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2017/06/30 11:00 更新

事件番号平成25(う)578
事件名海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律違反被告事件
裁判所東京高等裁判所 第1刑事部
裁判年月日平成25年12月18日
結果棄却
原審裁判所東京地方裁判所
原審事件番号平成23合(わ)77
事案の概要本件控訴の趣意は,弁護人竹内明美作成の控訴趣意書及び同補充書に,被告人乙の本件控訴の趣意は,弁護人藤原大吾作成の控訴趣意書,同補充書(1)及び同(2)に,これらに対する答弁は,検察官工藤恭裕作成の答弁書及び意見書に記載されたとおりであるから,これらを引用する。各論旨は,不法な公訴受理(弁護人竹内及び同藤原は,いずれも量刑不当を主張する点を除き,控訴趣意は不法な公訴受理(刑訴法378条2号)に収斂される旨釈明した。)及び量刑不当の主張である。1 不法な公訴受理の主張について各論旨は,本件公訴は,刑訴法338条又は339条1項の事由があり,判決又は決定により棄却されるべきであったのに,原判決は不法に公訴を受理して実体判決をしており,破棄されるべきであるというのである。そこで検討すると,原判決は,海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律(以下「海賊対処法」という。)6条ないし8条の憲法適合性は,これらが適用されない本件においては論じる余地がなく,また国際法及び国内法の両面において日本には本件につき管轄権が認められ,さらに被告人両名の逮捕手続等に公訴提起を無効ならしめる違法があるとはいえない旨判示し,公訴棄却を求める原審弁護人の主張をいずれも排斥した。こうした原判決の判断は,当裁判所としてもその理由を含めて是認することができる。以下,所論に鑑み,補足して説明する。(1) 海賊対処法の憲法適合性について所論は,海賊対処法の憲法適合性について,原審同様の主張をするものであるが,その前提として,以下のとおり主張し,本件においては原判決のように憲法判断を回避することはできないという。すなわち,日本国憲法が採用する付随的違憲審査制といえども,例外的に,①ある法律関係に適用される法規の属する法律全体が,立法権の管轄権外の事項について取り扱っているものといえる場合,②違憲主張の対象となる条項と適用条項とが不可分といえる場合には,適用条項がそれ自体として違憲といえない場合であっても,法律全体の違憲性を争うことができると解されるところ,本件においては,海賊対処法は憲法9条2項に違反する存在である自衛隊の公海派遣等という憲法の三大原則の一つである平和主義に反する事項について規定するものであるから,立法権の管轄権外の事項について規定するものといえるし,その規定ぶりや制定経緯からして「海賊行為の処罰」を定める規定と「海賊行為への対処」を定める規定は不可分であるといえる。仮に,このように言えなかったとしても,本件においては,被告人らを逮捕した海上保安官は,正に海賊対処行動中の海上自衛隊護衛艦に同乗していた者であったことからすれば,海賊対処行動の憲法適合性を判断しなければ,本件逮捕行為の憲法適合性・合法性の判断をすることができない。しかしながら,所論が依拠する見解の一般的な当否は置くとして,日本国憲法が採用する付随的違憲審査制の下では,当事者の違憲主張に対する裁判所の判断は,原則として当該事件の解決に必要な限度でなされるべきもので,抽象的にある法令の違憲性を主張したり,自己に適用されない規定の違憲を主張することなどは基本的に許されないものである。本件において被告人両名への適用が問題となる海賊行為の処罰規定(海賊対処法2条,3条)と海上自衛隊の海賊対処行動との関連についてみると,海賊行為に及んだ被告人らはアメリカ合衆国海軍兵士による制圧の結果として拘束され,その身柄が我が国の海上保安官に引き渡されて逮捕されたもので,その海上保安官が海上自衛隊護衛艦に同乗していたに過ぎない。また,本件に関して自衛官が海賊対処行動として武器を使用したことも全くない。すなわち,被告人両名の逮捕や処罰と海上自衛隊の海賊対処行動との関連は極めて希薄であって,弁護人が違憲主張の対象としている条項(同法6条ないし8条)と適用条項(同法2条,3条)とが所論がいうように不可分であると評価する余地もない。前述した付随的違憲審査制の運用に関する原則的立場を踏まえて,以上の諸点を併せ考えれば,所論がいうように,被告人両名に適用される刑事処罰規定と別個の規定ないし海賊対処法全体の憲法適合性を問題とする主張について判断する必要は認められないというべきである。以上と同旨に帰する原判決の判断は相当であり,所論(1)は採用できない。(2) 刑事裁判管轄権の有無についてまた所論は,本件については以下の理由により,日本の裁判所には国際法上の管轄権も国内法上の管轄権も認められないと主張する。