くというのであるから、本件加振試験の方法が保守性を欠いて不合理であるということはできない。また、上記(1)イ(イ)のとおり、本件加振試験は加振振動数を段階的に変化させる正弦波ステップ加振を行ったものと認められ、単一振動数に基づく加振試験であったという原告らの主張はその前提を欠き、理由がない。(イ) 原告らは、本件加振試験において、油圧加振機を蒸気発生器の一部に押し当てて加振しているため、3点支持と同様の効果があったと主張する。しかしながら、上記(1)イ(イ)のとおり、本件加振試験では、蒸気発生器の2次側マンホール部を加振ポイントとしているが、J7意見書(乙E88・14頁)によれば、加振機は正弦波状に動き、蒸気発生器の2次側マンホール部と同じ動きをしているため、加振機は支持点の役割を果たしていなかったと認められるから、3点支持と同様の効果があったとの原告らの主張は理由がない。(ウ) 原告らは、本件加振試験は反力型加振機を用いて行われたが、従前の高浜発電所4号機の加振試験や、工事完了後の使用前検査の段階で実施された加振試験では慣性型加振機を用いており、反力型加振機を用いたのは、3点支持に近い条件として減衰定数を大きくする目的であった可能性があると主張する。しかしながら、上記(ア)のとおり、減衰定数が入力の位置や方向に影響されることはなく、同じ揺れ方(動的挙動)をする場合には、いかなる方法で揺らしたとしても、減衰定数の値は同じ値となり、また、減衰定数の評価に当たり、実測したデータそのものではなく、基準化された相対値を用いることにより、減衰定数の値に入力特性である入力の位置や方向などが一切影響を及ぼすことがないように処理されるというのであるから、加振方法の違いをもって本件加振試験が減衰定数を大きくする目的であったということはできず、反力型加振機を用いたことが不合理であるということもできない。さらに、上記(1)イ~エのとおり、反力型加振機を用いた本件加振試験と、慣性型加振機を用いた美浜発電所3号機及び本件各原子炉施設の使用前検査の際の加振試験のモーダル減衰定数の下限値がいずれも同等であることからしても、反力型加振機を用いた本件加振試験が減衰定数を大きくするものであったということはできない。(エ) 原告らは、本件加振試験について、大レベルでも3回しか行われておらず、実験回数が少なすぎて実験回次ごとの誤差の把握が困難であり、単に下限値を採用することが保守的であるか判断することができない、大レベルの3回の試験でも0.8%ものばらつきが出ているから、試験回数を増やせば減衰定数が3%を下回る蓋然性が非常に高いなどと主張する。しかしながら、J7意見書(乙E88)によれば、試験状態が良好であれば、少ない実験回数であっても十分高い信頼性があると評価でき、本件加振試験における各試験条件の不確定要素は十分に小さいと判断できるから、たとえ3回の試験であっても信頼性の高いデータが得られている、保守的な評価となるよう下限値の計測データが使用されていることからも、本件加振試験により得られた減衰定数は3%以上であると考えられる(同15、16頁)、本件加振試験の大レベル入力において、減衰定数の値に0.8~0.9%のばらつきが生じているが、不確定要素が少ない実機加振での定常応答から減衰定数が求められていること、最小3.2%~最大4.1%のばらつき幅で、平均値の±10%程度の間に収まっていることから、十分小さなばらつきで信頼性の高い減衰定数が得られている(同16、17頁)などとされており、この内容が不合理であるとはいえず、このことは、上記(1)イ~エのとおり、反力型加振機を用いた本件加振試験と、慣性型加振機を用いた美浜発電所3号機及び本件各原子炉施設の使用前検査における加振試験のモーダル減衰定数の下限値がいずれも同等であることからも裏付けられるというべきである。(オ) 原告らは、本件加振試験の小レベル及び中レベルでは減衰定数が3%を下回っていると主張する。しかしながら、入力の揺れの大きさ(振幅)が大きくなるにつれて、摩擦により発生する熱や空気抵抗などにより振動系のエネルギーが減少し、振動が減衰するため(乙E60・80頁)、減衰定数の値が大きくなる傾向があると考えられ、小レベル及び中レベルの減衰定数は大レベルの減衰定数よりも小さくなるのが自然であるところ、技術基準規則5条2項及び同項に係る技術基準規則解釈の趣旨に照らせば、基準地震動による地震力に至らない小レベル及び中レベルの加振による揺れ(振幅)の大きさに基づく試験結果を基礎として、基準地震動による地震力が作用した際の耐震設計上考慮すべき減衰定数を設定することは適切とはいえない。また、J7意見書(乙E88・16頁)によれば、本件加振試験では、小レベル、中レベル及び大レベルの3段階の試験が実施されているが、これは実機から正確な振動特性や減衰定数を評価するために動的挙動の振幅の大きさを変えて計測する必要があるからであり、減衰定数の大きさは、振幅の最大応答や振動の収まり方に大きく寄与するが、小レベルや中レベルで設計減衰定数を満たさない場合でも、原子力発電所内の機器・配管系の機能維持の観点で重要となる地震時の損傷に直結するような応答を招くことはないと判断できるとされており、これが不合理であるとはいえない。そして、本件加振試験では、蒸気発生器頂部につき2㎜を超える応答変位が得られるような加振による揺れ(振幅)の大きさを大レベルと想定しているが、これは美浜発電所3号炉の基準地震動(Ss地震時)による蒸気発生器頂部の応答変位としては、2㎜を超える変位が生じることになる(乙C58・348頁)ことから設定されたものと認められ、本件加振試験による小レベル及び中レベルの加振による蒸気発生器頂部の応答変位は2㎜以下にとどまり(乙C58・322、329頁)、基準地震動による地震力が作用した際の応答変位には到達していないから、本件加振試験による小レベル及び中レベルの減衰定数が3%未満であることをもって、設計用減衰定数を3%とすることが不合理であるとはいえない。エ 以上によれば、1次冷却設備の設計用減衰定数を3%として本件工事計画認可処分をした原子力規制委員会の審査及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。11 地震に関する争点のまとめ以上のとおり、地震に関して、平成28年各処分について、現在の科学技術水準に照らし、各審査において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、又は、本件各原子炉施設が上記具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の審査及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとは認められないから、平成28年各処分が違法であるとはいえない。第8 当裁判所の判断(火山に関する争点)1 認定事実(火山)(1) 火山に関する規制の概要ア 発電用原子炉の設置(変更)許可の要件として、炉規法43条の3の6第1項4号(同法43条の3の8第2項により設置変更許可に準用)は、「発電用原子炉施設の位置、構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものであること」を規定し、この委任を受けて、原子力規制委員会は、設置許可基準規則を定め、また、設置許可基準規則解釈(乙B5・13頁)は、設置許可基準規則6条1項に規定する「想定される自然現象」とは、敷地の自然環境を基に、火山の影響から適用されるものをいうと定めている。イ 炉規法43条の3の14本文は、「発電用原子炉設置者は、発電用原子炉施設を原子力規制委員会規則で定める技術上の基準に適合するように維持しなければならない」と規定し、この委任を受けて、原子力規制委員会は、技術基準規則を定め、また、技術基準規則7条1項についての技術基準規則解釈(乙B9・19頁)は、「想定される自然現象」には火山事象を含むと定めている。ウ 炉規法43条の3の22第1項柱書きは、「発電用原子炉設置者は、次の事項について、原子力規制委員会規則で定めるところにより、保安のために必要な措置(重大事故が生じた場合における措置に関する事項を含む。)を講じなければならない」と規定し、発電用原子炉施設の保全(同項1号)、発電用原子炉の運転(同項2号)等について必要な措置を講じることを定め、この委任を受けて、原子力規制委員会は、実用炉規則69条~90条を定めているところ、令和2年改正実用炉規則83条1項1号ロは、設計想定事象、重大事故等又は大規模損壊に関して、「火山現象による影響」について、①火山現象による影響が発生し、又は発生するおそれがある場合(火山影響等発生時)における非常用交流動力電源設備の機能を維持するための対策に関すること(要求事項(火山)①)、②①に掲げるもののほか、火山影響等発生時における代替電源設備その他の炉心を冷却するために必要な設備の機能を維持するための対策に関すること(要求事項(火山)②)、③②に掲げるもののほか、火山影響等発生時に交流動力電源が喪失した場合における炉心の著しい損傷を防止するための対策に関すること(要求事項(火山)③)、を含む発電用原子炉施設の必要な機能を維持するための活動に関する計画を定めるとともに、当該計画の実行に必要な要員を配置し、当該計画に従って必要な活動を行わせる措置を講じることを定めている。また、炉規法43条の3の24は、「発電用原子炉設置者は、原子力規制委員会規則で定めるところにより、保安規定(括弧内略)を定め、発電用原子炉施設の設置の工事に着手する前に、原子力規制委員会の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。」と規定し、認可の要件として、「核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上十分でないものであること」に該当するときは認可をしてはならないと規定し、この委任に基づいて、原子力規制委員会は、実用炉規則92条を定め、同条1項16号において、「設計想定事象、重大事故等又は大規模損壊に係る発電用原子炉施設の保全に関する措置に関すること」を保安規定の記載事項としている。さらに、原子力規制委員会は、保安規定認可の審査のための内規として保安規定審査基準(乙B11)を定めており、実用炉規則92条1項16号の記載事項のうち火山現象による影響について、要求事項(火山)①~③が定められていることを要求している。(乙B135・別紙2-2)エ 原子力規制委員会は、発電用原子炉施設の安全性審査として、火山の影響により原子炉施設の安全性を損なうことのない設計であることの評価方法の一例であり、火山影響評価の妥当性を審査官が判断する際に参考とするものとして、火山ガイド(平成25年火山ガイド(乙B120)、平成29年火山ガイド(乙B121)及び令和元年火山ガイド(乙B143))を定めている。火山ガイドは、原子力規制委員会において、IAEAの安全指針(IAEA・SSG-21)、日本電気協会作成の「原子力発電所火山影響評価技術指針」(JEAG4625-2009)等の文献や専門家からのヒアリング結果を基に、最新の科学的知見を集約して制定したものである。火山ガイドの策定に当たり、原子力規制委員会は、そもそも、現在の火山学の水準では火山噴火の時期や規模を的確に予知、予測することまではできないことを前提とした上で、現在の火山学の知見に照らせば、可能な限りの調査を尽くすことにより、運用期間中における活動可能性や設計対応不可能な火山事象の到達可能性が十分に小さいといえるか否かなどといった評価を行うことまでは可能であり、その限りでの評価に基づいて安全面に十分配慮した規制を行っていくことが科学的かつ合理的であるとの基本的立場を採っている。(乙B156・331頁)火山ガイドが参考とした IAEA・SSG-21 には、具体的な評価基準や指標は記載されていないが、評価の手順として、完新世(約1万年前まで)に活動した火山を将来の活動可能性が否定できない火山とする考え方、立地評価及び影響評価を行うという判断の枠組み、検討の対象とする火山の運用期間中における活動可能性を評価するという枠組み、原子力発電所に影響を与える可能性のある火山事象の抽出の枠組み、火山事象の原子力発電所への到達可能性を評価する手法及び降下火砕物の最大層厚の設定方法等について、火山ガイドは IAEA・SSG-21 に整合している。(乙B156・338頁)平成25年火山ガイドの概要並びに平成29年火山ガイド及び令和元年火山ガイドの各変更点については、別紙14火山ガイドの概要のとおりである。(2) 本件設置変更許可処分における火山に係る審査ア 参加人は、本件設置変更許可申請の申請書(補正後)、審査会合の資料等において、次のとおり記載した。(乙C48)(ア) 原子力発電所に影響を及ぼし得る火山及び地理的領域外の火山について、文献調査及び地質調査結果により、敷地及びその周辺において降灰層厚が比較的厚い降下火砕物を抽出した。噴出源を同定できる降下火砕物について、文献調査、地質調査及び位置関係も含めて検討し、姶良Tnテフラ、DKP及び恵比須峠福田テフラを対象に、当該火山の将来の噴火の可能性について噴火履歴及び地下構造から検討した。姶良Tnテフラは、噴火履歴及び地下構造を検討し、運用期間中に姶良Tnテフラ規模の噴火の可能性は十分低いと評価した。DKPは、噴火履歴やZhao et al.(2011)によると、低速度層をマグマ溜まりと評価した場合においても20㎞以深に位置し、爆発的噴火を引き起こす珪長質マグマの浮力中立点の深度7㎞より深い位置にあることから、運用期間中のDKP規模の噴火の可能性は十分低いと評価した。大山については、繰り返し生じている数㎦以下の規模の噴火の中でも最大の5㎦を考慮し、移流拡散モデル(Tephra2)を用いた降下火砕物のシミュレーションを実施した結果、風速等のばらつきも踏まえても最大層厚は約8㎝程度であった。恵比須峠福田テフラは、噴火履歴によると運用期間中に恵比須峠福田テフラ規模の噴火の可能性は十分に低いと評価した。(イ) 噴出源が同定できない降下火砕物の降灰層厚として、NEXCO80 を抽出し、敷地周辺のボーリングコアの調査結果等により、降灰層厚は10㎝以下と評価した。(ウ) 降下火砕物の粒径については、降下火砕物を顕微鏡写真で確認した結果、粒径は約0.2㎜程度であった。Tnテフラの粒度試験結果による粒径分布は1㎜以下であった。文献調査の結果、敷地周辺で確認される主なテフラの最大粒径はいずれも1㎜以下である。樽前火山から156㎞離れた地点での粒径分布は、約0.2㎜から約1㎜程度である。(エ) 降下火砕物の密度については、若狭湾沿岸における津波堆積物調査により得られたテフラの火山灰の単位堆積重量は、乾燥密度で約0.7g/㎤、湿潤密度で約1.3g/㎤程度であった。また、文献調査の結果、乾燥した火山灰は密度が0.4~0.7g/㎥程度であるが、湿ると1.2g/㎥を超えることがあるとされている。