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カテゴリー > 総合裁判例集 (福岡地方裁判所 ; アーカイブ : 平成29年12月 ; 降順 ; 裁判年月日で整列)

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事件番号/事件名裁判年月日/裁判所判決書
[下級] [刑事] 平成29(わ)88  480ViewsMoreinfo
業務上過失傷害
平成29(わ)88
本件は,祭りに際し店主として唐揚げの露店を出していた被告人が,高温の油を入れたまま,ガスフライヤーを移動させようとして転倒させ,高温の油を周囲に飛散させて祭りの見物客9名に傷害を負わせた事案である。
事案の概要
平成29年12月20日
福岡地方裁判所 小倉支部
詳細/PDF
HTML/TEXT
[下級] [刑事] 平成29(わ)629  474Views
窃盗
平成29年12月18日
福岡地方裁判所
詳細/PDF
HTML/TEXT
[下級] [刑事] 平成26(わ)1284  430ViewsMoreinfo
組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
平成26(わ)1284
本件各犯行に至っている(平成27年12月時点の構成員及び準構成員は800人余りである。)。その組織構成は,最上位が総裁,それに次ぐのが会長とされ,「五代目甲會」発足以降,本件各犯行時に至るまで,一貫して,A1が総裁,B1が会長の地位にあった。また,その下に,会長代行,理事長,最高顧問,総本部長,幹事長,組織委員長,風紀委員長,懲罰委員長,渉外委員長,総務委員長,慶弔委員長,事務局長,理事長補佐等の役職が設けられている(最高顧問を除く会長代行以下理事長補佐までを「執行部」と称している。)。甲會構成員は,この序列を前提として下位者は上位者の指示・命令に従うべきものとされ,その統制は厳格なものであった。平成4年6月,甲會(当時は「二代目甲連合丁一家」)は,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律に基づき,福岡県公安委員会から指定暴力団として指定され,平成24年12月には特定危険指定暴力団にも指定された。また,元警察官事件が発生するまでに,甲會が起こしたとされる殺人(未遂)事件について多数の報道がされている。2 乙組について乙組は,甲會傘下の二次団体(暴力団)の一つである。昭和44年に「乙組」として結成されたことから始まり,平成23年6月にはC1が組長,D1が若頭として「五代目乙組」が発足した。乙組内の序列は,最上位である組長の下に,執行部として若頭,本部長,幹事長,組織委員長,風紀委員長,筆頭若頭補佐が続き,執行部の下には,若頭補佐,組長秘書,組長付などが役付とされていた。3 被告人と甲會との関係について被告人は,平成15年頃,甲會(当時は「四代目甲會」)乙組戊組の組員となり,平成23年6月頃乙組に移籍した。元警察官事件及び看護師事件当時の肩書きは乙組組長付,歯科医師事件当時はそれに加えて乙組若頭補佐も兼ねていた。さらに,全ての事件当時を通じて,甲會専務理事の地位にもあった。第2 元警察官事件1 争 点弁護人らは,被告人がK1に対してけん銃を発射するなどの実行行為をしたことは争わないものの,①被告人には殺意がなく,②甲會の活動として組織によりなされたものでもないと主張し,さらに,③共犯者とされている者ら(特に,A1,B1,C1,F1,G1,J1)との間の共謀についても争っている。2 認定事実関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。K1と甲會の関係等についてK1は,×××警察の警察官として,昭和53年頃から一貫して暴力団捜査を専門とする部署に所属し,主として甲會の事件捜査に携わり,平成23年3月に退職した。その中で,昭和60年頃からはA1と,平成元年頃からはB1とも面識を有するようになったほか,S1(平成23年7月以降甲會最高顧問になった者)とも接点を持ち,警察内部でも甲會上層部と話ができる数少ない捜査員のひとりであった。しかし,平成21年4月頃,K1は,甲會に関する情報収集のため甲會を破門されていたT1と会った際,T1に対し,A1が約20億円の現金を私的に貯めていることやA1の命が他の暴力団組織から狙われていることなどを話したところ,その音声の録音媒体がB1の手に渡った。そして,同月22日,K1が甲會の動向視察中にA1とゴルフ場で顔を合わせた際,A1はK1に対し,怒った様子で,「あんた,俺に先輩のような物言いをしよるな。」「T1と会うとるな。」などと告げた(なお,検察官は,このときA1がK1に対して「最後になって悪いもん残したな。」と告げたと主張し,証人として出廷したK1及びU1(警察官)もそれに沿う供述をしているが,同日のA1の言動について上司に報告するためにK1及びU1が作成した捜査報告書にはその旨の記載がなく,両名の供述によってもその点に関する記載が省かれたことについて合理的な理由が見出せないことから,この点についての両名の供述の信用性には疑問がある。よって,検察官主張の上記事実を認定することはできない。)。本件犯行前日までの経過について平成24年3月末頃以降,D1(乙組若頭)はK1の行動確認を開始し,G1(乙組組員)及びJ1(同)にも,同年4月上旬頃にE1(乙組若頭補佐)を介してK1の容貌を覚えさせるなどして,K1の自宅の人の出入りやその最寄り駅でのK1の行動等を確認するよう指示した。D1は,G1に,K1が自宅最寄り駅を通過する時刻等を報告させ,おおむね午前7時頃に到着することを把握し,自らも,K1方付近で,出勤のため同人が同駅に向かう様子を複数回確認した。また,D1は,同月上旬ころ,被告人(乙組組長付)に対して「仕事がある。」などと告げ,同月17日頃には,E1が運転する車にD1と被告人が同乗し,北九州市a区内のホテル(以下「本件ホテル」という。)付近から北九州市a区b・c丁目d番e号付近(後に本件犯行が実行された場所。以下,本件犯行に関して「犯行現場」というときはこの場所を指す。)まで行った。その際,D1は,移動中の車内で,被告人に対し,前記の「仕事」とは犯行現場で人を銃撃するというものであることを告げた上,犯行時は他の組員が用意した原動機付自転車を使って標的に接近し実行することを指示し,原動機付自転車の隠匿場所や犯行後の逃走経路等について説明した。さらに翌18日頃,D1は,被告人に対し,明日銃撃を決行することと銃撃の標的がK1という元警察官であることを伝えると共に,犯行前後の行動について指示した。その内容は,H1が運転する車で,原動機付自転車の隠匿場所である北九州市a区内にあるpの駐車場(以下「本件歯科駐車場」という。)へ向かい,隠匿されている原動機付自転車で指定した待機場所へ行き,携帯電話への着信を合図に同車で犯行現場へ行ってK1を銃撃し,けん銃を投棄した後,H1が待機している本件ホテル付近に向かうこと,当日使用する着衣等はH1運転車両に用意してあり,それらは銃撃後は同車に置いていくことなどであった。その上で,D1は,被告人に対し,自動装てん式けん銃(タンホグリオGT27型という名称のイタリア製真正けん銃で,25口径のもの。以下「本件けん銃」という。)及びそれに適合する実包が入ったポーチと携帯電話を渡した。他方,D1は,同日頃,H1(乙組組員)に対し,犯行当日の朝に北九州市a区内の住宅街で被告人を自動車に乗せて本件歯科駐車場まで送り,その後は本件ホテル付近で待機すること,その後原動機付自転車に乗って来る被告人と合流し,被告人を当初乗せた場所まで送り届け,被告人が前記自動車内に残した荷物はF1が取りに来るため庚組の事務所にいるV1に渡すよう指示し,被告人が乗った原動機付自転車は別の人間が乗っていく旨を告げた(その際,E1もその場にいた。)。また,D1は,I1(乙組組員)に対しても,本件ホテル付近で被告人から原動機付自転車とヘルメットを受け取り,原動機付自転車は北九州市a区内の水路に投棄し,ヘルメットはI1の居室付近に隠匿するよう指示し,原動機付自転車の投棄場所にはG1が迎えに来る旨を告げ(水路での指示説明には少なくともE1,G1が伴っていた。),G1に対しては,犯行当日はK1が自宅付近の通勤路を通過したことを確認した後直ちに指定した携帯電話に架電すること,原動機付自転車の投棄場所までI1を迎えに行くことを指示し,F1(乙組筆頭若頭補佐)に対しても,庚組の事務所に届けられる荷物やI1が隠匿したヘルメットを跡形もなく処分することを指示した。翌19日午前零時頃,G1は,D1の指示を受け,H1と共に原動機付自転車1台を盗み,I1も協力してこれを本件歯科駐車場に隠匿した。犯行当日の経過について平成24年4月19日朝,被告人は,自動車で迎えに来たH1と合流し,同車内に用意されていた衣服等に着替えた上,同車に乗って本件歯科駐車場へ行き,隠匿されていた原動機付自転車に乗り換え,D1から指示された場所で待機した。一方,G1は,K1が通勤経路を通過するのを確認し,自己の携帯電話から,被告人がD1から渡されていた携帯電話に合図の電話を掛けた。被告人はその着信を受け,犯行現場に向かい出発した。同日午前7時6分頃,K1は,徒歩で犯行現場に差し掛かり,被告人もK1の対向方向から犯行現場付近に到着した。被告人は,自分の方に向かい歩いてくるK1の姿を認めると,原動機付自転車を減速させながら近づき,K1の左横付近でブレーキをかけ,K1まで約1.2mの位置で停止した。そして,K1の方に向かって上半身を左方向に約90度ひねり,ポケットから本件けん銃を取り出して両手で構え,K1の左大腿部付近を狙い,続けて2度その引き金を引き,銃弾2発を発射させ,それらの銃弾は同人の左腰部と左大腿部に1発ずつ命中した。被告人は,K1が命中した箇所を手で押さえる様子を確認すると,数m前方へ進んだ後,地面に向けて銃弾を1発発射し,原動機付自転車を急加速させて逃走した(なお,検察官は,被告人が立ち会った犯行状況の再現を根拠として,被告人がK1を銃撃した際の両者の距離は約2.8mであると主張する。しかし,上記再現は,犯行から約3年後,犯行現場とは異なる場所で行われており,その正確性には疑問がある。これに対し,K1が立ち会った被害状況の再現は,その記憶が鮮明であったと考えられる犯行の約1か月後に犯行現場で行われたもので信用でき,これによれば,犯行時の両者の距離は約1.2mであったと認められる。)。被告人がK1に向けて撃った2発の銃弾のうち,左腰部に命中した1発は,やや下向きに体内に入って左大腿骨の大転子に当たり,跳ね返って体外に排出された。左大腿部に命中した1発は,やや下向きに体内に入って左大腿骨の背中側部分に残った。これにより,K1は,約1か月の入院及び通院加療を要する左股関節内異物残留,左大腿部銃創の傷害を負った。犯行後の経過について被告人は,本件犯行を実行した後,本件けん銃を北九州市a区内の河川に投棄し,本件ホテル付近で待機していたH1及びI1と合流し,原動機付自転車とヘルメットをI1に渡し,H1が運転する車に乗り,帰宅した。I1は,原動機付自転車を指定された水路に投棄し,G1運転の車で己組の事務所に赴きヘルメットを置いた。ヘルメットは,その後,G1がF1に渡した。H1は,被告人が犯行に使用した着衣等が入った荷物を庚組の事務所でV1に渡した。F1は,V1と共にこの荷物とG1から受け取ったヘルメットを燃やして処分した。平成24年4月末頃,D1は,乙組の本部事務所で,被告人に対し,茶封筒に入った新券の1万円札50枚を手渡した。本件けん銃の性能等について本件犯行後,福岡県警察科学捜査研究所において本件けん銃を分解し,錆などを除去して再度組み立てた上で4回試射を行った結果,単位断面積当たりの活力の平均値は279ジュール(J)毎㎠であった。また,警察官が本件けん銃を2回試射したところ,弾丸は厚さ約0.4cmのベニヤ板十五,六枚を貫通し,その発射弾丸の速度を測定して運動エネルギーを算出した結果は,それぞれ281J 毎㎠,267J 毎㎠であった(以上の値は,銃砲刀剣類所持等取締法2条1項の「人の生命に危険を及ぼし得るものとして内閣府令で定める値(運動エネルギーの値)」である20J 毎㎠(銃砲刀剣類所持等取締法施行規則3条)の約13ないし14倍に当たる。)。