裁判所判例Watch

メニュー

カテゴリー

アーカイブ

詳細情報

判決情報

2019/10/11 18:00 更新

事件番号平成29(わ)822
事件名第三者供賄,贈賄
裁判所名古屋地方裁判所 刑事第4部
裁判年月日平成31年3月20日
事案の概要本件の争点は,⑴公訴事実記載の請託があったと認められるか否か,⑵D名義の普通預金口座に判示のとおり振込入金された現金合計94万9127円(以下,この振込入金を「本件振込入金」という。)が,同請託に係る被告人Aの職務行為の対価であり,かつ,被告人両名がその旨認識していたと認められるか否かである。第2 前提事実関係証拠によれば,次の事実が認められる。1 被告人Aの職務権限被告人Aは,特別地方公共団体である公立C病院組合設置の公立C病院(以下「C病院」という。)において,参事兼医局呼吸器・アレルギー疾患内科部長兼リハビリテーション科部長として,平成13年頃から,治験を統括する治験責任医師の立場にあり,自己が所管する治験について,治験業務委託契約を締結して治験コーディネーター(以下「CRC」という。)の派遣を受ける,治験補助等を業とする会社(以下「SMO」という。)の選定に関し,その実質的な職務上の権限を有していた。2 C病院における治験業務委託契約の状況等⑴ 丙社及び乙社に係る経緯等被告人Aは,C病院において,かねて,自己が所管する治験について,被告人Bが所属していた丙株式会社(以下「丙社」という。)に独占的に治験補助業務を委託していたが,同社の業務の一部が,被告人Bを代表取締役として平成25年2月に設立された乙株式会社(以下「乙社」という。)に委譲されたことに伴い,同年4月以降,被告人A所管の治験補助業務は,全て同社に委託されていた。⑵ 丁社に係る経緯等そうした中,被告人Bは,乙社の経営権を巡って丙社の代表取締役であるGから民事訴訟を提起され,敗訴が濃厚な情勢となったことから,知人のHが代表取締役を務めていた同業の株式会社丁(以下「丁社」という。)に乙社がC病院から受注していた被告人A所管の治験補助業務を引き継がせ,実質的に自身の保身を図ろうと画策し,平成26年9月頃,Hにその旨依頼して承諾を得た。そこで,被告人Bは,同年10月31日,Hと共にC病院を訪れて被告人Aらと面会し,その後,同年11月17日にC病院内で開催された治験審査委員会において,前記治験補助業務の引継ぎにつき報告がなされた。⑶ 甲社に係る経緯等しかし,被告人B及びHは,Hが当時多額の債務を抱え,丁社の株式を失うことも危惧される事態が生じたことから,従来の方針を変更し,新会社を設立して,乙社がC病院から受注していた被告人A所管の治験補助業務を,丁社ではなく,その新会社に引き継がせることとし,平成26年12月3日,被告人Bが実質的に経営し,Hが代表取締役となる株式会社甲(以下「甲社」という。)を設立した。そこで,被告人Bは,その設立直前の同月1日,C病院を訪れて被告人Aと面会し,また,設立後の同月8日にも,再びHと共にC病院を訪れて被告人Aと面会するなどした。そして,C病院が乙社に委託していた被告人A所管の治験補助業務は,平成27年1月1日付けで,全てその委託先が甲社に変更され,同日以降に発生した被告人A所管の治験補助業務についても,全て同社が受注する状況が続いた。なお,甲社の代表取締役は,同年2月20日,HからIに変更されたが,実質的にはその後も被告人Bが同社の経営を担っていた。3 本件振込入金に係る経緯等⑴ Dは,平成24年12月に被告人Aの息子であるJと婚姻し,平成29年6月に離婚した。その間,平成25年5月に乙社に入社したが,平成26年▲月▲日に長女を出産したことに伴い産前産後休暇を取得し,その後同年3月29日から平成27年1月28日までの間,育児休業を取得して月額13万8120円の育児休業給付金の支給を受けた。⑵ Dは,その後,復職する予定であったが,平成27年1月24日からJが勤務先の病院を休職したことに伴い,同病院の保育施設に長女を預けることができなくなり,復職が困難となったことから,同年2月上旬頃,甲社の経理事務等を担当していたKに対し,育児休業給付金の支給の延長につき相談した。