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2017/06/29 18:00 更新

事件番号平成28(う)303
事件名危険運転致死傷被告事件
裁判所大阪高等裁判所
裁判年月日平成28年12月13日
結果棄却
原審裁判所神戸地方裁判所         姫路支部
原審事件番号平成27(わ)672
事案の概要本件控訴の趣意は,主任弁護人古市敏彰作成の控訴趣意書,意見書及び控訴趣意補充書に記載されたとおりであり,これに対する検察官の答弁は,「控訴趣意は理由がない」というもののほか,検察官内田匡厚作成の意見書及び「意見書(補充)」と題する書面に記載されたとおりであるから,これらを引用する(なお,控訴趣意書第2の事実誤認の主張は,量刑の基礎となる事実についての誤認をいうものであるから,量刑不当の一部として取り扱う。)論旨は,法令適用の誤り及び量刑不当の主張である。第1 控訴趣意中,法令適用の誤りの主張について1 控訴趣意の要旨本件は,被告人が,原判示の普通乗用自動車(以下「被告人車両」という。)を運転して,A(以下「A」という。)が運転しB(以下「B」という。)及びC(以下「C」という。)が後部座席に同乗した原判示の普通自動二輪車(以下「被害車両」という。)を追走するに当たり,被害車両の通行を妨害する目的をもって,被害車両に著しく接近し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で運転して,Aに高速度で走行し,的確な運転操作をできなくさせるなどして,被害車両を道路左側の縁石に接触させ,被害者らを同車もろとも路上に転倒させるなどして,Aを死亡させ,B及びCに傷害を負わせたとして,平成25年法律第86号による改正前の刑法208条の2第2項前段の危険運転致死傷罪(以下「本件罪」という。)に問われている事案であるが,原判決は,本件罪にいう「人又は車の通行を妨害する目的」(以下「通行妨害目的」という。)は,人や車の通行を妨害することを積極的に意図していなくとも,自分の運転により人又は車の通行の妨害を来すことが確実であると認識して当該運転行為に及んだ場合にも肯定されると解した上,被告人には,上記のような認識があったと認められるとして,本件罪の成立を認めたが,通行妨害目的とは,人や車の通行を妨害することを積極的に意図することと解するのが相当であり,仮に,上記のような認識で足りるとしても,被告人にはそのような認識はなかったから,被告人に通行妨害目的があったとはいえず,本件罪は成立しないから,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある。2 当裁判所の判断原判決が,被告人に通行妨害目的があったとして本件罪の成立を認めたことは,結論において正当であり,原判決に所論のような法令適用の誤りがあるとはいえない。その理由は次のとおりである。(1) 本件公訴事実の要旨本件公訴事実の要旨は,「被告人は,平成24年9月▲日午前4時33分頃,兵庫県加古川市内で,被告人車両を運転し,A(当時17歳)が運転し,後部座席にB(当時15歳)及びかねてからの知人であるC(当時17歳)が乗車している被害車両を追走中,被害車両の通行の妨害をしようと企て,その頃から同日午前4時35分頃までの間,最高速度が時速40㎞に指定されている道路を約1900mにわたり,警音器を吹鳴させながら,重大な交通の危険を生じさせる速度である時速60㎞ないし95㎞の高速度で被告人車両を運転して被害車両を追い上げ,同車の後方約1.1mないし約30mまで著しく接近させるとともに,被害車両と並走しようとして同車の右後方約55㎝まで被告人車両左側部を著しく接近させるなどして,Aに,被告人車両と同等以上の高速度で走行させ,的確な運転操作等を出来なくさせて,道路左側の縁石に被害車両を衝突させ,同車もろとも被害者らを路上に転倒させるなどして,Aを死亡させ,Cに加療約2か月間を要する左腓骨骨折等の,Bに加療16日間を要する左手関節捻挫等の傷害を負わせた。」というものである。(2) 原審における審理の経過等ア 被告人は,被告人車両を運転して,被害車両を追走し,被害車両に著しく接近し,かつ,重大な危険を生じさせる速度で運転したことは間違いないが,Aらがヘルメットなしでバイクに3人乗りしているのを見て,危ないから止めようと考えて追走しただけで,通行妨害目的はなかったと主張した。