また,過去には本件けん銃と同様の25口径のけん銃が使用された殺人事件が複数発生している。3 被告人の殺意の有無について既に認定したとおり,本件犯行の態様は,約1.2mという近い距離から,比較的小型とはいえ人を殺傷する能力を十分備えた真正けん銃を用いて,K1の左腰部及び左大腿部という身体の枢要部に近い部位に向けて銃弾を2発撃ち込んだものである。銃弾のうち1発は大腿骨にまで達して体内で跳ね返り,もう1発は大腿動脈から約7cmの位置に至っていた。本件犯行による負傷そのものは結果的に生命の危険を生じさせるには至らず,銃弾の向きも腹部に向かうものではなかったが,わずかでも銃弾の軌道がずれ(被告人はそれまで人を銃撃した経験がなかったのであるから,狙いどおりに銃撃できない可能性は十分あったと考えられる。),あるいは,歩行中であったK1が別の身体の動かし方をするなどしていれば,銃弾が大腿動脈や腹部大動脈,心臓,肝臓等の重要な臓器等を損傷して死に至らせる危険性があった。そして,そのことは,自らK1に近付き,けん銃を構えて発射するなどした被告人においても認識していたと認められる。そうすると,被告人は,本件犯行の当時,ことによればK1が死亡する危険性はあるが,それでもやむを得ないという程度の殺意を有していたと認められる。なお,弁護人らは,①被告人は,本件犯行前にD1から「足を2発撃て。地面を2発撃て。絶対殺したらつまらんぞ。」などと指示され,現に,口径の小さい護身用の本件けん銃を使用して狙った部位に銃弾を命中させており,②被告人が大腿動脈や腹部大動脈の存在を知らなかった旨主張する。しかし,①については,被告人は公判廷でそれに沿う供述をしているが,それに加えて,被告人はD1に対して,K1のももを狙ってよいかとたずね,D1もそれを禁じていなかった旨の供述もしているから,被告人とD1との間に被告人の供述どおりのやりとりがあったとしても,本件犯行で実際にK1が負傷した部位を狙うことはD1と被告人との間で了解されていたというべきである。そうすると,仮に被告人がD1から前記のような指示を受けていたとしても,そもそもその内容はけん銃を使って人のもも付近を複数回撃つという人命に対する危険性が想定される行為が含まれていたのであり,殺さないように命じているとはいっても,K1の生命に危険が及ばないようにするための具体的かつ確実な方法が伝えられていたわけではないから,このような指示があったからといって,被告人においてK1が死亡する可能性に関する認識が一挙に払拭されるものではないことは明らかである(このことは,指示をしているD1本人についても同様と考えられる。)。そして,その指示に基づいて実際に被告人が実行した犯行態様は前記のとおりであり,それに照らせば,被告人において,一歩間違えればK1が死亡する危険性を認識した上で本件犯行を実行したとみざるをえないことも既に検討したとおりである。そうすると,被告人がD1から前記のような指示を受けていたことや,被告人がその指示どおりに犯行に及んでおおむね狙いどおりの結果に終わったことなどは,被告人の殺意の認定を妨げるものではないというべきである。また,②については,大腿部や腹部付近には生命を維持する上で重要な臓器や血管等があることは常識といってよく,被告人が人体構造の詳細を知らなかったとしても,そのことは殺意の認定を左右するものではない。その他弁護人らが主張する諸点を十分に考慮検討しても,上記認定は揺らがない。4 甲會の活動として組織により行われたか否かについて既に認定した事実関係からすると,遅くともD1がK1の行動確認を始めた平成24年3月末頃までに甲會内の何者かによりK1を襲撃することが企てられ,D1が配下の乙組組員であるF1,G1,J1,H1,I1らに対してK1の行動確認や犯行に使用する道具の準備,移動手段の確保,犯行後の証拠隠滅等を事細かに指示すると共に,被告人に対して本件犯行の実行を命じ,D1の側近であるE1の運転する車で被告人と共に犯行現場などを下見するなどした上で,同年4月19日に実行に至ったことが認められる。この間,被告人を含め,D1から指示を受けた者らは,おおむねD1の指示どおりに行動してその役割を果たしている。こうしたことからすると,本件は,少なくともD1以下の乙組の組員が,D1の指示により定められた役割分担に従って敢行したものであることが明らかである。他方,証拠によれば,D1や被告人を含め,本件犯行において一定の役割を担った前記の者らは,いずれもK1とは面識がなく,K1との間に怨恨や確執があったことは一切うかがわれない。また,本件犯行は,長年甲會の捜査に携わった元警察官に対してけん銃を用いて襲撃するというものであり,そのこと自体から本件犯行が甲會によるものと疑われることは明らかであって,本件犯行後,警察による取締りが一段と厳しくなり,A1,B1,C1などの上層部も捜査の対象とされるおそれがあるなど甲會全体に重大な影響が及ぶことが容易に想定され得る。こうしたことからすると,上層部の了解なくD1以下の者らが本件犯行を計画・実行することは考え難く,仮にそのようなことがあれば甲會内で何らかの粛清や処分を受けてしかるべきであるが,そのようなこともなかった(そればかりか,既に認定したとおり,被告人は本件犯行の約2週間後にD1から50万円の現金を受け取っているところ,その直前,D1はC1と2人で会議室に入っていたこと,当日C1の財布から50万円が減っていたこと,被告人において本件犯行に対する報酬以外にはその現金を受け取る心当たりがないことなどからすると,その50万円は,C1が実行役の被告人に対する報酬として用意したものと推認される。)。さらに,既に認定したとおり,K1はT1に対してA1を批判する言動をしているところ,その後の事実経過からすれば,その発言内容をA1やB1が知り,そのことでA1はK1に対して強い不快感を抱いていたことが推認できる。このような事情も考慮すると,A1が,K1に対しけん銃を用いて襲撃するという強い手段で報復することにより,警察や世間一般に甲會の威力を見せ付けて勢力や影響力を維持・拡大させ,組織の結束を図ろうとすることは想定しうることであり,かつそれ以外にK1を襲撃する理由は見出しがたい。以上の検討からすれば,本件犯行に当たり,関与した組員に対して直接の指示を行ったのはD1ではあるが,本件犯行がD1の一存で企図,計画されたものとは到底考え難く,D1らが属する乙組の組長であるC1はもとより,甲會最上位のA1やB1の関与を想定しなければ合理的に説明することが極めて困難である。そして,既に認定した甲會内の序列に加え,本件犯行当時,A1とC1との間に特段親密な関係はなく,B1を介さずにA1とC1が直接重要な事柄を決めることは考えにくいことなども考慮すると,本件犯行は,最上位にあったA1が本件犯行を実行することについて意思決定をした上で,序列2位のB1,3位のC1と順次指揮命令が伝達され,C1から,自らが組長を務める乙組の序列2位に当たる若頭のD1に対して指揮命令が行われたことが合理的に推認される。よって,本件犯行は,甲會の組織によりK1をけん銃を用いて襲撃しようと企てられ,団体としての甲會の活動として,組織の最上位にあったA1の指揮命令に基づき,あらかじめ定められた任務分担に従って敢行されたものであると認定できる。5 共犯者らとの共謀の有無について前項で検討したとおり,本件犯行は,A1が意思決定をし,B1,C1,D1の順で順次指揮命令が行われた上,D1が被告人を含む配下組員に指示を下し,指示を受けた配下組員が細分化された任務をそれぞれ分担した上,被告人により実行されたものと認められる。A1からD1までの指揮命令については,その具体的な内容は明らかでないが,前記のとおり,元警察官をけん銃を用いて襲撃するという本件犯行態様の核心部分についてD1がその一存で決めたことはありえないから,少なくともその点についてはA1,B1,C1との間でも意思疎通があったものと推認できる。そして,そのような態様を取ることについて認識がある以上,(積極的にK1の殺害を意欲していたとまでは認定できないものの)ことによればK1が死亡することになるかもしれないという程度の認識すら有していなかったとは考えられない。甲會の組織構成やその性質を前提とすれば,A1らにおいても,犯行に当たってC1以下の甲會組員が指揮命令に従い役割を分担して実行に至ることの認識があったことも疑いを容れない。かくて,A1,B1,C1について本件犯行の共謀があったと認められる。D1が被告人に対してした指示命令の状況は既に認定したとおりであり,D1と被告人との間で本件犯行の共謀があったことは明白である。D1が被告人に対して「絶対殺したらつまらんぞ。」などと告げたとしてもD1や被告人の殺意が認定できることは既に検討したとおりである。本件が組織的になされていることについては,具体的な指揮命令に当たったD1においてその認識があったことはもとより,被告人においても多数の組員が様々な関与をすることを承知していたのであるから,組織性の認識に欠けるところはない。被告人以外の組員の関与についても既に認定したとおりである。E1については,K1の行動確認において下位の組員を指示するなどしたほか,D1が被告人に対して本件犯行を指示したその場にもいて,下見のために自動車を運転するなどしていたことから,殺意や組織性の点も含めて本件犯行について共謀があったと認められる。その他の組員については,本件犯行の概要を知らされないままD1の指示に従って行動していたとみられるが,D1の指示内容に加え,本件犯行当時,甲會が起こしたとされる殺人(未遂)事件について多数の報道がなされていたことなども考慮すれば,複数の組員が上位者からの指示に基づく役割分担をした上,ことによれば人の生命を奪いかねない襲撃事件を起こそうとしているという程度の認識を有していたことは明らかと認められる(なお,J1については,K1の行動確認をした後,D1から謹慎を命じられるなどしてそれ以上の役割を果たさなかったが,そのような事情があったとしても共謀関係から離脱したとは認められない。)。これらの者についても,本件犯行の共謀があったと認められる。6 結 論以上の次第で,被告人は判示第1の罪を犯したと認められる。第3 看護師事件1 争 点弁護人らは,被告人が実行犯であるM1を犯行現場まで送り届けて本件に関与したことは争わないものの,①M1には殺意がなく,②甲會の活動として組織によりなされたものでもないと主張し,さらに,③共犯者とされている者ら(特に,A1,B1,C1,L1,D1,W1,X1及びO1)との間の共謀についても争っている。2 認定事実関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。Q1とA1の関係等についてA1は,平成24年8月から北九州市内の美容形成外科医院(以下「本件医院」という。)に通院し,亀頭増大手術やレーザー脱毛の施術などを受けた。Q1は,本件医院においてA1を担当していた看護師であり,A1に対して前記の施術を自ら行うなどした。A1は,通院初日に前記の手術を受けたが,その直後から,患部の異常を訴えて頻繁に本件医院に電話で問い合わせたり,通院予定日以外の日に来院して患部が腐っているのではないかと述べるなどした。この間,A1の代理人が患部に使用する包帯を求めて来院したのに対しQ1がそれに応じなかったことがあり,A1はその対応についても不満を述べるなどした。さらに,Q1は,同年10月中旬,A1に対して脱毛の施術を行ったが,その3日後,A1は,予約なく本件医院を訪れ,対応した別の看護師に対し,陰茎部の診察を求めると共にQ1が施術を行った部分が炎症を起こしたので診療してほしい旨求め,その際,強い口調で,炎症はQ1が故意に強度のレーザーを照射したために生じたのではないかと述べたり,前記の手術の際に通常より多く薬品を注入したのではないかなどと告げた上,「ああいう人になったらいけん。」などとQ1に対する不満を言い,裁判に訴えることもできる旨も述べるなどした。その日の夜,Q1は,A1に対して電話で謝罪したが,その際も,A1は,これまでの治療や対応に対する不満を繰り返し述べた。A1は,2日後の同月20日に本件医院で医師の診察を受けた際には,本気で裁判を考えてはおらず,Q1に最後まで担当してもらいたい旨述べ,その後も本件医院に通院していたが,同年11月12日に来院した際,Q1に対し,前記手術で薬品を注入しすぎたことが原因で性交渉が不可能になった旨強い不満を訴えるなどした。