事件番号平成31(受)290
事件名損害賠償請求事件
裁判所最高裁判所第一小法廷
裁判年月日令和3年5月17日
裁判種別判決
結果破棄自判
原審裁判所大阪高等裁判所
原審事件番号平成28(ネ)987
原審裁判年月日平成30年8月31日
事案の概要本件は,被上告人らが,①上告人国に対し,建設作業従事者が石綿含有建材から生ずる石綿粉じんにばく露することを防止するために上告人国が労働安全衛生法(以下「安衛法」という。)に基づく規制権限を行使しなかったことが違法であるなどと主張して,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めるとともに,②上告人株式会社ケイミュー及び同株式会社クボタ(以下,併せて「上告人建材メーカーら」という。)に対し,上告人建材メーカーらが石綿含有建材から生ずる粉じんにばく露すると石綿関連疾患にり患する危険があること等を表示することなく石綿含有建材を製造販売したことによりAが中皮腫にり患したと主張して,不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。
判示事項1 厚生労働大臣が建設現場における石綿関連疾患の発生防止のために労働安全衛生法に基づく規制権限を行使しなかったことが屋外の建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した者との関係において国家賠償法1条1項の適用上違法とはいえないとされた事例
2 建材メーカーが,自らの製造販売する石綿含有建材を使用する屋外の建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した者に対し,上記石綿含有建材に当該建材から生ずる粉じんにばく露すると重篤な石綿関連疾患にり患する危険があること等の表示をすべき義務を負っていたとはいえないとされた事例
裁判要旨1 屋外の建設現場における石綿含有建材の切断,設置等の作業に従事する者が石綿粉じんにばく露したことにより中皮腫にり患した場合において,次の⑴~⑸など判示の事情の下では,国が,平成13年から平成16年9月30日までの期間に,上記作業に従事する者に石綿関連疾患にり患する危険が生じていることを認識することができたとはいえず,厚生労働大臣が,平成14年1月1日から平成16年9月30日までの期間に,労働安全衛生法に基づく規制権限を行使して,石綿含有建材の表示及び石綿含有建材を取り扱う建設現場における掲示として,石綿含有建材から生ずる粉じんにばく露すると石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患にり患する危険がある旨を示すこと等を義務付けなかったことは,上記作業に従事する者との関係において,国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえない。
⑴ 平成13年から平成16年9月30日までの期間において国が法令により定めていた石綿粉じん濃度の規制値は管理濃度としての2本/㎤であった。
⑵ 日本産業衛生学会が平成13年に勧告した過剰発がん生涯リスクレベル10-3(10のマイナス3乗)に対応する評価値としての0.15本/㎤は,法令上の規制値ではなく学会により勧告されたものであり,その意味は,労働者が1日8時間,週40時間程度,50年間にわたり0.15本/㎤のクリソタイルのみの石綿粉じんにばく露したときに,1000人に1人,過剰発がんリスクが発生するというものである。
⑶ 上記⑴の期間までに公表等がされていた上記作業に係る石綿粉じん濃度の測定結果には,0.15本/㎤以上のものがあるが,それらは主に石綿含有建材の切断作業をする者につきその作業をする限られた時間の個人ばく露濃度を測定したもの等である。
⑷ 上記測定結果には,0.15本/㎤を下回るものがある。
⑸ 上記測定結果は,全体として屋内の作業に係る石綿粉じん濃度の測定結果を大きく下回るところ,これは,屋外の作業場においては,屋内の作業場と異なり,風等により自然に換気がされ,石綿粉じん濃度が薄められるためであることがうかがわれる。
2 屋外の建設現場における石綿含有建材の切断,設置等の作業に従事する者が石綿粉じんにばく露したことにより中皮腫にり患した場合において,次の⑴~⑸など判示の事情の下では,建材メーカーが,平成13年から平成15年12月31日までの期間に,自らの製造販売する石綿含有建材を使用する上記作業に従事する者に石綿関連疾患にり患する危険が生じていることを認識することができたとはいえず,平成14年1月1日から平成15年12月31日までの期間に,上記の者に対し,上記石綿含有建材に当該建材から生ずる粉じんにばく露すると石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患にり患する危険があること等の表示をすべき義務を負っていたとはいえない。
⑴ 平成13年から平成15年12月31日までの期間において国が法令により定めていた石綿粉じん濃度の規制値は管理濃度としての2本/㎤であった。
⑵ 日本産業衛生学会が平成13年に勧告した過剰発がん生涯リスクレベル10-3(10のマイナス3乗)に対応する評価値としての0.15本/㎤は,法令上の規制値ではなく学会により勧告されたものであり,その意味は,労働者が1日8時間,週40時間程度,50年間にわたり0.15本/㎤のクリソタイルのみの石綿粉じんにばく露したときに,1000人に1人,過剰発がんリスクが発生するというものである。
⑶ 上記⑴の期間までに公表等がされていた上記作業に係る石綿粉じん濃度の測定結果には,0.15本/㎤以上のものがあるが,それらは主に石綿含有建材の切断作業をする者につきその作業をする限られた時間の個人ばく露濃度を測定したもの等である。
⑷ 上記測定結果には,0.15本/㎤を下回るものがある。
⑸ 上記測定結果は,全体として屋内の作業に係る石綿粉じん濃度の測定結果を大きく下回るところ,これは,屋外の作業場においては,屋内の作業場と異なり,風等により自然に換気がされ,石綿粉じん濃度が薄められるためであることがうかがわれる。
事件番号平成31(受)290
事件名損害賠償請求事件