(オ) 文献調査、地質調査及び降下火砕物シミュレーション結果から、運用期間中における敷地の降下火砕物の最大層厚は10㎝と設定した。また、降下火砕物の粒径及び密度については、文献及び地質調査を踏まえ、粒径は1㎜以下、乾燥密度を0.7g/㎤、湿潤密度を1.5g/㎤と設定した。(カ) 降下火砕物の直接的影響のうち、非常用DGの閉塞については、開口部を下向きの構造とすることにより、降下火砕物が流路に侵入した場合でも閉塞しない設計とし、設備対応として、フィルタを設置することにより、フィルタより大きな降下火砕物が内部に侵入しにくい設計とし、さらに降下火砕物がフィルタに付着した場合でも清掃や取替えが可能な構造とすることで、降下火砕物により閉塞しない設計とする。(キ) 降下火砕物の直接的影響のうち、非常用DGの磨耗については、降下火砕物は砂よりも硬度が低くもろいことから、磨耗の影響は小さく、構造上の対応として、開口部を下向きとすることにより侵入しにくい構造とし、仮に当該施設の内部に降下火砕物が侵入した場合でも耐磨耗性のある材料を使用することにより、磨耗により安全機能を損なうことのない設計とする。設備対応として、フィルタの設置等により降下火砕物の侵入を防止することが可能な設計とする。(以上につき、乙C48の1及び2・各12~14、33、34頁、乙C51、79)イ 原子力規制委員会は、設置許可基準規則6条1項及び2項が想定される火山事象が発生した場合においても安全施設の安全機能が損なわれないように設計することを要求していることについて、以下のとおり審査をした。(乙C49・50~54頁、乙C50)(ア) ①原子力発電所に影響を及ぼし得る火山の抽出、②原子力発電所の運用期間における火山活動に関する個別評価、③原子力発電所への火山事象の影響評価について、参加人が敷地における降下火砕物の最大層厚を10㎝、降下火砕物の粒径を1㎜以下、乾燥密度を0.7g/㎤、湿潤密度を1.5g/㎤と設定する等、本件各原子炉と同一敷地にある高浜発電所3号炉及び高浜発電所4号炉に係る平成27年2月12日付け設置変更許可の申請(既許可申請①。乙C50)から変更がないとしていることは妥当であると判断した。(イ) ④火山活動に対する防護に関して、設計対象施設を抽出するための方針について、参加人が、降下火砕物によって安全施設の安全機能が損なわれないようにするために必要な設備を設計上防護すべき施設(防護対象施設)として、安全重要度分類指針で規定されているクラス1、クラス2及びクラス3に属する構築物、系統及び機器を抽出する方針とし、それぞれ降下火砕物によって安全機能が損なわれる恐れがある構築物、系統及び機器並びに上位クラスへ影響を及ぼし得る施設について、平成25年火山ガイドを踏まえて降下火砕物の特徴を考慮した上で、適切に抽出するものとしていることを確認した。(ウ) ⑤降下火砕物による影響の選定について、参加人による降下火砕物の直接的影響及び間接的影響の選定が、平成25年火山ガイドを踏まえたものであり、降下火砕物の特徴及び防護対象施設の特徴を考慮していることを確認した。(エ) ⑥設計荷重の設定について、参加人による設計荷重の設計が、防護対象施設ごとに常時作用する荷重及び運転時荷重を考慮するものであることを確認した。(オ) ⑦降下火砕物の直接的影響に対する設計方針について、参加人の設計が降下火砕物の特徴を踏まえ、防護対象施設に与える化学的影響、機械的影響その他の影響に対して、安全機能が損なわれない方針としていることを確認した。また、外気取り入れ口からの降下火砕物の侵入に対する設計方針について、降下火砕物や防護対象施設の特徴を踏まえて、降下火砕物の侵入防止対策として、平形フィルタ等の設置や換気空調系の停止により、安全施設の安全機能が損なわれないようにする等の方針としていることを確認した。さらに、降下火砕物の除去等について、除灰作業等に必要な資機材を確保するとともに、手順等を整備する方針としていることを確認した。これらから、参加人の設計方針が平成25年火山ガイドを踏まえていることを確認した。(カ) ⑧降下火砕物の間接的影響に対する設計方針について、参加人の設計が降下火砕物の間接的影響として外部電源喪失及び交通の途絶を想定し、非常用DG及び燃料油貯油そうを備え、7日間の連続運転を可能とする方針が平成25年火山ガイドを踏まえたものであることを確認した。ウ 原子力規制委員会は、上記イの事項等の確認を踏まえて、本件設置変更許可申請が設置許可基準規則6条1項及び2項の要求を満たしているものと判断し、平成28年4月20日付けで、参加人に対し、本件設置変更許可処分をした。(乙C1、49)(3) 原子力規制委員会が気中降下火砕物濃度に関する規制対応の検討を開始した経緯ア 原子力規制庁は、参加人が美浜発電所3号炉について行った設置変更許可申請に係る審査書案について、平成28年8月4日から同年9月2日までの間に意見公募手続を実施した。その公募に応じた意見の中に、気中降下火砕物濃度に関し、平成22年4月のアイスランド南部エイヤヒャトラ氷河で発生した噴火による観測値(ヘイマランド観測値)から3241㎍/㎥を用いているが、1980年のセントヘレンズ山の噴火では、30000㎍/㎥超とされているなどとして、3241㎍/㎥の妥当性について説明されたい旨の意見があった。(乙B123・2枚目)平成28年10月5日の原子力規制委員会において、上記意見公募手続で寄せられた意見に対する回答案及び意見を踏まえた審査書案の修正案が諮られたところ、上記意見に対しては、仮にセントヘレンズ山の噴火における大気中濃度を適用した場合であってもフィルタを交換することで施設の機能を確保できることを確認した旨の回答案及び意見を踏まえた審査書案の修正案が了承されたが、今後も最新知見の収集・分析や研究を進めて規制に反映すべきか否か判断する必要があるとの指摘がされた。(乙B123・1、2枚目、弁論の全趣旨・被告第30準備書面22頁)イ 原子力規制庁は、国内外の原子力施設の事故・トラブルに係る情報に加え、最新の科学的・技術的知見を、規制に反映させる必要性の有無について、整理し認識を共有すること等を目的として、原子力規制委員会委員、原子力規制庁の関係課長等をメンバーとする技術情報検討会を開催し、そこで報告された内容を原子力規制委員会に報告するなどしているところ、上記アの指摘を受けて、平成28年10月19日の第21回技術情報検討会において、気中降下火砕物濃度及びフィルター設備に関する新知見として、いずれも同年4月に公表された電中研報告書(乙E45)及び産総研報告書(乙E46)の内容等が報告された。(乙B123・別紙2・2頁、乙B149)電中研報告書は、「FALL3D」という計算コード等を用いて、1707年の富士宝永噴火における火山灰の移流・拡散シミュレーションを行った研究結果等をまとめたものであり、一例として、横浜(降灰実績16㎝程度)における気中降下火砕物濃度のシミュレーション結果につき、最大約100㎎(0.1g)~1000㎎(1g)/㎥と算出している。(乙B123・別紙2・2、6、7頁)産総研報告書は、火山噴火による大規模降灰が吸気フィルタに及ぼす影響を評価するため、フィルタの性能試験(気中降下火砕物濃度70㎎/㎥、700㎎/㎥、7000㎎/㎥の火山灰を供給して、それぞれの条件におけるフィルタの性能変化を確認する等)を実施し、その結果をまとめたところ、7000㎎/㎥という濃度で乾燥状態であると数分でフィルタ交換圧力損失まで到達してしまうことが明らかとなったなどというものである。(乙B123・2、9頁、乙E46・3、25頁)ウ 平成28年10月26日の原子力規制委員会において、原子力規制庁から、第21回技術情報検討会における検討内容等が報告され、今後の取組方針案として、①既に設置変更許可済みの本件各原子炉や他の原子炉(設置変更許可において、上記のアイスランド南部のエイヤヒャトラ氷河で発生した大規模噴火における気中降下火砕物濃度を参照していたもの)に関し、美浜発電所3号炉と同様に、1980年のセントヘレンズ山の噴火で得られた観測データを用いて施設の機能に対する影響評価を行うことを事業者に求め、ヒアリングによってその結果を聴取すること、②電中研報告書及び産総研報告書の妥当性を確認した上で、火山ガイドの改正その他の検討に着手することとされた。(乙B123・1枚目)原子力規制庁は、これを受けて、平成28年10月31日、参加人を含む各事業者に対し、1980年のセントへレンズ山の噴火で得られた観測データを用いた影響評価を行うことを求め、各事業者から、非常用DGについて、下方向から吸気をするという構造上、降下火砕物を吸い込みにくく容易に閉塞しないものであり、また、セントヘレンズ山の噴火で得られた観測データを用いて試算した閉塞までに要する時間等を考慮すれば、フィルタの交換により運転を継続することが可能であるとの評価結果の報告を受けて、既に新規制基準への適合性を確認した原子炉については、セントヘレンズ山の噴火で得られた観測データを適用した場合であっても、降下火砕物の直接的影響に対する設計方針を変更する必要がなく、フィルタを交換するという運用の影響を確認することで非常用DGの機能を確保できることを確認した。(乙B124)原子力規制庁は、平成28年11月16日の原子力規制委員会において、各事業者による評価結果及び原子力規制庁の確認結果を報告するとともに、同年10月26日の原子力規制委員会における議論を踏まえ、各事業者に対し、電力中央研究所(電中研)が公表した富士山宝永噴火に関する数値シミュレーションに関する見解、当該研究成果も踏まえた各発電所敷地において想定される最大気中降下火砕物濃度の程度、最大でどの程度の気中降下火砕物濃度に対応可能であるかの評価及び対応措置について、それぞれ報告するよう求めたことを報告した。(乙B124)原子力規制庁は、同年11月25日、各事業者から報告を受け、その報告も踏まえ、電中研報告書等の分析及び降下火砕物の影響評価に関する研究を進めるとともに、規制基準等への反映に関する検討を開始した。そして、平成29年1月25日及び同年2月15日の原子力規制委員会会議において、気中降下火砕物濃度の評価及び発電用原子炉施設の機器等への降下火砕物の影響評価に関する考え方及び留意点を検討し、これらを取りまとめるため、「降下火砕物の影響評価に関する検討チーム」(降下火砕物検討チーム)を設けることとし、原子力規制委員会委員及び原子力規制庁職員をその構成員とするとともに、必要に応じ、外部専門家及び事業者から意見を聴取し、参考とすることとした。(乙B125・1、2頁)エ 降下火砕物検討チームにおいては、原子力発電所における降下火砕物の濃度評価の考え方に関する論点及び機器への影響評価に関する論点を検討するものとされ、平成29年3月29日、同年5月15日及び同年6月22日の3回にわたり、会合が行われた。(乙B126)(ア) 原子力発電所における降下火砕物の濃度評価の考え方に関する論点については、第1回会合において、電中研より、電中研報告書について説明を受け、原子力規制庁は、自然現象における設計基準を定立するに当たっては、既往最大値を用いる考え方と理論的評価による考え方とがあり得るとした上で、気中降下火砕物濃度の推定方法として、①観測値の外挿(ある既知のデータを基にして、そのデータの範囲の外側で予想される数値を求めること)による手法(手法①)、②降灰継続時間を仮定し、原子力発電所の敷地における堆積量等から気中降下火砕物濃度を推定する手法(手法②)、③電中研報告書のように FALL3D 等による数値シミュレーションを用いて原子力発電所の敷地における気中降下火砕物濃度を推定する手法(手法③)の3つの手法を提案した。(乙B127・16~18頁)原子力規制庁は、手法①~③のいずれも不確実さを多く含んでいるが、特に手法①は、観測値の不確かさという問題があるために採用し難いこと、手法②及び③については、パラメータの設定につき確立した根拠がない場合が多く、大きな不確実性が伴うため、そのような不確実な値を設計基準として用いることは困難であるが、飽くまで「現時点で適用可能な理論的評価」として、手法②又は③を用いて気中降下火砕物濃度の計算を行い得るという考え方を説明した。(乙B127・16~18、23~26頁)降下火砕物検討チームの第2回会合において、原子力規制庁は、手法②及び③について、火山から100㎞離れた地点で15㎝の降灰を想定した場合、手法②で噴火継続時間を24時間と仮定すると気中降下火砕物濃度は2~4g/㎥となり、手法③で噴火継続時間につき3時間、19.5時間、36時間及び48時間の4ケースを仮定して計算すると、いずれのケースにおいても気中降下火砕物濃度は1~2日程度にわたり数g/㎥が継続するとの結果が得られ、手法②及び③のいずれによっても、気中降下火砕物濃度はセントヘレンズ山の噴火の観測値である33㎎/㎥を上回る数値(数 g/㎥)となること、また、このようなモデル計算を踏まえ、規制上の取扱いとして、手法②又は③を用いた上、噴火継続時間については、確立した根拠があるとはいえないが、総合的、工学的判断として24時間とするのが適当であり、保守的でもあること、手法②又は手法③による推定値は、設計基準ではなく、機能維持評価用の「参考濃度」とすることを説明した。これに対し、事業者側から、24時間という値が余りに短く、保守的にすぎるのではないかとの懸念が示されたが、原子力規制庁は、観測データが余りに少ない中でも早期に対策をとるべきであるとの考えに基づく総合的、工学的な判断であると説明し、K1委員は、24時間との噴火継続時間には科学的合理性も認められる旨の認識を示した。(乙B128・8、15頁、乙B129・20~24、28~30、32~35頁、乙B147)(イ) 機器への影響評価に関する論点については、降下火砕物の直接的影響(構造物に対する荷重、換気系、電気系及び計装制御系に対する磨耗、腐食及び閉塞並びに原子力発電所周辺の大気汚染等)のうち、気中降下火砕物濃度の増大によりその評価の再検討を要する影響因子や対象施設・設備を抽出し、再検討を要するものについていかなる対応が可能かについての確認がされた。再検討を要する影響因子や対象施設・設備として抽出されたものは、換気系、電気系及び計装制御系に対する磨耗、腐食及び閉塞のうち、屋外との接続がある設備(屋外に開口している設備又は外気から取り入れた屋内の空気を機器内に取り込む機構を有する設備)、非常用DGや開放型の海水ポンプモーター部の外気取入口の閉塞であるとされた。(乙E48・23、24枚目、乙E50)そして、非常用DGについては、手法②又は手法③によって算出した気中降下火砕物濃度に対し、そもそも吸気口を降下火砕物の侵入しにくい構造とするという従前からの設計対応を前提に、改良型のフィルタ等を用いて閉塞までの時間を延長する、フィルタの取替・清掃に要する時間を短縮するなどの保全活動によって対応することが確認された。