本件犯行前日までの犯行準備状況等についてE1(乙組筆頭若頭補佐)は,N1(乙組組員)に命じ,少なくとも平成24年11月1日及び同月5日の2度にわたり,受診希望者を装って本件医院内に立ち入らせた上,N1にQ1の行動確認を指示した。N1はこれに従ってQ1の行動を監視し,平成25年1月中旬から同月下旬までの間には,5回にわたり,JR○○駅構内やその周辺でQ1を尾行するなどした。また,平成24年11月又は同年12月頃,O1(乙組組員)は,氏名不詳者からの指示で,帰宅中のQ1を,JR○○駅から福岡市f区の自宅付近まで,新幹線やバスに同乗して尾行し,Q1が自宅付近のバス停で下車したことなどを報告した。一方,E1は,平成25年1月初旬,被告人に対して仕事がある旨告げた上,自動車1台を準備するよう指示し,被告人はそれに従って日産ADバン(以下,単に「ADバン」という。)を用意した。さらに,E1は,被告人とM1をQ1が帰宅の際に自宅まで徒歩で移動する経路にほど近い福岡市f区g・q番i号所在のマンション「r」(以下「r」という。)等に案内した上,指定された集合場所(以下「本件集合場所」という。)からrまで被告人がバイクでM1を送迎するよう指示した。同月中旬頃,F1(乙組風紀委員長)は,甲會内の上位者から,手伝ってほしい仕事がある旨告げられて福岡市f区まで案内された上,そこで他の者と合流して別の場所まで移動すること,移動した先で,合流したメンバーは用意されたバイクに乗って別の場所に行くので,同人らが戻るまで待つこと,同人らが戻ってきたらそのバイクの投棄作業を手伝うこと等を指示された。さらにその頃,F1は,上位者からの指示に従い,知人から自動車1台(マツダRX7。以下,単に「RX7」という。)を借りた。同月24日,被告人は,E1の指示で,M1と共に,F1が運転するADバンに乗り,同人が上位者の指示で運んできた衣服に着替えて本件集合場所まで赴いたが,用意されたはずの送迎用のバイクが発見できず,襲撃は中止になった。また,翌25日,被告人は,E1の指示で,N1が用意したバイクで本件集合場所まで赴き,ADバンに乗ったE1及びM1と合流して着替えを済ませたが,この日はQ1が出勤しておらず,襲撃は中止になった。同月26日,E1は,W1(乙組組織委員長)に対して,L1(甲會丙組組長)の指名により,M1に代わり同月28日午前9時から翌29日午前9時までの間の本家当番(A1の自宅で待機する当番のこと)を受け持つよう依頼し,W1はそれに応じた(その際,E1はW1に対して「仕事なんです。」と告げ,W1は「知っちょう,分かる。」「言わんでいいよ。」などと述べた。)。同月27日の深夜頃,E1は,乙組一門である丙組に所属しL1の直属の配下であったP1に対し,バイクを盗んだ上,犯行が発覚しないように,その車体に塗装をし,ナンバープレートを付け替えるよう指示し,P1はそのとおり実行した。犯行当日の経過について平成25年1月28日昼過ぎ,E1はF1からRX7を借り受けた(その際,RX7には,F1が上位者の指示により準備した実行犯らが身に着ける衣服等の犯行道具等が入ったバッグが積まれたままの状態であった。)。N1は,E1の指示に従い,本件医院からJR○○駅構内までQ1を尾行し,同人が新幹線の改札口に入ったことを確認し,JR△△駅で待機していたO1にその旨を電話で連絡した。その後,O1は,Q1がJR△△駅付近でバスに乗ったことを確認し,その旨を他の者に電話で連絡した。一方,被告人は,E1の指示で,P1が用意したバイクで北九州市内から本件集合場所に赴き,ADバンに乗って来たE1及びM1と合流し,M1と共に,車内に用意されていた衣服(RX7に積まれていたものと推認される。)に着替えて待機した。このときM1は,覆面をし,作業着の上下と手袋を着用した。その後,被告人は,E1の指示で,前記バイクにM1を乗せてr脇付近に移動し,そこで待機した。それから5分程度経過した同日午後7時4分頃,M1は,バスから降りて徒歩で道路を通行中のQ1の姿を認めると,本件現場歩道上で,背後から近づき,その髪の毛を手で掴み,刃物で左側頭頚部付近を切り付けた。さらに,M1は,その刃物を手にした状態のままQ1ともみ合うような形になった後,Q1の左臀部を1回その刃物で突き刺し,逃走した。M1から刃物で切り付けられるなどしたことにより,Q1は,約3週間の入院及び通院による加療を要する左眉毛上部挫創,顔面神経損傷,右前腕部挫創及び左臀部挫創の傷害を負った。このうち,左眉毛上部挫創は,左眉毛外側から側頭部にかけての位置にあり,長さ約7ないし8cm,幅約2cmの大きさで,筋層に達する深さがあり,浅側頭動脈が完全に切断されていた。また,左臀部挫創は,長さ約2ないし3cm,幅約1.5cmで,深さは約1.5ないし2cmのものであった。犯行後の経過について被告人は,犯行後逃走してきたM1を前記バイクに乗せて本件集合場所まで連れて来た後,M1及びE1と共に,前記バイクを付近の岸壁から海に投棄した。その後,被告人は,M1と共に,E1が運転するADバンに乗り,車内で元の衣服に着替え,犯行時に着用していた衣服等をバッグに入れてRX7に積み,E1とは別れてADバンで北九州市内に戻った。また,同日の夜,F1は,E1からRX7の返却を受け,車内に積まれていた上記バッグを処分した。3 M1の殺意の有無について既に認定したとおり,本件犯行の態様は,M1が,歩行中のQ1に背後から近付き,その頭髪をつかんだ上,刃物でその左側頭頚部付近を切り付け,さらにもみ合いの後,Q1の左臀部を刃物で突き刺したというものである。左側頭頚部付近への攻撃は,その態様からして,明らかにその部位(それが人の身体の中でも特に重要な部位であることはいうまでもない。)を狙ったものであると認められる上,その攻撃の結果Q1が負ったけが(左眉毛上部挫創)は筋層に達し浅側頭動脈を完全に切断するほどの深さで,これによってQ1は外傷性出血性ショックにも陥っていることからして,相応に強い力を込めた攻撃であったと認められる。さらに,M1は,もみ合いの後,臀部にも刃物を突き刺しているところ,それにより生じた左臀部挫創も相応の深さがあり,この際にもM1が力を込めて攻撃していたことがうかがわれる。M1が犯行に用いた刃物の形状の詳細や大きさ等は明らかでない(この点,検察官は,本件犯行状況の一部が映った防犯カメラ映像を解析した証人Y1が,防犯カメラ画像上でM1が本件刃物を握った手から飛び出している部分の長さが18ないし22cmであると推測される旨供述すること等に基づき,M1が犯行に使用した刃物の刃体の長さは10cm前後であると主張するが,同証人が防犯カメラ画像の上で本件刃物の先端と特定した部分の画像は甚だ不鮮明である上,同証人がそのように推測した根拠も定かでないから,同証人の供述に基づいて刃体の長さを特定することはできず,他にそれを特定しうる証拠もない。)が,Q1の負った重いけがの状況からすれば,十分鋭利で人の生命に危険を及ぼしうる刃物であったことは明らかである。そうすると,M1の行為は,Q1を死亡させる危険性があり,そのような行為を自らの手で行っていたM1においても,少なくとも,ことによればQ1が死亡するかもしれないという程度の認識を有していたと認められるから,M1に殺意があったことは明らかである。4 甲會の活動として組織により行われたか否かについて既に認定した事実関係によれば,遅くとも平成24年11月上旬までに,甲會内でQ1を襲撃することが企てられ,その後,F1,E1,M1,N1,O1,被告人ら乙組組員のほか,乙組一門の丙組組員であったP1も加わり,Q1の行動確認,実行犯が使う道具の調達,移動手段の確保,現場の下見等の準備をした上,M1によって実行されたことが明らかである。この間,E1と,N1,M1,被告人の間には,乙組内の序列に従った指示と服従の関係があり,乙組一門に属するP1も乙組の幹部組員であるE1の指示で行動している。また,F1やO1も上位者からの指示を受けていた旨述べ,F1やE1の更に上位者であったD1(乙組若頭)も,詳細を述べてはいないものの,本件に深く関与したことを認める供述をしている。そうすると,本件は,D1の指揮命令の下,乙組を中心として組織的に敢行されたものであると認められる。他方,前記の者らはQ1とは面識すらないのに対し,A1とQ1とは平成24年8月以降,既に認定したとおりのかかわりがあり,本件犯行の約3か月前には,A1が自己の意に沿わないQ1の対応や人格等につき本件医院の別の職員に強い口調で不満を述べて訴訟提起にまで言及し,Q1から謝罪を受けた後もなお,Q1に対し手術が原因で性交渉ができなくなった旨強い不満を訴えるなどしている。以上のような事情からすると,本件犯行が前記のようなA1とQ1との間のトラブルと無関係になされたとは到底考えられず,前記トラブルを巡り,Q1に対して報復ないし制裁としてなされたものと見ざるを得ない。また,前記トラブルは,A1の極めて私的でデリケートな事柄にかかわるところ,本件犯行が甲會組員の手によるものと疑われれば,直ちにA1の関与が疑われ,その私事も含めて捜査の対象とされるなど,A1の名誉が傷付けられ,ひいては甲會全体にも重大な影響が及ぶことが容易に想定され得る。にもかかわらず,M1は本件犯行を実行したことについて甲會内で何ら粛清・処分されていない。以上の各事実によれば,本件犯行がD1以下の者らの一存で企図,計画されたものとは到底考え難く,A1の関与がないとすると,本件犯行を合理的に説明することは極めて困難である。本件犯行は,A1の意思決定に基づき,その指揮命令の下,多数の甲會組員が動員され,あらかじめ定められた任務の分担に従って実行されたものと強く推認される。当時,本件犯行に関与した甲會組員が二次団体の乙組や丙組に所属し,A1とC1との間に特段親密な関係はなかったことからすると,甲會内の指揮命令系統に基づき,その序列に従って,A1から序列第2位に当たる会長のB1,序列第3位に当たる理事長のC1へと指揮命令がなされ,さらに,C1からは,まず,甲會の序列下位者であるL1,同人が組長を務める丙組組員で直属の配下のP1へと指揮が伝達される一方,C1が自ら組長を務める乙組の序列第2位に当たる若頭のD1にも指揮がなされ,D1以下の組員へ順次指揮命令が行われたことが推認される。また,こうした組織的な対応に加え,本件犯行が甲會の最上位者であるA1の意に沿わない対応を重ねたQ1を襲撃し,その身体を刃物で切り付け深刻な傷害を負わせるという経緯や態様等にも照らせば,本件犯行は,世間一般に甲會序列第1位のA1,ひいては甲會の威信を維持し,組織の結束を図るという利益や効果が団体としての甲會に帰属するものと認められる。以上によれば,本件犯行は,団体である甲會の活動として組織により行われたものと認められる。この点,弁護人は,①A1とQ1の関係は本件犯行前に修復されており,現にA1が本件犯行後も本件医院にQ1が担当看護師のまま通院したこと,②A1の本件医院での受診の事実は一部の者しか知らなかったため本件犯行によっても甲會の威信を対外的に示せないこと,③本件犯行はA1自身が定めた女性を襲撃しない旨の不文律に反するため,下位者が手柄にするためA1に無断で行った可能性があることなどを主張する。しかしながら,①については,既に認定したとおり,A1はQ1の謝罪後も同人に対して強い不満を訴えていたのであり,A1が本件医院への通院を継続していたとしても,Q1に対する怒りや恨みが解消していたとは考え難い(現に,A1は,Q1が本件犯行による被害を受けた後,別の看護師に対して,Q1は刺されても仕方がない旨述べている。)。②については,A1が本件医院へ通院していた事実は,Q1をはじめ本件医院関係者は知っていたことであるし,甲會内においても一部であれ組員が知っていた以上,これらの者を通じて他の組員に伝わることは十分に想定されるから,甲會の威信を維持する意味がないとはいえない。③については,上位者の下位者への指示が絶対であった甲會において,序列第1位のA1が定めた不文律を下位者が破る可能性の方がむしろ考え難い。現に,既に判示のとおり,本件犯行にかかわった者で粛清や処分を受けた者はだれもいない。そして,本件犯行により甲會関係者で嫌疑が生じるとすればまずA1であることからしても,下位者がA1に無断で実行した疑いは排除できる。よって,弁護人の各主張によっても,上記の判断は揺らがない。