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事件番号/事件名裁判年月日/裁判所判決書
[下級] [刑事] 平成30(わ)1284  up!
死体遺棄被告事件
平成30年12月26日
福岡地方裁判所
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[下級] [刑事] 平成30(わ)135  124ViewsMoreinfo
窃盗,住居侵入,強盗致傷被告事件
平成30(わ)135
本件犯行の悪質性等本件は,被告人3名が,他の共犯者らと共謀の上,民家への侵入強盗を企て,途中,逃走用車両に付け替えるため,駐車中の自動車2台からナンバープレート合計2枚を窃取した上,未明に民家に侵入し,家人のうち1名をバールで殴って傷害を負わせたが,財物の奪取には至らなかったという事案である。
事案の概要
平成30年12月21日
札幌地方裁判所
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[下級] [刑事] 平成30(わ)421  73Views  up!
逮捕監禁致死被告事件
平成30年12月20日
福岡地方裁判所 小倉支部
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[下級] [刑事] 平成30(わ)592  64Views  up!
殺人被告事件
平成30年12月19日
福岡地方裁判所
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[下級] [民事] 平成30(ネ)653  89ViewsMoreinfo
損害賠償請求控訴事件
平成30(ネ)653
本件は,控訴人らが,被控訴人は,原子爆弾被爆者の医療等に関する法律(以下「原爆医療法」という。)に基づき被爆者健康手帳の交付を受けた者が我が国の領域を越えて居住地を移した場合には,原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律(以下「原爆特別措置法」といい,原爆医療法と併せて「原爆二法」という。)は適用されず,原爆特別措置法に基づく健康管理手当等の受給権は失権の取扱いとなるものと定めた「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律及び原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律の一部を改正する法律等の施行について」と題する通達(昭和49年7月22日衛発第402号各都道府県知事並びに広島市長及び長崎市長あて厚生省公衆衛生局長通達。以下「402号通達」という。)を作成,発出し,その後,原爆二法を統合する形で原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(以下「被爆者援護法」といい,原爆二法と併せて「原爆三法」という。)が制定された後も,平成15年3月まで402号通達の上記の定めに従った取扱いを継続したことによって,Aの原爆三法上の「被爆者」としての法的地位ないし権利を違法に侵害してきたなどと主張して,それぞれ,被控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償として,17万1428円及びこれに対する違法行為の終了日である同月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
事案の概要
平成30年12月7日
大阪高等裁判所 第4民事部
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[下級] [刑事] 平成30(わ)198Moreinfo  up!
傷害被告事件
平成30(わ)198
頭部をハンマーで殴打し,全治約2週間の傷害を負わせた行為について,正当防衛の成立が認められ,無罪となった事案
判示事項の要旨
平成30年12月3日
札幌地方裁判所
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[下級] [刑事] 平成30(わ)38  151ViewsMoreinfo
窃盗被告事件
平成30(わ)38
本件犯行までの間に医療機関を受診して相談するなどはしなかった。被告人は,前記退院後,入院中と異なり一人でいることが多いことや,摂食障害のことなどを気軽に打ち明けることができる相手がいないことから,寂しさを感じることがあった。また,被告人は,依然として,前記婚約破棄(被告人は結婚詐欺と表現する。)について悩んでいた。⑹ 被告人は,本件犯行時,高額の預貯金等を保有し,両親と同居していた。⑺ 被害店舗は,被告人の実家から自動車で数分の距離にあり,午後9時頃になるとパン等の食料品が値引きになるので,被告人はその時間帯に来店して値引きになった商品を購入することがよくあり,本件犯行の前日(平成30年2月8日)にも,値引きになる商品を買うために母親を誘って訪れ,被告人が食べるための複数のパン等を購入した。2 本件犯行当日の被告人の行動等⑴ 被告人は,平成30年2月9日午後8時20分頃(以下,時刻は全て同日のものを指す。),借りていたDVDを返してくると家族に告げて自動車で外出し,レンタルDVD店でその返却を済ませた後,被害店舗に向かった。被告人は,午後8時43分30秒頃,かばん等を持たずに被害店舗に入り,お菓子コーナーへ向かい,被害品及びスナック菓子2袋を手に取って買い物かごに入れた。⑶ 被害店舗の私服警備員(以下単に「警備員」という。)は,午後8時44分頃,被告人が買い物かごの取っ手を両手で持ち,胸の前に持ってきて底が前に見えるくらい傾けているのを目撃し,違和感を覚えて見ていると,午後8時45分頃,調味料コーナー付近において,左手で持った買い物かごから被害品を右手で取ってジャンパーの隙間から中に入れ,ジャンパーの襟元を手で直すのを目撃した。被告人は,パンコーナーへ向かい,食パン4パック(そのうちの1つには半額の値引きシールが貼ってあり,2つは翌日が賞味期限で,もう1つの賞味期限は不明である。)を買い物かごへ入れたり(防犯カメラ映像によると,上記のうちのどれかは不明であるが,午後8時46分55秒頃に食パンを買い物かごに入れている。),パンコーナーと調味料コーナーを行き来したりした。なお,被告人が入店した出入口からパンコーナーへは,お菓子コーナー前を通っていくことができるが,調味料コーナーはその経路から被害店舗の奥の方(出入口と反対側)に大きく外れたところにある。警備員は,被告人について,歩くのも商品を手に取るのもゆっくりで,病的で生気が感じられないような異常な雰囲気であったと供述している(ただし,被告人のどの行動を指しているかは明らかでない。)。⑸ 被告人は,午後9時1分頃,警備員に声をかけられると,「買い物かごに戻すつもりでした」などと述べ,午後9時2分頃,サービスカウンターへ連行され,被害品が被告人のジャンパー内から,ズボンの内側に挟み込まれた状態で発見された。このとき,被告人が持っていた買い物かごには前記食パン4パック,前記スナック菓子2袋等が入っており,被告人は現金2万1000円余りやクレジットカードを所持していた。3 本件犯行に関する被告人の供述⑴ 被告人は,警察官取調べにおいて,「被害品をなぜ衣服内に入れてしまったのか分からない。そのとき,周りが見えなくなって視界が狭くなっていた感じだった。」「左手でジャンパーのチャックを下ろし,買い物かごに入っていたお菓子を左手で取ってジャンパーの中に入れ,落ちないようにズボンのおなか部分に入れて挟み込んだ。」旨供述した。被告人は,1回目の被告人質問(第2回公判期日)において,「買い物かごに入れた被害品をどのようにして衣服内に入れたかははっきりとは覚えていない。被害品等を買い物かごに入れた後,小麦粉が陳列されているコーナーに吸い込まれるようにして入ったのは覚えているが,その後は,目の前が雲がかかったように白くなって視界が狭くなった。パンコーナーで我に返り,衣服の内側に商品が入っていることに気付いた。」旨供述し,2回目の被告人質問(第4回公判期日)において,「小麦粉の売場に吸い込まれるようにして入った後のことは,雲がかかったように視界が狭くなってよく覚えていない。パンコーナーのところで半額になるパンを探しているときも,自分が自分でないような感じがしていた。」旨供述した。第3 E医師の意見1 意見の要旨E医師は,意見書及び証人尋問(以下,これらを併せて「E意見」という。)において,本件犯行時の被告人の精神障害及びこれが本件犯行に与えた影響について,要旨,以下のとおり述べている。⑴ 被告人は,本件犯行時,神経性やせ症(摂食障害。過食・排出型。),社交不安障害に罹患しており,境界知能(WAIS-Ⅲで全検査IQ72)であった。なお,脳MRIや脳血流シンチによっても特異な所見は認められず,気分の落ち込みは鬱病の診断基準を満たさない。被告人の神経性やせ症の重症度は,身体への危機のみで捉え,BMIを基準にするDSM-5によると,軽いが,胃酸で歯が溶けてしまうほど食べ吐きを繰り返し,骨がもろくなっていることなどを考慮すると,中等度程度と思われる。マラソン選手として過去に苛酷な体重制限をしたことは重症度に影響しない。被告人は,本件犯行時,上記神経性やせ症及び境界知能により,行動制御能力が著しく損なわれており,事理弁識能力も一部損なわれていた。神経性やせ症(過食・排出型)の患者が万引きを繰り返すことはよくあり,その機序に定説はないが,過食をし,体重を増やしたくないのでそれを吐き出すようになり,食べるものを得るために窃盗に及ぶようになってそれが繰り返されて嗜癖化し,止められなくなるというものと考えられ,窃盗症と類似の機制である。本件犯行は過食衝動を満たすために行われたものであり,神経性やせ症に罹患していなければ行われなかったのであるから,神経性やせ症と密接な関係があり,過食のための窃盗の欲求が高じてそれに抵抗できずに行われたものであるから,制御は難しかったと思われる。社交不安障害は本件犯行に直接影響を与えていない。⑶ 被告人が,①本件犯行を思い出せないことや,②被害品が衣服内に隠匿されていることに気付いた後,戻せば窃盗罪にならないと思っていたことは,万引きについての事理弁識能力が不十分であったことをうかがわせる事情である。①は,被告人の公判供述のとおり,視界にもやがかかったようになり,自分が自分と感じられなくなるという離人症の症状で,被告人は,ぼーっとして知らない間に行動してしまう,やりたくないことをやってしまうという解離の機制の中にあったと思われる。ただし,この症状は不安障害等によっても生じ得るものであって,解離性(同一性)障害の診断は付かないし,離人症は,自分が自分と感じられなくなって記憶がぼんやりするということを表すだけで,その間の行動のまとまりがなくなるというものではない。警備員が供述する,被告人が病的で生気が感じられないような異常な雰囲気であったことなどは,離人症によるものとも,窃盗にとらわれてぼんやりしている状態が高じたという窃盗の欲求の亢進によるものとも説明できる。本件犯行は,代金を支払うための現金等を所持しており,経済的に余裕があり,前件万引きについて報道されたことがあった被告人が,少額の商品を欲求が勝って盗んだものであるから,動機は了解不能である。本件犯行の態様は,商品をエコバッグ等の中にではなく,衣服内に隠匿するという稚拙なものであり,後に買い物かごに戻して精算しようとしており,一貫性・合目的性に欠ける面がある。2 E意見の信用性⑴ 被告人の精神状態が心神喪失又は心神耗弱に該当するかどうかは法律判断であって専ら裁判所に委ねられるべき問題である(最高裁昭和58年(あ)第753号同年9月13日第三小法廷決定・裁判集刑事232号95頁)が,責任能力判断の前提となる生物学的要素である精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度について,専門家たる精神医学者の意見が鑑定等として証拠となっている場合には,これを採用し得ない合理的な事情が認められるのでない限り,裁判所は,その意見を十分に尊重して認定すべきである(最高裁平成18年(あ)第876号同20年4月25日第二小法廷判決・刑集62巻5号1559頁)。ア E医師は,精神科医として豊富な知識,経験を有し,その資質や公平性に問題を抱かせる事情はなく,捜査関係資料や,被告人との約3時間の面接,心理検査,被告人の両親からの成育歴の聴取等を基礎資料として意見書を作成し,証言に先立ち,2回目の被告人質問を傍聴しており,その意見は,基本的に,専門的知見に基づき,精神医学の本分である精神医学的事項等について述べるものである(ただし,事理弁識能力・行動制御能力(の欠如又は減退)という心理学的要素は裁判所の評価に委ねられるべき法律判断であるので,E医師が「被告人は,本件犯行時,神経性やせ症及び境界知能により,行動制御能力が著しく損なわれており,事理弁識能力も一部損なわれていた。」と述べる )は,神経性やせ症等がそのような減損をもたらすほど本件犯行に大きな影響を与えたとする趣旨であると解する。)。イ E意見の,被告人の精神障害の有無・程度に関する部分(前記1⑴)のうち,被告人が本件犯行時神経性やせ症及び社交不安障害に罹患していたという点及び神経性やせ症の重症度が中等度程度であったという点は信用できる(なお,本件犯行時の被告人の体重は証拠上不明であり,E医師の上記意見は面接時のBMI(17.3)に基づいているが,体重が本件犯行時からそれほど大きく変化したことをうかがわせる事情はない。)。また,被告人には検査の結果器質的な疾患の所見がなかったという部分や,鬱病の診断基準を満たさないという点についても信用できる。なお,被告人が境界知能であったという点は,被告人の父親が,被告人の学業面での成績は中の上程度という認識で,知能面で問題があると感じたことはなかった旨証言していること,被告人は公判廷での受け答えもかなりきちんとしていることに照らすと,信用性に疑問があるが,E医師は,境界知能が本件犯行に与えた影響について明確に述べていないことに照らすと,この点は本件の結論に影響を及ぼさない。ウ そして,前記前提事実やE医師が指摘する事情に照らすと,被告人が本件犯行時神経性やせ症等により事理弁識能力及び行動制御能力(特に後者)が一定程度低下していたという部分も信用できる。エ しかし,E意見のうち,被告人が,神経性やせ症等により,行動制御能力が著しく損なわれていたとする部分については,以下のとおり,これを採用し得ない合理的な事情が認められる。⑶ア まず,以下のとおり,本件犯行時,被告人に正常(健常)な精神作用が相当程度働いていたことを強くうかがわせる事情が存在するところ,E意見は,これらの事情を十分考慮していない。イ 本件犯行及びその直前直後の行動をみると,被告人は,被害品を買い物かごの中に入れた後,パンコーナーへ向かう経路から外れた別の売場にわざわざ移動した上で,片手で持った買い物かごからもう一方の手である程度かさばる大きさの被害品を取り出してジャンパー内に隠匿し,その後襟元を直しており,また,被害品は発見時に被告人のジャンパーと身体の間に挟み込まれていたこと(前記第2の2⑸)に照らすと,被告人が被害品の落下を防ぐためにそのようにしたものと認められる。この一連の行動は,犯行が発覚することなく被害品を万引きするための,一貫していてまとまりのある合理的・合目的的なものと評価すべきであり(E医師は,被害品をエコバッグ等の中にではなく,衣服内に隠匿した点は稚拙であると述べこの指摘は的を射ないものである。),被告人が,当時,犯行が発覚することなく万引きをするという目的を達成するための合理的な行動をとることや,犯行の遂行に適切な状況になるまで犯行を思いとどまることができていたことをうかがわせる。次に,その前後の行動をみると,被告人は,被害店舗に入った後,速やかに被害品が陳列されているお菓子コーナーに向かっており,被害品を隠匿して襟元を直した後は,速やかにパンコーナーへ移動し,半額の値引きシールが貼られている食パンや,半額になる見込みであると認識していた,翌日が賞味期限の食パンを選んで買い物かごに入れている(具体的には,入店から被害品の隠匿まで2分前後,入店から食パンを買い物かごに入れ始めるまで最大で約3分25秒である 。)。そして,被告人の供述によっても,上記の本件犯行前後の行動についての記憶はおおむねしっかりしているし(前記第2の3),食パンは購入しようとして買い物かごに入れたものと認められることから,本件犯行のせいぜい2分後には,食パンを盗まないという判断をして窃盗の衝動を制御できたか,その衝動がおさまっていたものと認められる。このように,被告人は,本件犯行の前後それほど隔たりのない時点で,ほぼ正常な精神状態にあったことがうかがわれる。ウ このように,被告人の本件犯行及びその前後の行動からは,本件犯行時,正常な精神作用が相当程度働いていたことが強くうかがわれ,この点からは,事理弁識能力はもちろん,行動制御能力の著しい低下もなかったことが強くうかがわれるところ,これらの事情は意見書で言及されておらず,公判廷でも,行動制御能力が大きく障害されているような場合でも前記のような行動をとり得ることの説明ができていない。また,E医師は,被告人が本件犯行を思い出せないことについて,証人尋問において,被告人の公判供述を踏まえて,被告人は,本件犯行時,離人症という,視界にもやがかかったようになり,自分が自分と感じられなくなるという症状で,ぼーっとして知らない間に行動してしまう,やりたくないことをやってしまうという解離の機制の中にあったと思う旨述べている(前記)。そして,弁護人は,このE意見に基づいて,警備員が指摘する被告人の雰囲気の異常さなどと併せて考慮すると,本件犯行時被告人の意識が不清明であった可能性が排斥できないとか,被告人には,本件犯行時,E医師が述べるような機制の中で,やりたくもない万引きをしたものであるから,違法性の認識について実感を備えたものとして有していたことについては疑問があるなどと主張する。しかし,E医師によると,被告人には解離性(同一性)障害の診断はつかず(本件犯行について被告人の記憶が完全に欠落しているわけではないこと,被告人の供述によっても同様の体験をしたことは多くないことなどに照らして信用できる。),離人症は自分が自分と感じられなくなり,記憶がぼんやりするということを表しているだけであり,その間の行動のまとまりがなくなるというものではない( のであるから,解離の機制があったとしても,その影響はそれほど大きくなかったものと考えられる。また,本件犯行時にそのような解離の機制があったことには,以下のとおり,疑問がある。まず,自分が自分でないような感じがしたと被告人が述べているのは,パンコーナーで半額のパンを探している場面であって,本件犯行時にそのように感じたとは供述しておらず E医師はこの点を誤解している。また,本件犯行時,目の前に雲がかかったようであったとか,パンコーナーで半額のパンを探している際に自分が自分でないような感じがしたという被告人の公判供述は,その供述経過に照らすと,信用できない。すなわち,被告人は,捜査段階では,被害品を衣服内に入れてしまった理由は分からないとか,当時周りが見えなくなって視界が狭くなっていた感じだったとは供述しているものの,上記公判供述のような内容は述べておらず(前記第2の3⑴),この点は,第1回公判期日後に実施されたE医師との面接においても同様であり,上記公判供述のうち,自分が自分でないような感じがしたという内容は,1回目の被告人質問でも述べていない(前。E医師は,被告人との面接に約3時間を費やし,その際,本件犯行について詳しく聴取し,被告人の前記捜査段階供述から,解離を疑い,本件犯行時の精神状態や日常生活における解離をうかがわせる体験の有無等を確認したという事情があり,また,捜査段階供述の内容に照らせば,捜査段階でも,本件犯行時の精神状態等についてはかなり詳しく尋ねられているはずであることからすると,上記のような供述経過はかなり不自然であり,E医師が指摘する,治療を重ねていくうちに記憶が想起されることがあるという一般論では説明できないというべきである。そして,E医師は,意見書作成時には,被告人が解離をうかがわせるような体験がないと述べたため,本件犯行時に視野が狭くなったと述べている点は窃盗をすることに集中する視野の狭窄であると考えた旨証言し,警備員が指摘する本件犯行時の被告人の雰囲気の異常さ等も窃盗の欲求の亢進によるものとして説明できると証言していること(前記1⑶)に照らすと,被告人が述べる本件犯行時の精神状態は視野の狭窄でも説明できるといえる。以上によれば,この点は,本件犯行時被告人の意識にやや清明でない部分があった可能性があることを示すにとどまると解すべきである。⑸ さらに,E医師は,神経性やせ症等により行動制御能力が著しく損なわれていたと評価する前提となった具体的根拠を十分説明できていない。ア E医師は,証人尋問において,上記のように評価する前提となった具体的根拠の説明を求められた際,被告人は執行猶予中で,窃盗をしないようにしようと考えて生活していて,代金を支払うための現金等を所持していたのに,少額の商品を盗んでおり,窃盗が癖になっていたことであると述べており,本件犯行の動機が了解不能であること を重視しているものと解される。しかし,以下のような事情に照らすと,本件犯行には,神経性やせ症等の影響により行動制御能力が著しく低下していたのでなければ説明できないほどの動機の異常性があるとは認められない。被告人は,被害品は好きな商品であり食べ吐きに用いるために手に取った旨供述していることに照らすと,被害品を窃取の対象にしたことに不自然な点はない。被告人が,高額の預貯金等を保有していて代金を支払えるだけの現金等を所持し,前件万引きの執行猶予中で,その報道に苦しめられたのに,少額の商品を万引きしたことには容易に理解し難い面があるといえるものの,人は,精神障害の影響がなくても,様々な動機で,冷静であれば思いとどまるような割に合わない犯罪行為に及ぶことがあり,被告人が,節約したいとか,達成感等を得たいといった動機で万引きをしたとしても,それほど不自然とはいえない(被告人は,当時高額の預貯金等を保有していたものの,だまされるなどして多額の現金を失った経験がある(前記第2の1⑶)上,当時安定した収入が得られていたとは認められないし,父親によると,被告人は生活観念があって普段から節約をすることがあり,本件犯行の前日も含め,よく値引きが始まる時間帯に被害店舗に買い物に行っており,加えて,本件犯行は,パンを半額で購入する目的で被害店舗を訪れた際に実行されたものであって,実際に半額になる見込みの食パンを選んで買い物かごに入れている。また,被告人は,万引きをすると辛さや寂しさのようなマイナスの気持ちを忘れられると供述しているところ,本件犯行時,寂しさを感じたり,マスコミ報道に恐怖を感じたり,婚約破棄について悩むなどしていた(前記第2の1⑶⑸)。)。また,執行猶予中であっても,発覚しないと考えたり,発覚して刑務所に収容されるという現実感を持たなかったりして,再犯に及ぶことは珍しくなく,被告人も,万引きによる多数の前科前歴がありながら,前件万引きの判決宣告後も,一人で買い物に行くという万引きをしてしまう危険性の高い行動を複数回とっており,実際に万引きをしてしまった際にも,父親に相談して弁償するだけで,医師に相談するなどの対応をとっていないこと(前記に照らすと,再度万引きをすれば刑務所に収容されることになるという意識を十分持っていなかったことがうかがわれる。イ 他にE医師が指摘している点は,いずれも,神経性やせ症等により行動制御能力等が大きく障害されていたことをうかがわせるものではない。E医師は,被告人が,衣服内に隠匿している被害品を戻せば窃盗罪にならないと考えていたことをもって,万引きについての事理弁識能力が不十分であると述べている(前記1⑶の②)。しかし,被告人は,店外に持ち出さなければ窃盗罪は成立しないなどと考えて被害品を衣服内に隠匿したわけではなく,その行為の意味・性質等の認識に欠けるところはないから,この点は事理弁識能力の低下をうかがわせるものではない。被告人は,午後8時45分頃に被害品をジャンパーの中に入れて窃取した後,警備員に声を掛けられる午後9時1分頃までの約16分もの間,店衣服内に隠匿した被害品を買い物かごに戻そうとしていたことをもって,一貫性を欠くなどと主張し,この点について,E医師は,罪悪感を有している点で普通の窃盗とは異なるなどと証言している。被告人は声を掛けて来た警備員に対して即座に,被害品を買い物かごに戻すつもりだった旨述べていること(前記第2の2⑸)に照らすと,被告人にこの時点で被害品を戻したいという意思がなかったとはいえないが,万引きするために商品を隠匿したものの,罪悪感等により万引きするのをやめて商品を戻そうとすることは,特に不自然ではなく,精神障害の影響がない場合でもあり得るといえる。なお,被害品を隠匿した後,約16分もの間被害店舗内をうろついていた点は,被害品を元に戻そうとしたもののできなかったことだけが理由であれば,かなり不自然にも思えるが,被告人が被害店舗を訪れた目的は半額になるパンを購入するためであり,買い物かごに半額になると被告人が認識していた食パンを複数入れていたこと,被告人はその間パンコ被告人も,その間,半額の値引きシールを貼ってもらってパンを半額で買いたいという気持ちが少しはあったなどと供述していることなどに照らすと,被告人には,買い物かご内に入れていた食パンに午後9時頃に半額の値引きシールが貼られるのを待つという目的も少なからずあったと認められ,そうすると,上記の点はそれほど不自然とはいえない。⑹ このように,E意見のうち,被告人が,神経性やせ症等により行動制御能力に著しい程度の障害を受けていたとする部分については,そのように評価する前提となった具体的根拠を十分説明できていない上,証拠上認められる,正常な精神作用が相当程度働いていたことをうかがわせる事情を十分考慮していないという点で前提条件に問題があるから,その限度でこれを採用し得ない合理的な事情が認められる。そして,被告人の本件犯行時における事理弁識能力及び行動制御能力の低下の程度は,E医師の評価よりも小さかったと認められる。第4 結論以上を前提に,被告人の本件犯行時の責任能力について検討する。被告人の精神障害が神経性やせ症や社交不安障害にとどまること,単純な万引きという本件犯行の性質,本件犯行及びその前後の行動からは正常な精神作用が相当程度働いていたことが強くうかがわれ,それほど不自然・不合理な点が見当たらないことなどに照らすと,被告人の事理弁識能力は,わずかに低下していた疑いがあるにとどまり,窃盗行為を抑制する契機として機能するのに十分なものであったと認められる。そして,これらの事情に照らすと,この弁識に従って行動する能力である行動制御能力についても,神経性やせ症による衝動性の高まりや抑制機能の障害等により一定程度低下していたと認められるものの,その程度はそれほど大きくなかったものと認められ,必要的減軽(刑法39条2項)という効果を認めるべきといえるほど著しいものであった疑いはない。以上によれば,被告人は完全責任能力を有していたものと認められる。(量刑の理由)本件は,スーパーマーケットにおいて,お菓子3点を衣服内に隠して窃取したという万引き1件の事案である。
事案の概要
平成30年12月3日
前橋地方裁判所 太田支部
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[下級] [民事] 平成24(ワ)3042  107ViewsMoreinfo
損害賠償等請求事件
平成24(ワ)3042
