事件番号平成27(行コ)41
事件名原爆症認定申請却下処分取消等請求控訴事件
裁判所大阪高等裁判所 第13民事部
裁判年月日平成30年1月16日
結果棄却
原審裁判所大阪地方裁判所
原審事件番号平成23(行ウ)29
原審結果その他
事案の概要本件は,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(以下「被爆者援護法」という )1条の被爆者である控訴人A(以下「控訴人A」という ,承継前。 。)第2事件原告B1(以下「B1」という ,被控訴人C(以下「被控訴人C」。)という ,被控訴人D(以下「被控訴人D」という ,承継前控訴人E1(以。) 。)下「E1」という )及び被控訴人F(以下「被控訴人F」という )が,そ。 。( 「 」 。)れぞれ被爆者援護法11条1項の規定による認定 以下 原爆症認定 というの申請(以下,併せて「本件各申請」という )をしたところ,厚生労働大臣。( , 「 」 。)から本件各申請を却下する旨の処分 以下 併せて 本件各却下処分 というを受けたことから,控訴人兼被控訴人国(以下「第1審被告」という )に対。し,本件各却下処分が違法であると主張してその取消しを求める事案である。
判示事項の要旨1 原爆症認定の要件である申請疾病の放射線起因性については,当該被爆者の放射線への被曝の程度と,統計学的・疫学的知見等に基づく申請疾病等の放射線被曝との関連性の有無及び程度とを中心的な考慮要素としつつ,これに当該疾病等の具体的症状やその症状の推移,その他の疾病に至る病歴(既往歴),当該疾病等に係る他の原因(危険因子)の有無及び程度等を総合的に考慮して,原子爆弾の放射線への被曝の事実が当該申請に係る疾病若しくは負傷又は治癒能力の低下を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性が認められるか否かを経験則に照らして判断するのが相当である。その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを要する。
2 被爆者の放射線への被曝の程度については,①DS02による初期放射線の被曝線量の推定は科学的根拠を有するが,その適用には一定の限界があること,②新審査の方針の下での誘導放射線による被曝線量及び放射性降下物による被曝線量の評価はいずれも過小評価となっている疑いがあること,③被爆者の被爆状況,被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等によっては内部被曝の可能性があること,④遠距離・入市被爆者であっても有意な放射線被曝があり得ることを考慮する必要がある。
3 心筋梗塞及び狭心症の放射線被曝との関連性については,低線量域も含めて一般的に肯定することはできないが,低線量域の被曝とみられるような場合であっても個別事案の具体的事情に基づいて心筋梗塞及び狭心症の発症が被曝の影響を受けたものであることを肯定できる例も相当程度あるというべきである。
4 甲状腺機能低下症の放射線被曝との関連性については,低線量域も含めて一般的に肯定することはできないが,低線量域の被曝とみられるような場合であっても個別事案の具体的事情に基づいて甲状腺機能低下症の発症が被曝の影響を受けたものであることを肯定できる例も相当程度あるというべきである。
5 控訴人Aは,被爆者として狭心症を申請疾病とするものであり,健康に影響があり得る程度の線量の放射線に外部被曝及び内部被曝をしたものと認められるが,他の危険因子である生活習慣に起因する脂質異常症の程度が重く,申請疾病の放射線起因性が認められない。同人の原爆症認定の申請を却下する処分の取消しを求める請求を棄却した原審の判断は相当である。
6 訴訟承継前原告B1は,被爆者として火傷瘢痕を申請疾病とするが,実際にその治療を受けていなかったから,申請疾病の要医療性が認められない。同人の原爆症認定の申請を却下する処分の取消しを求める請求を棄却した原審の判断は相当である。
7 被控訴人Cは,被爆者として甲状腺機能低下症を申請疾病とするものであり,健康に影響があり得る程度の線量の放射線に外部被曝及び内部被曝をしたものと認められ,申請疾病の放射線起因性が認められる。同人の原爆症認定の申請を却下する処分の取消しを求める請求を認容した原審の判断は相当である。
8 被控訴人Dは,被爆者として甲状腺機能低下症と両白内障を申請疾病とするものであり,健康に影響があり得る程度の線量の放射線に外部被曝及び内部被曝をしたものと認められるが,上記申請疾病のうち甲状腺機能低下症については放射線起因性が認められる。同人の原爆症認定の申請を却下する処分の取消しを求める請求のうち,同疾病に係る部分を認容した原審の判断は相当である。なお,上記申請疾病のうち両白内障に係る部分は,当審において審判の対象となっていない。
9 訴訟承継前控訴人E1は,被爆者として心筋梗塞及び労作性狭心症を申請疾病とするものであり,健康に影響があり得る程度の線量の放射線に外部被曝及び内部被曝をしたものと認められるが,他の危険因子である原発性アルドステロン症に罹患していたことの程度が重く,申請疾病の放射線起因性が認められない。同人の原爆症認定の申請を却下する処分の取消しを求める請求を棄却した原審の判断は相当である。
10 被控訴人Fは,被爆者として甲状腺機能低下症を申請疾病とするものであり,健康に影響があり得る程度の線量の放射線に外部被曝及び内部被曝をしたものと認められ,申請疾病の放射線起因性が認められる。同人の原爆症認定の申請を却下する処分の取消しを求める請求を認容した原審の判断は相当である。
事件番号平成27(行コ)41
事件名原爆症認定申請却下処分取消等請求控訴事件
