事件番号平成22(行ウ)462等
事件名鉄道運賃変更命令等請求事件
裁判所東京地方裁判所
裁判年月日平成25年3月26日
事案の概要本件は,P6線の沿線住民である原告5名が,(1)P1及びP3がP2との間で設定した各鉄道線路使用条件はP1のみに不利益なもので,P1及びその利用者の利益を著しく害するものであり,「鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれ」(鉄道事業法15条3項)があることからすれば,国土交通大臣がP1及びP3に対してした上記各使用条件の設定を認可する旨の各処分は,鉄道事業法15条3項に規定する認可要件に違反する違法なものであると主張して,上記各処分の取消しを求める(本件請求①及び②)とともに,国土交通大臣が同法23条1項4号に基づきP1とP2の間の鉄道線路使用条件を変更するよう命じることの義務付けを求め(本件請求③)(2)P1の旅客運賃は,距離と運賃が比例しておらず近距離の旅客運賃が異常に高くなっており,「特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものである」(平成11年法律第49号による改正前の鉄道事業法16条2項2号)ことや,「能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むもの」(同項1号)ではないことなどからすれば,運輸大臣(現在の国土交通大臣。以下同じ。)がP1に対してした旅客運賃変更認可処分は,平成11年法律第49号による改正前の鉄道事業法16条2項に規定する認可要件に違反する違法なものであり,また,上記各使用条件の設定を認可する旨の各処分が取り消されるべき違法なものであって,P1に適正な線路使用料が支払われるべきことからすれば,上記旅客運賃変更認可処分は,後発的に,同項に規定する適正原価・適正利潤の原則に違反する違法なものとなったところ,これらの違法は重大かつ明白であると主張して,主位的に上記旅客運賃変更認可処分の無効確認を求め(本件請求④),予備的に同処分の取消しを求める(本件請求⑤)とともに,国土交通大臣が鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づきP1に対して旅客運賃上限等を変更するよう命じることの義務付けを求め(本件請求⑥)(3)国土交通大臣がP2に対してしたP4線に係る旅客運賃上限設定認可処分は,P1に対する旅客運賃変更認可処分と同様の理由により,鉄道事業法16条2項に規定する認可要件に違反する違法なものであると主張して,上記旅客運賃上限設定認可処分の取消しを求める(本件請求⑦)とともに,国土交通大臣が同法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づきP2に対して旅客運賃上限等を変更するよう命じることの義務付けを求める(本件請求⑧)事案である。
判示事項1 鉄道事業法16条1項(平成11年法律第49号による改正前のものを含む)に基づく鉄道旅客運賃認可処分の取消し又は同処分の無効確認及び同法16条5項1号に基づく前記運賃の変更命令又は同法23条1項1号に基づく前記運賃上限の変更命令の義務付けを求める各訴えにつき,居住地から職場や学校等への日々の通勤や通学等の手段として反復継続して日常的に前記鉄道事業に係る鉄道を利用している者らの原告適格が肯定された事例
2 居住地から職場や学校等への日々の通勤や通学等の手段として反復継続して日常的に鉄道を利用している者らがした,鉄道事業法16条5項1号に基づく旅客運賃の変更命令又は同法23条1項1号に基づく旅客運賃上限の変更命令の義務付けを求める訴えが,行政事件訴訟法37条の2第1項にいう「重大な損害を生ずるおそれ」の要件を満たし適法とされた事例
3 鉄道運賃変更認可処分の無効確認請求が,同処分に鉄道事業法(平成11年法律第49号による改正前)16条2項1号又は2号の規定する認可要件に違反する違法があるとは認められないとして,棄却された事例
裁判要旨1 鉄道事業法16条1項(平成11年法律第49号による改正前のものを含む)に基づく鉄道旅客運賃認可処分の取消し又は同処分の無効確認及び同法16条5項1号に基づく前記運賃の変更命令又は同法23条1項1号に基づく前記運賃上限の変更命令の各義務付けを求める各訴えにつき,居住地から職場や学校等への日々の通勤や通学等の手段として反復継続して日常的に前記鉄道事業に係る鉄道を利用している者については,違法な旅客運賃認可処分が行われ,違法に高額な旅客運賃設定がされれば,経済的負担能力いかんによっては当該鉄道を利用することが困難になり,日常生活の基盤を揺るがすような重大な損害が生じかねないところ,「利用者の利益の保護」を重要な理念として掲げ,その具体的な確保のための条項を置いている鉄道事業法が,このような重大な損害を受けるおそれがある鉄道利用者について,旅客運賃認可処分の違法性を争うことを許さず,これを甘受すべきことを強いているとは考えられないから,前記鉄道事業法16条1項,同法16条5項1号及び同法23条1項1号は,このような鉄道利用者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含んでいると解するのが相当であるとして,前記の者らの原告適格を肯定した事例