本件は,横田飛行場の周辺に居住する住民である原告らが,横田飛行場を航5行する航空機の発する騒音を中心とする侵害によって,生活妨害(睡眠妨害,会話・通話妨害等),身体的被害及び精神的被害を受けているとして,同飛行場をアメリカ合衆国に同国軍隊(以下「米軍」という。)の使用する施設及び区域として提供している被告に対し,原告らのうち差止原告らにおいて,次の⑴の各差止請求をし,併せて,原告らにおいて,次の⑵の請求をする事案であ10る。⑴ 人格権,環境権及び平和的生存権に基づき,航空機の離着陸等の差止め(毎日午後7時から翌日午前8時までの間,一切の航空機の離着陸及びエンジンの作動の禁止),航空機の発する騒音の音量規制(毎日午前8時から同日午後7時までの間,差止原告らの居住地に70dBを超える一切の航空機騒音15を到達させることの禁止)及び米軍の使用する航空機の訓練の差止め(差止原告らの居住地の上空における旋回,急上昇,急降下の訓練の禁止)を求める差止請求(以下,これらの請求を併せて「本件差止請求」という。)⑵ 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施20に伴う民事特別法(以下「民事特別法」という。)1条又は2条に基づき,第1事件原告は平成21年12月12日から,第2事件原告は平成23年8月7日からそれぞれ本件差止請求の対象行為がなくなるまで(以下,第1事件原告につき平成21年12月12日以降,第2事件原告につき平成23年8月7日以降を「本件請求対象期間」という。),原告1名につき1か月当25たり慰謝料2万円と弁護士費用3000円の合計2万3000円の割合による損害賠償請求金及び,うち提訴日までの分82万8000円に対する訴状送達の日の翌日(第1事件については平成24年12月21日,第2事件については平成26年8月22日)から,うち提訴日後については,当該月の翌月1日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金2 被告は,被告(自衛隊)の使用する航空機(以下「自衛隊機」という。)に5関する差止請求及び口頭弁論終結日の翌日以降の将来の損害賠償に係る訴えは不適法であるとして却下を求め,米軍の使用する航空機(以下「米軍機」という。)に関する差止請求は主張自体失当であるとして棄却を求め,口頭弁論終結日までの過去の損害の賠償請求については,原告らが航空機騒音によって受けている影響は受忍限度を超えるものではないなどとして棄却を求めるととも10に,仮に被告に損害賠償責任が生じるとしても,原告らの一部は,横田飛行場における航空機騒音等の存在を認識し,その被害を容認して同飛行場周辺に転入したものであるとして,危険への接近の法理による免責ないし損害の減額を主張し,さらに,住宅防音工事の助成を受けた原告らにつき,被害が軽減しているとして,損害の減額を主張している。15第2部 前提となる事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,括弧内掲記の証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる。第1 横田飛行場の設置・管理の経緯等1 横田飛行場の所在位置及び規模20横田飛行場は,平成29年3月31日現在,東京都の福生市,立川市,武蔵村山市,昭島市(ミドルマーカー(計器着陸装置)関係部分及び鉄道側線敷部分のみ),羽村市及び西多摩郡瑞穂町(以下「瑞穂町」という。)の5市1町にまたがる地域に所在する総面積約713万6000㎡の施設及び区域であり,長さ約3350mの滑走路(これに接続して南側約305m,北側約300m25のオーバーラン部分が設けられている。)及び長さ約2000mの誘導路を有し,格納庫,整備工場等の附属施設のほか,アメリカ合衆国第5空軍司令部,同空軍第374空輸航空団等の各庁舎及び住宅等の支援施設が設置され,後述のとおり,平成24年3月以降,航空自衛隊航空総隊司令部と関連部隊の施設も設置された。2 横田飛行場の設置及び管理の経緯5⑴ 終戦までの経緯旧陸軍省は,昭和15年4月,当時の福生町,羽村町,瑞穂町,砂川町,村山町及び拝島町にまたがる山林及び農地約446㎡を買収して多摩飛行場(旧陸軍の立川飛行場の附属施設)を開設し,昭和20年8月15日の終戦に至るまで,我が国の東部防衛飛行基地として管理運用していた。10⑵ 終戦以後の経緯ア 昭和20年8月15日の終戦によって旧陸軍は解体され,その管理下にあった多摩飛行場は,連合国軍を構成する米軍の進駐に伴い,同年9月に,アメリカ合衆国陸軍に接収された。イ その後,多摩飛行場は,米軍によって整備され,当時の村山町の一字地15名を採って横田飛行場と称されることとなり,昭和21年8月,新たに米軍の使用する飛行場として開設され,以降,アメリカ合衆国空軍によって管理,使用されている。ウ 被告は,昭和27年4月28日,「日本国との平和条約」(昭和27年条約第5号。以下「平和条約」という。)の発効に伴い,「日本国とアメ20リカ合衆国との間の安全保障条約」(昭和27年条約第6号。以下「旧日米安保条約」という。)及び「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基づく行政協定」(以下「行政協定」という。)2条1項に基づき,横田飛行場を,米軍の使用が許される施設及び区域として,アメリカ合衆国に提供した。昭和35年6月23日以降,「日本国とアメリカ25合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」(以下「日米安保条約」という。)及び「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」(以下「地位協定」という。)の締結に伴い,被告は,横田飛行場を,同協定2条1項(a)(同項(b)によって,行政協定の終了の時に使用している施設及び区域は,同項(a)の規定に従って合意した5施設及び区域とみなされた。)に基づき,引き続き,米軍による使用が許される施設及び区域として米軍が飛行場として管理,使用している。なお,アメリカ合衆国が日米安保条約の目的の遂行に当たって使用するため必要とされる施設及び区域の決定並びに返還については,日米両国代表者による合同委員会(以下「日米合同委員会」という。)の協議を経て10行われることとなった。エ その後,被告は,日米合同委員会の協議に従い,アメリカ合衆国に対し,数度にわたって米軍による使用が許される施設及び区域の追加提供を行った。そのうち,滑走路の拡張,航空機運航の安全確保等に関する主なものは,次のとおりである。15昭和30年10月,滑走路拡張用地として約40万8447㎡,ローカライザー(着陸機に滑走路中心線からの左右の逸脱を知らせる装置)用地として約1万1127㎡,アウターマーカー(計器進入着陸装置の一つで滑走路末端からの距離を知らせるもの)用地として約231㎡,アウターマーカーへの出入道路として約699㎡の地役権,航空障害物20制限区域として約7万6972㎡にわたる土地の地役権(ただし,空間に航空機の路線権を認めるための用役制限を内容とするもの。)を提供した。昭和37年12月21日,南と北の進入灯設置用地として約3万3990㎡を提供した。ただし,道路敷に係る部分は都有地等であり,鉄道25敷に係る部分は旧日本国有鉄道所有地であったため,この部分については地役権を提供した。昭和45年5月28日,滑走路の南東側面の無障害地帯として約1万700㎡を提供した。昭和47年2月3日,滑走路北側の無障害地帯として約6万2679㎡を提供するとともに(国有地であるが,このうち約6万2607㎡の5部分は航空障害物制限区域として提供した。),上記 の航空障害物制限区域として既に提供してあった部分の地役権を解除し,改めて航空機の着陸安全確保のための米軍専用区域として同部分約7万6972㎡を提供した。昭和47年3月2日,ミドルマーカー設置用地として約1万716010㎡(このうち約1万6747㎡はミドルマーカー保護のための障害物制限用地として提供されたもの)を提供した。3 横田飛行場の基地機能の変遷⑴ 駐屯部隊及び使用状況等の変遷ア 横田飛行場は,朝鮮戦争,ベトナム戦争の当時は,米軍の爆撃機や戦闘15機の離着陸に使用されていたが,昭和46年の第347戦術戦闘航空団等の沖縄等への移駐に伴う戦闘爆撃機の撤収によって,戦闘基地としての機能を失った。これ以降,横田飛行場は,DC-8,ボーイング727,同747及びその他の米軍にチャーターされた民間航空機並びにC-141及びC-5Aギャラクシー等の軍用輸送機の極東空輸中継基地となり,20昭和50年9月には,沖縄の嘉手納飛行場からC-130を配備した第345戦術空輸大隊が移駐した。イ また,被告は,日米両政府間で協議されていた在日アメリカ合衆国空軍の関東平野地域における施設・区域の整理統合計画(関東平野地域統合計画)に基づき,昭和48年から昭和53年にかけて,府中空軍施設,立川25飛行場,関東村住宅地区等の各施設の返還を受け,これらの各施設の代替施設が横田飛行場内に建設された。そして,昭和49年11月以降,府中空軍施設に置かれていた在日米軍司令部が横田飛行場内に置かれることとなった。昭和63年10月,フィリピン共和国のクラーク基地から第600空軍音楽隊が移駐し,平成元年7月から9月にかけて,同基地から第9航空医5療飛行隊等4部隊が移駐し,同年12月には,第374戦術空輸航空団が移駐した。第374戦術空輸航空団は,平成4年4月,空軍再編の一環として,横田飛行場の維持管理を任務とする第475航空基地団と合併し,第374空輸航空団として再編成された。10ウ 横田飛行場に配備されていたC-130の一部は,平成10年3月末までに,アメリカ合衆国本土のエルメンドルフの空軍基地に移駐した。エ 航空医療輸送機として使用されていたC-9A4機は,平成15年9月末,第347航空医療輸送中隊が解散したことに伴って退役となり,代替機の配備はなかった。15オ 日米安全保障協議委員会は,平成17年10月,「日米同盟:未来のための変革と再編」を発表し,その中で,航空自衛隊航空総隊司令部がアメリカ合衆国第5空軍司令部と同じく横田飛行場内に設置されることが明記された。そして,同委員会は,平成18年5月,「再編の実施のための日米のロードマップ」を発表し,航空自衛隊は,同ロードマップに基づき,20横田飛行場において,航空総隊司令部の運用に必要な各種施設を整備するとともに,指揮システムや自動警戒管制システムなどの指揮統制システム及び器材などの移設作業を進め,平成24年3月26日,航空総隊司令部及び関連部隊の横田飛行場への移設を完了し,横田飛行場における航空総隊司令部の運用を開始した。この際,横田飛行場に移転するなどしたのは,25航空総隊司令部のほか作戦情報隊及び防空指揮群であり,移転後の航空自衛隊の所在人員は約800名である。航空総隊司令部がアメリカ合衆国第5空軍司令部と同じ敷地内に設置されたことにより,被告とアメリカ合衆国との間において,対処可能時間が短い防空及び弾道ミサイル防衛に関し,必要な情報をより迅速に共有することが可能となるほか,日米両司令部組織間の連携が強化され,相互運用5性の向上が図られた。カ 以上のとおり,横田飛行場は,昭和15年4月,旧陸軍省が多摩飛行場として開設して以来,航空機が離着陸する飛行場として使用され,現在は,在日米軍司令部,アメリカ合衆国第5空軍司令部,同空軍の一部並びに航空自衛隊航空総隊司令部及び関連部隊が設置され,C-130(プロペラ10輸送機),C-12(プロペラ輸送機)及びUH-1N(ヘリコプター)が常駐する米軍の輸送中枢基地となっている。⑵ 横田飛行場における夜間着陸訓練の実施と代替施設の検討状況等ア 夜間着陸訓練(Night Landing Practice:NLP)とは,航空母艦(以下「空母」という。)の艦載機が,滑走路の一部を空15母の着艦甲板に見立て,夜間,地上の誘導ライト等を頼りに大きな推力を維持しつつ,滑走路上に定められた基点に向けて滑走路に進入し,着陸後直ちに急上昇をして復航することを数回繰り返すというものである(以下,夜間か否かを問わず,このような内容の訓練を「タッチアンドゴー」ということもある。)。20イ 昭和48年当時,空母ミッドウェー搭載機の夜間着陸訓練は,三沢,岩口の両飛行場を使用して実施されていたが,支援要員の増加,維持修理,補給面での負担の増大及び上記各飛行場が空母ミッドウェーのいわゆる母港である横須賀海軍施設から遠距離にあること等を理由として,関東地方及びその周辺地区で夜間着陸訓練を行いたいとの米軍の要請を受け,昭25和57年2月からは厚木海軍飛行場で同訓練が行われることとなった。そして,昭和58年1月以降は横田飛行場においても同訓練が実施されることとなり,平成3年8月までは空母ミッドウェー搭載の早期警戒機が,同年9月の空母インディペンデンス及び平成10年8月の空母キティホークの各配備後は早期警戒機及び対潜哨戒機等が,それぞれ訓練を実施していた。5横田飛行場における夜間着陸訓練の実施日数を年ごとにみると,昭和58年は21日,昭和61年は7日,昭和62年及び昭和63年は各11日,平成元年は9日,平成2年は17日,平成3年は10日,平成4年は17日,平成5年は28日,平成6年及び平成7年は各5日,平成8年は6日,平成9年は1日,平成10年は5日,平成12年は8日であった。昭和5109年,昭和60年及び平成11年には同訓練は実施されず,また,後述のとおり平成13年以降の同訓練の実施はない。ウ 夜間着陸訓練は主として厚木海軍飛行場で実施されてきたが,同飛行場周辺地域の市街化に伴う騒音問題を早急に解決する必要があり,また,米軍も騒音の軽減や同訓練の効率化を理由に関東地方及びその周辺におけ15る十分な訓練ができる飛行場の確保を要請してきたことから,防衛省(当時の防衛施設庁。以下,省庁名は特に断らない限り現在のものによる。)は,昭和58年度から,既存の飛行場の中に,米軍の要請を満たすとともに,周辺住民の理解が得られる飛行場があるか否か,飛行場を新たに設置するのに適地があるか否かなどの調査検討を行った。20これらの検討の結果,防衛省は,三宅島に空母艦載機着陸訓練場を設置することを計画し,昭和58年12月,三宅村議会において,一旦は官民共用の飛行場を誘致する意見書が決裁されたものの,同議会が,昭和59年1月,昭和58年12月の決議を撤回し,同飛行場の誘致に反対する旨の意見書を決議し,上記訓練場の設置が実現するまで相当の期間を要する25ことが見込まれたため,米軍に対し,硫黄島で空母艦載機着陸訓練を実施するという暫定措置を申入れたところ,平成元年1月,米軍は基本的にこれを受け入れた。エ 防衛省は,平成元年度から,硫黄島に設置されている飛行場(海上自衛隊硫黄島航空基地)において,灯火施設等の滑走路関連施設,給油施設等の夜間着陸訓練に必要な施設の整備に着手し,約166億8600円の予5算を投じて,平成5年3月末に上記施設を完成させた。なお,米軍は,この施設整備期間中においても,硫黄島において,一部完成した施設を使用し,可能な範囲で夜間着陸訓練の一部を実施した。防衛省は,硫黄島における夜間着陸訓練施設の完成に伴い,米軍に対し,硫黄島においてできるだけ多くの訓練を実施するよう強く要望し,米軍も10その要望を受け入れる意向を示した。米軍は,平成5年4月から平成24年5月までの間,硫黄島において,41回にわたり夜間着陸訓練を実施し,その多くは,騒音の比較的大きいジェット戦闘機による訓練であった。オ 横田飛行場は,平成22年度まで,天候等の事情により硫黄島で所要の訓練を実施できない場合の空母搭載機着陸訓練の対象区域に指定されて15おり,米軍は,硫黄島での訓練が悪天候によって予定どおり実施できなかった等の特別な事情がある場合に,横田飛行場において,早期警戒機及び対潜哨戒機による訓練を実施していた。もっとも,米軍は,平成12年9月を最後に横田飛行場においては空母艦戦機着陸訓練(夜間を含む。)を実施していない。204 横田飛行場に係る施設及び区域の一部返還とその後の利用状況⑴ 横田飛行場の用地及び飛行場運営のためにアメリカ合衆国に対して提供された土地(地役権も含む。)のうち,被告が返還を受けた主な土地は,次のとおりである。ア 昭和32年4月5日,旧陸軍時代には射撃練習場として使用され,提供25後は遊休地となっていた土地約17万4474㎡。イ 昭和46年4月12日,横田飛行場から我が国に出入国する外国人を対象とする税関庁舎等を建設するための土地約2012㎡。ウ 昭和47年2月29日,変電所の移設に伴い不要となった土地約1743㎡。エ 昭和52年9月30日及び同年11月11日,不要となったアウターマ5ーカー関連用地約1310㎡。オ 昭和55年8月29日,熊川交差点拡幅のための土地約742㎡。カ 昭和56年8月13日,横田飛行場から我が国に出入国する外国人を対象とする東京入国管理事務所を建設するための土地約750㎡。キ 昭和60年7月8日,国道16号を拡幅するための土地約3万899010㎡。ク 以上の各土地の合計約22万0021㎡に加え,横田飛行場への専用側線(貨物列車の引込線)用地等合計約4800㎡。⑵ 返還土地の利用状況ア 上記⑴アの土地15国有地である約16万0630㎡は,財務省所管の普通財産として,一部は瑞穂町に貸し付けられて,中学校,公民館及び図書館用地として利用され,また,一部は東京都との交換に供されて,高等学校の用地として利用されている。その余の民有地部分は所有者に返還された。イ 同イの土地20財務省所管の行政財産として,横田飛行場を利用する出入国者のための税関及び出入国管理事務所の合同庁舎用地として利用されている。ウ 同ウの土地大部分が民有地であったことから,所有者に返還された。エ 同エの土地25大部分は財務省所管の普通財産として,一部は都道として利用されている。オ 同オの土地東京都の財産として,五日市街道用地の一部として利用されている。カ 同カの土地法務省所管の行政財産として,横田飛行場を利用する出入国者のための5東京入国管理事務所庁舎用地として利用されている。キ 同キの土地国土交通省所管の行政財産として,国道16号用地として利用されている。ク その余の土地のうち国有地の一部は,市道や雨水汚水幹線敷として関係10自治体に無償で貸し付けられている。5 横田飛行場の設置,管理及び米軍機の運航等の法律関係⑴ 終戦までの法律関係旧陸軍は,昭和20年8月15日の終戦まで,旧軍財産として横田飛行場(多摩飛行場)を所管し,飛行場の設置,維持,管理,航空機の運航及びこ15れに伴う航空交通管制(旧航空法は,軍用航空機に対しては適用が除外されていた。)の全てを専権的に行っていた。⑵ 終戦から平和条約発効までの法律関係前記2⑵アないしウのとおり,横田飛行場は,昭和20年9月から平和条約の発効の日の前日(昭和27年4月27日)までは米軍の接収下にあり,20横田飛行場の施設及び区域の維持,管理,航空機の運航及びこれに伴う航空交通管制は,我が国の国内法の制約を受けることなく,米軍の専権下にあった。⑶ 平和条約発効後の法律関係被告は,平和条約の発効により,昭和27年4月28日以降,行政協定225条1項に基づき米軍の使用する施設及び区域として横田飛行場を米軍に提供し,行政協定3条1項により,米軍が管理,使用を開始した。これにより,米軍は,自らの判断と責任において横田飛行場に航空機を配備し,その運航のために,横田飛行場を管理し,使用することとなった。その有する管理,使用権限は,横田飛行場に離着陸する米軍及びその関係の航空機の運航管理行為を含むものであった。5被告は,昭和35年6月23日,日米安保条約及び地位協定を締結し,同日以降,横田飛行場を地位協定2条1項(a),(b)に基づいて提供し,現在に至っているが,アメリカ合衆国は,地位協定3条1項で,使用を許可された施設及び区域内でそれらの運営,管理等のため必要な全ての措置を採ることができるとされており,横田飛行場の管理,使用に係る法律関係は,10従前と同様であって,米軍機の保有及び運航権限は全て米軍の専権に属する。そして,米軍機の運航活動の内容について変更を求めるには,地位協定25条の定める日米合同委員会の協議によらなければならない。6 横田飛行場の航空交通管制等⑴ 航空法の適用除外15被告は,平和条約発効後の昭和27年7月15日,国内における航空機の運航の安全,航行に起因する障害の防止等の目的の下に,航空法(昭和27年法律第231号)を制定した。これに伴って,それまで米軍独自の判断により我が国領空を自由に航行していた米軍機と我が国の航空機との航空活動に伴う種々の面での法的調整を図る必要が生じたため,航空法の制定と併行20して,同日,「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定及び日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実施に伴う航空法の特例に関する法律」(昭和27年法律第232号。以下「航空特例法」という。)を制定し,航空法所定の事項について,次のとおり,適用除25外事項を定めた。これにより,横田飛行場においては,適用除外事項について航空法所定の手続は行われていない。ア 飛行場,航空保安施設の設置に係る国土交通大臣の許可(航空法38条1項)イ 航空機の耐空証明(同法11条)ウ 航空機の運航従事者(操縦士,航空士,航空機関士,航空通信士及び航5空整備士)の資格の技能証明(同法28条1項,2項)エ 操縦教育証明(同法34条2項)オ 外国航空機の蛇行の許可(同法126条2項)カ 外国航空機の国内使用の制限(同法127条)キ 軍需品輸送の禁止(同法128条)10ク 各種証明書等の承認(同法131条)ケ 航空機の運航に関する同法第六章の規定のうち,国土交通大臣の航空交通の指示(同法96条),航空交通情報の入手ための連絡(同法96条の2),飛行計画及びその承認(同法97条)並びに到着の通知(同法98条)を除くその余の事項(なお,適用保留事項は,「日本国とアメリカ合15衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定及び日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実施に伴う航空法の特例に関する法律施行令」(昭和34年制令第334号。以下「航空特例法施行令」という。)によって指定されている。)20⑵ 航空交通管制航空法の制定に伴い,我が国の領空を運行する航空機に対する航空交通管制は国土交通大臣の権限事項となった(同法95条の2ないし97条参照)が,米軍機に対する航空交通管制を全て我が国の国土交通大臣の権限に服せしめるのでは米軍機の運航に支障を来す場合も生じることから,日米合同委25員会は,航空交通管制についても,地位協定6条1項(地位協定締結前は行政協定6条1項)により,地位協定2条(地位協定締結前は行政協定2条)に基づいてアメリカ合衆国に提供された飛行場施設の隣接,近傍空域における航空交通管制業務は,同国が行うことを合意した。具体的には,航空交通管制業務(航空路管制業務,飛行場管制業務,進入管制業務,ターミナル・レーダー管制業務及び着陸誘導管制業務(航空法施行規則199条1項1号5ないし5号)のうち,航空路管制業務を国土交通大臣が所管し,その余の横田飛行場に関する管制業務については米軍が行うこととされ,米軍は,横田飛行場内の離着陸管制,横田飛行場の管制圏及び進入管制区内の航行については,米軍機のみならず我が国の民間機も含め全てこれを管制し,これから離脱し,又は航空路から横田飛行場の進入管制区へ進入する場合には,国土10交通省の航空路管制と管制の引継ぎを行うこととされている。⑶ 航空機騒音に関する日米合同委員会の合意(甲A10,A11)日米合同委員会は,昭和39年4月17日,横田飛行場における米軍の航空機騒音の軽減に関する規制措置について合意し,平成5年11月18日には,同合意を一部改正し,「22時から6時までの間の時間における飛行及15び地上での活動は,米軍の運用上の必要性に鑑み緊要と認められるものに制限される。夜間飛行訓練は,在日米軍の任務の達成及び乗組員の練度維持のために必要とされる最小限に制限し,司令官は,夜間飛行活動をできるだけ早く完了するようすべての努力を払う」ことを合意した(以下「平成5年日米合同委員会合意」という。)。20⑷ 横田飛行場の財産管理面の法律関係平成24年12月31日時点における横田飛行場の施設及び区域(合計713万6000㎡)の財産管理関係の主なものは,財務省所管の普通財産が約608万9000㎡,防衛省所管の行政財産が約2万6000㎡,国土交通省所管の行政財産が約96万㎡,東京都等の公有財産が約3万4000㎡,25民有財産が約2万7000㎡である。7 自衛隊機使用の法律関係⑴ 自衛隊機の運行権限自衛隊法3条は,「自衛隊は,我が国の平和と独立を守り,国の安全を保つため,我が国を防衛することを主たる任務とし,必要に応じ,公共の秩序の維持に当たるものとする」と定め,同法第6章は,自衛隊の行動として,5防衛出動(同法76条),治安出動(同法78条,81条),海上における警備行動(同法82条),災害派遣(同法83条,83条の2,83条の3),領空侵犯に対する措置(同法84条)等の各種の行動を規定している。自衛隊機の運航は,上記のような自衛隊の任務,特にその主たる任務である国の防衛を確実かつ効果的に遂行するため,防衛政策全般にわたる判断の下に行10われる。そして,防衛大臣は,内閣総理大臣が有する指揮監督権(同法7条)の下,自衛隊の隊務を統括する権限を有しており(同法8条),同権限には,自衛隊機の運航を統括する権限も含まれている。防衛大臣は,同権限に基づいて,同法107条5項の規定により,防衛大臣が定めた航空機の使用及び搭乗に15関する訓令(昭和36年防衛庁訓令第2号)を発し,自衛隊機の具体的な運用は,同訓令2条6号に規定する航空機使用者に与えられており,当該航空機使用者は,所属の航空機を同訓令3条に定められた場合に使用することができる。⑵ 自衛隊機の運航に関する規制20自衛隊機に関しては,自衛隊の任務を遂行するため,一般の航空機と異なる性能,運航及び利用の態様等が要求される。そのため,自衛隊機の運航については,次のとおりの規制がある。ア 航空法の適用除外自衛隊法107条1項及び4項は,航空機の航行の安全又は航空機の航25行に起因する障害の防止を図るための航空法の規定の適用を大幅に除外し,同条5項は,防衛大臣は,自衛隊が使用する航空機の安全性及び運航に関する基準,その航空機に乗り組んで運航に従事する者の技能に関する基準を定め,その他航空機による災害を防止し,公共の安全を確保するため必要な措置を講じなければならないとしている。イ 防衛大臣の定める基準等5防衛大臣は,前同項に基づき,上記適用除外の代替措置として,自衛隊が使用する航空機の安全性及び運航に関する基準,その航空機に乗り込んで運航に従事する者の技能に関する基準として,航空機の運航に関する訓令(昭和31年防衛庁訓令第34号)及び航空従事者技能証明及び計器飛行証明に関する訓令(昭和30年防衛庁訓令21号)を定めている。10第2 航空機騒音の評価方法1 音の尺度と航空機騒音の特性音とは,物体の振動等が媒質(気体,液体,固体)を伝わって聴覚に引き起こされる刺激である。音は,音波の周波数によって定まる音の高さ,音圧によって決まる音の大きさ,及び,音波の波形によって定まる音色の3つの要素で15構成される。人間が聴くことのできる範囲(可聴範囲)は,周波数(1秒間における音圧(音波によって空気中に生ずる圧力であって,単位はマイクロパスカル(以下「μPa」と表記する。)である。)による空気の変動の繰り返し回数で,単位はヘルツ(以下「Hz」と表記する。)である。)で約20Hzから2万Hzまでとされているが,もとより個人差がある。また,音圧そのも20の(音波の物理量)に照らしてみた人間の可聴範囲は20μPaから2000万μPaまでといわれているところ,人間の感覚の特徴である対数的性質から,音圧レベル(SPL)については「SPL=20log10P/P0」(P0,Pはいずれも音圧であり,P0には人間の最小可聴単位である20μPaが用いられる。)という対数尺度が成立し,この単位はdBとされ,上記式に人間の25可聴範囲であるP=20μPa~200万μPaを代入すると,SPL=0~120dBとなる。そして,同じ音圧の音でも周波数によって人間の聴覚には異なった音の大きさに聞こえることから,音圧レベルは耳に感じる音の大きさをそのまま表示するものではないため,人間の耳にどの程度に聞こえるかという感覚に基づく生理的ないし心理的な尺度としての「音の大きさ」を定量的に表示する方法として作られたのが,phonである。これは,機械的に正弦波5(純音)を作成し,1000Hzの純音が実際にはどのような大きさに聞こえるかを表すものであり,例えば,1000Hzで70dBの純音と同じ大きさに聞こえる他の周波数帯の音圧レベルの音を,全て70phonと表示して用いるものである。もっとも,phon値は,自然界にはあまり存在しない純音成分だけを取り10出したものであることや,聴感には個人差があることなどから,実際の騒音程度を客観的に表示する値としては十分ではない。すなわち,一概に騒音といっても,実際の騒音は,突発性とか周波数成分の違いなどの様々な特性を有しており,一様ではない。殊に,航空機騒音は,工場騒音,自動車騒音等と比較して継続時間が数秒から数十秒の間欠音であること,音源パワーが桁違いに大き15く広い範囲に騒音影響をもたらすこと,及び,飛行形態や飛行経路の変更,気象条件による飛行方向や音の伝播特性の変化により地上で聞こえる騒音の性状やレベルが大きく変化すること等の特性がある。そこで,航空機騒音にさらされている人間にとっての騒音レベルを評価するには,その騒音の特性をつかみ,「うるささ」という感覚的な評価を重視する20ことが必要であると考えられるようになり,次のような評価方法が考案された。2 PNL(Perceived Noise Level。感覚騒音レベル)⑴ 概要航空機騒音に対して感じる「やかましさ(Noisiness)」(「大きさ」ではない。)を求め(単位はノイ(Noy)であり,1000Hzの25大きさのレベル40phonの音と同じやかましさの音が1Noyとされる。乙A4),これを基礎にして「音の大きさのレベル」に対応するものとして考案されたものに,PNL値による評価方法がある。⑵ 計算方法Noy及びPNLは,次の計算式によって求められる。ア NT(総Noy)=Nmax+0.15(∑N-Nmax)5Nmaxは,騒音を1/3オクターブバンドによる周波数分析をした各周波数帯の最大値である。また,∑Nは,各周波数帯のNoy数の総計である。イ PNLは上記の総Noyを基に次の計算式で算出される。PNL=40+100/3logNT〔PNdB〕103 WECPNL(Weighted Equivalent Continuous Perceived Noise Level。加重等価継続感覚騒音レベル)⑴ 概要昭和46年,国際連合の下部機関であるICAO(Internatio15nal Civil Aviation Organization。国際民間航空機関)は,航空機騒音の特性を考慮し,公共用飛行場周辺のように1日を通して定常的な航空機騒音にさらされている地域の住民が受ける感覚騒音量をより適切に評価する方法として,上記PNLを基礎にしたWECPNL値(以下,略して「W値」という。)