事件番号平成28(行ウ)462
事件名所得税更正処分等取消請求事件
裁判所東京地方裁判所
裁判年月日令和2年1月30日
事案の概要横浜市内に保険医療機関であるAクリニック(以下「本件クリニック」という。)を個人で開設する医師である原告は,平成23年分から平成25年分まで(以下「本件各年分」という。)の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の確定申告をするに当たり,その事業所得の金額の計算上,他の保険医療機関(以下「本件各病院」という。)で実施された手術について業務委託契約に基づき行った麻酔関連医療業務(以下「本件業務」という。)に係る報酬(以下「本件各報酬」という。)の金額が租税特別措置法(平成25年法律第5号による改正前のもの。以下「措置法」という。)26条1項にいう「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」に該当することを前提に,同項所定の概算経費率(後記2(1)参照)を乗じて計算した金額(以下「本件概算経費額」という。)を必要経費に算入した。また,原告は,本件業務に係る役務の提供(以下「本件役務提供」という。)の対価(本件各報酬)につき,消費税法上(平成24年法律第68号による改正前のもの。以下同じ。)非課税となることを前提に,平成22年1月1日から平成25年12月31日までに係る各課税期間(以下,例えば平成22年1月1日から同年12月31日までの課税期間を「平成22年課税期間」といい,他の課税期間についても同様に表記する。平成22年課税期間から平成25年課税期間までを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告をしなかった。
これに対し,戸塚税務署長(処分行政庁)は,本件各報酬額は上記「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」に該当せず,本件概算経費額を必要経費に算入することはできないことなどを理由に,原告に対し,平成27年2月27日付けで,本件各年分の所得税等の各更正処分(以下,例えば平成23年分の更正処分を「平成23年分所得税更正処分」といい,他の年分についても同様に表記する。本件各年分の更正処分を併せて「本件所得税各更正処分」という。)及びこれらに伴う過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件所得税各賦課処分」といい,本件所得税各更正処分と併せて「本件所得税各処分」という。)をした。また,戸塚税務署長は,同日付けで,本件役務提供の対価(本件各報酬)は消費税法上非課税とならないことを理由に,本件各課税期間に係る消費税等の各決定処分(以下,例えば平成22年課税期間に係る消費税等の決定処分を「平成22年課税期間消費税決定処分」といい,他の課税期間についても同様に表記する。本件各課税期間の消費税等の決定処分を併せて「本件消費税各決定処分」という。)及びこれらに伴う無申告加算税賦課決定処分(以下「本件消費税各賦課処分」といい,本件消費税各決定処分と併せて「本件消費税各処分」といい,本件所得税各処分と本件消費税各処分を併せて「本件各処分」という。)をした。
本件は,原告が,被告を相手に,本件所得税各処分の一部(本件概算経費額の必要経費への不算入を理由とする部分)の取消しを求めるとともに,本件消費税各処分の全部の取消しを求める事案である。
判示事項保険医療機関である麻酔科クリニックを個人で開設する麻酔専門医である原告が他の保険医療機関で実施された手術について業務委託契約に基づき行った麻酔関連医療業務に係る報酬の金額が租税特別措置法(平成25年法律第5号による改正前のもの)26条1項にいう「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」に該当しないとされた事例
裁判要旨1 ある患者の治療等について複数の保険医療機関が関与する場合,一方の保険医療機関のみならず他方の保険医療機関も自ら主体となって療養の給付を行ったと評価されるためには,各保険医療機関の医師等が当該患者の治療等のために行った行為の具体的内容及びその関与の程度,各保険医療機関における物的設備等の負担の有無及び程度,他方の保険医療機関が当該患者の治療等に関与することとなった経緯及び双方の保険医療機関の関係等の事情を考慮して,他方の保険医療機関における関与が,人と物とが結合された組織体である保険医療機関として,自ら主体となって当該患者に対しその傷病の治療等に必要かつ相当と認められる医療サービスの給付を行ったものと評価することができるか否かという観点から判断することが相当である。
2 ①原告が行った麻酔関連医療業務は手術における医師その他の医療従事者による各種の医療関係行為の一環として行われたものと評価されること,②当該手術に必要な設備や器具,薬剤等については原告が業務委託契約を締結した相手方の病院が全て用意し提供したものであること,③原告が業務委託契約を締結した相手方の病院は,麻酔専門医である原告との間で業務委託契約を締結することによって,麻酔に関する専門的な知識経験を有する医師を安定的に確保し,もって病院における手術の安全性を高めようという趣旨から原告に麻酔関連医療業務に行わせたものであること等の事情に鑑みると,原告が行った麻酔施術は,相手方の病院が実施した手術に包摂され,その一部を成すものとして医療サービスの給付(療養の給付)を構成するものというべきであり,原告が,人と物とが結合された組織体である保険医療機関として,自ら主体となって当該患者に対しその傷病の治療等に必要かつ相当と認められる医療サービスの給付を行ったと評価することはできない。したがって,原告が自ら主体として療養の給付を行ったと認めることはできないから,原告が相手方の病院から支払を受けた麻酔関連医療業務に係る報酬の金額は租税特別措置法26条1項にいう「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」に該当しない。
事件番号平成28(行ウ)462
事件名所得税更正処分等取消請求事件