⑶ Dは,Kの指示に従い,平成27年2月17日,名古屋市L区役所において,保育利用の申込みを行い,同月19日付けで保育所入所不承諾通知書がD(宛名はJ)の元に送付されたが,この申込みの際,育児休業給付金の支給の延長要件を満たす形式にするためには,保育所の利用希望期間の始期について,長女の誕生日である▲月▲日以前の日付を記載する必要があったところ,Dはこれを同年▲月▲日と記載していた。そして,Kを通じ,同年3月9日,M公共職業安定所に育児休業給付金の半年間の支給の延長申請書を提出したが,保育所の入所希望日が長女の誕生日より後の日付となっており延長事由に該当しないことから,同申請書は受理されずに返送された。⑷ そこで,Dは,被告人A方を訪れていた間の平成27年3月12日か同月13日頃,育児休業給付金の支給の延長が認められなかったことにつき被告人Aに相談した。⑸ その後,Dは,平成27年3月17日以降,正式に甲社に所属することとなり,同月25日を初回として,同社から,D名義の普通預金口座に,Dが従前受け取っていた育児休業給付金と同程度の金額である月額13万5630円の振込入金が開始され,同年9月25日までの合計7回にわたり,総額94万9127円の振込入金が行われた。もっとも,Dは,同年9月30日まで甲社に所属していた間,その稼働実態は皆無であった。第3 請託の有無請託を受けるとは,公務員がその職務に関する事項について依頼を受けてこれを承諾することをいうところ,本件において,検察官は,被告人Aが,①平成26年10月31日,②同年12月1日,③同月8日,④平成27年3月17日の4回にわたり,被告人Bから,乙社が治験協力者としてC病院から受注していた被告人A所管の治験補助業務につき,甲社等が乙社に代わり継続的に受注できるよう有利便宜な取り計らいを受けたい旨の依頼を受け,これを承諾した各請託に係る事実を主張し,弁護人らはこの事実を否認する。そこで,以下この点につき検討する。1 ①ないし③の請託について⑴ 事実経過ア ①の請託に係る事実経過Hは,要旨,平成26年10月31日,C病院2階の応接室において,被告人Bと共に被告人Aと面会した際,被告人Bが,Gとの民事訴訟に敗訴し,乙社の経営権をGにとられてしまう可能性が高い情勢にあることから,これまで同社が受注していた治験補助業務の受け皿として丁社を用意した旨説明し,これに対し,被告人Aが,Gが乙社の社長となってそのまま治験補助業務を行うことには難色を示し,同社の治験補助業務を丁社が引き継ぐことを了承するとともに,被告人Aの娘であるNや義理の娘のDを優遇することも含め,CRCの待遇が変わらないようにしてほしい旨述べたなどと供述する。このHの供述は,丁社を巡る諸般の客観的な経緯等に照らして自然かつ合理的であり,信用できる。弁護人らが弾劾するところを踏まえても全くその信用性は揺るがない。そうすると,被告人Aは,同日,被告人Bから,乙社がC病院から受注していた被告人A所管の治験補助業務を全て丁社に引き継がせてほしい旨の依頼を受け,これを承諾したものと認められる。イ ②及び③の請託に係る事実経過当時,乙社に所属し,C病院でCRCとして稼働していたOは,要旨,被告人Bの依頼を受け,平成26年12月1日午前11時に被告人Bが被告人Aと面会するアポイントを取り,同日午後1時7分頃,被告人Bから,「何度も変更した件は怒られましたが,了解頂きました。」とのショートメールを受信した旨供述しているところ,この供述は客観証拠とも整合しており,信用性に疑念はない。また,Hは,要旨,同月8日,C病院2階の応接室において,被告人Bと共に被告人Aと面会した際,被告人Bが,乙社がC病院から受注していた被告人A所管の治験補助業務を当初予定していた丁社で引き受けることができなくなったことを謝罪した上,代わりに甲社を準備したのでその治験補助業務を同社で引き受けたい旨説明し,これに対し,被告人Aが,担当者が替わらず,それぞれの社員の待遇等も変わらなければどの会社でも構わない,NやDのことも頼めれば特に問題はない旨述べたなどと供述する。このHの供述も,甲社の設立経緯や関係者の各供述等に照らして自然かつ合理的なものであり,信用できる。弁護人らが弾劾するところを踏まえても全くその信用性は揺るがない。そうすると,被告人Aは,同月1日及び同月8日の両日にわたり,被告人Bから,乙社がC病院から受注していた被告人A所管の治験補助業務を全て甲社(ただし同月1日の時点では同社の設立前)に引き継がせてほしい旨の依頼を受け,これを承諾したものと認められる。