すなわち,ア 国際法上の管轄権について,原判決は,海洋法に関する国際連合条約(以下「国連海洋法条約」という。)100条は「すべての国は,最大限に可能な範囲で,公海その他いずれの国の管轄権にも服さない場所における海賊行為の抑止に協力する。」と定めているところ,海賊行為が公海上における船舶の航行の安全を侵害する重大な犯罪行為であることや,海賊行為をめぐる国際社会の対応等の歴史的沿革を踏まえ,その規定の趣旨を勘案すると,海賊行為については,旗国主義の原則(公海において船舶は旗国の排他的管轄権に服するというもの)の例外として,いずれの国も管轄権を行使することができるという意味での普遍的管轄権が認められているものと解するのが相当であるとしたが,同条約105条は「(海賊船舶等の)拿捕を行った国の裁判所は,科すべき刑罰を決定することができる。」と明確に規定しているのであって,このような明確な規定を同条約100条のような抽象的な規定を拡張ないし類推解釈をして否定することはできない,イ 国内法上の管轄権について,原判決は,海賊対処法は,公海等における一定の行為を海賊行為として処罰することを規定し(同法2条ないし4条),国外での行為を取り込んだ形で犯罪類型を定めているところ,このような規定の仕方自体から,同法には国外犯を処罰する旨の「特別の規定」(刑法8条ただし書)があるものと解され,海賊行為については普遍的管轄権が認められることを併せ考えると,海賊対処法は,公海上で海賊行為を犯したすべての者に適用されるという意味で,その国外犯を処罰する趣旨に出たものとみることができ,海賊行為について国外犯処罰規定がないといえないことはもちろん,管轄を及ぼすべき具体的な行為が法文から明らかでないともいえないとしたが,海賊行為に認められる普遍的管轄権とは,「(海賊船舶等の)拿捕を行った国の裁判所は,科すべき刑罰を決定することができる」という意味での普遍的管轄権であるから,海賊対処法の処罰規定を適用することができる者も,日本の官憲が拿捕した者に限られるというべきである。しかしながら,(2)アの点については,海賊行為は古くから海上交通の一般的安全を侵害するものとして人類共通の敵と考えられ,普遍主義に基づいて,慣習国際法上もあらゆる国において管轄権を行使することができるとされており,実際,ソマリア海賊に関しても海賊被疑者を拿捕した国が第三国に引き渡し,第三国もこれを受け入れ,訴追,審理を行った例が多数見られるところである。こうした慣習国際法上の実情及び国家実行に加えて,国連海洋法条約100条が,上記のとおり海賊行為に関し,すべての国に対する協力義務を規定していることも併せ考慮すれば,国際法上,いずれの国も海賊行為について管轄権を行使することができると解される。所論は,同条約105条によれば本件につき国際法上管轄権を行使し得るのは被告人らを拿捕したアメリカ合衆国であり,日本はこれを認められないというのであるが,同条は,その規定振りが全体として権利方式である上(英文では「may decide upon the penalties to be imposed」とされており,「科すべき刑罰を決定することができる」と訳されている。),同条が定めるすべての国が有する海賊行為に対する管轄権は,国連海洋法条約によって初めて創設されたものではなく,古くから慣習国際法により認められてきたものであって,所論の主張は,このような沿革や同条の趣旨に反するものである。そして,実質的に見ても,拿捕国が海賊被疑者の身柄を拘束し証拠も保持しており,同国にその管轄権を肯定するのが適正かつ迅速な裁判遂行,ひいては海賊被疑者の人権保障にも資することからすれば,同条はいずれの国も海賊行為に対して管轄権を行使することができることを前提とした上で,拿捕国は利害関係国その他第三国に対して優先的に管轄権を行使することができることを規定したものと解するのが相当である。原判決は,同条約105条の解釈については特に触れていないが,その判文に徴すれば同条約に関し上記と同旨の理解に立つものであると考えられ,所論がいうように同条約100条のみに依拠したものとは認められない。所論(2)アは,原判決を正解しないものであって採用できない。また,所論(2)イは,既に見たとおり,普遍的管轄権の理解及び同条約105条の解釈を異にするものであって,その前提において失当である。(3) 被告人両名の引受け行為の違法性ないし有効性についてさらに所論は,ア 原判決は,被告人両名に対する逮捕手続等に公訴提起を無効ならしめるような違法があるとはいえず,意思疎通が二重通訳になるなどしたからといって公訴提起が違法になるとも解されないとしたが,本件においては日本以外にも管轄権を有する国が複数あり,そのいずれにおいても被告人両名の防御権はより手厚く保障されるはずであったにもかかわらず,敢えて日本で被告人両名を引き受け,刑事裁判手続を行った結果,その防御権が侵害されることとなったのであるから,本件公訴提起は違法・無効であるか,管轄権が認められない,イ 市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」という。)