(乙E48・5枚目、乙E49・5枚目、乙E51・5~7枚目)また、開放型の海水ポンプについては、モーター部に防じんフィルタが付いておりその閉塞の可能性が考えられるものの、そもそも海水ポンプ自体が厳しい環境条件(塩や砂などが入り込み得る)で使用することを前提に、絶縁材で保護されているなど耐食性に優れているため、たとえ防じんフィルタを外しても短期間で腐食等の影響を受けることは非常に小さいことから、この防じんフィルタを取り外すことにより、高濃度の降下火砕物に対しても、腐食等の影響を受けることなく閉塞を防ぐことができるため、特段の措置は不要であることが確認された。(乙B128~130、乙E48・24枚目、乙E49~51)オ 原子力規制庁は、平成29年7月19日の原子力規制委員会において、降下火砕物検討チームが取りまとめた「気中降下火砕物濃度等の設定、規制上の位置付け及び要求に関する基本的考え方」(濃度考え方)(乙B131・添付1)の内容について報告した。濃度考え方では、気中降下火砕物濃度の評価について、現在得られている科学的知見からは、手法①~③を用いることが考えられるが、いずれの手法も大きな不確実さを含んでいるため、これらの手法によりハザードレベル(自然現象に対して想定する基準値)を設定することは困難であるものの、運用期間中の活動が否定できない火山の噴火による降下火砕物の襲来により安全施設の安全機能を喪失する可能性があるため、気中降下火砕物濃度につき、設計又はその後の運用により、安全施設の機能維持を確認すべきであるとし、大きな不確実さを含んでいるものの、手法②又は手法③による推定値を考慮し、フィルタ交換等の運用面での対応による安全施設の機能維持が可能かどうかの評価(機能維持評価)に用いる気中降下火砕物濃度及び継続時間を、総合的、工学的判断により設定するとの考え方を示した。また、濃度考え方は、気中降下火砕物に関し、安全施設は、ダンパー(空気量制御弁)閉止等により一時的に停止すれば損傷等は考え難いこと、数時間から数日後に降灰が収まれば、安全機能を復旧できることから、必ずしも降灰開始と同時に損傷等を引き起こすとは限らないとして、気中降下火砕物に対しては、施設・設備面での対応だけでなく、運用面での対応も含めて全体として対応することが可能であり、降下火砕物の特性を踏まえた要求とすべきであるとし、降下火砕物の気中降下火砕物濃度との関係では、手法②により噴火継続時間を24時間と仮定した平均濃度、又は手法③により噴火継続時間を24時間とした場合の最大濃度を参考濃度とした上で、この参考濃度において、非常用DG等の非常用交流動力電源設備(設計基準事故対処設備)の24時間、2系統の機能維持を求めることとした。また、非常用交流動力電源設備2系統が偶発的に多重故障を起こし、いずれの機能も喪失した場合をあえて想定し、そのような場合でも電源車等の代替電源設備(重大事故防止設備)の機能維持を求めることとし、さらに、参考濃度よりも更に高濃度の降下火砕物によるフィルタ閉塞等に起因して代替電源設備も機能喪失し、全交流電源喪失に至った場合まで想定し、その場合における原子炉の炉心損傷の防止を求めることまで要求することとした。そして、手法②又は手法③によって算出した参考濃度に対しては、交流動力電源設備以外の安全施設についても同様に、適切な設計及び運用により、水源(海水ポンプ、取水設備などを含む)、通信連絡設備(無線、有線)等の機能維持、降灰時のアクセスルートの確保を求めることとした。濃度考え方は、既往最大の観測値に基づく気中降下火砕物濃度(セントヘレンズ山の噴火では33㎎/㎥)は、これを大幅に上回る手法②又は③によって算出される参考濃度(数 g/㎥)を用いて非常用交流動力電源設備の機能維持の確認を行うことから不要であるが、今後新たな観測値が得られる可能性もあることから、参考情報として把握することを求めることとした。(乙B131・添付1)原子力規制委員会は、原子力規制庁から、濃度考え方について報告を受け、その内容を了承した。その中で、フィルタ交換等の運用面での対応による安全施設の機能維持が可能かどうかの評価に用いる基準(機能維持評価用基準)は、ハザードに対して設計のみで対処する設計基準とは異なり、運用面も含めて対応するための基準ではあるが、求められる対策としては設計基準と同列に考え、手法②又は③によって算出した気中降下火砕物濃度(機能維持評価用参考濃度)によっても非常用DG等につき2系統の機能を維持することを要求するほか、機能喪失した場合を想定した代替電源を要求し、さらに代替電源も機能喪失して全交流電源喪失に至った場合をも想定した対処まで要求するという考え方を採ることを確認した。(乙B132・11~15頁)カ 平成29年9月20日の原子力規制委員会において、原子力規制庁から、実用炉規則等の改正案が諮られ、規則、解釈及び審査基準の改正案については行政手続法による意見公募手続を実施し、火山ガイドの改正案については行政手続法によらない任意の意見公募手続を実施することが了承された。(乙B133)改正案の内容は、実用炉規則の改正として、84条の2を新設して、火山影響等発生時における施設の保全活動のための体制整備を求めるとともに、92条1項を改正し、上記体制整備に関する事項を保安規定に記載することを求めて、同保安規定の記載事項に係る審査基準を追加し、火山ガイドについて、非常用DG等の外気取入口からの火山灰の侵入に対する機能維持評価(フィルタ交換等の運用面での対応)を行う際に用いる気中降下火砕物濃度の推定手法(手法②又は③を用いること、降灰継続時間を24時間とすることなど)を追記した平成29年火山ガイドへ改定するものである。(乙B133・1、2頁、乙B134)平成29年11月29日の原子力規制委員会において、原子力規制庁から、上記改正案に寄せられた意見に対する回答案及び意見を踏まえて一部の文言を修正した改正案が諮られた。(乙B135)原子力規制委員会は、上記回答案及び修正された改正案を了承するとともに、同改正によって保安規定の変更認可手続が必要となるところ、平成30年12月31日までの経過措置期間を設けることについても了承し、改正について決定した。(乙B136・1~8頁)以上の経緯を経て、平成29年12月14日付けで実用炉規則等の改正がされ、同日、施行された。(乙B134)(4) 本件バックフィット命令発出に至る経緯等ア 原子力規制庁は、実用発電用原子炉における火山事象に係る安全規制の高度化に向け、火山の活動可能性を評価するための手法を整備するために必要な知見の収集をする安全研究を行っており、その一環として、産総研に対し、平成26年度から平成30年度にわたり、「火山影響評価に係る技術的知見の整備」と題する研究(安全研究)を委託した。産総研は、日本最大級の公的研究機関として日本の産業や社会に役立つ技術の創出とその実用化等を行い、全国11か所の研究拠点で約2300名の研究者が研究開発を行っており、その中の地質調査総合センターは、1882年に産総研の前身である地質調査所が設置されて以来、日本で唯一の地質の調査のナショナルセンターとして地質情報の整備に取り組んでいる機関であり、その中に活断層・火山研究部門がある。(乙F35~38、弁論の全趣旨・被告第35準備書面41頁)火山影響評価に係る安全研究は、産総研の地質調査総合センター活断層・火山研究部門に所属するK2らによって行われたものであり、大規模・巨大噴火を起こした事例のある火山を対象とし、同研究の一部として、平成27年度から平成29年度にかけて、以下のとおり、大山の火山活動に係る研究が行われた。(乙D112、114、118~120)(ア) 平成27年度研究では、大山の過去20万年間の噴火履歴及び大山を起源とする降下火砕堆積物(DNP等)の分布の見直しが行われ、これらを基に大山のマグマ噴出量が再計算され、新たに積算マグマ噴出量の階段図(縦軸に噴出量、横軸に噴出年代を設定)が作成された。また、国内主要火山の階段図を類型化した結果、マグマ噴出率は一定ではなく上昇又は低下している事例の方が多いことが明らかになり、噴出率上昇期にはマグマ供給系の変化が起きていることが多いことや、噴出率低下期にはマグマ供給系の変化がほとんど起きていない傾向があることが明らかとなり、結論として、マグマ噴出量の階段図に噴出物の岩石学的な検討を組み合わせて評価することが火山活動の将来評価では重要であることが指摘された。この際、1980年代の文献において京都府越畑盆地において層厚30㎝のDNPの降下火砕物の分布が確認されていること等が考慮された。(乙D118)(イ) 平成28年度研究では、平成27年度研究の成果を受けて、火山活動の将来予測に結び付けられるようなマグマ噴出率変化とマグマ組成変化の関係が大山でも確認できるか否かを目的として、大山の代表的な噴出物試料の全岩化学組成分析を実施し、岩石化学的な性質の時系列変化を調査することとされた。その結果、DKPやDNPといった大規模プリニー式噴火が頻発した高噴出率期とその前後の低噴出率期とでは、特に噴出物試料の Sr(ストロンチウム)/Y(イットリウム)比に差異があり、低噴出率期においては Sr/Y 比が高いのに対し、高噴出率期においてはSr/Y 比が低く、マグマ組成が異なっていることが示され、大山の最後の噴火である三鈷峰溶岩・阿弥陀川火砕流堆積物の Sr/Y 比は、低噴出率期に属する古期大山火山溶岩の Sr/Y 比と同程度に上昇し、マグマ噴出率の低下に伴ってマグマ組成が変化したように見ることもできるとされた。(乙D119)(ウ) 平成29年度研究では、大山の噴出物試料の全岩主成分及び微量成分の追加分析が行われ、平成28年度研究の分析精度を向上させ、各噴出率期の火山噴出物について組成分析を行い、Sr/Y 比と Y(イットリウム)の関係を比較したところ、高噴出率期と低噴出率期のマグマ組成が異なり、最末期の噴出物は低噴出率期と同程度であることが分かり、これは異なる Sr/Y 比を持つ親マグマから分化したことを示しているとされた。また、Nb(ニオブ)はスラブ脱水による流体に入りにくい元素であり、反対に Ba(バリウム)は流体に入りやすい元素であることから、Nb/Y 比とBaの関係を比較すると、高噴出率期のものは Nb/Y比の小さな領域に、低噴出率期及び最末期のものは Nb/Y 比の大きな領域に分布していることが分かった。そして、高噴出率期と低噴出率期・最末期の噴出物の化学組成の違いとしては、高温マントルの寄与が少ない場合、生産されるスラブメルトの量は少なくなり、メルトの含水量も乏しくなるのに対し、高温マントルの寄与が大きい場合は、生産されるメルトの量自体が大きくなり、高噴出率期のDKPやDNPのような巨大なプリニー式噴火においてスラブメルト指標(Sr/Y)が低下していることは、高温マントルの寄与が大きかったと評価することができ、最末期に噴出量が急減し、Sr/Y 比が上昇して、噴火活動を停止したのは、約10万年前から始まった高温マントルの関与が約2万年前にほとんどなくなったと理解できるとした。(乙D120)イ 平成29年6月6日の技術情報検討会において、平成27年度研究及び平成28年度研究の概要等の説明がされ、この研究結果を踏まえた規制対応について、原子力規制委員会で議論することとされた。(乙C81、82)同月14日の原子力規制委員会において、原子力規制庁から、「火山活動可能性評価に係る安全研究を踏まえた規制対応について(案)」(乙C83)が報告された。これは、平成27年度研究により、DNPの分布が見直され、既存の知見である町田・新井(2011)の分布と大きく異なり、その根拠となった層厚に関する既往文献データに不確実さが伴うものの、より東側にまで火山灰の分布範囲が示されており、その結果から、DNPの噴出量については既知見と異なる可能性があること、大山火山は最後の活動である約2万年前の噴出物のマグマ組成が低噴出率期と同程度であることを考慮すると、現在は低噴出率期に入ったことなどが示唆されているが、現時点で研究が継続中であり結論は得られていないことを踏まえ、参加人に対し、DNPの火山灰分布について情報収集を行うことを求めるものであり、原子力規制委員会は、この方針を了承した。(乙C83、84・4~12頁)ウ 参加人は、平成30年3月1日付けで、原子力規制庁に対し、DNPの火山灰分布に関する情報収集結果を提出し、原子力規制庁は、同月28日の原子力規制委員会において、上記情報収集結果の報告及びこれに対する見解を報告した。原子力規制庁は、参加人が、越畑地点で確認されたDNPの地層について、DNPによって一度に堆積した純層ではなく、河川等の流水の影響によって後から堆積した再堆積層であるとしたのに対して、参加人が提出した資料を分析し、一部は火山灰が降って堆積した純層の可能性は否定できないとして、越畑地点におけるDNPの最大層厚は、Yamamoto(2017)で引用している文献値(30㎝)よりやや小さい26㎝とみなすことが可能であるとした。これを受けて、原子力規制委員会は、同日、当該見解に対して議論が必要であれば公開の場で行うとの方針を示した。(乙C85・1~3頁、乙C86・25~29頁)エ その後、参加人から追加の調査結果が提出され、原子力規制庁及び参加人は、平成30年6月29日及び同年10月5日、意見交換会を実施した。(乙C87~90)参加人は、越畑地点のDNPの堆積状況について、火山灰を含む地層に流水等の影響により移動して再堆積したものであり、降灰時の堆積状況が保存されていないから降灰層厚としては評価できないと説明したが、原子力規制庁は、参加人の主張を支持する科学的根拠を十分に確認することができなかったため、原子力規制庁及び参加人は、同月29日、地質学の専門家であるK1委員出席の下、越畑地点の現地調査を実施した。原子力規制庁は、越畑地点において、降下火山灰層として15㎝程度の層厚、その上位に10㎝程度の風化帯が存在し、この風化帯は降下火山灰層が風化又は植生による擾乱で土壌と混じり合ったと解釈し得るから、規制の観点からこれも降下火山灰層として扱うこととし、越畑地点のDNP降灰層厚を25㎝程度として評価することとした。また、原子力規制庁は、DNPの噴出量6.1㎦と、その倍の12.2㎦の2ケースでシミュレーション解析を実施し、後者の方が越畑地点を含む7つの評価地点の層厚を概ね再現したことから、規制の観点から、DNPの噴出規模を、既往の研究で考えられてきた規模を上回るVEI6規模(噴出量10~100㎦)と評価することとした。(乙C91・1~6頁)上記の意見交換及び現地調査を踏まえて、原子力規制委員会は、同年11月21日の原子力規制委員会において、越畑地点のDNPの降灰層厚は25㎝程度であり、DNPの噴出規模は10㎦以上と考えられること(本件新知見)を認定し、これを規制に参酌することを確認した。(乙C92・19~26頁)オ 原子力規制委員会は、平成30年12月12日の原子力規制委員会会議において、炉規法67条1項に基づき、参加人に対し、①越畑地点等7地点におけるDNPの降灰層厚(越畑地点は25㎝)に基づくDNPの噴出規模、②上記①の噴出規模を踏まえた不確かさケースも含めた降下火砕物シミュレーションに基づく本件各原子炉を含む原子力発電所ごとの敷地における降下火砕物の最大層厚について報告することを義務付ける報告徴収命令(本件報告徴収命令)を発出した。