5 共犯者らとの間の共謀の有無についてM1及びE1との共謀について既に認定したとおり,M1及び被告人は,E1の案内で本件現場を下見するなどした上,本件犯行前後の行動について詳細な指示を受け,それぞれその指示に従って行動した上,M1において本件犯行の実行に至っている。M1自身は本件犯行を実行した理由について供述してはいないものの,これらのことからすれば,M1はE1からの具体的な指示命令に従い本件犯行を実行したことが強く推認されるのであり,両名の間に共謀があったと認められる。他方,被告人は,M1がQ1を襲撃することについて明確に知らされてはいなかったが,E1から仕事がある旨告げられた上,本件犯行における役割等について具体的に指示を受け,移動用の車を調達し,丙組のP1から受け取った本件バイクを運搬し,これを使用して犯行現場付近までM1を送るなどの準備行為を実行しているほか,本件犯行前に2回襲撃が中止された際にも,F1が運転する車で本件集合場所まで移動し,N1からM1を乗せるバイクを受け取るなどしていた。これらによれば,被告人は,本件犯行について,乙組組員のみならず多数の甲會組員が動員されて組織的に犯行を実行するための準備が行われたことを十分に認識していたといえる。加えて,本件犯行の当時,既に,被告人は元警察官事件に実行役として関与し,自らけん銃を発射して命中させた経験があった上,甲會が起こしたとされる殺人(未遂)事件について多数の報道がされていた。これらの各事実に照らせば,被告人は,自らの準備行為に基づいて,団体である甲會が,組織により,人を襲撃し,場合によっては実行役であるM1が刃物等の凶器を用いてその命を奪う可能性があることも当然に認識しており,それらについてE1やM1と意思を相通じていたと認められる。弁護人は,被告人はM1を送迎する目的について,主に違法な物の取引の可能性を想定しており,M1が人を殺害する可能性については全く考えなかったと主張するが,被告人はM1が人を襲撃するのかもしれないとも思っていたと述べている上,被告人がM1を犯行現場まで送り届けた際,同人は手に特段の荷物を持っておらず,禁制品の授受をするのにそぐわない様子であったことは一見して明らかであったと考えられることなどからすれば,弁護人の主張は採用できない。よって,被告人が,直接指示を受けたE1との間はもちろん,実行犯であるM1との間でも,少なくともE1を通じて順次,組織的殺人未遂,すなわち本件犯行について共謀した事実が認められる。F1,N1,O1及びP1との共謀についてF1,N1及びP1は,実行犯であるM1とは直接のやり取りを行っていないが,E1ら甲會の上位者から指示又は依頼されて,移動用の車の調達,被害者の行動確認,送迎用のバイクの調達等本件犯行の準備行為に関与し,その際に被告人との接点もあったものである。これらの各事実に照らせば,F1,N1及びP1においては,上位者から指示を受けて自身の役割を果たす中で,多数の甲會組員が動員されて組織的に犯行を実行するための準備が進行していることを認識していたものと考えられる上,本件犯行の当時,既に甲會が起こしたとされる殺人(未遂)事件について多数の報道がされてもいたから,自らの関与していることが人を襲撃するための準備で,それが実行されれば場合によっては命を奪うことになる可能性があることも認識しており,これらのことについて指示者を介して,M1や被告人とも意思を相通じていたと認められる。また,O1については,M1のみならず被告人とも直接のやり取りはないものの,上位者の指示に従って被害者の行動確認をするなどしたことは前記の者らと同様であり,やはりM1や被告人との共謀があったと認められる。A1,B1,C1,L1及びD1との共謀について既に詳述したとおり,本件犯行については,A1が意思決定をした上で,B1,C1と順次指揮命令が行われ,さらに,C1から,L1やD1等の序列下位者に対して順次指揮命令がされ,その中で,E1から実行役のM1や被告人への指示が行われたことが推認される。その間の具体的な指揮命令や謀議の内容は明らかでないが,少なくとも鋭利な刃物でQ1に襲い掛かるという核心部分については,下位の者が上位者の了承を得ずに決めるとは考え難く,上位者の間でもその点に関する意思疎通があり,それが下位の者らに伝達されたことが明らかである。もっとも,本件の発端は前記のようなA1とQ1の私的なトラブルであり,Q1が死亡すれば,A1を対象とする捜査の実行等,甲會全体に重大な影響が及ぶことが容易に想定可能であるから,A1らがそこまで意欲していたとまでは考えられないが,刃物を使用することにより,ことによればQ1を死に至らせる危険性があることは十分認識,認容していたものと考えられる。甲會の組織構成やその性質からして,本件犯行が,下位者が上位者の指揮命令に従って役割を分担して実行に至ることの認識が共有されていたことも疑いを容れない。以上によれば,A1,B1,C1,L1及びD1は,実行役のM1や被告人との間では直接のやり取りをしていないものの,同人らの指示役であるE1らを介し,順次,M1及び被告人との間で,本件犯行について共謀したものと認められる。W1との共謀についてW1は,甲會専務理事兼乙組組織委員長であったところ,E1から,甲會の最高幹部の1人であったL1の指名である旨告げられた上,実行役であるM1と本件犯行当日の本家当番を交代し,その際,E1から,「仕事」が理由と伝えられ,分かっているなどと述べていることが認められ,客観的にみれば,本件犯行はW1との関係でも団体である甲會の活動として組織により行われたというべきである。また,W1は,交代の理由が,甲會の最高幹部であるL1が関与するほどの重大事であることを推知していたと考えられる。しかし,E1がW1に対して「仕事」の内容を説明したと認めるに足りる証拠はない上,W1が応じた本家当番の交代という行為自体からその「仕事」の内容を具体的に推測することは困難といえる。また,当時のW1の甲會内での序列はD1よりも下位であった。これらのことからすれば,W1が,多数の甲會組員が動員されて準備を行い,M1が人を襲撃することまで認識していたことについては疑問が残る。よって,W1については,本件犯行について被告人やM1と共謀したとは認められない。X1との共謀について検察官は,被告人とX1(甲會専務理事兼乙組組長秘書)との間にも共謀があったと主張する。証拠によれば,襲撃が中止となった平成25年1月24日夕方,E1は,X1に対し,電話で,「ちょっと微妙微妙な感じ。」と告げ,X1は,「腹九分くらいですか。」などと返している。また,本件犯行を実行した直後も,E1はX1に電話を掛け,「おなか一杯っち言っとって。」と言い,X1は「おなか一杯やったんすか。食べ過ぎですよ。」「今日はあれした方がいいですよ,上がった方が。」などと述べている。さらに犯行翌日にも,E1はX1に電話を掛け,「今,ちょっと,用事言われとったの終わったんよ。」「分配。」などと告げ,X1から「おいしかったですか分配。」などと尋ねられると,「兄弟。」「ちょっとやるね。小遣い。」と述べた。さらに,E1は,X1から「電話してから,終わりましたち言ったらいいやないですか。」と告げられると,同人との電話を終えた約30秒後にC1あて電話を掛け,その旨告げたが,「そんなん電話で言うたらつまらん。」などとたしなめられたことも認められる。こうしたやりとりに加え,X1の当時の地位からすると,X1は,本件犯行に関してE1とC1の間の伝達役ないしそれを超える役割を担っていた可能性が疑われる。しかし,前記の会話の全てが本件に関するものとは断じ難い上,会話の内容からしても,X1が本件犯行についてどの程度の認識を持っていたか判然としない。さらに,X1の乙組内での序列は組長秘書であり,D1よりも遥かに下位であった。これらのことからすれば,X1が,E1とC1との伝達役を担ったことにより,多数の甲會組員が動員されて準備を行い,実行役が人を襲撃することまで認識し得たとまでは考え難い。よって,X1が本件犯行について共謀したとは認められない。6 結 論以上検討したところによれば,判示第2のとおり,①M1に殺意があったこと,②団体である甲會の活動として組織により行われたことが認められる。また,③共謀関係については,W1及びX1との間の共謀は認められないものの,A1,B1,C1等判示の者らとの共謀があったと認められる。第4 歯科医師事件1 争 点弁護人らは,被告人が刃物でR1の身体を突き刺すなどの実行行為をしたことは争わないものの,①被告人には殺意がなく,②甲會の活動として組織によりなされたものではなく,③甲會の不正権益を維持・拡大する目的で行われたものでもないと主張するほか,④共犯者とされている者ら(特に,A1,B1,C1)との間の共謀についても争っている。2 認定事実関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。被害者の親族と甲會の関係について本件が発生した平成26年5月当時,R1は病院に勤務する歯科医師で,甲會とは一切接点がなかったが,R1の親族(祖父のZ1,父のA2,Z1の弟であるB2,B2の子であるC2,Z1及びB2の甥で,A2及びC2の従兄弟,かつR1の叔父に当たるD2等。)と甲會の間には以下のようなかかわりがあった。すなわち,昭和50年代,Z1は,辛市内にあるs漁港を拠点とするs漁業協同組合(以下「s漁協」という。)の組合長であったが,甲會の前身のひとつである丁一家の会長であったE2と親交があり,その頃,s漁港周辺海域に石油備蓄基地を設置する事業が企画され,Z1が周辺漁協の意見の取りまとめに奔走した際にはE2がこれに助力し,結果的に工事を請け負った企業から多額の現金を受領したことがあった。さらに,昭和60年代に丁一家と「甲会」が合併して甲連合丁一家になった後は,E2の配下となったA1とも中元や歳暮のやりとりをするようになった。しかし,平成3年にE2が死亡した後,Z1は暴力団とのかかわりを断とうとし始め,A2も同席しA1,B1と食事をする機会が設けられた際にA1らから懇意の交際を求められた後も,A2がB1の求めに応じて多額の融資をしたことはあったものの,交際を深めることはなかった。さらに,平成8年頃に辛市がs漁協が漁業権を有する同市t区u地区(以下「u地区」という。)での港湾整備事業構想を発表した後には,s漁協専務理事であったB2が漁協側の中心として漁業補償交渉に当たったが,この際,甲會組員が複数回にわたってB2に面会を求めてきたのに対し,B2はこれを拒否した。また,この間,A2に対しても甲會組員が接触して,同事業に甲會を関与させるよう要求したが,A2はこれを拒絶した。そうした中,平成10年には甲會組員がZ1を殺害する事件が発生し,その後B1やL1がA2に甲會と利権交際を持つよう求めるなどしたが,A2はこれに応じることはなかった。平成19年,s漁協等の7つの漁協が合併して辛漁業協同組合(以下「辛漁協」という。)が設立され,s漁協は辛漁協の支所(s支所)になったが,その際,辛漁協の組合長に就任したのはB2であった。また,B2の子であるC2は港湾建設会社(株式会社壬,以下「壬」という。)を経営し,A2も同様の会社(株式会社癸,以下「癸」という。)を経営していたが,いずれの会社も辛市内の同種業者の中で最上位の売上げを有し,壬は,売上高のうち二,三割をs地区の工事から得ていた。こうした状況に対し,当時,辛漁協s支所の理事であったD2は,s地区の公共工事につき,辛漁協の組合長であるB2及び辛漁協s支所の代表理事であるA2だけが,その権限に基づき,事業主体の地方公共団体や元請会社等に対し,工事の元請会社や下請会社につき地元企業を選定するよう依頼でき,その結果として壬や癸に仕事が下りているなどと認識していた。そして,D2は,親交のあったB1に対し,辛漁協においては,漁業権の交渉はs支所等の各支所が独立して権限を有し,その権限は同支所の代表理事が行使できるなどと説明し,B1は,D2に対し,r地区の公共事業の仕事をB2やA2らだけがしているなどと不満を述べた上,D2の権限でB1が希望する企業を一次下請業者にすることはできないのかなどと話していた。さらに,平成25年に辛市がu地区での廃棄物処分場等の事業を実施する旨広く報道されると,B1は,D2に対し,同事業における工事に関与できるか否か等を尋ねたが,D2は,現在の自己の地位では絶対に無理である旨告げた。そうした中,同年12月,B2が何者かによって殺害される事件が起きた。