事件番号平成16(行ウ)12
事件名損害賠償請求(差戻)事件
裁判所福井地方裁判所
裁判年月日平成18年12月27日
結果その他
事案の概要本件は,福井県(以下「県」という。)の住民である原告らが,県の平成6年4月から平成9年12月までの旅費の支出について,公務出張の事実がないのにされた違法なものがあり,これにより県が損害を被っているとして,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの。以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,県に代位して,当時,上記旅費の支出に係る支出負担行為及び支出命令につき法令上本来的な権限を有する県知事の職にあった被告に対し,損害賠償請求として,16億9806万7220円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成10年11月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めたところ(福井地方裁判所平成10年(行ウ)第13号損害賠償請求事件),同裁判所が,本件訴えについては,平成7年2月の県監査委員事務局(以下「監査委員事務局」という。)職員の秋田県への出張に係る旅費(以下「秋田県出張旅費」という。)の支出を除き,その前提となる住民監査請求(以下「本件監査請求」という。)が請求の対象の特定を欠くとし,秋田県出張旅費の支出については法242条2項本文所定の監査請求期間を経過しており,かつ,同項ただし書にいう正当な理由があるとはいえないとして,訴えを却下し,原告らが控訴したが(名古屋高等裁判所金沢支部平成11年(行コ)第15号),控訴審も,同様の理由により控訴を棄却し,原告らが上告したところ,最高裁判所は,本件監査請求は請求の対象の特定に欠けるところはないものの,本件各旅費(秋田県出張旅費を除く。)の支出負担行為及び支出命令のうち平成9年8月16日以前にされたものについては,法242条2項本文所定の監査請求期間が経過しており,同項ただし書にいう正当な理由があるということはできず,同日以前の支出負担行為及び支出命令についての損害賠償請求に係る部分は不適法として却下すべきであるとして上告を棄却し,秋田県出張旅費の支出負担行為及び支出命令についての損害賠償請求に関する上告については,上告受理申立て理由を記載した書面を提出しないという理由で上告を却下し,控訴審判決のうち,同月17日以降にされた旅費の支出負担行為及び支出命令についての損害賠償請求に関する部分については,原判決を破棄し,同部分につき第1審判決を取り消し,当庁に差し戻したため(最高裁判所平成12年(行ヒ)第211号,以下,この最高裁判決を「本件最高裁判決」という。),同部分について,改めて第1審としての判断をすることになった事案である。
判示事項1 複数回の県の旅費の支出が,公務出張の事実がないのにされた違法なものであるとして,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前)242条の2第1項4号に基づき,県に代位して,当時の県知事個人に対してされた指揮監督義務違反を理由とする損害賠償請求において請求の特定がされているとされた事例
2 県の旅費の支出が公務出張の事実がないのにされた違法なものであるとして,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前)242条の2第1項4号に基づき,県に代位して,当時の県知事個人に対してされた損害賠償請求において,旅費の支出によって県が公務遂行上の経費の支出を免れたとしても,虚偽架空の旅費の支出との間に相当因果関係があるとは認められないとして,損益相殺が認められなかった事例
3 県の特定の期間の旅費の支出負担行為及び支出命令が,公務出張の事実がないのにされた違法なものであり,その損害額は,前記特定の期間を含む期間に支出された旅費のうち,県の旅費調査委員会の公表した報告書において事務処理上不適切な支出のうち公務遂行上の経費に充てられたものとされた金額の全額であるとして,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前)242条の2第1項4号に基づき,県に代位して,当時の県知事個人に対してされた損害賠償請求が一部認容された事例
判示事項の要旨地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)242条の2第1項4号に基づき,公務出張の事実がないのにされた旅費支出に相当する損害について,県知事に対する賠償請求を認めた事例
裁判要旨1 県の複数回の旅費の支出が,公務出張の事実がないのにされた違法なものであるとして,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前)242条の2第1項4号に基づき,県に代位して,当時の県知事個人に対してされた指揮監督義務違反を理由とする損害賠償請求において,対象となる旅費に関する支出については,監査請求期間が経過していない特定の期間の旅費の支出負担行為及び支出命令とし,損害額については,前記特定の期間を含む期間に支出された旅費のうち,県の旅費調査委員会の公表した報告書において事務処理上不適切な支出のうち公務遂行上の経費に充てられたものとされた金額の全額として特定されているところ,同号に基づいて代位行使される請求権は,民法上の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求権であるから,財務会計上の違法行為による損害賠償請求権についても,当該行為が複数ある場合には,当該行為の性質,目的等に照らしてこれらを一体とみてその違法性を判断するのを相当とする場合を除き,各行為等を他の行為等と区別して特定認識できるよう個別的,具体的に特定することを要すると解されるが,前記旅費調査委員会の調査においては,旅費の支出について1件ごとに公務出張の事実がないのに支出されたものか否かを調査したというのであるから,各旅費支出に係る財務会計上の行為が違法であることは論をまたず,その違法性を判断するために各旅費の支出について個別的,具体的に特定する必要性はなく,また,県知事の指揮監督義務違反についても,個々の支出負担行為及び支出命令ごとに,指揮監督義務の内容が異なるとは考え難く,社会的には一連一体の行為と評価されることからすれば,代位の対象となる損害賠償請求権が特定されていると解されるから,前記請求は特定されているとした事例