2 居住地から職場や学校等への日々の通勤や通学等の手段として反復継続して日常的に鉄道を利用している者らがした,鉄道事業法16条5項1号に基づく旅客運賃の変更命令又は同法23条1項1号に基づく旅客運賃上限の変更命令の義務付けを求める訴えにつき,違法に高額な旅客運賃が設定された場合,前記の者らの経済的負担能力いかんによっては,同鉄道を日常的に利用することが困難になり,職場や学校等に日々通勤や通学等すること自体が不可能になったり,住居をより職場や学校の近くに移転せざるを得なくなったりすることになりかねず,仕事や居住場所などといった日常生活の基盤を揺るがすような損害が生じかねないのであって,このような損害については,事後的な金銭賠償等により救済することが容易ではないから,行政事件訴訟法37条の2第1項にいう「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められるとして,前記訴えを適法とした事例
3 近距離の利用者が遠距離の利用者に比べて不当に割高の旅客運賃を負担することになっていることなどを理由としてされた鉄道運賃変更認可処分の無効確認請求につき,鉄道事業法(平成11年法律第49号による改正前)16条2項2号にいう「特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするもの」とは,前記旅客運賃が合理的かつ正当な理由なく,特定の旅客を個別的に優遇又は冷遇するもの,例えば,鉄道事業者が旅客の信条や宗教等によって異なる旅客運賃を適用する場合を指すものと解するのが相当であるところ,前記旅客運賃は全ての旅客に同様に適用されるものであり,特定の旅客によって異なるものではないから「特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするもの」には該当するということはできず,また,旅客運賃設定又は変更の認可に当たっては,あくまで当該旅客運賃を設定する路線全体をみて,同項1号にいう「能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むもの」であるか否かを審査することが要求されているものというべきであって,前記旅客運賃が遠距離逓減制となっていることをもって「能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むもの」に該当しないということはできないから,前記処分に同法16条2項1号又は2号の規定する認可要件に違反する違法があるとは認められないとして,前記請求が棄却された事例
事件番号平成22(行ウ)462等
事件名鉄道運賃変更命令等請求事件
裁判所東京地方裁判所
裁判年月日平成25年3月26日
事案の概要
本件は,P6線の沿線住民である原告5名が,(1)P1及びP3がP2との間で設定した各鉄道線路使用条件はP1のみに不利益なもので,P1及びその利用者の利益を著しく害するものであり,「鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれ」(鉄道事業法15条3項)があることからすれば,国土交通大臣がP1及びP3に対してした上記各使用条件の設定を認可する旨の各処分は,鉄道事業法15条3項に規定する認可要件に違反する違法なものであると主張して,上記各処分の取消しを求める(本件請求①及び②)とともに,国土交通大臣が同法23条1項4号に基づきP1とP2の間の鉄道線路使用条件を変更するよう命じることの義務付けを求め(本件請求③)(2)P1の旅客運賃は,距離と運賃が比例しておらず近距離の旅客運賃が異常に高くなっており,「特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものである」(平成11年法律第49号による改正前の鉄道事業法16条2項2号)ことや,「能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むもの」(同項1号)ではないことなどからすれば,運輸大臣(現在の国土交通大臣。以下同じ。)がP1に対してした旅客運賃変更認可処分は,平成11年法律第49号による改正前の鉄道事業法16条2項に規定する認可要件に違反する違法なものであり,また,上記各使用条件の設定を認可する旨の各処分が取り消されるべき違法なものであって,P1に適正な線路使用料が支払われるべきことからすれば,上記旅客運賃変更認可処分は,後発的に,同項に規定する適正原価・適正利潤の原則に違反する違法なものとなったところ,これらの違法は重大かつ明白であると主張して,主位的に上記旅客運賃変更認可処分の無効確認を求め(本件請求④),予備的に同処分の取消しを求める(本件請求⑤)とともに,国土交通大臣が鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づきP1に対して旅客運賃上限等を変更するよう命じることの義務付けを求め(本件請求⑥)(3)国土交通大臣がP2に対してしたP4線に係る旅客運賃上限設定認可処分は,P1に対する旅客運賃変更認可処分と同様の理由により,鉄道事業法16条2項に規定する認可要件に違反する違法なものであると主張して,上記旅客運賃上限設定認可処分の取消しを求める(本件請求⑦)とともに,国土交通大臣が同法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づきP2に対して旅客運賃上限等を変更するよう命じることの義務付けを求める(本件請求⑧)事案である。