本件犯行前のB1の言動等について証人として出廷したD2は,平成26年2月から3月にかけてのB1の言動(D2とのやりとり)について,おおむね以下のように供述する。すなわち,平成26年2月上旬,B1は,D2に対し,同人を辛漁協s支所の代表理事にしたいがどうしたらできるかなどと尋ねたが,D2は,A2が辛漁協の組合長に就任し同人がs支所の代表理事を決める可能性が高く,D2自身では決められない旨答えた。同月中旬,B1は,D2に対し,甲會の方針であるため辛漁協s支所の代表理事には無理にでもD2を就任させるしかなく,A2と話ができなければ最悪の場合同人に危害を加えなければならない旨を告げ,そのことをA2にも伝えるよう依頼した。これを受けたD2は,同月26日,辛漁協の理事会において,辛漁協の組合長とs支所等の支所の代表理事を兼任可能とする旨の提案に反対した上,会議後,A2に対し,B1からの伝言である旨告げて,現在の甲會の執行部は何でもするし,B2の殺害は見せしめであって,甲會との関係を考え直さなければA2らに危害が及ぶ旨を伝えた。これに対し,A2は,そのような話は聞かなかったことにする旨述べて拒否した。同年3月6日,D2は,B1に対し,伝言を告げられたA2が青ざめていたなどと伝え,B1は後はA2の判断次第である旨述べた。以上のD2の供述は,一定の時間を経ているため曖昧な点もあるが,核心部分においては十分に具体的かつ詳細で,不自然不合理な点も見当たらない。また,これに関連するA2の供述や同人作成のメモの内容とも整合し,これらによって裏付けられている部分もある。D2が報復の危険を冒してまで,あえて甲會の関係者に不利益な内容の虚偽供述をする動機もおよそ考え難い。弁護人は,D2は辛漁協s支所に絡む利権に最も強い利害関係を有し,自己の利益を図るためB1の名を利用した可能性があるため,D2の供述は信用できない旨主張するが,それを踏まえて慎重に検討しても,D2の前記供述は,高い信用性を有するというべきである。そうすると,B1はD2が供述するとおりの言動をしていたと認められる。その後の経過について平成26年5月12日,D2は別事件の被疑者として逮捕された。同年6月上旬頃に投票が行われる予定であった辛漁協s支所の代表理事選挙は同月26日に立候補が締め切られ,D2は同選挙への立候補を断念した。本件犯行に至るまでの甲會関係者の指示・準備状況等について平成26年3月頃から,E1(乙組本部長,なお,この頃,乙組若頭のD1が逮捕勾留されていたため,E1は乙組内において組長のC1に次ぐ地位にあった。)は,複数の甲會組員に対し,R1及びA2が使用していた自動車の動静や警察による警備の有無等を確認するよう指示した。その結果,E1は,R1が使用する自動車(黒色セルシオ)が日ごろ北九州市k区l・m丁目n番所在のo駐車場(以下「本件駐車場」という。)に到着する時刻を把握するとともに,A2が使用する自動車が警察による厳重な警備を受けていることなどの情報を入手した。同年5月中旬,E1は,被告人(乙組若頭補佐兼組長付)に対し「仕事がある」旨伝え,同月22日頃,被告人及びN1(乙組若頭補佐)を本件駐車場まで連れ出し,被告人に対し,本件駐車場を利用する黒色セルシオから降りた人物を襲撃するように指示した。さらにその後,E1は,N1に対し,被告人は襲撃を実行した後,H1(乙組組員)が運転するバイクで本件駐車場から北九州市k区v所在のw(以下「w」という。)まで逃走することを伝えた上,wで待機して被告人と合流し,被告人を車で送り届けることを指示し,その逃走経路をH1に伝えることも命じた。また,この頃,E1は,H1に対し,バイクを盗んで用意すること,その数日後に盗んだバイクを運転すること,何かあれば手助けをすること,詳細についてはN1に聞くことなどを指示し,N1も,H1に対し,本件駐車場に黒色セルシオが来るので,そのときバイクから被告人を降ろすこと,その後は被告人が襲撃を実行するのでそのまま待機すること及び本件駐車場からwまでの逃走経路等,E1から受けた指示を伝えた。同月24日,H1は,E1の指示に従い,普通自動二輪車(以下「本件バイク」という。)を盗んだ。同月25日夕方,E1は,N1に対し,翌朝に襲撃を決行することやその時刻等を伝えた上,ヘルメットと自動車を引き渡して,ヘルメットはH1に渡し,被告人を自動車で送迎すること,その自動車の後部座席には荷物がある旨被告人に伝えることなどを指示した。その後,N1は,被告人と会って翌朝に落ち合う場所や時刻について打合せをするとともに,H1とも会って,E1から受け取ったヘルメットを渡した上,翌朝の集合場所(北九州市k区x所在のy。以下「y」という。)と集合時刻を決めた。犯行当日の経過について平成26年5月26日朝,被告人は,N1が運転する自動車に乗り,yでH1と合流し,車の後部にあった荷物を確認し,中に入っていた着衣等に着替えた。また,その際,その荷物の中に刃物(以下「本件刃物」という。)があるのを発見した。被告人は,H1が運転する本件バイクで本件駐車場付近に行き,黒色セルシオの到着を待っていたところ,それに該当する自動車が到着し,その運転席からR1が降車した。被告人は,本件バイクから降り,本件刃物を持って,本件駐車場付近に向かい,R1に接近して,R1の身体に本件刃物を突き刺すなどした(本件犯行。なお,具体的な犯行態様については,R1の供述と被告人の供述との間に食い違いがあるところ,この点は殺意の認定にもかかわることから,その検討の中で詳述する。)。それにより,R1は,入院加療約14日間及び外来加療約3か月間を要する左大腿部刺創,腹部刺創,胸壁刺創及び背部刺創の傷害(胸部正中部に深さ約1cm,左側胸部に深さ約1cm,左下腹部に深さ約7cm,背部腰上に深さ約7cm,左大腿部外側に深さ約10cmの各刺創等)を負った。本件犯行後,被告人は,H1が運転する本件バイクでwまで逃走し,N1が運転する車に乗って移動し,犯行に使用した着衣等及び本件刃物等を車内にあったバッグの中に入れた上で降車した。N1は,荷物を置いたまま車をE1から指示されていた駐車場に停め,乙組事務所へ行き,E1に対し,被告人らが無事wに到着した旨報告した。また,当日の夜,E1は,N1及びH1と共に,H1が被告人の送迎の際に使用した着衣等とヘルメットを海中に投棄した。H1は,犯行の翌日,E1及びN1の指示に従い,本件バイクをダムに投棄した。3 被告人の殺意の有無について犯行態様についてR1は,証人尋問において,被告人から襲撃を受けた際の状況について,おおむね以下のとおり供述する。すなわち,R1は,本件駐車場で黒色セルシオの運転席から降り,助手席側に回ってそのドアを開け,かばんを取り出すために車内に上半身を半分位入れた時,背中に何か覆い被さられて突き飛ばされるような感じの衝撃を受けたので,それを払いのけて振り向いたところ,フルフェイスのヘルメットを被った犯人が両手でナイフを持っているのが見えた。犯人は,両手で持ったナイフの刃先をR1の胸に向けて刺そうとしてきたので,R1は両手で犯人の両手を押さえ,下方に押し下げたが,その間も犯人はナイフの刃先をR1の身体に向かって突き出し,その刃先が次々とR1の身体に刺さった。更にナイフの刃先が押し下げられ,ナイフの刃先がR1の太ももに刺さったときに膠着状態になり,間もなく犯人はその場から逃走した。以上のように述べる。この供述はかなり具体的で不自然な点は認められない上,既に認定したR1の受傷状況とも合致する。もとより,R1が殊更に虚偽の供述をする理由も見当たらない。R1の前記供述の信用性は高いと考えられる。これに対して,被告人は,公判廷において,犯行時,被告人に背中を向けていたR1に近づき,右手に持った包丁でR1の尻とももの間を1回刺したことは覚えているが,それ以外の攻撃をした記憶はなく,背中や腰を刺したつもりもない旨述べ,また,刃物を両手で持った記憶はなく,両手では刺しにくいこと,当時左手を空けるよう意識していたこと,犯行後半年以上右手がしびれていたのに対して左手はしびれていなかったことなどから,両手で刃物を持っていたことは考えられないとも供述した。しかし,被告人の供述はかなりあいまいで要領を得ない点があり,被害者の受傷状況とも整合しない。刃物を右手で持っていたとする根拠も合理性・必然性の高いものとは考えられず,総じて信用性が乏しい。以上からすると,R1の供述の信用性は動揺せず,その述べるとおりの事実があったと認められる。そしてこれに加えて,既に認定した被害者の受傷状況も併せて考慮すると,被告人は,助手席上のかばんを取るため上半身を車内に半分くらい入れて屈み込んでいたR1の背後から近付き,本件刃物でR1の背部を目掛けて突き刺し,背中に覆い被さるような状態になった後,R1から振り払われて向かい合う形になり,R1から本件刃物を持った両手をつかまれて押し下げられたが,その状態でなおも本件刃物の刃先をR1の胸部や腹部,大腿部等に向けて繰り返し突き出してその刃先をR1の身体に刺し,刃先が大腿部に刺さった状態で膠着状態になって逃走したと認められる。被告人の殺意の有無について前記の認定からすると,被告人は無防備なR1の背後から近付いてその背部に本件刃物を突き刺した上,R1から両手をつかまれて抵抗された後も,胸部,腹部,大腿部等という身体の枢要部を含む部位を目掛けて繰り返し突き刺すなどしたものである。R1の抵抗にもかかわらず腹部や大腿部にはかなり深い刺創が生じていることに照らせば,被告人は相当強い力を込めて本件刃物を突き出していたと認められ,R1の抵抗状況次第では重要な臓器が損傷して死亡する危険性は相当高かったといえる。本件刃物の形状,大きさ,硬さなどは不明であるが,R1及び被告人の各供述に加えてR1の負傷状況によれば,それが包丁又はナイフ様の鋭利なもので,人を殺傷するに足りる大きさや硬さがあったことは明らかである。以上からすれば,被告人が少なくとも,ことによればR1が死亡するかもしれないとの認識を持っていたことは明らかであり,殺意があったと認められる。被告人は,R1を殺さないように臀部又は大腿部を五,六回突き刺せというE1からの指示に従い,R1の臀部と大腿部の間付近を強くない力で刺した旨述べて殺意を否認するが,既に検討したとおり,犯行状況に関する被告人の供述自体の信用性が乏しく,前記の認定は動揺しない。4 甲會の活動として組織により行われたか否かについて既に認定した事実関係によれば,遅くとも平成26年3月頃までに,甲會内でA2又はR1を襲撃することが企てられ,E1が中心となって両名の使用車両の動向観察がなされ,その後,標的がR1に定められると,E1,N1,H1ら乙組組員が実行犯の移動手段の確保,実行犯の使う道具の調達などの準備をした上,被告人によって実行されたことが明らかである。この間,E1とその他の乙組組員の間には,同組内の序列に従った指示と服従の関係があった。そうすると,本件犯行が乙組を中心として組織的に敢行されたものであると認められる。他方,これらの者は,いずれもR1とは面識がないばかりかR1の親族とのかかわりがあった形跡もない。これに対し,A1やB1は,既に認定したとおり,平成3年頃からR1の親族であるZ1やA2と接点があり,より関係を深めようとしたものの,Z1らがそれに応じず,甲會組員がZ1を殺害する事態に至っている。また,B1は,A2やC2に不満を抱いていたD2と親交があり,本件犯行直前にはD2を辛漁協s支所の代表理事にしようと画策するものの,A2がその障害になっていることを知り,場合によってはA2に危害を加えてまでもそれを実現する意向を示していた。さらに,D2は,当公判廷において,本件犯行後の平成26年7月18日,B1がD2に対し,本件犯行について,「A2が分からんけ,おまえもうそんなんするしかねえやねえか。」「あいつはまだもう分かっとらんふうやのう。」「おまえからも教えてやれ。」「警察は何もできんのぞと。警察は守ってくれんのぞと。今まで俺らがなんか,おまえね,パクられたのか。」などと述べた旨供述している(D2の供述が核心部分において高い信用性を有することは既に述べたとおりである。)ところ,このB1の言動は,本件犯行がA2が甲會の要求に応じないことに対する見せしめとして実行されたことを強くうかがわせるものである。こうしたことからすれば,本件犯行がE1の一存で企図,計画されたものとは到底考え難く,A1やB1の関与がないとすると合理的に説明することが極めて困難であるし,甲會序列第3位の地位にあり,乙組組長でもあったC1が関与せずになされたことも考えられない。