イ これに対して,検察官は,被告人が実際にどういう意図で今回のような行為を行ったのかは不明であるが,車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図していなくとも,自分の運転により車の自由かつ安全な通行の妨害を来すことが確実であると認識して当該運転行為に及んだ場合には,通行妨害目的が肯定されると解するのが相当であるところ,被告人にはそのような認識があったから,本件罪が成立する旨主張した。被告人は,通行妨害目的が肯定されるためには,車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図していることが必要であり,仮に,検察官主張のような認識で足りるとしても,被告人にはそのような認識もなかった旨主張した。ウ 原判決は,本件罪にいう通行妨害目的は,運転の主たる目的が人又は車の自由かつ安全な通行の妨害を積極的に意図することになくとも,自分の運転によって上記のような通行の妨害を来すことが確実であることを認識して当該運転行為に及んだ場合にも肯定されると解した上,被告人にはそのような認識があったと認定して,本件罪の成立を認めた。(3) しかし,通行妨害目的に関する原判決の解釈は是認できない。すなわち,ア 本件罪の立法経過等に鑑みると,本件罪が「走行中の自動車の直前に進入し,その他通行中の人又は車に著しく接近し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し」たこと(以下「危険接近行為」という。)に加えて,主観的要素として,通行妨害目的を必要としたのは,従前,業務上過失致死傷罪等で処断されていた行為のうち,極めて危険かつ悪質で,過失犯の枠組みで処罰することが相当でないものについて,故意犯と構成することによって,その法定刑を大幅に引き上げる一方,後方からあおられるなどして自らに対する危険が生じ,これを避けるために,危険接近行為に及んだ場合など,悪質とまでいい難いものについては,本件罪の成立を認めないとすることにより,処罰範囲の適正化を図ったものと解される。そうすると,本件罪にいう通行妨害目的の解釈は,上記のような立法趣旨に沿うものである必要があると考えられるところ,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図して行う危険接近行為が極めて危険かつ悪質な運転行為であることはいうまでもないが,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行うのもまた,同様に危険かつ悪質な運転行為といって妨げないと考えられる。したがって,そのような場合もまた,通行妨害目的をもって危険接近行為をしたに当たると解するのが合目的的である。ところで,本件罪は目的犯とされているから,通行妨害目的の解釈も,目的犯における目的の解釈として合理的なものである必要があるところ,目的犯における目的の概念は多様であり,各種薬物犯罪における「営利の目的」のように積極的動因を必要とすると解されているものもあれば,爆発物取締罰則1条の「治安ヲ妨ゲ又ハ人ノ身体財産ヲ害セントスル目的」のように未必的認識で足りると解されているものもあり,さらに,背任罪における図利加害目的のように,本人の利益を図る目的がなかったことを裏から示すものという解釈が有力なものもある。これを本件罪についてみると,本件罪において通行妨害目的が必要とされたのは,外形的には同様の危険かつ悪質な行為でありながら,危険回避等のためやむなくされたものを除外するためなのであるから,目的犯の構造としては,背任罪における図利加害目的の場合に類似するところが多いように思われる。そうすると,本件罪にいう通行妨害目的は,目的犯の目的の解釈という観点からも,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図することのほか,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行う場合も含むと解することに,十分な理由があるものと考えられる。以上のとおり,本件罪にいう通行妨害目的は,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図して行う場合のほか,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行う場合をも含むと解するのが,立法趣旨に沿うものであり,かつ,目的犯の目的の解釈としても,理由のあるものと考えられるから,結局,本件罪の通行妨害目的は,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図して行う場合のほか,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行う場合も含むと解するのが相当である。