裁判所東京地方裁判所
裁判年月日令和2年1月30日
事案の概要
横浜市内に保険医療機関であるAクリニック(以下「本件クリニック」という。)を個人で開設する医師である原告は,平成23年分から平成25年分まで(以下「本件各年分」という。)の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の確定申告をするに当たり,その事業所得の金額の計算上,他の保険医療機関(以下「本件各病院」という。)で実施された手術について業務委託契約に基づき行った麻酔関連医療業務(以下「本件業務」という。)に係る報酬(以下「本件各報酬」という。)の金額が租税特別措置法(平成25年法律第5号による改正前のもの。以下「措置法」という。)26条1項にいう「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」に該当することを前提に,同項所定の概算経費率(後記2(1)参照)を乗じて計算した金額(以下「本件概算経費額」という。)を必要経費に算入した。また,原告は,本件業務に係る役務の提供(以下「本件役務提供」という。)の対価(本件各報酬)につき,消費税法上(平成24年法律第68号による改正前のもの。以下同じ。)非課税となることを前提に,平成22年1月1日から平成25年12月31日までに係る各課税期間(以下,例えば平成22年1月1日から同年12月31日までの課税期間を「平成22年課税期間」といい,他の課税期間についても同様に表記する。平成22年課税期間から平成25年課税期間までを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告をしなかった。
これに対し,戸塚税務署長(処分行政庁)は,本件各報酬額は上記「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」に該当せず,本件概算経費額を必要経費に算入することはできないことなどを理由に,原告に対し,平成27年2月27日付けで,本件各年分の所得税等の各更正処分(以下,例えば平成23年分の更正処分を「平成23年分所得税更正処分」といい,他の年分についても同様に表記する。本件各年分の更正処分を併せて「本件所得税各更正処分」という。)及びこれらに伴う過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件所得税各賦課処分」といい,本件所得税各更正処分と併せて「本件所得税各処分」という。)をした。また,戸塚税務署長は,同日付けで,本件役務提供の対価(本件各報酬)は消費税法上非課税とならないことを理由に,本件各課税期間に係る消費税等の各決定処分(以下,例えば平成22年課税期間に係る消費税等の決定処分を「平成22年課税期間消費税決定処分」といい,他の課税期間についても同様に表記する。本件各課税期間の消費税等の決定処分を併せて「本件消費税各決定処分」という。)及びこれらに伴う無申告加算税賦課決定処分(以下「本件消費税各賦課処分」といい,本件消費税各決定処分と併せて「本件消費税各処分」といい,本件所得税各処分と本件消費税各処分を併せて「本件各処分」という。)をした。
本件は,原告が,被告を相手に,本件所得税各処分の一部(本件概算経費額の必要経費への不算入を理由とする部分)の取消しを求めるとともに,本件消費税各処分の全部の取消しを求める事案である。
判示事項
保険医療機関である麻酔科クリニックを個人で開設する麻酔専門医である原告が他の保険医療機関で実施された手術について業務委託契約に基づき行った麻酔関連医療業務に係る報酬の金額が租税特別措置法(平成25年法律第5号による改正前のもの)26条1項にいう「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」に該当しないとされた事例
裁判要旨
1 ある患者の治療等について複数の保険医療機関が関与する場合,一方の保険医療機関のみならず他方の保険医療機関も自ら主体となって療養の給付を行ったと評価されるためには,各保険医療機関の医師等が当該患者の治療等のために行った行為の具体的内容及びその関与の程度,各保険医療機関における物的設備等の負担の有無及び程度,他方の保険医療機関が当該患者の治療等に関与することとなった経緯及び双方の保険医療機関の関係等の事情を考慮して,他方の保険医療機関における関与が,人と物とが結合された組織体である保険医療機関として,自ら主体となって当該患者に対しその傷病の治療等に必要かつ相当と認められる医療サービスの給付を行ったものと評価することができるか否かという観点から判断することが相当である。
2 ①原告が行った麻酔関連医療業務は手術における医師その他の医療従事者による各種の医療関係行為の一環として行われたものと評価されること,②当該手術に必要な設備や器具,薬剤等については原告が業務委託契約を締結した相手方の病院が全て用意し提供したものであること,③原告が業務委託契約を締結した相手方の病院は,麻酔専門医である原告との間で業務委託契約を締結することによって,麻酔に関する専門的な知識経験を有する医師を安定的に確保し,もって病院における手術の安全性を高めようという趣旨から原告に麻酔関連医療業務に行わせたものであること等の事情に鑑みると,原告が行った麻酔施術は,相手方の病院が実施した手術に包摂され,その一部を成すものとして医療サービスの給付(療養の給付)を構成するものというべきであり,原告が,人と物とが結合された組織体である保険医療機関として,自ら主体となって当該患者に対しその傷病の治療等に必要かつ相当と認められる医療サービスの給付を行ったと評価することはできない。したがって,原告が自ら主体として療養の給付を行ったと認めることはできないから,原告が相手方の病院から支払を受けた麻酔関連医療業務に係る報酬の金額は租税特別措置法26条1項にいう「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」に該当しない。
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