(乙C93~95)カ 参加人は、本件報告徴収命令を受け、平成31年3月29日、原子力規制委員会に対し、本件報告書(乙C96)を提出した。参加人は、本件報告書において、①本件報告徴収命令に提示された7地点に新たに文献調査等から得られた7地点を加えた合計14地点におけるDNPの降灰層厚の情報を用いて、複数の等層厚線図を作成し、これらの等層厚線図を基に複数の手法によりDNPの降下火砕物の噴出量を算出し(単一の閉じられた等層厚線から噴出量を求める方法として、Legros法では1.8㎦~3.4㎦、Hayakawa 法では5.8㎦~11.0㎦)、このうち最大の11.0㎦を採用して Tephra2 を用いた降下火砕物シミュレーションをした結果、本件各原子炉施設の敷地における降下火砕物の最大層厚は21.9㎝と算出されたこと、②40万年前以降、10㎦以上の噴火を起こしているのはDNP(約8万年前)とDKP(約5.5万年前)の2つの噴火だけであり、その期間(約8万年前~約5.5万年前)以外では数㎦以下の噴火しか発生していないから、DNPとDKPは高噴出率期に発生した一連の巨大噴火と考えられること、③平成27年度研究の成果の一部として作成された Yamamoto(2017)でも、大山は約10万年前からマグマ噴出量が大きくなり、約2万年前の三鈷峰噴火で活動を終えたとされていること、④第四紀火山の発達史的分類では大山は第4期に整理されており、第4期の噴出量は第1期~第3期に比べて少なく数㎦とされていること、⑤大山の地下構造からするとマグマ溜まりの可能性を示唆する低速度領域は本件設置変更許可申請時と同程度の20㎞以深に位置しており、爆発的噴火を引き起こす珪長質マグマの浮力中立点の深度7㎞より深い位置にあると評価されていること、以上のことから、大山は現在数㎦規模の噴火しか起こらない段階にあり、DNP・DKP噴火に至る活動間隔(約30万年以上)はそれ以降の経過時間である約5.5万年と比べて十分な時間的余裕があると考えられ、原子力発電所の運用期間中にDNP規模の噴火の可能性は十分低いと考えられると報告した。(乙C96)キ 原子力規制委員会は、平成31年4月17日の原子力規制委員会において、本件報告書について議論した。原子力規制庁は、本件報告書におけるDNPの噴出規模11.0㎦及び参加人の原子力発電所ごとの敷地における降下火砕物の最大層厚(本件各原子炉施設の敷地における降下火砕物の最大層厚は21.9㎝)がいずれも議論の前提に足りるものと評価できる一方、参加人がDNPとDKPを一連の噴火と評価していることは適切でなく、発電所の運用期間中のDNP規模の噴火の可能性を考慮するのが適切であるとの見解を示した(本件新認定事実)。そして、原子力規制委員会は、参加人が設置変更許可申請をする意図がないようであることから、何らかの規制上のアプローチが必要であることを了承した。(以上につき、乙C97、98・7~16頁)ク 令和元年5月29日の原子力規制委員会において、原子力規制庁から、「大山火山の大山生竹テフラの噴出規模の見直しに係る今後の規制上のアプローチについて」と題する資料(乙C99)が配布された。上記資料では、①本件各原子炉施設の火山影響評価に係る基本設計等において、その運用期間中に安全機能に影響を及ぼし得る火山事象として最大層厚10㎝の降下火砕物を設定していることは、11㎦程度と見込まれるDNPの噴出規模に鑑みると、設置許可基準規則6条1項の「想定される自然現象」の設定として明らかに不適当であり、本件各原子炉施設は「想定される自然現象」に対して安全機能を損なわない基本設計等を有するものであるといえないため、同項への不適合が認められること、②大山は活火山ではなく噴火が差し迫った状況にあるとはいえず、DNPの噴出規模の噴火による降下火砕物により本件各原子炉施設が大きな影響を受けるおそれがある切迫した状況にはないから、直ちに原子炉の停止を求める必要はないと考えられること、③対応方針として、本件各原子炉施設の火山影響評価に係る基本設計等は同項に適合していないと認められるため、炉規法43条の3の23第1項に基づき、令和元年12月27日までに、これに適合するよう基本設計等を変更し、同法43条の3の8第1項の設置変更許可申請をすることを命ずること、④「想定される自然現象」の設定により影響を受ける基本設計等又は保安上の措置についても所要の手続を経て関係法令に抵触しないよう措置することが求められること、⑤命令に当たって参加人に対し弁明書の提出期限を同年6月12日として弁明の機会の付与をすることとされていた。原子力規制委員会は、上記資料のとおり対応することを決定した。(以上につき、乙C99、100・5~13頁)ケ 参加人は、令和元年6月11日、原子力規制委員会に対し、弁明を行わず、同年12月27日までのできるだけ早い時期に、設置変更許可申請を行う旨を通知した。(乙C101・別紙2)コ 原子力規制委員会は、令和元年6月19日の原子力規制委員会において、本件バックフィット命令の発出を決定し、参加人に対し、これを発出した。(乙C101、102・3頁)(5) 令和3年保安規定変更認可処分に至る経緯及び火山に係る審査ア 平成29年の実用炉規則等の改正及び令和2年の実用炉規則の改正に伴い、同各改正前に保安規定(変更)認可を受けていた原子炉施設については、同各改正に対応した保安規定変更認可を要することとなった。参加人は、本件各原子炉施設について、平成29年改正実用炉規則84条の2に「火山影響等発生時における発電用原子炉施設の保全のための活動(その後、令和2年改正実用炉規則により83条1号ロ「火山現象による影響」に改正)が追加されたことから、これに対する保全に関する措置を新たに追加するとともに、当該保全に関する措置に関連する保安規定の定めについて変更を行い、令和元年7月31日付けで、令和3年保安規定変更認可申請をした。(乙C52)イ 参加人は、令和3年保安規定変更認可申請の申請書、審査会合の資料等において、次のとおり記載した。(乙C52~54、119)(ア) 令和2年改正実用炉規則83条1項1号ロが定める火山現象による影響について、火山現象による影響が発生し、又は発生するおそれがある場合(火山影響等発生時)における発電用原子炉施設の保全のための活動に関して、以下の対応をする。①火山影響等発生時における非常用交流動力電源設備の機能を維持するための対策に関すること(要求事項(火山)①)として、非常用DGの吸気ラインに改良型フィルタを取り付け、2台運転。また、電動補助給水ポンプによる炉心の冷却を行う。②①に掲げるもののほか、火山影響等発生時における代替電源設備その他の炉心を冷却するために必要な設備の機能を維持するための対策に関すること(要求事項(火山)②)として、タービン動補助給水ポンプを使用し、蒸気発生器2次側へ注水することにより炉心の冷却を行う。③②に掲げるもののほか、火山影響等発生時に交流動力電源が喪失した場合における炉心の著しい損傷を防止するための対策に関すること(要求事項(火山)③)として、電源車を動力源とした蒸気発生器補給用仮設中圧ポンプ(電動)により蒸気発生器2次側へ注水することにより炉心の冷却を行う。(以上につき、乙C53・593頁)(イ) 要求事項(火山)①についてa 火山影響等発生時における炉心冷却のための対応手段と設備の選定の考え方として、火山影響等発生時において、原子炉停止後、外部電源喪失が発生した場合、炉心崩壊熱の除去を維持継続する必要があるため、非常用DGからの給電により蒸気発生器2次側及び余熱除去系による炉心冷却を行う。この場合、継続して非常用DGの機能を維持する必要がある。(乙C53・599頁)b 火山影響等発生時の想定として、平成29年火山ガイドに示す手法に従い、本件各原子炉施設の降灰量(10㎝)が24時間継続すると仮定することにより気中降下火砕物濃度を推定し、その環境下での対策を検討した。資機材として、既存の資機材(スコップ、マスク、ヘッドライト及びゴーグル等)に加え、必要な道具を配備するとともに、作業性を確保するための防護具(マスク、ゴーグル)の数を増やす。非常用DGの機能維持に必要な改良型フィルタとして、1ユニット当たり2台、フィルタ数24体(1体当たり9.5㎏)、交換用フィルタ数24体を配備する。(乙C53・594、598頁)c 気中降下火砕物濃度の算出については、平成29年火山ガイドの手法②により算出した。設計層厚10㎝、総降灰量12万1000g/㎡、降灰継続時間24時間、粒径分布を Tephra2 による粒径分布の計算値として、0~1φ(φの数値が大きいほど粒径は小さい。)の割合を57.0%、1~2φの割合を27.0%、2~3φの割合を13.0%、3~4φの割合を2.4%、4~5φの割合を0.64%、5~6φの割合を0.03%、6~7φの割合を0.00087%、それぞれの粒径分布に応じた終端速度を1.8~0.01m/s(粒径が小さくなると終端速度は遅くなる。)などとして算出すると、1.4g/㎥となる。フィルタの性能試験の条件及びフィルタ取替の着手時間の計算に用いる気中降下火砕物濃度については、降下火砕物の層厚が増えることを考慮し、3.50g/㎥とする。(乙C54・726~728頁)d 火山影響等発生時における非常用DGの機能を維持するため対策として、フィルタの取替・清掃が容易な改良型フィルタを取り付けるための手順を整備する。気象庁が発表する降灰予報により発電所への多量の降灰が予想された場合等に改良型フィルタを取り付けることとし、気象条件等を考慮した噴火から降下火砕物が発電所敷地に到達するまでの時間を60分(保守的に最大風速約60m/s で火山灰が飛散すると仮定)、改良型フィルタの取付けに要する時間は50分(1ユニット当たり8人、移動時間10分、作業時間40分を想定。実績時間は移動時間9分、作業時間30分)であり、作業の成立性がある。気中降下火砕物濃度3.5g/㎥として、フィルタの最大捕集容量は46万7544g/㎡となるが、フィルタ取替の目安は保守的に40万 g/㎡として、基準捕集容量到達までの時間は828分である。改良型フィルタの取替・清掃は、1交換サイクル当たり80分(1ユニット当たり4名、取替時間20分、清掃時間60分を想定。実績時間は取替時間13分、清掃時間25分。取替・清掃を合わせて20分以内に実施する場合は1ユニット当たり6名で行う。)であり、作業の成立性がある。改良型フィルタの取替着手時間は808分となるが、保守的に720分(12時間)でフィルタ取替に着手し、降灰継続時間が24時間と想定しており、フィルタの取替回数は1回となる。フィルタは2セット配備していることから、1セット当たり1回の使用となり、清掃作業は必要ない。フィルタの取替・清掃時は、火山灰の侵入を防止するため、流路を塞ぐ閉止板を装填する。(乙C53・603、605、665、666頁、乙C54・718~721、725頁)(ウ) 要求事項(火山)②についてa 火山影響等発生時における炉心冷却のための対応手段と設備の選定の考え方として、全ての非常用DGの機能が喪失した場合は全交流動力電源喪失となるが、降下火砕物の影響により空冷式非常用発電装置からの代替受電が不可能なため、タービン動補助給水ポンプを用いた蒸気発生器2次側による炉心冷却を行う。b 気中降下火砕物濃度によらず、その動作に期待できる対策を検討した。タービン動補助給水ポンプとともに利用する主蒸気大気放出弁は、屋外に大気開放部を有しているが、大気開放部に堆積する降下火砕物の荷重より主蒸気大気放出弁の噴出力は大きいことから、機能に影響を及ぼすことはない。(以上につき、乙C53・594、601頁)(エ) 要求事項(火山)③についてa 火山影響等発生時における炉心冷却のための対応手段と設備の選定の考え方として、タービン動補助給水ポンプによる給水ができない場合は、蒸気発生器補給用仮設中圧ポンプ(電動)を用いた蒸気発生器2次側による炉心冷却を行う。火山影響等発生時のアクセスルートについて、降灰前に燃料取扱建屋内等に電源車等を配置するため、アクセスルート確保のための除灰作業は、降灰状況や体制等を考慮し、必要に応じ適宜実施する。(乙C53・599頁)b 蒸気発生器補給用仮設中圧ポンプ(電動)の準備作業として、電源車の移動及び電源ケーブルの敷設・接続、可搬式排気ファンの設置及び仮設ダクトの敷設・接続並びに可搬式ダストサンプラ等を設置して、電源車を起動し、蒸気発生器補給用仮設中圧ポンプ(電動)を用いた蒸気発生器2次側による炉心冷却を行う。(乙C53・608~610頁)c 推定した気中降下火砕物濃度の2倍の濃度を想定し、その環境下で、非常用DGは降灰到達後も一定期間機能を期待するものとして対策を検討した。(乙C53・594頁)気中降下火砕物濃度の2倍の濃度を想定し、非常用DGは、フィルタの基準捕集容量到達までの時間828分を約1/2にした400分間機能を維持するものと設定し、その後に停止して全交流動力電源喪失及び補助給水機能喪失が発生したとしても、主蒸気大気放出弁による2次系強制冷却を開始することで蒸気発生器の圧力が低下し、仮設中圧ポンプによる蒸気発生器への注水が開始され、蒸気発生器の水位は、事象発生中、約22%以上に保たれる。仮設中圧ポンプによる蒸気発生器への注水により蒸気発生器2次側の保有水を確保できること、1次系の保有水が十分確保されていること、主蒸気安全弁の作動及び主蒸気大気放出弁による2次系強制冷却により1次系の自然循環が維持されることから、継続的な炉心冷却が可能であり、不確かさの影響を考慮しても、炉心の著しい損傷を防止することができる。以降は減温・減圧し、安定停止状態に移行する。(乙C53・609、610、700~706頁)ウ 原子力規制委員会は、令和3年保安規定変更認可申請が炉規法43条の3の24第2項2号に規定する核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上十分でないものであることに該当するかどうかについて、以下のとおり審査をした。(乙C52)(ア) 保安規定審査基準は、実用炉規則92条1項16号の「設計想定事象、重大事故等又は大規模損壊に係る発電用原子炉施設の保全に関する措置」に関し、要求事項(火山)①~③の措置を講ずることが定められていることとしているところ、上記イ等の事項が定められていることから、同号に関する保安規定審査基準を満たしていると判断した。(乙C52・5、6頁)(イ) 原子力規制委員会は、上記(4)キ~コのとおり、本件新認定事実に基づけば、本件各原子炉施設の火山影響評価に係る基本設計等は、火山事象に係る「想定される自然現象」の設定として明らかに不適当であり、設置許可基準規則6条1項への不適合が認められるため、炉規法43条の3の23第1項の規定に基づき基本設計等を変更すべき旨、参加人に対し本件バックフィット命令を発出したところ、参加人から、令和元年9月26日に令和3年設置変更許可申請がされた。