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カテゴリー > 刑事事件裁判例集 (降順 ; 裁判年月日で整列)

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事件番号/事件名裁判年月日/裁判所判決書
[下級] [刑事] 平成30(わ)1284  up!
死体遺棄被告事件
平成30年12月26日
福岡地方裁判所
詳細/PDF
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[下級] [刑事] 平成30(わ)135  124ViewsMoreinfo
窃盗,住居侵入,強盗致傷被告事件
平成30(わ)135
本件犯行の悪質性等本件は,被告人3名が,他の共犯者らと共謀の上,民家への侵入強盗を企て,途中,逃走用車両に付け替えるため,駐車中の自動車2台からナンバープレート合計2枚を窃取した上,未明に民家に侵入し,家人のうち1名をバールで殴って傷害を負わせたが,財物の奪取には至らなかったという事案である。
事案の概要
平成30年12月21日
札幌地方裁判所
詳細/PDF
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[下級] [刑事] 平成30(わ)421  73Views  up!
逮捕監禁致死被告事件
平成30年12月20日
福岡地方裁判所 小倉支部
詳細/PDF
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[下級] [刑事] 平成30(わ)592  64Views  up!
殺人被告事件
平成30年12月19日
福岡地方裁判所
詳細/PDF
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[最高裁] [刑事] 平成28(あ)1808  303ViewsMoreinfo
詐欺,覚せい剤取締法違反被告事件
平成28(あ)1808
詐欺の被害者が送付した荷物を依頼を受けて名宛人になりすまして自宅で受け取るなどした者に詐欺罪の故意及び共謀があるとされた事例
判示事項
平成30年12月14日
最高裁判所第二小法廷
詳細/PDF
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[最高裁] [刑事] 平成29(あ)44  262ViewsMoreinfo
覚せい剤取締法違反,詐欺未遂,詐欺被告事件
平成29(あ)44
指示を受けてマンションの空室に赴き詐欺の被害者が送付した荷物を名宛人になりすまして受け取るなどした者に詐欺罪の故意及び共謀があるとされた事例
判示事項
平成30年12月11日
最高裁判所第三小法廷
詳細/PDF
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[最高裁] [刑事] 平成30(あ)582  238ViewsMoreinfo
不正競争防止法違反被告事件
平成30(あ)582
不正競争防止法(平成27年法律第54号による改正前のもの)21条1項3号にいう「不正の利益を得る目的」があるとされた事例
判示事項
平成30年12月3日
最高裁判所第二小法廷
詳細/PDF
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[下級] [刑事] 平成30(わ)198Moreinfo  up!
傷害被告事件
平成30(わ)198
頭部をハンマーで殴打し,全治約2週間の傷害を負わせた行為について,正当防衛の成立が認められ,無罪となった事案
判示事項の要旨
平成30年12月3日
札幌地方裁判所
詳細/PDF
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[下級] [刑事] 平成30(わ)38  151ViewsMoreinfo
窃盗被告事件
平成30(わ)38
本件犯行までの間に医療機関を受診して相談するなどはしなかった。被告人は,前記退院後,入院中と異なり一人でいることが多いことや,摂食障害のことなどを気軽に打ち明けることができる相手がいないことから,寂しさを感じることがあった。また,被告人は,依然として,前記婚約破棄(被告人は結婚詐欺と表現する。)について悩んでいた。⑹ 被告人は,本件犯行時,高額の預貯金等を保有し,両親と同居していた。⑺ 被害店舗は,被告人の実家から自動車で数分の距離にあり,午後9時頃になるとパン等の食料品が値引きになるので,被告人はその時間帯に来店して値引きになった商品を購入することがよくあり,本件犯行の前日(平成30年2月8日)にも,値引きになる商品を買うために母親を誘って訪れ,被告人が食べるための複数のパン等を購入した。2 本件犯行当日の被告人の行動等⑴ 被告人は,平成30年2月9日午後8時20分頃(以下,時刻は全て同日のものを指す。),借りていたDVDを返してくると家族に告げて自動車で外出し,レンタルDVD店でその返却を済ませた後,被害店舗に向かった。被告人は,午後8時43分30秒頃,かばん等を持たずに被害店舗に入り,お菓子コーナーへ向かい,被害品及びスナック菓子2袋を手に取って買い物かごに入れた。⑶ 被害店舗の私服警備員(以下単に「警備員」という。)は,午後8時44分頃,被告人が買い物かごの取っ手を両手で持ち,胸の前に持ってきて底が前に見えるくらい傾けているのを目撃し,違和感を覚えて見ていると,午後8時45分頃,調味料コーナー付近において,左手で持った買い物かごから被害品を右手で取ってジャンパーの隙間から中に入れ,ジャンパーの襟元を手で直すのを目撃した。被告人は,パンコーナーへ向かい,食パン4パック(そのうちの1つには半額の値引きシールが貼ってあり,2つは翌日が賞味期限で,もう1つの賞味期限は不明である。)を買い物かごへ入れたり(防犯カメラ映像によると,上記のうちのどれかは不明であるが,午後8時46分55秒頃に食パンを買い物かごに入れている。),パンコーナーと調味料コーナーを行き来したりした。なお,被告人が入店した出入口からパンコーナーへは,お菓子コーナー前を通っていくことができるが,調味料コーナーはその経路から被害店舗の奥の方(出入口と反対側)に大きく外れたところにある。警備員は,被告人について,歩くのも商品を手に取るのもゆっくりで,病的で生気が感じられないような異常な雰囲気であったと供述している(ただし,被告人のどの行動を指しているかは明らかでない。)。⑸ 被告人は,午後9時1分頃,警備員に声をかけられると,「買い物かごに戻すつもりでした」などと述べ,午後9時2分頃,サービスカウンターへ連行され,被害品が被告人のジャンパー内から,ズボンの内側に挟み込まれた状態で発見された。このとき,被告人が持っていた買い物かごには前記食パン4パック,前記スナック菓子2袋等が入っており,被告人は現金2万1000円余りやクレジットカードを所持していた。3 本件犯行に関する被告人の供述⑴ 被告人は,警察官取調べにおいて,「被害品をなぜ衣服内に入れてしまったのか分からない。そのとき,周りが見えなくなって視界が狭くなっていた感じだった。」「左手でジャンパーのチャックを下ろし,買い物かごに入っていたお菓子を左手で取ってジャンパーの中に入れ,落ちないようにズボンのおなか部分に入れて挟み込んだ。」旨供述した。被告人は,1回目の被告人質問(第2回公判期日)において,「買い物かごに入れた被害品をどのようにして衣服内に入れたかははっきりとは覚えていない。被害品等を買い物かごに入れた後,小麦粉が陳列されているコーナーに吸い込まれるようにして入ったのは覚えているが,その後は,目の前が雲がかかったように白くなって視界が狭くなった。パンコーナーで我に返り,衣服の内側に商品が入っていることに気付いた。」旨供述し,2回目の被告人質問(第4回公判期日)において,「小麦粉の売場に吸い込まれるようにして入った後のことは,雲がかかったように視界が狭くなってよく覚えていない。パンコーナーのところで半額になるパンを探しているときも,自分が自分でないような感じがしていた。」旨供述した。第3 E医師の意見1 意見の要旨E医師は,意見書及び証人尋問(以下,これらを併せて「E意見」という。)において,本件犯行時の被告人の精神障害及びこれが本件犯行に与えた影響について,要旨,以下のとおり述べている。⑴ 被告人は,本件犯行時,神経性やせ症(摂食障害。過食・排出型。),社交不安障害に罹患しており,境界知能(WAIS-Ⅲで全検査IQ72)であった。なお,脳MRIや脳血流シンチによっても特異な所見は認められず,気分の落ち込みは鬱病の診断基準を満たさない。被告人の神経性やせ症の重症度は,身体への危機のみで捉え,BMIを基準にするDSM-5によると,軽いが,胃酸で歯が溶けてしまうほど食べ吐きを繰り返し,骨がもろくなっていることなどを考慮すると,中等度程度と思われる。マラソン選手として過去に苛酷な体重制限をしたことは重症度に影響しない。被告人は,本件犯行時,上記神経性やせ症及び境界知能により,行動制御能力が著しく損なわれており,事理弁識能力も一部損なわれていた。神経性やせ症(過食・排出型)の患者が万引きを繰り返すことはよくあり,その機序に定説はないが,過食をし,体重を増やしたくないのでそれを吐き出すようになり,食べるものを得るために窃盗に及ぶようになってそれが繰り返されて嗜癖化し,止められなくなるというものと考えられ,窃盗症と類似の機制である。本件犯行は過食衝動を満たすために行われたものであり,神経性やせ症に罹患していなければ行われなかったのであるから,神経性やせ症と密接な関係があり,過食のための窃盗の欲求が高じてそれに抵抗できずに行われたものであるから,制御は難しかったと思われる。社交不安障害は本件犯行に直接影響を与えていない。⑶ 被告人が,①本件犯行を思い出せないことや,②被害品が衣服内に隠匿されていることに気付いた後,戻せば窃盗罪にならないと思っていたことは,万引きについての事理弁識能力が不十分であったことをうかがわせる事情である。①は,被告人の公判供述のとおり,視界にもやがかかったようになり,自分が自分と感じられなくなるという離人症の症状で,被告人は,ぼーっとして知らない間に行動してしまう,やりたくないことをやってしまうという解離の機制の中にあったと思われる。ただし,この症状は不安障害等によっても生じ得るものであって,解離性(同一性)障害の診断は付かないし,離人症は,自分が自分と感じられなくなって記憶がぼんやりするということを表すだけで,その間の行動のまとまりがなくなるというものではない。警備員が供述する,被告人が病的で生気が感じられないような異常な雰囲気であったことなどは,離人症によるものとも,窃盗にとらわれてぼんやりしている状態が高じたという窃盗の欲求の亢進によるものとも説明できる。本件犯行は,代金を支払うための現金等を所持しており,経済的に余裕があり,前件万引きについて報道されたことがあった被告人が,少額の商品を欲求が勝って盗んだものであるから,動機は了解不能である。本件犯行の態様は,商品をエコバッグ等の中にではなく,衣服内に隠匿するという稚拙なものであり,後に買い物かごに戻して精算しようとしており,一貫性・合目的性に欠ける面がある。2 E意見の信用性⑴ 被告人の精神状態が心神喪失又は心神耗弱に該当するかどうかは法律判断であって専ら裁判所に委ねられるべき問題である(最高裁昭和58年(あ)第753号同年9月13日第三小法廷決定・裁判集刑事232号95頁)が,責任能力判断の前提となる生物学的要素である精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度について,専門家たる精神医学者の意見が鑑定等として証拠となっている場合には,これを採用し得ない合理的な事情が認められるのでない限り,裁判所は,その意見を十分に尊重して認定すべきである(最高裁平成18年(あ)第876号同20年4月25日第二小法廷判決・刑集62巻5号1559頁)。ア E医師は,精神科医として豊富な知識,経験を有し,その資質や公平性に問題を抱かせる事情はなく,捜査関係資料や,被告人との約3時間の面接,心理検査,被告人の両親からの成育歴の聴取等を基礎資料として意見書を作成し,証言に先立ち,2回目の被告人質問を傍聴しており,その意見は,基本的に,専門的知見に基づき,精神医学の本分である精神医学的事項等について述べるものである(ただし,事理弁識能力・行動制御能力(の欠如又は減退)という心理学的要素は裁判所の評価に委ねられるべき法律判断であるので,E医師が「被告人は,本件犯行時,神経性やせ症及び境界知能により,行動制御能力が著しく損なわれており,事理弁識能力も一部損なわれていた。」と述べる )は,神経性やせ症等がそのような減損をもたらすほど本件犯行に大きな影響を与えたとする趣旨であると解する。)。イ E意見の,被告人の精神障害の有無・程度に関する部分(前記1⑴)のうち,被告人が本件犯行時神経性やせ症及び社交不安障害に罹患していたという点及び神経性やせ症の重症度が中等度程度であったという点は信用できる(なお,本件犯行時の被告人の体重は証拠上不明であり,E医師の上記意見は面接時のBMI(17.3)に基づいているが,体重が本件犯行時からそれほど大きく変化したことをうかがわせる事情はない。)