事件番号 | 令和2(行ウ)22 |
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事件名 | サケ捕獲権確認請求事件 |
裁判所 | 札幌地方裁判所 |
裁判年月日 | 令和6年4月18日 |
事案の概要 | 本件は、北海道十勝郡浦幌町内に居住するアイヌで構成される団体であって、権利能力なき社団である原告が、被告らに対し、原告はアイヌの集団としての固有の権利である内水面(海面以外の水面をいう。漁業法60条5項5号参照)におけるサケ捕獲権、具体的には別紙漁業権目録記載の漁業権(以下「本件漁業権」という。)を有する旨主張するとともに、内水面におけるさけの採捕を原則として禁止する水産資源保護法28条が原告の別紙漁業権目録記載の漁業(以下「本件漁業」という。)に関する限り無効である旨主張して、行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)4条後段所定の実質的当事者訴訟として、原告が本件漁業権を有することの確認を求める(以下、この訴えを「本件漁業権確認の訴え」という。)とともに、水産資源保護法28条は本件漁業に関する限り無効であることの確認を求める(以下、この訴えを「本件無効確認の訴え」という。)事案である。 |
判示事項の要旨 | ⑴ 事案の概要等 本件は、北海道十勝郡浦幌町内に居住するアイヌで構成される団体であって、権利能力なき社団である原告が、被告らに対し、原告はアイヌの集団としての固有の権利である内水面(海面以外の水面をいう。)におけるサケ捕獲権、具体的には別紙漁業権目録記載の漁業権(以下「本件漁業権」という。)を有する旨主張するとともに、内水面におけるさけの採捕を原則として禁止する水産資源保護法28条が原告の別紙漁業権目録記載の漁業(以下「本件漁業」という。)に関する限り無効である旨主張して、原告が本件漁業権を有することの確認を求めるとともに、水産資源保護法28条は本件漁業に関する限り無効であることの確認を求める事案である。 ⑵ 当裁判所の判断 ア 原告の主張する本件漁業権は、アイヌの生活、文化、伝統等に関する精神的側面とともに、財産権としての側面を有するものであると解されるが、財産権としての側面が強いものというべきである。 イ アイヌの人々は、憲法13条により、アイヌ固有の文化を享有する権利(以下「文化享有権」という。)を有するものと認められる。 ウ 河川は、いわゆる公共用物であって、国又は当該河川の存する地方公共団体の直接の公法的支配管理に服し、特定人による排他的支配の許されないものであると解され、河川において特定人又は特定の集団が排他的に漁業を営むことについても当然には許されないものである。国が行政行為などによって一定範囲に限定するなどして上記のような権利を設定することは可能と解されるものの、これを設定するかどうかは立法政策の問題であるといわざるを得ない。そして、我が国の立法政策として本件漁業権は認められていない。 アイヌの歴史的経緯や伝統等を踏まえたとしても、河川の上記性質等に鑑みれば、溯河魚類であるさけのような水産資源について、特定の河川のうち一定範囲に限定したとしても、特定人又は特定の集団が固有の財産権として排他的に漁業を営む権利を有すると認めるのは困難である。 以上によれば、アイヌの人々の文化享有権の行使との関係において、さけの採捕は最大限尊重されるべきものであることを考慮しても、原告が本件漁業権を文化享有権の一環又は固有の権利として有すると認めることはできない。 エ 原告の主張する条約等が、公法的支配管理の及ぶ河川において少数民族又は先住民族が伝統的な活動の範囲を超えて排他的に漁業を営む権利を当然に認めているとまでは解することができない。 また、憲法、慣習法及び条理が、本件漁業権の法的根拠となると解することもできない。 オ さけの特性(産卵を目的として生れた河川に回帰する等)及び水産資源保護法28条の趣旨・目的(再生産を確保することなくさけを捕えることによる水産資源の枯渇を防止する等)を踏まえれば、同条によるさけの採捕の規制には合理性があると解される。 他方、現行法上、特別採捕許可を受けてさけの採捕をすることができることとされており、かかる例外的取扱いはアイヌの人々に文化享有権が保障されていることに配慮されたものであると解され、水産資源保護法28条による規制がアイヌの人々の文化享有権に対する不合理な制約となっているとまで解することはできない。 したがって、水産資源保護法28条が原告に適用される場合に憲法に違反して無効であるとは認められない。 以上 別紙 漁業権目録 1 対象魚類 シロザケ(Oncorhynchus keta) 2 場所 浦幌十勝川河口から4キロメートルまで(浦幌川合流地点) 添付地図参照 3 漁法 刺し網漁 |
事件番号 | 令和2(行ウ)22 |