による評価方法を採択した。我が国20でも,後記第3のとおり航空機騒音に係る環境基準としてW値を採用し,後記第4のとおり横田飛行場のような防衛施設の周辺対策を実施する上での行政指針としても採り入れた。⑵ 基本的な考え方W値による評価方法は,前記1のような航空機騒音自体の特異性,騒音の251日を通じた定常性といった条件の下では,一般騒音と同様に,瞬間的な騒音レベルであるdBだけで評価するよりも,ある期間(例えば1日)について,時間帯補正をするなどしてその総曝露量で評価した方が人間の感覚的な騒音評価として適切であるとの考え方に基づくものである。WECPNLの個々の意味は次のとおりである。ア W(Weighted)5例えば,90dBの航空機騒音でも,昼間と夜間では周囲の状況(暗騒音の大きさの違い),あるいはその人が日常生活で置かれている状況(仕事,一家団らん,睡眠等)等を考慮した場合には,心理的,生理的に反応する度合いが異なるものとして,時間帯に重み付けをするという意味である。10イ E(Equivalent)1日の航空機騒音の総量を24時間(86,400秒)で平均することを意味し,等価騒音値を求めるという意味である。ウ C(Continuous)等価騒音値が1日中継続するという意味である。15エ PNL(Perceived Noise level)騒音の大きさのみならず,騒音の成分を考慮し,人間がうるさく感じる度合いを単位化したものであり,dBで表示される騒音レベルに対して,感覚騒音レベルと呼ばれるものである。第3 航空機騒音に係る環境基準について201 環境基準告示の経緯公害対策基本法(昭和42年法律第132号)9条1項は,「政府は,大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について,それぞれ,人の健康を保護し,及び生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい基準を定めるものとする。」と,同条4項は,「政府は,公害の防止に25関する施策を総合的かつ有効適切に講ずることにより,第一項の基準が確保されるように努めなければならない。」と定めていたところ,航空機による特殊騒音についても,同条1項に基づき,環境基準が設定された。上記環境基準が設定される経過として,環境庁長官の諮問を受けた中央公害対策審議会騒音振動部会特殊騒音専門委員会は,昭和48年4月12日,「航空機騒音に係る環境基準について(報告)」と題する書面(乙A64)を提出5し,航空機騒音に係る諸対策を総合的に推進するに当たっての目標となるべき環境基準の設定につき,航空機騒音の評価単位として人の感じる「うるささ」を表示するW値を用いることを明らかにするとともに,指針値を70W(商工業の用に供される地域においては75W)以下とし,騒音測定方法,指針値達成期間,指針値達成のための施策等についての検討結果を報告した。そして,10中央公害対策審議会は,上記委員会報告に基づき,同年12月6日,環境庁長官に対し,「航空機騒音に係る環境基準の設定について」と題する答申(乙A65)を行い,環境庁長官は,同月27日,「航空機騒音に係る環境基準について」(昭和48年環境庁告示第154号。以下「昭和48年環境基準」という。)を告示した(甲A3,乙A5)。152 昭和48年環境基準の内容昭和48年環境基準は,生活環境を保全し,人の健康の保護に資するうえで維持することが望ましい航空機騒音に係る基準及びその達成期間につき,次のとおり定めた(甲A3,乙A5)。⑴ 基準値20ア 専ら住居の用に供される地域(地域類型Ⅰ)につきW値70以下(以下,W値は「70W」など数字に「W」を添えて表記する。)とし,それ以外の地域であって通常の生活を保全する必要がある地域(地域類型Ⅱ)につき75W以下とする。各類型を当てはめる地域は,都道府県知事が指定する。25イ 上記におけるW値は,における値とする(以下,これに従ってW値を算定する方式を,後述の防衛施設庁長官の定めた算定方式(防衛施設庁方式)と対比させる意味で,「環境庁方式」という。)。測定は,原則として連続7日間行い,暗騒音より10dB以上大きい航空機騒音のピークレベル(計量単位dB)及び航空機の機数を記録す5るものとする。測定は,屋外で行うものとし,その測定点としては,当該地域の航空機騒音を代表すると認められる地点を選定するものとする。測定時期としては,航空機の飛行状況及び風向等の気象条件を考慮して,測定点における航空機騒音を代表すると認められる時期を選定する10ものとする。評価は ピークレベル及び機数から次の算式により1日ごとの値(単位WECPNL)を算出し,そのすべての値をパワー平均して行うものとする。dB(A) +10log10N-2715上記算式の dB(A) とは,1日のすべてのピークレベルをパワー平均したものをいい,Nとは,午前0時から午前7時までの間の航空機の機数をN1,午前7時から午後7時までの間の航空機の機数をN2,午後7時から午後10時までの間の航空機の機数をN3,午後10時から午後12時までの間の航空機の機数をN4とした場合における次により20算出した値をいう。N=N2+3N3+10(N1+N4)測定は,計量法(平成4年法律第51条)71条の条件に合格した騒音計を用いて行うものとする。この場合において,周波数補正回路はA特性を,動特性は遅い動特性(Slow)を用いることとする。25⑵ 達成期間等公共用飛行場等の周辺地域においては,空港整備法(昭和31年法律第80号)によって区分(第一種から第三種まで)された種別に従い,第三種空港及びこれに準ずる飛行場については直ちに,福岡空港を除く第二種空港については5年(第二種A)又は10年(第二種B)以内に,第一種空港のうち新東京国際空港については10年以内に,新東京国際空港を除く第一種空5港(横田飛行場はこれに含まれる。)及び福岡空港については10年を超える期間内に可及的速やかに行う。そして,達成期間が10年以内とされる飛行場については,中間段階における達成目標として,5年以内に85W未満とする,又は85W以上の地域においては屋内で65W以下とする。達成期間が10年を超える期間内に可及的速やかにとされる飛行場については,上10記5年以内の達成目標に加えて,10年以内に75W未満とし,75W以上の地域については屋内で60W以下とする。自衛隊が使用する飛行場の周辺地域においては,平均的な離着陸回数及び,機種並びに人家の密集度を勘案し,当該飛行場と類似の条件にある上記の飛行場の区分に準じて環境基準が達成され,又は維持されるように努める。15⑶ 東京都は,昭和53年3月,埼玉県は,昭和57年12月,それぞれ横田飛行場周辺に係る地域類型対象区域を定めた上,当該対象区域内において昭和48年環境基準の地域類型を当てはめる地域を指定する旨の告示(東京都告示第309号,埼玉県告示第1841号)をした。これらによると,上記対象区域のうち,地域類型Ⅰを当てはめる地域は都市計画法(昭和43年法20律第100号)8条1項1号に定める第1種住居専用地域,第2種住居専用地域及び住居地域並びに同号の規定による用途地域として定められていない地域とされ,地域類型Ⅱを当てはめる地域は同号に定める近隣商業地域,商業地域,準工業地域及び工業地域とされた(乙A124~A126)。3 平成25年4月1日改正後の環境基準25公害対策基本法は平成5年11月19日に廃止され,同法に代わるものとして新たに施行された環境基本法(平成5年法律第91号)16条1項は,政府が,騒音等に係る環境上の条件について,人の健康を保護し,生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定めるものとする旨規定している。そして,昭和48年環境基準は,環境基本法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成5年法律第92号)2条により,環境基本法16条1項に基5づいて定められた航空機騒音に係る環境基準とみなされた。その後,昭和48年環境基準は平成19年環境省告示第114号により改正され,改正後の基準(以下「現行環境基準」という。)が平成25年4月1日から適用されている。この改正は,近年の騒音測定機器の技術的進歩及び国際的動向に即して,WECPNLの代わりに新たな評価指標として時間帯補正等10価騒音レベル(Level day evening night:Lden)を採用したものである。もっとも,昭和48年環境基準の基準レベルの早期達成の実現を図ることが肝要であり,騒音対策の継続性も考慮すべきであるため,現行環境基準の基準値は昭和48年環境基準の基準値に相当する値とするものとされている。すな15わち,現行環境基準により,環境基準は,Ldenで,地域類型Ⅰにつき57dB以下,地域類型Ⅱにつき62dB以下とされたが,それぞれの数値は70W以下,75W以下に対応する。このことから分かるとおり,Ldenの値はW値から13を引いたものと近似する(以下,昭和48年環境基準と現行環境基準を一括して単に「航空機環境基準」ということがある。)。20第4 防衛施設である飛行場の周辺地域の騒音に関する法制度1 法令の定め⑴ 環境整備法防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律(昭和49年法律第101号。以下「環境整備法」という。)は,自衛隊等(自衛隊又は米軍をいう。25同法2条1項)の行為又は防衛施設(自衛隊の施設又は日米地位協定2条1項の施設及び区域をいう。同条2項)の設置若しくは運用により生ずる障害の防止等のため防衛施設周辺地域の生活環境等の整備について必要な措置を講ずるとともに,自衛隊の特定の行為により生ずる損失を補償することにより,関係住民の生活の安定及び福祉の向上に寄与することを目的とする(同法1条)。5環境整備法4条によれば,被告は,政令で定めるところにより自衛隊等の航空機の離陸,着陸等の頻繁な実施により生ずる音響に起因する障害が著しいと認めて防衛大臣が指定する防衛施設の周辺の区域(以下「第一種区域」という。)に当該指定の際現に所在する住宅について,その所有者又は当該住宅に関する所有権以外の権利を有する者がその障害を防止し,又は軽減す10るため必要な工事を行うときは,その工事に関し助成の措置を採るものとするとされている(以下,同条の定める措置を「防音工事助成」という。)。環境整備法5条によれば,被告は,政令で定めるところにより第一種区域のうち航空機の離陸,着陸等の頻繁な実施により生ずる音響に起因する障害が特に著しいと認めて防衛大臣が指定する区域(以下「第二種区域」という。)15に当該指定の際現に所在する建物,立木竹その他土地に定着する物件(以下「建物等」という。)の所有者が当該建物等を第二種区域以外の区域に移転し,又は除却するときは,当該建物等の所有者及び当該建物等に関する所有権以外の権利を有する者に対し,政令で定めるところにより,予算の範囲内において,当該移転又は除却により通常生ずべき損失を補償することができ20るとされている(以下,同条の定める措置を「移転措置」という。)。環境整備法6条によれば,被告は,政令で定めるところにより第二種区域のうち航空機の離陸,着陸等の頻繁な実施により生ずる音響に起因する障害が新たに発生することを防止し,併せてその周辺における生活環境の改善に資する必要があると認めて防衛大臣が指定する区域(以下「第三種区域」と25いい,第一種区域,第二種区域と併せて「第一種区域等」という。)に所在する土地で同法5条2項の規定により買い入れたものが緑地帯その他の緩衝地帯として整備されるよう必要な措置を採るものとするなどとされている。なお,同法の制定に伴って従前,上記を含む周辺対策の根拠とされていた防衛施設周辺の整備に関する法律(昭和41年法律第135号。以下「周辺整備法」という。)は廃止されたが,周辺整備法に基づき指定された第二種5区域は,その指定時に環境整備法5条1項により指定されたものとみなす(附則4項)こととされている。⑵ 環境整備法施行令,同法施行規則環境整備法の委任を受けた防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律施行令(昭和49年政令第228号。以下「環境整備法施行令」という。)108条は,環境整備法4条の規定による第一種区域の指定,5条1項の規定による第二種区域の指定及び6条1項の規定による第三種区域の指定は,自衛隊等の航空機の離陸,着陸等の頻繁な実施により生ずる音響の影響度をその音響の強度,その音響の発生の回数及び時刻等を考慮して防衛省令で定める算定方法で算定した値が,その区域の種類ごとに防衛省令で定める値以上で15ある区域を基準として行うものとすると規定している。これを受けて定められた防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律施行規則(昭和49年総理府令第43号。平成25年防衛省令第5号による改正前のもの。以下「旧環境整備法施行規則」という。)1条は,上にいう「防衛省令の定める算定方法」を20dB(A) +10log10N-27とし(同条1項),そこにいう「 dB(A) 」を,1日の間の自衛隊の航空機の離陸,着陸等の実施により生ずる音響のそれぞれの最大値をパワー平均して得た値と定義し(同条2項1号),「N」を,1日の間の自衛隊等の航空機の離陸,着陸等の実施により生ずる音響のうち,午前0時直後から午25前7時までの間に発生するものの回数をN1,午前7時直後から午後7時までの間に発生するものの回数をN2,午後7時直後から午後10時までの間に発生するものの回数をN3及び午後10時直後から午後12時までの間に発生するものの回数をN4として,次に掲げる式によって算出して得た値と定義した(同項2号)。N2+3N3+10(N1+N4)5そして,防衛大臣は,これらの値を算定するに当たっては,自衛隊等の航空機の離陸,着陸等が頻繁に実施されている防衛施設ごとに,当該防衛施設を使用する自衛隊等の航空機の型式,飛行回数,飛行経路,飛行時刻等に関し,年間を通じての標準的な条件を設定し,これに基づいて行うものとされた(同条3項)。10また,旧環境整備法施行規則2条は,環境整備法施行令8条にいう防衛省令で定める値について,第一種区域にあっては75W(昭和49年の制定当初は85Wであったが,昭和54年総理府令第41号による改正により80Wと改められ,昭和56年総理府令第49号による改正により75Wと改められた。),第二種区域にあっては90W,第三種区域にあっては95Wと15定めていた(乙A16~A18)。なお,旧環境整備法施行規則は,平成25年防衛省令第5号によって改正され,現行の環境整備法施行規則(以下「現行環境整備法施行規則」という。)1条は,現行環境基準と同じく,W値に代えて時間帯補正等価騒音レベル(Lden)による算定方法を採用しており,2条の定める値も,第一種区域にお20いては62dB,第二種区域においては73dB,第三種区域においては76dBとされている。これらの規定は平成25年4月1日から施行されているが,同日以後の環境整備法4条の規定による第一種区域の指定,5条1項の規定による第二種区域の指定及び6条1項の規定による第三種区域の指定について適用するとされており,横田飛行場を含む同日より前にされた第一25種区域等の指定については引き続き旧環境整備法施行規則の規定によることとなる。2 防衛施設庁方式におけるW値の算定方法等⑴ 算定方法の根拠等旧環境整備法施行規則1条3項は,前記のとおり,同条2項の値(W値)を算定するに当たり,防衛大臣は,自衛隊等の航空機の離陸,着陸等が頻繁5に実施されている防衛施設ごとに,当該防衛施設を使用する自衛隊等の航空機の型式,飛行回数,飛行経路,飛行時刻等に関し,年間を通じての標準的な条件を設定し,これに基づいて行うものとした。そこで,防衛施設庁長官は,上記算定方法の細部基準等として,昭和55年10月2日,「防衛施設周辺における航空機騒音コンターに関する基準に10ついて(通達)」(施本第2234号(CFS)。乙A31。以下「コンター作成旧通達」という。)を定めた。その後の平成16年11月1日,「第一種区域等の指定に関する細部要領について(通達)」(施本第1589号(CFS)。乙A32。以下「コンター作成新通達」という。)により,コンター作成旧通達を廃止し,新たなコンター作成基準を定めた。なお,コン15ター作成新通達は,その後平成19年8月30日に防衛庁の省移行に伴う規定整備により,防衛施設庁長官を防衛大臣に改める等の一部改正が行われて現在に至っている。コンター作成新通達は,防衛施設周辺におけるW値の算定方式(その内容は後記⑵において説明するとおりである。)を定めており,各防衛施設につ20いてこれを用いてW値を算定した上,75W以上となる地域について5Wごとに同一の値を結んだ線を騒音コンターとするものとしている。すなわち,騒音コンターとは,航空機騒音として同一のW値が測定された地点を結んだ線であり,天気図の気圧線(等圧線)や地形図の標高線(等高線)に相当するものである。25⑵ 防衛施設庁方式と環境庁方式の差異コンター作成旧通達及びコンター作成新通達に定められたW値の算出方法(以下,「防衛施設庁方式」という。)の具体的内容,とりわけ環境庁方式との差異は,次のとおりである(甲A3,乙A5,A31,A32)。ア 防衛施設庁方式では,航空機の飛行回数について,飛行しない日も含めた1年間の全ての日を対象に,1日の総飛行回数の少ない方からの累積度5数曲線を求め,累積度90%に相当する値(下から数えて90%,上から数えて10%である。)をその防衛施設における1日の標準総飛行回数とする(以下,これを「累積度数90%方式」という。)。これに対し,環境庁方式は,標準総飛行回数として,運航スケジュールを用いて算出した1日当たりの単純平均回数を用いる。10イ 騒音の継続時間に応じた補正(継続時間補正)に関して,環境庁方式では,最大騒音レベルから10dB低いレベルを超える騒音の継続時間を,実際の時間にかかわらず一律に20秒としているのに対し,防衛施設庁方式では,実際に測定した継続時間に応じ,また,飛行中とエンジン調整中とを区別して,補正を加えている。15ウ 防衛施設庁方式では,ジェット機の着陸時のものと確認できる騒音については,着陸音補正として2dBを加算しているが,環境庁方式ではそのような補正はしない。エ このような差異があることから,防衛施設である飛行場の周辺において,同一の条件の下で,環境庁方式によって算定されるW値と防衛施設庁方式20によって算定されるW値を比較すると,後者が前者よりも3から5程度高くなるとされている。3 横田飛行場周辺の騒音コンターの作成及び区域指定等⑴ 被告は,昭和52年3月14日から同月21日まで及び同年7月8日から同月13日までそれぞれ予備調査を行って横田飛行場に離着陸する米軍機の25飛行形態を把握し,次いで,同月18日から同月25日までの間(夏季)及び昭和53年2月13日から同月14日までの間(冬季),本調査を行い,飛行場内測点(測点500),北側固定測点(測点15)及び南側固定測点(測点169)において常時測定員を配置し,24時間連続して,騒音の発生時刻,機種,飛行方法,ピーク騒音レベル,時間特性,1時間ごとの暗騒音,気象状況等を観察した。また,移動点測定として,同時に12点ないし515点にわたる測定が可能な人数で,約1週間にわたって,毎日午前8時から午後5時まで,移動しながら測定をした。被告は,これらの資料を総合し,N(1日の飛行回数)及び各地点でのdBを算出し,着陸音補正(着陸時のジェット騒音について2dBを加える。)及び継続時間補正(継続時間の補正は10logT/20による。)を行う10などして,横田飛行場周辺のW値を求め,それによる騒音コンター図(等音線ともいうべきもの)を作成し,これに基づき,道路,河川等現地の状況を踏まえ,次のとおり順次区域指定を行った。ア 被告は,昭和54年8月31日,環境整備法4条及び5条1項に基づき,85W以上の区域を第一種区域,90W以上の区域を第二種区域として指15定し,同施行令19条に基づき,その旨を告示した(防衛施設庁告示第17号。乙A27)。イ 被告は,昭和54年9月14日総理府令第41号(乙A17)による旧環境整備法施行規則2条の改正に伴い,昭和55年9月10日,80W以上の区域を新たに第一種区域として指定し,その旨を告示した(防衛施設20庁告示第14号。乙A28)。ウ 被告は,昭和56年12月21日総理府令第49号(乙A18)による旧環境整備法施行規則2条の改正に伴い,昭和59年3月31日,75W以上の区域に新たに第一種区域として指定し,その旨を告示した(防衛施設庁告示第4号。乙A29。以下「昭和59年告示」という。)。25⑵ 平成17年における第一種区域の解除及び指定ア 被告は,飛行場周辺における航空機騒音対策を始めとする周辺対策について,今後の採るべき施策の在り方に関する検討の資料を得ることを目的として,平成13年9月,有識者による「飛行場周辺における環境整備の在り方に関する懇談会」を設置し,同懇談会は,平成14年7月,「区域指定した時点に比べて,騒音の程度が大幅に変化しているのであれば,国5は騒音訴訟判決において現状の騒音状況を踏まえた判断を受けていない」こととなる旨を指摘するとともに,「真に騒音等の影響を受けている住民に対して限られた財源を効果的に支出する観点から,深刻な騒音等の影響を被っている区域を見極める必要があり,改めて計画的に全国の飛行場施設の騒音度を調査し,各防衛施設ごとに段階的に区域の見直しを図ること10が適切な時期が到来している。」旨の提言を行った(乙A30)。このような状況を踏まえて,東京防衛施設局は,財団法人防衛施設周辺整備協会に対し,横田飛行場周辺の現地調査を委託し,平成15年度に概ね次のとおりの内容で調査が実施された(乙A89。以下「平成15年度調査」という。)。15調査期間平成15年8月20日から同月22日までの間,離着陸訓練等の飛行態様や測定点の適切性を調査する事前調査を実施し,その後,同年9月5日から同月13日までの間(夏季),同年11月3日から同月10日までの間(秋季),平成16年2月20日から同月28日までの間(冬20季)の3回にわたり本調査を実施した。また,飛行回数調査は,後述のとおり自動騒音測定装置によるものを含めて平成15年4月1日から平成16年3月31日までの間を対象として実施した。調査対象地域25横田飛行場における過去の調査結果,飛行経路図等を参考にして,滑走路を中心としてその延長方向に38km,垂直方向に6kmの範囲とした。測定点は現地調査をした52地点と従前から自動騒音測定装置が設置された13地点とした。調査対象機種調査対象機種は,C-130,C-21,C-5,UH-1等である。5事前調査における調査方法離着陸訓練等の飛行態様を現地で把握するとともに,あらかじめ地図上で選定した測定点を踏査し,暗騒音レベルが低く測定に支障がないこと,航空機の飛行状況が確認できる場所であること等,測定点として適切であるか否かを調べた。また,不適当な場合は当初選定した予定地を10至近の適当な場所に変更するなどし,その周辺において測定点として妥当な場所に測定点を設定した。最終的に選定した測定点を地図上で確認するとともに,周辺の既存住宅や主要道路等について調査を行った。本調査における調査方法a 飛行状況調査15横田飛行場においては,米軍から飛行回数に関する資料が提供されず,自動騒音測定装置の観測データを基に飛行回数を確認するため,1週間連続で測定する点を設定し,機種,方向,態様,経路等を正確に確認し,その比率を基に標準飛行回数の基となるデータを取得した。測定は,夏,秋,冬の3季について行い,測定時間は,自動騒音測定20装置のデータを基に,年間を通してほとんど飛行のない深夜の時間帯を除き,午前6時から午後10時までの16時間の測定を行った。秋季については,午前8時から午後10時までの14時間とした。b 飛行経路調査飛行経路及び基礎データ作成用のスラントディスタンスの確認のた25め,過去の調査結果を参考に測定点を設定し,仰角測定により飛行位置(平面位置,高度)を確認した。c 基礎データ調査地上面にウィンドスクリーンを装着したマイクロホンを設置し,普通騒音計(C特性)を通してデータレコーダに録音し,持ち帰り分析用のデータとした。5d ピーク騒音レベル及び継続時間地上約1.5mの高さにウィンドスクリーンを装着したマイクロホンを設置し,普通騒音計(A特性)を通してレベルレコーダに記録し,ピーク騒音レベル及び継続時間を読み取るとともに,飛行時刻,機種,飛行経路,飛行態様等をデータ用紙に記入した。10飛行回数平成15年4月1日から平成16年3月31日までの期間の自動騒音測定装置(横田飛行場滑走路両端の2地点のもの)の航空機騒音発生回数及び現地調査における飛行状況調査の結果を基に求めた。W値の算出15上記調査に基づく機種別,飛行態様別,飛行経路別のピーク騒音レベル,1日の標準飛行回数,継続時間のデータに基づき,防衛施設庁方式より各測定地点のW値を算出し,それによるコンター図を作成した。イ 被告は,平成17年10月20日,上記アの平成15年度調査の結果に基づき,これまでの第一種区域等を見直し,区域の指定及び指定の解除(指20定の解除については,平成19年5月1日から適用。)を行い,防衛施設庁告示第9号をもって告示した(乙A19。以下「平成17年告示」という。)。新たに指定し直された第一種区域の範囲は,別紙4-1「横田飛行場に係る第一種区域指定等参考図」の「凡例」に「第一種区域 平17.10.20防衛施設庁告示9号」と記載された赤実線で囲む区域であり,25指定を解除された第一種区域は,「第一種区域解除区域 平成19.5.1解除」と記載された赤斜線部分である(以下,平成17年告示における第一種区域とその外側の区域とを画する線を「第一種区域線」という。)。また,平成17年告示によって従前の第二種区域の指定も一部解除されたが,横田飛行場については,環境整備法附則4項の規定によって第二種区域及び第三種区域とみなされる地域が引き続き存在し,その範囲は,別5紙4-1「横田飛行場に係る第一種区域指定等参考図」及び別紙4-2「横田飛行場に係る移転措置対象区域指定参考図」の各「凡例」にそれぞれ「第二種区域(みなし) 昭42.3.31防衛施設庁告示第5号」と記載された黄色の実線で囲む範囲,「第三種区域(みなし) 昭42.3.31防衛施設庁告示第5号 昭44.4.15防衛施設庁告示第6号」と記載10された緑色の実線で囲む範囲のとおりである。もっとも,横田飛行場周辺区域は,第三種区域指定の基準(95W以上の区域)に達していないことから,同区域の指定はされていない。ウ 工法区分線等の設定防衛大臣は,環境整備法4条に基づく住宅防音工事の助成を行うため,15「防衛施設周辺における住宅防音事業及び空気調和機器稼働事業に関する補助金交付要綱」(平成22年防衛省訓令第10号。乙A25)を定めており,その5条に基づき,防衛省地方協力局長は,住宅防音工事標準仕方書(乙A53。以下「防音工事仕方書」という。)及び住宅防音工事の標準仕方に係る工法区分線の設定等要領(乙A212。以下「区分線設定20等要領」という。)を定めている。防音工事仕方書は,住宅防音工事の工法として第Ⅰ工法と第Ⅱ工法を定めている。第Ⅰ工法は,80W以上の区域内の住宅を対象として計画防音量を25dB以上とするものであり,第Ⅱ工法は,75W以上80W未満の区域内の住宅を対象として計画防音量を20dB以上とするものであ25る。そして区分線設定等要領は,それぞれの工法の適用区域を区分する線(以下「工法区分線」という。)の設定方法を定めている。上記2工法による住宅防音工事は居室を対象として行うものであるが,防音工事仕方書は,このほかに家屋全体を一つの区画としてその外部について実施する防音工事すなわち外郭防音工事(後記4⑵オ)を定めている。区分線設定等要領によれば,全ての住宅が外郭防音工事の対象となる区域5の外郭線(以下,単に「外郭線」という。)について,85Wを基準値とする第一種区域が指定されていない場合,85Wの騒音コンターと重なる住宅の所在状況を勘案して,85Wの騒音コンターに沿って引くものとされている。防音工事仕方書及び区分線設定要領の以上の定めは,防衛施設庁長官が10昭和56年4月に通達によって定めたもの(乙A48)が引き継がれ,変更が加えられて現在に至ったものである。横田飛行場については,平成17年10月20日,当時の防音工事仕方書及び区分線設定等要領に基づき,平成15年度調査に基づく騒音コンターにおける80Wのコンターを基礎にした新たな工法区分線と85Wの15騒音コンターを基礎にした新たな外郭線が設定された。エ 本件請求対象期間の区域指定以上の結果,横田飛行場周辺地域においては,平成17年10月20日以降,防衛施設庁方式による平成15年度調査に基づくW値の大きさに従って,75Wコンターにつき第一種区域線,80Wコンターにつき工法区20分線,85Wコンターにつき外郭線を画されていることとなり,現在もこれが維持されている(以下,これらに係るコンターを「告示コンター」ということがある。)。本判決においては,上記の告示コンターによる第一種区域の外側の地域を「指定区域外」,第一種区域線と工法区分線の間の地域を「75W地域」,25工法区分線と外郭線の間の地域を「80W地域」,外郭線の内側地域を「85W地域」といい,また,第一種区域線の内側全体を「告示コンター内地域」又は「75W以上の地域」という。