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2019/06/04 18:00 更新

事件番号平成29(う)1117
事件名医師法違反被告事件
裁判所大阪高等裁判所 第5刑事部
裁判年月日平成30年11月14日
結果破棄自判
原審裁判所大阪地方裁判所
原審事件番号平成27(わ)4360
事案の概要本件控訴の趣意は,弁護人亀石倫子(主任),同三上岳,同川上博之,同久保田共偉,同白井淳平及び同城水信成共同作成の控訴趣意書及び各控訴趣意補充書に各記載のとおりであり,これに対する答弁は,検察官海津祐司作成の答弁書に記載のとおりであるから,これらを引用する。論旨は,被告人の所為が医師法31条1項1号,17条に該当するとして,被告人を罰金15万円に処した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討する。第1 本件公訴事実及び原判決の判断1 本件公訴事実の要旨本件起訴に係る公訴事実の要旨は,「被告人は,医師でないのに,業として,別表記載のとおり,平成26年7月6日頃から平成27年3月8日頃までの間,大阪府内の「B(店名)」において,4回にわたり,Cほか2名に対し,針を取り付けた施術用具を用いて前記Cらの左上腕部等の皮膚に色素を注入する医行為を行い,もって医業をなしたものである。」(別表略)というものであり,適用すべき罰条として,医師法31条1項1号,17条が掲げられている。2 原判決の判断の概要原判決は,本件の争点を,①針を取り付けた施術用具を用いて人の皮膚に色素を注入する行為(以下「本件行為」という。)が医師法17条の「医業」の内容となる医行為に当たるか否か,②医師法17条が憲法に違反するか否か,③本件行為に実質的違法性があるか否か,であるとして,後記のとおり,①については,本件行為は医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為に該当する,②医師法17条は憲法31条に違反するものではなく,また,本件行為に医師法17条を適用することは憲法22条1項,21条1項,13条のいずれにも違反しない,③本件行為には実質的違法性が認められるとの判断を示し,本件公訴事実どおりに罪となるべき事実を認定した上,本件行為に医師法31条1項1号,17条を適用して被告人を罰金15万円に処したものである。(1) 本件行為の医行為該当性に関する原判決の判断要旨ア 原判決は,「医行為」の意義について,医師法17条は,医師の資格のない者が業として医行為を行うこと(医業)を禁止しているところ,これは,無資格者に医業を自由に行わせると保健衛生上の危害を生ずるおそれがあることから,これを禁止し,医学的な知識及び技能を習得して医師免許を得た者に医業を独占させることを通じて,国民の保健衛生上の危害を防止することを目的とした規定であるとし,同条の「医業」の内容である医行為とは,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為をいうと解すべきである,と説示する。イ そして,原判決は,医師法17条及び同法1条の趣旨や法体系から,「医行為」とは,①医療及び保健指導に属する行為の中で(医療関連性),②医師が行うのでなければ保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為をいうと解すべきであるという弁護人の主張に対し,その主張によれば,医療及び保健指導に属する行為ではないが,医師が行うのでなければ保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為(美容整形外科手術等)を医師以外の者が行うことが可能となり,このような解釈が医師法17条の趣旨に適うものとは考えられないし,弁護人の主張は,法体系についての独自の理解を前提とするものであるとして,弁護人の主張を排斥している。また,「医行為」に関する最高裁の判例(最高裁昭和30年5月24日第3小法廷判決(刑集9巻7号1093頁),同昭和48年9月27日第1小法廷決定(刑集27巻8号1403頁),同平成9年9月30日第1小法廷決定(刑集51巻8号671頁))について,弁護人が,これらの判例によれば,「医行為」の要件として「疾病の治療,予防を目的」とすることが求められていると主張するのに対し,原判決は,上記各判例の事案は,いずれも被告人が疾病の治療ないし予防の目的で行った行為の医行為性が問題となったもので,医行為の要件として上記目的が必要か否かは争点となっておらず,上記各判例はこの点についての判断を示したものではないから,本件において,「医行為」の要件として「疾病の治療,予防の目的」が不要であると解しても,最高裁の判例に反しない旨説示している。ウ 次いで,原判決は,本件行為の医行為該当性について,被告人が行った施術方法は,タトゥーマシンと呼ばれる施術用具を用い,先端に色素を付けた針を連続的に多数回皮膚内の真皮部分まで突き刺すことで,色素を真皮内に注入し定着させるといういわゆる入れ墨を施すことであり,このような入れ墨は,必然的に皮膚表面の角層のバリア機能を損ない,真皮内の血管網を損傷して出血させるものであるため,細菌やウイルス等が侵入しやすくなり,また,被施術者が様々な皮膚障害等を引き起こす危険性を有しているとして,本件行為が保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為であることは明らかであると判断した上,入れ墨の施術に当たり,その危険性を十分に理解し,適切な判断や対応を行うためには,医学的知識及び技能が必要不可欠である,よって,本件行為は,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為であるから,「医行為」に当たるというべきであるとの判断を示している。