イ 原判決は,本件罪にいう通行妨害目的は,運転の主たる目的が人や車の自由かつ安全な通行の妨害を積極的に意図することになくとも,自分の運転によって上記のような通行の妨害を来すことが確実であることを認識して当該運転行為に及んだ場合にも肯定されると解するとして,東京高等裁判所平成25年2月22日判決・高刑集66巻1号3頁を援用しているから,同判決同様,そのような認識で当該行為に及んだ場合,自己の運転行為の危険性に関する認識は通行の妨害を主たる目的とした場合と異なることがないことを,上記のような解釈を採る理由としているものと解されるが,認識の程度が同じであればなぜ目的があるといえるのか不明であるし,なにより,そのような解釈を採ると,自分の運転行為によって通行の妨害を来すことが確実であることを認識していれば,後方からあおられるなどして自らに対する危険が生じこれを避けるためやむなく危険接近行為に及んだ場合であっても本件罪が成立することになり,立法趣旨に沿わないものと考えられる。また,原判決がいう「確実であることを認識して」とは,結局のところ,確定的認識をいうものと解されるが,確定的認識と未必的認識は,認識という点では同一であり,ただその程度に違いがあるにとどまるに過ぎない上,その判定は,確定的認識について信用できる自白がある場合や,犯行の性質からこれを肯定できる場合はともかく,当時の状況等から認識自体を推認しなければならない場合には,甚だ微妙なものにならざるを得ないから,そのような認識の程度の違いによって犯罪の成否を区別することが相当とも思われない。検察官は,目的犯における「目的」の意義は多様であり,外国国章損壊(刑法92条)等のように,その目的が,構成要件的行為自体,または,その付随現象から,おのずと実現されるため,客観的構成要件該当事実を認識していれば,同時に,目的を有しているとも見られる犯罪類型にあっては,未必的認識で目的が充足されるとすると,故意とは別に目的を要求した意味がなくなり,そのため,このような場合の目的としては,目的の実現に対する未必的認識では足りず,目的が実現することを確実なものと認識することが必要であると解すべきであるとした上で,通行妨害目的は,まさにこのような場合であるから,相手方の自由かつ安全な通行を妨げることが確実であることを認識することが必要であり,このような認識がありながら,あえて危険接近行為に及ぶような場合には積極的な意図がある場合と同視し得るとして,通行妨害目的についての原判決の解釈に誤りはないというが,認識があることを前提としながら,その認識の程度によって犯罪の成否を区別するのが相当でないことは前記のとおりである。なお,検察官のように,「通行妨害目的」を肯定するためには通行妨害について確定的認識が必要と言い切ってしまうと,嫌がらせ目的で危険接近行為をしたが,通行妨害についての認識は未必的であったという場合,本件罪は成立しないことになりそうであるが,それが妥当であるかも疑問である。一方,弁護人は,本件罪の立法過程では,行為者の主観的事情として,人の死傷に対する認識認容を求めないものとしたために,処罰範囲の拡大が懸念され,暴行や傷害等に準じた重い刑罰に見合った「極めて危険かつ悪質なもの」に処罰範囲を限定し,かつ,その範囲を明確にするために目的犯とされ,この点について,立法担当者が,「妨害する目的で著しく接近し」とは,「相手方が自車との衝突を避けるために急な回避措置を余儀なくされる」ことを「積極的に意図して自車を相手方の直近に移動させること」をいう旨明らかにしているから,本件罪では,客観的行為態様に加えて,主観をも考慮に入れて行為の危険性を判断しなければならないのであり,通行妨害目的が認められるためには,確実な認識が必要であるとともに,積極的意図も必要である旨主張する。しかし,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図して行う危険接近行為が極めて危険かつ悪質な運転行為であることはいうまでもないが,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行うのもまた,同様に極めて危険かつ悪質な運転行為といって妨げないと考えられることは,前記のとおりである。