原子力規制委員会は、平成31年4月17日の原子力規制委員会において判断したとおり、大山火山は活火山ではなく噴火が差し迫った状況にあるとはいえず、上記のとおり認定したDNPの噴出規模の噴火による降下火砕物により当該発電所が大きな影響を受けるおそれがある切迫した状況にはないこと、本件バックフィット命令の適切な履行により上記の不適合状態は是正することができ、かつ、大山火山の状況に照らせばこれで足りることなどから、本件バックフィット命令に係る手続が進んでいる現在の状況下における本件の審査においては、DNPの噴出規模を含め火山事象に係る「想定される自然現象」については、既許可の想定を前提として、令和3年保安規定変更認可申請についての基準適合性を判断した。(乙C52・7、8頁)エ 原子力規制委員会は、令和3年2月15日、令和3年保安規定変更認可申請に係る保安規定の変更が、保安規定審査基準を基に、炉規法43条の3の24第2項各号のいずれにも該当しないことを確認し、令和3年保安規定変更認可処分をした。(乙C52)(6) 令和3年設置変更許可処分における火山に関する審査ア 参加人は、本件バックフィット命令を受けて、令和元年9月26日、本件各原子炉につき、DNPの噴出規模の見直しに伴う令和3年設置変更許可申請をし、同申請に係る申請書、審査会合の資料等において、次のとおり記載した。(甲D242、乙C103、104、108、112)(ア) 大山の噴火時期、噴火規模、活動休止期間を示す階段ダイヤグラムによれば、大山は約100万年前頃(更新世中期頃)に火山活動を開始し、40万年前以降、最も規模の大きな噴火はDKPであったが、DKP噴火に至る活動間隔(約30万年以上)は、DKP噴火以降の経過時間(約5.5万年)に比べて十分に長いことから、次のDKP規模の噴火までには、十分な時間的余裕があると考えられ、発電所運用期間中におけるDKP規模(約20k㎥以上)の噴火の可能性は十分低いと考えられる。(乙C108・32頁)火山影響評価に係る安全研究の成果報告によると、大山では、階段ダイヤグラムからマグマ噴出率の変化が認められ、噴出率の高噴出率期と低噴出率期では噴出物の化学組成のトレンドが明瞭に異なり、DKPは高噴出率期のトレンドと一致し、約2万年前の最終噴火では低噴出率期のトレンドに戻っているとされている。マグマの深さと組成との関係を検討した結果、爆発的噴火を引き起こす珪長質マグマの浮力中立点の深度は7㎞程度に定置すると考えられる。また、過去に巨大噴火を起こした火山の噴火直前のマグマの温度・圧力条件からマグマの定置深さを推定した結果、概ね10㎞以浅と示される。大山の地下構造については、Zhao et al.(2011)等によると、大山の地下深部に広がる低速度層と、大山の西で生じている低周波地震の存在から、地下深部にマグマ溜まりが存在する可能性が示唆されるものの、仮にマグマ溜まりだとしても、これらの低速度層は20km 以深に位置していることが示される。これらの研究をさらに進めた Zhao et al.(2018)によると、大山の地下深部の低速度層の存在が示されるが、その深度は Zhaoet al.(2011)と同程度であり、大山の地下深部に広がる低速度層の深度に変化がないことが示される。以上より、大山については、火山発達史、噴火履歴の検討結果、火山影響評価に係る安全研究の成果報告及び地下構造の評価結果から、運用期間中におけるDKP規模相当の噴火の可能性は十分低いと評価する。したがって、火山影響評価上、DNPの噴出量11㎦を運用期間中の噴火規模として設定し、移流拡散モデル(Tephra2)を用いた降下火砕物のシミュレーションを実施した結果、風速等のばらつきを含めても最大層厚は21.9㎝であった。(以上につき、乙C103・別添3)(イ) 文献調査、地質調査及び降下火砕物シミュレーション結果から、運用期間中における敷地の降下火砕物の最大層厚は25㎝と設定した。また、降下火砕物の粒径及び密度については、文献及び地質調査結果を踏まえ、粒径は1㎜以下、乾燥密度を0.7g/㎤、湿潤密度を1.5g/㎤と設定した。(乙C103・別添3)(ウ) 降下火砕物の密度は、本件各原子炉の敷地及びその周辺に分布する主な広域降下火砕物として、古い地層の保存状態が良い三方五湖周辺において実施した津波堆積物調査の結果、姶良Tnテフラ(約2.9万年前~約2.6万年前)、鬱陵隠岐テフラ(約1.1万年前)、鬼界アカホヤテフラ(約7300年前)等が確認されたことから、菅湖における津波堆積物調査における降下火砕物データのうち、鬼界アカホヤ及び鬱陵隠岐の火山灰の単位堆積重量を見ると、乾燥状態で約0.7g/㎤、湿潤状態で約1.3g/㎤であった。また、宇井忠英編「火山噴火と災害」(乙D126・65頁)には、乾燥した火山灰は、密度が0.4~0.7程度であるが、湿ると1.2を超えることがあるとの記述がある。そこで、降下火砕物の密度は、乾燥状態0.7g/㎤、湿潤状態1.5g/㎤を想定する。(乙C112・25、85頁)(エ) 降下火砕物シミュレーションには、Tephra2 を用いて、噴出量(11㎦)、噴出物総重量(1.10×1013㎏)、噴煙柱高度(2万5000m)、風速(1~12月の各月の平均値)、風向(1~12月の各月の最頻値)、粒径パラメータ(最大粒径1/2-10、最小粒径1/210、中央粒径1/24.5、標準偏差1/23.0)、軽石密度1.0t/㎥、岩石密度2.6t/㎥等のパラメータを基本ケースとし、噴煙中高度、風速、軽石密度及び岩石密度等を修正した6つの不確かさケースを設定したところ、風速を平均+標準偏差とした不確かさケースのものが最大層厚21.9㎝となった。これらのパラメータは、噴出量及び噴出物総重量以外は、本件設置変更許可申請から変更していない。(乙C79・42頁、乙C108・38、46頁)(オ) 原子力規制委員会からの越畑地点における降灰層厚と本件各原子炉との距離の関係を踏まえて設計層厚を見直すことという指摘を踏まえて、越畑地点の降灰層厚25㎝を基に、本件各原子炉の降灰層厚を大山からの距離に応じて算定すると、26.6㎝となる。これも踏まえて、本件各原子炉の降灰層厚を27㎝と設定する。(乙C108・1、51頁)(カ) 建物・構築物の静的荷重評価として、既認可の工事計画認可における評価手法と今回の設計及び工事の計画の認可とでは評価手法を変更する。既認可の評価手法では、設計時長期荷重を1.5倍した評価上の基準値を、常時作用する荷重及び降下火砕物等堆積による鉛直荷重の和が超えないことを確認する評価手法(荷重による評価)であった。これに対し、今回の設計及び工事の計画の認可では、長期許容応力度を1.5倍した短期許容応力度(許容限界)を、常時作用する荷重及び降下火砕物等堆積による鉛直荷重の和により発生する応力度が超えないことを確認する評価手法(応力度による評価)である。評価手法(荷重による評価)は大きな保守性を有していたのに対し、評価手法(応力度による評価)は保守性を有する。複数ある建屋のうち許容層厚が最小となる建屋について評価手法(応力度による評価)をすると、本件各原子炉施設の降灰層厚27㎝に対し、原子炉補助建屋及び制御建屋の許容層厚39㎝、復水タンクの許容層厚72.7㎝、燃料取替用水タンクの許容層厚28.6㎝となるなど、必要な機能を損なうことはなく、成立性が確認できた。復水タンク及び燃料取替用水タンクについては、100㎝の積雪荷重も併せて評価した。(甲D242・8~12頁)(キ) 平成29年火山ガイドの手法②により設計層厚27㎝、総降灰量32万2900g/㎡として算出すると、気中降下火砕物は3.78g/㎥となる。フィルタ性能試験の結果では、改良型フィルタの最大捕集容量は40万5314g/㎡となるが、フィルタ差圧曲線の差圧が高い領域を避け、差圧上昇が時間的に十分なだらかな領域となるように、フィルタ取替の目安として基準捕集容量を保守的に25万g/㎡とし、降下火砕物濃度3.78g/㎥として計算すると、フィルタ基準捕集容量到達までの時間は479分である。フィルタ取替に要する時間を20分として、フィルタ取替の着手時間は459分となるが、450分でフィルタ取替に着手し、降灰継続時間が24時間と想定しており、フィルタ取替が完了するまでの時間は470分である。フィルタは2セット配備していることを踏まえると、フィルタ1セット当たりの火山灰を捕集する回数は2回となり、フィルタの清掃回数は1回必要である。フィルタは1回清掃して繰り返し使用することとなるが、フィルタの性能は十分確保できていることを検証試験により確認している。また、要求事項(火山)③に関して、非常用DGの機能を期待する時間は、479分を約2分の1にした230分となり、主蒸気大気放出弁による2次系冷却開始の時期が早まり、蒸気発生器の最低水位は約17%程度へと下がるが、仮設中圧ポンプによる注水の効果により、炉心の著しい損傷には至らない。(以上につき、乙C119・5、126~128、135~137、141、142頁)イ 原子力規制委員会は、令和3年設置変更許可申請について、設置変更許可基準規則6条1項及び2項が想定される火山事象が発生した場合においても安全施設の安全機能が損なわれないように設計することを要求していることについて、次のとおり審査をした。(乙C78、123)(ア) 参加人が実施した設計対応可能な火山事象の影響評価については、火山ガイドを踏まえたものであり、文献調査、地質調査等により、本件各原子炉への影響を適切に評価していることを確認した。また、原子力規制委員会は、参加人が設定した降下火砕物の最大層厚等は、火山ガイドを踏まえたものであり、最新の文献調査及び地質調査結果を踏まえ、降下火砕物の分布状況、不確かさを考慮した降下火砕物シミュレーション結果及び越畑地点におけるDNPの実績層厚と大山から本件各原子炉までの距離関係から総合的に評価し、適切に設定されていることから、妥当であると判断した。(乙C78・5頁)(イ) 原子力規制委員会は、降下火砕物の影響に対する設計方針等について、降下火砕物の最大層厚の変更に関連する降下火砕物に対して設計上対処すべき施設を抽出するための方針、降下火砕物による影響の選定、設計荷重の設定、降下火砕物の影響に対する設計方針について、既許可申請②の内容から変更がないことを確認した。この過程において、原子力規制委員会は、参加人に対して、設計基準対象施設及び重大事故等対処施設(特定重大事故等対処施設を含む。)について、降下火砕物の最大層厚の変更によって影響を受ける項目を整理した上で、降下火砕物の最大層厚以外の基本設計等の技術的成立性を詳細に説明し、これらを変更する必要がないことを示すよう求めた。これに対して、参加人は、降下火砕物の最大層厚の変更に伴い評価が必要となる影響因子は荷重及び閉塞であり、これらの観点から影響確認が必要な項目として、①施設を内包する建屋及び屋外施設に対する静的荷重の影響、②屋外との接続のある施設に対する閉塞の影響、③降下火砕物の除去に対する影響を抽出し、①については、施設を内包する建屋、屋外タンク等に対する降下火砕物の堆積荷重(積雪による荷重の組合せを含む。)の影響について、荷重又は応力による簡易評価を行ったところ、発生値が許容限界を下回ることから、構造健全性は維持されるとの評価結果が得られた、②については、主蒸気逃がし弁等の大気開放部に対する閉塞の影響について、堆積荷重及び噴出力の評価を行ったところ、出口配管内へ直接降下火砕物が侵入・堆積した場合でも、堆積荷重と比較して噴出力が十分に大きいことから閉塞は生じず、必要な機能は維持されるとの評価結果が得られた、③については、建屋の屋根部、屋外タンク等からの降下火砕物の除去作業について、降下火砕物の堆積量から作業量及び作業時間の評価を行ったところ、30日以内の除去が可能であり、かつ、除去した降下火砕物を保管する場所は十分な容量を有しているとの評価結果が得られたとの説明をした。原子力規制委員会は、降下火砕物の最大層厚の変更後においても、それ以外の基本設計等に技術的成立性があることから、降下火砕物の最大層厚以外の基本設計等を変更しないとの参加人の方針は妥当であると判断した。(以上につき、乙C78・6、7頁)(ウ) 原子力規制委員会は、上記審査を踏まえて、令和3年設置変更許可申請は、炉規法43条の3の6第1項2号(技術的能力に係る部分に限る。)、3号及び4号に適合しているものと判断した。なお、審査の過程において、令和3年設置変更許可処分後に行われる設計及び工事の計画の認可申請等の対応方針を確認したところ、参加人は、変更認可されている保安規定に定める、火山事象による影響が発生し又は発生するおそれがある場合における発電用原子炉施設の保全に関する措置について、本件各原子炉については、降下火砕物の最大層厚の変更後においても当該措置に技術的成立性があるため、本申請による変更許可後においても保安規定の変更はしないとした。これに対して原子力規制委員会は、変更後の最大層厚から推定した気中降下火砕物濃度で非常用DGの改良型フィルタの性能試験を実施した結果、フィルタ取替までの時間間隔を短縮する必要があるが、保安規定で定めるフィルタ取替及び清掃の作業に要する時間を変更する必要はないとの評価結果が得られたこと、火山影響対策に使用する屋外施設に対する静的荷重の影響について、荷重による評価を行ったところ、発生応力は許容値を下回ることから、構造健全性は確保されるとの評価結果が得られたこと、非常用DGの改良型フィルタの取替ができないと仮定した場合、フィルタの閉塞により電動補助給水ポンプが機能喪失する時間が早まるものの、蒸気発生器補給用仮設中圧ポンプを用いた蒸気発生器への注水により蒸気発生器の水位が維持されること等から、炉心冷却は可能であるとの解析結果が得られたことが確認できたことから、現行の保安規定に定める措置により、本件各原子炉については、降下火砕物の最大層厚の変更後においても発電用原子炉施設の保全のために必要な活動を行うことが可能であり、令和3年設置変更許可処分後においても保安規定を変更しないとの参加人の方針は妥当であると判断した。(以上につき、乙C78・7頁)ウ 原子力規制委員会は、令和3年3月17日の原子力規制委員会会議において、審査書案の取りまとめを行い、同月18日から同年4月16日までの期間で意見公募手続を行い、また、原子力委員会及び経済産業大臣に対する意見聴取(炉規法43条の3の6第3項、同法43条の3の8第2項、同法71条1項1号)を行った。そして、原子力規制委員会は、これらの意見公募手続及び意見聴取の結果を踏まえ、同年5月19日、本件各原子炉に係る令和3年設置変更許可処分をした。(乙C77、106・17頁、乙C107)(7) 火山についての知見ア 噴火の原理等(ア) 地球表層部は、十数枚のプレート(地球の表面を取り巻く厚さ約100㎞の硬い岩石の層であり、地殻と低温の上部マントルを含む。)で覆われており、これらのプレートが地球の表面上を移動したり衝突したりしており、火山の大部分は、このプレートの沈み込みによりその境界に沿って形成される。