⑵ 評価以上のとおり,被告人Aは,平成26年10月31日,同年12月1日及び同月8日の3回にわたり,それぞれ,被告人Bから,乙社がC病院から受注していた被告人A所管の治験補助業務を全て丁社又は甲社に引き継がせてほしい旨の依頼を受け,これを承諾したことが明らかである。また,これら被告人Bの依頼の趣旨を合理的かつ常識的に解釈し,従前乙社が被告人A所管の治験補助業務を独占的に受注していた客観的な状況等にも照らせば,その依頼が,単なる業務の引継ぎだけにとどまらず,将来にわたって,その治験補助業務を丁社又は甲社で受注させてほしい旨の意味合いを含むものであり,被告人Aがそうした意味合いも含めてこれを承諾したと認められることも明らかである。このことは,被告人Aが,自己の所管する治験につき,そのSMOを選定する実質的な職務上の権限を有していたその職務権限にわたる事項に関し,被告人Bから,有利便宜な取り計らい,すなわち,C病院が乙社との間で締結していた被告人A所管の治験業務委託契約を全て丁社又は甲社に移管するよう手続をとること,更には,C病院において新たに発生する被告人A所管の全ての治験補助業務について,継続的に丁社又は甲社に委託するよう手続をとることを内容とする職務行為の依頼を受け,これを承諾したとの事実に他ならず,この事実には請託を受けたとの評価が妥当する。弁護人らは,SMOから派遣されるCRCの行う業務の性質上,これを円滑に効率よく行う上では,被告人Aが,自己の所管する治験補助業務を全て一社のSMOに委託することは合理的かつ当然の措置であり,被告人Bが前記各日付に被告人Aと面会し,被告人Aに対して行った前記各依頼の趣旨は儀礼的な挨拶や報告の趣旨を出るものではなかったなどと主張する。しかし,全国に約50社のSMOが存在する中で,乙社がC病院から受注していた被告人A所管の治験補助業務を全て丁社又は甲社に引き継がせ,その後も引き続き被告人A所管の治験補助業務を専ら同社に受注させることに,どれだけ業務遂行上の合理性があったとしても,前記のとおり,被告人Aが,自己の職務権限にわたる事項に関し,被告人Bから,一定の職務行為の依頼を受け,これを承諾したと認められることに変わりはない。そして,丁社又は甲社において乙社が受注していた被告人A所管の治験補助業務を引き継ぎ,将来にわたってこれを受注し続けるためには,被告人Aから,C病院内で所要の手続を踏むことなど,一定の積極的な尽力を受けることが必要不可欠であったのであるから,そうした職務行為の依頼について,これを単なる儀礼的な挨拶や報告の趣旨にとどまるなどとみる余地はない。そのほか,弁護人らは,第三者供賄罪にいう請託の意義に関する法的解釈を論じた上,本件における被告人Bの依頼等は請託には当たらないなどとして縷々主張するけれども,いずれも独自の見解に依拠するもので,採用の限りではない。2 ④の請託についてなお,Iのほか,当時甲社に所属してCRCとして稼働していたP,Qの3名は,要旨,平成27年3月17日,被告人B及び甲社に所属する他のCRC1名と共に,名古屋市内の料亭「R」において,同社の体制変更に係る挨拶等の趣旨で被告人Aと会食した際,被告人Aが,C病院のCRCが不足しているとか,同社のS病院担当のCRCがC病院担当のCRCに指示を出しているなどとして不満を述べ,時に厳しい口調で叱責するとともに,Dが自身の義理の娘であることが知れ渡ると困るなどと述べ,更には,同社の経営についても自分の意向次第で何とでもできるなどとの趣旨を発言し,これに対し,被告人Bが被告人Aをとりなしていたなどと供述しているところ,その内容は,前記3名の供述が相互に概ね符合しており,同社を巡る当時の諸般の経緯等に照らしても自然かつ合理的であり,信用できる。検察官は,この会食の主たる趣旨が甲社の体制変更の挨拶であったことから,同社の実質的経営者である被告人Bが,被告人Aに対し,C病院において新たに発生する被告人A所管の全ての治験補助業務について,同社の体制変更後も継続的に同社に発注するよう手続をとることを依頼したことが当然に推認されると主張する。しかし,前記3名が供述する前記一連の状況を前提としても,同日,「R」において,具体的に,被告人Aと被告人Bとの間でどのようなやり取りがなされたのかは不明であり,同日に会食の場が持たれた経緯等を考慮しても,このとき,被告人Bが,被告人Aに対し,検察官が主張するような依頼を差し迫って行わなければならない必然性があったとも認められない。