。また,被告人には検査の結果器質的な疾患の所見がなかったという部分や,鬱病の診断基準を満たさないという点についても信用できる。なお,被告人が境界知能であったという点は,被告人の父親が,被告人の学業面での成績は中の上程度という認識で,知能面で問題があると感じたことはなかった旨証言していること,被告人は公判廷での受け答えもかなりきちんとしていることに照らすと,信用性に疑問があるが,E医師は,境界知能が本件犯行に与えた影響について明確に述べていないことに照らすと,この点は本件の結論に影響を及ぼさない。ウ そして,前記前提事実やE医師が指摘する事情に照らすと,被告人が本件犯行時神経性やせ症等により事理弁識能力及び行動制御能力(特に後者)が一定程度低下していたという部分も信用できる。エ しかし,E意見のうち,被告人が,神経性やせ症等により,行動制御能力が著しく損なわれていたとする部分については,以下のとおり,これを採用し得ない合理的な事情が認められる。⑶ア まず,以下のとおり,本件犯行時,被告人に正常(健常)な精神作用が相当程度働いていたことを強くうかがわせる事情が存在するところ,E意見は,これらの事情を十分考慮していない。イ 本件犯行及びその直前直後の行動をみると,被告人は,被害品を買い物かごの中に入れた後,パンコーナーへ向かう経路から外れた別の売場にわざわざ移動した上で,片手で持った買い物かごからもう一方の手である程度かさばる大きさの被害品を取り出してジャンパー内に隠匿し,その後襟元を直しており,また,被害品は発見時に被告人のジャンパーと身体の間に挟み込まれていたこと(前記第2の2⑸)に照らすと,被告人が被害品の落下を防ぐためにそのようにしたものと認められる。この一連の行動は,犯行が発覚することなく被害品を万引きするための,一貫していてまとまりのある合理的・合目的的なものと評価すべきであり(E医師は,被害品をエコバッグ等の中にではなく,衣服内に隠匿した点は稚拙であると述べこの指摘は的を射ないものである。),被告人が,当時,犯行が発覚することなく万引きをするという目的を達成するための合理的な行動をとることや,犯行の遂行に適切な状況になるまで犯行を思いとどまることができていたことをうかがわせる。次に,その前後の行動をみると,被告人は,被害店舗に入った後,速やかに被害品が陳列されているお菓子コーナーに向かっており,被害品を隠匿して襟元を直した後は,速やかにパンコーナーへ移動し,半額の値引きシールが貼られている食パンや,半額になる見込みであると認識していた,翌日が賞味期限の食パンを選んで買い物かごに入れている(具体的には,入店から被害品の隠匿まで2分前後,入店から食パンを買い物かごに入れ始めるまで最大で約3分25秒である 。)。そして,被告人の供述によっても,上記の本件犯行前後の行動についての記憶はおおむねしっかりしているし(前記第2の3),食パンは購入しようとして買い物かごに入れたものと認められることから,本件犯行のせいぜい2分後には,食パンを盗まないという判断をして窃盗の衝動を制御できたか,その衝動がおさまっていたものと認められる。このように,被告人は,本件犯行の前後それほど隔たりのない時点で,ほぼ正常な精神状態にあったことがうかがわれる。ウ このように,被告人の本件犯行及びその前後の行動からは,本件犯行時,正常な精神作用が相当程度働いていたことが強くうかがわれ,この点からは,事理弁識能力はもちろん,行動制御能力の著しい低下もなかったことが強くうかがわれるところ,これらの事情は意見書で言及されておらず,公判廷でも,行動制御能力が大きく障害されているような場合でも前記のような行動をとり得ることの説明ができていない。また,E医師は,被告人が本件犯行を思い出せないことについて,証人尋問において,被告人の公判供述を踏まえて,被告人は,本件犯行時,離人症という,視界にもやがかかったようになり,自分が自分と感じられなくなるという症状で,ぼーっとして知らない間に行動してしまう,やりたくないことをやってしまうという解離の機制の中にあったと思う旨述べている(前記)。そして,弁護人は,このE意見に基づいて,警備員が指摘する被告人の雰囲気の異常さなどと併せて考慮すると,本件犯行時被告人の意識が不清明であった可能性が排斥できないとか,被告人には,本件犯行時,E医師が述べるような機制の中で,やりたくもない万引きをしたものであるから,違法性の認識について実感を備えたものとして有していたことについては疑問があるなどと主張する。しかし,E医師によると,被告人には解離性(同一性)障害の診断はつかず(本件犯行について被告人の記憶が完全に欠落しているわけではないこと,被告人の供述によっても同様の体験をしたことは多くないことなどに照らして信用できる。),離人症は自分が自分と感じられなくなり,記憶がぼんやりするということを表しているだけであり,その間の行動のまとまりがなくなるというものではない( のであるから,解離の機制があったとしても,その影響はそれほど大きくなかったものと考えられる。また,本件犯行時にそのような解離の機制があったことには,以下のとおり,疑問がある。まず,自分が自分でないような感じがしたと被告人が述べているのは,パンコーナーで半額のパンを探している場面であって,本件犯行時にそのように感じたとは供述しておらず E医師はこの点を誤解している。また,本件犯行時,目の前に雲がかかったようであったとか,パンコーナーで半額のパンを探している際に自分が自分でないような感じがしたという被告人の公判供述は,その供述経過に照らすと,信用できない。すなわち,被告人は,捜査段階では,被害品を衣服内に入れてしまった理由は分からないとか,当時周りが見えなくなって視界が狭くなっていた感じだったとは供述しているものの,上記公判供述のような内容は述べておらず(前記第2の3⑴),この点は,第1回公判期日後に実施されたE医師との面接においても同様であり,上記公判供述のうち,自分が自分でないような感じがしたという内容は,1回目の被告人質問でも述べていない(前。E医師は,被告人との面接に約3時間を費やし,その際,本件犯行について詳しく聴取し,被告人の前記捜査段階供述から,解離を疑い,本件犯行時の精神状態や日常生活における解離をうかがわせる体験の有無等を確認したという事情があり,また,捜査段階供述の内容に照らせば,捜査段階でも,本件犯行時の精神状態等についてはかなり詳しく尋ねられているはずであることからすると,上記のような供述経過はかなり不自然であり,E医師が指摘する,治療を重ねていくうちに記憶が想起されることがあるという一般論では説明できないというべきである。そして,E医師は,意見書作成時には,被告人が解離をうかがわせるような体験がないと述べたため,本件犯行時に視野が狭くなったと述べている点は窃盗をすることに集中する視野の狭窄であると考えた旨証言し,警備員が指摘する本件犯行時の被告人の雰囲気の異常さ等も窃盗の欲求の亢進によるものとして説明できると証言していること(前記1⑶)に照らすと,被告人が述べる本件犯行時の精神状態は視野の狭窄でも説明できるといえる。以上によれば,この点は,本件犯行時被告人の意識にやや清明でない部分があった可能性があることを示すにとどまると解すべきである。⑸ さらに,E医師は,神経性やせ症等により行動制御能力が著しく損なわれていたと評価する前提となった具体的根拠を十分説明できていない。ア E医師は,証人尋問において,上記のように評価する前提となった具体的根拠の説明を求められた際,被告人は執行猶予中で,窃盗をしないようにしようと考えて生活していて,代金を支払うための現金等を所持していたのに,少額の商品を盗んでおり,窃盗が癖になっていたことであると述べており,本件犯行の動機が了解不能であること を重視しているものと解される。しかし,以下のような事情に照らすと,本件犯行には,神経性やせ症等の影響により行動制御能力が著しく低下していたのでなければ説明できないほどの動機の異常性があるとは認められない。被告人は,被害品は好きな商品であり食べ吐きに用いるために手に取った旨供述していることに照らすと,被害品を窃取の対象にしたことに不自然な点はない。被告人が,高額の預貯金等を保有していて代金を支払えるだけの現金等を所持し,前件万引きの執行猶予中で,その報道に苦しめられたのに,少額の商品を万引きしたことには容易に理解し難い面があるといえるものの,人は,精神障害の影響がなくても,様々な動機で,冷静であれば思いとどまるような割に合わない犯罪行為に及ぶことがあり,被告人が,節約したいとか,達成感等を得たいといった動機で万引きをしたとしても,それほど不自然とはいえない(被告人は,当時高額の預貯金等を保有していたものの,だまされるなどして多額の現金を失った経験がある(前記第2の1⑶)上,当時安定した収入が得られていたとは認められないし,父親によると,被告人は生活観念があって普段から節約をすることがあり,本件犯行の前日も含め,よく値引きが始まる時間帯に被害店舗に買い物に行っており,加えて,本件犯行は,パンを半額で購入する目的で被害店舗を訪れた際に実行されたものであって,実際に半額になる見込みの食パンを選んで買い物かごに入れている。また,被告人は,万引きをすると辛さや寂しさのようなマイナスの気持ちを忘れられると供述しているところ,本件犯行時,寂しさを感じたり,マスコミ報道に恐怖を感じたり,婚約破棄について悩むなどしていた(前記第2の1⑶⑸)。)。また,執行猶予中であっても,発覚しないと考えたり,発覚して刑務所に収容されるという現実感を持たなかったりして,再犯に及ぶことは珍しくなく,被告人も,万引きによる多数の前科前歴がありながら,前件万引きの判決宣告後も,一人で買い物に行くという万引きをしてしまう危険性の高い行動を複数回とっており,実際に万引きをしてしまった際にも,父親に相談して弁償するだけで,医師に相談するなどの対応をとっていないこと(前記に照らすと,再度万引きをすれば刑務所に収容されることになるという意識を十分持っていなかったことがうかがわれる。イ 他にE医師が指摘している点は,いずれも,神経性やせ症等により行動制御能力等が大きく障害されていたことをうかがわせるものではない。E医師は,被告人が,衣服内に隠匿している被害品を戻せば窃盗罪にならないと考えていたことをもって,万引きについての事理弁識能力が不十分であると述べている(前記1⑶の②)。しかし,被告人は,店外に持ち出さなければ窃盗罪は成立しないなどと考えて被害品を衣服内に隠匿したわけではなく,その行為の意味・性質等の認識に欠けるところはないから,この点は事理弁識能力の低下をうかがわせるものではない。被告人は,午後8時45分頃に被害品をジャンパーの中に入れて窃取した後,警備員に声を掛けられる午後9時1分頃までの約16分もの間,店衣服内に隠匿した被害品を買い物かごに戻そうとしていたことをもって,一貫性を欠くなどと主張し,この点について,E医師は,罪悪感を有している点で普通の窃盗とは異なるなどと証言している。被告人は声を掛けて来た警備員に対して即座に,被害品を買い物かごに戻すつもりだった旨述べていること(前記第2の2⑸)に照らすと,被告人にこの時点で被害品を戻したいという意思がなかったとはいえないが,万引きするために商品を隠匿したものの,罪悪感等により万引きするのをやめて商品を戻そうとすることは,特に不自然ではなく,精神障害の影響がない場合でもあり得るといえる。なお,被害品を隠匿した後,約16分もの間被害店舗内をうろついていた点は,被害品を元に戻そうとしたもののできなかったことだけが理由であれば,かなり不自然にも思えるが,被告人が被害店舗を訪れた目的は半額になるパンを購入するためであり,買い物かごに半額になると被告人が認識していた食パンを複数入れていたこと,被告人はその間パンコ被告人も,その間,半額の値引きシールを貼ってもらってパンを半額で買いたいという気持ちが少しはあったなどと供述していることなどに照らすと,被告人には,買い物かご内に入れていた食パンに午後9時頃に半額の値引きシールが貼られるのを待つという目的も少なからずあったと認められ,そうすると,上記の点はそれほど不自然とはいえない。⑹ このように,E意見のうち,被告人が,神経性やせ症等により行動制御能力に著しい程度の障害を受けていたとする部分については,そのように評価する前提となった具体的根拠を十分説明できていない上,証拠上認められる,正常な精神作用が相当程度働いていたことをうかがわせる事情を十分考慮していないという点で前提条件に問題があるから,その限度でこれを採用し得ない合理的な事情が認められる。そして,被告人の本件犯行時における事理弁識能力及び行動制御能力の低下の程度は,E医師の評価よりも小さかったと認められる。第4 結論以上を前提に,被告人の本件犯行時の責任能力について検討する。被告人の精神障害が神経性やせ症や社交不安障害にとどまること,単純な万引きという本件犯行の性質,本件犯行及びその前後の行動からは正常な精神作用が相当程度働いていたことが強くうかがわれ,それほど不自然・不合理な点が見当たらないことなどに照らすと,被告人の事理弁識能力は,わずかに低下していた疑いがあるにとどまり,窃盗行為を抑制する契機として機能するのに十分なものであったと認められる。そして,これらの事情に照らすと,この弁識に従って行動する能力である行動制御能力についても,神経性やせ症による衝動性の高まりや抑制機能の障害等により一定程度低下していたと認められるものの,その程度はそれほど大きくなかったものと認められ,必要的減軽(刑法39条2項)という効果を認めるべきといえるほど著しいものであった疑いはない。以上によれば,被告人は完全責任能力を有していたものと認められる。(量刑の理由)本件は,スーパーマーケットにおいて,お菓子3点を衣服内に隠して窃取したという万引き1件の事案である。