4 助成措置の対象となる防音工事の概要と種類⑴ 概要助成措置の対象となる防音工事とは,建物中の工事対象となる居室又は区5画の内外部開口部の遮音工事,外壁又は内壁及び室内天井面の遮音及び吸音工事並びに換気設備と冷暖房設備を取り付ける空気調和機器の設置工事を内容とするものであり,被告は,各対象家屋所有者らに対し,これらの工事に要する経費を補助金として交付する。一定の補助限度額が設けられているものの,補助率は原則10分の10であって,建物の構造が通常のものと特に10異なっているというような特殊な場合(外部開口部となる窓の数が多い場合や,その面積が通常の規模に比して特に大きい場合など)を除き,個人負担が生じることはない。⑵ 種類防音工事は,次のとおり,新規防音工事,追加防音工事,一挙防音工事,15防音区画改善工事及び外郭防音工事に分類される(乙A39)。ア 新規防音工事いまだ防音工事が実施されていない住宅につき,住宅の世帯人員にかかわらず,2居室以内の居室(平成11年12月10日までは世帯人員4人以下の場合は1居室)に実施するものである。20新規防音工事は,住宅防音工事の進捗状況等を踏まえて,平成21年度をもって廃止され,平成22年度以降は,防音工事が実施されていない住宅については一挙防音工事が実施されることとなった。イ 追加防音工事上記アの新規防音工事を実施した住宅につき,5居室を上限とする世帯25人員に1を足した居室数から,新規防音工事を実施した居室数を減じた居室数以内の居室に防音工事を実施するものである。ウ 一挙防音工事いまだ防音工事が実施されていない住宅につき,5居室を上限とする世帯人員に1を足した居室数以内の居室に,住宅防音工事を実施するものである。5エ 防音区画改善工事バリアフリー対応住宅,フレックス対応住宅及び身体障害者福祉法4条が規定する身体障害者等が居住する住宅等につき,専用調理室(台所),区画された玄関,廊下,浴室その他の居室以外の区画と居室とを併せて1つの防音区画として防音工事を実施するものであり,平成11年度から実10施されている。世帯人員が4人以下の場合には5居室,5人以上の場合は世帯人員に1を加えた居室数(ただし,防音工事実施済みの場合は実施された居室数を減じる。)が上限となる。なお,既に追加防音工事又は一挙防音工事が実施された住宅については,原則として各工事の完了の日から起算して10年以上が経過していることを要する。15オ 外郭防音工事前述の85W以上の外郭線の内側の区域(外郭対象区域)に所在する住宅のうち,防音工事を実施していない居室を有する住宅につき,世帯人員にかかわらず,原則として,住宅全体を1つの防音区画として,その外郭について防音工事を実施するもので,平成14年度から実施している。第20一種区域のうち外郭対象区域を除く区域(75W以上85W未満の区域)に所在する鉄筋コンクリート造系の集合住宅のうち,防音工事を実施しておらず,一定の条件を満たす住宅も対象となる。なお,外郭対象区域に所在する住宅のうち,既に追加防音工事又は一挙防音工事が実施された住宅については,原則として各工事の完了の日から起算して10年以上が経過25していることを要する。⑶ 防音工事の助成対象となる住宅防音工事の助成対象となる住宅は,環境整備法4条では,第一種区域の指定の際に当該区域内に現に所在する住宅となっているが,被告は,当該区域指定に先立ち,昭和50年度から周辺整備法に基づき指定された第二種区域内で防音工事の助成処置を行ってきた。その後,前記3⑴のとおり,被告は,5昭和54年8月31日,昭和55年9月10日,昭和59年9月31日及び平成17年10月20日に順次第一種区域の指定(あるいは指定解除)をしたが,その結果,例えば昭和54年の指定日以降に建築された住宅は,85W以上の地域では環境整備法による助成対象とはならないのに,昭和55年の指定で新たに第一種区域とされた80W以上85W未満の地域では助成対10象となるといういわゆるドーナツ現象が生じた。そのため,被告は,行政措置により,横田飛行場周辺においては,平成8年度から85W以上の地域,平成11年度から80W以上の地域において,ドーナツ現象により助成対象外となった住宅に対しても防音工事の助成を行い,さらに,平成17年告示による第一種区域内の上記のいずれにも該当しない住宅(いわゆる告示後住15宅)のうち,一定の地域及び基準日に所在するものについても同様の助成を行っている。第5 原告らの訴訟承継及び居住地等別紙3-1認容額一覧表の「氏名」欄に「(被承継人)」と付記した者は,提訴後の同「死亡日」欄記載の日に死亡し,別紙3-3承継人認容額一覧表の20当該「被承継人」に対応する「承継人」欄に記載の者が同「相続割合」欄記載の割合で本件に関し相続した。原告ら(前記の被承継人を含む。)の居住関係(住所,居住期間,居住地に係る区域指定におけるW値等)は別紙5移動経過一覧表に記載のとおりである。なお,原告番号151の原告の平成23年8月7日から平成24年7月17日25までの間の住所は,当事者間に争いのないものと解される。第6 横田飛行場の騒音訴訟の経緯等横田飛行場の周辺住民らは,昭和51年以降数次にわたり,横田飛行場に離着陸する航空機による騒音等の被害を受けているとして,被告に対し損害賠償等を求める訴えを提起して救済を求めてきた。その経緯は次のとおりである。1 第1,2次訴訟5⑴ 横田飛行場の周辺住民らは,昭和51年4月28日及び昭和52年11月17日,被告に対し,横田飛行場における航空機の離着陸等の差止め並びに過去及び将来の損害賠償を求める訴えを東京地方裁判所八王子支部に提起した。同裁判所は,昭和56年7月13日,差止請求に係る訴えを却下し,85W以上の地域に受忍限度を超える騒音被害が生じているとして過去の損害10賠償請求の一部を認容し,その余の請求を棄却した(判例タイムズ445号88頁,判例時報1008号19頁)。⑵ 上記判決に対し,双方が控訴し,東京高等裁判所は,昭和62年7月15日,差止請求に係る訴えを却下した部分に対する原審原告らの各控訴を棄却し,損害賠償に係る部分については,原判決を変更して,過去の損害賠償請15求につき昭和48年環境基準における地域類型Ⅰについては75W以上の地域,地域類型Ⅱについては80W以上の地域に受忍限度を超える騒音被害が生じているとして認容額を変更し,将来(控訴審口頭弁論終結の日の翌日以降)の損害賠償請求部分に係る訴えを却下した(判例タイムズ641号232頁,判例時報1245号3頁。以下「横田昭和62年控訴審判決」という。)。20⑶ 上記判決に対し,原審原告らが上告したが,最高裁判所は,平成5年2月25日,米軍機の離着陸等の差止請求は主張自体失当として棄却すべきであるから,原審がこれを不適法として却下したことは相当ではないが,不利益変更禁止の原則により上告棄却にとどめるとしたほかは,原審(控訴審)の判断を支持して上告を棄却した(裁判集民事167号359頁,判例タイム25ズ816号137頁,判例時報1456号53頁。以下「横田平成5年最高裁判決」という。)。2 第3次訴訟⑴ 横田飛行場の周辺住民らは,昭和57年7月,被告に対し,横田飛行場における航空機の離着陸等の差止め並びに過去及び将来の損害賠償を求める訴えを東京地方裁判所八王子支部に提起した。同裁判所は,平成元年3月155日,差止請求に係る訴え及び将来の損害賠償請求に係る訴えは不適法として却下し,過去の損害賠償請求につき,前記1⑵の控訴審判決と同様に,昭和48年環境基準における地域類型Ⅰについては75W以上の地域,地域類型Ⅱについては80W以上の地域に受忍限度を超える騒音被害が生じているとして一部を認容し,その余の請求を棄却した(判例タイムズ705号20510頁,判例時報1498号44頁)。⑵ 上記判決に対し,双方が控訴し,東京高等裁判所は,平成6年3月30日,差止請求に係る訴えを却下した部分に対する原審原告らの各控訴を棄却し,損害賠償に係る部分については,原判決を変更して,過去の損害賠償請求につき,受忍限度に関しては基本的に一審と同様としつつ,慰謝料の基準額を15一部増額するなどして一部を認容し,将来(控訴審口頭弁論終結後)の損害賠償請求部分に係る訴えを却下し(ただし,不利益変更となる部分は控訴棄却とした。),同判決は確定した(判例タイムズ855号246頁,判例時報1498号25頁)。3 第5ないし7次訴訟,第4,8次訴訟20⑴ 横田飛行場の周辺住民らは,平成8年4月,平成9年2月及び平成10年4月,被告及びアメリカ合衆国に対し,横田飛行場における航空機の離着陸等の差止め等並びに過去及び将来の損害賠償を求める訴えを東京地方裁判所八王子支部に提起した。同裁判所は,被告に対する訴訟につき,平成14年5月30日,差止請求等に係る訴えを棄却し,将来の損害賠償請求に係る訴25えは不適法として却下し,75W以上の地域に受忍限度を超える騒音被害が生じているとして過去の損害賠償請求を一部認容し,その余の請求を棄却した(判例タイムズ1164号196頁,判例時報1790号47頁)。なお,アメリカ合衆国に対する訴訟については,訴えを却下する旨の判決がされ,最高裁判所は,平成14年4月12日,我が国の民事裁判権はアメリカ合衆国の主権行為には及ばないとしてこれを是認した(民集56巻4号5729頁)。⑵ 被告に対する上記判決に対し,双方が控訴し,東京高等裁判所は,平成17年11月30日,原判決を変更し,差止請求等に係る請求につき改めて棄却し,損害賠償に係る部分については,地域類型ⅠとⅡを区別することなく75W以上の地域に受忍限度を超える騒音被害が生じているとして過去の損10害賠償請求を一部認容し,将来の損害賠償請求に係る訴えにつき,控訴審の口頭弁論終結日の翌日から判決の言渡し日までについて一部認容し,その余は不適法として却下した(判例タイムズ1270号324頁,判例時報1978号7頁。以下「横田平成17年控訴審判決」という。)。⑶ 最高裁判所は,上記判決に対する被告の上告受理申立てを受理した上,平15成19年5月29日,将来の損害賠償請求に係る訴えのうち原審が認容した部分を破棄し,同部分に係る訴えを却下した一審判決は相当であるとして原審原告らの各控訴を棄却した(裁判集民事224号391頁,判例タイムズ1248号117頁,判例時報1978号7頁。以下「横田平成19年最高裁判決」という。)。20⑷ なお,この間の平成6年12月と平成12年8月も,横田飛行場の周辺住民らが同種の訴訟を東京地方裁判所立川支部に提起した(第4,8次訴訟)が,同裁判所は,平成15年5月13日に,75W以上の地域に受忍限度を超える騒音被害が生じているとして上記⑴と基本的に同旨の判決を言い渡した。東京高等裁判所は,一審判決後の平成15年度調査に基づく告示コンタ25ーの変更前と変更後の各75W以上の地域に受忍限度を超える騒音被害が発生しているとして過去の損害賠償の認容額を一部変更するほかは一審の判断を基本的に支持する判決を言い渡し,最高裁判所での原審原告らの上告棄却・不受理決定により確定した。4 第10,11次訴訟横田飛行場の周辺住民ら(本件訴訟の原告らとは異なる。)は,平成22年53月及び同年8月,被告に対し,横田飛行場における航空機の離着陸等の差止め並びに過去及び将来の損害賠償を求める訴えを東京地方裁判所立川支部に提起した。同裁判所は,平成29年10月11日,①航空機の離着陸等の差止請求のうち,自衛隊機に係る訴えを却下,米軍機に係る請求を棄却し,②将来の損害賠償請求に係る訴えを不適法として却下するとともに,③75W以上の地10域に受忍限度を超える騒音被害が生じているとして過去の損害賠償請求を一部認容した(公刊物未登載・判例秘書登載)。5 本件訴訟は,通算すると第9,12次訴訟に当たる。第3部 当事者の主張第1 原告らの主張151 差止請求権の法律上の根拠と許容性⑴ 法律上の根拠差止原告らは,以下のとおり,憲法上保障される人格権,環境権及び平和的生存権に基づき,被告に対し,①横田飛行場における航空機の離着陸及びエンジン作動の差止請求権や,差止原告らの居住地内への70dBを超える20航空機騒音の到達の差止請求権,及び,②差止原告らの居住地の上空における航空機訓練の差止請求権を有する。ア 憲法13条,25条は,①個人の生命,身体,精神及び生活利益といった人間としての生存に基本的かつ不可欠な利益の総体としての人格権,②国民が健康で快適な生活を維持し得る外的条件であるところの良好な環25境を享受し,かつ支配し得る権利としての環境権,及び,③平和的手段によって平和状態を維持し,その下で快適な生活をする権利としての平和的生存権を保障し,差止原告らはこれらの権利を保有している。他方,被告は,国民の生命,自由及び幸福追求に対する権利(憲法13条)及び国民が健康で文化的な生活を営む権利(憲法25条)を積極的に保障すべき義務を負うとともに,環境の保全についての基本理念に則り,5環境の保全に関する基本的かつ総合的な施策を策定し,及び実施する責務を有しており(環境基本法6条),その施策は,環境基本法16条以下の環境基準として具体化されている。イ 横田飛行場の航空機騒音等は,周辺住民に対し,その健康な生存に対する重大な脅威となる睡眠妨害を始め,円満な日常生活全般の破壊をもたら10すものであるとともに,聴力損失の被害を生じさせる高度の危険性を有するものであるから,上記騒音によって,差止原告ら横田飛行場周辺住民の人格権の一内容である身体的人格権や平穏生活的人格権(平穏安全な生活を営む権利)等が侵害されていることは明らかである。そして,人間の一般生活サイクル上,静謐,静穏が必要となる時間帯で15あり,騒音による生活被害の程度が極めて大きい夜間(午後7時から翌日午前8時までの間)においては,航空機の離着陸等自体を差し止めなければ,差止原告ら横田飛行場周辺住民の静謐,静穏な日常生活を取り戻すことはできないし,被告が,環境基本法16条1項に基づき,騒音に係る一般的な環境基準として,一定程度の交通量が当然予想される「幹線交通を20担う道路に近接する空間」の昼間(午前6時から同日午後10時までの間)の時間帯における基準値を70dB以下と定めている(甲A4)以上,昼間(午前8時から同日午後7時までの間)の横田飛行場の使用に伴う騒音も同基準値を超えないレベルに抑制されるべきである。ウ 横田飛行場は,人口過密都市に所在する飛行場であるため,一度その航25空機が墜落すれば大惨事となるところ,横田飛行場の上空における航空機の旋回訓練は,海上等に分散せず,市街地を通るコースで行われているため,周辺住民らは,航空機の墜落の危険と隣合せの生活を余儀なくされている。加えて,旋回訓練は,一度の訓練で航空機が複数回上空を飛来するものであり,長時間に及ぶ訓練でもあるため,旋回訓練の実施に伴い,騒音の程度及び回数は当然増加することとなる(例えば,C-130が横田5飛行場の西側のコースで旋回訓練をする場合,機体が約3~4分で1周することとなり,これを2,3機が同時に行うと,訓練終了まで常に騒音が鳴り響く状態が続くのである。)。また,横田飛行場では,戦地において地上からの砲火を避けるための訓練として,一定の高度をとりながら滑走路に近づき,滑走路のすぐ近くま10で来てから急降下し,接地後に素早く離陸体勢に入り急上昇して離陸するという訓練(タッチアンドゴー)等,急上昇,急降下を伴う訓練が行われているところ,同訓練は,周辺住民に航空機の墜落の危険をより強く抱かせる危険な態様の訓練である上,これに伴う騒音,振動はすさまじいものである。15このように危険な態様の訓練が人口過密都市に所在する横田飛行場内ないしその周辺上空で行われていること自体,異常であるというほかなく,上記訓練の実施によって,差止原告ら周辺住民の平穏生活的人格権等が侵害されていることは明らかである。エ 上記のとおり,横田飛行場における航空機騒音等によって,差止原告ら20周辺住民の人格権等は現に侵害され又は侵害される危険性が差し迫っているのであり,裁判所において差止請求を認める以外にはその被害を救済する手段はないのであるから,本件において,差止めを認める必要性は非常に高いというべきである。オ 以上によれば,本件で,差止原告らは,人格権等に基づき,①夜間にお25ける航空機の離着陸等の差止め,②昼間における航空機騒音の音量規制,及び,③航空機訓練の禁止を求めることができる。⑵ 民事訴訟による自衛隊機の差止めが可能であることア 被告は,厚木飛行場に関する最高裁判所平成5年2月25日第一小法廷判決(民集47巻2号643頁。以下「厚木平成5年最高裁判決」という。)等を根拠に,自衛隊機の離着陸等の差止めや自衛隊機の発する騒音の音量5規制を求める訴えは,民事上の請求としては不適法である旨を主張する。しかしながら,上記訴えが不適法であるとして,差止原告らの人格権侵害の有無等を判断しないことは,憲法32条が国民の裁判を受ける権利を保障していることに照らして許されないというべきであるし,被告の引用する厚木平成5年最高裁判決の内容は誤りを含む不合理なものであるか10ら,被告の上記主張は失当である。イ 行政事件訴訟法及びその関連法規の解釈に当たっては,憲法32条の保障する国民の裁判を受ける権利の重要性を考慮すべきであること,そもそも,民事訴訟法と行政事件訴訟法は,その適用に関し二者択一の関係にあるものではなく,国民に生じる権利侵害の原因が行政行為にある場合など15に,民事訴訟における解決を図るか,行政訴訟における解決を図るかは,裁判手続を利用する者の選択に委ねられていること,実体的権利関係についてみても,行政上は合法であるものの民事上は違法であるということは当然にあり得ることなどからすれば,権利侵害からの救済については,民事訴訟か行政訴訟かなどの手続的分類を問わず,裁判を受ける権利が確保20されるべきである。ウ 行政事件訴訟法3条7項の規定する「差止めの訴え」は,その根拠となる法規との関係で違法と評価される行政処分の差止めを求めるものであるのに対し,民事上の差止請求は,権利の侵害という側面に着目し,違法な権利侵害の差止めを求めるものであるところ,本件の自衛隊機の差止請25求は,自衛隊機の離着陸等に伴う騒音によって現実に発生している人格権の侵害に対する救済を求めるものであり,訴えの目的や紛争の実質からして,民事上の差止請求に適合するといえる。なお,本件における自衛隊機の離着陸等その他の差止請求が認められるとしても,自衛隊機の運航全般が禁止されるものではないから,防衛大臣による権限行使が変更取消されるのと同様の結果は生じない。これまで最5高裁判所及び下級裁判所が,行政の関与の下で行われる事実行為に対する民事上の差止請求につき,適法な請求であることを前提に審理をしてきたことからも,民事上の請求として自衛隊機の飛行等の差止めを求めることが許されないとする理由はない。エ 厚木平成5年最高裁判決は,防衛大臣による自衛隊機の運航に関する権10限の行使が周辺住民との関係で公権力の行使に当たることを認めたが,自衛隊機の運航に関する命令は自衛隊内部におけるものであることや,自衛隊法が自衛隊機の運航に伴う騒音の受忍義務を周辺住民に課す根拠となるものとは解し得ないことからすれば,同判決における上記判断は誤りといわざるを得ない。この点,小松飛行場に関する平成14年3月6日金沢15地方裁判所判決(以下「小松平成14年一審判決」という。)も,自衛隊法上,防衛大臣が周辺住民に対する騒音の影響に配慮してその運航統括権限を行使すべきことを定めた規定は設けられておらず,まして,それに当たり周辺住民等国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定し得ること,例えば周辺住民に騒音等の受忍義務を課し得ることを定めた規定も,その要20件,内容,手続,補償措置,不服申立手続を定めた規定も何ら設けられていないから,法治主義,法律による行政の原則に照らして,広汎性のある騒音の発生が必然的であるという社会的事実から当然に周辺住民に騒音受忍義務が発生するということにはならず,周辺住民への配慮責務が行政庁に課せられているということから法律上の明確な根拠なくして周辺住25民に騒音受忍義務を課すことは許されない旨判示し,自衛隊機の運航に関する防衛大臣の権限の行使につき,周辺住民との関係での公権力性を否定している。オ よって,差止原告らによる自衛隊機の差止請求は不適法なものではなく,被告の上記主張は認められない。⑶ 米軍機の差止めが可能であること5ア 被告は,米軍機の差止請求は,被告の支配の及ばない第三者の行為の差止めを求めるものであるから,主張自体失当であると主張する。イ しかしながら,我が国の領土内で発生した米軍による違法行為に対し,国家の管理権が及ばないとすることは国民主権の原則に反するし,国家の国民に対する基本権保護義務や,違法な侵害行為がなされた場合にその侵10害行為は差し止められなければならないという市民法の原則にも反するものといえる。また,米軍機の差止めが認められなければ,米軍機の離着陸等や訓練に伴う騒音等により金銭には換算できない健康上,生活上の被害を受けている差止原告ら周辺住民の救済が不可能となる。ウ 地位協定3条3項が,米軍の基地管理権に基づく行為であっても「公共15の安全に妥当な配慮を払って行わなければならない」と定め,同協定16条が,米軍に「日本国の法令を尊重」する義務を定めているとおり,米軍の基地管理権も無制約なものではなく,米軍による基地の使用が基地外の住民に影響を及ぼす場合には,当然に日本国の法令による制約を受けることとなり,被告は,その限度で,米軍の活動に対し日本国の法令の遵守を20要求する権限を有する。そして,地位協定18条5項にいう「公務執行中の合衆国軍隊の構成員若しくは被用者の作為若しくは不作為又は合衆国軍隊が法律上責任を有するその他の作為,不作為若しくは事故で,日本国において日本国政府以外の第三者に損害を与えたものから生ずる請求権」には,差止請求権も含まれると解されるから,同項の適用ないし準用をも25って,被告に対し,米軍機の差止請求をすることができるものといえる。これに加えて,①地位協定25条1項が「この協定の実施に関して相互間の協議を必要とするすべての事項に関する日本国政府と合衆国政府との間の協議機関として,合同委員会を設置する。合同委員会は,特に,合衆国が相互協力及び安全保障条約の目的の遂行に当たって使用するため必要とされる日本国内の施設及び区域を決定する協議機関として,任務を5行う。」と規定していることから,被告は,日米合同委員会において,横田飛行場における米軍機の訓練方法や時間等に係る協議ができること(なお,平成11年1月14日の日米合同委員会では,米軍による低空飛行訓練に係る協議,合意がなされている。甲A12),及び,②米軍の日本駐留の根拠となる日米安保条約は,「この条約が10年間効力を存続した後は,いず10れの締約国も,他方の締約国に対しこの条約を終了させる意思を通告することができ,その場合には,この条約は,そのような通告が行われた後1年で終了する。」(10条)と規定しており,被告としては,同条項に基づいて日米安保条約を終了させる意思を通告することで,違法な権利侵害を伴う米軍機の運航を終了させることもできることからすれば,差止原告ら15による米軍機の差止請求は,被告の支配の及ばない第三者の行為の差止めを求めるものとはいえない。また,被告は,米軍に対し,横田飛行場等の基地を提供し,その使用を継続させていることや,米軍機の運航による騒音被害の発生を知りながら,「思いやり予算」を始めとするあらゆる便宜を図り,米軍の活動を助長し20ていることからすれば,被告自身も騒音被害拡大を助長した加害者であると評価することができるため,当然に本件差止請求の相手方になるというべきである。エ よって,被告に対する米軍機の差止請求が主張自体失当であるとする被告の上記主張は認められない。252 損害賠償請求権の法律上の根拠⑴ 民事特別法1条は,米軍の構成員又は被用者が,その職務を行うについて日本国内において違法に他人に損害を加えたときは,国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条の例により,国が損害賠償責任を負う旨を規定する。この点,横田飛行場を離着陸する米軍機の飛行は米軍の構成員又は被用者がその職務を行うについて実施しているものであるから,同米軍機の飛行に5伴う騒音等の発生について違法性が認められる限り,民事特別法1条の適用がある。そして,このように,集団ないし組織として繰り返される米軍機の飛行が問題となる場合には,事柄の性質上,米軍機の飛行に関与した各個人の特定までは必要がないと解するのが相当である。⑵ 民事特別法2条は,米軍の占有し,所有し,又は管理する土地の工作物そ10の他の物件の設置又は管理に瑕疵があったために日本国内において他人に損害を生じたときは,国賠法2条の例により,国が損害賠償責任を負う旨を規定しており,同条には,大阪国際空港に関する最高裁判所昭和56年12月16日判決(民集35巻10号1369頁。以下「大阪空港訴訟最高裁判決」という。)の示した国賠法2条1項の解釈がそのまま妥当する。15そして,横田飛行場は,多数の航空機の離着陸を予定して米軍に供用された飛行場であるが,その周辺に居住禁止区域等が設けられておらず,多くの人々が居住する地域に近接して存在するため,航空機の離着陸に伴う騒音等が周辺住民に甚大な影響を与えることは避け難い状況にある上,横田飛行場の管理者である米軍や,その提供者である被告は,騒音等による被害の発生20を防止するための十分な措置を講ずることなく,ジェット機を含む多数の航空機に横田飛行場を使用させてきたのであるから,米軍は,一定限度を超えた横田飛行場の利用(米軍機の離着陸,訓練等)によって原告ら周辺住民に危害を生じさせており,その設置,管理に瑕疵があることは明らかといえる。⑶ よって,被告は,民事特別法1条又は2条によって,原告らの損害を賠償25する責任を負う。3 侵害行為の内容⑴ 航空機騒音による侵害ア(以下「米軍機等」という。)が飛行し,周辺住民に騒音被害を与えている。常駐機について5横田飛行場に常駐する航空機は,C-130ハーキュリーズ,C-12Jヒューロン及びUH-1Nイロコイである。C-130ハーキュリーズは,中距離戦術空輸機であり,横田飛行場では最も離着陸回数が多い。C-12Jヒューロンは,プロペラ式の小型輸送機で,人員輸送や貨物輸送に使用される。UH-1Nイロコイは,10連絡用のヘリコプターである。これらの常駐機は,昼夜を問わず頻繁に旋回訓練を行い,周辺住民に騒音被害を与えている。飛来機について横田飛行場には,上記の常駐機のほか,様々な輸送機や戦闘機が飛来し,訓練を行っている。その中でも代表的なものは,輸送機であるC-155ギャラクシーやC-17グローブマスター,戦闘機であるFA-18ホーネットやF-15イーグルである。C-5ギャラクシーは,ジェット4発の世界最大級の輸送機であり,離着陸飛行直下の騒音は100dBを軽く超える。C-17グローブマスターは,ジェット4発の戦略・戦術輸送機である。FA-18ホーネットは,アメリカ海軍,海兵隊の20主力戦闘攻撃機で,週末になると2ないし4機編隊で飛来してくることもある。F-15イーグルは,アメリカ空軍の主力戦闘機であり,非常に高速度で飛行するため,空を切り裂くようなすさまじい騒音が突然襲ってくる。また,上記の輸送機,戦闘機のほかにも,空中給油機・輸送機である25KC-135ストラトタンカーやKC-10エクステンダー,早期警戒管制機E-3セントリー,艦上輸送機C-2Aグレイハウンド,戦闘機F-16ファイティングファルコン,ヘリコプターSH60シーホーク等が飛来している。飛行コースについて横田飛行場の米軍機は,南北に延びる滑走路に沿って離着陸する。南5北のいずれから離発着するかは季節によって異なる。旋回訓練の際は,滑走路の南端ないし北端より1,2km付近の地点から,西ないし東回りに旋回した後,上記地点で着陸態勢に入ることが多い。訓練について横田飛行場では,常駐機及び飛来機による物資投下訓練やパラシュー10ト降下訓練,旋回訓練が昼夜を問わず日常的に行われている。また,飛行訓練としてサムライサージ訓練(輸送機の運用能力向上のため,多数機により編隊飛行などを行う訓練),緊急管理演習としてEME(重大事故における対応訓練),運用即応演習としてORE(仮想戦闘環境における基地の機能テスト)等が行われている。これらの訓練にお15いては,大音響出力可能な特殊スピーカーや地上爆発模擬装置(金属製の容器内で爆発物を破裂させ,爆発音を発生させる。)等が使用され,すさまじい騒音が長時間にわたって発生する。なお,平成27年5月12日,日米両政府は,平成29年後半以降にオスプレイを横田飛行場に配備することを決定し,平成30年4月3日20には,同年夏頃の配備を決定した。オスプレイは,正式な配備を前に横田飛行場に多数飛来しているところ,その発する騒音の程度は,他の航空機の騒音をはるかに上回るものである。イ 横田飛行場における航空機騒音の特徴公共用飛行場を離着陸する民間航空機は,毎日ほぼ同じ時刻に同じ経路25の飛行や離着陸を繰り返しているのに対し,軍用飛行場である横田飛行場を離着陸する航空機は,軍用機である性質上,飛行時間及び飛行回数が日によって大きく異なり,飛行経路も一定ではない。そのため,横田飛行場周辺における航空機騒音の発生状況には常態性,定期性がなく,原告ら周辺住民は,いつ騒音に曝されるのかを予測することが不可能な状況にある。また,航空機騒音の音量は極めて大きいものである上,航空機自体が音5源であるために騒音の及ぶ範囲は広く,原告ら周辺住民は,突然,頭上からの騒音にさらされることとなる。そして,航空機騒音は,機種によって音が異なり,例えば,ジェット機は金属的な高音を発し,プロペラ機はバリバリバリといった音を継続的に発する。