そうすると,この点の検察官の主張は十分な立証に欠けるというほかはなく,同日における請託の事実は認められない。第4 賄賂性及びその認識の有無以上の検討により,①ないし③の請託に係る事実が認められることを前提に,以下,本件振込入金がその請託に係る被告人Aの職務行為の対価であり,かつ,被告人両名がその旨認識していたと認められるか否かにつき検討する。1 D及びKの各供述⑴ Dの供述Dは,本件振込入金が行われた経緯等について,要旨,平成27年3月12日か同月13日頃,育児休業給付金の支給の延長が認められなかったことにつき被告人Aに相談した際,被告人Aは,受給していた育児休業給付金の金額を尋ねた上で「聞いてみる。」などと答え,その相手は被告人Bだと思った,後日,被告人Aから,いずれ仕事に復帰することを前提に給料が支払われることになったなどとの趣旨の連絡を受けた,その後,同年6月6日,被告人Aに対し,Jと離婚して実家に戻りたい旨伝えたところ,被告人Aは,これまで給料を出すなどいろいろしてやったのに離婚するのは認めない,離婚するなら給料も切るなどと言い,立腹していたなどと供述する。このDの供述は,客観的な事実経過に照らして自然かつ合理的である上,一部についてはJの供述とも符合しており,信用できる。弁護人らは,特に被告人Aから「給料」という発言があったとする点について,捜査段階からその供述には変遷があり,偽証動機もあって信用できないなどと指摘するが,Dは,捜査段階においても,同年6月6日に被告人Aから「復帰しないなら,切るね。」などと言われた旨供述しており,これは給料を切ると言われた趣旨と理解し得るのであるから,必ずしもその供述に変遷があるとはいえない上,DがJとやり取りしていたメールの文面上にも「給料」という言葉が使われており,関係する者らにそうした認識が共有されていたことが窺われることからすれば,被告人Aからもそのような発言があったとみて不自然ではない。よって,弁護人らの指摘は当たらない。弁護人らがDの供述を弾劾してそのほか縷々指摘するところも何らその信用性を左右しない。⑵ Kの供述Kは,本件振込入金が行われた経緯等について,要旨,Dの育児休業給付金の支給の延長が認められないことが判明し,当初そのことを被告人Bに伝えた際,被告人Bには分かりましたと言われたのみで,何も指示を受けることはなかった,ところが,その後になって,被告人Bから,Dに給与を育児休業給付金と同じくらいの金額で出すようにとの指示を受け,その指示に従ってDの手取額が育児休業給付金と同程度になるように給与金額を算出し,平成27年3月18日から同月20日までの間に,賃金欄に月額16万1000円と記載した資格取得届をM公共職業安定所に提出した,その後,Dから同年9月末で退職したいとの連絡を受け,所要の手続をとり,本件振込入金が終了したなどと供述する。Kの供述には,弁護人らの指摘するとおり,少なからず曖昧な部分もないわけではないものの,少なくとも核心となる前記供述部分については明確である上,その内容も客観的な事実経過に照らして自然かつ合理的なものであり,信用できる。2 評価前記第2の3の事実に加え,D及びKの各供述から認められる一連の事実を総合すれば,被告人Bは,Dの育児休業給付金の支給の延長が認められなかったことにつき,直接又は間接に,被告人Aから問合せを受け,何らかの対応を求められていることを了知するや,直ちに,甲社で何ら稼働実態のないDに対し,給与名目で育児休業給付金と毎月ほぼ同額の金額を支払うことを決定し,これにより,本件振込入金が開始され,その後,DがJとの離婚の意思を被告人Aに告げて,Dが同社を退職したことに伴い,本件振込入金が終了したものと認められる。このことは,要するに,被告人Bが,被告人Aの指示を受け,或いはその意向を忖度し,本件振込入金を行ったことを意味しており,被告人Bがそのような対応を講じた理由については,その経緯自体に照らし,甲社が被告人A所管の治験補助業務を独占的に受注している状況にあったことを前提に,そうした被告人Aとの関係を維持しようとすることにあったと考えるのが自然である。