の規約人権委員会は,死刑が科されないという保証なしに死刑廃止国から死刑存置国へ犯罪者等の引渡しを行うことは同規約6条1項に反するとの見解(Judge v.Canada, no.829/1998, View adopted on 5 August 2002, para.10.3)を示しているところ,海賊行為に及んだ者の処罰について死刑の定めがないアメリカ合衆国が,死刑を含む刑罰を規定する日本に対して,死刑が科されないという保証なしに被告人両名を引き渡したことは,上記見解の趣旨からすれば同条項に反するものであり,かかる違法な本件引受け行為に引き続く公訴提起は違法・無効である旨主張する。しかしながら,(3)アの点については,原判決が適切に説示するとおり,本件の証拠関係に即して,適正手続の観点から被告人両名の引渡しと逮捕,その後の弁護人選任までの一連の手続について検討しても,被告人両名の防御権が実質的に侵害されたとは認められない。所論は,被告人両名の防御権保障の程度について,刑事手続のある一側面のみを恣意的に取り上げて日本と他国との間の優劣を論じる点で比較の方法自体が誤っているというべきであるが,仮に所論がいうとおり日本よりもその防御権保障が図られる国があったとしても,それはいずれの国において管轄権を行使するのがより適当かといった問題に過ぎず,それ故に本件公訴提起を違法・無効ならしめるものではなく,また管轄権を否定するものでもないというべきである。所論(3)アは採用できない。また,(3)イの点については,自由権規約は我が国が批准した条約であり,日本の国内法に受容されたものであるものの,同規約6条1項は,「すべての人間は,生命に対する固有の権利を有する。この権利は法律によって保護される。何人も恣意的にその生命を奪われない。」と定めているのであり,その文理に照らして,所論がいうような解釈は直接には導かれない。しかるに,所論は,規約人権委員会の同条項に関する上記見解に依拠して,本件引受け行為は違法でそれに引き続く被告人両名に対する公訴提起も違法・無効である旨主張するのであるが,規約人権委員会が個人通報制度を定める第1選択議定書に基づいて採択する見解は,同規約を解釈する任務を与えられた機関による決定として一定の法的意義を有するものの,当事国に対してさえ法的拘束力は有しないとされているのであり,同議定書を批准していない日本にとってその規範性は一層限定的なものである。なお所論が依拠する見解の内容につき念のため検討をしておくと,同見解は,その文理に照らせば,自由権規約が各国において死刑制度に関する様々な見方がある中で相互に譲歩して規定されるに至った経緯に鑑み,同規約6条1項の解釈に関して死刑存置国と死刑廃止国を別異に取り扱い,死刑廃止国にのみ,犯罪者等に死刑が科されることが合理的に予想される場合には死刑が科されないという保証なしに犯罪者等を引き渡してはならないとの義務を課したものと解されるから,死刑存置国である日本及びアメリカ合衆国がかかる義務を負うことにはならない。また,同見解は,特定の犯罪類型に関して死刑が規定されているか否かを問題にするものではない。そうすると,本件における被告人両名の引渡しは同規約に反するものではなく,それに引き続く本件公訴提起が違法・無効となる余地はない。所論(3)イも採用できない。所論が指摘するその余の事情を踏まえて検討しても,原判決の判断に誤りはない。不法な公訴受理の各論旨はいずれも理由がない。2 量刑不当の主張について各論旨は,被告人両名をそれぞれ懲役10年に処した原判決の量刑は重すぎて不当であるというのである。そこで検討すると,本件は,被告人両名が,自称A(以下「A」という。)及び原審分離前の相被告人自称B(以下「B」という。)と共謀の上,公海上を航行中のオイルタンカーに乗り込み,自動小銃を発射するなどして船長らを脅迫し,同人らをして同船の操縦をさせようと探し回るなどし,同人らを抵抗不能の状態に陥れて欲しいままにその運航を支配する海賊行為をしようとしたが,同船の救助に駆けつけたアメリカ合衆国海軍兵士に制圧されたため未遂に終わったという海賊対処法違反の事案である。
判示事項海洋法に関する国際連合条約(平成8年条約第6号)105条後段の趣旨
裁判要旨「(海賊船舶等の)拿捕を行った国の裁判所は,科すべき刑罰を決定することができる。」と定める海洋法に関する国際連合条約105条は,海賊行為については,国際法上,いずれの国も管轄権を有することを前提とした上で,拿捕国が利害関係国その他第三国に対して優先的に管轄権を行使することができることを規定したものである。

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