プレートが沈み込む際、プレート上部の海洋地殻には多くの水が含まれており、これが脱水する温度・圧力条件まで沈み込むと水を放出し、その水と大陸地殻内のマントルとが反応することによりマントル内の岩石の融点が降下するため、岩石を溶解する温度・圧力条件を満たす領域でマグマが生成される。そして、マグマ(液体)は、周囲の地殻(固体)との密度差から地表方向へ上昇し、周囲の密度と釣り合うところでマグマ溜まりを形成し、マグマ溜まりから供給されたマグマが地表に到達して噴出し、火山が形成されると考えられている。(乙B156・333、334頁)(イ) 火山の噴火は、地下で生成されたマグマが地表に噴出することによって生じるものであり、そのマグマは地下に形成されたマグマ溜まりから供給される。マグマの物理的性質、粘性や密度は、マグマが移動する際の速度や噴火の激しさと密接に関係するため、火山活動を理解する上で重要なパラメータであり、一般的に、玄武岩質マグマは、高温で粘性が低い場合が多いが、珪長質マグマ(流紋岩質マグマ及びデイサイト質マグマ)は、低温で粘性が高いため、長い年月をかけて大量のマグマを蓄積しやすく(乙D74・94、95頁、乙D77・53頁、乙D81・83、84頁)、大規模なマグマ溜まりを形成して噴火を起こす巨大噴火は、一般に珪長質マグマによるものとされている(乙D82・7、8頁)。珪長質マグマは、粘性が高いことにより、噴火した際にはプリニー式噴火(噴煙柱を高く形成するもの)を引き起こすとされている。(乙D81・128~139頁)(ウ) マグマが噴火可能な状態にあるかどうかは、マグマに含まれる結晶量の割合に左右されると考えられている。結晶量の割合が50%程度以上のマグマはマッシュといい、そのままでは噴火できないところ、実際のマグマ溜まりは大部分がマッシュ状であるため、その状態では噴火できないが、粒間のメルト(完全に溶融したマグマ)が分離・集積したり、高温マグマ等の注入によってマッシュが溶融したりすることなどにより噴火に至るとされ、この再活性化は数か月~数十年という比較的短期間で起こるという見解もある。(乙D83・2、3頁、乙D85・282、283、286頁)(エ) マグマの発泡や噴火は、マグマに含まれる水の量にも左右されると考えられており、マグマが地下深部のような高い圧力下にあると、水はマグマに溶け込めるが、マグマの上昇による減圧等が起こると、その水が水蒸気となってマグマから分離し、マグマが発泡し、そうすると、その泡を含めたマグマの体積が増加し、マグマ溜まりの圧力が増加することで、上部の岩石を破壊し、噴火に至るとされている。(乙D74・91、92頁、乙D81・191~195頁、乙D87・16~19頁、乙D88・10~13頁)イ 噴火予測(ア) 火山の諸現象を解明するための調査手法には様々な手法があるが、代表的な手法として、①地質学的調査手法、②岩石学的調査手法及び③地球物理学的調査手法がある。①地質学的調査手法は、地層の現地調査を行って火山噴出物(火山岩)の種類、堆積物分布範囲、噴出量及び各地層の堆積順序を確認したり、各地層における堆積物の放射年代等を調査したりすることにより、火山噴出物が噴出し堆積した年代を推定して、当該火山における噴火履歴をまとめるなどの研究を行う火山地質学の手法を用いるものであり、個々の火山におけるマグマ供給系ごとに検討される過去の噴火履歴を把握することにより、現在の活動状況や将来の活動状況を推定することができる場合があり、地質学的な調査結果については、縦軸に噴出量、横軸に噴出年代を設定した階段ダイヤグラム(階段図)を作成して噴火履歴を示し、これを分析して、火山活動の傾向や将来の活動可能性を評価する。(乙B156・343~345頁、乙D92の2・27頁)②岩石学的調査手法は、岩石の性質・産状・相互関係・成因等を研究する火山岩石学を利用するものであり、火山噴出物の岩石学的調査(偏光顕微鏡を用いた観察、主成分・微量元素組成分析等)を行うことにより、活動したマグマの特徴、地下におけるマグマの成因、火山活動の履歴等を推定するものである。(乙D80)③地球物理学的調査手法は、物理学的方法により地球を研究する地球物理学を利用するものであり、火山に関する調査手法として、地震波の観測により地下の地震波速度構造を解析することにより、マグマ溜まりの位置等を推定する地震波トモグラフィ法などがある。地震波トモグラフィ法は、地震が発生し、震源から発生した地震波が地表まで伝わる途中に存在する物質の性質(岩盤等の剛性率や密度)によって地震波の伝わる速度が異なり、その速度の違いを把握することによって、当該物質の場所や性質を推定することが可能となる地下の地震波速度構造解析技術である。熱水やマグマ等の液体が多く含まれている岩盤等を通るときは地震波の速度が遅くなるため、地震波到達時間に遅延等の異常がみられる場合、地下に低速度領域があることが推測され、マグマ溜まり等の低速度領域の原因が存在する可能性がある。(乙D86、94)(イ) 噴火が起こる前には、マグマが地下の一定の深さに定置するという考え方が火山学において受け入れられているが、その中で、マグマの密度が周囲の岩石と均衡すればその均衡した深さでとどまるという原理に依拠する見解があり、これは、マグマは地球内部の密度構造に支配されながら、浮力によって上昇・移動し、マグマの密度が地殻の密度と釣り合う深さ(浮力中立点)にマグマ溜まりができるとするものである。我が国では、マグマ活動の中心的役割を果たす玄武岩質(粘性が低く、高温で、密度が高い)のマグマ溜まりが地下10~12㎞を浮力中立点として存在し、その上層に珪長質(粘性が高く、低温で、密度が低い)のマグマ溜まりが生成されると、そのマグマ溜まりが更に浅所の浮力中立点に移動するとの考え方が示されている。(乙D78・78、79頁、乙D83・6~8頁、乙D84・723頁)もっとも、マグマ溜まりの位置について、浮力中立点よりも浅部には形成されないが、マグマ溜まりがシル(水平方向に薄く広がった貫入マグマ)の集合体である場合には、浮力よりもむしろ、地殻内のレオロジー(流動学)や剛性のコントラスト、応力場などがマグマの定置深度を支配するらしいとの見解(東宮(2016))がある。(甲D240・284頁、乙D84・722頁)ウ 降下火砕物の影響(ア) 噴火が発生すると、火砕物は、噴煙柱として立ち上り、噴煙柱と周囲の密度が釣り合った付近で噴煙は水平へ傘状に広がるが、重力と空気抵抗が釣り合う速度(終端速度)に達すると落下し始め、小さい粒子ほど終端速度は小さく遠くまで運ばれる。日本列島を含む中緯度地帯の上空には、地球規模の大気循環により西風である偏西風が常に吹いており、降下火砕物は規模の大きな噴火ほど強い西風に送られ、火山の東側に分布すると考えられており、日本の後期第四紀(約13万年前以降)テフラの場合は120例中84%がそのような分布域である。(乙D91)(イ) 火山灰の密度は、乾燥状態で概ね1g/㎤程度であるが、湿潤状態になると1~2g/㎤と、乾燥時より密度が増加し、湿り気を帯びた新雪(0.1~0.2g/㎤)の10倍程度の密度である。火山灰は、乾燥時には絶縁体であるが、水を含んで湿った状態になると、火山ガス成分や火山灰に含まれる塩基類によって通電性を持つことがあり、湿った火山灰が電柱の碍子等に付着した場合、碍子部分の絶縁性が弱くなり、閃絡等による停電等が起こることがあるほか、火山灰から硫化イオン(SO42-)が溶出すると、金属腐食の要因となる。火山灰の融点は約1000℃であり、航空機用ガスタービンのエンジン燃焼度(1400℃以上)で火山灰が溶融し、その後、冷えてタービンブレード等に付着するため、飛行中のエンジン停止等異常の原因となる。(甲D201・5、6頁、甲D208)(ウ) Tephra2 は、風による移動(移流)と空中で勝手に拡がる現象(拡散)を盛り込んだ「移流拡散モデル」を用いたシミュレーションコードである。噴煙柱高さ、噴出量、粒子の粒径、給源火口の座標、拡散係数、見かけ渦拡散係数、岩片の密度、軽石の密度、地形データ、標高ごとの風速・風向等の多数のパラメータを入力することにより、降灰範囲及び降灰量が得られ、各地点の降下火砕物の堆積量及び粒径分布のデータが同時に出力される。Tephra2 は、垂直に上昇する噴煙中から粒子が離脱するというモデルに基づいており、噴煙中の傘型領域からの落下は盛り込んでおらず、開発者によれば、大気を水平方向の層に分け、その層の中では風速と風向が一定であると仮定し、各層間で風速と風向が変化するようにして、モデルを単純化しているため、小規模な噴火には有効であるが、より規模の大きい噴火や風の変化が激しい場合には、現実をうまく表現できない可能性が高いとされる。(甲D214、259、弁論の全趣旨・被告第35準備書面35、36頁)(エ) 噴出物量の算出に用いられる Legros 法は、等層厚線の情報のみから、等層厚線に囲まれた面積と厚みの積により最小体積を計算する方法であり、その提案者は、1つの等層厚線しか利用できない降下火砕物堆積物の最小体積の推定値として有用であると提案する。(甲D275)(オ) 圧密とは、一般に、土や地盤に荷重がかかり、内部に発生する圧縮応力のため、土(堆積物)の間隙を構成する水や空気を追い出し、土の体積を減少させて、密な状態に変わる現象を指すものであり(乙D124・393頁)、特に土木建築においては、地表に構造物を建設することなどにより圧力が加わり地盤に圧密が生じ、それが地盤沈下の原因となるため地盤改良として圧密促進工事などが行われる。これに対し、地質学でいうところの圧密は、地層を形成する堆積物が、その上層に堆積した堆積物の圧力で堆積物粒子の間隙が最小限となる現象や作用を指し、長い年月を経てそれが更に進行すると、堆積物粒子が接着されて固化し、堆積岩となる。(乙D125・92頁)エ 専門家の意見等(ア) 川内発電所1号機及び2号機の稼働差止仮処分申立事件(鹿児島地方裁判所平成26年(ヨ)第36号)の同裁判所平成27年4月22日決定を受けて、火山学者に対して行われた緊急アンケートにおいて、静岡大学防災総合センターのK3、山梨県富士山科学研究所所長及び火山噴火予知連絡会会長のK4並びに匿名の火山学者から、数十年以上前に巨大噴火を予測することは不可能である旨の回答がされた。(甲D119)(イ) 第四紀学を専門分野とする東京都立大学名誉教授のK5は、令和5年6月20日の松山地方裁判所における証人尋問(甲D265)、陳述書(甲120)及び意見書(甲D264)において、噴火ステージのサイクルはテフラ整理のための1つの考え方にすぎず、これによって破局的噴火までの時間的猶予を予測できる理論的根拠にはなり得ない(甲D120・3頁)、噴出物量の規模は桁程度の誤差があり得、噴出物量を根拠に一定規模以上の噴火は起こらないということはできない(甲D265・番号16~30)などと述べている。(ウ) 原子力規制委員会が設置したモニタリング検討チームの平成26年8月25日に開催された第1回会合において、外部専門家K6(京都大学名誉教授)、K7(東京大学地震研究所地震噴火予知研究センター教授)、K1(東北大学東北アジア研究センター教授)、K8(産総研活断層・火山研究部門首席研究員)及びK9(独立行政法人防災科学技術研究所観測・予測研究領域総括主任研究員)らを交えた議論が行われたところ、モニタリング検討チームの平成27年7月31日付け提言とりまとめにおいては、現状において巨大噴火の時期や規模を正確に予知するだけのモニタリング技術はないこと、モニタリングで異常が認められたとしても、それが巨大噴火の予兆か定常状態からのゆらぎの範囲内なのかを科学的に識別できないおそれがあること、巨大噴火は何らかの前駆現象が数年~数か月前に発生する可能性が高いと考えられるが、そのような事情が巨大噴火の前駆現象か噴火未遂に終わるかを予測するのも簡単ではないことなどが記載されている。(甲D122)(エ) K4は、平成28年11月16日受付の論文「わが国における火山噴火予知の現状と課題」(甲D123)において、常時監視観測が行われている活火山における火山噴火予知は、1998年の段階において、①観測データの変化から火山活動の異常を検出して噴火の可能性を警告する、②観測データの解釈に基づいて火山の状態を評価し、過去の噴火事例も考慮して噴火の発生や推移を定性的に予測する段階にあるものと評価されたが、現在までこの状況に本質的変化はなく、部分的に噴火の物理モデルに基づいて噴火の推移を予測する試みも行われるようになっているが、地下のマグマ供給系の状況を的確に把握できているとはいい難く(同212、213頁)、階段ダイヤグラム(階段図)による噴火時期の予測はマグマ供給量又は噴火噴出物放出率が一定であることが必要条件であるが、これが長期的に成立する保証はなく、噴出物量や噴火年代についても大きな誤差があることから、数万年レベルの噴火履歴から原子力発電所の稼働期間である数十年単位の噴火可能性を階段ダイヤグラムで議論すること自体に無理があり、火山噴火の長期予測に関しては、その切迫度を測る有効な手段は開発されていない旨(同219頁)を述べている。(甲D123)(オ) マグマ学を専門分野とする神戸大学名誉教授及び海洋底探査センター客員教授であるK10は、令和5年7月5日の広島地方裁判所における証人尋問(甲D269)、同年10月1日の松山地方裁判所における証人尋問(甲D271)、令和6年2月7日の鹿児島地方裁判所における証人尋問(甲D291)及び意見書(甲D267)等において、浮力中立点の状況のみでは必ずしも噴火につながるマグマ溜まりがないとは断言できない(甲D269・12、13頁、甲D271・番号38~46、甲D291・番号32~36)、マッシュ状のマグマは直ちには噴火不可能な状態であるが、親マグマ溜まりから高温のマグマが供給されると再活性化して噴火可能となり、このような変化はVEI7の破局的噴火であっても10年オーダーで変化することがあり得る(甲D267・7、8頁、甲D269・20、24~27頁、甲D271・番号68~72頁、甲D291・番号46~51、405~408)、マッシュ状のマグマ溜まりを各種の探査によって確認することは困難である(甲D267・8頁、甲D269・23頁、甲D271・番号47~55、甲D291・37~45、104~106、108~117、319、324、393、394、409~411)、現時点で日本列島の火山の地下に近い将来破局的噴火を起こす可能性のある巨大なマグマ溜まりが存在しないことを示す科学的知見は存在しない(甲D267・8、9頁、甲D269・17~20頁、甲D271・番号30~37)、地殻変動の観測データの変化により破局的噴火の前兆を判断するのは難しい(甲D291・番号79、80)、ストロンチウム同位体比率等のマグマ組成の違いから、マグマ供給システムが変化したという仮説を立てることはできるが、仮説が正しいかどうかはわからない旨(甲D269・26頁、甲D271・110~118)などを述べている。