裁判所大阪高等裁判所 第13民事部
裁判年月日平成30年1月16日
結果棄却
原審裁判所大阪地方裁判所
原審事件番号平成23(行ウ)29
原審結果その他
事案の概要
本件は,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(以下「被爆者援護法」という )1条の被爆者である控訴人A(以下「控訴人A」という ,承継前。 。)第2事件原告B1(以下「B1」という ,被控訴人C(以下「被控訴人C」。)という ,被控訴人D(以下「被控訴人D」という ,承継前控訴人E1(以。) 。)下「E1」という )及び被控訴人F(以下「被控訴人F」という )が,そ。 。( 「 」 。)れぞれ被爆者援護法11条1項の規定による認定 以下 原爆症認定 というの申請(以下,併せて「本件各申請」という )をしたところ,厚生労働大臣。( , 「 」 。)から本件各申請を却下する旨の処分 以下 併せて 本件各却下処分 というを受けたことから,控訴人兼被控訴人国(以下「第1審被告」という )に対。し,本件各却下処分が違法であると主張してその取消しを求める事案である。
判示事項の要旨
1 原爆症認定の要件である申請疾病の放射線起因性については,当該被爆者の放射線への被曝の程度と,統計学的・疫学的知見等に基づく申請疾病等の放射線被曝との関連性の有無及び程度とを中心的な考慮要素としつつ,これに当該疾病等の具体的症状やその症状の推移,その他の疾病に至る病歴(既往歴),当該疾病等に係る他の原因(危険因子)の有無及び程度等を総合的に考慮して,原子爆弾の放射線への被曝の事実が当該申請に係る疾病若しくは負傷又は治癒能力の低下を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性が認められるか否かを経験則に照らして判断するのが相当である。その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを要する。
2 被爆者の放射線への被曝の程度については,①DS02による初期放射線の被曝線量の推定は科学的根拠を有するが,その適用には一定の限界があること,②新審査の方針の下での誘導放射線による被曝線量及び放射性降下物による被曝線量の評価はいずれも過小評価となっている疑いがあること,③被爆者の被爆状況,被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等によっては内部被曝の可能性があること,④遠距離・入市被爆者であっても有意な放射線被曝があり得ることを考慮する必要がある。
3 心筋梗塞及び狭心症の放射線被曝との関連性については,低線量域も含めて一般的に肯定することはできないが,低線量域の被曝とみられるような場合であっても個別事案の具体的事情に基づいて心筋梗塞及び狭心症の発症が被曝の影響を受けたものであることを肯定できる例も相当程度あるというべきである。
4 甲状腺機能低下症の放射線被曝との関連性については,低線量域も含めて一般的に肯定することはできないが,低線量域の被曝とみられるような場合であっても個別事案の具体的事情に基づいて甲状腺機能低下症の発症が被曝の影響を受けたものであることを肯定できる例も相当程度あるというべきである。
5 控訴人Aは,被爆者として狭心症を申請疾病とするものであり,健康に影響があり得る程度の線量の放射線に外部被曝及び内部被曝をしたものと認められるが,他の危険因子である生活習慣に起因する脂質異常症の程度が重く,申請疾病の放射線起因性が認められない。同人の原爆症認定の申請を却下する処分の取消しを求める請求を棄却した原審の判断は相当である。
6 訴訟承継前原告B1は,被爆者として火傷瘢痕を申請疾病とするが,実際にその治療を受けていなかったから,申請疾病の要医療性が認められない。同人の原爆症認定の申請を却下する処分の取消しを求める請求を棄却した原審の判断は相当である。
7 被控訴人Cは,被爆者として甲状腺機能低下症を申請疾病とするものであり,健康に影響があり得る程度の線量の放射線に外部被曝及び内部被曝をしたものと認められ,申請疾病の放射線起因性が認められる。同人の原爆症認定の申請を却下する処分の取消しを求める請求を認容した原審の判断は相当である。
8 被控訴人Dは,被爆者として甲状腺機能低下症と両白内障を申請疾病とするものであり,健康に影響があり得る程度の線量の放射線に外部被曝及び内部被曝をしたものと認められるが,上記申請疾病のうち甲状腺機能低下症については放射線起因性が認められる。同人の原爆症認定の申請を却下する処分の取消しを求める請求のうち,同疾病に係る部分を認容した原審の判断は相当である。なお,上記申請疾病のうち両白内障に係る部分は,当審において審判の対象となっていない。
9 訴訟承継前控訴人E1は,被爆者として心筋梗塞及び労作性狭心症を申請疾病とするものであり,健康に影響があり得る程度の線量の放射線に外部被曝及び内部被曝をしたものと認められるが,他の危険因子である原発性アルドステロン症に罹患していたことの程度が重く,申請疾病の放射線起因性が認められない。同人の原爆症認定の申請を却下する処分の取消しを求める請求を棄却した原審の判断は相当である。
10 被控訴人Fは,被爆者として甲状腺機能低下症を申請疾病とするものであり,健康に影響があり得る程度の線量の放射線に外部被曝及び内部被曝をしたものと認められ,申請疾病の放射線起因性が認められる。同人の原爆症認定の申請を却下する処分の取消しを求める請求を認容した原審の判断は相当である。
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