事案の概要
平成30年12月3日
前橋地方裁判所 太田支部
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[下級] [刑事] 平成29(わ)925  114ViewsMoreinfo
道路交通法違反,危険運転致死被告事件
平成29(わ)925
被告人が,自動車を酒気帯び運転し,その際,赤色信号を殊更に無視して横断歩道上を歩行中の被害者に自車を衝突させて死亡させた道路交通法違反,危険運転致死の事案について,赤色信号を「殊更に無視」したという点が争われたが,現場の信号が赤色表示になったタイミングや走行状況等を根拠に赤色信号を「殊更に無視」したと認定し,危険運転致死罪の成立を認めて懲役11年を言い渡した事例(裁判員裁判)
判示事項の要旨
平成30年11月27日
札幌地方裁判所
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[下級] [刑事] 平成29(う)771  207Views
傷害致死
平成30年11月21日
東京高等裁判所 第11刑事部
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[下級] [刑事] 平成25特(わ)302  84ViewsMoreinfo
法人税法違反被告事件
平成25特(わ)302
本件の争点は,要するに,①その収入を構成するとされる被告人所有の不動産合計31物件(証拠略。以下「本件不動産」という。)の賃貸事業の収益が申告法人に帰属すると認められるか,②認められるとして,本件対象期において,被告人が,売上の一部を除外するなどの指示を,申告法人の決算書作成及び確定申告書案作成に携わった丙に対して行ったと認められるかである。1 争点に関する検察官の主張⑴ 争点①について本件以前の本件不動産賃貸事業の形態や,申告法人を含む被告人の関係会社の法人税及び被告人の所得税の各申告状況等からすれば,申告法人は,被告人からリースを受けた本件不動産につき,その賃貸管理業務等をY株式会社(別表(添付省略)のYE,変更後の商号丁株式会社。以下これと同様に本判決において,別表「株式会社名」欄記載の各会社につき戊,YAないしYD及びYFと記載することがある。)に委託するなどした上で,各テナントにサブリースする事業を営んでいたのであって,同事業による収益は申告法人に帰属する。⑵ 争点②について丙の公判証言は,多数の物証に裏付けられているなど信用することのできるものであり,これらによれば,被告人が丙に対して売上の一部を除外するなどの不正な経理処理の指示を行ったことは明らかである。2 争点に関する弁護人の主張⑴ 争点①について申告法人は実体のない会社で本件不動産の賃貸事業には関与しておらず,同事業は全て被告人の個人事業であって,その収益は被告人個人に帰属する。このことは,申告法人には事務所や被告人以外の役員,従業員,同社名義の預貯金口座が存在せず,本件不動産の所有者は被告人であって,本件不動産に関して申告法人を当事者とする被告人とのマスターリース契約もテナントとの賃貸借契約もなく,テナントからの賃料はY株式会社又は戊株式会社名義の口座に入金されていたこと,本件不動産の賃貸,管理業務は,被告人の判断,指示により,実質的に被告人個人と評価されるべきY株式会社の名義で行われていたこと,申告法人名義で税務申告することを選択したのは,被告人にとってY株式会社も申告法人も実質的には被告人個人と同じであってどちらに賃料収入を帰属させるかは重要な問題ではなく,北九州市e区qr丁目所在の土地及び同区m町所在の土地(その登記簿上の所有名義は,YC又は被告人。以下「北九州物件」という。)の補償金の関係で申告法人が既に設立されており,申告法人に生じる見込みの赤字を経費として利用しようと考えたためにすぎないことなどから,認められる。⑵ 争点②について被告人は,税理士事務所に対し,申告法人に賃料収入が帰属することを前提にして経理処理に必要な書類を郵送していただけであって,同事務所に所属する丙に対して不正な経理処理の指示は一切していない。3 当裁判所は,①本件不動産の賃貸事業の収益は申告法人に帰属し,②本件対象期において,被告人が丙に対し,申告法人の売上の一部を除外するなど不正な経理処理の指示を行ったと認めた。そして,被告人は,申告法人の代表者として,これに基づいて作成された虚偽過少の法人税確定申告書を提出し,各法人税を不正に免れたものとして,判示各法人税法違反の罪が成立すると判断した。以下,その理由を説明する。第2 証拠上容易に認められる事実以下の各事実は,証拠により容易に認められる。1 被告人個人及び申告法人を含む被告人の関係会社の概要及び確定申告状況被告人個人のほか,被告人がその全株式を保有するとともに代表取締役を務める申告法人をはじめとする関係会社のそれぞれの概要及び確定申告状況は,別表のとおりである(証拠略)。被告人は,これらの関係会社及び申告法人の代表者であり,設立,解散,本店所在地を決しており,商号についても概ね被告人が決していた(証拠略)。2 被告人が本件不動産の所有権を取得した経緯,本件不動産の賃貸借への関与状況等被告人は,平成14年頃から平成16年頃にかけて,戊,己,YA,YB及びYCの債務を被告人個人の資産で代位弁済し,平成17年頃までに,当時これら関係会社が東京都中央区a,静岡県熱海市,北九州市及び福岡市s区といった各地に賃貸用として所有していた本件不動産を代物弁済により取得し,自ら所有するに至った(証拠略)。被告人は,本件対象期当時においても,本件不動産に係るテナント等への賃貸借契約を自ら決裁した上で,「Y株式会社」等の名義で締結させ,その賃料等は管理下にある銀行預金口座に振込入金させ,管理に係る経費等の支払も,被告人が逐一決裁した上で行われていた。そして,雇い入れた従業員にtと称するシステムを操作させて契約状況及び賃料等の請求・入金状況の管理等をさせていたが,これらの者には経理処理は行わせていなかった(証拠略)。なお,上記代物弁済の後においても,自然人たる被告人が自らその名義で本件不動産の賃貸借に係る取引をした証跡はない。本件対象期における本件不動産の賃貸借に係る収入の実際額は,申告法人に帰属したものとした場合,別紙1-1ないし3(各添付省略)の各修正損益計算書の売上高・差引修正金額欄に記載のとおりとなる(証拠略)。3 平成20年以前における関係会社及び被告人の決算処理・申告状況(証拠略)⑴ 平成17年1月から同年12月まで戊,己及びYAは,各平成17年9月期の法人税確定申告において,それぞれ約1億4876万円,約3億3341万円,約4億3018万円を売上として計上するとともに,経費として修繕費及び水道光熱費等を計上した。また,YBは,平成17年9月期の法人税確定申告において,売上を零円として計上するとともに,経費として給料手当等を計上した。YCは,平成17年12月期の法人税確定申告において,約5億0714万円を賃料収入として計上するとともに,経費として修繕費,水道光熱費及び給料手当等を計上した。他方,被告人は,平成17年分の所得税確定申告において,賃借人を「Y(株)」,賃貸不動産の所在地を北九州市とする不動産収入約5111万円を唯一の収入として申告し,本件不動産の賃料収入を被告人個人の所得として申告することはなかった(証拠略)。⑵ 平成18年1月から平成19年12月までYCは,平成18年12月期及び平成19年12月期の各法人税確定申告において,それぞれ約6億5564万円,約5億4746万円を受託報酬として計上した。その一方で,各期につき経費として,給料手当,修繕費及び水道光熱費等を計上するとともに,平成18年12月期において礼金として,平成19年12月期においては雑費として,それぞれ3600万円を計上した。他方,被告人は,平成18年分及び平成19年分の所得税確定申告において,いずれも「所得の生ずる場所又は給与などの支払者」を「Y株式会社」とする雑収入3600万円が収入の全てである旨を申告し,本件不動産の賃料収入を被告人個人の収入として申告することはなかった(証拠略。平成19年分については後に修正申告がなされているが雑収入の金額には変更はない。)。⑶ 平成20年1月から同年12月までYCは,平成20年4月期の法人税確定申告において,約8億0958万円を受託報酬として計上するとともに,修繕費,水道光熱費,保守管理費及び給料手当等を経費として計上した。YDは,平成20年12月期の法人税確定申告において,約15億6174万円を売上高として計上するとともに,経費として修繕費,水道光熱費及び給料手当等を計上した。なお,YCの平成20年4月期及びYDの平成20年12月期の各法人税確定申告においては,被告人に対する経費として計上した勘定科目は見当たらず,被告人は平成20年分の所得税確定申告をしなかった。4 本件対象期における申告法人,関係会社及び被告人の決算処理・申告状況⑴ 申告法人について申告法人は,本件対象期の各法人税確定申告において,それぞれ本件不動産の賃料等約6億0854万円,約5億7053万円,約5億7939万円を計上するとともに,経費として修繕費及び水道光熱費等を計上したが,被告人に対する経費として計上した勘定科目は見当たらない(証拠略)。被告人は,本件不動産の賃料収入を被告人個人でなく申告法人で申告する旨を自ら決め,申告法人での申告を続けた(証拠略)。なお,前記2のような本件不動産の賃貸管理業務について,本件対象期の当初はYEの従業員が行っていたが,平成23年3月にYEの従業員が全員退職して以降は,被告人の知人である庚らが行っていた。そして,申告法人は,平成21年12月期においては,事務費として月額130万円,年間合計1560万円を,平成22年12月期においては管理費として月額105万円,年間合計1260万円をそれぞれ計上する一方,給料手当等の人件費は計上しなかったが,平成23年12月期においては,運営管理費として平成23年3月頃までのYEの従業員に対する給料手当分の費用や,庚に対する人件費等を計上した。(証拠略)⑵ YEについてYEは,平成21年12月期及び平成22年12月期の法人税確定申告において,売上としてはそれぞれ1560万円,1260万円の運営管理のみを計上する一方,経費としてそれぞれ990万円余りの給料手当を計上した(証拠略)。⑶ 被告人について被告人は,平成21年分ないし平成23年分についても,平成20年分と同様,所得税確定申告をしなかった(証拠略)。5 本件対象期後における関係会社及び被告人の決算処理・申告状況(証拠略)YFは,平成24年12月期の法人税確定申告において,売上として約9億9693万円を賃料売上及び更新料売上等の勘定科目で計上するとともに,経費として修繕費及び水道光熱費等を計上した。YFの同期の法人税確定申告においても,被告人に対する経費として計上した勘定科目は見当たらず,被告人は,同年分についても,所得税確定申告をしなかった。また,関与税理士に対し,本件不動産の賃料収入を被告人個人において申告するよう指示することもなかった(証拠略)。6 申告法人の修正申告状況申告法人は,被告人が本件により起訴された当日である平成25年3月25日,本件対象期である3期分について,本件不動産の賃料収入等が申告法人に帰属することを前提とする法人税の修正申告書を所轄税務署長に対して提出した(証拠略)。第3 争点に関し関係者の証言及び供述等から認定した事実1 関係者の証言及び供述等により認定できる事実関係前記第2で認定した事実関係に加え,辛弁護士,丙,壬,癸及びZの各供述又は証言に関係証拠を併せれば,次の⑴ないし⑻のような事実関係が認定できる。なお,認定の主たる根拠とした上記各供述又は証言の信用性は,後記2で検討する。⑴ 被告人による辛弁護士に対する契約書案の作成依頼(証拠略)平成19年4月頃,YCの代表取締役であった被告人は,辛弁護士に対し,被告人個人所有の不動産物件で被告人個人が不動産業を営む場合,多額の維持管理費や損害賠償責任等の様々なリスクについて無限責任を負うことになるのを回避するため,法人がこれら維持管理費用を負担し,発生するリスクを全て引き受けることを条件に,不動産物件を自由に使用収益できるとする内容の契約書案の作成を依頼した。これを受けて,辛弁護士は,まずは「維持保全契約書」と題する契約書案を作成して被告人に示し,次いでこれに対する被告人の意見及び指示を反映した「保険契約書」と題する契約書案を作成した。同契約書案においては,前文において,自然人である甲がその保有不動産のランニングコスト及びリスクの負担の回避を希望していること並びに株式会社である乙は甲の希望に最大限沿いつつ収益をあげることを希求していることが契約の理由として記載されている。また,法人である乙の権利として,第3条に「乙は,第三者への賃貸その他任意の方法で本物件を使用・収益することができる。」