すなわち,本件犯行は,A1が意思決定をした上で,序列に従い,序列第2位の地位に当たる会長のB1,C1と順次指揮命令が行われ,C1から,直接又は第三者を介して,当時乙組においてC1に次ぐ序列第4位の地位にあったE1に対して指揮命令が行われたことが極めて強く推認される。また,このような指揮命令と役割分担の上で,白昼,一般市民を襲撃する本件犯行態様からして,本件犯行は,世間一般に甲會の威力を誇示し,勢力や影響力を拡大させ,組織の結束を図るという利益や効果が甲會に帰属するものと認められる。以上によれば,本件犯行は,団体である甲會の活動として組織により行われたものと認められる。5 甲會の不正権益を維持・拡大する目的で行われたか否かについて既に認定したとおり,甲會に合併する前の丁一家会長のE2がかつて公共工事に関してs漁協組合長のZ1に助力して相当額の現金を受け取ったこと,その後,A1やB1を含む甲會組員が断続的にZ1,B2及びA2らに対して利益交際等を求めたが拒否され続けたこと,甲會の序列第2位の地位にあるB1が,B2が辛漁協組合長,A2がs支所代表理事の地位を利用してs地区の公共工事につき同人ら親族が経営する会社に仕事を回している旨不満を述べたこと,B1が本件犯行の約3か月前にD2をs支所代表理事に就任させることが甲會の方針である旨述べ,A2に襲撃の可能性を示唆してその旨暗に要求したが拒否されたこと,その後D2が逮捕され,s支所の代表理事等の選挙への立候補を断念したこと,その後約2週間で本件犯行が実行されたこと,本件犯行後にB1はこれが甲會の要求に応じないA2に対する見せしめであるかのような発言をしたこと等が認められる。これらの各事情のほか,既に詳述したとおり本件犯行が甲會の活動として組織により行われたものであることからすれば,本件犯行は,北九州市内及びその周辺を主たる縄張とし,かつてs地区の公共工事に関して利益を得た甲會が,その組織的活動として,同地区の公共工事に関してs支所の代表理事には業者の選定等といった権限に基づく利権が存在すると認識し,辛漁協の組合長であったB2の死を契機として,その後任となる可能性が高く,D2の逮捕によりs支所の代表理事の地位に就くかその人事権を有する可能性があったA2に圧力をかけ,同人を従わせて,上記のs支所の代表理事の利権に介入し,不正な利益を得ようとしたものと考えられる。そうすると,少なくともA1やB1など本件犯行の意思決定に関与し,これらの情報を認識していた甲會関係者らについては,いずれも,本件犯行に関して,甲會の従前の縄張を維持・拡大する目的,すなわち,不正権益を維持・拡大する目的を有していたというべきである。他方,被告人は,本件犯行当時甲會に約12年間在籍していたが,その地位は甲會専務理事兼乙組若頭補佐・組長付で,E1と比較しても序列は下位であった。本件犯行前,E1らからは,R1が使用する車両の色や車種等を告げられただけで,本件犯行の目的等について知らされていなかったばかりか,襲撃対象の名前や地位も知らず,それを推知できる情報も与えられていなかった。こうしたことからすると,被告人が,本件犯行の目的がs支所の利権への介入にあることまで認識していたとは考え難い。また,本件犯行以前に甲會組員が本件犯行と同様に一般の民間人を襲撃した事件の中には看護師事件のように不正権益の維持・拡大を目的としたとはいえない事案も含まれていることからすると,被告人が,一般の民間人を襲撃するという事情等をもって,ただちに本件犯行の目的が甲會の不正権益を維持・拡大させることにあることまで当然に推測,察知,認識したとは考えられない。以上によれば,少なくとも,被告人については,団体である甲會の不正権益を維持・拡大する目的を有していたとは認められない。6 共犯者らとの間の共謀の有無について被告人は,E1から,直接又はN1を介して本件犯行における一連の行動等の内容について詳細に指示を受け,N1を介して本件刃物等の犯行道具を受け取り,これらを使用し,本件駐車場で待ち伏せをするなどして,おおむねその指示の内容に従って実行行為に及んでいる。被告人とE1との間で本件犯行について共謀があったことは明白である。また,N1は,乙組若頭補佐の地位にありE1の配下であったもので,E1から「仕事がある」などと告げられ,同人が被告人に襲撃を指示している場に立ち会ってその旨を認識した上,E1からの指示を被告人やH1に伝え,被告人の送迎役を担うなどしている。これらの各事実に加え,本件犯行の当時において既に甲會が起こしたとされる殺人(未遂)事件について多数の報道がされていたこと等に照らせば,N1は,被告人が人を襲撃し,場合によってはその際に刃物を用いて命を奪う可能性があることも当然に認識していたといえる。以上によれば,被告人とN1との間でも本件犯行について共謀があったと認められる。H1は,被告人と直接本件犯行について具体的なやり取りを行っておらず,E1から指示されて,本件駐車場までの被告人の送迎,道具の調達及び処分等の準備行為や証拠隠滅行為等に関与している。また,E1からN1を介して指示を受けた内容の中には,本件駐車場でバイクから被告人を降ろした後は被告人が実行するのでそのまま待機することも含まれている。これらのH1が指示を受けて行った準備行為や証拠隠滅行為等の内容,N1を介して指示を受けていたこと等によれば,H1は,E1から指示を受けた時点で,少なくとも複数の甲會組員が動員されて組織的に犯行を実行するための準備が進行していることを十分認識していたものと考えられる。そして,本件犯行の当時において既に甲會が起こしたとされる殺人(未遂)事件について多数の報道がされていたこと等に照らせば,H1は,本件駐車場でバイクから降ろす予定の被告人が人を襲撃し,場合によってはその際に刃物を用いて命を奪う可能性があることも当然に認識していたといえる。以上によれば,H1についても,被告人との間で直接のやり取りはしていないものの,E1及びN1を介して,順次,被告人との間で,本件犯行について共謀した事実が優に認定できる。さらに,既に詳述したとおり,本件犯行については,序列第1位のA1が意思決定をした上で,序列に従い,序列第2位のB1,序列第3位のC1と順次指揮命令が行われ,C1から,直接又は第三者を介して,乙組においてC1に次ぐ地位にあったE1に対して指揮命令が行われたことが推認される。その間の具体的な指揮命令や謀議の内容は明らかでないが,少なくとも刃物でR1を襲うという核心部分については下位者の一存で決めることは考えられず,A1,B1,C1らにおいても意思疎通があり,それが下位者に伝達されたと考えられる。A1らにおいて,R1を殺害することを積極的に意欲していたとまでは認められないが,前記のような方法を取れば,R1の抵抗状況次第ではR1が死亡する危険性があることは認識,認容していたものと考えられる。以上によれば,A1,B1,C1は,被告人との間では直接のやり取りをしていないものの,E1を介して,順次,被告人との間で,本件犯行について共謀したものと認められる。7 結 論以上検討したところによれば,本件犯行については,判示第3のとおり,①被告人に殺意があったこと,②団体である甲會の活動として組織により行われたこと,④被告人と共犯者ら(特に,A1,B1,C1)との間で共謀があったことについては,いずれも認定できる。他方,③本件犯行が団体である甲會の不正権益を維持・拡大する目的でなされたか否かについては,共犯者の一部がその目的を有していたことは認められるものの,被告人にその目的があったとは認められない。(法令の適用)(記載省略)(量刑の理由)1 本件の概要本件は,北九州市に本拠を置き,同市及びその周辺地域を独自の縄張であると主張する暴力団組織である甲會の組員として活動していた被告人が,いずれも,多数の甲會組員と共謀の上,3件の組織的殺人未遂等の罪を犯した事案である。
事案の概要
平成29年12月15日
福岡地方裁判所
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関税法違反
平成29(わ)512
本件現金のうち1億8000万円(領番号は別紙第1記載のとおり)をキャリーバッグ内に入れて手荷物として携帯して福岡空港ターミナルビル手荷物検査場を通過した上,同ターミナルビル門司税関福岡空港税関支署税関出国検査場において,同支署職員に対し,同現金を輸出する旨その他必要な事項を申告せず,同税関出国検査場を経て出国審査を通過し,もって税関長の許可を受けないで同現金を輸出しようとしたが,同支署職員に同現金を発見されたため,その目的を遂げず2 被告人Bが,本件現金のうち1億8522万円(領番号は別紙第2記載のとおり)をキャリーバッグ内に入れて手荷物として携帯して同手荷物検査場を通過した上,同税関出国検査場において,同支署職員に対し,同現金を輸出する旨その他必要な事項を申告せず,同税関出国検査場を経て出国審査を通過し,もって税関長の許可を受けないで同現金を輸出しようとしたが,同支署職員に同現金を発見されたため,その目的を遂げず3 被告人Cが,同手荷物検査場において,本件現金のうち1億8000万円(領番号は別紙第3記載のとおり)を入れたキャリーバッグを手荷物として携帯し,同空港の保安検査員に対し,同キャリーバッグを検査品として提出し,もって税関長の許可を受けないで同現金を輸出しようとしたが,同保安検査員に同現金を発見されたため,無許可輸出の予備にとどまり4 被告人Dが,同手荷物検査場において,本件現金のうち1億9000万円(領番号は別紙第4記載のとおり)を入れたキャリーバッグを手荷物として携帯し,同保安検査員に対し,同キャリーバッグを検査品として提出し,もって税関長の許可を受けないで同現金を輸出しようとしたが,同保安検査員に同現金を発見されたため,無許可輸出の予備にとどまった。(事実認定の補足説明)1 関係証拠によれば,判示第1のとおり,Eが本件金地金の密輸入の実行に着手したがこれを遂げなかったことが優に認められるところ(以下「本件密輸入」という。),各弁護人はいずれも,各被告人とE及びFこと氏名不詳者らとの間の本件密輸入に係る共謀等について,合理的な疑いを超えた立証はされていないから無罪である旨主張するが,当裁判所は,関係証拠に照らし判示第1のとおり事実を認定したので,その理由を必要な限度で補足して説明する。2 Eの本件密輸入への関与の経緯等及びその検討⑴ 関係証拠(甲58)によれば,Eは,①平成29年4月初め頃(以下,日付は「平成29年」を指す。),金塊を日本に持ち運べば報酬を得ることができるとのインターネット上の書き込みを見て,これに表示された案内に従い,金塊の運び屋を教育・指導する場所として指定された場所に行き,そこにいた金塊の密輸に関係すると思われる者と接触して,以後連絡を取り合っていたところ,本件密輸入の数日前に,同月13日(以下,本補足説明においては「本件当日」という。)明け方に仁川空港に来るように指示されるとともに,ティーウェイ航空291便(以下「本件航空便」ともいう。)のチケット画像が送信されてきたこと,②同日,同空港に行き,そこで声を掛けてきた男から,中に入って待つよう指示され,同チケット画像で航空券の発券を行うなどして出国手続を終え,搭乗口に行ったところ,そこで若い男から本件金地金及びこれを隠匿するためのポーチ2個を渡され,「日本に入国する際,金塊を持っていることを申告しないでいい」,「日本に無事入国してゲートを出たら,暗号を言う人に本件金地金を渡してください」などと言われた後,判示第1のとおり本件密輸入に及んだことが認められる。⑵ 検討前記のEの本件密輸入に至る経緯等からは,本件密輸入には,本件金地金を韓国から日本に持ち込んで本件密輸入を実行する同人のほか,同人に対し,本件密輸入の具体的実行方法等につき指示を与えたり,その航空券を手配したり,本件金地金等を渡したりする者,更にはEから本件金地金を回収する者など,複数名が関与したことが推認される。3 被告人Bと本件密輸入との結び付きを示す画像データの存在及びその検討⑴ 関係証拠(甲58,63,122,136)によれば,①被告人Bから差し押さえたスマートフォン内に,次のアないしウのデータが保存されていたこと,②同データは,いずれも日本時間の4月12日から本件当日にかけて,同被告人のスマートフォンに他者から送信されたものであることが認められる。