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事件名 | サケ捕獲権確認請求事件 |
裁判所 | 札幌地方裁判所 |
裁判年月日 | 令和6年4月18日 |
事案の概要 |
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本件は、北海道十勝郡浦幌町内に居住するアイヌで構成される団体であって、権利能力なき社団である原告が、被告らに対し、原告はアイヌの集団としての固有の権利である内水面(海面以外の水面をいう。漁業法60条5項5号参照)におけるサケ捕獲権、具体的には別紙漁業権目録記載の漁業権(以下「本件漁業権」という。)を有する旨主張するとともに、内水面におけるさけの採捕を原則として禁止する水産資源保護法28条が原告の別紙漁業権目録記載の漁業(以下「本件漁業」という。)に関する限り無効である旨主張して、行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)4条後段所定の実質的当事者訴訟として、原告が本件漁業権を有することの確認を求める(以下、この訴えを「本件漁業権確認の訴え」という。)とともに、水産資源保護法28条は本件漁業に関する限り無効であることの確認を求める(以下、この訴えを「本件無効確認の訴え」という。)事案である。 |
判示事項の要旨 |
⑴ 事案の概要等 本件は、北海道十勝郡浦幌町内に居住するアイヌで構成される団体であって、権利能力なき社団である原告が、被告らに対し、原告はアイヌの集団としての固有の権利である内水面(海面以外の水面をいう。)におけるサケ捕獲権、具体的には別紙漁業権目録記載の漁業権(以下「本件漁業権」という。)を有する旨主張するとともに、内水面におけるさけの採捕を原則として禁止する水産資源保護法28条が原告の別紙漁業権目録記載の漁業(以下「本件漁業」という。)に関する限り無効である旨主張して、原告が本件漁業権を有することの確認を求めるとともに、水産資源保護法28条は本件漁業に関する限り無効であることの確認を求める事案である。 ⑵ 当裁判所の判断 ア 原告の主張する本件漁業権は、アイヌの生活、文化、伝統等に関する精神的側面とともに、財産権としての側面を有するものであると解されるが、財産権としての側面が強いものというべきである。 イ アイヌの人々は、憲法13条により、アイヌ固有の文化を享有する権利(以下「文化享有権」という。)を有するものと認められる。 ウ 河川は、いわゆる公共用物であって、国又は当該河川の存する地方公共団体の直接の公法的支配管理に服し、特定人による排他的支配の許されないものであると解され、河川において特定人又は特定の集団が排他的に漁業を営むことについても当然には許されないものである。国が行政行為などによって一定範囲に限定するなどして上記のような権利を設定することは可能と解されるものの、これを設定するかどうかは立法政策の問題であるといわざるを得ない。そして、我が国の立法政策として本件漁業権は認められていない。 アイヌの歴史的経緯や伝統等を踏まえたとしても、河川の上記性質等に鑑みれば、溯河魚類であるさけのような水産資源について、特定の河川のうち一定範囲に限定したとしても、特定人又は特定の集団が固有の財産権として排他的に漁業を営む権利を有すると認めるのは困難である。 以上によれば、アイヌの人々の文化享有権の行使との関係において、さけの採捕は最大限尊重されるべきものであることを考慮しても、原告が本件漁業権を文化享有権の一環又は固有の権利として有すると認めることはできない。 エ 原告の主張する条約等が、公法的支配管理の及ぶ河川において少数民族又は先住民族が伝統的な活動の範囲を超えて排他的に漁業を営む権利を当然に認めているとまでは解することができない。 また、憲法、慣習法及び条理が、本件漁業権の法的根拠となると解することもできない。 オ さけの特性(産卵を目的として生れた河川に回帰する等)及び水産資源保護法28条の趣旨・目的(再生産を確保することなくさけを捕えることによる水産資源の枯渇を防止する等)を踏まえれば、同条によるさけの採捕の規制には合理性があると解される。 他方、現行法上、特別採捕許可を受けてさけの採捕をすることができることとされており、かかる例外的取扱いはアイヌの人々に文化享有権が保障されていることに配慮されたものであると解され、水産資源保護法28条による規制がアイヌの人々の文化享有権に対する不合理な制約となっているとまで解することはできない。 したがって、水産資源保護法28条が原告に適用される場合に憲法に違反して無効であるとは認められない。 以上 別紙 漁業権目録 1 対象魚類 シロザケ(Oncorhynchus keta) 2 場所 浦幌十勝川河口から4キロメートルまで(浦幌川合流地点) 添付地図参照 3 漁法 刺し網漁 |