,第6条本文に「乙は本件業務の報酬として本物件から生ずる一切の収益を収受することができるものとする。」と規定していた。他方,前記契約書案においては,乙の義務として,第4条に「⑴乙は,本物件の固定資産税,都市計画税,清掃,修繕,メンテナンスに要する費用,水道光熱費その他本物件の維持保全に要する一切の費用を負担する。⑵火災,地震,その他甲乙いずれの責めに帰すべき事由がない場合によって本物件が破損または滅失したときにおいても,乙の負担により乙がこれを修繕,再調達,再建築その他により復旧しなければならない。」,第6条ただし書に「乙は甲に対し,収益還元金として毎年金3600万円を支払う。」と規定していた。⑵ 被告人が申告法人の経理処理等を丙に依頼した経緯及び状況等(証拠略)税理士事務所の事務員である丙は,知人の紹介で被告人に面会し,しばらくした平成20年の半ば頃,被告人からYDの給与計算を依頼され,その後,経理処理も依頼され,総勘定元帳や税務申告用の決算書等の作成をした。この際,被告人は丙に対し,経理処理に当たっては送られてきた資料のみで行い,送られてきた資料について一切質問をしてはならず,確定申告書等に関しては,税務署等からの質問があったとしても被告人が対応するため税理士の署名押印は要らず,税務署から質問があっても一切答えてはならない旨の条件を付した。その後,被告人は,平成21年夏頃,丙に対し,申告法人の経理処理を依頼し,これについても前同様の条件を付した。⑶ 被告人の丙に対する申告法人の事業形態についての説明内容(証拠略)被告人は,丙に対し,申告法人の事業形態について,被告人が所有する複数のビルを被告人から申告法人が借り受け,それらのビルをテナントに賃貸するという不動産賃貸業を営み,そこから得た家賃収入の範囲で経費の支出をしている旨説明していた。⑷ 平成21年12月期の決算処理・申告状況ア 決算書案を作成させた状況(証拠略)被告人は,平成21年夏頃,丙に対し,申告法人が利用する3口座(Y株式会社名義のG銀行a支店及びH銀行I支店の各口座,戊株式会社名義のG銀行J支店の口座)に係る預金の動きに関する資料である当座勘定照合表,申告法人への入金に関する資料である入金チェック表(平成23年12月期においては表題が「入金状況表」と変更されているが,以下変更の前後を問わず「入金チェック表」という。),申告法人からの出金に関する資料である資金移動表について説明した。丙は,平成21年9月頃から平成22年1月頃までの間,2か月に1度程度の割合でこれらの資料の送付を受け,会計ソフトに入力をし,仕訳日記帳及び総勘定元帳を作成した。なお,賃料等の売上については,入金チェック表等には入金分しか記載されておらず,未収分が分かる資料は送付されなかったため,丙は,やむなく発生主義ではなく,現金主義に従って経理処理をした。また,入金チェック表では賃料等の収入がどのように支払われたかも不明で,相手勘定が現金か預金か特定できなかったため,便宜上の相手科目として「預け金」という仮勘定を用いることとし,平成21年12月頃までにはその旨被告人に説明していた。丙は,申告法人に係る平成21年12月期の決算書案を作成し,平成22年1月末ないし同年2月初旬頃,被告人に対して同決算書案の内容について,売上高が約16億8084万円,純利益が12億円ないし13億円程度になる旨説明した。イ 被告人が架空の固定資産除却損を計上させた状況(証拠略)被告人は,平成22年2月14日又は同月15日頃,丙に対し,電話で,申告法人の資産として,被告人の資金で購入した土地15億6000万円,建物3億5000万円,設備合計10億1900万円及び造作設備合計1億7100万円を計上するよう指示した。丙は,被告人からの指示内容を手書きでメモした後,同月16日,表計算ソフトであるエクセルを用いて申告法人において計上する資産の一覧表(以下「エクセル一覧表」という。)を作成した。被告人は,平成22年2月17日又は同月18日頃,丙からエクセル一覧表を見せられると,丙に対し,前記土地等の購入日は平成21年1月28日である旨,エクセル一覧表の記載の資産のうち設備の一部に「・」等の印を付け,当該設備については全額を固定資産除却損として計上すべき旨及びその余の設備については4分の3に当たる額を固定資産除却損として計上すべき旨をそれぞれ指示した。以上の指示を受け,丙は,相手方勘定科目を短期借入金として,前記土地等を資産計上した上,平成21年12月31日付けで相手勘定科目を設備として固定資産除却損合計7億9100万円を,相手勘定科目を造作設備として,固定資産除却損1億7100万円を,それぞれ計上した。さらに,被告人は,丙に指示をして,平成22年2月中旬頃ないし同月下旬頃,計上した上記固定資産除却損9億6200万円を同額の売上高と相殺し,各勘定科目から同額ずつ減額する経理処理をさせ,同月下旬頃には,平成21年12月31日付けで土地15億6000万円,建物3億5000万円及び固定資産除却損分減額後の設備2億2800万円について,相手勘定に短期借入金(減額)等を計上の上,資産から消去する経理処理をさせた。以上の処理に際し,被告人は,丙に対し,前記土地,建物及び設備の購入に関する資料及び前記固定資産除却損が発生したことが判明する資料を示すことはなかった。ウ 架空の固定資産売却損を計上させた状況(証拠略)被告人は,平成22年2月中旬以降,丙に対し,平成21年12月期中に土地を購入して売却したが,その際に損失が生じた旨を伝え,固定資産売却損を計上するよう指示した。その後,被告人は,丙に対し,同土地の売却金額を変更するよう指示し,最終的には,固定資産売却損4億2000万円を計上するよう指示したが,同土地の購入日及び売却日については指示をしなかった。これを受け,丙は,期首である平成21年1月15日付けで土地9億2000万円を資産計上し,期末である同年12月31日付けで同額分の土地を資産から減額するとともに固定資産売却損4億2000万円を計上する経理処理をした。また,被告人は平成22年2月下旬頃,丙に対し,前記固定資産売却損4億2000万円を同額の売上高と相殺し,各勘定科目から同額ずつ減額する経理処理をさせた。以上の処理に際し,被告人は,丙に対し前記固定資産売却損が発生したことが判明する資料を見せず,前記土地の所在地及び名称も伝えなかった。エ 被告人が決算書等の内容について了承した状況(証拠略)被告人は,丙に対し上記イ及びウの各指示をし,法人税確定申告書及び決算書等を作成させ,平成22年2月25日頃,丙から,このようにして作成された欠損金額が約2803万円である旨の法人税確定申告書及び決算書等を見せられ,その内容につき説明を受けた。そして,被告人は,前記法人税確定申告書等の内容を了承した上,同申告書に署名押印し,同月26日,丙をして,所轄l税務署に提出させた。⑸ 平成22年12月期の決算処理・申告状況ア 決算書案を作成させた状況(証拠略)被告人は,丙に指示し,平成21年12月期と同様の資料に基づいて,会計ソフトに入力をさせ,仕訳日記帳及び総勘定元帳を作成させた。丙は,売上高が約17億7653万円計上され,純利益が発生する内容の申告法人に係る平成22年12月期の決算書案を作成し,平成23年1月末頃,被告人に同決算書案を見せてその内容について報告した。イ 減価償却費等を保守管理費として計上させた状況(証拠略)被告人は,平成23年1月末頃に丙から上記決算書案を見せられた際,丙に対し,平成21年12月期において貸借対照表から消去させた土地,建物及び設備(前記⑷イ)を改めて計上した上,このうち,建物及び設備について減価償却費を計上するよう指示した。同指示を受け,丙は,前期の総勘定元帳や当時のエクセル一覧表を参照し,土地15億6000万円,建物3億5000万円及び設備2億2800万円を資産計上した上,固定資産台帳兼減価償却費明細書を作成し,減価償却費(当期償却額)が合計5073万9000円(前記建物につき700万円及び前記設備につき合計4373万9000円)となる旨算出した。丙は,この算出に際し,被告人から減価償却に係る建物や設備の取得金額や構造等が判明する資料を示されなかったため,自らが所持していた税務手帳の中にあった一般的な建物の構造ごとに決められた耐用年数の記載された表を見ながら,特定の構造であれば耐用年数は何年である旨を被告人に伝え,それを聞いた被告人から構造についての指示を受け,それに基づいて耐用年数を決め,償却額を算出していた。被告人は,丙から,前記固定資産台帳兼減価償却費明細書を見せられ,その内容をいったん了承したが,平成23年2月中旬頃,丙に対し,計上を指示した減価償却費を改修費に振り替えるよう指示するとともに,その頃,建物の改修費が2000万円発生したとして,改修費として計上するよう指示した。この指示に関し,被告人が丙に対し改修費に係る資料を示すことはなく,その建物の所在地や名称等を伝えることもなかった。同指示に従い,丙は,申告法人において,改修費合計7073万9000円(5073万9000円と2000万円の合算額)を計上した。さらに,被告人は,丙に指示し,計上した改修費を保守管理費に振り替えさせた上,土地15億6000万円,建物3億4300万円及び設備1億8426万1000円(建物及び設備は減価償却費分減額後の残額)については,相手勘定に短期借入金(減額)を計上することにより,資産から消去させた。ウ 売上高を減額させた状況(証拠略)丙は,前記⑷アのとおり,現金主義に従った経理処理をしており,売上高に債権としては発生しているが回収することができないものが含まれることはない処理となっていた。しかし,被告人は,平成23年2月中旬頃,丙に対し,資料等を示すことなく,売上のうち1億4800万円が回収できないのでこれを売上高から除外するよう指示した。そこで,丙は,平成22年12月31日付けで,相手勘定科目を預け金として,計上済みの売上高から1億4800万円を減額する経理処理をした。エ 架空の固定資産売却損を計上させた状況(証拠略)被告人は,平成23年2月下旬頃,丙に対し,平成22年1月31日に土地を購入し,同年9月30日に売却したが,その際,損失が発生した旨伝え,固定資産売却損の計上を指示した。しかし,その後,被告人は,丙に対し,同土地の売却金額の変更を指示し,最終的には固定資産売却損10億5800万円の計上を指示した。同指示に従い,丙は,平成22年1月31日付けで土地21億円を資産計上し,同年9月30日付けで同額分の土地を資産から減額するとともに,固定資産売却損10億5800万円を計上する経理処理をした。さらに,被告人は,平成23年2月25日までに,丙に指示し,前記固定資産売却損10億5800万円を同額の売上高と相殺し,各勘定科目から同額ずつ減額する経理処理をさせた。以上の処理に際し,被告人は丙に対し前記固定資産売却損が発生したことが判明する資料を見せず,前記土地の所在地及び名称も伝えなかった。オ 決算書等の内容について了承した状況(証拠略)被告人は,丙に前記各指示をし,これに沿った法人税確定申告書及び決算書等を作成させたところ,平成23年2月24日又は同月25日頃,丙から,欠損金額が約2154万円である旨の法人税確定申告書等を見せられ,その内容について説明を受けた。そして,被告人は,その内容を了承した上,同申告書に押印し,同月25日,丙をして,所轄l税務署に提出させた。⑹ 平成23年12月期の決算処理・申告状況ア 決算書案を作成させた状況(証拠略)被告人は,丙に指示し,平成21年12月期及び平成22年12月期と同様の資料に基づいて,会計ソフトに入力をさせ,仕訳日記帳及び総勘定元帳を作成させた。丙は,売上高が約12億4595万円計上され,純利益が約7億5427万円発生する内容の申告法人に係る平成23年12月期の決算書案を作成し,被告人に同決算書案を見せてその内容について報告した。なお,被告人は同期については,売上高を賃料収入という勘定科目名に変更するよう丙に指示した。また,被告人は,平成24年1月末ないし同年2月初旬頃,丙に対し,領収証の束を渡し,被告人が立て替えた申告法人の経費がある旨説明してこれを申告法人の経費として計上させた。イ 固定資産売却損を計上させた状況(証拠略)被告人は,丙から前記決算書案を見せられて報告を受けた後の平成24年2月末頃,丙に対し,平成23年12月期中に,2億6000万円で土地を,9億2200万円で建物を購入し,これらを売却したが,その際,損失が発生した旨伝え,固定資産売却損を計上するよう指示した。その後,被告人は,丙に対し,土地の売却金額の変更を指示し,最終的には固定資産売却損4億5400万円を計上するよう指示した。丙は,同指示を受けて同額の固定資産売却損を計上することとしたが,被告人から同土地及び同建物の購入日及び売却日について指示がなかったことから,期首である平成23年1月1日付けで,土地2億6000万円及び建物9億2200万円を各資産計上し,期末である同年12月31日付けで同額分の土地及び建物を資産から各減額し,固定資産売却損4億5400万円を計上した。被告人は,平成21年12月期及び平成22年12月期の決算時と異なり,丙に対し,固定資産売却損と売上高を相殺する経理処理を指示しなかったため,丙も,平成23年12月期については,そのような経理処理をしなかった。以上の処理に際し,被告人が,丙に対し,前記固定資産売却損が発生したことが判明する資料等を示すことはなく,同土地及び同建物の所在地及び名称を伝えることもなかった。