横田飛行場では,1日に何十回も航空機が飛行し,原告ら周辺住民は繰り返しこのような航空機騒音に曝10露されているのである。ウ 防衛施設庁方式によるW値を騒音の評価指標とすべきであること航空機騒音の評価指標としては,従来,W値が用いられてきたが,このW値の算定方式として,我が国では,昭和48年環境基準に基づく環境庁方式と防音工事助成措置等に関して用いられてきた防衛施設庁方式の215つの方式が併用されており,これらは基礎となる数値の取り方や計算方法が異なる。そして,以下で述べるように,本件における航空機騒音の評価指標としては,防衛施設庁方式で算定したW値が用いられるべきである。前述したように,民間航空機が使用する公共用飛行場では,1年を通して飛行回数や飛行経路に大きな変動はなく,離着陸する航空機の機種も限20定されているのに対し,自衛隊等の航空機が使用する軍用飛行場では,航空機の飛行回数や飛行経路が日によって異なり,また,離着陸する航空機の機種や飛行態様も多種多様であるから,軍用飛行場の周辺において環境庁方式によってW値を算定した場合,公共用飛行場の周辺において算定したW値と同じ数値であっても,騒音に対する住民の反応が同じであるとは25いえない。これに対し,防衛施設庁方式では,上記のような軍用飛行場の特殊性を踏まえた補正が施されているため,より適切に騒音とこれに対する住民の反応を評価することができる。この点,被告は,防衛施設庁方式が実際の騒音曝露量よりも程度の高い数値が算定されるように設計されている旨を指摘し,環境庁方式を採用することが相当であると主張するが,前述したように,防衛施設庁方式は,5軍用飛行場の特殊性を踏まえ,公共用飛行場と軍用飛行場との間でW値に整合性が保たれるように,すなわち公共用飛行場であっても軍用飛行場であってもW値が同じであれば同じ住民反応が示されるといえるようにするために考案された算定方法であるから,被告の上記主張は,防衛施設庁方式の策定の経緯を正解しないものである。10また,被告は,横田飛行場周辺の航空機騒音の評価指標として,単なる環境庁方式によるW値ではなく,昼間騒音を控除して同方式で算定した「昼間騒音控除後W値」を採用すべきであるとも主張するが,そもそも,W値は,現実に発生した騒音曝露量を単純に示す指標ではなく,騒音区域に居住する住民を対象とする大規模な社会調査を経て,その属性や生活様15式が様々であることも考慮した上で,騒音の周辺住民への影響(うるささ,迷惑や被害等)を示す指標として策定されたものであるから,昼間騒音控除後W値が現実に発生した騒音の内容と程度により近いなどという被告の主張は失当といわざるを得ない。昼間の騒音被害が共通損害とはいえない旨の被告の主張も,原告らの主張する後述の共通損害の考え方を誤解す20るものであり,認められない。エ 告示コンター内地域(75W以上の地域)の騒音の実態前述したように,航空機騒音は広範囲に及ぶものである上,気象状況,機種,飛行形態,風向き等の様々な条件によって地上で聞こえる音の大きさや性状に変化がみられる。加えて,横田飛行場の米軍機の運航管理は米25軍が行っていることからすれば,原告らが横田飛行場の航空機騒音の実態を把握することは極めて困難といえる。もっとも,被告,東京都及び横田飛行場の周辺自治体(昭島市,瑞穂町,福生市)は,横田飛行場周辺に自動記録騒音計を設置し,継続的に航空機騒音を計測しているから,原告らとしては,これらの測定結果をもって,横田飛行場周辺の騒音の実態を主張することとする。5東京都の騒音測定結果東京都は,①昭島市役所(東京都昭島市田中町1-17-1),②瑞穂町農畜産物直売所(東京都西多摩郡瑞穂町箱根ヶ崎612-1),③福生第二中学校及び④武蔵村山市立第二老人福祉館の4か所(甲A53・1枚目の固定(通年)調査地点①~④)に騒音計を設置し,70dB以上10の騒音が5秒以上継続したときに,発生年月日,時刻,騒音最高値,継続時間及び暗騒音を記録している(甲A5,A53)。上記①及び②の各地点における平成20年度ないし平成24年度の平均W値(環境庁方式によるW値)は次のとおりである。測定地点 20 年度 21 年度 22 年度 23 年度 24 年度①昭島市役所屋上 75W 74W 73W 73W 74W②瑞穂町畜産物直売所 81W 81W 81W 80W 81W昭島市の騒音測定結果15昭島市は,①昭島市立拝島第二小学校(東京都昭島市拝島町3927-2)及び②昭島市役所を測定地点として,航空機騒音の自動測定を行っている。測定方法は,平成25年3月までは75dB以上の騒音が5秒以上継続したときに,同年4月以降は暗騒音+8dB以上の騒音が5秒以上継続したときに,騒音を測定するというものである。上記①及び20②の各地点における平成21年度ないし平成28年度の年間飛行測定回数,一日平均測定回数,時間別測定回数,土日測定回数及び平均W値(環境庁方式によるW値)は次のとおりである(甲A6,A44,A54,A74)。5上記の測定結果のとおり,上記①の地点では75dB以上の騒音が1日約20回ないし29回発生し,100dBを超える騒音も年間約100回ないし230回発生しており,上記②の地点でも,70dBを超える騒音が1日約16回ないし20回発生し,100dBを超える騒音も【拝島第二小学校】年度年間飛行測定回数一日平均測定回数22~7時測定回数22~6時測定回数19~8時測定回数土日測定回数平均W値79dB(A)以下80dB(A)以上90dB(A)以上100dB(A)以上110dB(A)以上H21 8048 22 281 56 1978 534 82 1060 3734 3023 207 24H22 7967 21.8 242 84 2039 531 81 1236 3942 2672 98 19H23 7772 21.2 165 34 1966 448 80 1054 3678 2923 105 12H24 7196 19.7 108 23 2066 338 80 1041 3517 2541 81 16H25 10188 27.9 119 33 2256 492 82 3392 4634 2031 81 50H26 10574 29 136 44 2334 640 84 3519 4501 2374 87 93H27 10609 29 117 53 2453 566 80 3679 4380 2455 78 17H28 9721 26.6 146 76 2073 624 81 2957 4072 2584 81 27【昭島市役所】年度年間飛行測定回数一日平均測定回数22~7時測定回数22~6時測定回数19~8時測定回数土日測定回数平均W値79dB(A)以下80dB(A)以上90dB(A)以上100dB(A)以上110dB(A)以上H21 6392 17.5 275 48 1612 468 74 3510 2516 325 41 0H22 6376 17.5 246 83 1665 466 75 3670 2510 156 40 0H23 6348 17.3 186 41 1657 412 73 3462 2668 184 34 0H24 5826 16 122 26 1666 327 74 2997 2423 343 62 1H25 7249 19.9 102 26 1594 357 72 4583 2505 111 50 0H26 7476 20.5 115 73 1638 506 75 4589 2664 132 91 0H27 7623 20.8 98 39 1751 451 72 4687 2805 111 20 0H28 7147 19.6 120 62 1544 475 71 4606 2415 101 25 0年間約20回ないし90回発生している。また,平成5年日米合同委員会合意によって午後10時から午前6時までの間の時間における飛行等は制限されているにもかかわらず,両地点における午後10時から午前6時までの騒音発生回数は年間23回ないし84回に及んでいるし,多くの原告らにとって休日である土曜日及び日曜日の騒音発生回数も年間5で約300回ないし600回に及んでいる。さらに,平均W値は,上記①の地点では80~84Wで推移し,上記②の地点では71~75Wで推移しており,全体的に横ばいではあるものの,平成26年度には増加傾向がみられるし,今後は,CV-22オスプレイの配備によって,増加するものと見込まれる。10瑞穂町の騒音測定結果瑞穂町は,①箱根ヶ崎民家及び②瑞穂町役場(東京都西多摩郡瑞穂町箱根ヶ崎2335)に騒音計を設置し,航空機騒音の自動測定を行っている(甲A7,A55,A75の1~3)。上記①の地点における平成21年度ないし平成29年度の年間飛行回数,一日平均回数,最高dB及15び平均W値(環境庁方式によるW値)は次のとおりである。福生市の騒音測定結果福生市は,福生市誘導灯付近(東京都福生市大字熊川字武蔵野1571番地付近)を測定地点として,航空機騒音の自動測定を行っている。20年度 回数 日平均回数 最高dB W値H21 9565 26.4 113.6 78.9H22 10398 28.5 113.4 77.9H23 9584 26.2 112 78.4H24 8520 23.3 111.7 77.6H25 9591 26.6 11.4 76.8H26 10269 28.1 114.1 78.7H27 10082 27.5 116.7 78H28 8937 24.5 111.8 77.2H29 8849 24.2 115.8 77.7上記地点における平成21年度ないし平成29年度の年間飛行回数,最大dB,及び時間別飛行回数は次のとおりである(甲A46,A57,A76の1~9)。上記測定地点は,横田飛行場の滑走路南側から航空機が離着陸する直5下の地点であるが,上記測定結果のとおり,平成25年度以降,年間1万回を超える騒音が発生しており,夜間(午後10時~午前7時)の騒音発生回数が年間200回を超えることが多い。被告の騒音測定結果被告は,①行政財産内(北側・東京都西多摩郡瑞穂町箱根ヶ崎),②行10政財産内(南側・東京都昭島市美堀町),③入間市金子公民館(東京都入間市寺竹),及び④八王子市石川市民センター(東京都八王子市石川町)を含む13か所(甲A8の1の測定点①~⑬。なお,別紙7-1自動騒音測定装置の設置位置図参照。)に自動騒音測定装置を設置し,航空機騒音の測定を行っている(甲A8の1~5,A56の1・2,A77の115~3)。上記①ないし④の各地点における平成21年度ないし平成29年度の日平均騒音発生回数及び平均W値(環境庁方式によるW値)は次のとおりである。年度 回数 最高dB夕刻(19~22時)夜間(22~翌7時)H21 8507 122 1622 280H22 8739 118 1917 249H23 8686 121 1920 211H24 8076 119 2089 121H25 11137 119 2289 151H26 11967 121 2342 202H27 11895 120 2620 169H28 10786 122 2146 185H29 10250 118 1692 224以上によれば,告示コンター内地域(75W以上の地域)では,本件請求対象期間においても,昼夜休日問わず,防衛施設庁方式に換算する(環境庁方式によるW値に3~5を加える)と75Wを超える騒音が発生しているものと認められ,同地域に居住する原告らは,かかる騒音に5さらされている。オ 指定区域外の騒音の実態原告番号21,22,30,80の4名の原告ら(以下,一括して「指定区域外原告ら」という。)は,提訴時から告示コンターでは指定区域外とされた地域に居住している。もっとも,告示コンターの基となる平成1510年調査は,13か所の測定地点における1年間の騒音測定等を主な内容とするものであるところ,航空機の運航が不定期,不規則であるという軍用飛行場の特徴を考慮すれば,同調査は,横田飛行場の周辺住民の騒音被害の実態を明らかにするものとしては不十分なものといわざるを得ず,横田飛行場の常駐機の旋回訓練における飛行経路等からすれば,告示コンター15の区域外においても,告示コンター内地域と同様の騒音が発生していると考えられる。そして,実際に,原告番号21,30,80の原告らの自宅屋外を測定測定場所年度日平均騒音発生回数W値日平均騒音発生回数W値日平均騒音発生回数W値日平均騒音発生回数W値H21 27 87 26 86.5 13 71.1 11 73H22 29 85.9 29 84.1 13 70.7 11 71H23 26 84.5 29 85.3 12 70.8 11 71.6H24 25 85.8 27 84.9 13 72.3 11 72H25 27 84.9 28 84.8 14 70.6 12 71.3H26 29 87.3 29 86 15 72.9 12 72.7H27 29 85.7 29 83.7 15 69.6 12 69.3H28 26 84.4 26 83.7 14 69.6 12 69.4H29 25 84.4 26 80.6 12 68.2 11 67瑞穂町箱根ヶ崎民家昭島市美堀町入間市金子公民館八王子市石川市民センター地点として,65dB以上の航空機騒音を対象とする騒音測定を実施したところ,次のような結果が得られた。原告番号21の原告宅(東京都福生市大字熊川 a-b)上記測定地点における測定期間は平成26年1月12日ないし同月25日(14日間)であり,同期間中の65dB以上70dB未満の騒音5発生回数は123回,70dB以上80dB未満の騒音発生回数は120回,80dB以上90dB未満の騒音発生回数は13回であった。同期間中,1日の騒音発生回数が50回を超えることもあり,また,早朝(午前0時から午前7時まで)の騒音発生も2回あった。原告番号30の原告宅(東京都立川市一番町 a-b-c)10上記測定地点における測定期間は,平成25年2月19日ないし同月28日(10日間)であり,同期間中の65dB以上70dB未満の騒音発生回数は21回,70dB以上80dB未満の騒音発生回数は45回,80dB以上90dB未満の騒音発生回数は7回であった。また,同期間中,1日の騒音発生回数が約30回に及ぶこともあった。15原告番号80の原告宅(東京都昭島市つつじが丘 a-b-c-d)上記測定期間における測定は,①平成25年3月12日ないし同年5月9日(59日間)と②平成27年1月5日ないし同年4月11日(同年3月5日ないし同月12日は測定ができなかったため,測定日数は88日間)の2期間にわたって行い,①の期間中の65dB以上70dB20未満の騒音発生回数は23回,70dB以上80dB未満の騒音発生回数は292回,80dB以上90dB未満の騒音発生回数は42回,90dB以上100dB未満の騒音発生回数は1回であり,②の期間中の65dB以上70dB未満の騒音発生回数は902回,70dB以上80dB未満の騒音発生回数は453回,80dB以上90dB未満の騒25音発生回数が49回,90dB以上100dB未満の騒音発生回数が5回であった。1日の騒音発生回数が約70回に及ぶ日もあり,また,①の期間中,深夜(午後10時から午前0時まで)の騒音発生が1回,早朝(午前0時から午前7時まで)の騒音発生が3回あり,②の期間中も,深夜の騒音発生が4回,早朝の騒音発生が7回あった。以上の騒音測定結果から,告示コンターの区域外である指定区域外原5告らの居住地域においても,本件請求対象期間を通じて,頻繁に航空機騒音が発生しているものと認められ,指定区域外原告らは,かかる騒音にさらされている。⑵ 地上騒音による侵害航空機騒音による侵害としては,上記⑴の飛行騒音による侵害以外に,航10空機がエンジンの試運転作業を行う際に発生するエンジンテスト音や,暖機運転させる際に発生するエンジン音,航空機誘導音等の地上騒音による侵害がある。⑶ 航空機の排気ガス,振動による侵害ア 一般に,航空機の排気ガス中に含まれる主要な汚染物質としては,一酸15化炭素(CO),炭化水素(HC),窒素酸化物(NOX)等がある。これらの汚染物質は,健康に悪影響を与え,特に呼吸器疾患を引き起こすことが判明している。横田飛行場は人口過密都市に所在している上,特に排出ガスが増加する米軍機の離着陸が居住地近辺で行われ,加えて,軍用飛行場であるため訓練の必要性から離着陸の頻度が高く,また,低空を飛行する20ことから,原告ら周辺住民は,米軍機の排気ガスに含まれる汚染物質による被害に相当程度さらされている。なお,横田飛行場の常駐機として,世界最大級の輸送機であるC-5ギャラクシーがあるところ,その排気ガスが民間航空機と比較して相当大量に及ぶことは明らかである。そして,東京都の設置する一般大気測定局の速報値(甲A73)によれ25ば,羽田空港(東京国際空港)周辺地域及び横田飛行場周辺地域における窒素酸化物(NOX)の測定値が,東京都内の他の地域と比較して高いことが認められる。イ 横田飛行場周辺では,上空を飛行する航空機による空気の振動や,地上でのエンジンテストによる空気の振動によって,居宅内の家具等が共鳴し,損壊する等の被害が発生している。特に離着陸の際には低空を飛行するこ5とから,離着陸コース直下の居住者は振動にさらされている。また,戦闘機は飛行速度が高速であり,訓練内容によっては市街地上空を低空で飛行するところ,その際の空気の振動,風圧は強烈であり,多大な振動被害を発生させる。⑷ 航空機の墜落及び落下物事故等による侵害10ア 航空機の墜落及び落下物事故の危険性横田飛行場周辺では航空機の墜落及び落下物事故が相次いで発生しており,平成元年から平成26年までの間における横田飛行場周辺での米軍機の事故あるいは横田飛行場の常駐機による事故の発生件数は,原告らに判明しているものだけでも23件ある。15このような事故発生状況に加えて,横田飛行場は人口過密都市に所在する飛行場であることから,原告らは,常時,航空機の墜落及び落下物による生命,身体及び財産の侵害の危険にさらされているものといえ,このことに対する不安も強い。また,横田飛行場への配備が予定されており,既に同飛行場に飛来し20ているオスプレイは,①オートローテーション機能(回転翼機が飛行中,エンジンからの出力によらず,空力のみによって主回転翼を回転させて揚力を得る緊急手順をいう。)が備わっていない,②火災の原因となり得る高温の排気熱を排出するという構造的な欠陥がある上,高度の飛行技術が要求されるために事故率が高い非常に危険な航空機であるため,原25告ら周辺住民にとって非常に大きな脅威となっている。イ 横田飛行場における燃料漏出事故等の危険性アメリカ合衆国から公開された資料によれば,平成11年9月30日から平成18年5月10日までの間,横田飛行場及びその関連施設で,90件の有害物質の漏出事故が発生し,そのうち1件は,その危険度が「環境に被害を及ぼし,公衆の健康や安全に深刻な脅威を与える報告量を超えた5放出」と評価されるものであった(甲C17)。また,上記期間後の平成19年9月には,横田飛行場の給油場で,約5600リットルのジェット燃料が漏出する事故が発生しており,周辺環境を汚染するとともに,原告ら周辺住民に対し不安を与えている。⑸ 低周波音による侵害10ア 一般に,低周波音とは,人間の耳には聞こえにくい100Hz以下の周波数の音をいう。低周波音には,距離減衰しにくい,障害物を置いても防ぐのが難しい等の特徴がある。低周波音による具体的な被害としては,①物的苦情(音を感じないのに,戸,障子,窓ガラス等の建具が振動する,置物が移動するといった苦情),15②心理的苦情ないし生理的苦情(低周波音を感じよく眠れない,気分がイライラするといった苦情や,頭痛や耳鳴りがする,吐き気がする,胸や腹に圧迫感を感じるといった苦情)が挙げられる。低周波音に関する規制基準や環境基準は策定されていないが,環境省は,平成16年6月,「低周波音問題対応の手引書」(甲C48)の中で,どの20程度の低周波音が人あるいは物に影響を生じさせるかということを示す参照値を公表している。イ 本件では,①平成27年9月20日から同月26日の7日間にわたって,横田飛行場周辺(立川市西砂町)で低周波音等の測定を実施した結果等を記載した「横田飛行場立川市西砂町における低周波音の現状」と題する報25告書(甲A59。以下「本件低周波音測定報告書」という。)によれば,横田飛行場を離着陸する航空機から環境省の公表する参照値を超える低周波音が発生していることが判明したこと,及び,②原告らの陳述書等によれば,「飛行機が飛ぶと建具や窓枠が揺れる」等の物的苦情を訴える者が複数いるほか,航空機騒音による身体的ないし精神的被害として,「イライラする」,「眠れない」,「不快感がある」等と訴える者の中には,低周波音の5影響を訴える者も相当数含まれていると推測されることなどからすれば,横田飛行場周辺における低周波音の発生は明らかといえる。また,平成24年10月4日実施の普天間飛行場付近の小学校の屋上におけるMV-22オスプレイの着陸時の低周波音の測定では,防衛省が普天間飛行場の名護市辺野古移設に向けて作成した環境影響評価(アセスメ10ント)で物的影響及び心理的影響の基準とした閾値を大幅に上回る低周波音の発生が確認されたことから,横田飛行場への配備が予定されているCV-22オスプレイの発する低周波音も,他の航空機の発する低周波音をはるかに上回るものと推測される。ウ なお,普天間飛行場に関する福岡高等裁判所沖縄支部平成22年7月2159日判決(判例タイムズ1365号174頁,判例時報2091号162頁。以下「普天間平成22年控訴審判決」という。)及び那覇地方裁判所沖縄支部平成28年11月17日判決は,航空機の運航等から生じる低周波音による被害を認めている。⑹ その他の侵害20ア 地域発展の障害横田飛行場の位置する5市1町(福生市,立川市,武蔵村山市,昭島市,羽村市及び瑞穂町)では,南北に広がる同飛行場の存在によって道路や鉄道といった交通網が遮断され,各地域が有機的に結び付いて発展する機会を奪われている。25イ 米兵による犯罪事件の発生従前から横田飛行場所属の米兵による犯罪事件が多数発生しており,この点においても,原告ら周辺住民は,生命,身体及び財産侵害の危険,不安にさらされている。なお,地位協定17条5項(c)は,「日本国が裁判権を行使すべき合衆国軍隊の構成員又は軍属たる被疑者の拘禁は,その者の身柄が合衆国の手5中にあるときは,日本国により公訴が提起されるまでの間,合衆国が引き続き行うものとする。」としていることから,米兵である被疑者が横田飛行場内に逃げ込んでしまうと,日本の捜査機関は起訴まで同人の身柄を拘束する権限を失うことになるところ,このような日本の捜査権に対する制約は,米兵による犯罪を助長しているものといえる。10ウ 経済的被害航空機騒音等の被害が発生することから,横田飛行場周辺の土地の価格は下落し,横田飛行場周辺に所在する不動産を賃貸することも困難な状況にある。そのため,横田飛行場周辺の不動産を所有する者については,その所有不動産を有効活用することができず,経済的被害を受けている。154 航空機騒音その他の侵害による被害⑴ 総論ア 原告ら横田飛行場周辺住民の被害の多様性・重大性前記3で述べたように,横田飛行場を始めとする軍用飛行場は,騒音,大気汚染,低周波音,有害物質の漏出,航空機事故や航空機からの落下物20事故の危険等,広範囲で多岐にわたる被害を周辺地域の環境,住民にもたらすものである。その意味で,軍用飛行場に由来する種々の被害は,一つの大きな環境問題なのであり,「基地被害」とでもいうべきものである。そして,原告らは,このような「基地被害」として,後記⑵以下のとおり,睡眠妨害,身体的被害・健康被害,日常生活の妨害,心理的・情緒的25被害等の様々な被害を受けてきたのである。イ 共通損害原告らが航空機騒音等によって受けている被害は,原告ら各自の年齢,性別,健康状態,生活形態等の相違に応じて,その内容及び程度を異にする。しかしながら,具体的な被害の内容等が異なっていても,航空機の運航という同一の侵害行為によって,その航空機騒音にさらされる地域に生5活の本拠を有する原告らが,身体の安全を害され,平穏な生活を破壊されるという被害を受けているという根本は共通である。また,原告らは,各自が受けた具体的被害の全部について賠償を求めるものではなく,原告らの被害に伴う精神的苦痛を慰謝料という形で請求するのであるから,その精神的苦痛を一定の限度で原告らに共通する被害の最低限のものとして10とらえて,各原告において一律にその限度で慰謝料として賠償を求めることができる。このような考え方は,大阪空港訴訟最高裁判決で採用され,その後の航空機騒音訴訟においても採用されてきたものである。この点,被告は,具体的な被害の内容や程度の差異にこだわって,原告ら全員に共通して生じている損害であるかどうかを検討し,全員に共通し15て生じるとはいえないものは共通損害ではないとして切り捨てようとするが,これは共通損害の概念を誤って理解するものであり,被害の一部を不当に無視するものであって許されない。⑵ 睡眠妨害ア 平成5年日米合同委員会合意によって午後10時から午前6時までの間20の時間における飛行等を制限する旨の合意がなされたものの,依然として同時間帯においても航空機が飛行しており,その騒音によって,原告ら周辺住民の睡眠が妨害されている。また,夜間勤務をしている者や,長時間の睡眠が必要な乳幼児,早い時間帯に就寝する高齢者など,昼間の時間に睡眠をとる者も一定数いるところ,昼間の飛行による騒音は,これらの者25の睡眠を妨害しているといえる。そして,横田飛行場においては,土日も航空機が飛行するため,休日の休息も妨害されている。イ 沖縄県の委託で実施された嘉手納,普天間両飛行場の周辺住民の健康影響調査の報告書である「航空機騒音による健康影響に関する調査報告書」(甲C5。以下「沖縄県健康影響調査報告書」という。),京都大学工学研究科の松井利仁が厚木飛行場周辺の航空機騒音の現状と健康影響等を記5載した「厚木海軍飛行場周辺における健康影響に関する意見書」(甲C10),及び,東京都公害研究所の委託で横田飛行場の周辺住民を対象として実施された面接調査の報告書である「横田基地周辺航空機騒音による住民生活影響調査」(甲A29。以下「横田飛行場調査報告書」という。)は,いずれも航空機騒音が周辺住民の睡眠を妨害していることを示している。10ウ 騒音による睡眠妨害は,単に眠れないという不快感をもたらすだけでなく,その頻度によっては,様々な疾患を生じさせるおそれがある。この点,世界保健機関(以下「WHO」という。)の作成した「環境騒音のガイドライン実務的抄録」(甲C3。以下「WHO環境騒音ガイドライン」という。)は,騒音による睡眠妨害が健康に及ぼす影響等について,「騒音15によって睡眠中に一次影響が生じ,二次影響として騒音曝露を受けた次の日にも影響が生じる」,「睡眠妨害の一次影響としては,入眠困難,覚醒や睡眠深度の変化,血圧・心拍数・指先脈波振幅の上昇,血管収縮,呼吸の変化,不整脈,脳幹の反応,体重の増加などがある」,「騒音によって覚醒する確率は,一晩あたりの騒音発生回数の増加とともに高くなる。翌朝や20その後何日間かに現れる睡眠妨害の二次影響としては,不眠感,疲労感,憂うつ,作業能率の低下といったものがある」との知見を示した上で,「快適な睡眠のためには,夜間の連続的な暗騒音のLAeqは30dB以下にとどめるべきであり,個々の発生音についても,45dBを超えるような騒音は避けるべきである」とする。また,WHO欧州事務局の作成した「欧25州夜間騒音ガイドライン実務的概要」(甲C9。以下「欧州夜間騒音ガイドライン」という。)も,WHO環境騒音ガイドラインを補足して,夜間の騒音による健康影響を防止するためのガイドライン値を定めている。⑶ 身体的被害・健康被害ア 聴覚障害聴力の低下(聴力損失)や耳鳴り等の聴覚障害は,騒音による被害とし5て広く知られている。騒音による聴力損失(騒音性聴力損失)は,一過性の聴力損失(NITTS)が繰り返されることによって,検知可能な永久性の聴力損失(NIPTS)が生じると考えられている。航空機騒音のような間欠騒音は,定常騒音と比べて騒音レベル(刺激の強さ)が大きく,立ち上がり速度(刺激の強まり方)も早いため,刺激時間は短いものの,10他の定常騒音よりも聴力には有害とされている。航空機騒音が騒音性聴力損失を発生させることを肯定する研究報告は相次いでおり,沖縄県健康影響調査報告書では,嘉手納飛行場周辺の居住者約1000名を対象として聴力検査を実施したところ,航空機騒音に起因すると考えられる聴力損失の症例が11例確認された旨が報告されているほか,騒音が聴力損失に影15響を与えるという横田飛行場や小松飛行場周辺における疫学調査結果もある。イ 睡眠妨害上記⑵で述べたように,睡眠妨害は,睡眠障害や不眠症等を始めとする様々な疾患を生じさせるおそれがあるため,単なる生活妨害にとどまるも20のではなく,身体的被害・健康被害にも当たるものといえる。ウ 身体の変調航空機騒音は,交感神経を刺激し,脈拍増加,血圧上昇,唾液・胃液分泌の減少,胃腸運動の抑制等を生じさせたり,脳下垂体からのホルモンの分泌や,これによって支配される副腎皮質ホルモン,甲状腺ホルモン及び25生殖腺ホルモン等の分泌に変動を生じさせて,肩こりや頭痛,めまい,高血圧,食欲不振等の様々な身体的不調を引き起こす。また,騒音によるストレスがストレス性疾患を引き起こすこともある。この点,WHO環境騒音ガイドラインは,「騒音職場に働く労働者,空港,工場,騒音の激しい道路近傍の住民に対して,騒音が生理的機能に急性的・慢性的な影響を及ぼしている可能性がある」,「長期曝露によって,住民の5中の高感受性群が高血圧や虚血性心疾患などの永続的な影響を発現することになると考えられている」,「心循環器系への影響は,LAeq,24hが65-70dB(A)の航空機・道路交通騒音の長期曝露地域においても明らかにされている」との知見を示し,騒音曝露が心臓血管系疾患を増加させるとする。