2 県の旅費の支出が公務出張の事実がないのにされた違法なものであるとして,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前)242条の2第1項4号に基づき,県に代位して,当時の県知事個人に対してされた損害賠償請求において,虚偽架空の事実に基づいて会計処理を行っても,それで得た金銭を公務遂行上の経費に充てれば,損害がないと解することができるとすれば,地方自治法や地方財政法等が経費の支出に関して様々な規制を設けているのにこれらを容易に潜脱できることになり,地方財政の健全性の確保の要請に真っ向から反することになり不当であるとして,旅費の支出によって県が公務遂行上の経費の支出を免れたとしても,虚偽架空の旅費の支出との間に相当因果関係があるとは認められないとして,損益相殺を認めなかった事例
3 県の特定の期間の旅費の支出負担行為及び支出命令が,公務出張の事実がないのにされた違法なものであり,その損害額は,前記特定の期間を含む期間に支出された旅費のうち,県の旅費調査委員会の公表した報告書において事務処理上不適切な支出のうち公務遂行上の経費に充てられたものとされた金額の全額であるとして,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前)242条の2第1項4号に基づき,県に代位して,当時の県知事個人に対してされた損害賠償請求につき,県知事としては,県の旅費支出に関する専決権者の違法な支出行為があることについて具体的な予見可能性があると認められる時期に,専決権者に対する指導監督上の義務として,各部局に対して旅費支出の実情の調査を命ずべき義務があり,同時期に全庁的な調査を命じておれば前記特定の期間の旅費の不正支出を防止できたと認められるところ,前記特定の期間の末まで,各部局に対して旅費支出の実情の調査を命ずることがなかったから,前記県知事は,専決権者が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指導監督上の義務に違反し,少なくとも過失により専決権者の財務会計上の違法行為を阻止することなく,自ら財務会計上の違法行為を行ったと評価できるとした上,損害額については,前記公務遂行上の経費に充てられたものとされた金額の全額が前記特定の期間に支出されたとは認められないから,民事訴訟法248条を適用して,日割計算で算出するのが相当であるとして,前記請求を一部認容した事例
事件番号平成16(行ウ)12
事件名損害賠償請求(差戻)事件
裁判所福井地方裁判所
裁判年月日平成18年12月27日
結果その他
事案の概要
本件は,福井県(以下「県」という。)の住民である原告らが,県の平成6年4月から平成9年12月までの旅費の支出について,公務出張の事実がないのにされた違法なものがあり,これにより県が損害を被っているとして,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの。以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,県に代位して,当時,上記旅費の支出に係る支出負担行為及び支出命令につき法令上本来的な権限を有する県知事の職にあった被告に対し,損害賠償請求として,16億9806万7220円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成10年11月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めたところ(福井地方裁判所平成10年(行ウ)第13号損害賠償請求事件),同裁判所が,本件訴えについては,平成7年2月の県監査委員事務局(以下「監査委員事務局」という。)職員の秋田県への出張に係る旅費(以下「秋田県出張旅費」という。)の支出を除き,その前提となる住民監査請求(以下「本件監査請求」という。)が請求の対象の特定を欠くとし,秋田県出張旅費の支出については法242条2項本文所定の監査請求期間を経過しており,かつ,同項ただし書にいう正当な理由があるとはいえないとして,訴えを却下し,原告らが控訴したが(名古屋高等裁判所金沢支部平成11年(行コ)第15号),控訴審も,同様の理由により控訴を棄却し,原告らが上告したところ,最高裁判所は,本件監査請求は請求の対象の特定に欠けるところはないものの,本件各旅費(秋田県出張旅費を除く。)の支出負担行為及び支出命令のうち平成9年8月16日以前にされたものについては,法242条2項本文所定の監査請求期間が経過しており,同項ただし書にいう正当な理由があるということはできず,同日以前の支出負担行為及び支出命令についての損害賠償請求に係る部分は不適法として却下すべきであるとして上告を棄却し,秋田県出張旅費の支出負担行為及び支出命令についての損害賠償請求に関する上告については,上告受理申立て理由を記載した書面を提出しないという理由で上告を却下し,控訴審判決のうち,同月17日以降にされた旅費の支出負担行為及び支出命令についての損害賠償請求に関する部分については,原判決を破棄し,同部分につき第1審判決を取り消し,当庁に差し戻したため(最高裁判所平成12年(行ヒ)第211号,以下,この最高裁判決を「本件最高裁判決」という。),同部分について,改めて第1審としての判断をすることになった事案である。
判示事項
1 複数回の県の旅費の支出が,公務出張の事実がないのにされた違法なものであるとして,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前)242条の2第1項4号に基づき,県に代位して,当時の県知事個人に対してされた指揮監督義務違反を理由とする損害賠償請求において請求の特定がされているとされた事例