そして,翻って,被告人Aは,そのような被告人Bとの関係性を踏まえ,被告人Bが自己の意向に従うであろうとの認識の下,Dの育児休業給付金の支給の延長が認められなかったことにつき,被告人Bに対し,直接又は間接に問い合わせ,Dの利益となる何らかの対応を求めたものと合理的に推認し得る。この点,弁護人らは,本件振込入金の趣旨は,被告人両名において,Dが育児休業給付金の支給の延長を認められなかったことにつき,Kら甲社側の手続上のミスに起因していたとの認識を有していたことから,Dに対する損害賠償ないし損失補償といった趣旨で行われたものと解される旨主張する。しかし,仮に専らそうした趣旨であったとすれば,被告人Bが,被告人Aからの問合せを受け,何らかの対応を求められるや,Kから事の詳細を聴取するなど,何ら事実関係を子細に調査することなく,直ちに本件振込入金を行うこととし,その旨Kに指示しているのは,何とも不可解というべきである。被告人Aの意向を知った後の被告人Bのかかる極めて迅速な対応は,やはり前記のとおり,被告人Aとの関係を維持したいとの意図がこのとき強く働いていたことを強く推認させるものである。加えて,被告人Aが,前記のとおり,平成26年10月31日,同年12月8日の各請託があった際,被告人Bに対して,NやDの安定的処遇を要求していたこと,平成27年3月17日に被告人Bらと会食した際,甲社におけるCRCの体制等にも言及して不満を述べたり叱責したりするなどしていたこと,更には,H及びIが,同社の代表交代の挨拶をするため,同年4月10日,C病院を訪れた際,被告人Aが,今後はNを中心とした組織体制でいく,S病院担当者が運営に指示を出してはならない,それらが聞けないのであれば業者を切り替えてもいい,ほかのSMOもあるなどと発言し(この同日の出来事を述べるH及びIの供述は具体的で特に不自然な点はなく,信用できる。),その後,実際,同社においては,名古屋部門と大阪部門を截然と区別する体制が構築され,Nが新たに創設された情報管理部門の責任者に就任していることなどとの事情をも併せ考慮すれば,被告人Aは,当時,同社内部の組織体制にわたる事項にまで事実上相当に強い影響力を行使していたことが明らかである。また,他方で,当時,甲社の売上げ全体の中でのC病院に対する売上げは,S病院に次いで第2位の割合を占める状況にあり,同社の経営という観点から,同社にとってC病院との関係を維持することは極めて重要な意味を有していた。こうした一連の事情も踏まえて考察すれば,被告人Bが本件振込入金を行った理由について,前記のとおり,甲社が被告人A所管の治験補助業務を独占的に受注している状況にあったことを前提に,そうした被告人Aとの関係を維持しようとすることにあったと考えられることは,より一層明らかというべきである。そうすると,本件振込入金が,前記のとおり認定した請託に係る被告人Aの職務行為と対価性を有し,賄賂に当たると認められることに合理的疑いを差し挟む余地はない。そして,本件振込入金を行った被告人B自身にその旨認識があったことは明らかであり,また,被告人Aも,本件振込入金が開始された経緯やこれに関連するDへの発言内容等に照らし,その旨の認識に欠けるところはなかったものと認められる。第5 結論以上の次第であるから,判示のとおり,被告人Aには第三者供賄罪,被告人Bには贈賄罪が成立し,いずれもその各罪責を免れない。【法令の適用】1 罰 条被告人Aの第1の行為につき 刑法197条の2被告人Bの第2の行為につき 刑法198条2 刑種の選択 被告人Bの第2の罪につき,懲役刑を選択3 刑の執行猶予 被告人両名につき,刑法25条1項4 訴訟費用の負担 被告人両名につき,刑事訴訟法181条1項本文,182条(連帯して負担させる)【量刑の理由】本件は,公立病院の治験責任医師であった被告人Aが,治験補助を業とする会社を実質的に経営していた被告人Bから,被告人A所管の治験補助業務を継続的に受注できるよう請託を受け,その対価として,被告人Bをして,自身の義理の娘に対する架空給与合計約94万円を支払わせたという,被告人Aによる第三者供賄,被告人Bによる贈賄の事案である。

裁判所のデータベース

判決書(全文)

前の画面にもどる

トラックバック

トラックバック URL

http://kanz.jp/hanrei/trackback/88863/

コメント

Facebook