また,その危険性に関し,「騒音に曝露されている人員の多さ10に鑑みると,わずかなリスク上昇であっても重大である」と指摘する。さらに,WHO欧州地域事務局の作成した「環境騒音による疾病負荷」(甲C7)の中にも,「航空機騒音と高血圧症ならびに虚血性心疾患との関連性を証明する疫学研究結果が近年増加している」との記載がある。そして,沖縄県健康影響調査報告書は最高・最低血圧,白血球数及び尿15酸濃度とW値との関連性を指摘し,横田飛行場調査報告書も,騒音曝露量が増加するほど健康被害を訴える住民が増えるという結果を示している。エ 精神的疾患騒音,航空機の墜落事故や落下物事故の危険等による不快感,恐怖感といった精神的ストレスの蓄積は,身体にも影響を及ぼし,ノイローゼや神20経衰弱を生じさせる。WHO環境騒音ガイドラインにおいても,「騒音によって,潜在的な精神障害が加速・助長されると考えられる」とか「精神安定剤や睡眠薬の使用状況,神経症症状,精神病院への入院率などを調査した研究結果は,環境騒音が精神的健康に悪影響を及ぼしている可能性を示唆している」などと指摘されている。25オ 会話了解度会話と同時に騒音が発生すると,会話の理解が困難となる。WHO環境騒音ガイドラインは,35dB以上の騒音は小さな部屋での会話(通常50dB程度)を妨害する旨を指摘した上で,会話の内容が理解できないことは日常生活における行動に支障を来すこととなり,その影響を特に受けるのは,聴力障害者,高齢者,言語取得中の小児等であるとしている。5カ 認知作業・知的能力への影響騒音は,作業や学習といった認知作業の成績にも悪影響を及ぼすものである。WHO環境騒音ガイドラインは,騒音による影響を特に受ける認知能力として,読解力,集中力,問題を解く力及び記憶力等を挙げ,「複雑な作業の場合,認知作業の成績は大幅に低下する」とか「騒音は集中力を妨10げる刺激にもなり,衝撃音は驚愕反応によって破壊的な影響を及ぼす可能性がある」と指摘する。また,「慢性的に航空機騒音に曝露されている空港周辺の学校の生徒は,詳細な読解力,難問に取り組む際の持続力,読解試験の成績,学習意欲が標準よりも低い」などと,騒音が学習能力,意欲にも大きく影響を与えることも指摘されている。そして,同ガイドラインの15他にも,騒音が知的作業に阻害影響を与えることや,読解能力,学習意欲,長期記憶力の低下に関連していることを示す文献がある(甲C11)。キ 乳幼児の問題行動航空機騒音が乳幼児の健康や行動等に影響を与えることは,各種の調査で明らかにされている。沖縄健康影響調査報告書は,「航空機騒音は身体的20にも精神的にも幼児達の要観察行動を増加させる要因になっていると結論づけることができる」としているし,横田飛行場調査報告書も,航空機騒音が乳幼児の行動に影響を及ぼしている旨を指摘している。また,WHO環境騒音ガイドラインは,「騒音高曝露地域の小児は,ストレスホルモンの濃度が増加しており,安静時の血圧が高いことなどから,交感神経が亢25進している」として小児への影響を指摘している。ク 低出生体重児出生率の増加航空機騒音が妊婦に影響を与え,2500グラム以下の低出生体重児の出生率が増加することが,これまでの動物実験や疫学調査の結果から明らかとなっている。沖縄県健康影響調査報告書は,騒音区域(嘉手納町)では非騒音区域と比べて低出生体重児の出生率が高いことが判明したとし,5その原因については,「沖縄本島内の他の市町村と比較して,すべての住民が高レベルの航空機騒音に曝露されているためであると結論せざるを得ない」としている。低出生体重児は,身体の発育や学習能力等に関して,出生後長期にわたってリスクを負うことが報告されているところであり,子ども自身や家族に重大な影響をもたらすものといえる。10ケ まとめ以上のとおり,航空機騒音は,人間の身体の様々な部分に影響を及ぼし,場合によっては生命,身体に重大な被害を発生させることが,これまでの研究結果等からも判明している。原告ら周辺住民は,長年にわたって,このような生命,身体に重大な被害が生じる危険性の高い場所での生活を余15儀なくされているのである。⑷ 日常生活の妨害ア 騒音による会話の中断及び電話,テレビ等の聴取妨害原告らは,航空機騒音により,家族や来客等との会話や電話での通話を妨害され,家庭や仕事のあらゆる面で日常的なコミュニケーションが阻害20されて,生活に支障を来している。また,テレビやラジオの視聴,音楽鑑賞も妨害されている。イ 職務作業,学習,趣味等の妨害航空機騒音によって会話や通話が妨害されることで,仕事上の連絡や打合せに支障が出たり,学校での授業が中断し,このような直接の妨害のな25いときでも,騒音によって,本来,静謐な環境で行うべき知的作業が阻害され,集中力が減退して,仕事における作業効率が低下したり,児童生徒の学習理解が妨げられている。また,航空機騒音は,映画鑑賞や音楽鑑賞といった趣味を妨害するし,読書等の集中力を要する趣味も妨害するものである。ウ 騒音の感受性が高い人(乳幼児,高齢者,療養者等)に対する悪影響5横田飛行場周辺には,保育園や病院も多数存在するところ,乳幼児や高齢者,療養者といった比較的抵抗力の弱い者にとっては,騒音が与える影響はより甚大である。特に,乳幼児に関しては,騒音により睡眠が妨害されることはもとより,哺乳や食事も妨害され,性格面,情緒面に対しても悪影響を及ぼし,成育の障害となっている。10⑸ 心理的・情緒的被害騒音区域の住民は,騒音による不快感,航空機の墜落事故や落下物事故の危険等に対する不安感や恐怖感といった精神的不快感を抱えながらの生活を強いられている。上記⑶エで述べたように,このような精神的不快感がストレスとして蓄積されると,精神的疾患を引き起こす可能性もある。15この点,WHO環境騒音ガイドラインには,80dBを超える騒音は援助的な行動を減少させ,攻撃的な行動を増加させると考えられる旨や,高レベルの騒音に曝露されていることにより,学童が無力感を抱きやすくなってしまうことが特に懸念される旨の記載がある。また,沖縄県健康影響調査報告書の作成にも関与した長田康公も,「環境保健の提唱」と題する論文(甲C620の1~4。以下「長田論文」という。)の中で,「交通の激しい道路沿いの住民や工場周辺の住民が,会話できない,電話やテレビがきこえない,勉強ができないなどの生活妨害から,不快,焦燥感などの情緒妨害をおこし,ついには不眠症,高血圧,心悸亢進,胃腸障害をおこしたというような訴えをよくきくのである」と指摘している(甲C6の2)。25そして,沖縄県健康影響調査報告書や横田飛行場調査報告書は,騒音被害が大きくなるほどイライラ感や落着きのなさといった精神的不快感が強くなることを明らかにしている。⑹ その他の被害ア 交通事故の危険横田飛行場周辺は住宅地であって,交通量が非常に多いところ,自動車5の走行音やクラクション,踏切の警報音が航空機騒音でかき消されることや,運転者や歩行者が航空機騒音に気を取られることがあるため,航空機騒音によって交通事故が発生する危険が増大しているものといえる。イ 排気ガス,振動による被害横田飛行場を離着陸する航空機は,大量の排気ガスを原告らの居住地域10にまき散らしながら飛行し,原告ら周辺住民の健康に悪影響を及ぼすとともに,周辺環境を破壊している。また,航空機の飛行によって,家具等が共鳴し,振動によって損壊するなどの被害も生じている。ウ その他精神・心理への侵害平穏生活的人格権の侵害15原告らは,危険のない安心安全な環境の中で暮らす平穏生活権としての人格権を有しているものの,横田飛行場周辺に居住しているゆえに,同飛行場に離着陸する航空機の墜落事故や航空機からの落下物事故,同飛行場に所属する米兵による犯罪事件の発生の危険がある中で,日々の生活を送ることを強いられており,上記権利を侵害されている。20平和的生存権(憲法秩序)の否定憲法は,国民に対し平和的生存権を保障するとともに,政府に対し平和的に国際紛争を解決する義務を負わせており,原告らは,このような憲法秩序の下で生活しているが,日米安全保障条約の下,世界中で武力行使を行うアメリカ合衆国と一体となって戦闘行為に参加させられるこ25とは,上記権利の否定に他ならず,耐え難い苦痛である。また,被告が米軍に提供している基地から無辜の人々への爆撃が実施されたことをテレビや新聞等で知ることによる原告らの精神的苦痛は甚大である。攻撃目標とされる危険横田飛行場を含む日本の米軍基地は,他国からの軍事攻撃の標的とされる危険性がある。原告らの横田飛行場の存在自体に対する不安感,恐5怖感は日に日に深刻なものとなっている。戦争への恐怖横田飛行場は極東地域における米軍の主要基地であり,ベトナム戦争,アフガン戦争,イラク戦争の際には,横田飛行場から戦闘機や輸送機が出発したり,横田飛行場所属の米兵が戦地に派遣されたりした。原告ら10は,横田飛行場に離着陸する米軍機の騒音にさらされるなどすることで,戦争を想起し,恐怖を感じている。5 損害賠償請求について⑴ 受忍限度を超える違法な侵害行為侵害行為の違法性が認められるためには,当該侵害行為が社会生活上受忍15すべきであると考えられる範囲を超えていることを要するとされるところ,その判断要素については,「侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,その間にとられた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の事情をも考慮20し,これらを総合的に考察してこれを決すべきもの」とされている(大阪空港訴訟最高裁判決)。ア 告示コンター内地域(75W以上の地域)に居住する原告らについて前記3⑴ウで述べたように,防衛施設庁方式によるW値は,軍用飛行場の特殊性を踏まえた補正の施されている航空機騒音の評価指標であるた25め,横田飛行場周辺に居住する原告らの航空機騒音による精神的苦痛を検討する上で重要な指標となるといえる。そして,被告は,平成15年度調査に基づき,防衛施設庁方式による75W以上の地域が「航空機の離陸,着陸等のひん繁な実施により生ずる音響に起因する障害の著しい」区域(環境整備法4条)であるとして第一種区域に指定しているのであるから,被告自身,上記地域の騒音被害が著しいことを認めているものといえる。5これに加えて,被告は,告示から既に45年以上経過している航空機環境基準の達成に向けて努力することなくこれを放置していること,告示コンター内地域に居住する原告らが航空機騒音等による様々な被害を訴えていること,及び,横田飛行場の騒音被害に係る第4,8次訴訟において,75W以上の地域に受忍限度を超える騒音被害が発生していると認めら10れ,その後,騒音被害の程度が強まることはあっても,軽減することはなかったことからすれば,告示コンター内地域に居住する原告らが受忍限度を超える被害を受けていることは明らかといえる。イ 指定区域外原告らについて指定区域外原告らも,以下で述べるように,告示コンター内地域に居住15する原告らと同様に,受忍限度を超える被害を受けているといえるため,その被害の程度に応じて賠償がなされるべきである。告示コンター及びその基礎となった平成15年度調査に一定の合理性があることは否定しないものの,航空機の運航に常態性,定期性がないなどの特徴を有する軍用飛行場である横田飛行場周辺の航空機騒音等に20よる被害の実態を把握するには,少なくとも1年を通して測定を実施する必要があり,限られた地点における短期間の騒音測定を内容とする平成15年度調査では不十分であるといわざるを得ない。そして,前記3⑴オのとおり,指定区域外原告らの自宅屋外における騒音測定結果によれば,同人らの居住する地域に65dBを超える騒音25が頻繁に発生していることや,80~90dBの騒音が発生していることが認められたのであるから,告示コンターの区域外であるとの一事をもって,騒音被害そのものや,受忍限度を超える騒音被害が否定されるべきでないことは明らかである。また,航空機環境基準は,地域類型Ⅰにおける基準値を70W以下と定めているところ,指定区域外原告らは,いずれも地域類型Ⅰに当たる5地域に居住しているものである。これらに加えて,横田飛行場の常駐機は,旋回訓練の際に指定区域外原告らの居住地域上空も飛行することや,指定区域外原告らが航空機騒音等による被害について供述ないし陳述している(甲B3の8,B4の33,B6の1・2)ことなども併せ考えれば,指定区域外原告らも受10忍限度を超える被害を受けているというべきである。⑵ 横田飛行場の公共性に関する被告の主張に対する反論被告は横田飛行場における米軍等の諸活動には高度の公共性が認められ,受忍限度も高くなると主張する。しかし,憲法の規定する国民主権,基本的人権の尊重及び平和主義に照らせば,軍事公共性は否定されるべきである。15また,被告の主張する横田飛行場の便益は,国民の日常生活の維持存続に不可欠な役務の提供のように絶対的な優先順位を主張し得るものではなく,平時における便益はほとんど存在しないのに対し,横田飛行場の供用によって被害を受ける地域住民はかなりの多数にのぼり,その被害内容も広範かつ重大なものである上,これらの住民が横田飛行場の存在によって受ける利益と20これによって被る被害との間に彼比相補の関係は認められない。結局,被告の主張する公共的利益の実現は,原告ら周辺住民という限られた一部少数者の特別の犠牲の上でのみ可能といえるところ,そこに看過することのできない不公平が存するのであるから,横田飛行場の供用につき,公共性ないし公益上の必要性という理由で原告らに対してその被害を受忍するよう要求する25ことはできないというべきである。さらに,横田飛行場の位置する5市1町(福生市,立川市,武蔵村山市,昭島市,羽村市及び瑞穂町)が,その運営する「横田基地に関する東京都と周辺市町連絡協議会」において,被告や米軍に対し,周辺住民の身体,生命,財産に係る現在の被害や危険性を訴えて,基地の整理・縮小・返還を含む対策の実施を要望している状況にある以上,その要望事項を達成し,周辺住民5の被害の回復や危険性の除去を行うことこそ,優先されるべき公共性といえる。しかし,被告は,国防の優先を求め,構造的欠陥を有し,事故率の高いCV-22オスプレイの横田飛行場への配備を強行するなど,原告ら周辺住民の安全や健康を脅かす事態を生じさせており,このことからも横田飛行場の非公共性は明白といえる。10⑶ 被告の防音工事助成その他の周辺対策等の主張に対する反論ア 住宅防音工事の実施状況について被告の主張する原告ら(訴え提起後に死亡した被承継人を含む。)の住居に対する防音工事の実施状況のうち,各工事の種別,各工事の完了年月日及び各工事により防音工事が実施された室数が別紙6防音工事一覧表の15各該当欄記載のとおりであるとすることに対する原告らの認否は次のとおりである。原告番号3,4,17,18,20,23,24~27,28,36~38,43,44,45,46,47,57~59,60,69,76~78,81,82,83,139,140,142,143,14204,145,146,147,150,151の原告らに関する部分については認める。原告番号7,8,11,12,19,56の原告らに関する部分については,各工事の実施及び室数は認めるが,各工事の完了年月日は否認ないし不知。25原告番号29,39~42,51(ただし,東京都昭島市美堀町 a-b-c 所在の建物,及び,同町 a-b-c-d 号所在の建物についてのみ),67,68の原告らに関する部分については,防音工事の実施は認めるが,各工事の完了年月日や室数は否認ないし不知。その余はいずれも否認する。なお,原告番号13,14の原告が平成16年に新築した建物には防5音工事は実施されていない。また,原告番号65,66,79の原告らについては,各工事実施後に住宅を建て替えたため,被告の主張する防音工事の効果は残存していない。イ 防音工事による減額について被告は,住宅防音工事が実施された住宅については,航空機騒音に係る10昭和48年環境基準の改善目標(屋内で60W以下)が達成できているなどとして,原告らの損害を減額すべきであると主張する。しかし,昭和48年環境基準は屋外における騒音測定を基準としたものであるし,被告が指摘する改善目標は,昭和48年環境基準の告示後10年以内に達成されるべき中間目標に過ぎず,これを達成しても同環境基準15を達成したことにはならない。また,住宅防音工事の効果は,その施工時期や経年劣化の程度,建物自体の遮音効果等の複数の要因によって異なることとなるため,同じ工事仕方書に従って住宅防音工事が施工されているとしても,全ての住宅について上記改善目標が達成できているとはいえない。被告の主張する上記改善20目標の達成は,窓を閉め切った部屋における防音効果を前提とするものであるが,日常生活においてこのような部屋で人が一日中過ごすことはあり得ないし,空調機器の使用によって電気料金の負担が増えるなどの弊害も生じる。さらに,住宅防音工事の実態をみても,防音工事の助成対象となる条件25は厳しい上,防音工事が実施されたとしても,施工できる居室数は制限されており,その効果は限定的であって,原告らの大半は防音工事の効果を実感できていない。沖縄県健康影響調査報告書においても防音工事の実施の有無で生活や環境の質に著明な差は認められなかったとされているし,防衛省の厚木飛行場周辺住民に対する住宅防音工事に係る調査でも,防音工事によって十分な効果が得られると回答した者は全体の2%にも満た5なかった(甲A52)。以上によれば,被告の主張する住宅防音工事は原告らの被害を軽減するものではなく,これによる減額は許されない。⑷ 危険への接近の法理の主張に対する反論免責の法理としての危険への接近の法理を認めた大阪空港訴訟最高裁判決10は,一定の民間航空機が定期的に運航する公共用飛行場に関する判例であるから,本件のように,航空機の運航に常態性,定期性がなく,公共用飛行場とは航空機騒音の発生状況が大きく異なる軍用飛行場につき,その周辺住民が航空機騒音被害を訴える場合においては,同判決を根拠として,危険への接近の法理により被告の不法行為責任を免責することは相当でない。15横田平成17年控訴審判決では,免責法理としても減額法理としても危険への接近の法理の適用が否定され,近時の他の基地航空機騒音訴訟の判決でも危険への接近の法理の適用が否定されていることからしても,本件において危険への接近の法理による免責ないし減額が認められるべきとする被告の主張が失当であることは明らかである。20仮に本件で危険への接近の法理の適用の可否を検討するとしても,原告らが横田飛行場周辺に住居を構えたことは社会的に非難される事柄ではないし,原告らは航空機騒音被害を容認していたものでもないから,適用の余地はない。すなわち,被告が横田飛行場周辺の騒音区域へ住民が転入することを防止する措置を何ら採っていない以上,土地・建物の価格や取得の難易,通勤・25通学の利便,親類縁者等との交際の便宜,資力・資産等の事情を総合的に考慮した結果,騒音区域に住居を構えるということは十分あり得ることであるし,また,被告が積極的に騒音の実態等に係る情報提供をしていない中で,原告らが住居の選定に際し,転入地における航空機騒音の有無,程度,頻度等の騒音の詳細な実態を把握することは極めて困難であったというべきであるから,原告らの騒音区域への転入を非難することはできず,原告らが騒音5区域への転入に際して日常的に受ける騒音被害の程度及び影響を認識していたとか,その認識を有していなかったことに過失があったということもできない。なお,被告は,原告らにおいて原告ごとに個別具体的に危険への接近の法理の適用を否定し得る事情を主張すべきであるとするが,原告らが騒音区域10に住居を構えること自体に非難可能性がない以上,原告らにおいて上記主張をする必要はなく,かえって,上記法理の適用を主張する被告において,原告らが公害問題を利用する意図をもって接近したと認められる事情等を個別に主張,立証すべきである。⑸ 損害額15原告らは,横田飛行場を離着陸する航空機の騒音等によって,それぞれが様々な被害を受けているものの,本件においては,各自の具体的被害の全てについて賠償を求めるのではなく,原告ら全員が等しく受けていると認められる被害を原告らに共通する損害とし,その限度で慰謝料という形で賠償を求めるものである。
事案の概要
平成30年11月30日
東京地方裁判所 立川支部
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[下級] 平成29(行ウ)18  130ViewsMoreinfo
運転免許効力停止処分取消請求事件
平成29(行ウ)18
本件は,原告が,前記規定に該当すると評価すべき事実はなく,本部長が職務上の注意義務を尽くすことなく違法に本件処分をしたものであり,これによって,原告が精神的苦痛を被ったなどと主張して,国家賠償法1条1項に基づく国家賠償として,慰謝料100万円と弁護士費用10万円の合計110万円及びこれに対する不法行為の後の日(訴え変更申立書の送達の日の翌5日)である平成29年8月24日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
事案の概要
平成30年11月30日
神戸地方裁判所
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[下級] [刑事] 平成29(わ)925  114ViewsMoreinfo
道路交通法違反,危険運転致死被告事件
平成29(わ)925
被告人が,自動車を酒気帯び運転し,その際,赤色信号を殊更に無視して横断歩道上を歩行中の被害者に自車を衝突させて死亡させた道路交通法違反,危険運転致死の事案について,赤色信号を「殊更に無視」したという点が争われたが,現場の信号が赤色表示になったタイミングや走行状況等を根拠に赤色信号を「殊更に無視」したと認定し,危険運転致死罪の成立を認めて懲役11年を言い渡した事例(裁判員裁判)
判示事項の要旨
平成30年11月27日
札幌地方裁判所
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[下級] [民事] 平成29(ワ)95  126ViewsMoreinfo
損害賠償請求事件
平成29(ワ)95
本件は,弁護士である原告が,原告と勾留中の被告人との間の裁判所構内における接見を裁判所が許可したにもかかわらず,被告の設置運営する鳥取刑務所の職員らがこれを実施させないまま同刑務所に被告人を連れ帰ったことなどが違法であり,そのため弁護人としての接見交通権を侵害されたなどと主張して,被告に対し,国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき,損害賠償金42万5300円(慰謝料30万円,交通費3700円,逸失利益2万1600円,弁護士費用10万円)及びこれに対する加害行為の後の日である平成29年7月27日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
事案の概要
平成30年11月26日
鳥取地方裁判所
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[下級] [刑事] 平成29(う)771  207Views
傷害致死
平成30年11月21日
東京高等裁判所 第11刑事部
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[下級] [刑事] 平成25特(わ)302  84ViewsMoreinfo
法人税法違反被告事件
平成25特(わ)302
本件の争点は,要するに,①その収入を構成するとされる被告人所有の不動産合計31物件(証拠略。以下「本件不動産」という。)の賃貸事業の収益が申告法人に帰属すると認められるか,②認められるとして,本件対象期において,被告人が,売上の一部を除外するなどの指示を,申告法人の決算書作成及び確定申告書案作成に携わった丙に対して行ったと認められるかである。1 争点に関する検察官の主張⑴ 争点①について本件以前の本件不動産賃貸事業の形態や,申告法人を含む被告人の関係会社の法人税及び被告人の所得税の各申告状況等からすれば,申告法人は,被告人からリースを受けた本件不動産につき,その賃貸管理業務等をY株式会社(別表(添付省略)のYE,変更後の商号丁株式会社。以下これと同様に本判決において,別表「株式会社名」欄記載の各会社につき戊,YAないしYD及びYFと記載することがある。)に委託するなどした上で,各テナントにサブリースする事業を営んでいたのであって,同事業による収益は申告法人に帰属する。⑵ 争点②について丙の公判証言は,多数の物証に裏付けられているなど信用することのできるものであり,これらによれば,被告人が丙に対して売上の一部を除外するなどの不正な経理処理の指示を行ったことは明らかである。2 争点に関する弁護人の主張⑴ 争点①について申告法人は実体のない会社で本件不動産の賃貸事業には関与しておらず,同事業は全て被告人の個人事業であって,その収益は被告人個人に帰属する。このことは,申告法人には事務所や被告人以外の役員,従業員,同社名義の預貯金口座が存在せず,本件不動産の所有者は被告人であって,本件不動産に関して申告法人を当事者とする被告人とのマスターリース契約もテナントとの賃貸借契約もなく,テナントからの賃料はY株式会社又は戊株式会社名義の口座に入金されていたこと,本件不動産の賃貸,管理業務は,被告人の判断,指示により,実質的に被告人個人と評価されるべきY株式会社の名義で行われていたこと,申告法人名義で税務申告することを選択したのは,被告人にとってY株式会社も申告法人も実質的には被告人個人と同じであってどちらに賃料収入を帰属させるかは重要な問題ではなく,北九州市e区qr丁目所在の土地及び同区m町所在の土地(その登記簿上の所有名義は,YC又は被告人。以下「北九州物件」という。)の補償金の関係で申告法人が既に設立されており,申告法人に生じる見込みの赤字を経費として利用しようと考えたためにすぎないことなどから,認められる。⑵ 争点②について被告人は,税理士事務所に対し,申告法人に賃料収入が帰属することを前提にして経理処理に必要な書類を郵送していただけであって,同事務所に所属する丙に対して不正な経理処理の指示は一切していない。3 当裁判所は,①本件不動産の賃貸事業の収益は申告法人に帰属し,②本件対象期において,被告人が丙に対し,申告法人の売上の一部を除外するなど不正な経理処理の指示を行ったと認めた。そして,被告人は,申告法人の代表者として,これに基づいて作成された虚偽過少の法人税確定申告書を提出し,各法人税を不正に免れたものとして,判示各法人税法違反の罪が成立すると判断した。以下,その理由を説明する。第2 証拠上容易に認められる事実以下の各事実は,証拠により容易に認められる。1 被告人個人及び申告法人を含む被告人の関係会社の概要及び確定申告状況被告人個人のほか,被告人がその全株式を保有するとともに代表取締役を務める申告法人をはじめとする関係会社のそれぞれの概要及び確定申告状況は,別表のとおりである(証拠略)。被告人は,これらの関係会社及び申告法人の代表者であり,設立,解散,本店所在地を決しており,商号についても概ね被告人が決していた(証拠略)。2 被告人が本件不動産の所有権を取得した経緯,本件不動産の賃貸借への関与状況等被告人は,平成14年頃から平成16年頃にかけて,戊,己,YA,YB及びYCの債務を被告人個人の資産で代位弁済し,平成17年頃までに,当時これら関係会社が東京都中央区a,静岡県熱海市,北九州市及び福岡市s区といった各地に賃貸用として所有していた本件不動産を代物弁済により取得し,自ら所有するに至った(証拠略)。被告人は,本件対象期当時においても,本件不動産に係るテナント等への賃貸借契約を自ら決裁した上で,「Y株式会社」等の名義で締結させ,その賃料等は管理下にある銀行預金口座に振込入金させ,管理に係る経費等の支払も,被告人が逐一決裁した上で行われていた。そして,雇い入れた従業員にtと称するシステムを操作させて契約状況及び賃料等の請求・入金状況の管理等をさせていたが,これらの者には経理処理は行わせていなかった(証拠略)。なお,上記代物弁済の後においても,自然人たる被告人が自らその名義で本件不動産の賃貸借に係る取引をした証跡はない。本件対象期における本件不動産の賃貸借に係る収入の実際額は,申告法人に帰属したものとした場合,別紙1-1ないし3(各添付省略)の各修正損益計算書の売上高・差引修正金額欄に記載のとおりとなる(証拠略)。3 平成20年以前における関係会社及び被告人の決算処理・申告状況(証拠略)⑴ 平成17年1月から同年12月まで戊,己及びYAは,各平成17年9月期の法人税確定申告において,それぞれ約1億4876万円,約3億3341万円,約4億3018万円を売上として計上するとともに,経費として修繕費及び水道光熱費等を計上した。また,YBは,平成17年9月期の法人税確定申告において,売上を零円として計上するとともに,経費として給料手当等を計上した。YCは,平成17年12月期の法人税確定申告において,約5億0714万円を賃料収入として計上するとともに,経費として修繕費,水道光熱費及び給料手当等を計上した。