ア 「<4月13日 木曜日>」との表題で,1から30までの通し番号順に30名の氏名及びその性別が記載され,各人の「連絡先」欄には8桁の数字が,「出発時間」欄には航空機の便の略称と出発時刻を意味すると思しき「KE787(08:00)」等が,さらに,上記氏名等が記載された欄の上部に「KE787(1陣 6名 08:00)」等と記載された韓国語表記の一覧表(以下「本件一覧表」という。)なお,本件一覧表の番号20の欄には,「E(男)」と記載され,「連絡先」として「3291(略)」,「出発時間」として「TW291(10:05)」と記載されているところ,Eの携帯電話の番号は「010-3291-(略)」であり,同人が搭乗した航空機の便は前記のとおりティーウェイ航空291便であって,上記記載と合致するものである。イ 冒頭に「・・・福岡空港の外にいる・・・場所で指定された回収者にだけ物件を渡すことを約束します。万一,指定された回収者ではない人に物件を渡したときにはそこに発生するすべての被害に対する民・刑事上の責任を負います。本人は上記内容を正確に熟知したのなら下にこれを確認するサインをいたします。日付:2017年4月13日」と記載され,その下に1から30までの通し番号順に「氏名」,「数量」,「物件サイン」,「円貨サイン」の各欄が設けられ,「氏名」欄には本件一覧表と同じ番号順に同一の氏名が記載されており,このうち番号5,19及び26以外の27名について,その対応する「数量」,「物件サイン」及び「円貨サイン」の各欄に手書きの記載がされた韓国語表記の一覧表(以下「本件誓約書」という。)なお,本件誓約書の番号20の「氏名」欄には「E」と記載され,「数量」欄には手書きで「6」と記載されているところ,前記のとおりEが密輸入した本件金地金の個数は6個である(甲49,51)。また,本件誓約書の番号12,13,15,21,23及び24の「氏名」欄及び「数量」欄の各記載は,本件当日,税関検査で金地金を発見された6名の韓国人の氏名及び所持に係る金地金の個数(各6個)と一致している(甲63)。ウ 本件誓約書の番号5,19及び26を除く27名を1ないし2名ごとにその容姿を撮影し,その画像上に氏名,本件一覧表の番号に対応する「出発時間」欄の記載及び本件誓約書の番号に対応する「数量」欄の記載が印字された写真画像なお,その中には,Eの容姿を撮影した写真に「TW291」「10時5分」「E6」と印字されたもの(以下「本件写真」という。)がある。⑵ 検討ア 前記のとおり,本件誓約書には,Eの氏名に加え,同人が本件密輸入により日本に持ち込もうとした本件金地金の個数と一致する数字が記載され,さらに,本件当日に税関検査で金地金を発見された6名の韓国人の氏名及びその所持に係る金地金の個数と一致する数字が記載されており,さらに,前記3⑴イの冒頭の記載内容を併せ見れば,本件誓約書は,金地金を韓国から日本に持ち込んで密輸入を実行する者らの氏名が印刷され,これをEを含む同実行者らの面前に示して,同人らに必要な記載をさせることで,同人らが確実に本件金地金を事前に指示された者に渡すように仕向けるために作成されたものであることが強く推認される(実際,Eは,取調官から本件誓約書を示された際,本件密輸入関係者から指示された場所とは異なる場所に行ってしまったためか,同書を実際に見たことはないが,同書番号20の「数量」欄の「6」との記載は,自分が本件密輸入により日本に持ち込もうとした金塊の個数のほかに心当たりはなく,同書冒頭の「物件」とは金塊の意味以外に考えられない旨述べている。甲58)。イ また,前記のとおり,本件写真は,Eの容姿と氏名だけでなく,航空機の便の略称や本件金地金の個数を示すと思しき本件誓約書の「数量」欄の記載の数字を併せて明らかにするものであることからすると,Eを本件密輸入の実行犯であると把握する者が,Eの容姿とその所持に係る本件金地金の個数を確認できるようにするために作成されたものであることが強く推認される。ウ そして,本件誓約書及び本件写真は,その内容に照らし,Eが本件密輸入の実行行為に至るまでにEと接触した者又はこのような者からEに関する情報を提供された者が作成したことが推認されるところ,上記の本件誓約書及び本件写真の作成目的に加え,本件密輸入が犯罪行為であることにも照らすと,これらの画像データが本件密輸入と全く無関係の者に提供されることは考え難いといえる。このことは,Eの氏名,性別,携帯電話番号の一部という個人識別情報に加え,本件航空便の略称やその出発時刻という本件密輸入と関係する情報が記載されている本件一覧表についても,同様である。そうすると,これらの画像データを被告人Bのスマートフォンに送信した者及びこれを受信した被告人Bは,本件密輸入に関係する者であり,被告人Bは,本件密輸入について氏名不詳の共犯者らと意思を通じ合っていたことが推認される。4 被告人D及び同Aと本件密輸入との結び付きを示す画像データの存在及びその検討関係証拠(甲120,126,136)によれば,①被告人Dから差し押さえたスマートフォン内に,本件一覧表及び本件写真の各画像データ並びに本件誓約書類似の韓国語表記の一覧表(「氏名」欄と「数量」欄の間に「会社」欄が設けられ,「KE787(08:00)」等の記載があること及び日付や手書きの記載がないこと以外は,本件誓約書と概ね同内容である。)の画像データが保存されていたこと,同データは,いずれも日本時間の本件当日に,同被告人のスマートフォンに他者から送信されたものであること,②被告人Aから差し押さえたスマートフォン内にも,本件一覧表の画像データが保存されていたこと(なお,同画像データは粗く,一部判読困難な部分があるが,他の判読可能な部分や文書の体裁の同一性に照らすと,同データは,被告人Bのスマートフォン内に保存された本件一覧表と同一であると認められる。),同データは,本件当日に,同被告人のスマートフォンに他者から送信されたものであることが認められる。そうすると,被告人B画像データを被告人D及び被告人Aのスマートフォンに送信した者並びにこれらを受信した両被告人も,本件密輸入に関係する者であり,両被告人も,本件密輸入について氏名不詳の共犯者らと意思を通じ合っていたことが推認される。5 被告人Cと本件密輸入との結び付きを示すメッセージの存在及びその検討⑴ 関係証拠(甲67)によれば,被告人Cは,被告人Bに対し,本件当日午前11時17分頃,スマートフォンで「今,4次のティウェイ航空着陸したんだけど」などのメッセージを送信し,これに対し,被告人Bは,「引率者向かわせて」などと返信したことが認められる。Bのスマートフォン内に保存された本件一覧表には「TW291(4陣 6名 10:05)」との記載があるところ(甲122),この記載を併せ見れば,被告人Cの上記メッセージは,本件航空便が福岡空港に到着したことを被告人Bに伝えるものであることが強く推認人Bが,上記メッセージを受け,被告人Cに対し,本件航空便に搭乗した者を引率する者を向かわせるよう指示したものと見られる返信をしたことに照らすと,被告人Cもまた,本件密輸入に関係する者であり,本件密輸入について被告人B及び氏名不詳の共犯者らと意思を通じ合っていたことが推認される。⑵ また,関係証拠(甲95)によれば,被告人Cは,本件当日午後零時40分頃,Gこと氏名不詳者に対し,自己のスマートフォンのアプリケーションソフトを用いて,「今日の入管,税関の状況は最悪です」,「現時点,7チーム捕まって」とのメッセージを送信し,さらに,同日午後零時59分頃,「7名」,「総42個」とのメッセージを送信し,これに対し同人から「あEほか6名が,本件当日に金地金合計42個を税関職員に発見されており,この事実を併せ見れば,被告人Cの上記メッセージは,Eらが金地金の密輸入に失敗したことをGこと氏名不詳者に伝えるものであると強く推認され,このことは,前記56 本件密輸入の前日から当日にかけての被告人4名の行動及びその検討関係証拠(甲59)によれば,被告人4名は,本件密輸入の前日夜,福岡市博多区内のホテルに共に入ってチェックインし,本件当日朝は,共に同ホテルを出て,同じタクシーに乗って移動したことが認められるところ,前記のとおり被告人4名は,いずれも本件密輸入について氏名不詳の共犯者らと意思を通じ合っていたことが推認され,このような被告人4名が本件当日の前後に上記被告人Bと被告人Cとの間のメッセージの内容を併せると,被告人4名は,本件密輸入を共通の目的として,行動を共にしていたことが推認される。このことは,本件当日に先立ち,被告人4名のために,本件当日の夕方に福岡空港を出発予定の航空便の航空券が同時に予約されていたこと(甲61),被告人Bが,被告人Cに対し,本件当日午後零時12分頃,この予約内容を明らかにする画像データを同人のスマートフォンに送信したこと(甲67)を併せ見ると,尚更である。7 結論以上を総合すれば,被告人4名が,本件密輸入につき,E及びその他の共犯者らと意思を通じ合い(なお,被告人Cが,本件当日午後4時48分頃,「F代表」と登録した者に対し,スマートフォンで「回収終わりました?」,「回収終わった!」とのメッセージを送信したこと(甲71)も併せ見ると,被告人4名がFこと氏名不詳者とも本件密輸入につき意思を通じ合っていたことも認められる。),また,被告人4名相互間でも意思を通じ合った上で,本件密輸入につき,実行犯であるEを出迎え,これを監視・誘導するなどした上,本件金地金を回収するという役割等を担っていたと認められる。以上のとおりであり,各弁護人が種々主張するところを子細に見ても,共謀を含め判示第1のとおり認めることができ,事実を認定するには合理的疑いが存するという各弁護人の主張は採用できない。(法令の適用)(被告人4名共通)罰 条第1税関長の許可を受けず貨物を輸入しようとしたが遂げなった点刑法60条,関税法111条3項,1項1号,67条消費税を免れようとした点刑法60条,消費税法64条1項1号地方消費税を免れようとした点刑法60条,地方税法72条の109第1項第2各税関長の許可を受けず貨物を輸出しようとしたが遂げなった点(1及び2)いずれも刑法60条,関税法111条3項,1項1号,67条各税関長の許可を受けず貨物を輸出しようとしてその予備をした点(3及び4)いずれも刑法60条,関税法111条4項,1項1号,67条包括一罪(第2) 刑法10条(混合した包括一罪として刑及び犯情の最も重い2の貨物無許可輸出未遂罪の刑で処断)科刑上の一罪の処理(第1)刑法54条1項前段,10条(1罪として刑及び犯情の最も重い消費税法違反の罪の刑で処断)刑種の選択(第1及び第2)いずれも懲役刑を選択併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(重い第1の罪の刑に法定の加重)未決勾留日数の本刑算入 刑法21条刑の執行猶予 刑法25条1項没 収 刑法19条1項1号,2項本文(本件金地金は第1の犯罪行為を,別紙第1ないし第4記載の各現金は第2の1ないし4の各犯罪行為をそれぞれ組成した物)訴訟費用(不負担) 刑事訴訟法181条1項ただし書(没収の補足説明)検察官が刑法19条に基づき本件金地金及び本件現金の没収を求刑したのに対し,各弁護人は,本件現金は,①同条1項1号の犯罪組成物件に該当せず,②同条2項本文の「犯人以外の者に属しない物」にも該当しない,③仮に,同条1項1号,2項本文に該当するとしても,本件現金を没収するのは,裁量の範囲を逸脱して違法であり許されないなどと主張して,その没収について争うが,当裁判所は,本件現金を同条により没収することとしたので,その理由を必要な限度で補足して説明する(なお,判示第1の事実について無罪主張をした各弁護人は,本件金地金の没収について特段の主張をしてはいないが,事案の内容に鑑み,本件金地金を没収する理由のうち,②の点については併せて言及することとする。)。1 ①(犯罪組成物件該当性)について各弁護人は,判示第2の各貨物無許可輸出未遂ないし予備(以下これらを併せて「本件密輸出」という。)において実質的に処罰される行為は,申告して許可を受けなかったという義務違反行為であり,本件現金は同義務違反行為を組成する物ではなく,ひいては刑法19条1項1号の犯罪組成物件に該当しないと主張する。