事件番号令和3(受)1205
事件名損害賠償請求事件
裁判所最高裁判所第二小法廷
裁判年月日令和4年6月17日
裁判種別判決
結果破棄自判
原審裁判所東京高等裁判所
原審事件番号平成29(ネ)5558
原審裁判年月日令和3年2月19日
事案の概要本件は、被上告人らが、上告人に対し、上告人が津波による本件発電所の事故を防ぐために電気事業法(平成24年法律第47号による改正前のもの。以下同じ。)に基づく規制権限を行使しなかったことが違法であり、これにより損害を被ったなどと主張して、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求める事案である。
判示事項国が、津波による原子力発電所の事故を防ぐために電気事業法(平成24年法律第47号による改正前のもの)40条に基づく規制権限を行使しなかったことを理由として国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負うとはいえないとされた事例
裁判要旨電力会社が設置し運営する原子力発電所の原子炉に係る建屋の敷地に地震に伴う津波が到来し、上記建屋の中に海水が浸入して上記原子炉に係る原子炉施設が電源喪失の事態に陥った結果、上記原子炉施設から放射性物質が大量に放出される原子力事故が発生した場合において、次の~など判示の事情の下では、経済産業大臣が上記発電所の沖を含む海域の地震活動の長期評価に関する文書を前提に電気事業法(平成24年法律第47号による改正前のもの)40条に基づく規制権限を行使して津波による上記発電所の事故を防ぐための適切な措置を講ずることを上記電力会社に義務付けていれば上記原子力事故又はこれと同様の事故が発生しなかったであろうという関係を認めることはできず、国が、経済産業大臣が上記の規制権限を行使しなかったことを理由として、上記原子力事故により放出された放射性物質によってその当時の居住地が汚染された者に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負うということはできない。
 上記原子力事故以前の我が国における原子炉施設の津波対策は、津波により安全設備等が設置された原子炉施設の敷地が浸水することが想定される場合、防潮堤、防波堤等の構造物を設置することにより上記敷地への海水の浸入を防止することを基本とするものであった。
 上記原子力事故以前に、津波により上記敷地が浸水することが想定される場合に、想定される津波による上記敷地の浸水を防ぐことができるように設計された防潮堤、防波堤等の構造物を設置するという措置を講ずるだけでは対策として不十分であるとの考え方が有力であったことはうかがわれず、その他、上記原子力事故以前の知見の下において、上記措置が原子炉施設の津波対策として不十分なものであったと解すべき事情はうかがわれない。
 上記原子力事故以前に上記電力会社の委託により上記文書に基づいて行われた上記発電所に到来する可能性のある津波の試算は、安全性に十分配慮して余裕を持たせ、当時考えられる最悪の事態に対応したものとして、合理性を有する試算であった。
 上記文書が今後発生する可能性があるとした地震の規模は、津波マグニチュード8.2前後であったのに対し、現実に発生した地震の規模は、津波マグニチュード9.1であった。
 上記の試算された津波による上記建屋付近の浸水深は、約2.6m又はそれ以下とされたのに対し、現実に到来した津波による上記建屋付近の浸水深は、最大で約5.5mに及んだ。
 上記の試算された津波の高さは、上記建屋の敷地の南東側前面において上記敷地の高さを超えていたものの、東側前面においては上記敷地の高さを超えることはなく、上記津波と同じ規模の津波が上記発電所に到来しても、上記敷地の東側から海水が上記敷地に浸入することは想定されていなかったが、現実には、津波の到来に伴い、上記敷地の南東側のみならず東側からも大量の海水が上記敷地に浸入した。
(補足意見及び反対意見がある。)
事件番号令和3(受)1205
事件名損害賠償請求事件
裁判所最高裁判所第二小法廷
裁判年月日令和4年6月17日
裁判種別判決
結果破棄自判
原審裁判所東京高等裁判所
原審事件番号平成29(ネ)5558
原審裁判年月日令和3年2月19日
事案の概要
本件は、被上告人らが、上告人に対し、上告人が津波による本件発電所の事故を防ぐために電気事業法(平成24年法律第47号による改正前のもの。以下同じ。)に基づく規制権限を行使しなかったことが違法であり、これにより損害を被ったなどと主張して、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求める事案である。
判示事項
国が、津波による原子力発電所の事故を防ぐために電気事業法(平成24年法律第47号による改正前のもの)40条に基づく規制権限を行使しなかったことを理由として国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負うとはいえないとされた事例
裁判要旨
電力会社が設置し運営する原子力発電所の原子炉に係る建屋の敷地に地震に伴う津波が到来し、上記建屋の中に海水が浸入して上記原子炉に係る原子炉施設が電源喪失の事態に陥った結果、上記原子炉施設から放射性物質が大量に放出される原子力事故が発生した場合において、次の~など判示の事情の下では、経済産業大臣が上記発電所の沖を含む海域の地震活動の長期評価に関する文書を前提に電気事業法(平成24年法律第47号による改正前のもの)40条に基づく規制権限を行使して津波による上記発電所の事故を防ぐための適切な措置を講ずることを上記電力会社に義務付けていれば上記原子力事故又はこれと同様の事故が発生しなかったであろうという関係を認めることはできず、国が、経済産業大臣が上記の規制権限を行使しなかったことを理由として、上記原子力事故により放出された放射性物質によってその当時の居住地が汚染された者に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負うということはできない。
 上記原子力事故以前の我が国における原子炉施設の津波対策は、津波により安全設備等が設置された原子炉施設の敷地が浸水することが想定される場合、防潮堤、防波堤等の構造物を設置することにより上記敷地への海水の浸入を防止することを基本とするものであった。
 上記原子力事故以前に、津波により上記敷地が浸水することが想定される場合に、想定される津波による上記敷地の浸水を防ぐことができるように設計された防潮堤、防波堤等の構造物を設置するという措置を講ずるだけでは対策として不十分であるとの考え方が有力であったことはうかがわれず、その他、上記原子力事故以前の知見の下において、上記措置が原子炉施設の津波対策として不十分なものであったと解すべき事情はうかがわれない。
 上記原子力事故以前に上記電力会社の委託により上記文書に基づいて行われた上記発電所に到来する可能性のある津波の試算は、安全性に十分配慮して余裕を持たせ、当時考えられる最悪の事態に対応したものとして、合理性を有する試算であった。
 上記文書が今後発生する可能性があるとした地震の規模は、津波マグニチュード8.2前後であったのに対し、現実に発生した地震の規模は、津波マグニチュード9.1であった。
 上記の試算された津波による上記建屋付近の浸水深は、約2.6m又はそれ以下とされたのに対し、現実に到来した津波による上記建屋付近の浸水深は、最大で約5.5mに及んだ。
 上記の試算された津波の高さは、上記建屋の敷地の南東側前面において上記敷地の高さを超えていたものの、東側前面においては上記敷地の高さを超えることはなく、上記津波と同じ規模の津波が上記発電所に到来しても、上記敷地の東側から海水が上記敷地に浸入することは想定されていなかったが、現実には、津波の到来に伴い、上記敷地の南東側のみならず東側からも大量の海水が上記敷地に浸入した。
(補足意見及び反対意見がある。)
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