ウ 賃料収入を減額させた状況(証拠略)被告人は,平成24年2月半ば以降,丙から,被告人が送付した資料に基づき丙に作成させた月々の賃料収入が分かる表を見せられると,丙に対し,特定の月の数字が過大になっており,本件不動産に含まれる「Pビル」ほか複数のビルに係る賃料収入を足したくらいの金額が間違っているとして,その分だけ賃料収入から除くよう指示した。同指示に従い,丙は,平成23年12月31日付けで,賃料収入2億9995万2892円を減額する経理処理をした。以上の処理に際し,被告人が丙に対し,賃料収入が過大となっていることを示す資料等を提示することはなかった。エ 決算書等の内容について了承した状況(証拠略)被告人は,丙に対して前記各指示をし,それに沿った法人税確定申告書及び決算書等を作成させたところ,平成24年2月28日又は同月29日頃,丙から,欠損金額が約1495万円である旨の法人税確定申告書等を見せられ,その内容につき説明を受けた。そして,被告人は,前記法人税確定申告書等の内容を了承した上,同申告書に押印し,同月29日,丙をして,所轄p税務署に向けて発送,提出させた。⑺ いわゆるLビルに係る不動産売買契約の状況(証拠略)被告人は,平成21年1月28日,自己の資金で,東京都中央区ab丁目c番d号所在のY株式会社(当時これに該当するのは申告法人)名義で,東京都中央区ah丁目K番c所在の土地(以下「本件土地」という。)及び同土地上の建物(以下「Lビル」という。)を購入する内容の売買契約を,癸が代表者を務める株式会社Mを買主側立会人,壬の当時の勤務先である株式会社Nを売主として締結した。その売買契約書では,売買代金の内訳として,本件土地代金が15億6000万円,Lビル代金が3億5000万円(内税),その他の設備が18項目合計11億9000万円(いずれも内税)との定めがなされているところ,これは,同月27日になって突然,被告人が癸に対し,売買代金をこのような内訳にするよう言い出したためにこのような定めがなされるに至ったもので,売主側においてそのような内訳を設ける根拠も理由もないものであった。⑻ 北九州所在の土地収用に関する被告人と北九州市との交渉の状況(証拠略)北九州市は,北九州物件につき,都市計画道路を作るための用地買収を計画していた。被告人は,平成10年以降,一貫して自ら北九州市職員との間での北九州物件の買収交渉に対応し,最終的には,平成24年4月16日,所有者又はYCの代表者清算人名義で,北九州物件の収用裁決に係る補償金を受領し,また,上記m町所在の土地の地上物件が己の所有ではなく,YCの所有に属することの確認書に己の代表者清算人名義で署名押印した。なお,上記過程で申告法人が北九州物件を所有したり,取得のための出捐をしたと目すべき証跡はなく,被告人も,申告法人において,被告人に対し北九州物件の対価を支払ったことがないことを自認している(証拠略)。2 認定に用いた主たる証拠の信用性評価⑴ 辛弁護士の供述の信用性辛弁護士の検察官調書(証拠略)における供述は,前記1⑴の範囲では被告人の質問てん末書(証拠略)の内容と合致している上,その「保険契約書」と題する契約書案前文に記載されている趣旨の契約書案を作成するよう被告人から依頼があったという作成経緯についても,被告人の住居から押収された前記契約書案の記載内容とよく符合する内容であって,信用することができる。この点弁護人は,①辛弁護士作成に係る契約書案は,税務申告に関し辛弁護士がY株式会社に賃料が帰属することの説明のために作成したものである,②被告人の質問てん末書の記載は,担当者から,誤りがあれば後に何度でも訂正できると言われたため真剣に話を聞かず署名したもので信用性がないなどと主張する。しかし,①については,弁護士という職にある辛弁護士において,被告人から依頼を受けることなく契約書案を作成し,かつ,その作成経緯について虚偽の供述をする理由が全く見当たらないことからすれば,弁護人の主張は採用できない。また,②についても,質問てん末書の内容を後から何度でも訂正できるのであれば質問てん末書を作成する意味がないから,担当者においてそのような発言をしたとは到底認めがたく,採用の限りでない。⑵ Z証言の信用性また,前記1⑻の認定根拠となるZ証言は,公文書である裁決書及び交渉記録,被告人の署名押印のある補償金受領証及び確認書によって裏付けられており,高い信用性を有する。⑶ 壬証言及び癸証言の信用性さらに,前記1⑺の認定根拠となる壬及び癸の各証言も,それぞれ売主側の担当者又は買主側の実質的な仲介業者と立場を異にしながら,売買契約の直前になって突如被告人が売買代金の内訳に関する条項を入れるよう言い出したとするなど,被告人の態度について一致した内容となっている。また,土地以外に売買代金を割り振れば,消費税の課税取引となり売主に不利であったが,株式会社Nには譲渡担保の関係で売買契約を急ぐ事情があったためやむなく応じたとの壬の証言する経緯も合理的であり,現に株式会社Nが本件土地及びLビルを取得した際の契約では土地のみに売買代金が割り振られており,本件土地の更地価格は約39億円との不動産鑑定が存在したこと(証拠略)に照らしても首肯できるものである。この点被告人は,上記の内訳を定めたのは株式会社Nである旨供述する(証拠略)が,既にみたとおり,株式会社Nにとっては本件土地以外に売買代金を割り振る理由がなく,むしろ消費税を課税されることになることからすれば,信用することのできるものではない。⑷ 丙証言の信用性丙証言のうち前記1⑷ないし⑹の経理処理等に関する部分は,仕訳日記帳(証拠略)及び総勘定元帳(証拠略)から認められる,申告法人における現金主義に従った売上計上,決算期末日における多額の固定資産除却損等の計上及び資産の減額,売上と固定資産除却損等との相殺,仮勘定である預け金が多数利用されていること等,一般的な経理処理と異なる不正な処理をよく説明することのできるものである。また,入金チェック表等の送付を受けていたとする点及び入金チェック表には入金分しか記載されていないとする点については,YFから押収されたパソコン内の電子データ(証拠略)によっても裏付けられている。さらに,前記1⑵及び⑶に関する証言も,このような不正な処理に関与することになった経緯を説明するものとして自然な内容である上,現に被告人は本件対象期の税務申告を全て,経理責任者及び関与税理士の署名押印欄を空欄として行っており,その後の税務調査等に対する対応も被告人自身で対応していることともよく整合している。また,本件対象期の各期の経理処理についてみても,平成21年12月期に関する証言(前記1⑷)は,平成22年2月16日作成のエクセル一覧表に手書きで記載された内容(証拠略)と整合するものであり,現実にこの記載内容で同期の固定資産除却損に関する経理処理がなされていることも認められる。平成22年12月期に関する証言(前記1⑸)は,YFから押収された決算書の草稿と見られる書面(証拠略)において丙証言と同内容の売上高の減額,固定資産売却損の計上,減価償却費の改修費への振替え等が行われていることともよく符合している。平成23年12月期に関する証言(前記1⑹)は,丙の勤務先である税理士事務所から押収されたメモ書き様の書面(証拠略)に記載された内容と整合的であり,同期においても,同内容で固定資産売却損の処理が行われている。以上の点に加え,丙の証言するような処理により,本件対象期における申告法人の所得額が大幅に減少し,判示のとおり合計10億円余りの法人税をほ脱するという利益を申告法人が享受するのに対し,丙がこれに相応する報酬その他の利益を得たことは関係証拠によってもうかがわれない。むしろ前記の供述内容は,それにもかかわらず自身が不正な経理に荷担したことを淡々と自認するものであって,税理士事務所の職員である丙において,あえて自己に不利益な虚偽の供述をすべき理由は見当たらない。被告人が申告法人やYEの入出金等の経理に関する決裁権限の一切を有していたと認められること(証拠略)に加え,前記⑵,⑶のとおりの信用できる関係者の証言により認定できる前記1⑺及び⑻のとおり,被告人は,被告人が設立した申告法人を含む別表の法人の解散や設立等による変動にかかわらず,一貫して代表者として北九州市との交渉を行っていること,Lビルの売買契約についても,契約直前に被告人の発案で契約内容を変更させて代金の相当部分を減価償却・除却が可能な建物・設備名目に割り振るなど,その独断により申告法人への費用計上をもくろんでいたとうかがわれる行動をしていること,丙証言に表れている資産計上及び固定資産除却損計上は,まさにLビル購入におけるそのような被告人の作為の投影で,被告人の指示なくしては行い得ない内容であることをも併せ考慮すれば,既にみた不正な経理処理はすべて被告人の指示に基づき行ったものである旨の丙の証言は,その内容を真っ向から否定する被告人の供述を踏まえても,十二分に信用することができる。第4 争点①に関する判断1 当裁判所の判断前記第2の1ないし5の事実を総合すると,被告人は,平成17年頃までに本件不動産の所有権を取得したが,その後も自らが本件不動産の賃貸事業に関してその名義で取引の前面に出ることはなく,関係会社の設立と解散を繰り返しながら,本件不動産の賃料収入やこれに要する経費を自己の一存で順次YC,YD,申告法人,YFといった各時点で現存する関係会社の所得を構成するものとして税務申告をしていたことが認められる。そして,この事実に前記第3の1⑴及び⑶の事実を併せ考慮すれば,被告人は,本件不動産を,自己が唯一の株主で,かつ代表取締役を務める会社にリース(マスターリース)し,その会社に,本件不動産の管理費用や破損・滅失等の危険を負担させる代わりに,本件不動産を自由に使用して本件不動産から生じる一切の収益を収受する権利を付与した上,その会社がテナントに対して当該物件を賃貸(サブリース)するという事業形態によって,その会社の計算において不動産賃貸業を営むことを意図し,そのように振る舞っていたものと推認することができる。この点,被告人も,捜査段階ないし国税局の質問調査の段階においては,かかる意図を有していたことを自認し,むしろ賃料収入が被告人個人に帰属することを否定し申告法人に帰属すると供述していた(証拠略)ものである。この捜査段階ないし質問調査段階の供述は既にみた事実関係によく符合するものであって,この限りで信用することができる。また,被告人が本件で起訴された直後に,本件不動産の賃貸事業の収益が申告法人に帰属することを前提とする修正申告を行っていること(前記第2の6)も,被告人において同収益を申告法人に帰属させる意思を有していたことと整合的である。以上によれば,被告人と申告法人との間で契約書等は交わされていないが,本件対象期については,被告人はその自由意思に基づき,申告法人が被告人との間のマスターリース契約によって本件不動産から生ずる一切の収益を享受する地位にあるとの法形式を選択し,法人税確定申告において,本件不動産からの賃料収入等及びこれに対応する経費を計上し,他者にもそのような説明をしていたのであって,申告法人の計算において本件不動産の賃貸事業を行っていたといえる。したがって,本件不動産の賃料収入は申告法人に帰属するものというべきである。2 弁護人の反論⑴ マスターリース契約に関する主張弁護人は,上記のようなマスターリース契約は不存在であると主張し,その理由として,①辛弁護士作成の契約書案の内容は,賃貸物件の所有者である被告人がテナントからの責任追及回避の目的で作成したもので,被告人・会社間の賃貸借については触れられていないし,そもそも同契約書案は申告法人設立以前に作成されたものでこれが申告法人に引き継がれたことを示すものは何もない,②被告人が平成18年分及び平成19年分の個人所得として申告している3600万円はYCとのマスターリース契約に基づく収益還元金ではないし,申告法人は本件対象期の決算報告書で被告人に対するマスターリース料の支払をしていない,③申告法人には従業員が不存在で,預金口座もなく,賃貸借契約に関する決裁等は全て被告人個人が行っており,賃料は申告法人以外の名義の口座に入金されていたなどと指摘する。しかし,①の点については,「保険契約書」と題する契約書案が被告人のテナントからの責任追及回避目的から検討されたものであったことは,その前文にも記載されているところであるが,それだからこそ託された会社の計算において本件不動産の賃貸事業を営むことを企図していたことを示すもので,同事業の損益が託された会社すなわち本件では申告法人に帰属することに整合的である。また,契約書案で被告人と会社の間の賃貸借については触れられていないとする点も,被告人所有の本件不動産につき,会社が使用収益の権限を得,被告人に対し会社が対価を支払うという契約内容を両者間の賃貸借契約であると解することに障害はない。同契約書案が作成されたのが申告法人設立以前であるのは弁護人指摘のとおりであるが,同契約書案作成時点でいずれかの会社に本件不動産の賃貸事業の収益を帰属させる意思であった被告人において,申告法人設立後にこれを翻意したことを窺わせる事情は見当たらず,むしろ前記第3の1⑶で認定したように,この契約書案に沿うような申告法人の事業形態を丙に説明していたことからすれば,本件対象期においても同様の事業形態を企図していたとみるべきであって,同契約書案に署名押印等をして完成させたものが存在しないことは,この認定を左右しない。