(8) 大山についての知見ア 大山は、西南日本弧(ユーラシアプレート(大陸プレート)の下にフィリピン海プレート(海洋プレート)が沈み込むことによって形成されたもの)上に存在する火山であり、アダカイト(沈み込んだ海洋地殻が部分溶融して形成されたと考えられる安山岩、デイサイト、流紋岩等の火成岩類)質火山岩が見られる。大山は、鳥取県西部にある東西約35㎞、南北約30㎞の大型の第四紀(約258万年前から現在までの期間)デイサイト質複成火山(同じ火口から何度も噴火を繰り返し、火山体を成長させるタイプの火山)であり、本件各原子炉施設の敷地から約180㎞、美浜発電所3号機の敷地から約220㎞離れた場所に位置する。(乙D106、114~117・8、9頁)大山では、約6万年前に国内で最大規模のプリニー式噴火であるDKPが、約8万年前にDNPがそれぞれ噴出し、最末期の噴火は約2万年前であり、それ以降は噴火の記録がない。大山は、約60万年前から40万年前にかけて溝口凝灰角礫岩という合計噴出量約50㎦の噴出物があったが、これは長期間にわたる噴出物が2次的に泥流等として流動・堆積したものとされる。(乙C79・32、35頁、乙D102・645、646頁、乙D103・285、286頁、乙D120・2頁)イ 大山は、火山噴火予知連絡会が平成15年に「概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」として定義し直した111の活火山に選定されておらず、また、同連絡会が「火山防災のために監視・観測体制の充実等の必要がある火山」として選定し(47火山)、同連絡会の下に設置された「火山観測体制等に関する検討会」の提言により追加された(3火山)、24時間体制で常時観測・監視が行われている50火山には含まれていない。(甲F131・99、100頁)ウ 大山については、Zhao et al.(2011)において、周辺の地下構造について地震波トモグラフィ法による検討を行った結果、低速度領域及び低周波地震の存在から、大山の西方20㎞以深にマグマ溜まりが存在する可能性が示唆されている。この研究を更に進めた Zhao et al.(2018)においても、大山の地下深部の低速度領域の存在が示されているが、その深度は平成23年のものと同程度とされている。(乙D106、122)エ 火山影響評価に係る安全研究を行ったK2らは、平成27年度研究から平成29年度研究までの研究結果を基に、岩石学、地球化学等に関する学術雑誌(Lithos)において Yamamoto and Hoang(2019)を発表した。同論文は、大山アダカイトは高カリウム群と低カリウム群に分けられ、高カリウム群は、低カリウム群に比べ、TiO2、Sr、Ba、Nb 及び La 含有量が高く、Sr-Nd-Pb 同位体組成において枯渇しており、低カリウムアダカイトは、高カリウムアダカイトに比べ、下部地殻同化作用の度合いが高いことが示された、低カリウムアダカイトは10万年前から2万7600年前の火山活動が増えた期間(高噴出率期)に噴出した一方、高カリウムアダカイトはこの期間の前と後に噴出しており、この相関関係は、高噴出率期の地殻へのマグマ貫入比率が増加したことによって、下部地殻同化作用の度合いが大きくなった結果であると考えられ、高噴出率期の後、噴火活動も下部地殻同化作用も減少し、噴火活動は2万0800年前に停止したとしている。(乙D114)2 具体的審査基準並びに原子力規制委員会の審査及び判断について(1) 上記認定事実(火山)(1)及び(2)のとおり、炉規法43条の3の6第1項4号の委任を受けた設置許可基準規則6条1項は、「想定される自然現象」が発生した場合においても安全施設が安全機能を損なわないものでなければならないと規定し、設置許可基準規則解釈は、これに火山の影響を含むとしており、技術基準規則7条1項の「想定される自然現象」について、技術基準規則解釈は、火山事象を含むとし、令和2年改正実用炉規則83条1項1号ロは、「火山現象による影響」への対策を講じることを規定している。そして、設置(変更)許可及び保安規定(変更)認可の審査においては、内規である火山ガイドを踏まえた審査が行われており、本件設置変更許可処分の審査には平成25年火山ガイドが、令和3年保安規定変更認可処分の審査には平成29年火山ガイド及び令和元年火山ガイドが、令和3年設置変更許可処分には令和元年火山ガイドが、それぞれ用いられたものと認められる。したがって、これらの火山ガイドは、原子力規制委員会の審査に用いられた部分について具体的審査基準に該当するものと認められるが、上記認定事実(火山)(1)エ及び別紙14火山ガイドの概要3(1)のとおり、火山ガイドは、評価方法の一例として火山影響評価の妥当性を審査官が判断する際に参考とするものとして定められたものであり、令和元年火山ガイドは、火山ガイドの各規定の趣旨及び火山ガイドに基づく審査実務の考え方を正確に表現し、かつ文章としてより分かりやすいものとなるようにしたものと認められるから、平成25年火山ガイド及び平成29年火山ガイドのうち、令和元年火山ガイドにより改正された部分については、その規定の文言そのものが具体的審査基準となるのではなく、審査実務に用いられた考え方に応じて具体的審査基準に該当するものと認められる。(2) そこで、令和元年火山ガイドの規定を中心に火山ガイドの不合理性の有無について検討する。ア 上記認定事実(火山)(1)エ及び別紙14火山ガイドの概要1のとおり、火山ガイドは、原子力規制委員会において、IAEAの安全指針(IAEA・SSG-21)、日本電気協会作成の JEAG4625-2009 等の文献や専門家からのヒアリング結果を基に、最新の科学的知見を集約して作成されたものであり、原子力発電所に影響を及ぼし得る火山として、第四紀に活動した火山に関する文献調査、地形・地質調査及び火山学的調査を行い、その中から将来の活動可能性が十分小さいとはいえない火山を抽出して個別評価の対象とし、必要に応じて地球物理学的及び地球化学的調査を行い、地理的領域(原子力発電所から半径160㎞の範囲)において原子力発電所の運用期間中に設計対応が不可能な火山事象を伴う火山活動の可能性を評価し、設計対応不可能な火山事象によって原子力発電所の安全性に影響を及ぼす可能性が十分小さいと評価された火山について、原子力発電所の安全性に影響を与える可能性のある火山事象の直接的影響及び間接的影響を確認するなどの内容となっており、これらは、IAEA・SSG-21 に整合するものであるから、科学的な知見に基づく合理性のあるものといえる。イ また、別紙14火山ガイドの概要2のとおり、平成29年火山ガイドは、原子力発電所への火山事象の影響評価として、気中降下火砕物濃度の推定手法を追加し、これを間接的影響の評価にも用いることとしたものであるが、上記認定事実(火山)(3)のとおり、気中降下火砕物濃度について、平成22年4月のアイスランド南部エイヤヒャトラ氷河で発生した噴火による観測値3241㎍/㎥に基づく評価では過小評価の疑いがあることから、最新知見の収集・分析等を行う必要があるとの指摘を受けて、技術情報検討会及び降下火砕物検討チームにおける検討結果等を踏まえて、保守的に改正されたものといえる。ウ さらに、別紙14火山ガイドの概要3のとおり、令和元年火山ガイドは、噴出規模が数十㎦程度を超えるような巨大噴火によるリスクについては、火山の現在の活動状況が巨大噴火が差し迫った状態ではないことが確認でき、かつ、運用期間中に巨大噴火が発生するという科学的に合理性のある具体的な根拠があるとはいえない場合は、少なくとも運用期間中は、「巨大噴火の可能性が十分に小さい」と判断でき、火山活動のモニタリングは、「運用期間中の巨大噴火の可能性が十分小さい」と評価して許可を行った場合であっても、この評価とは別に、評価の根拠が継続していることを確認するため、評価時からの状態の変化を検知しようとするものと改正している。令和元年火山ガイドの改正点は、巨大噴火のリスクについては社会通念上一定程度容認されているとして一定の場合に原子力発電所の安全対策の範囲外とし、モニタリングについても平成29年火山ガイドまでは火山活動に関する個別評価の範囲内としていたものを範囲外とするものであり、少なくともその文言のみからは、平成29年火山ガイドを非保守的に変更したようにも読める。しかしながら、原子力規制委員会は、上記認定事実(火山)(1)エのとおり、新規制基準の考え方(乙B156・331頁)において、火山ガイドの策定に当たっては、そもそも、現在の火山学の水準では火山噴火の時期や規模を的確に予知、予測することまではできないことを前提とした上で、現在の火山学の知見に照らせば、可能な限りの調査を尽くすことにより、運用期間中における活動可能性や設計対応不可能な火山事象の到達可能性が十分に小さいといえるか否かなどといった評価を行うことまでは可能であり、その限りでの評価に基づいて安全面に十分配慮した規制を行っていくことが科学的かつ合理的であるとの基本的立場を示しており、別紙14火山ガイドの概要3(1)のとおり、令和元年火山ガイドは、原子力規制庁が、平成30年2月21日に開催された原子力規制委員会において、火山の巨大噴火(噴出物の量が数十㎦程度を超えるような噴火)に関する基本的な考え方についてわかりやすくまとめるよう指示を受け、同年3月7日付け資料において、巨大噴火によるリスクは社会通念上容認される水準であると判断でき、現在の火山学の知見に照らした火山学的調査を十分に行った上で、火山の現在の活動状況が巨大噴火が差し迫った状態ではないことが確認でき、かつ、運用期間中に巨大噴火が発生するという科学的に合理性のある具体的な根拠があるとはいえない場合は、少なくとも運用期間中は、「巨大噴火の可能性が十分に小さい」と判断でき、火山活動のモニタリングは、「運用期間中の巨大噴火の可能性が十分小さい」と評価して許可を行った場合であっても、この評価とは別に、評価の根拠が継続していることを確認するため、評価時からの状態の変化を検知しようとするものであるなどと考え方を整理したことを踏まえて、火山ガイドの各規定の趣旨及び火山ガイドに基づく審査実務の考え方を正確に表現し、かつ文章としてより分かりやすいものとなるように改正されたものと認められる。したがって、このような令和元年火山ガイドの基本的考え方は、平成25年火山ガイド及び平成29年火山ガイドにおいても同様であったというべきであるから、令和元年火山ガイドがそれ以前の火山ガイドを非保守的に変更したものであるとはいえない。そして、炉規法は、大規模な自然災害の発生を想定した必要な規制を行うことを目的として規定しているものの(同法1条)、想定すべき自然災害の内容や規模について具体的な定めをしておらず、設置許可基準規則6条1項は、「安全施設は、想定される自然現象(地震及び津波を除く。次項において同じ。)が発生した場合においても安全機能を損なわないものでなければならない。」、同条2項は、「重要安全施設は、当該重要安全施設に大きな影響を及ぼすおそれがあると想定される自然現象により当該重要安全施設に作用する衝撃及び設計基準事故時に生ずる応力を適切に考慮したものでなければならない。」と規定し、同項に関する設置許可基準規則解釈(乙B5・13頁)の5項は、上記「想定される自然現象」には、火山による影響を含むとした上で、「大きな影響を及ぼすおそれがあると想定される自然現象」とは、「対象となる自然現象に対応して、最新の科学的技術的知見を踏まえて適切に予想されるものをいう。」としている。また、福島第一原発事故後にされた炉規法の平成24年改正によっても、どのような大規模自然災害が生じても原子炉内の放射性物質が外部の環境に放出されることはないといった達成不可能なレベルの高度の安全性を求めることを前提とすると解されるものは見当たらず、設置許可基準規則55条は、放射性物質の拡散が生じ得ることを前提として、その抑制のための設備を設けなければならない旨を規定している。これらの現行の炉規法等の規定からすれば、炉規法は、最新の科学的技術的知見を踏まえて合理的に予測される最大規模の自然災害を想定した発電用原子炉施設の安全性の確保を求めるものであって、最新の科学的技術的知見から合理的に予測される範囲を超える自然災害による危険性については、これを想定した対策を講じなくとも社会的に容認されていることを前提としているものと解される。そして、一般の建築物に関する規制をみても、我が国においては、影響が著しく深刻なものではあるが極めて低頻度の規模及び態様の破局的噴火を含む、噴出物が数十㎦を超える巨大噴火の危険性については、その発生が相応の根拠をもって示されない限り、開発行為の制限や建築構造物の規制をはじめとして安全性確保の点で考慮されていないのが実情であり、独り発電用原子炉施設についてのみ巨大噴火による危険性について考慮しないことが社会的に容認されていないとまではいえないから、噴出物が数十㎦を超える巨大噴火の危険性については、その発生の可能性が相応の根拠をもって示されない限り、その危険性を想定しないことが社会的に容認されているというべきである。したがって、上記した令和元年火山ガイドの基本的考え方は、炉規法の求める安全基準に違反するものであるということはできない。エ 次に、平成29年火山ガイド及び令和元年火山ガイドは、気中降下火砕物濃度について、上記認定事実(火山)(3)及び別紙14火山ガイドの概要2のとおり、降下火砕物検討チームによる検討結果を取りまとめた濃度考え方の中で、降下火砕物濃度の推定に必要な実測値(観測値)や理論的モデルは大きな不確実さを含んでおり、基準地震動や基準津波のようにハザードレベルを設定することは困難であるものの、降灰継続時間を仮定し、原子力発電所の敷地における堆積量等から気中降下火砕物濃度を推定する手法(手法②)、電中研報告書のように FALL3D 等による数値シミュレーションを用いて原子力発電所の敷地における気中降下火砕物濃度を推定する手法(手法③)を基に、降灰継続時間を24時間と仮定して降灰量から気中降下火砕物濃度を推定する手法(3.1の手法)と数値シミュレーションにより気中降下火砕物濃度を推定する手法(3.2の手法)により気中降下火砕物濃度を推定することとしている。そして、これらにより推定した気中降下火砕物濃度を参考濃度とした上で、この参考濃度において、非常用DG等の非常用交流動力電源設備(設計基準事故対処設備)の24時間、2系統の機能維持を求め、また、この非常用交流動力電源設備2系統が偶発的に多重故障を起こし、いずれの機能も喪失した場合をあえて想定し、そのような場合でも電源車等の代替電源設備(重大事故防止設備)の機能維持を求めることとし、さらに、上記の参考濃度よりも更に高濃度の降下火砕物によるフィルタ閉塞等に起因して代替電源設備が機能喪失し、全交流電源喪失に至った場合を想定し、その場合における原子炉の炉心損傷の防止を求めることを要求している。このように、平成29年火山ガイド及び令和元年火山ガイドにおいて、3.1の手法又は3.2の手法を用いて推定された気中降下火砕物濃度の参考濃度は、これを超えると、設計及び運用等による安全施設の機能維持が不可能になる限界値として位置付けられているものとはいえない。