そして,①入れ墨の施術によって障害が生じた場合に医師が治療を行えば足り,入れ墨の施術そのものを医師が行う必要はない,②被告人が使用していた色素の安全性に問題はなく,入れ墨の施術の際には施術用具や施術場所の衛生管理に努めていたから,本件行為によって保健衛生上の危害が生ずる危険性はなかった,という弁護人の主張に対し,原判決は,入れ墨の施術に伴う危険性や,施術者に求められる医学的知識及び技能の内容に照らせば,上記①の主張は採用できないし,医師法17条が防止しようとする保健衛生上の危害は抽象的危険で足りることから,弁護人が上記②で主張する事情は前記判断を左右しないとして,弁護人の主張を排斥している。(2) 憲法適合性及び実質的違法性に関する原判決の判断要旨ア 医師法17条により規制の対象となる医行為とは,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為に限られるという解釈は,同条の趣旨から合理的に導かれ,通常の判断能力を有する一般人にとっても判断可能であると考えられ,同条による処罰の範囲が曖昧不明確であるとはいえないから,医師法17条は憲法31条(罪刑法定主義)に違反しない。なお,医師法17条をこのように解釈して,成人に対する入れ墨の施術を処罰することは,体系的にみて他の法令と矛盾しない。イ 医師法17条は,憲法22条1項で保障される入れ墨の施術業を営もうとする者の職業選択の自由を制約するものであるが,医師法17条は国民の保健衛生上の危害を防止するという重要な公共の利益の保護を目的とする規定であり,入れ墨の施術は,医師の有する医学的知識及び技能をもって行わなければ保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為であるから,医師免許を得た者にのみこれを行わせることは,上記の重要な公共の利益を保護するために必要かつ合理的な措置というべきである。また,このような消極的・警察的目的を達成するためには,営業の内容及び態様に関する規制では十分ではなく,医師免許の取得を求めること以外のより緩やかな手段によっては,上記目的を十分に達成できないと認められる。したがって,本件行為に医師法17条を適用することは憲法22条1項に違反しない。ウ 入れ墨の危険性に鑑みれば,これが当然に憲法21条1項で保障された権利であるとは認められないが,被施術者の側からみれば,入れ墨の中には,被施術者が自己の身体に入れ墨を施すことを通じて,その思想・感情等を表現していると評価できるものもあり,その範囲では表現の自由として保障され得るのであり,その場合,医師法17条は,憲法21条1項で保障される被施術者の表現の自由を制約することになる。しかしながら,表現の自由といえども絶対無制約に保障されるものではなく,公共の福祉のための必要かつ合理的な制約に服する。そして,国民の保健衛生上の危害を防止するという目的は重要であり,その目的を達成するためには,医行為である入れ墨の施術をしようとする者に対し医師免許を求めることは,必要かつ合理的な規制である。したがって,本件行為に医師法17条を適用することは憲法21条1項に違反しない。エ 人が自己の身体に入れ墨を施すことは,憲法13条の保障する自由に含まれると考えられ,そのため,医師法17条は入れ墨の被施術者の上記自由を制約するものである。しかしながら,上記自由も絶対無制約に保障されるものではなく,公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を受けることはいうまでもなく,入れ墨の施術に医師免許を求めることは重要な立法目的達成のための必要かつ合理的な手段である。したがって,本件行為に医師法17条を適用することは憲法13条に違反しない。オ 入れ墨の施術によって保健衛生上の危害を生ずるおそれがあるのであって,施術者及び被施術者にも憲法上保障される権利があるとしても,それが保健衛生上の危害の防止に優越する利益であるとまでは認められない。我が国では,長年にわたり,入れ墨の施術が医師免許を有しない者によって行われてきたが,医師法違反を理由に摘発された事例が多くない,という事情があるにしても,本件行為が,実質的違法性を阻却するほどの社会的な正当性を有しているとは評価できない。したがって,本件行為には実質的違法性が認められる。以上のとおり,原判決は,憲法違反ないし憲法適合性の欠如,さらには本件行為には実質的違法性がない旨をいう弁護人の主張をいずれも排斥している。第2 本件控訴の趣意及び主張の概要本件控訴趣意の要旨は,原判決が,医師法17条の医業の内容である「医行為」を「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為をいう」と解釈し,本件行為,すなわちタトゥー施術行為に本条を適用して,被告人を有罪とした原判決の法解釈ないし判断は,刑事裁判の原則である罪刑法定主義に反し,また,憲法が保障する被告人の権利を侵害するものであって,このような解釈に基づく法の適用は許されないのであるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。以下,その主張の概要を示すこととする。1 「医行為」の意義に関する主張の概要(1) 「医行為」の意義について医師法は,医師の資格,業務等を規制する法律であり,同法は,「医療及び保健指導」を医師の任務として定め(同法1条),免許制度等を通じて医療・保健指導を高いレベルに維持することによって,公衆衛生の向上・増進に寄与し,ひいては国民の健康な生活を確保することを目的としている。