②の点も,平成18年及び平成19年に被告人が3600万円を収益還元金として受領していたからこそ辛弁護士作成の契約書案においては同額が収益還元金として記載されたと考えられるし,被告人はその質問てん末書(証拠略)において,平成19年には収益還元金を受け取っていたが,平成20年以降はこれを受け取らない内容に契約を改めた旨供述していたもので,これに反する証拠はない。そして,既にみたとおり,マスターリース契約を締結することについての被告人の意図は無限責任の回避にあり,収益還元金を重視していたとは考えがたいところであるから,やはり前記1の認定を左右しない。③の点も,被告人は,申告法人を含む関係会社全ての唯一の決定権者かつ本件不動産の所有者として,一存で前記1のような法形式を採用して,それに沿う税務申告をしているのであるから,本件不動産の賃貸事業について被告人のした種々の決定を申告法人の代表者としての決裁等とみることに障害はないし,申告法人に従業員がいないことについても,被告人は同事業をYEの従業員又は庚に行わせ,その人件費等を申告法人において支出,計上していた(前記第2の4⑴)のであるから,やはり申告法人の計算で同事業が行われていたことを否定するものではない。申告法人名義の口座が存在せず,賃料が別法人名義の口座に入金されていたとしても,被告人は,前記の従業員等にこれらの口座に対する入金の状況を入金チェック表等に記載させ,申告法人での申告の資料として丙に送付していたのであるから,被告人において,申告法人に賃料収入を帰属させる意思で,かつ,そのように振る舞っていたことは明らかである。⑵ 申告法人には実体がない旨の主張弁護人は,申告法人はマスターリース契約の当事者となるような実体が存在しなかったと主張し,①テナントに対して申告法人が賃貸人になった旨の告知もなされておらず,賃貸人は戊等の名義のままであった,②「Oビル」の賃借人が原告となり,被告人を被告として同ビルの賃貸人としての責任等を追及した訴訟においても,被告人は申告法人が責任を負う旨の主張をしていない上,同訴訟の判決では申告法人を含む被告人が設立等をした法人の法人格が形骸化又は濫用されていたと認定されていること,③法的にも所有権を取得した被告人が賃貸人たる地位を当然承継することなどを指摘する。しかし,①のテナントに賃貸人の変更を告知しなかった点については,被告人は,テナントの混乱や事務量の増加を避けるためであった旨供述しており(証拠略),この点が申告法人の実体の不存在を示すものとはいいがたい。また,弁護人の主張を前提としても,被告人は平成17年に清算結了させた会社等の名義でその後も賃貸事業を継続していたのであるから,被告人において,賃貸借契約等に用いる名義の形式はともかく,その会社の実体を重視していたものとは認められず,これを根拠に申告法人に本件不動産の賃貸事業の計算を帰属させるに足りる実体がなかったということはできない。また,②及び③の点については,弁護人主張の賃貸人たる地位の当然承継や法人格否認の法理は,賃借人等取引の相手方保護のための私法上の法理であって,租税法上の所得の帰属に関しては,被告人が選択した法形式に相応の根拠と合理性が伴う以上,これに依拠できないわけではなく,弁護人の主張は的を射ていない。⑶ 小括以上のほかにも,弁護人は本件不動産の賃貸事業の収益は申告法人に帰属するものではない旨るる主張するが,いずれも採用することのできるものではない。前記1の判断は揺らがない。第5 争点②に対する判断1 前記第3の1⑷ないし⑹で認定したとおり,本件対象期において,被告人は,申告法人の決算書及びこれを添付した法人税確定申告書の作成に当たり,売上の一部を除外するなどの指示を個別具体的に丙に対して行い,それが反映されていることの確認もしていたことが明らかに認められる。したがって,同指示に従って丙が作成した各法人税確定申告書に署名押印又は押印して所轄税務署長に提出させ,法定納期限を徒過させた被告人には,これが虚偽過少のものであることの確定的な認識が認められ,申告税額と実際税額との差額全体について,ほ脱の故意が認められ,ほ脱犯が成立する。なお,丙は申告法人の売上高・賃料収入につき現金主義に従って経理処理をしていたが,各事業年度の実際所得金額の算定に当たり,これを発生主義に基づいて算定し直したことにより増差所得が生じている。この点については,上記の個別的な指示に係るものと異なり,被告人に具体的な額についての認識まであったとは直ちに認め難いが,このような事情は,そもそもほ脱の故意の成立範囲を左右しないと解されるし,本件においては,既にみたとおり,被告人が丙に対し発生主義に従った経理処理を行うための資料を提供しなかったことによるものであり,被告人は,過去にも税務署から発生主義に従った経理処理をすべきである旨指摘されていながら独自の判断であえて現金主義に従った経理処理をしていたと認められる(証拠略)から,概括的な認識があったことに疑いはなく,犯情も左右しないというべきである。2 ところで,本件審理の過程において被告人がした供述の中には,30年以上前に被告人と福岡県又は北九州市との間で北九州物件を35億円で売却する旨の合意(以下「35億円合意」という。)が成立していたところ,被告人は平成21年1月に申告法人に北九州物件を売却したが,これが福岡県又は北九州市にそのような価格で売却できなくなったことから,その減価見込み分を本件対象期に申告法人の固定資産売却損として計上したもので,脱税のつもりなどない,という趣旨のもの(証拠略)がある。しかし,前記第3の1⑻に認定したとおり,そもそも北九州物件が申告法人に帰属したとは認め難いことに加え,北九州物件が所在する区域の都市計画事業は,平成9年10月及び平成11年8月に事業認可の告示がなされたもの(証拠略)であり,それ以前に土地の買収価格について合意が成立することは考えがたいこと,被告人自身,35億円合意に関する覚書等を交わしていないことを自認していること(証拠略),北九州市職員作成に係る交渉記録にも収用裁決にも35億円合意に関する記載がないことなどに照らし,35億円合意があったともいえない。さらに,北九州物件の収用裁決は平成24年になされたものであって,期間的対応の面からも本件対象期において計上が認められるものではない。このように,被告人の固定資産売却損の計上に関する供述は,その前提が誤っており,およそ採り得ない。また,被告人は,申告法人が平成21年12月期に計上した固定資産除却損及び平成22年12月期に計上した保守管理費に関し,同期においてLビルを所有していたのは申告法人であり,現にその設備の廃棄処分もしている旨の供述をし(証拠略),上記経理処理の根拠として説明しようとした節がある。しかし,前記第3の1⑺のとおり,Lビルの購入原資は被告人個人が出捐したものであり,被告人自身,第12回公判期日以外では一貫してLビルは申告法人の所有ではないと述べている(証拠略)ことからすれば,Lビルに係る固定資産除却損及び保守管理費を申告法人において計上することが許されないこともまた認識していたものといえる。3 その他,前記1の認定に反する証拠はない。第6 結論以上の次第で,前掲各証拠によって,被告人に判示記載の各罪の成立が認められると判断した。(法令の適用):省略(量刑の理由)本件は,不動産賃貸事業を営む申告法人の代表取締役であった被告人が,申告法人の業務に関し,売上を減額して計上し,あるいは架空の固定資産売却損を計上するなどの方法により敢行した虚偽過少申告ほ脱の事案である。
事案の概要
平成30年11月20日
東京地方裁判所 刑事第8部
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[下級] [刑事] 平成29(わ)3167  195Views
傷害致死被告事件
平成30年11月20日
大阪地方裁判所 第6刑事部
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[下級] [刑事] 平成30(わ)2864  118Views
地方公務員法違反,加重収賄
平成30年11月16日
大阪地方裁判所 第9刑事部
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[下級] [刑事] 平成30(わ)2864  130Views
地方公務員法違反,加重収賄
平成30年11月16日
大阪地方裁判所 第9刑事部
詳細/PDF
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[下級] [刑事] 平成30(わ)2864  100Views
地方公務員法違反,贈賄
平成30年11月16日
大阪地方裁判所 第9刑事部
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[下級] [刑事] 平成30(わ)65  166ViewsMoreinfo
建造物侵入,現住建造物等放火未遂被告事件
平成30(わ)65
被害ビル内の飲食店の従業員である被告人が,同店経営者と共謀の上,同店の火災保険金を取得しようとして,同ビルに侵入し同店舗付近に火を放ったものの消火された建造物侵入,現住建造物等放火未遂被告事件で,弁護人は,被告人は共犯者と共謀しておらず無罪である旨,仮に共謀が認められるとしても放火された建物と人が現在していた建物とは別の建物であるとして非現住建造物等放火未遂が成立するにとどまる旨主張したが,いずれも排斥し,建造物侵入罪及び現住建造物等放火未遂罪の成立を認め,懲役6年を言い渡した事案。
判示事項の要旨
平成30年11月16日
札幌地方裁判所
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[下級] [刑事] 平成29(う)1117  177ViewsMoreinfo
医師法違反被告事件
平成29(う)1117
本件控訴の趣意は,弁護人亀石倫子(主任),同三上岳,同川上博之,同久保田共偉,同白井淳平及び同城水信成共同作成の控訴趣意書及び各控訴趣意補充書に各記載のとおりであり,これに対する答弁は,検察官海津祐司作成の答弁書に記載のとおりであるから,これらを引用する。論旨は,被告人の所為が医師法31条1項1号,17条に該当するとして,被告人を罰金15万円に処した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討する。第1 本件公訴事実及び原判決の判断1 本件公訴事実の要旨本件起訴に係る公訴事実の要旨は,「被告人は,医師でないのに,業として,別表記載のとおり,平成26年7月6日頃から平成27年3月8日頃までの間,大阪府内の「A(店名)」において,4回にわたり,Bほか2名に対し,針を取り付けた施術用具を用いて前記Bらの左上腕部等の皮膚に色素を注入する医行為を行い,もって医業をなしたものである。」(別表略)というものであり,適用すべき罰条として,医師法31条1項1号,17条が掲げられている。2 原判決の判断の概要原判決は,本件の争点を,①針を取り付けた施術用具を用いて人の皮膚に色素を注入する行為(以下「本件行為」という。)が医師法17条の「医業」の内容となる医行為に当たるか否か,②医師法17条が憲法に違反するか否か,③本件行為に実質的違法性があるか否か,であるとして,後記のとおり,①については,本件行為は医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為に該当する,②医師法17条は憲法31条に違反するものではなく,また,本件行為に医師法17条を適用することは憲法22条1項,21条1項,13条のいずれにも違反しない,③本件行為には実質的違法性が認められるとの判断を示し,本件公訴事実どおりに罪となるべき事実を認定した上,本件行為に医師法31条1項1号,17条を適用して被告人を罰金15万円に処したものである。本件行為の医行為該当性に関する原判決の判断要旨ア 原判決は,「医行為」の意義について,医師法17条は,医師の資格のない者が業として医行為を行うこと(医業)を禁止しているところ,これは,無資格者に医業を自由に行わせると保健衛生上の危害を生ずるおそれがあることから,これを禁止し,医学的な知識及び技能を習得して医師免許を得た者に医業を独占させることを通じて,国民の保健衛生上の危害を防止することを目的とした規定であるとし,同条の「医業」の内容である医行為とは,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為をいうと解すべきである,と説示する。イ そして,原判決は,医師法17条及び同法1条の趣旨や法体系から,「医行為」とは,①医療及び保健指導に属する行為の中で(医療関連性),②医師が行うのでなければ保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為をいうと解すべきであるという弁護人の主張に対し,その主張によれば,医療及び保健指導に属する行為ではないが,医師が行うのでなければ保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為(美容整形外科手術等)を医師以外の者が行うことが可能となり,このような解釈が医師法17条の趣旨に適うものとは考えられないし,弁護人の主張は,法体系についての独自の理解を前提とするものであるとして,弁護人の主張を排斥している。