そして、別紙14火山ガイドの概要2(3)のとおり、3.1の手法においては、降下火砕物の粒径の大小にかかわらず同時に降灰が起こると仮定するとともに、気中降下火砕物濃度を低下させる可能性のある事象である粒子の凝集を考慮しないこととされており、実際の降灰現象と比較して保守的である上、降灰継続時間を24時間とすることに科学的合理性があることは降下火砕物検討チーム会合において原子力規制委員であるK1委員及び外部専門家である産総研のK2も認めている(乙B129・42、43頁)。また、別紙14火山ガイドの概要2(4)のとおり、3.2の手法においても、気象データの設定について、1年で最も原子力発電所敷地に対して影響のある月を抽出し、一定風を設定することとされており、実際の降灰現象と比較して保守的であるといえる。そして、3.1の手法及び3.2の手法のいずれによっても、気中降下火砕物濃度の推定値は、少なくとも現時点において既往最大の観測値として取り扱われているセントへレンズ山の噴火の観測値である33㎎/㎥をはるかに上回る数値(数g/㎥)となることが確認されている。これらによれば、火山ガイドにおける気中降下火砕物濃度の推定手法に不合理な点があるとはいえない。オ 以上によれば、火山に係る具体的審査基準に不合理な点がないことについて相当の根拠をもって立証されたというべきである。(3) 上記認定事実(火山)(2)のとおり、原子力規制委員会は、本件適合性審査において、参加人が、平成25年火山ガイドを踏まえて、文献調査及び地質調査結果により、敷地及びその周辺において降灰層厚が比較的厚い降下火砕物を抽出し、噴出源を同定できる降下火砕物について文献調査、地質調査及び位置関係を含めて検討し、噴火履歴及び地下構造を検討して、大山については約8㎝程度の降灰層厚と評価していること、噴出源が同定できない降下火砕物の降灰層厚として NEXCO80 を抽出し、降灰層厚10㎝以下と評価していることなどを確認し、設置許可基準規則6条1項及び2項の要求を満たしているものと判断している。しかしながら、上記認定事実(火山)(4)及び(6)のとおり、原子力規制委員会は、本件設置変更許可処分をした後に、越畑地点のDNPの降灰層厚は25㎝程度であり、DNPの総噴出規模は10㎦以上と考えられるとの本件新知見を認定し、かつ、DNPとDKPを一連の噴火と評価することは適切でなく、本件各原子炉施設の運用期間中のDNP規模の噴火の可能性を考慮するのが適切であるとの判断に基づき、本件バックフィット命令を発出し、令和3年設置変更許可処分に当たっては、DNPの噴出量11㎦を踏まえて本件各原子炉の敷地における降灰層厚を27㎝と評価している。上記第6の3で説示した判断枠組みのとおり、原子力規制委員会の審査において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、又は、当該発電用原子炉施設が上記具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の審査及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があると認められる場合には、原子力規制委員会の審査及び判断に不合理な点があるものとして、設置変更許可処分が違法になるというべきであるところ、これらは現在の科学技術水準に照らして判断すべきであるから、上記原子力規制委員会が認定した本件新知見等を踏まえると、本件設置変更許可処分について、本件各原子炉の敷地における降灰層厚を10㎝として具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の審査及び判断の過程には看過し難い過誤、欠落があったと認められる。もっとも、その後、本件バックフィット命令を経て、令和3年設置変更許可処分がされたことにより、本件設置変更許可処分のうち火山による影響に関する部分は、令和3年設置変更許可処分により変更されているから、本件訴訟においては、令和3年設置変更許可処分の違法性について審査すれば足りるというべきであって、令和3年設置変更許可処分の審査において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、又は、当該発電用原子炉施設が上記具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の審査及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があると認められる場合に、令和3年設置変更許可処分が違法となり、これに伴って同処分によって変更された本件設置変更許可処分も違法となると解するのが相当である。(4) 上記認定事実(火山)(6)のとおり、原子力規制委員会は、令和3年設置変更許可処分に当たり、参加人が実施した設計対応可能な火山事象の影響評価については、令和元年火山ガイドを踏まえたものであり、文献調査、地質調査等により、本件各原子炉への影響を適切に評価していることを確認するとともに、参加人が設定した降下火砕物の最大層厚等は、最新の文献調査及び地質調査結果を踏まえ、降下火砕物の分布状況、不確かさを考慮した降下火砕物シミュレーション結果及び越畑地点におけるDNPの実績層厚と大山から本件各原子炉までの距離関係から総合的に評価し、適切に設定されていることから、妥当であると判断した。また、原子力規制委員会は、降下火砕物の影響に対する設計方針等については、設計基準対象施設及び重大事故等対処施設(特定重大事故等対処施設を含む。)に関して、降下火砕物の最大層厚の変更によって影響を受ける項目を整理した上で、降下火砕物の最大層厚以外の基本設計等の技術的成立性を詳細に説明し、これらを変更する必要がないことを示すよう求め、参加人の説明を受けて、降下火砕物の最大層厚の変更後においても、それ以外の基本設計等に技術的成立性があることから、降下火砕物の最大層厚以外の基本設計等を変更しないとの参加人の方針は妥当であると判断したものと認められる。さらに、原子力規制委員会は、上記認定事実(火山)(6)イ(ウ)のとおり、審査の過程において、既認可の保安規定に定める火山事象による影響が発生し又は発生するおそれがある場合における発電用原子炉施設の保全に関する措置について、本件各原子炉については、降下火砕物の最大層厚の変更後においても当該措置に技術的成立性があるため、令和3年設置変更許可処分後においても保安規定の変更はしないとした参加人の方針について、現行の保安規定に定める措置により、本件各原子炉については、降下火砕物の最大層厚の変更後においても発電用原子炉施設の保全のために必要な活動を行うことが可能であることを確認し、妥当であると判断している。このように、原子力規制委員会は、令和3年設置変更許可申請に対し、参加人が、本件設置変更許可処分後に得られたDNPに関する本件新知見等を考慮し、令和元年火山ガイドを踏まえて、新たな調査を行い、不確かさを考慮していること等を確認した上で、参加人の申請内容が妥当であるとの判断をしたものであるから、令和3年設置変更許可処分に係る原子力規制委員会の審査及び判断に不合理な点がないことについて相当の根拠をもって立証されたというべきである。(5) 上記認定事実(火山)(5)のとおり、令和3年保安規定変更認可処分は、平成29年の実用炉規則等の改正及び令和2年の実用炉規則の改正に伴って「火山現象による影響」(令和2年改正実用炉規則83条1項1号ロ)に対する保全に関する措置を新たに追加し、関連する保安規定の定めについて変更をしたものであるところ、原子力規制委員会は、令和3年保安規定変更認可処分に当たり、実用炉規則の要求事項(火山)について、平成29年火山ガイドの手法②により、設計層厚10㎝とした気中降下火砕物は1.4g/㎥となるが、降下火砕物の層厚が増えることを考慮して3.50g/㎥としたほか、要求事項(火山)①~③に関する記載がされていることを確認し、要求事項(火山)③に関しては、気中降下火砕物濃度の2倍の濃度を想定して非常用DGが機能停止したときであっても仮設中圧ポンプによる蒸気発生器への注水が行われ、蒸気発生器の水位は保たれて炉心の著しい損傷には至らないことを確認するなどしている。このように、令和3年保安規定変更認可処分に係る原子力規制委員会の審査及び判断は、令和2年改正実用炉規則の要求事項(火山)等について、平成29年火山ガイドに基づき、DNPに関する本件新知見等を踏まえた確認も行うなどしているから、その過程に不合理な点がないことについて相当の根拠をもって立証されたというべきである。3 争点4-(1)(層厚想定に関する基準の不合理性)について(1) 原告らは、令和元年火山ガイドについて、現在の火山学の水準では、噴火の時期や規模について、噴火の相当前の時点で的確に予測することは困難であり、特定の規模の噴火が発生する可能性が十分小さいといえる水準にはなく、そのようなリスクを社会的に受容することも許されず、また、火山の噴火規模に関する指標は不確実性が大きく、大きな誤差、不定性を含みうるにもかかわらず、特定の噴出規模の噴火ごとの運用期間中の発生可能性を判断することが可能であるとの前提に立った規定となっており、平成29年火山ガイドまでの要件を緩和し、噴火の時期や規模について、相当前の時点で的確に予測できることを前提としている点で不合理であると主張する。この点、上記認定事実(火山)(7)エのとおり、火山等の専門家であるK3、K4、K5、K7及びK10らの意見等によれば、現在の火山学の水準においては噴火の予測について科学的に課題が多く、精度よく噴火の時期や規模を予測できる段階にあるとは認められない。しかしながら、上記2(2)で説示したとおり、火山ガイドは、原子力規制委員会において、IAEAの安全指針(IAEA・SSG-21)、JEAG4625-2009 等の文献や専門家からのヒアリング結果を基に、最新の科学的知見を集約して策定したものであり、その内容は、科学的な知見に基づくものといえる。また、令和元年火山ガイドは、現在の火山学の水準では火山噴火の時期や規模を的確に予知、予測することまではできないことを前提とした上で、現在の火山学の知見に照らせば、文献調査、地形・地質調査、火山学的調査、地球物理学的調査及び地球化学的調査を行うなど、可能な限りの調査を尽くすことにより、運用期間中における活動可能性や設計対応不可能な火山事象の到達可能性が十分に小さいといえるか否かなどといった評価を行うことまでは可能であり、モニタリングにより評価の根拠が継続していることを確認するなど、その限りでの評価に基づいて安全面に十分配慮した規制を行っていくことが科学的かつ合理的であるとの基本的立場に基づくものであるところ、上記のとおり、噴火の予測に多くの不確実性が含まれ、精度よく噴火の時期や規模を予測することは不可能であるとしても、上記認定事実(火山)(7)ア及びイを踏まえれば、最新の知見を踏まえた上記の各調査結果を総合的に考慮することにより、原子力発電所の運用期間という火山活動の歴史から見れば極めて限定された期間中に、その安全性に影響をもたらす規模の火山事象が起きる可能性の程度が十分に小さいといえるか否かなどといった評価を行うことまでは可能としていることが、科学的合理性を欠くものであるということはできない。そして、上記2(2)ウで説示したとおり、現在の炉規法においても絶対的安全性まで求められるものとは解されず、最新の科学的技術的知見を踏まえて合理的に予測される範囲を超える自然災害による危険性については、これを想定した対策を講じなくとも社会的に容認されていることを前提としているものと解されることなども考慮すると、噴火の予測に多くの不確実性が含まれることをもって、令和元年火山ガイドが不合理であるということはできない。そして、別紙14火山ガイドの概要3(4)のとおり、令和元年火山ガイドは、従前の火山ガイドが「敷地及び敷地周辺で確認された降下火砕物で噴出源が同定でき、その噴出源が将来噴火する可能性が否定できる場合は考慮対象から除外する。」と定めていたものを、「敷地及び敷地周辺で確認された降下火砕物の噴出源である火山事象が同定でき、これと同様の火山事象が原子力発電所の運用期間中に発生する可能性が十分に小さい場合は考慮対象から除外する。」と変更しているが、上記認定事実(火山)(2)ア(ア)のとおり、平成25年火山ガイドに基づいて行われた本件設置変更許可処分に係る審査においても、噴出源である火山事象が同定され、これと同様の火山事象が原子力発電所の運用期間中に発生する可能性が十分小さいと評価できるとして、DKP規模の噴火を考慮対象から除外していたことからすれば、火山ガイドの基本的な考え方自体に変わりはないというべきであり、令和元年火山ガイドは、従来の審査実務の考え方を正確に、かつ、分かりやすく表現したものにすぎないと認められるから、実質的に平成29年火山ガイドの要件を緩和した不合理なものということはできない。(2) 原告らは、令和元年火山ガイドの規定に従えば、最も大きい噴火(大山でいえばDKP)の活動可能性が十分小さいと評価された場合には、その次の規模の噴火(大山でいえばDNP)を考慮すればよいことになるが、このような推論は論理の飛躍であり、その間の規模の噴火の可能性まで否定する枠組みとなっている点で不合理であると主張する。しかしながら、上記2(2)ウで説示したとおり、設置許可基準規則6条1項、同条2項、同項についての設置許可基準規則解釈5項、設置許可基準規則55条等の規定からすれば、炉規法は、最新の科学的技術的知見を踏まえて合理的に予測される最大規模の自然災害を想定した発電用原子炉施設の安全性の確保を求めるものであって、最新の科学的技術的知見から合理的に予測される範囲を超える危険性については、これを想定した対策を講じなくとも社会的に容認されていることを前提としているものと解される。そして、令和元年火山ガイドは、原子力発電所の敷地及びその周辺調査から求められる単位面積当たりの質量と同等の火砕物が降下するものとし、敷地及び敷地周辺で確認された降下火砕物の噴出源である火山事象が同定でき、これと同様の火山事象が原子力発電所の運用期間中に発生する可能性が十分に小さい場合は考慮対象から除外し、降下火砕物は浸食等で厚さが小さく見積もられるケースがあるので、文献等も参考にして、第四紀火山の噴火による降下火砕物の堆積量を評価することとしている(乙B143・11頁)ところ、これは、火山事象については、発生メカニズムの解明や過去の観測記録のデータが不十分であることから、理論的評価に基づきハザードレベルを設定する手法は確立されていないが、原子力発電所の敷地及びその周辺での降下火砕物の観測値等のうち原子力発電所の運用期間中に想定される最大のものを用いることは可能であることから、既往最大の観測値等に基づきハザードレベルを設定する手法を用いて降下火砕物の最大層厚を設定することを求めるものである。 |