他方,被告人は,平成17年分の所得税確定申告において,賃借人を「Y(株)」,賃貸不動産の所在地を北九州市とする不動産収入約5111万円を唯一の収入として申告し,本件不動産の賃料収入を被告人個人の所得として申告することはなかった(証拠略)。⑵ 平成18年1月から平成19年12月までYCは,平成18年12月期及び平成19年12月期の各法人税確定申告において,それぞれ約6億5564万円,約5億4746万円を受託報酬として計上した。その一方で,各期につき経費として,給料手当,修繕費及び水道光熱費等を計上するとともに,平成18年12月期において礼金として,平成19年12月期においては雑費として,それぞれ3600万円を計上した。他方,被告人は,平成18年分及び平成19年分の所得税確定申告において,いずれも「所得の生ずる場所又は給与などの支払者」を「Y株式会社」とする雑収入3600万円が収入の全てである旨を申告し,本件不動産の賃料収入を被告人個人の収入として申告することはなかった(証拠略。平成19年分については後に修正申告がなされているが雑収入の金額には変更はない。)。⑶ 平成20年1月から同年12月までYCは,平成20年4月期の法人税確定申告において,約8億0958万円を受託報酬として計上するとともに,修繕費,水道光熱費,保守管理費及び給料手当等を経費として計上した。YDは,平成20年12月期の法人税確定申告において,約15億6174万円を売上高として計上するとともに,経費として修繕費,水道光熱費及び給料手当等を計上した。なお,YCの平成20年4月期及びYDの平成20年12月期の各法人税確定申告においては,被告人に対する経費として計上した勘定科目は見当たらず,被告人は平成20年分の所得税確定申告をしなかった。4 本件対象期における申告法人,関係会社及び被告人の決算処理・申告状況⑴ 申告法人について申告法人は,本件対象期の各法人税確定申告において,それぞれ本件不動産の賃料等約6億0854万円,約5億7053万円,約5億7939万円を計上するとともに,経費として修繕費及び水道光熱費等を計上したが,被告人に対する経費として計上した勘定科目は見当たらない(証拠略)。被告人は,本件不動産の賃料収入を被告人個人でなく申告法人で申告する旨を自ら決め,申告法人での申告を続けた(証拠略)。なお,前記2のような本件不動産の賃貸管理業務について,本件対象期の当初はYEの従業員が行っていたが,平成23年3月にYEの従業員が全員退職して以降は,被告人の知人である庚らが行っていた。そして,申告法人は,平成21年12月期においては,事務費として月額130万円,年間合計1560万円を,平成22年12月期においては管理費として月額105万円,年間合計1260万円をそれぞれ計上する一方,給料手当等の人件費は計上しなかったが,平成23年12月期においては,運営管理費として平成23年3月頃までのYEの従業員に対する給料手当分の費用や,庚に対する人件費等を計上した。(証拠略)⑵ YEについてYEは,平成21年12月期及び平成22年12月期の法人税確定申告において,売上としてはそれぞれ1560万円,1260万円の運営管理のみを計上する一方,経費としてそれぞれ990万円余りの給料手当を計上した(証拠略)。⑶ 被告人について被告人は,平成21年分ないし平成23年分についても,平成20年分と同様,所得税確定申告をしなかった(証拠略)。5 本件対象期後における関係会社及び被告人の決算処理・申告状況(証拠略)YFは,平成24年12月期の法人税確定申告において,売上として約9億9693万円を賃料売上及び更新料売上等の勘定科目で計上するとともに,経費として修繕費及び水道光熱費等を計上した。YFの同期の法人税確定申告においても,被告人に対する経費として計上した勘定科目は見当たらず,被告人は,同年分についても,所得税確定申告をしなかった。また,関与税理士に対し,本件不動産の賃料収入を被告人個人において申告するよう指示することもなかった(証拠略)。6 申告法人の修正申告状況申告法人は,被告人が本件により起訴された当日である平成25年3月25日,本件対象期である3期分について,本件不動産の賃料収入等が申告法人に帰属することを前提とする法人税の修正申告書を所轄税務署長に対して提出した(証拠略)。第3 争点に関し関係者の証言及び供述等から認定した事実1 関係者の証言及び供述等により認定できる事実関係前記第2で認定した事実関係に加え,辛弁護士,丙,壬,癸及びZの各供述又は証言に関係証拠を併せれば,次の⑴ないし⑻のような事実関係が認定できる。なお,認定の主たる根拠とした上記各供述又は証言の信用性は,後記2で検討する。⑴ 被告人による辛弁護士に対する契約書案の作成依頼(証拠略)平成19年4月頃,YCの代表取締役であった被告人は,辛弁護士に対し,被告人個人所有の不動産物件で被告人個人が不動産業を営む場合,多額の維持管理費や損害賠償責任等の様々なリスクについて無限責任を負うことになるのを回避するため,法人がこれら維持管理費用を負担し,発生するリスクを全て引き受けることを条件に,不動産物件を自由に使用収益できるとする内容の契約書案の作成を依頼した。これを受けて,辛弁護士は,まずは「維持保全契約書」と題する契約書案を作成して被告人に示し,次いでこれに対する被告人の意見及び指示を反映した「保険契約書」と題する契約書案を作成した。同契約書案においては,前文において,自然人である甲がその保有不動産のランニングコスト及びリスクの負担の回避を希望していること並びに株式会社である乙は甲の希望に最大限沿いつつ収益をあげることを希求していることが契約の理由として記載されている。また,法人である乙の権利として,第3条に「乙は,第三者への賃貸その他任意の方法で本物件を使用・収益することができる。」,第6条本文に「乙は本件業務の報酬として本物件から生ずる一切の収益を収受することができるものとする。」と規定していた。他方,前記契約書案においては,乙の義務として,第4条に「⑴乙は,本物件の固定資産税,都市計画税,清掃,修繕,メンテナンスに要する費用,水道光熱費その他本物件の維持保全に要する一切の費用を負担する。⑵火災,地震,その他甲乙いずれの責めに帰すべき事由がない場合によって本物件が破損または滅失したときにおいても,乙の負担により乙がこれを修繕,再調達,再建築その他により復旧しなければならない。」,第6条ただし書に「乙は甲に対し,収益還元金として毎年金3600万円を支払う。」と規定していた。⑵ 被告人が申告法人の経理処理等を丙に依頼した経緯及び状況等(証拠略)税理士事務所の事務員である丙は,知人の紹介で被告人に面会し,しばらくした平成20年の半ば頃,被告人からYDの給与計算を依頼され,その後,経理処理も依頼され,総勘定元帳や税務申告用の決算書等の作成をした。この際,被告人は丙に対し,経理処理に当たっては送られてきた資料のみで行い,送られてきた資料について一切質問をしてはならず,確定申告書等に関しては,税務署等からの質問があったとしても被告人が対応するため税理士の署名押印は要らず,税務署から質問があっても一切答えてはならない旨の条件を付した。その後,被告人は,平成21年夏頃,丙に対し,申告法人の経理処理を依頼し,これについても前同様の条件を付した。⑶ 被告人の丙に対する申告法人の事業形態についての説明内容(証拠略)被告人は,丙に対し,申告法人の事業形態について,被告人が所有する複数のビルを被告人から申告法人が借り受け,それらのビルをテナントに賃貸するという不動産賃貸業を営み,そこから得た家賃収入の範囲で経費の支出をしている旨説明していた。⑷ 平成21年12月期の決算処理・申告状況ア 決算書案を作成させた状況(証拠略)被告人は,平成21年夏頃,丙に対し,申告法人が利用する3口座(Y株式会社名義のG銀行a支店及びH銀行I支店の各口座,戊株式会社名義のG銀行J支店の口座)に係る預金の動きに関する資料である当座勘定照合表,申告法人への入金に関する資料である入金チェック表(平成23年12月期においては表題が「入金状況表」と変更されているが,以下変更の前後を問わず「入金チェック表」という。),申告法人からの出金に関する資料である資金移動表について説明した。丙は,平成21年9月頃から平成22年1月頃までの間,2か月に1度程度の割合でこれらの資料の送付を受け,会計ソフトに入力をし,仕訳日記帳及び総勘定元帳を作成した。なお,賃料等の売上については,入金チェック表等には入金分しか記載されておらず,未収分が分かる資料は送付されなかったため,丙は,やむなく発生主義ではなく,現金主義に従って経理処理をした。また,入金チェック表では賃料等の収入がどのように支払われたかも不明で,相手勘定が現金か預金か特定できなかったため,便宜上の相手科目として「預け金」という仮勘定を用いることとし,平成21年12月頃までにはその旨被告人に説明していた。丙は,申告法人に係る平成21年12月期の決算書案を作成し,平成22年1月末ないし同年2月初旬頃,被告人に対して同決算書案の内容について,売上高が約16億8084万円,純利益が12億円ないし13億円程度になる旨説明した。イ 被告人が架空の固定資産除却損を計上させた状況(証拠略)被告人は,平成22年2月14日又は同月15日頃,丙に対し,電話で,申告法人の資産として,被告人の資金で購入した土地15億6000万円,建物3億5000万円,設備合計10億1900万円及び造作設備合計1億7100万円を計上するよう指示した。丙は,被告人からの指示内容を手書きでメモした後,同月16日,表計算ソフトであるエクセルを用いて申告法人において計上する資産の一覧表(以下「エクセル一覧表」という。)を作成した。被告人は,平成22年2月17日又は同月18日頃,丙からエクセル一覧表を見せられると,丙に対し,前記土地等の購入日は平成21年1月28日である旨,エクセル一覧表の記載の資産のうち設備の一部に「・」等の印を付け,当該設備については全額を固定資産除却損として計上すべき旨及びその余の設備については4分の3に当たる額を固定資産除却損として計上すべき旨をそれぞれ指示した。以上の指示を受け,丙は,相手方勘定科目を短期借入金として,前記土地等を資産計上した上,平成21年12月31日付けで相手勘定科目を設備として固定資産除却損合計7億9100万円を,相手勘定科目を造作設備として,固定資産除却損1億7100万円を,それぞれ計上した。さらに,被告人は,丙に指示をして,平成22年2月中旬頃ないし同月下旬頃,計上した上記固定資産除却損9億6200万円を同額の売上高と相殺し,各勘定科目から同額ずつ減額する経理処理をさせ,同月下旬頃には,平成21年12月31日付けで土地15億6000万円,建物3億5000万円及び固定資産除却損分減額後の設備2億2800万円について,相手勘定に短期借入金(減額)等を計上の上,資産から消去する経理処理をさせた。以上の処理に際し,被告人は,丙に対し,前記土地,建物及び設備の購入に関する資料及び前記固定資産除却損が発生したことが判明する資料を示すことはなかった。ウ 架空の固定資産売却損を計上させた状況(証拠略)被告人は,平成22年2月中旬以降,丙に対し,平成21年12月期中に土地を購入して売却したが,その際に損失が生じた旨を伝え,固定資産売却損を計上するよう指示した。その後,被告人は,丙に対し,同土地の売却金額を変更するよう指示し,最終的には,固定資産売却損4億2000万円を計上するよう指示したが,同土地の購入日及び売却日については指示をしなかった。これを受け,丙は,期首である平成21年1月15日付けで土地9億2000万円を資産計上し,期末である同年12月31日付けで同額分の土地を資産から減額するとともに固定資産売却損4億2000万円を計上する経理処理をした。また,被告人は平成22年2月下旬頃,丙に対し,前記固定資産売却損4億2000万円を同額の売上高と相殺し,各勘定科目から同額ずつ減額する経理処理をさせた。以上の処理に際し,被告人は,丙に対し前記固定資産売却損が発生したことが判明する資料を見せず,前記土地の所在地及び名称も伝えなかった。エ 被告人が決算書等の内容について了承した状況(証拠略)被告人は,丙に対し上記イ及びウの各指示をし,法人税確定申告書及び決算書等を作成させ,平成22年2月25日頃,丙から,このようにして作成された欠損金額が約2803万円である旨の法人税確定申告書及び決算書等を見せられ,その内容につき説明を受けた。そして,被告人は,前記法人税確定申告書等の内容を了承した上,同申告書に署名押印し,同月26日,丙をして,所轄l税務署に提出させた。⑸ 平成22年12月期の決算処理・申告状況ア 決算書案を作成させた状況(証拠略)被告人は,丙に指示し,平成21年12月期と同様の資料に基づいて,会計ソフトに入力をさせ,仕訳日記帳及び総勘定元帳を作成させた。丙は,売上高が約17億7653万円計上され,純利益が発生する内容の申告法人に係る平成22年12月期の決算書案を作成し,平成23年1月末頃,被告人に同決算書案を見せてその内容について報告した。イ 減価償却費等を保守管理費として計上させた状況(証拠略)被告人は,平成23年1月末頃に丙から上記決算書案を見せられた際,丙に対し,平成21年12月期において貸借対照表から消去させた土地,建物及び設備(前記⑷イ)を改めて計上した上,このうち,建物及び設備について減価償却費を計上するよう指示した。同指示を受け,丙は,前期の総勘定元帳や当時のエクセル一覧表を参照し,土地15億6000万円,建物3億5000万円及び設備2億2800万円を資産計上した上,固定資産台帳兼減価償却費明細書を作成し,減価償却費(当期償却額)が合計5073万9000円(前記建物につき700万円及び前記設備につき合計4373万9000円)となる旨算出した。丙は,この算出に際し,被告人から減価償却に係る建物や設備の取得金額や構造等が判明する資料を示されなかったため,自らが所持していた税務手帳の中にあった一般的な建物の構造ごとに決められた耐用年数の記載された表を見ながら,特定の構造であれば耐用年数は何年である旨を被告人に伝え,それを聞いた被告人から構造についての指示を受け,それに基づいて耐用年数を決め,償却額を算出していた。被告人は,丙から,前記固定資産台帳兼減価償却費明細書を見せられ,その内容をいったん了承したが,平成23年2月中旬頃,丙に対し,計上を指示した減価償却費を改修費に振り替えるよう指示するとともに,その頃,建物の改修費が2000万円発生したとして,改修費として計上するよう指示した。この指示に関し,被告人が丙に対し改修費に係る資料を示すことはなく,その建物の所在地や名称等を伝えることもなかった。同指示に従い,丙は,申告法人において,改修費合計7073万9000円(5073万9000円と2000万円の合算額)を計上した。さらに,被告人は,丙に指示し,計上した改修費を保守管理費に振り替えさせた上,土地15億6000万円,建物3億4300万円及び設備1億8426万1000円(建物及び設備は減価償却費分減額後の残額)については,相手勘定に短期借入金(減額)を計上することにより,資産から消去させた。ウ 売上高を減額させた状況(証拠略)丙は,前記⑷アのとおり,現金主義に従った経理処理をしており,売上高に債権としては発生しているが回収することができないものが含まれることはない処理となっていた。しかし,被告人は,平成23年2月中旬頃,丙に対し,資料等を示すことなく,売上のうち1億4800万円が回収できないのでこれを売上高から除外するよう指示した。そこで,丙は,平成22年12月31日付けで,相手勘定科目を預け金として,計上済みの売上高から1億4800万円を減額する経理処理をした。エ 架空の固定資産売却損を計上させた状況(証拠略)被告人は,平成23年2月下旬頃,丙に対し,平成22年1月31日に土地を購入し,同年9月30日に売却したが,その際,損失が発生した旨伝え,固定資産売却損の計上を指示した。しかし,その後,被告人は,丙に対し,同土地の売却金額の変更を指示し,最終的には固定資産売却損10億5800万円の計上を指示した。同指示に従い,丙は,平成22年1月31日付けで土地21億円を資産計上し,同年9月30日付けで同額分の土地を資産から減額するとともに,固定資産売却損10億5800万円を計上する経理処理をした。さらに,被告人は,平成23年2月25日までに,丙に指示し,前記固定資産売却損10億5800万円を同額の売上高と相殺し,各勘定科目から同額ずつ減額する経理処理をさせた。以上の処理に際し,被告人は丙に対し前記固定資産売却損が発生したことが判明する資料を見せず,前記土地の所在地及び名称も伝えなかった。オ 決算書等の内容について了承した状況(証拠略)被告人は,丙に前記各指示をし,これに沿った法人税確定申告書及び決算書等を作成させたところ,平成23年2月24日又は同月25日頃,丙から,欠損金額が約2154万円である旨の法人税確定申告書等を見せられ,その内容について説明を受けた。そして,被告人は,その内容を了承した上,同申告書に押印し,同月25日,丙をして,所轄l税務署に提出させた。⑹ 平成23年12月期の決算処理・申告状況ア 決算書案を作成させた状況(証拠略)被告人は,丙に指示し,平成21年12月期及び平成22年12月期と同様の資料に基づいて,会計ソフトに入力をさせ,仕訳日記帳及び総勘定元帳を作成させた。丙は,売上高が約12億4595万円計上され,純利益が約7億5427万円発生する内容の申告法人に係る平成23年12月期の決算書案を作成し,被告人に同決算書案を見せてその内容について報告した。なお,被告人は同期については,売上高を賃料収入という勘定科目名に変更するよう丙に指示した。また,被告人は,平成24年1月末ないし同年2月初旬頃,丙に対し,領収証の束を渡し,被告人が立て替えた申告法人の経費がある旨説明してこれを申告法人の経費として計上させた。イ 固定資産売却損を計上させた状況(証拠略)被告人は,丙から前記決算書案を見せられて報告を受けた後の平成24年2月末頃,丙に対し,平成23年12月期中に,2億6000万円で土地を,9億2200万円で建物を購入し,これらを売却したが,その際,損失が発生した旨伝え,固定資産売却損を計上するよう指示した。その後,被告人は,丙に対し,土地の売却金額の変更を指示し,最終的には固定資産売却損4億5400万円を計上するよう指示した。丙は,同指示を受けて同額の固定資産売却損を計上することとしたが,被告人から同土地及び同建物の購入日及び売却日について指示がなかったことから,期首である平成23年1月1日付けで,土地2億6000万円及び建物9億2200万円を各資産計上し,期末である同年12月31日付けで同額分の土地及び建物を資産から各減額し,固定資産売却損4億5400万円を計上した。被告人は,平成21年12月期及び平成22年12月期の決算時と異なり,丙に対し,固定資産売却損と売上高を相殺する経理処理を指示しなかったため,丙も,平成23年12月期については,そのような経理処理をしなかった。以上の処理に際し,被告人が,丙に対し,前記固定資産売却損が発生したことが判明する資料等を示すことはなく,同土地及び同建物の所在地及び名称を伝えることもなかった。ウ 賃料収入を減額させた状況(証拠略)被告人は,平成24年2月半ば以降,丙から,被告人が送付した資料に基づき丙に作成させた月々の賃料収入が分かる表を見せられると,丙に対し,特定の月の数字が過大になっており,本件不動産に含まれる「Pビル」ほか複数のビルに係る賃料収入を足したくらいの金額が間違っているとして,その分だけ賃料収入から除くよう指示した。同指示に従い,丙は,平成23年12月31日付けで,賃料収入2億9995万2892円を減額する経理処理をした。以上の処理に際し,被告人が丙に対し,賃料収入が過大となっていることを示す資料等を提示することはなかった。エ 決算書等の内容について了承した状況(証拠略)被告人は,丙に対して前記各指示をし,それに沿った法人税確定申告書及び決算書等を作成させたところ,平成24年2月28日又は同月29日頃,丙から,欠損金額が約1495万円である旨の法人税確定申告書等を見せられ,その内容につき説明を受けた。そして,被告人は,前記法人税確定申告書等の内容を了承した上,同申告書に押印し,同月29日,丙をして,所轄p税務署に向けて発送,提出させた。⑺ いわゆるLビルに係る不動産売買契約の状況(証拠略)被告人は,平成21年1月28日,自己の資金で,東京都中央区ab丁目c番d号所在のY株式会社(当時これに該当するのは申告法人)名義で,東京都中央区ah丁目K番c所在の土地(以下「本件土地」という。)及び同土地上の建物(以下「Lビル」という。)を購入する内容の売買契約を,癸が代表者を務める株式会社Mを買主側立会人,壬の当時の勤務先である株式会社Nを売主として締結した。その売買契約書では,売買代金の内訳として,本件土地代金が15億6000万円,Lビル代金が3億5000万円(内税),その他の設備が18項目合計11億9000万円(いずれも内税)との定めがなされているところ,これは,同月27日になって突然,被告人が癸に対し,売買代金をこのような内訳にするよう言い出したためにこのような定めがなされるに至ったもので,売主側においてそのような内訳を設ける根拠も理由もないものであった。⑻ 北九州所在の土地収用に関する被告人と北九州市との交渉の状況(証拠略)北九州市は,北九州物件につき,都市計画道路を作るための用地買収を計画していた。被告人は,平成10年以降,一貫して自ら北九州市職員との間での北九州物件の買収交渉に対応し,最終的には,平成24年4月16日,所有者又はYCの代表者清算人名義で,北九州物件の収用裁決に係る補償金を受領し,また,上記m町所在の土地の地上物件が己の所有ではなく,YCの所有に属することの確認書に己の代表者清算人名義で署名押印した。なお,上記過程で申告法人が北九州物件を所有したり,取得のための出捐をしたと目すべき証跡はなく,被告人も,申告法人において,被告人に対し北九州物件の対価を支払ったことがないことを自認している(証拠略)。2 認定に用いた主たる証拠の信用性評価⑴ 辛弁護士の供述の信用性辛弁護士の検察官調書(証拠略)における供述は,前記1⑴の範囲では被告人の質問てん末書(証拠略)の内容と合致している上,その「保険契約書」と題する契約書案前文に記載されている趣旨の契約書案を作成するよう被告人から依頼があったという作成経緯についても,被告人の住居から押収された前記契約書案の記載内容とよく符合する内容であって,信用することができる。この点弁護人は,①辛弁護士作成に係る契約書案は,税務申告に関し辛弁護士がY株式会社に賃料が帰属することの説明のために作成したものである,②被告人の質問てん末書の記載は,担当者から,誤りがあれば後に何度でも訂正できると言われたため真剣に話を聞かず署名したもので信用性がないなどと主張する。しかし,①については,弁護士という職にある辛弁護士において,被告人から依頼を受けることなく契約書案を作成し,かつ,その作成経緯について虚偽の供述をする理由が全く見当たらないことからすれば,弁護人の主張は採用できない。また,②についても,質問てん末書の内容を後から何度でも訂正できるのであれば質問てん末書を作成する意味がないから,担当者においてそのような発言をしたとは到底認めがたく,採用の限りでない。⑵ Z証言の信用性また,前記1⑻の認定根拠となるZ証言は,公文書である裁決書及び交渉記録,被告人の署名押印のある補償金受領証及び確認書によって裏付けられており,高い信用性を有する。⑶ 壬証言及び癸証言の信用性さらに,前記1⑺の認定根拠となる壬及び癸の各証言も,それぞれ売主側の担当者又は買主側の実質的な仲介業者と立場を異にしながら,売買契約の直前になって突如被告人が売買代金の内訳に関する条項を入れるよう言い出したとするなど,被告人の態度について一致した内容となっている。また,土地以外に売買代金を割り振れば,消費税の課税取引となり売主に不利であったが,株式会社Nには譲渡担保の関係で売買契約を急ぐ事情があったためやむなく応じたとの壬の証言する経緯も合理的であり,現に株式会社Nが本件土地及びLビルを取得した際の契約では土地のみに売買代金が割り振られており,本件土地の更地価格は約39億円との不動産鑑定が存在したこと(証拠略)に照らしても首肯できるものである。この点被告人は,上記の内訳を定めたのは株式会社Nである旨供述する(証拠略)が,既にみたとおり,株式会社Nにとっては本件土地以外に売買代金を割り振る理由がなく,むしろ消費税を課税されることになることからすれば,信用することのできるものではない。⑷ 丙証言の信用性丙証言のうち前記1⑷ないし⑹の経理処理等に関する部分は,仕訳日記帳(証拠略)及び総勘定元帳(証拠略)から認められる,申告法人における現金主義に従った売上計上,決算期末日における多額の固定資産除却損等の計上及び資産の減額,売上と固定資産除却損等との相殺,仮勘定である預け金が多数利用されていること等,一般的な経理処理と異なる不正な処理をよく説明することのできるものである。また,入金チェック表等の送付を受けていたとする点及び入金チェック表には入金分しか記載されていないとする点については,YFから押収されたパソコン内の電子データ(証拠略)によっても裏付けられている。さらに,前記1⑵及び⑶に関する証言も,このような不正な処理に関与することになった経緯を説明するものとして自然な内容である上,現に被告人は本件対象期の税務申告を全て,経理責任者及び関与税理士の署名押印欄を空欄として行っており,その後の税務調査等に対する対応も被告人自身で対応していることともよく整合している。また,本件対象期の各期の経理処理についてみても,平成21年12月期に関する証言(前記1⑷)は,平成22年2月16日作成のエクセル一覧表に手書きで記載された内容(証拠略)と整合するものであり,現実にこの記載内容で同期の固定資産除却損に関する経理処理がなされていることも認められる。平成22年12月期に関する証言(前記1⑸)は,YFから押収された決算書の草稿と見られる書面(証拠略)において丙証言と同内容の売上高の減額,固定資産売却損の計上,減価償却費の改修費への振替え等が行われていることともよく符合している。平成23年12月期に関する証言(前記1⑹)は,丙の勤務先である税理士事務所から押収されたメモ書き様の書面(証拠略)に記載された内容と整合的であり,同期においても,同内容で固定資産売却損の処理が行われている。以上の点に加え,丙の証言するような処理により,本件対象期における申告法人の所得額が大幅に減少し,判示のとおり合計10億円余りの法人税をほ脱するという利益を申告法人が享受するのに対し,丙がこれに相応する報酬その他の利益を得たことは関係証拠によってもうかがわれない。むしろ前記の供述内容は,それにもかかわらず自身が不正な経理に荷担したことを淡々と自認するものであって,税理士事務所の職員である丙において,あえて自己に不利益な虚偽の供述をすべき理由は見当たらない。被告人が申告法人やYEの入出金等の経理に関する決裁権限の一切を有していたと認められること(証拠略)に加え,前記⑵,⑶のとおりの信用できる関係者の証言により認定できる前記1⑺及び⑻のとおり,被告人は,被告人が設立した申告法人を含む別表の法人の解散や設立等による変動にかかわらず,一貫して代表者として北九州市との交渉を行っていること,Lビルの売買契約についても,契約直前に被告人の発案で契約内容を変更させて代金の相当部分を減価償却・除却が可能な建物・設備名目に割り振るなど,その独断により申告法人への費用計上をもくろんでいたとうかがわれる行動をしていること,丙証言に表れている資産計上及び固定資産除却損計上は,まさにLビル購入におけるそのような被告人の作為の投影で,被告人の指示なくしては行い得ない内容であることをも併せ考慮すれば,既にみた不正な経理処理はすべて被告人の指示に基づき行ったものである旨の丙の証言は,その内容を真っ向から否定する被告人の供述を踏まえても,十二分に信用することができる。第4 争点①に関する判断1 当裁判所の判断前記第2の1ないし5の事実を総合すると,被告人は,平成17年頃までに本件不動産の所有権を取得したが,その後も自らが本件不動産の賃貸事業に関してその名義で取引の前面に出ることはなく,関係会社の設立と解散を繰り返しながら,本件不動産の賃料収入やこれに要する経費を自己の一存で順次YC,YD,申告法人,YFといった各時点で現存する関係会社の所得を構成するものとして税務申告をしていたことが認められる。そして,この事実に前記第3の1⑴及び⑶の事実を併せ考慮すれば,被告人は,本件不動産を,自己が唯一の株主で,かつ代表取締役を務める会社にリース(マスターリース)し,その会社に,本件不動産の管理費用や破損・滅失等の危険を負担させる代わりに,本件不動産を自由に使用して本件不動産から生じる一切の収益を収受する権利を付与した上,その会社がテナントに対して当該物件を賃貸(サブリース)するという事業形態によって,その会社の計算において不動産賃貸業を営むことを意図し,そのように振る舞っていたものと推認することができる。この点,被告人も,捜査段階ないし国税局の質問調査の段階においては,かかる意図を有していたことを自認し,むしろ賃料収入が被告人個人に帰属することを否定し申告法人に帰属すると供述していた(証拠略)ものである。この捜査段階ないし質問調査段階の供述は既にみた事実関係によく符合するものであって,この限りで信用することができる。また,被告人が本件で起訴された直後に,本件不動産の賃貸事業の収益が申告法人に帰属することを前提とする修正申告を行っていること(前記第2の6)も,被告人において同収益を申告法人に帰属させる意思を有していたことと整合的である。