また,「医行為」に関する最高裁の判例(最高裁昭和30年5月24日第3小法廷判決(刑集9 7号1093頁),同昭和48年9月27日第1小法廷決定(刑集27 8号1403頁),同平成9年9月30日第1小法廷決定(刑集51 8号671頁))について,弁護人が,これらの判例によれば,「医行為」の要件として「疾病の治療,予防を目的」とすることが求められていると主張するのに対し,原判決は,上記各判例の事案は,いずれも被告人が疾病の治療ないし予防の目的で行った行為の医行為性が問題となったもので,医行為の要件として上記目的が必要か否かは争点となっておらず,上記各判例はこの点についての判断を示したものではないから,本件において,「医行為」の要件として「疾病の治療,予防の目的」が不要であると解しても,最高裁の判例に反しない旨説示している。ウ 次いで,原判決は,本件行為の医行為該当性について,被告人が行った施術方法は,タトゥーマシンと呼ばれる施術用具を用い,先端に色素を付けた針を連続的に多数回皮膚内の真皮部分まで突き刺すことで,色素を真皮内に注入し定着させるといういわゆる入れ墨を施すことであり,このような入れ墨は,必然的に皮膚表面の角層のバリア機能を損ない,真皮内の血管網を損傷して出血させるものであるため,細菌やウイルス等が侵入しやすくなり,また,被施術者が様々な皮膚障害等を引き起こす危険性を有しているとして,本件行為が保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為であることは明らかであると判断した上,入れ墨の施術に当たり,その危険性を十分に理解し,適切な判断や対応を行うためには,医学的知識及び技能が必要不可欠である,よって,本件行為は,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為であるから,「医行為」に当たるというべきであるとの判断を示している。そして,①入れ墨の施術によって障害が生じた場合に医師が治療を行えば足り,入れ墨の施術そのものを医師が行う必要はない,②被告人が使用していた色素の安全性に問題はなく,入れ墨の施術の際には施術用具や施術場所の衛生管理に努めていたから,本件行為によって保健衛生上の危害が生ずる危険性はなかった,という弁護人の主張に対し,原判決は,入れ墨の施術に伴う危険性や,施術者に求められる医学的知識及び技能の内容に照らせば,上記①の主張は採用できないし,医師法17条が防止しようとする保健衛生上の危害は抽象的危険で足りることから,弁護人が上記②で主張する事情は前記判断を左右しないとして,弁護人の主張を排斥している。憲法適合性及び実質的違法性に関する原判決の判断要旨ア 医師法17条により規制の対象となる医行為とは,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為に限られるという解釈は,同条の趣旨から合理的に導かれ,通常の判断能力を有する一般人にとっても判断可能であると考えられ,同条による処罰の範囲が曖昧不明確であるとはいえないから,医師法17条は憲法31条(罪刑法定主義)に違反しない。なお,医師法17条をこのように解釈して,成人に対する入れ墨の施術を処罰することは,体系的にみて他の法令と矛盾しない。イ 医師法17条は,憲法22条1項で保障される入れ墨の施術業を営もうとする者の職業選択の自由を制約するものであるが,医師法17条は国民の保健衛生上の危害を防止するという重要な公共の利益の保護を目的とする規定であり,入れ墨の施術は,医師の有する医学的知識及び技能をもって行わなければ保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為であるから,医師免許を得た者にのみこれを行わせることは,上記の重要な公共の利益を保護するために必要かつ合理的な措置というべきである。また,このような消極的・警察的目的を達成するためには,営業の内容及び態様に関する規制では十分ではなく,医師免許の取得を求めること以外のより緩やかな手段によっては,上記目的を十分に達成できないと認められる。したがって,本件行為に医師法17条を適用することは憲法22条1項に違反しない。ウ 入れ墨の危険性に鑑みれば,これが当然に憲法21条1項で保障された権利であるとは認められないが,被施術者の側からみれば,入れ墨の中には,被施術者が自己の身体に入れ墨を施すことを通じて,その思想・感情等を表現していると評価できるものもあり,その範囲では表現の自由として保障され得るのであり,その場合,医師法17条は,憲法21条1項で保障される被施術者の表現の自由を制約することになる。しかしながら,表現の自由といえども絶対無制約に保障されるものではなく,公共の福祉のための必要かつ合理的な制約に服する。そして,国民の保健衛生上の危害を防止するという目的は重要であり,その目的を達成するためには,医行為である入れ墨の施術をしようとする者に対し医師免許を求めることは,必要かつ合理的な規制である。したがって,本件行為に医師法17条を適用することは憲法21条1項に違反しない。エ 人が自己の身体に入れ墨を施すことは,憲法13条の保障する自由に含まれると考えられ,そのため,医師法17条は入れ墨の被施術者の上記自由を制約するものである。しかしながら,上記自由も絶対無制約に保障されるものではなく,公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を受けることはいうまでもなく,入れ墨の施術に医師免許を求めることは重要な立法目的達成のための必要かつ合理的な手段である。したがって,本件行為に医師法17条を適用することは憲法13条に違反しない。オ 入れ墨の施術によって保健衛生上の危害を生ずるおそれがあるのであって,施術者及び被施術者にも憲法上保障される権利があるとしても,それが保健衛生上の危害の防止に優越する利益であるとまでは認められない。我が国では,長年にわたり,入れ墨の施術が医師免許を有しない者によって行われてきたが,医師法違反を理由に摘発された事例が多くない,という事情があるにしても,本件行為が,実質的違法性を阻却するほどの社会的な正当性を有しているとは評価できない。したがって,本件行為には実質的違法性が認められる。以上のとおり,原判決は,憲法違反ないし憲法適合性の欠如,さらには本件行為には実質的違法性がない旨をいう弁護人の主張をいずれも排斥している。第2 本件控訴の趣意及び主張の概要本件控訴趣意の要旨は,原判決が,医師法17条の医業の内容である「医行為」を「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為をいう」と解釈し,本件行為,すなわちタトゥー施術行為に本条を適用して,被告人を有罪とした原判決の法解釈ないし判断は,刑事裁判の原則である罪刑法定主義に反し,また,憲法が保障する被告人の権利を侵害するものであって,このような解釈に基づく法の適用は許されないのであるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。以下,その主張の概要を示すこととする。1 「医行為」の意義に関する主張の概要「医行為」の意義について医師法は,医師の資格,業務等を規制する法律であり,同法は,「医療及び保健指導」を医師の任務として定め(同法1条),免許制度等を通じて医療・保健指導を高いレベルに維持することによって,公衆衛生の向上・増進に寄与し,ひいては国民の健康な生活を確保することを目的としている。その目的は,医師に高度の適性,資質を要求するとともに,医師以外の者による「医療及び保健指導」を禁止することによって初めて達成されるものであり,そのために,医師法17条は,医師でない者の医業を禁止し,刑罰をもってこれを担保することとしている。医師法17条により禁止される無免許医業は,医師の責務である「医療及び保健指導」を侵す行為でなければならないため,まずは,①医療及び保健指導に属する行為であること(医療関連性)という要件が必要となる。もっとも,「医療及び保健指導」に属する行為であれば,直ちに「医行為」であるとすることはできない。医師法17条は,医師の職務の保護を通じて国民の健康を保護するためのものであり,この観点からは,保健衛生上の危険性のある行為をそれに応じた知識・技術がある者によって行わせることが重要であり,危険性に応じた考慮が求められることになる。その結果,医師のように広く深い医学上の知識・技術を習得した者が独占すべき行為というのは,相応の危険性を有する行為に限られることになる。そこで,「医行為」の要件として,②「医師が行うのでなければ保健衛生上の危害が生ずるおそれ」という要件が求められる。医師法及び関連する資格法規は,第一次的に医師に広い業務独占を認め,その上で個々の医療従事者に個別制限的に列挙された範囲での業務を医師の下で行うことを認めるという形をとっている。こうした立法政策からは,保健衛生上の危険性のある行為のうち,社会通念上,医療従事者が通常行う行為をいったんは広く医行為として包摂する必要があることになり,保健衛生上の抽象的な危険のある行為が広く医行為とされることになる。この観点からは医行為の範囲は広く捉えられることになるが,当然,社会通念上の医療関連性は外枠として存在しなければ罪刑法定主義に違反する。ここにいう「社会通念」の判断の際には,当該行為が行われてきた歴史的な経緯,関連法制度,医療従事者の養成課程で学修する内容に含まれるかどうかなどを考慮しなければならない。以上のとおり,医師法17条の「医行為」というためには,①社会通念上,医療関連性のある行為で,②医師が行うのでなければ保健衛生上の危害が生ずるおそれのある行為であることが必要である。「医行為」を巡る学説等医師法制定当時の立法者の意思としては,医業あるいは医行為とは,「疾病の診断,治療,投薬など」を行うこと,つまり,医療と関連するものであると考えていたことは明らかであり,また,学説においても,初期の通説によれば, 広義の医行為とは,「人に対して医療の目的の下に行われるところの社会通念上この目的到達に資すると認められる行為をいう」と考えられており, 狭義の医行為とは,「広義の医行為中,医師の医学的知識と技術を用いてするのでなければ生理上危険を生ずるおそれがある行為をいう」と考えられており,医師法17条で「医師でなければ,医業をなしてはならない」という場合の医業は,この狭義の医行為を業とすることを意味すると解されていた。このように,「医療関連性」は当然の前提とされていたのである。その後,「医行為とは医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼすおそれのある行為である」とする立場が「現在の通説」とされるようになったが,旧来の通説と「現在の通説」の間に差異を見出すことはできず,学説上,医療関連性のない行為が医行為に当たるかは議論となっていないのであり,医療関連性(広義の医行為性)の脱落は意識的に行われたものではない。「医行為」に関する裁判例等大審院時代の初期の裁判例には「疾病の診察治療」の要素のみに言及するものがあるが,その後,医療関連性に加え,保健衛生上の危険性が一定程度に達していることを要するとする立場が一般化していた。そして,最高裁昭和30年5月24日第3小法廷判決(刑集9巻7号1093頁)は,患者に対し,聴診,触診,指圧等を行った被告人の行為について,「被告人の行為は,・・・医学上の知識と技能を有しない者がみだりにこれを行うときは生理上危険がある程度に達していることがうかがわれ,このような場合にはこれを医行為と認めるのを相当としなければならない」と判示したが,この事案では,疾病の治療の性質は問題なく認められるため争点とはならず,もっぱら危険性の多寡のみが問題となった事案であり,その原審の説示内容にも照らせば,①医療関連性,②保健衛生上の危険性が一定程度に達していること,の2つを医行為性の要件とする立場に立ち,事案に即して,争点となった保健衛生上の危険性の程度について言及した判例とみることができる。そして,その後の最高裁判例(昭和48年9月27日第1小法廷決定(刑集27巻8号1403頁),平成9年9月30日第1小法廷決定(刑集51巻8号671頁))の各事案は,いずれも医療関連性が肯定できる事案である。
事案の概要
平成30年11月14日
大阪高等裁判所 第5刑事部
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[下級] [刑事] 平成30(う)581  133ViewsMoreinfo
所得税法違反被告事件
平成30(う)581