判示事項
1 鉄道事業法16条1項(平成11年法律第49号による改正前のものを含む)に基づく鉄道旅客運賃認可処分の取消し又は同処分の無効確認及び同法16条5項1号に基づく前記運賃の変更命令又は同法23条1項1号に基づく前記運賃上限の変更命令の義務付けを求める各訴えにつき,居住地から職場や学校等への日々の通勤や通学等の手段として反復継続して日常的に前記鉄道事業に係る鉄道を利用している者らの原告適格が肯定された事例
2 居住地から職場や学校等への日々の通勤や通学等の手段として反復継続して日常的に鉄道を利用している者らがした,鉄道事業法16条5項1号に基づく旅客運賃の変更命令又は同法23条1項1号に基づく旅客運賃上限の変更命令の義務付けを求める訴えが,行政事件訴訟法37条の2第1項にいう「重大な損害を生ずるおそれ」の要件を満たし適法とされた事例
3 鉄道運賃変更認可処分の無効確認請求が,同処分に鉄道事業法(平成11年法律第49号による改正前)16条2項1号又は2号の規定する認可要件に違反する違法があるとは認められないとして,棄却された事例
裁判要旨
1 鉄道事業法16条1項(平成11年法律第49号による改正前のものを含む)に基づく鉄道旅客運賃認可処分の取消し又は同処分の無効確認及び同法16条5項1号に基づく前記運賃の変更命令又は同法23条1項1号に基づく前記運賃上限の変更命令の各義務付けを求める各訴えにつき,居住地から職場や学校等への日々の通勤や通学等の手段として反復継続して日常的に前記鉄道事業に係る鉄道を利用している者については,違法な旅客運賃認可処分が行われ,違法に高額な旅客運賃設定がされれば,経済的負担能力いかんによっては当該鉄道を利用することが困難になり,日常生活の基盤を揺るがすような重大な損害が生じかねないところ,「利用者の利益の保護」を重要な理念として掲げ,その具体的な確保のための条項を置いている鉄道事業法が,このような重大な損害を受けるおそれがある鉄道利用者について,旅客運賃認可処分の違法性を争うことを許さず,これを甘受すべきことを強いているとは考えられないから,前記鉄道事業法16条1項,同法16条5項1号及び同法23条1項1号は,このような鉄道利用者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含んでいると解するのが相当であるとして,前記の者らの原告適格を肯定した事例
2 居住地から職場や学校等への日々の通勤や通学等の手段として反復継続して日常的に鉄道を利用している者らがした,鉄道事業法16条5項1号に基づく旅客運賃の変更命令又は同法23条1項1号に基づく旅客運賃上限の変更命令の義務付けを求める訴えにつき,違法に高額な旅客運賃が設定された場合,前記の者らの経済的負担能力いかんによっては,同鉄道を日常的に利用することが困難になり,職場や学校等に日々通勤や通学等すること自体が不可能になったり,住居をより職場や学校の近くに移転せざるを得なくなったりすることになりかねず,仕事や居住場所などといった日常生活の基盤を揺るがすような損害が生じかねないのであって,このような損害については,事後的な金銭賠償等により救済することが容易ではないから,行政事件訴訟法37条の2第1項にいう「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められるとして,前記訴えを適法とした事例
3 近距離の利用者が遠距離の利用者に比べて不当に割高の旅客運賃を負担することになっていることなどを理由としてされた鉄道運賃変更認可処分の無効確認請求につき,鉄道事業法(平成11年法律第49号による改正前)16条2項2号にいう「特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするもの」とは,前記旅客運賃が合理的かつ正当な理由なく,特定の旅客を個別的に優遇又は冷遇するもの,例えば,鉄道事業者が旅客の信条や宗教等によって異なる旅客運賃を適用する場合を指すものと解するのが相当であるところ,前記旅客運賃は全ての旅客に同様に適用されるものであり,特定の旅客によって異なるものではないから「特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするもの」には該当するということはできず,また,旅客運賃設定又は変更の認可に当たっては,あくまで当該旅客運賃を設定する路線全体をみて,同項1号にいう「能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むもの」であるか否かを審査することが要求されているものというべきであって,前記旅客運賃が遠距離逓減制となっていることをもって「能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むもの」に該当しないということはできないから,前記処分に同法16条2項1号又は2号の規定する認可要件に違反する違法があるとは認められないとして,前記請求が棄却された事例
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