ウ 以上の次第で,本件罪の通行妨害目的には,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図する場合のほか,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行う場合も含むと解するのが相当である。(4) そこで,さらに,上記の観点から,本件について,通行妨害目的が認められるか検討する。ア まず,関係証拠によれば,以下の事実が認められる。(ア) 本件犯行当時,被告人は,被告人車両を,助手席にY(以下「Y」という。)を乗せて運転しており,一方,Aは,乗車定員2名,総排気量390ccのオートバイである被害車両を,後部座席にB及びCを乗せて運転していた。(イ) 被告人は,平成24年9月▲日午前4時33分頃から同日午前4時35分頃までの間,指定最高速度時速40㎞で,追い越しのための右側部分はみ出し通行が禁止された片側一車線の県道を,約1.9㎞にわたり,クラクションを鳴らし,ヘッドライトをパッシングさせるなどしながら被告人車両を運転して被害車両を追走した。そして,その際,a 時速約60㎞で被害車両を追走しながら,同車後方約1.1mに接近したり,同車と併走しようとして同車右後方約55㎝に接近したり,b 被害車両が加速すると,同様に加速して,時速約100㎞で走行する被害車両の後方約30mを時速約95㎞で追走した上,同車後方約3.9mないし約2.5mまで接近したり,c 被害車両が転倒する直前には,時速約60㎞ないし65㎞で進行する同車後方を約5.8mに接近したりした。(ウ) そのため,Aは,運転を誤り,進行方向左側の歩道縁石に被害車両を接触させ,同車は,A,B及びCもろとも転倒した。(エ) なお,上記県道は,上記約1.9㎞の区間において,比較的緩やかなカーブや直線が続く道路であり,特に,事故現場付近は比較的長い直線の後に緩やかに進行方向右側に湾曲するカーブが始まっており,その幅員は約10.2mであった。イ 被告人の供述被告人は,原審公判廷で,「コンビニエンスストアの駐車場に被告人車両を停車していたところ,被害車両が前の道路を通過し,知り合いのCが同車両の一番後ろに乗っていることに気が付いた。Aはヘルメットをかぶっていたが,BやCはヘルメットをかぶっていなかった。それを見て危ないという気持ちと,一緒に話をしようという気持ちから,被告人車両を発進させた。Cがこちらに気が付けば止まるだろうと思っていた。追い掛ける際には被害車両との距離に注意していた。Yは継続的にCの名前を呼んで,止まれなどと言っていた。Cはちらちらとこちらを見ており,その様子からCであると確信をした。Yの声が届くように,被告人車両を被害車両の斜め後ろに近づけたこともある。被害車両を止める目的で,被害車両の追走を続けた。」などと供述し,当審公判廷でも,同旨の供述をしている。ウ 前記アで認定した事実によれば,被害車両は,被害者3名が乗車し,それ自体通常より不安定な状態にあり,これに外部から緊張を強いるような状況が加わるなどすると,運転操作を誤る危険が多分にあったというべきところ,被告人の被害車両に対する追走の態様は,クラクションを鳴らすなどしながら指定最高速度を超える高速度で追走し,その間,被害車両の後方約1.1mや同車右後方約55㎝に接近したり,被害車両が被告人車両を振り切るため時速約100㎞に加速し,車間が約30mにまで開くと,被告人車両を時速約95㎞に加速するなどして,同車後方約3.9mないし約2.5mにまで再接近した上,被害車両が転倒する直前には,同車後方約5.8mに迫っていたというもので,Aに被告人車両との衝突等を回避するため,無理な運転を強いる可能性が相当に高かったものというべきである。そして,被告人は,当時,被告人車両を運転して,上記の状況を体験認識していたのだから,被害車両が被告人車両の運転行為により,自由かつ安全な運転を妨げられる危険の高いことを認識していたものと推認できる。被告人自身,原審公判廷で,同旨の供述をしている。そこで,さらに,被告人が,被害車両の自由かつ安全な通行を妨げる積極的意図を有していたかについて検討すると,被告人のこの点に関する供述は前記のとおりであり,要するに,被告人は,Aらに,被告人らに気が付かせ,被害車両を止めようとしたに過ぎずに,上記のような積極的意図はなかったというものである。