本件控訴の趣意は,弁護人中村和洋名作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書に各記載のとおりであるから,これらを引用する(主任弁護人は,控訴趣意書中,第2の1は訴訟手続の法令違反の主張であり,同書第2の2のうち可罰性に関する主張は法令適用の誤りの主張であると釈明した。)。論旨は,原判決の理由不備,法令適用の誤り,訴訟手続の法令違反及び量刑不当の主張である。前三主張については,記録を調査し,量刑不当の主張については,これに当審における事実取調べの結果を踏まえて,各検討する。第1 控訴趣意中,理由不備の主張について論旨は,原審弁護人が,可罰性に関し具体的理由を挙げて詳細に主張したのに,原判決はそれらの多くに明確に答えておらず,理由不備の違法がある,というのであるが,理由不備(刑訴法378条4号)とは,判決自体において,同法44条1項,335条1項により要求される判決理由の全部又は一部を欠くことをいうのであって,原判決に,このような理由不備の違法は認められない。論旨は,理由がない。第2 控訴趣意中,訴訟手続の法令違反の主張について論旨は,本件の発覚の端緒となった国税局の犯則調査によって得られた被告人のA銀行の預金口座(以下「本件口座」という。)に基づく証拠等は,違法収集証拠であるから,証拠能力がないのに,それらを採用して取り調べた原審の訴訟手続には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある,というのである。1 原判決は,本件発覚の端緒等について,大要,次のとおり説示して,証拠能力を否定しなければならないほどの重大な違法があるとまではいえないと判断した。すなわち,大阪国税局査察部所属の国税査察官であったBは,A銀行の同意を得て本件とは別件の犯則事件の犯則被疑者に関係する預金口座に対する任意調査を行い,その際の調査で本件口座の取引状況を把握したものであるところ,その経過からみて別件犯則事件調査の目的は被告人を狙い撃ちにしようとしたものではないが,Bが,証人尋問で,刑訴法144条によって,別件犯則事件の内容やその調査のために本件口座の調査が必要になった具体的理由等について証言を拒絶したことなどにより,具体的証言が得られなかったことからすると,別件犯則事件調査の対象範囲の絞り込みが不十分であったという疑いを否定することができず,また,Bが本件口座情報を持ち帰った点は,別件犯則事件の調査ではなく,被告人に対する所得税法違反の調査を主眼としてなされた疑いを否定することができないから,これら一連の調査が違法であるとの疑いは残るけれども,別件犯則事件調査は,銀行側の協力の下で行われた任意調査であり,口座情報の範囲についても銀行側の了解を得ているとみられること,本件口座の入出金情報を覚知してからは,被告人に対する所得税法違反の犯則調査としてこれに対処することが可能であり,その場合には,銀行側も任意調査に応じたと考えられることなどから,査察官が行った調査における違法の程度は重大とまではいえず,したがって,それらを基に作成された査察官報告書の証拠能力を否定しなければならないほどの重大な違法は認められない,というものである。2 所論は,①Bは経験豊富な査察官であるから,多額の入金が全てJRAからである本件口座が別件犯則事件と関わりがないものであることは一見して明らかで,その情報を別件犯則事件の調査のために持ち帰る必要はなかったから,本件口座の調査は,その情報を持ち帰った点を含め,別件犯則事件とは別のほ脱犯の事案発見のために行われたというほかなく,被告人を狙い撃ちしていないとしても,対象者を特定せずに無差別にほ脱犯を摘発する目的が存した可能性が否定できず,Bの調査が,別件犯則事件のため必要であったと認定した原判決には誤りがある,②Bの不確かな証言内容からすると,本件口座の調査について,金融機関の同意があったとは断定できない上,同意があったとしても,銀行が犯則調査の必要性の有無等を吟味することは不可能であって,査察官から必要な調査であるといわれれば応じざるをえないから,このような重大な錯誤に基づく了解によって本件口座の調査の違法性が軽減されるものではないというべきである,③本件では,本件口座の情報を査察官が覚知した手段自体に重大な違法があることが争点であるから,その後改めて被告人に対する犯則調査が任意でなされ得るとしても,そのことによりそれ以前にBが覚知した手段の違法性が減じることはなく,原判決が,被告人の所得税法違反の犯則調査として任意調査が可能であったという指摘には意味がない,などという。まず,①について検討すると,別件犯則事件の内容が明らかにされていないことから,Bにおいて,本件口座情報を同犯則事件と無関係と知りながら持ち帰ったとまで断定することはできないが,JRAから個人口座への多額の入金が通常は馬券の払戻金であることが容易に想定され得る本件口座の取引内容をみれば,これが他の犯則事件と具体的に関係するとの疑いを生じさせる可能性は小さいとみられることから,Bが本件口座情報を持ち帰ったのは,原判決も指摘するように被告人に対する所得税法違反の調査を主眼としていた可能性が考えられ,違法であった疑いが残るというべきである。所論は,そのような事情からみても,別件犯則事件にかこつけてそれ以外のほ脱犯の発見のために本件口座の調査が当初から行われたというけれども,上記事実だけからそのように決めつけることはできないのであって,論理の飛躍がある。Bは,別件犯則事件の調査を行っていた際に本件口座を発見したと供述しているところ,Bのこの点の供述が虚偽であることをうかがわせる具体的事情は認められない上,被告人は,JRAから多額の払戻金を得たことを誰にも話していなかったし,分不相応な浪費をしていなかったというのであるから,国税当局が,当初から,被告人を狙い撃ちにしようとして本件調査を開始したとは考え難い。そうすると,仮に,本件口座情報の持ち帰りにつき違法があったとしても,そのこと自体から,本件口座を含む当初からの調査全体が違法となるとみることはできない。所論を採用することはできない。次に,所論②について検討すると,所論は,本件口座の調査については,銀行の同意がなかった可能性がある旨いうが,Bにおいて,銀行の同意や協力なしに,勝手にA銀行のようなインターネット銀行の業務用機械を操作するなどして,自ら目的とする調査対象の預金口座の情報等を取得することは相当に困難であるとみられることから,少なくともそれらの機械操作の相当部分は,銀行の担当者ないしその協力下において行われたものと考えられるし,Bが銀行あるいは上記担当者に対して強硬な要求をして本件口座を含む情報に対する調査に無理やり応じさせたこともうかがわれないから,本件では,銀行の特段の瑕疵のない同意の下での調査がなされたとみるべきである。そして,所論は,銀行が同意していたとしても本件口座調査の違法性は軽減されないと主張するが,原判決は,同意の存在によって,直ちに違法性が軽減されると説示しているのではなく,原判決が指摘するような当初の調査対象口座の絞り込みが不十分であった可能性や前記①で述べたような持ち帰りの点で違法の疑いがあったとしても,それだけでは直ちに本件口座に基づく証拠の証拠能力を否定すべきほどの重大な違法があるとはいえないと判断した上で,本件調査の違法の程度を判断する上での事情の一つとして銀行の同意の有無やその持つ意味を検討したとみるべきである。仮に,Bが銀行の何らの同意もないまま本件口座の調査をしたのであれば,違法の程度はそれだけ重くなるといえるが,本件では,実際に銀行の同意はあったと十分みることができるのであるから,この点を踏まえて本件口座の情報をもとに作成された査察官調書の証拠能力を否定しなければならないほどの重大な違法は認められないとした原判決の判断は正当である。なお,所論は,銀行口座の情報は,住居に対する承諾捜索が許されないのと同様に,高度に保護されるべきであるから,銀行の同意があっても本件口座の調査は許されないとか,本件は違法とされる別件捜索の類型に当たるとかいうけれども,前者について,銀行口座の情報が顧客のプライバシーの観点から保護される必要性が高いとしても,それが住居の場合に比肩しうるほどに高度な保護を要すると当然にはいえるものではない上,原判決は,そもそも銀行の同意があったことのみから本件調査の違法性の有無,程度を判断しているわけではないし,後者については,前記①及び②で検討したとおりであって,本件口座の調査が所論が指摘するような違法な別件捜索の類型に当たるということはできないから,いずれも採用することができない。そして,③について検討すると,公営ギャンブルに係る高額賞金を受け取った者がこれを一時所得として申告することが稀であると一般的にみられていることからすると,査察官において,本件口座を調査した結果,JRAからの多額の賞金とみられる金額の入金があったことが分かれば,その口座名義人である被告人についてほ脱犯の嫌疑が生じ,被告人に対して調査を開始することができたといえる。そうすると,被告人に対する脱税の調査をすると銀行に説明して,その同意を得て本件口座情報を持ち帰ることは十分できたというべきであり,そうすることなく,本件口座情報を別件犯則事件の証拠として持ち帰ったのは,選択すべき手続の誤りとみることが可能であるから,この点を令状主義の精神を没却するほどの重大な違法とみることはできない。所論は,選択すべき手段を誤ったかどうかは,本件口座情報を覚知した手段自体に重大な違法があるかどうかに影響する事情ではない,というが,原判決は,前記①や②の点について検討し,そこに重大な違法があるとは認められないとした上で,さらに,違法であったという疑いがある本件口座情報の持ち帰りの点の違法の程度を検討したのであって,所論は原判決の説示を正解しないものである。以上のとおり,本件口座の調査の過程には,違法を帯びる点がみられるとしても,それが,全体的にみて令状主義の精神を没却するほどの重大な程度に至っていないということができる。したがって,本件口座の調査の結果に依拠して作成された査察官報告書は,その証拠能力を否定されないから,これらを採用して被告人を有罪と認定した原判決に訴訟手続の法令違反は認められない。論旨は,理由がない。第3 控訴趣意中,法令適用の誤りの主張について論旨は,要するに,本件には可罰性が認められないから,平成28年法律第15号による改正前の所得税法238条1項に該当するとした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。所論は,可罰性を欠くことを基礎付ける事情として,①被告人は,原判決後に市役所職員を懲戒免職処分となったことに加え,それまでにも,起訴に伴い無給の休職処分となり,実名報道もされたことなどから過大な制裁を加えられたこと,②被告人に再犯可能性がないこと,③事業等による所得と異なり,公営ギャンブルによる所得について納税意識が低いことから,これを申告しなくても強い非難はできず,実際にも馬券購入者に対する課税がほとんどされていないことから,偶然所得を捕捉された被告人に刑事罰まで科すことは,著しく不平等であって,憲法14条に違反すること,④被告人が,過少申告加算税等を含めたすべての納税義務を果たしていること,⑤競馬では,JRAの売り上げの10%が国庫に納付されているので,馬券購入金額の10%を納税しているのに実質的に等しく,馬券の払戻金に課税することには二重課税の問題があること,⑥他の同種事例との著しい不均衡があること,⑦本件では重大な違法調査が行われたこと,を指摘する。所論がいう可罰性に関する刑事責任上の位置付けは明確ではないが,原判決が説示するとおり,本件は,2年分のほ脱税額が合計6200万円余りと多額で,そのほ脱率が全体で約97.8%と高率な虚偽過少申告ほ脱犯の事案であって,構成要件が処罰することを予定していないといえるほど可罰的違法性が低い事案ではないし,所論がいうところの責任の側面からみた可罰性ということを検討してみても,原判決が説示するとおり,被告人は,実際の所得に基づく税額を計算するなどして納税義務があることを確定的に認識してあえて本件に及んだのであるから,この点からも,可罰性を欠くような責任非難の低い事案などとは到底みることができない。なお,所論は,検察官の起訴裁量を論難するものとも考え得るが,本件が起訴裁量を逸脱したものでないことは,原判決が,公訴権の濫用に当たらないとする説示をしたとおりである。所論③は,憲法14条違反をいうところ,公営ギャンブルによる所得をたまたま国税局に捕捉された被告人と捕捉されなかった多数の者との間で,処罰されるか,されないかという事実上の違いは生じているけれども,その差異は,税務当局の調査の実情を反映しているにすぎず,もとよりそれが不合理な差別に基づくものであるということはできないから,憲法14条違反をいう所論は失当である。論旨は,理由がない。第4 控訴趣意中,量刑不当の主張について論旨は,要するに,被告人を懲役6月及び罰金1200万円・懲役刑につき2年間執行猶予に処した原判決の量刑は重すぎて不当である,というのである。本件は,被告人が,実際の総所得額よりも少ない総所得金額とこれを基にした税額とする内容虚偽の所得税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させて,不正の行為により,平成24年分の所得税のうち974万3300円及び平成26年分の所得税のうち5301万9589円を免れたという虚偽過少申告ほ脱犯の事案である。
事案の概要
平成30年11月7日
大阪高等裁判所 第4刑事部
詳細/PDF
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[下級] [刑事] 平成29(わ)1359  152Views
公務執行妨害,強盗殺人未遂
平成30年11月2日
福岡地方裁判所
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