以上によれば,被告人と申告法人との間で契約書等は交わされていないが,本件対象期については,被告人はその自由意思に基づき,申告法人が被告人との間のマスターリース契約によって本件不動産から生ずる一切の収益を享受する地位にあるとの法形式を選択し,法人税確定申告において,本件不動産からの賃料収入等及びこれに対応する経費を計上し,他者にもそのような説明をしていたのであって,申告法人の計算において本件不動産の賃貸事業を行っていたといえる。したがって,本件不動産の賃料収入は申告法人に帰属するものというべきである。2 弁護人の反論⑴ マスターリース契約に関する主張弁護人は,上記のようなマスターリース契約は不存在であると主張し,その理由として,①辛弁護士作成の契約書案の内容は,賃貸物件の所有者である被告人がテナントからの責任追及回避の目的で作成したもので,被告人・会社間の賃貸借については触れられていないし,そもそも同契約書案は申告法人設立以前に作成されたものでこれが申告法人に引き継がれたことを示すものは何もない,②被告人が平成18年分及び平成19年分の個人所得として申告している3600万円はYCとのマスターリース契約に基づく収益還元金ではないし,申告法人は本件対象期の決算報告書で被告人に対するマスターリース料の支払をしていない,③申告法人には従業員が不存在で,預金口座もなく,賃貸借契約に関する決裁等は全て被告人個人が行っており,賃料は申告法人以外の名義の口座に入金されていたなどと指摘する。しかし,①の点については,「保険契約書」と題する契約書案が被告人のテナントからの責任追及回避目的から検討されたものであったことは,その前文にも記載されているところであるが,それだからこそ託された会社の計算において本件不動産の賃貸事業を営むことを企図していたことを示すもので,同事業の損益が託された会社すなわち本件では申告法人に帰属することに整合的である。また,契約書案で被告人と会社の間の賃貸借については触れられていないとする点も,被告人所有の本件不動産につき,会社が使用収益の権限を得,被告人に対し会社が対価を支払うという契約内容を両者間の賃貸借契約であると解することに障害はない。同契約書案が作成されたのが申告法人設立以前であるのは弁護人指摘のとおりであるが,同契約書案作成時点でいずれかの会社に本件不動産の賃貸事業の収益を帰属させる意思であった被告人において,申告法人設立後にこれを翻意したことを窺わせる事情は見当たらず,むしろ前記第3の1⑶で認定したように,この契約書案に沿うような申告法人の事業形態を丙に説明していたことからすれば,本件対象期においても同様の事業形態を企図していたとみるべきであって,同契約書案に署名押印等をして完成させたものが存在しないことは,この認定を左右しない。②の点も,平成18年及び平成19年に被告人が3600万円を収益還元金として受領していたからこそ辛弁護士作成の契約書案においては同額が収益還元金として記載されたと考えられるし,被告人はその質問てん末書(証拠略)において,平成19年には収益還元金を受け取っていたが,平成20年以降はこれを受け取らない内容に契約を改めた旨供述していたもので,これに反する証拠はない。そして,既にみたとおり,マスターリース契約を締結することについての被告人の意図は無限責任の回避にあり,収益還元金を重視していたとは考えがたいところであるから,やはり前記1の認定を左右しない。③の点も,被告人は,申告法人を含む関係会社全ての唯一の決定権者かつ本件不動産の所有者として,一存で前記1のような法形式を採用して,それに沿う税務申告をしているのであるから,本件不動産の賃貸事業について被告人のした種々の決定を申告法人の代表者としての決裁等とみることに障害はないし,申告法人に従業員がいないことについても,被告人は同事業をYEの従業員又は庚に行わせ,その人件費等を申告法人において支出,計上していた(前記第2の4⑴)のであるから,やはり申告法人の計算で同事業が行われていたことを否定するものではない。申告法人名義の口座が存在せず,賃料が別法人名義の口座に入金されていたとしても,被告人は,前記の従業員等にこれらの口座に対する入金の状況を入金チェック表等に記載させ,申告法人での申告の資料として丙に送付していたのであるから,被告人において,申告法人に賃料収入を帰属させる意思で,かつ,そのように振る舞っていたことは明らかである。⑵ 申告法人には実体がない旨の主張弁護人は,申告法人はマスターリース契約の当事者となるような実体が存在しなかったと主張し,①テナントに対して申告法人が賃貸人になった旨の告知もなされておらず,賃貸人は戊等の名義のままであった,②「Oビル」の賃借人が原告となり,被告人を被告として同ビルの賃貸人としての責任等を追及した訴訟においても,被告人は申告法人が責任を負う旨の主張をしていない上,同訴訟の判決では申告法人を含む被告人が設立等をした法人の法人格が形骸化又は濫用されていたと認定されていること,③法的にも所有権を取得した被告人が賃貸人たる地位を当然承継することなどを指摘する。しかし,①のテナントに賃貸人の変更を告知しなかった点については,被告人は,テナントの混乱や事務量の増加を避けるためであった旨供述しており(証拠略),この点が申告法人の実体の不存在を示すものとはいいがたい。また,弁護人の主張を前提としても,被告人は平成17年に清算結了させた会社等の名義でその後も賃貸事業を継続していたのであるから,被告人において,賃貸借契約等に用いる名義の形式はともかく,その会社の実体を重視していたものとは認められず,これを根拠に申告法人に本件不動産の賃貸事業の計算を帰属させるに足りる実体がなかったということはできない。また,②及び③の点については,弁護人主張の賃貸人たる地位の当然承継や法人格否認の法理は,賃借人等取引の相手方保護のための私法上の法理であって,租税法上の所得の帰属に関しては,被告人が選択した法形式に相応の根拠と合理性が伴う以上,これに依拠できないわけではなく,弁護人の主張は的を射ていない。⑶ 小括以上のほかにも,弁護人は本件不動産の賃貸事業の収益は申告法人に帰属するものではない旨るる主張するが,いずれも採用することのできるものではない。前記1の判断は揺らがない。第5 争点②に対する判断1 前記第3の1⑷ないし⑹で認定したとおり,本件対象期において,被告人は,申告法人の決算書及びこれを添付した法人税確定申告書の作成に当たり,売上の一部を除外するなどの指示を個別具体的に丙に対して行い,それが反映されていることの確認もしていたことが明らかに認められる。したがって,同指示に従って丙が作成した各法人税確定申告書に署名押印又は押印して所轄税務署長に提出させ,法定納期限を徒過させた被告人には,これが虚偽過少のものであることの確定的な認識が認められ,申告税額と実際税額との差額全体について,ほ脱の故意が認められ,ほ脱犯が成立する。なお,丙は申告法人の売上高・賃料収入につき現金主義に従って経理処理をしていたが,各事業年度の実際所得金額の算定に当たり,これを発生主義に基づいて算定し直したことにより増差所得が生じている。この点については,上記の個別的な指示に係るものと異なり,被告人に具体的な額についての認識まであったとは直ちに認め難いが,このような事情は,そもそもほ脱の故意の成立範囲を左右しないと解されるし,本件においては,既にみたとおり,被告人が丙に対し発生主義に従った経理処理を行うための資料を提供しなかったことによるものであり,被告人は,過去にも税務署から発生主義に従った経理処理をすべきである旨指摘されていながら独自の判断であえて現金主義に従った経理処理をしていたと認められる(証拠略)から,概括的な認識があったことに疑いはなく,犯情も左右しないというべきである。2 ところで,本件審理の過程において被告人がした供述の中には,30年以上前に被告人と福岡県又は北九州市との間で北九州物件を35億円で売却する旨の合意(以下「35億円合意」という。)が成立していたところ,被告人は平成21年1月に申告法人に北九州物件を売却したが,これが福岡県又は北九州市にそのような価格で売却できなくなったことから,その減価見込み分を本件対象期に申告法人の固定資産売却損として計上したもので,脱税のつもりなどない,という趣旨のもの(証拠略)がある。しかし,前記第3の1⑻に認定したとおり,そもそも北九州物件が申告法人に帰属したとは認め難いことに加え,北九州物件が所在する区域の都市計画事業は,平成9年10月及び平成11年8月に事業認可の告示がなされたもの(証拠略)であり,それ以前に土地の買収価格について合意が成立することは考えがたいこと,被告人自身,35億円合意に関する覚書等を交わしていないことを自認していること(証拠略),北九州市職員作成に係る交渉記録にも収用裁決にも35億円合意に関する記載がないことなどに照らし,35億円合意があったともいえない。さらに,北九州物件の収用裁決は平成24年になされたものであって,期間的対応の面からも本件対象期において計上が認められるものではない。このように,被告人の固定資産売却損の計上に関する供述は,その前提が誤っており,およそ採り得ない。また,被告人は,申告法人が平成21年12月期に計上した固定資産除却損及び平成22年12月期に計上した保守管理費に関し,同期においてLビルを所有していたのは申告法人であり,現にその設備の廃棄処分もしている旨の供述をし(証拠略),上記経理処理の根拠として説明しようとした節がある。しかし,前記第3の1⑺のとおり,Lビルの購入原資は被告人個人が出捐したものであり,被告人自身,第12回公判期日以外では一貫してLビルは申告法人の所有ではないと述べている(証拠略)ことからすれば,Lビルに係る固定資産除却損及び保守管理費を申告法人において計上することが許されないこともまた認識していたものといえる。3 その他,前記1の認定に反する証拠はない。第6 結論以上の次第で,前掲各証拠によって,被告人に判示記載の各罪の成立が認められると判断した。(法令の適用):省略(量刑の理由)本件は,不動産賃貸事業を営む申告法人の代表取締役であった被告人が,申告法人の業務に関し,売上を減額して計上し,あるいは架空の固定資産売却損を計上するなどの方法により敢行した虚偽過少申告ほ脱の事案である。
事案の概要
平成30年11月20日
東京地方裁判所 刑事第8部
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[下級] [刑事] 平成29(わ)3167  195Views
傷害致死被告事件
平成30年11月20日
大阪地方裁判所 第6刑事部
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[下級] [刑事] 平成30(わ)2864  118Views
地方公務員法違反,加重収賄
平成30年11月16日
大阪地方裁判所 第9刑事部
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[下級] [刑事] 平成30(わ)2864  130Views
地方公務員法違反,加重収賄
平成30年11月16日
大阪地方裁判所 第9刑事部
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[下級] [刑事] 平成30(わ)2864  100Views
地方公務員法違反,贈賄
平成30年11月16日
大阪地方裁判所 第9刑事部
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[下級] [刑事] 平成30(わ)65  166ViewsMoreinfo
建造物侵入,現住建造物等放火未遂被告事件
平成30(わ)65
被害ビル内の飲食店の従業員である被告人が,同店経営者と共謀の上,同店の火災保険金を取得しようとして,同ビルに侵入し同店舗付近に火を放ったものの消火された建造物侵入,現住建造物等放火未遂被告事件で,弁護人は,被告人は共犯者と共謀しておらず無罪である旨,仮に共謀が認められるとしても放火された建物と人が現在していた建物とは別の建物であるとして非現住建造物等放火未遂が成立するにとどまる旨主張したが,いずれも排斥し,建造物侵入罪及び現住建造物等放火未遂罪の成立を認め,懲役6年を言い渡した事案。
判示事項の要旨
平成30年11月16日
札幌地方裁判所
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[下級] [民事] 平成30(ワ)358  149ViewsMoreinfo
損害賠償請求事件
平成30(ワ)358
本件は,原告が,開発した住宅地において太陽光発電設備を設置して同住宅地内の共用施設等で利用する電気を発電し,余剰分については売電して共用施設運営費に充てていたところ,その隣地に被告が住宅地を開発し建物を建築したことにより原告の発電量が大きく減少したと主張して,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害金(一部請求)1189万9709円及びこれに対する不法行為日である平成26年12月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
事案の概要
平成30年11月15日
福岡地方裁判所 第5民事部
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[下級] [刑事] 平成29(う)1117  177ViewsMoreinfo
医師法違反被告事件
平成29(う)1117
本件控訴の趣意は,弁護人亀石倫子(主任),同三上岳,同川上博之,同久保田共偉,同白井淳平及び同城水信成共同作成の控訴趣意書及び各控訴趣意補充書に各記載のとおりであり,これに対する答弁は,検察官海津祐司作成の答弁書に記載のとおりであるから,これらを引用する。論旨は,被告人の所為が医師法31条1項1号,17条に該当するとして,被告人を罰金15万円に処した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討する。第1 本件公訴事実及び原判決の判断1 本件公訴事実の要旨本件起訴に係る公訴事実の要旨は,「被告人は,医師でないのに,業として,別表記載のとおり,平成26年7月6日頃から平成27年3月8日頃までの間,大阪府内の「A(店名)」において,4回にわたり,Bほか2名に対し,針を取り付けた施術用具を用いて前記Bらの左上腕部等の皮膚に色素を注入する医行為を行い,もって医業をなしたものである。」(別表略)というものであり,適用すべき罰条として,医師法31条1項1号,17条が掲げられている。2 原判決の判断の概要原判決は,本件の争点を,①針を取り付けた施術用具を用いて人の皮膚に色素を注入する行為(以下「本件行為」という。)が医師法17条の「医業」の内容となる医行為に当たるか否か,②医師法17条が憲法に違反するか否か,③本件行為に実質的違法性があるか否か,であるとして,後記のとおり,①については,本件行為は医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為に該当する,②医師法17条は憲法31条に違反するものではなく,また,本件行為に医師法17条を適用することは憲法22条1項,21条1項,13条のいずれにも違反しない,③本件行為には実質的違法性が認められるとの判断を示し,本件公訴事実どおりに罪となるべき事実を認定した上,本件行為に医師法31条1項1号,17条を適用して被告人を罰金15万円に処したものである。本件行為の医行為該当性に関する原判決の判断要旨ア 原判決は,「医行為」の意義について,医師法17条は,医師の資格のない者が業として医行為を行うこと(医業)を禁止しているところ,これは,無資格者に医業を自由に行わせると保健衛生上の危害を生ずるおそれがあることから,これを禁止し,医学的な知識及び技能を習得して医師免許を得た者に医業を独占させることを通じて,国民の保健衛生上の危害を防止することを目的とした規定であるとし,同条の「医業」の内容である医行為とは,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為をいうと解すべきである,と説示する。イ そして,原判決は,医師法17条及び同法1条の趣旨や法体系から,「医行為」とは,①医療及び保健指導に属する行為の中で(医療関連性),②医師が行うのでなければ保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為をいうと解すべきであるという弁護人の主張に対し,その主張によれば,医療及び保健指導に属する行為ではないが,医師が行うのでなければ保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為(美容整形外科手術等)を医師以外の者が行うことが可能となり,このような解釈が医師法17条の趣旨に適うものとは考えられないし,弁護人の主張は,法体系についての独自の理解を前提とするものであるとして,弁護人の主張を排斥している。また,「医行為」に関する最高裁の判例(最高裁昭和30年5月24日第3小法廷判決(刑集9 7号1093頁),同昭和48年9月27日第1小法廷決定(刑集27 8号1403頁),同平成9年9月30日第1小法廷決定(刑集51 8号671頁))について,弁護人が,これらの判例によれば,「医行為」の要件として「疾病の治療,予防を目的」とすることが求められていると主張するのに対し,原判決は,上記各判例の事案は,いずれも被告人が疾病の治療ないし予防の目的で行った行為の医行為性が問題となったもので,医行為の要件として上記目的が必要か否かは争点となっておらず,上記各判例はこの点についての判断を示したものではないから,本件において,「医行為」の要件として「疾病の治療,予防の目的」が不要であると解しても,最高裁の判例に反しない旨説示している。ウ 次いで,原判決は,本件行為の医行為該当性について,被告人が行った施術方法は,タトゥーマシンと呼ばれる施術用具を用い,先端に色素を付けた針を連続的に多数回皮膚内の真皮部分まで突き刺すことで,色素を真皮内に注入し定着させるといういわゆる入れ墨を施すことであり,このような入れ墨は,必然的に皮膚表面の角層のバリア機能を損ない,真皮内の血管網を損傷して出血させるものであるため,細菌やウイルス等が侵入しやすくなり,また,被施術者が様々な皮膚障害等を引き起こす危険性を有しているとして,本件行為が保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為であることは明らかであると判断した上,入れ墨の施術に当たり,その危険性を十分に理解し,適切な判断や対応を行うためには,医学的知識及び技能が必要不可欠である,よって,本件行為は,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為であるから,「医行為」に当たるというべきであるとの判断を示している。そして,①入れ墨の施術によって障害が生じた場合に医師が治療を行えば足り,入れ墨の施術そのものを医師が行う必要はない,②被告人が使用していた色素の安全性に問題はなく,入れ墨の施術の際には施術用具や施術場所の衛生管理に努めていたから,本件行為によって保健衛生上の危害が生ずる危険性はなかった,という弁護人の主張に対し,原判決は,入れ墨の施術に伴う危険性や,施術者に求められる医学的知識及び技能の内容に照らせば,上記①の主張は採用できないし,医師法17条が防止しようとする保健衛生上の危害は抽象的危険で足りることから,弁護人が上記②で主張する事情は前記判断を左右しないとして,弁護人の主張を排斥している。憲法適合性及び実質的違法性に関する原判決の判断要旨ア 医師法17条により規制の対象となる医行為とは,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為に限られるという解釈は,同条の趣旨から合理的に導かれ,通常の判断能力を有する一般人にとっても判断可能であると考えられ,同条による処罰の範囲が曖昧不明確であるとはいえないから,医師法17条は憲法31条(罪刑法定主義)に違反しない。なお,医師法17条をこのように解釈して,成人に対する入れ墨の施術を処罰することは,体系的にみて他の法令と矛盾しない。イ 医師法17条は,憲法22条1項で保障される入れ墨の施術業を営もうとする者の職業選択の自由を制約するものであるが,医師法17条は国民の保健衛生上の危害を防止するという重要な公共の利益の保護を目的とする規定であり,入れ墨の施術は,医師の有する医学的知識及び技能をもって行わなければ保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為であるから,医師免許を得た者にのみこれを行わせることは,上記の重要な公共の利益を保護するために必要かつ合理的な措置というべきである。また,このような消極的・警察的目的を達成するためには,営業の内容及び態様に関する規制では十分ではなく,医師免許の取得を求めること以外のより緩やかな手段によっては,上記目的を十分に達成できないと認められる。したがって,本件行為に医師法17条を適用することは憲法22条1項に違反しない。ウ 入れ墨の危険性に鑑みれば,これが当然に憲法21条1項で保障された権利であるとは認められないが,被施術者の側からみれば,入れ墨の中には,被施術者が自己の身体に入れ墨を施すことを通じて,その思想・感情等を表現していると評価できるものもあり,その範囲では表現の自由として保障され得るのであり,その場合,医師法17条は,憲法21条1項で保障される被施術者の表現の自由を制約することになる。しかしながら,表現の自由といえども絶対無制約に保障されるものではなく,公共の福祉のための必要かつ合理的な制約に服する。そして,国民の保健衛生上の危害を防止するという目的は重要であり,その目的を達成するためには,医行為である入れ墨の施術をしようとする者に対し医師免許を求めることは,必要かつ合理的な規制である。したがって,本件行為に医師法17条を適用することは憲法21条1項に違反しない。エ 人が自己の身体に入れ墨を施すことは,憲法13条の保障する自由に含まれると考えられ,そのため,医師法17条は入れ墨の被施術者の上記自由を制約するものである。しかしながら,上記自由も絶対無制約に保障されるものではなく,公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を受けることはいうまでもなく,入れ墨の施術に医師免許を求めることは重要な立法目的達成のための必要かつ合理的な手段である。したがって,本件行為に医師法17条を適用することは憲法13条に違反しない。オ 入れ墨の施術によって保健衛生上の危害を生ずるおそれがあるのであって,施術者及び被施術者にも憲法上保障される権利があるとしても,それが保健衛生上の危害の防止に優越する利益であるとまでは認められない。我が国では,長年にわたり,入れ墨の施術が医師免許を有しない者によって行われてきたが,医師法違反を理由に摘発された事例が多くない,という事情があるにしても,本件行為が,実質的違法性を阻却するほどの社会的な正当性を有しているとは評価できない。したがって,本件行為には実質的違法性が認められる。以上のとおり,原判決は,憲法違反ないし憲法適合性の欠如,さらには本件行為には実質的違法性がない旨をいう弁護人の主張をいずれも排斥している。第2 本件控訴の趣意及び主張の概要本件控訴趣意の要旨は,原判決が,医師法17条の医業の内容である「医行為」を「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為をいう」と解釈し,本件行為,すなわちタトゥー施術行為に本条を適用して,被告人を有罪とした原判決の法解釈ないし判断は,刑事裁判の原則である罪刑法定主義に反し,また,憲法が保障する被告人の権利を侵害するものであって,このような解釈に基づく法の適用は許されないのであるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。以下,その主張の概要を示すこととする。1 「医行為」の意義に関する主張の概要「医行為」の意義について医師法は,医師の資格,業務等を規制する法律であり,同法は,「医療及び保健指導」を医師の任務として定め(同法1条),免許制度等を通じて医療・保健指導を高いレベルに維持することによって,公衆衛生の向上・増進に寄与し,ひいては国民の健康な生活を確保することを目的としている。その目的は,医師に高度の適性,資質を要求するとともに,医師以外の者による「医療及び保健指導」を禁止することによって初めて達成されるものであり,そのために,医師法17条は,医師でない者の医業を禁止し,刑罰をもってこれを担保することとしている。医師法17条により禁止される無免許医業は,医師の責務である「医療及び保健指導」を侵す行為でなければならないため,まずは,①医療及び保健指導に属する行為であること(医療関連性)という要件が必要となる。もっとも,「医療及び保健指導」に属する行為であれば,直ちに「医行為」であるとすることはできない。医師法17条は,医師の職務の保護を通じて国民の健康を保護するためのものであり,この観点からは,保健衛生上の危険性のある行為をそれに応じた知識・技術がある者によって行わせることが重要であり,危険性に応じた考慮が求められることになる。その結果,医師のように広く深い医学上の知識・技術を習得した者が独占すべき行為というのは,相応の危険性を有する行為に限られることになる。そこで,「医行為」の要件として,②「医師が行うのでなければ保健衛生上の危害が生ずるおそれ」という要件が求められる。医師法及び関連する資格法規は,第一次的に医師に広い業務独占を認め,その上で個々の医療従事者に個別制限的に列挙された範囲での業務を医師の下で行うことを認めるという形をとっている。こうした立法政策からは,保健衛生上の危険性のある行為のうち,社会通念上,医療従事者が通常行う行為をいったんは広く医行為として包摂する必要があることになり,保健衛生上の抽象的な危険のある行為が広く医行為とされることになる。この観点からは医行為の範囲は広く捉えられることになるが,当然,社会通念上の医療関連性は外枠として存在しなければ罪刑法定主義に違反する。ここにいう「社会通念」の判断の際には,当該行為が行われてきた歴史的な経緯,関連法制度,医療従事者の養成課程で学修する内容に含まれるかどうかなどを考慮しなければならない。以上のとおり,医師法17条の「医行為」というためには,①社会通念上,医療関連性のある行為で,②医師が行うのでなければ保健衛生上の危害が生ずるおそれのある行為であることが必要である。「医行為」を巡る学説等医師法制定当時の立法者の意思としては,医業あるいは医行為とは,「疾病の診断,治療,投薬など」を行うこと,つまり,医療と関連するものであると考えていたことは明らかであり,また,学説においても,初期の通説によれば, 広義の医行為とは,「人に対して医療の目的の下に行われるところの社会通念上この目的到達に資すると認められる行為をいう」と考えられており, 狭義の医行為とは,「広義の医行為中,医師の医学的知識と技術を用いてするのでなければ生理上危険を生ずるおそれがある行為をいう」と考えられており,医師法17条で「医師でなければ,医業をなしてはならない」という場合の医業は,この狭義の医行為を業とすることを意味すると解されていた。このように,「医療関連性」は当然の前提とされていたのである。その後,「医行為とは医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼすおそれのある行為である」とする立場が「現在の通説」とされるようになったが,旧来の通説と「現在の通説」の間に差異を見出すことはできず,学説上,医療関連性のない行為が医行為に当たるかは議論となっていないのであり,医療関連性(広義の医行為性)の脱落は意識的に行われたものではない。「医行為」に関する裁判例等大審院時代の初期の裁判例には「疾病の診察治療」の要素のみに言及するものがあるが,その後,医療関連性に加え,保健衛生上の危険性が一定程度に達していることを要するとする立場が一般化していた。そして,最高裁昭和30年5月24日第3小法廷判決(刑集9巻7号1093頁)は,患者に対し,聴診,触診,指圧等を行った被告人の行為について,「被告人の行為は,・・・医学上の知識と技能を有しない者がみだりにこれを行うときは生理上危険がある程度に達していることがうかがわれ,このような場合にはこれを医行為と認めるのを相当としなければならない」と判示したが,この事案では,疾病の治療の性質は問題なく認められるため争点とはならず,もっぱら危険性の多寡のみが問題となった事案であり,その原審の説示内容にも照らせば,①医療関連性,②保健衛生上の危険性が一定程度に達していること,の2つを医行為性の要件とする立場に立ち,事案に即して,争点となった保健衛生上の危険性の程度について言及した判例とみることができる。そして,その後の最高裁判例(昭和48年9月27日第1小法廷決定(刑集27巻8号1403頁),平成9年9月30日第1小法廷決定(刑集51巻8号671頁))の各事案は,いずれも医療関連性が肯定できる事案である。
事案の概要
平成30年11月14日
大阪高等裁判所 第5刑事部
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