そして,実際,被告人は,コンビニエンスストアの前の道路を通過した被害車両を見て,本件追走を開始したに過ぎず,その際,あるいは,それ以前に,被告人が被害者らに対して悪意や害意等を抱くような事情があったことをうかがわせる証拠はなく,また,本件運転行為は約2分間の間に行われたもので,長時間にわたって被害車両を追い掛け回したわけではなく,その間の被告人の運転行為も,上記のとおり甚だ危険なものではあるが,被告人が供述する意図と矛盾するものとまではいえない。こうした事情に照らすと,被告人の上記供述の信用性を否定することはできず,被告人が被害車両の通行を妨害する積極的意図を有していたと認めることは困難である。しかし,被告人の意図が上記のようなものであったとしても,被害者らはバイクに3人乗りし,そのうち2人はヘルメットを被っていなかったとはいえ,被害車両は普通に走行していて,直ちに転倒が危惧されるという状況にはなかったのだから,被告人が本件のような危険な追跡行為をして被害車両を止めようとすることが正当化されるような事情はなかったことが明らかである。そして,被告人は,Aの運転行為を見て,その危険性の程度,すなわち,その運転行為が緊急の手段を講じても直ちに中止させなければならないほど危険なものでないことは容易に理解できたはずだから,上記の事情は十分認識していたものと推認できる。被告人は,当審公判廷で,警察に通報する等の他の適切な手段を思いつかなかったと供述しているが,被害車両の危険性に関する被告人の理解が上記のようなものである以上,そのことは,上記推認を左右するものではない。以上によれば,被告人は,被害車両の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図していたとは認められないけれども,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,被害車両の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて危険接近行為を行ったものと認められるから,本件罪にいう通行妨害目的があったというべきである。(5) 結語以上の次第で,被告人に通行妨害目的が認められるとして本件罪が成立するとした原判決は結論において正当であり,原判決に,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるとはいえない。論旨は理由がない。第2 控訴趣意中,量刑不当の主張について1 控訴趣意の要旨被告人を懲役3年6月に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であり,刑期を減じた上,刑の執行を猶予するのが相当である。2 当裁判所の判断(1) 本件は,被告人が,普通乗用車を運転し,Aが運転し,B及びCが後部座席に乗車したオートバイ(被害車両)の通行を妨害する目的で,約1.9㎞にわたって追走し,その間,指定最高速度40㎞毎時を超える時速約60㎞ないし90㎞で追い上げ,あるいは,右後方約55㎝や後方約1.1mないし約5.8mにまで接近するなど,被害車両に著しく接近し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で運転して,Aに被告人車両と同等以上の高速度で走行させ,的確な運転操作等をできなくさせて,被害車両を道路縁石に接触させ,Aらもろとも同車を転倒させるなどして,Aに上行大動脈起始部断裂及び左右心耳破裂の傷害を負わせてその場で死亡させるとともに,Cに加療約2か月間を要する左腓骨骨折,左前腕挫創,左下腿挫創,左膝打撲,左膝挫創の傷害を,Bに加療16日間を要する左手関節捻挫,左肘関節打撲・表皮欠損創の傷害を負わせたという事案である。
判示事項「人又は車の通行を妨害する目的」(平成25年法律第86号による改正前の刑法208条の2第2項前段)があるとされる場合
裁判要旨「人又は車の通行を妨害する目的」には,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図する場合のほか,危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに,人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら,あえて走行中の自動車の直前に進入し,その他通行中の人又は車に著しく接近し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する場合も含まれる。

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