しかしながら,関税法111条1項1号の規定から,同条が処罰対象として定めているのは「許可を受けるべき貨物について当該許可を受けないで当該貨物を輸出」する行為であることは明らかであり(さらに,同条3項によりその未遂が,同条4項によりその予備が処罰される。),本件現金は本件密輸出の犯罪行為を組成するといえ,そのほか各弁護人が主張するところを検討しても,犯罪組成物件に該当しないとの主張は採用の限りではない。2 ②(「犯人以外の者に属しない物」の要件該当性)について⑴ 金地金等の密輸出入組織の存在についてア 4月13日の金地金の密輸入の状況被告人4名は,判示第1のとおり,E及び氏名不詳者らと共謀して,本件密輸入に及んだことが認められ,さらに,(事実認定の補足説明)3⑵アで検討したとおり,本件誓約書は,密輸入実行者の氏名及びその密輸入に係る金地金の個数を記載したものと推認されることから,4月13日には,Eを含む27名を実行犯とした金地金の密輸入が計画・実行され,同7のとおり,同日午後4時48分頃に被告人CがFこと氏名不詳者に「回収終わった!」とのメッセージを送信していること等に照らし,摘発されたEほか6名以外の者については,金地金合計122個の密輸入を遂げた(以下「本件密輸入等」という。)ものと推認される。イ 本件密輸入等後の状況関係証拠によれば,次の事実が認められる。被告人B及び同Dは,4月13日午後4時40分頃,福岡空港から同一航空便で香港国際空港に向けて出発した(甲61,78)。両被告人とも,100万円を超える現金の輸出について,特段申告はしていないところ(甲133),被告人Bのスマートフォンには,同日午後8時21分頃(香港時間),香港国際空港付近で,現金約5億3100万円を置いた状態で撮影した写真が保存されていた(甲115)。さらに,被告人Bのスマートフォンには,①同日午後9時58分頃(日本時間),男が合計約5億3100万円の一万円札の束を数えながら,キャリーバッグに詰め込む様子を撮影した動画(甲117)及び②同日午後10時6分頃(前同)に撮影された,「Mic 13/04/17 日本円で531,000,000円受け取り 2017年4月17日の月曜日に,116キログラムを渡す Michael」などと記載されたメモ(在香港のホテル名が印字)の写真(甲116)が保存されていた。なお,被告人Cは,同月18日,自己のスマートフォンのアプリケーションソフトを用いて,Gこと氏名不詳者らに対し,「香港に到着して。金を直接購入しに注意しながら移動」,「とりあえず,日本円を持ってきたら,香港ドルに換金して,金の購買可能」,「今,香港本島で174,000,000円両替中」,「両替所で円を両替して,金の会社に入金すれば,その後,金の会社に行って,金を受け取ればいい」などのメッセージを送信し,また,Gこと氏名不詳者からの「円から香港ドルに両替して,金塊をマイケルから購入する?それとも,他のところで購入する?」とのメッセージに対し,「マイケルの方で両替をして,金を買ってもらうというシステム」と返信等している(甲102)ところ,前記メモ及び前記メッセージの内容並びに名の同一性等に照らし,被告人Cのいう「マイケル」と前記「Michael」は同一人物と目される。ウ 検討以上によれば,被告人4名及びその共犯者らは,4月13日,適宜役割を分担して,大量の金地金を日本に密輸入(本件密輸入等)した直後,多額の現金を香港に密輸出し,同現金を元手に香港において金地金を買い付けようとしており,そこからすると,本件密輸入等に係る金地金の換価金そのものを同日密輸出したとまでいえるかは措くとしても,金地金の密輸入と現金の密輸出を循環させていることが推認される。このことは,他日ではあるものの,被告人Cのスマートフォンにインストールされたアプリケーションソフトで,①1月25日,Hこと氏名不詳者が「今日はお金の回収があると必ず伝えてください」,「GB(金塊)回収後円回収だけよろしくお願いします」というメッセージを「(引率者)」と付記された氏名不詳者に送ったり(甲82),②4月1日,被告人Cが,「日本から香港に現金を持って出国するとき,入管で現金に対する出所を聞かれることがあります。現金に対する出所を話せる程度には,準備してください」との内容の添付ファイル(「(香港チーム)」と付記された氏名不詳者が送信元のもの)をGこと氏名不詳者らに送ったり(甲91)していること等からも裏付けられる。そして,このように金地金の密輸入と現金の密輸出を循環させる動機としては,密輸入に係る金地金を換金する際,支払を免れた消費税等相当額を上乗せして,不当な利益を得,それを重ねることにあると強く推認できる。そして,被告人らのスマートフォンには,異なる日付が記載された本件一覧表類似の一覧表等が多数保存されている上,複数日にわたり,氏名不詳者らがアプリケーションソフトを通じて,客の搭乗,到着,入管通過状況,客からの「回収」状況等を報告し合う多数のやりとりがされていること(甲79ないし96,120,122,124ないし127)に照らせば,被告人らがそのすべてに関わったかは措くとしても,被告人らが関係する組織が,多数回にわたって金地金の密輸入を行ったことが推認され,ひいては,大規模に前記2⑴を行ったものと推認することができる。⑵ 本件現金についての分析アとは容易に推認できる(付言すると,本件密輸入についても同様である。)ところ,実際,①被告人らが,本件密輸出当日にも,自ら「1次総36個持ってラウンジで待機中」,「2次5名29個回収完了」などと金地金を回収したとみられるやりとりをした(甲109)後,本件密輸出に及んでいること,②被告人A及び同Bが本件密輸出の際に所持していた現金には,4月19日にa銀行本店営業部が作成・封印した一千万円束全9個のうちの5個が含まれるところ,同9個は同日から翌20日にかけて現金を引き出した福岡市博多区内の株式会社bc支店(金などの貴金属を取り扱う古物商)従業員にすべて交付され,そのうちの5個は,同日,金地金20キログラムの売却代金として男性に交付されているが(甲20,25,45,46),その個数に照らし,被告人A及び同Bが所持した前記一千万束5個と前記売却代金との同一性が肯定されることは,いずれも上記推認を強めるものといえる。イ 被告人らが意思を通じていた氏名不詳者らは,相当期間にわたって,組織的に金地金の密輸入及び現金の密輸出を大規模かつ多数回にわたって繰り返していたと推認できるところ,密輸入及び密輸出のいずれも国境を跨ぐ違法行為であって,摘発されれば大量の金地金や多額の現金を失う危険がある中,数億円にも及ぶ巨額の現金等を情を知らない者から募り,大量の金地金ないし多額の現金を密輸入及び密輸出により循環させるのは困難とみるべきで,そのような循環を繰り返していたという状況自体,その密輸に係る金地金及び現金が被告人ら又は共犯者らに属し処分可能なものであること,ないし,情を知った者から被告人ら又は共犯者らに託されたものであることを推認させ,そのことは前記循環の一環と推認される本件現金についても妥当するといえる(さらには本件金地金についても同様である。)。この点,各弁護人はいずれも,本件現金につき,被告人4名の属する組織外の第三者が適法に運用されると思って資金提供している可能性があるなどと主張するが,本件全証拠によってもそのような可能性を窺わせる事情は見出せず,前記のとおり,金地金の密輸入及び現金の密輸出の循環の規模の大きさ,相当期間にわたり反復されていることに照らし,各弁護人指摘の可能性は抽象的なものにとどまるというべきである。ウ 以上によれば,本件金地金及び本件現金のいずれも,「犯人以外の者に属しない物」と認められる。3 ③(本件現金の没収の相当性)について各弁護人は,㋐被告人らから本件現金を没収することは,関税法上の必要的没収規定(同法118条)の改正(昭和42年法律第11号。従前,輸入禁制品の密輸入犯,関税ほ脱犯,無許可輸出入犯及び贓物故買犯に係る貨物は,善意の第三者の所有物である場合を除き,すべて必要的没収・追徴とされていたのを,没収対象貨物を犯則貨物のうち輸入制限貨物等に限ることとし,社会・公共の秩序に有害なもの及び不正輸入が我が国の産業経済に非常に悪影響のあるもののみを必要的没収の対象とすると改めたもの)の趣旨に照らして許されない,㋑刑法19条の趣旨や,罪刑の均衡及び責任主義の要請から,犯罪行為と没収を含めた刑罰との均衡が図られなければならず,本件において,本件現金の没収を行えば,実質的に関税法が定める罰金額の上限を上回る刑罰を科すことになり,許されないなどと主張する。しかしながら,㋐については,同改正は,犯則貨物を常に関税法118条による必要的没収の対象とすると過酷な場合があること等を慮ってなされたものと解されるところ,同改正によっても,必要的没収の対象外とされた貨物について刑法19条の適用を排除する規定は設けられておらず,同改正の趣旨を踏まえても,もとより同条による任意的没収が妨げられるものではない。そして,㋑については,そもそも刑法19条1項1号が犯罪組成物件を没収の対象としたのは,同物件を没収することなく犯人に戻した場合,再度それを基に犯罪に及ぶことを防止する趣旨も含むと解されるところ,本件密輸出は,前記2で検討したとおり,組織による金地金の密輸入,換金,現金の密輸出,金地金の購入という循環の一部を構成し,大規模な消費税等のほ脱の準備行為としてなされた組織犯罪の側面を有しており,本件現金を没収しなければ,まさに同組織によって,再度これを基にした同種犯罪が敢行される可能性が高いといえ,没収の必要性は高度に認められる。そして,本件密輸出の規模の大きさ及び計画性の高さに基づく事案の重大性・悪質性に鑑みれば,これを没収することが犯罪行為との均衡を欠くとはいえない。加えて,近時,金地金の密輸入事案が増加し,本件同様,金地金の密輸入及び現金の密輸出を循環させる者も存在すると目される中,一般予防の観点からも本件現金を没収するべきである。この点,各弁護人は,現金はそもそも禁製品には該当せず,本件密輸出は,単に本件現金の輸出の申告をして許可を受けなかっただけの極めて軽い部類の事案という趣旨の主張をするが,国際的な資金洗浄やテロ資金供与対策として支払手段の不正な輸出入に係る取締りの強化がされる中,前記のとおり本件密輸出がまさに循環型の犯罪スキームの一環としてなされ,送金による不都合回避の意図も含んでいると目されることに照らせば,本件密輸出が極めて軽い部類の事案などといえないことは明らかである。そのほか各弁護人が種々主張するところを検討しても,本件現金の全部を没収することが相当性を欠くとはいえない。4 結論以上の次第で,当裁判所は,本件現金を没収することとする。(量刑の理由)本件は,被告人らの共犯者において約6キログラムの金地金を密輸入してこれに対する消費税及び地方消費税を免れようとしたが未遂に終わった事案及び被告人4名において合計7億3000万円余の現金を密輸出しようとしたが一部につき未遂に,残余につき予備にとどまった事案である。
事案の概要
平成29年12月13日
福岡地方裁判所
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[下級] [民事] 平成20(ワ)2900  485ViewsMoreinfo
B型肝炎損害賠償請求事件
平成20(ワ)2900
本件は,B型肝炎の患者である原告らが,乳幼児期(0ないし6歳時)に被告が実施した集団ツベルクリン反応検査及び集団予防接種(以下,併せて「集団予防接種等」という。)を受けた際,注射器(針又は筒)の連続使用によってB型肝炎ウイルス(hepatitis B virus。以下「HBV」ということもある。)に持続感染し,成人になって慢性肝炎を発症したとして,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,原告30においては1375万円(包括一律請求としての損害額1250万円及び弁護士費用125万円)の賠償及び同額に対する不法行為の後である平成20年8月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,原告403においては1300万円(同損害額1250万円及び弁護士費用50万円)の賠償及び同額に対する不法行為の後である平成24年3月30日から支払済みまで上記同様の遅延損害金の支払を求める事案である。
事案の概要
平成29年12月11日
福岡地方裁判所 第2民事部
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