裁判所最高裁判所第一小法廷
裁判年月日令和3年5月17日
裁判種別判決
結果破棄自判
原審裁判所大阪高等裁判所
原審事件番号平成28(ネ)987
原審裁判年月日平成30年8月31日
事案の概要
本件は,被上告人らが,①上告人国に対し,建設作業従事者が石綿含有建材から生ずる石綿粉じんにばく露することを防止するために上告人国が労働安全衛生法(以下「安衛法」という。)に基づく規制権限を行使しなかったことが違法であるなどと主張して,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めるとともに,②上告人株式会社ケイミュー及び同株式会社クボタ(以下,併せて「上告人建材メーカーら」という。)に対し,上告人建材メーカーらが石綿含有建材から生ずる粉じんにばく露すると石綿関連疾患にり患する危険があること等を表示することなく石綿含有建材を製造販売したことによりAが中皮腫にり患したと主張して,不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。
判示事項
1 厚生労働大臣が建設現場における石綿関連疾患の発生防止のために労働安全衛生法に基づく規制権限を行使しなかったことが屋外の建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した者との関係において国家賠償法1条1項の適用上違法とはいえないとされた事例
2 建材メーカーが,自らの製造販売する石綿含有建材を使用する屋外の建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した者に対し,上記石綿含有建材に当該建材から生ずる粉じんにばく露すると重篤な石綿関連疾患にり患する危険があること等の表示をすべき義務を負っていたとはいえないとされた事例
裁判要旨
1 屋外の建設現場における石綿含有建材の切断,設置等の作業に従事する者が石綿粉じんにばく露したことにより中皮腫にり患した場合において,次の⑴~⑸など判示の事情の下では,国が,平成13年から平成16年9月30日までの期間に,上記作業に従事する者に石綿関連疾患にり患する危険が生じていることを認識することができたとはいえず,厚生労働大臣が,平成14年1月1日から平成16年9月30日までの期間に,労働安全衛生法に基づく規制権限を行使して,石綿含有建材の表示及び石綿含有建材を取り扱う建設現場における掲示として,石綿含有建材から生ずる粉じんにばく露すると石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患にり患する危険がある旨を示すこと等を義務付けなかったことは,上記作業に従事する者との関係において,国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえない。
⑴ 平成13年から平成16年9月30日までの期間において国が法令により定めていた石綿粉じん濃度の規制値は管理濃度としての2本/㎤であった。
⑵ 日本産業衛生学会が平成13年に勧告した過剰発がん生涯リスクレベル10-3(10のマイナス3乗)に対応する評価値としての0.15本/㎤は,法令上の規制値ではなく学会により勧告されたものであり,その意味は,労働者が1日8時間,週40時間程度,50年間にわたり0.15本/㎤のクリソタイルのみの石綿粉じんにばく露したときに,1000人に1人,過剰発がんリスクが発生するというものである。
⑶ 上記⑴の期間までに公表等がされていた上記作業に係る石綿粉じん濃度の測定結果には,0.15本/㎤以上のものがあるが,それらは主に石綿含有建材の切断作業をする者につきその作業をする限られた時間の個人ばく露濃度を測定したもの等である。
⑷ 上記測定結果には,0.15本/㎤を下回るものがある。
⑸ 上記測定結果は,全体として屋内の作業に係る石綿粉じん濃度の測定結果を大きく下回るところ,これは,屋外の作業場においては,屋内の作業場と異なり,風等により自然に換気がされ,石綿粉じん濃度が薄められるためであることがうかがわれる。
2 屋外の建設現場における石綿含有建材の切断,設置等の作業に従事する者が石綿粉じんにばく露したことにより中皮腫にり患した場合において,次の⑴~⑸など判示の事情の下では,建材メーカーが,平成13年から平成15年12月31日までの期間に,自らの製造販売する石綿含有建材を使用する上記作業に従事する者に石綿関連疾患にり患する危険が生じていることを認識することができたとはいえず,平成14年1月1日から平成15年12月31日までの期間に,上記の者に対し,上記石綿含有建材に当該建材から生ずる粉じんにばく露すると石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患にり患する危険があること等の表示をすべき義務を負っていたとはいえない。
⑴ 平成13年から平成15年12月31日までの期間において国が法令により定めていた石綿粉じん濃度の規制値は管理濃度としての2本/㎤であった。
⑵ 日本産業衛生学会が平成13年に勧告した過剰発がん生涯リスクレベル10-3(10のマイナス3乗)に対応する評価値としての0.15本/㎤は,法令上の規制値ではなく学会により勧告されたものであり,その意味は,労働者が1日8時間,週40時間程度,50年間にわたり0.15本/㎤のクリソタイルのみの石綿粉じんにばく露したときに,1000人に1人,過剰発がんリスクが発生するというものである。
⑶ 上記⑴の期間までに公表等がされていた上記作業に係る石綿粉じん濃度の測定結果には,0.15本/㎤以上のものがあるが,それらは主に石綿含有建材の切断作業をする者につきその作業をする限られた時間の個人ばく露濃度を測定したもの等である。
⑷ 上記測定結果には,0.15本/㎤を下回るものがある。
⑸ 上記測定結果は,全体として屋内の作業に係る石綿粉じん濃度の測定結果を大きく下回るところ,これは,屋外の作業場においては,屋内の作業場と異なり,風等により自然に換気がされ,石綿粉じん濃度が薄められるためであることがうかがわれる。
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