その目的は,医師に高度の適性,資質を要求するとともに,医師以外の者による「医療及び保健指導」を禁止することによって初めて達成されるものであり,そのために,医師法17条は,医師でない者の医業を禁止し,刑罰をもってこれを担保することとしている。医師法17条により禁止される無免許医業は,医師の責務である「医療及び保健指導」を侵す行為でなければならないため,まずは,①医療及び保健指導に属する行為であること(医療関連性)という要件が必要となる。もっとも,「医療及び保健指導」に属する行為であれば,直ちに「医行為」であるとすることはできない。医師法17条は,医師の職務の保護を通じて国民の健康を保護するためのものであり,この観点からは,保健衛生上の危険性のある行為をそれに応じた知識・技術がある者によって行わせることが重要であり,危険性に応じた考慮が求められることになる。その結果,医師のように広く深い医学上の知識・技術を習得した者が独占すべき行為というのは,相応の危険性を有する行為に限られることになる。そこで,「医行為」の要件として,②「医師が行うのでなければ保健衛生上の危害が生ずるおそれ」という要件が求められる。医師法及び関連する資格法規は,第一次的に医師に広い業務独占を認め,その上で個々の医療従事者に個別制限的に列挙された範囲での業務を医師の下で行うことを認めるという形をとっている。こうした立法政策からは,保健衛生上の危険性のある行為のうち,社会通念上,医療従事者が通常行う行為をいったんは広く医行為として包摂する必要があることになり,保健衛生上の抽象的な危険のある行為が広く医行為とされることになる。この観点からは医行為の範囲は広く捉えられることになるが,当然,社会通念上の医療関連性は外枠として存在しなければ罪刑法定主義に違反する。ここにいう「社会通念」の判断の際には,当該行為が行われてきた歴史的な経緯,関連法制度,医療従事者の養成課程で学修する内容に含まれるかどうかなどを考慮しなければならない。以上のとおり,医師法17条の「医行為」というためには,①社会通念上,医療関連性のある行為で,②医師が行うのでなければ保健衛生上の危害が生ずるおそれのある行為であることが必要である。(2) 「医行為」を巡る学説等医師法制定当時の立法者の意思としては,医業あるいは医行為とは,「疾病の診断,治療,投薬など」を行うこと,つまり,医療と関連するものであると考えていたことは明らかであり,また,学説においても,初期の通説によれば,(イ)広義の医行為とは,「人に対して医療の目的の下に行われるところの社会通念上この目的到達に資すると認められる行為をいう」と考えられており,(ロ)狭義の医行為とは,「広義の医行為中,医師の医学的知識と技術を用いてするのでなければ生理上危険を生ずるおそれがある行為をいう」と考えられており,医師法17条で「医師でなければ,医業をなしてはならない」という場合の医業は,この狭義の医行為を業とすることを意味すると解されていた。このように,「医療関連性」は当然の前提とされていたのである。その後,「医行為とは医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼすおそれのある行為である」とする立場が「現在の通説」とされるようになったが,旧来の通説と「現在の通説」の間に差異を見出すことはできず,学説上,医療関連性のない行為が医行為に当たるかは議論となっていないのであり,医療関連性(広義の医行為性)の脱落は意識的に行われたものではない。(3) 「医行為」に関する裁判例等大審院時代の初期の裁判例には「疾病の診察治療」の要素のみに言及するものがあるが,その後,医療関連性に加え,保健衛生上の危険性が一定程度に達していることを要するとする立場が一般化していた。そして,最高裁昭和30年5月24日第3小法廷判決(刑集9巻7号1093頁)は,患者に対し,聴診,触診,指圧等を行った被告人の行為について,「被告人の行為は,・・・医学上の知識と技能を有しない者がみだりにこれを行うときは生理上危険がある程度に達していることがうかがわれ,このような場合にはこれを医行為と認めるのを相当としなければならない」と判示したが,この事案では,疾病の治療の性質は問題なく認められるため争点とはならず,もっぱら危険性の多寡のみが問題となった事案であり,その原審の説示内容にも照らせば,①医療関連性,②保健衛生上の危険性が一定程度に達していること,の2つを医行為性の要件とする立場に立ち,事案に即して,争点となった保健衛生上の危険性の程度について言及した判例とみることができる。そして,その後の最高裁判例(昭和48年9月27日第1小法廷決定(刑集27巻8号1403頁),平成9年9月30日第1小法廷決定(刑集51巻8号671頁))の各事案は,いずれも医療関連性が肯定できる事案である。
判示事項1 医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為の意義
2 入れ墨(タトゥー)の施術と医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為
裁判要旨1 医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為とは,医療及び保健指導の目的の下に行われる行為で,その目的に副うと認められるものの中で,医学上の知識と技能を有しない者がみだりにこれを行うときは,保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為をいう。
2 入れ墨(タトゥー)の施術は,医療及び保健指導の目的の下に行われる行為で,その目的に副うと認められるものとはいえず,医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為には該当しない。

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