2 県の旅費の支出が公務出張の事実がないのにされた違法なものであるとして,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前)242条の2第1項4号に基づき,県に代位して,当時の県知事個人に対してされた損害賠償請求において,旅費の支出によって県が公務遂行上の経費の支出を免れたとしても,虚偽架空の旅費の支出との間に相当因果関係があるとは認められないとして,損益相殺が認められなかった事例
3 県の特定の期間の旅費の支出負担行為及び支出命令が,公務出張の事実がないのにされた違法なものであり,その損害額は,前記特定の期間を含む期間に支出された旅費のうち,県の旅費調査委員会の公表した報告書において事務処理上不適切な支出のうち公務遂行上の経費に充てられたものとされた金額の全額であるとして,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前)242条の2第1項4号に基づき,県に代位して,当時の県知事個人に対してされた損害賠償請求が一部認容された事例
判示事項の要旨
地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)242条の2第1項4号に基づき,公務出張の事実がないのにされた旅費支出に相当する損害について,県知事に対する賠償請求を認めた事例
裁判要旨
1 県の複数回の旅費の支出が,公務出張の事実がないのにされた違法なものであるとして,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前)242条の2第1項4号に基づき,県に代位して,当時の県知事個人に対してされた指揮監督義務違反を理由とする損害賠償請求において,対象となる旅費に関する支出については,監査請求期間が経過していない特定の期間の旅費の支出負担行為及び支出命令とし,損害額については,前記特定の期間を含む期間に支出された旅費のうち,県の旅費調査委員会の公表した報告書において事務処理上不適切な支出のうち公務遂行上の経費に充てられたものとされた金額の全額として特定されているところ,同号に基づいて代位行使される請求権は,民法上の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求権であるから,財務会計上の違法行為による損害賠償請求権についても,当該行為が複数ある場合には,当該行為の性質,目的等に照らしてこれらを一体とみてその違法性を判断するのを相当とする場合を除き,各行為等を他の行為等と区別して特定認識できるよう個別的,具体的に特定することを要すると解されるが,前記旅費調査委員会の調査においては,旅費の支出について1件ごとに公務出張の事実がないのに支出されたものか否かを調査したというのであるから,各旅費支出に係る財務会計上の行為が違法であることは論をまたず,その違法性を判断するために各旅費の支出について個別的,具体的に特定する必要性はなく,また,県知事の指揮監督義務違反についても,個々の支出負担行為及び支出命令ごとに,指揮監督義務の内容が異なるとは考え難く,社会的には一連一体の行為と評価されることからすれば,代位の対象となる損害賠償請求権が特定されていると解されるから,前記請求は特定されているとした事例
2 県の旅費の支出が公務出張の事実がないのにされた違法なものであるとして,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前)242条の2第1項4号に基づき,県に代位して,当時の県知事個人に対してされた損害賠償請求において,虚偽架空の事実に基づいて会計処理を行っても,それで得た金銭を公務遂行上の経費に充てれば,損害がないと解することができるとすれば,地方自治法や地方財政法等が経費の支出に関して様々な規制を設けているのにこれらを容易に潜脱できることになり,地方財政の健全性の確保の要請に真っ向から反することになり不当であるとして,旅費の支出によって県が公務遂行上の経費の支出を免れたとしても,虚偽架空の旅費の支出との間に相当因果関係があるとは認められないとして,損益相殺を認めなかった事例
3 県の特定の期間の旅費の支出負担行為及び支出命令が,公務出張の事実がないのにされた違法なものであり,その損害額は,前記特定の期間を含む期間に支出された旅費のうち,県の旅費調査委員会の公表した報告書において事務処理上不適切な支出のうち公務遂行上の経費に充てられたものとされた金額の全額であるとして,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前)242条の2第1項4号に基づき,県に代位して,当時の県知事個人に対してされた損害賠償請求につき,県知事としては,県の旅費支出に関する専決権者の違法な支出行為があることについて具体的な予見可能性があると認められる時期に,専決権者に対する指導監督上の義務として,各部局に対して旅費支出の実情の調査を命ずべき義務があり,同時期に全庁的な調査を命じておれば前記特定の期間の旅費の不正支出を防止できたと認められるところ,前記特定の期間の末まで,各部局に対して旅費支出の実情の調査を命ずることがなかったから,前記県知事は,専決権者が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指導監督上の義務に違反し,少なくとも過失により専決権者の財務会計上の違法行為を阻止することなく,自ら財務会計上の違法行為を行ったと評価できるとした上,損害額については,前記公務遂行上の経費に充てられたものとされた金額の全額が前記特定の期間に支出されたとは認められないから,民事訴訟法248条を適用して,日割計算で算出するのが相当であるとして,前記請求を一部認容した事例
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